幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(1)
Added 2022-05-14 01:51:39 +0000 UTC「ほら、急がないとお兄ちゃん!」 「そんなあわてるなよ、光莉」 ツインテールを派手に揺らして先を進む妹に言い返しながら、俺は神社の石段を登って行った。四月一日の夕暮れ、辺りは次第に薄暗くなっている。 「だって瑠璃ちゃんもう待ってるんだよ!」 光莉にその名前を出されると、なおさら足は鈍る。 「今夜には出発するって話だし、会ってちゃんと話さなきゃきっと後悔するよ!」 わかってる。 でも気が引けて、会いたくない。 藤浦瑠璃は幼なじみだ。うちの隣にある寂れた神社の、さらに隣に住んでいる。 小さい頃は普通に遊んでいた。俺と瑠璃と一歳下の光莉、三人で神社の境内を駆け回り、鬼ごっこをしたりかくれんぼをしたり。 でも数年前、小学校の四年生くらいから、元から可愛かった瑠璃はさらにどんどん綺麗になっていった。長く伸ばした黒髪がまっすぐな、漫画に出てくる昔のお姫様みたいな美人になった。 男女の違い、みたいなことを嫌でも意識せざるを得ない年頃でもある。俺は同級生の男子とばかり遊ぶようになった。 瑠璃が好きだってはっきり意識したのは、たぶん小学五年の時。だけどそんなこと言えるわけもない。六年生の時も、去年中学に入ってからも、俺は瑠璃に対してぎこちない態度を取り続けていた。 でもそれだけなら、まだよかった。ちょっと距離が遠くなった幼なじみっていうだけなら、瑠璃が春から東京へ引っ越すとわかった去年の二学期明け、俺は普通に瑠璃に話しかけられたと思う。半年間一度も口を利かずにこうして妹にお節介を焼かせるなんてこともなかっただろう。 けど、去年の夏休みから……俺は、オナニーを覚えていた。 毎日毎日射精するようになって、毎日毎日瑠璃の顔を思い浮かべながら抜いていた。 頭の中で、毎日毎日瑠璃にいやらしいことをしたり、させたり、言わせたりした。 そんな変態が、現実の幼なじみとどんな顔をして何を話せばいいんだろう? ぐだぐだ考えているうちに、石段を登り終えてしまった。 薄闇の境内、賽銭箱の手前に、瑠璃がいた。 「みっくん」 瑠璃が俺に声を掛ける。光彦だからみっくん。物心ついた時から瑠璃は俺をそう呼んでいて、今になっても変わっていない。 今日も瑠璃は綺麗だった。 木の隙間から差し込む夕陽が、白い肌と長くまっすぐな黒い髪を引き立て合う。瞳は丸く大きくて、元々は可愛い垂れ目がちなのだけれど、ここ数年はバカな男子を相手にする時なんかは、目を細めるようになっていた。そうなるとちょっとした切れ長の目にも見えて、それはそれですごく美人だ。 体つきは全体がバランスよく成長している。特に胸は、小六ぐらいから大きくなってきている。 ……こんな時なのに、こういうことにばかり注意が向く自分が嫌になる。 「連れて来たよ、瑠璃ちゃん!」 「ありがとう、光莉ちゃん」 そして、俺と向かい合う。 「あの……」 あと数時間で引っ越すというこんな時に、瑠璃は俺に何を言うんだろう。何年も素っ気なくされた恨み言? さよならとか元気でとかの、ただの挨拶? それともまさか告白? ……いや、それだけはないだろう。 「その、お参り、しない?」 「え?」 思いもよらない言葉に、ぽかんと口を開けて間抜けな顔をしてしまった。 「ネットで見たんだけど、実はこの神社って評判らしいの。意外と願いごとが叶うって」 「へ、へえ」 なんだそれ。「意外と」って辺りがさらに微妙感を漂わせている。 「ま、まあ、そういやここにお参りなんてしたこと、ろくになかったな。初詣とか七五三くらいか」 「そうでしょ? 初詣も、最後は四年生の時だったし」 いや、うちは毎年――と言いかけて、俺と瑠璃が一緒に初詣に行ったのは小四の時だと思い出す。 そんなことよくすぐに思い出せるなと思いつつ、俺は肯いた。 「わかった」 「じゃあ、あたしもー」 便乗する光莉もついてきて、三人で賽銭箱の前に並んだ。財布なんて持ってこなかったので、ただ柏手を打って頭を下げる。不揃いな音が響き、瑠璃と光莉に俺も少し遅れて続く。 瑠璃は、何を願うんだろう。 考えながら目を閉じて頭を下げて、自分が何を願えばいいのかがわからない。 なら…… ――瑠璃と光莉の願いが叶いますように。 そう願った瞬間、光に包まれて何が何だかわからなくなった。 * ――おめでとうございます! アニメの美少女みたいな声をした誰かが、すぐ近くで話しかけてくる。 でも俺は、身動き一つできない。目も開けられないしこちらから話すこともできない。 ――あなたはこの神社の百万人目の参拝者です! 祀られている神であるわたくしが、記念にあなたの願いを叶えて差し上げます! いやー、害のない願いでよかったです。もし誰かを×したいだの×したいだのの邪まな願いだったら無視するつもりでしたよ? 美少女声はぺらぺらとしゃべりまくった。 ――で、同行されたお二人の願いを叶えることになるわけですが……光莉さんの願いはわかりやすくて叶えやすいんですけど、瑠璃さんの方はちょっと文脈を読み取る必要がありますね。 俺の困惑はお構いなしに、なおもしゃべり倒す。 ――なので、あなたにも関わっていただきます! 具体的には、あなたには光莉さんになってもらい、光莉さんは瑠璃さんに、瑠璃さんはあなたになるのです! え、と呆気にとられるうちにも話はさらに進む。 ――まあ、若い子の願いというものは気の迷いも多いですし、不具合があって戻りたいという場合は二年後の今日、この神社にまた来てくださいね! 待って、待って、俺が光莉になるって何? 瑠璃が俺になるってどういうこと? ――入れ替わりに際しては、新しい身体の記憶はすんなり読み取れるので大丈夫です。ただし、プライバシーもありますから、あなたになる瑠璃さんに知られたくない事柄がありましたらそれを心に思い描いておいてくださいね。ざっくりしたものでも、こちらでいい具合に調整しますので。 俺の気持ちなど知ったこっちゃないとばかりに話は進む。神様、人の話聞かねえな!? それでもとにかく、その辺は本気で考えるしかなさそうだった。俺になった瑠璃に知られたくないこと……色々あるけど、全部隠したら瑠璃が俺の振りもできなくなるってことだよ、な? だったら、最低限……俺の瑠璃への恋愛感情と、俺の性的なことに関すること、全部!! ――はい、了解です!
Comments
ありがとうございます。 「真紅の旗を・・・」はそうですよね、 描き切っていますものね。(余韻は残ってはいますけど) ただあの勝負して体を入れ替えられる田口雪江のエピソードは最高だったなぁと。 元に戻っているのかな、あのままなのかなと。 どこまでも気になります。 たくさん創作をかかえてらっしゃるかと思います。 たいへんですね、 できるだけ本人も楽しみながら創作続けてください。 頑張ってください。 今後も楽しませてください。 よろしくお願いいたします。
丸井主将
2022-05-26 09:35:20 +0000 UTC気づくのが遅くなってしまいました。レスまでありがとうございます! 『合格発表』や『言変わり』をご記憶の方がおいでとは……。長年にわたってお読みいただき、まことにありがとうございます。 ある程度書いては止まり、プロットを考えている段階で長くなりそうだなと見当がついてしまっては止まり、といったものが完成作品よりずっと多い状態で、この場を利用してそれらを完成まで持っていければなと思っています。 『巻物』についてもありがとうございます。以降のストーリーラインとしてはひねりも何もないことになりそうではありますが、余裕ができたりしたら続きも検討してみます。 『深紅の旗を目指して進め!』は、あの夏以降のことは考えていないですね。そもそも、本編でどうにかして最後の試合まで描かなければ、その先のことまでは考えられないという感じで。
茶
2022-05-26 07:29:01 +0000 UTC返信ありがとうございます。 もったいないです。 茶さんは 茶さんの本だなの頃の 「合格発表」や「言変わり」から 名作「清水共栄女子野球部、始動!」(真紅の旗を目指して進め!)や 最近のピクシブの小説集や TSF入れ替わり作品の評論まで 数多くの感動 喜びをいただいております。 なのでこのFANBOXには 大きな大きな期待をかけさせてもらっています。 ほんとありがとうございます。 「巻物?」もおもしろかったです。続き期待! 野球好きのわたしは あの女子野球部の数年後、彼女たち(彼らたち)はまだ野球をやっているのでしょうか? 気になります。 執筆大変かと思います。 (無責任な言い方ですが)頑張ってください。 応援しています。
丸井主将
2022-05-21 09:29:17 +0000 UTCコメントありがとうございます! 成長期ならではのあれこれがTSと相性良いんですよね。 最後数話の展開はだいたい決まっているものの途中がまだ未定で、どんなエピソードをどの順番で描いていくかに楽しく悩んでおります。完走できるようにがんばります。
茶
2022-05-21 04:45:00 +0000 UTCいいですねぇ。 春ということは 妹ちゃんは新中学生ですよね。 女の子として色々な体験をしていく時期ですものね。 幼馴染のお兄ちゃんに女の子のこと教えられたりするのかな。 男の子もカラダ大きくなっていきますしね。 ドキドキします。 ありがとうございます!! 更新よろしくお願いいたします。
丸井主将
2022-05-20 15:19:55 +0000 UTC