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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(2)

 気がつくと、俺は元の神社の境内に立っていた。頭が少しくらくらした。  神社を照らす夕暮れの景色に変化はない。今の変な現象が起きてから、あまり時間は経ってなさそうだ。 「今の……何?」  近くから瑠璃の声がする。 「瑠璃も、見たのか? 今の……夢みたいなもの」  瑠璃に顔を向けて話しかけながら、俺は自分の声がおかしなことになっていると気づく。妙に高い。まるで女子のように。 「瑠璃ってあたしのこと? ……って、あなた誰!?」  瑠璃はおかしなことを言い、いきなり俺を指さした。こんな失敬なことをする瑠璃じゃないのに。いや、それはともかく。  どうして瑠璃が、俺を見下ろしてるんだ?  瑠璃は中二になる女子にしては長身だけど、百六十二センチ。俺は百六十五センチ。なのに今、俺は瑠璃より十センチぐらい低い。 「今見せられたものが、実際に起きたんだと考えるしかないみたい」  男子の落ち着いた声がした。  そちらを振り向くと……『俺』がいた。  洗面台や風呂場の鏡で一日に何度かは見ている顔。でも、いつもの『光彦』よりは賢そうで、少し凛々しくすら見えてしまう。 「わたしは藤浦瑠璃だけどみっくんになっちゃって、みっくんは光莉ちゃんになっていて、光莉ちゃんはわたしになって。さっき教えられたことを信じれば、元に戻るには再来年の今日、またここに来ること」  そんな風に簡潔にまとめられた話を聞くうち、さっきの体験の中で聞かされた話を、俺もはっきり思い出すことができた。夢のような出来事だったけど、夢のように簡単に忘れてはしまわないようだ。 「じゃああたし、ほんとに東京へ行けるんだ! 二年で元に戻れるならちょうどいいって感じ!」  瑠璃の姿ではしゃぐその姿は、すごく光莉っぽかった。こいつもさっき聞かされた話を思い出して、しかもすっかり受け入れたようだ。 「て、お前、そんな願いだったのかよ!?」  そんなしょうもない願いなら、叶うようになんて願うんじゃなかった! 「別にいいじゃない、お兄ちゃん。あ、今は光莉ちゃんだよね」  俺を見下ろして、『瑠璃』の姿の光莉は髪をかき上げる。その仕草は不思議といつもの瑠璃に似通っていた。 「ほら光莉ちゃん、自己紹介してみて」 「な、何を……」 「二年間はこのままなんだから、光莉っぽくしなくちゃ。まずは入学式の後の自己紹介する感じで話してみてよ。あたしの記憶、読めなくしたものはあんまりないから簡単なはずだよ」  言ってることはもっともかもしれない。でもいきなり妹のふりなんてできるもんじゃない。 「俺は――」 「違うでしょ」  ぴしゃりと『瑠璃』の声で叱られると、それ以上逆らう気も失せる。そう言えば、光莉は昔から俺が叱ってもへっちゃらだったけど、瑠璃にたしなめられると弱かったっけ。  すると俺の頭の中から、何かがするすると引き出されてきた。 「あたしは、明良光莉。好きなものは漫画とアニメだけど、最近はファッションにもちょっぴり興味があります。東京に行って流行の最先端を勉強して、オタクだからってバカにされないようになりた――」 「そんなの自己紹介で言うんじゃないわよ」 「はい……」  図星を突かれたか、光莉はすごい顔になる。瑠璃の顔に変な癖がついたらいけないからやめてほしい。  でも……俺、本当に光莉になっちゃってるんだな。『光彦』の記憶や意識が薄れたわけではないけど、『光莉』に簡単に切り替えられる。思い出そうと思えば『光莉』のこれまでのことをたいていは思い出せそう。 「ボクは、明良光彦……なんだね」  続けて『俺』の身体でしゃべり出したのは……瑠璃、なんだよな。いまだに信じたくないけれど。 「瑠璃ちゃんはどんな願い事したの? そのせいでお兄ちゃんになっちゃうなんて災難だけど」 「そ、それは……内緒」  俺にとっても気になることだけど、瑠璃は教えてくれなかった。 「さてと! じゃあ、泣いても笑っても二年後まではこのままということで、みんながんばろうね。お兄ちゃんはあたしの身体で変なことしたり、あたしの立場でおかしなことしたりしないように!」  あっけらかんと言ってのける妹ほど楽観的にはなれないが、神社にこのままいても元に戻してもらえるわけではなさそうだということくらいは見当がつく。 「お前こそ、今は『瑠璃』なんだから変なことするなよ」 「当たり前でしょ」  言いながら、光莉はスマホを取り出した。手慣れた様子で瑠璃のスマホを使いこなしている。 「そろそろ出発の時間だから、行ってくるね。二年後にまた会おうね。『光莉ちゃん』はもっと背を伸ばしていいスタイルになっておくように。瑠璃ちゃんは災難だけど、お兄ちゃんに真面目に勉強する習慣とかつけておいてあげて。あたしも瑠璃ちゃんが困らないようにちゃんとやっておくから」  べらべらとしゃべりながら『瑠璃』の身体の光莉は立ち去ってしまい。  後には、『光莉』になった俺と、『光彦』になった瑠璃の、肉体的には兄妹が残された。

Comments

コメントありがとうございます。 最初にあれだけ説明はしましたし、この話はここでゴタゴタさせる話ではないかなと。 ただ、記憶の件もあって帰宅後は……。お楽しみいただければ幸いです。

入れ替わり直後のバタバタを 必要以上にゴタゴタせず サクッと話をすすめてしまって 本当に流石っす。 これからもよろしくお願いします。 ワクワクします。

丸井主将


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