逆転する世界
Added 2022-09-29 18:50:32 +0000 UTC「マコトくーん、ちょっとお金貸してくんないかなー。二千円でいいんだ」 人気のない路地の奥で、二人の少年が佇んでいた。それはどうやらただごとではない雰囲気だった。少年らはおそらく中学生くらいの歳のようで、片や学ランを着崩し派手な柄のシャツを着込んでいる少年。片や制服をきちんと着込み“まめ”な性格がその佇まいに現れている少年だ。 大人しそうな見た目のほうの少年の名は奥田マコト(おくだ マコト)といい、最近二年生になったばかりの、見た目通り気弱な少年だった。 派手な服を着ている少年は、奥田マコトと同じクラスの生徒、古部倫夫(こぶ みちお)といった。立場上はマコトのクラスメイトにあたるのだが、それをいいことにしてマコトに無茶な要求を強要したりと、いわゆるカツアゲのカモにしたりと傲慢でやりたい放題の毎日を送っていた。 倫夫の通っている中学では、彼は所謂問題児とされていた。授業にはまばらにしか参加せず、参加したと思えば不埒な態度を取り続け教師や生徒を度々困らせていた。 一年生だった頃の彼はそれもまだ可愛いレベルと言えたのだが、学年が上がり調子に乗ったのかその行動は更にエスカレートしていき、今や暴力行為や下級生に対するいじめを繰り返す学校の鼻摘まみ者となっていた。 「今月もちょっと足りなくてさぁ。ボランティアだと思ってさ、ね? ほら、マコトくん優しいからついお願いしちゃうんだよなー」 「えっと……」 奥田マコトは、不運にもその問題児のターゲットになった少年だった。その気弱な性格が災いし、倫夫に脅迫まがいの頼み事をされては、半ば強制的に言うことを聞かされる。彼はそんな毎日を送っていた。マコトはそんな自分をどうにかして変えたいと思っていたが、学校きっての問題児相手にはそんな勇気はなかなか出せずにいた。 「黙ってんじゃねーよ!」 「うあっ! わ……わかったよ。持ってくればいいんでしょ」 「はじめっからそう言えばいいんだよ。マコトくん」 少し小突いただけで言うことを聞いてしまうマコトのことを、倫夫は『都合のいい奴隷』としか思っていなかった。彼にとって信頼できるものなどいない。唯一あるとすればそれは自分自身である。 「じゃ、明日楽しみにしてんぜー」 「っ……」 マコトは一人になったその場所で一人絶望していた。このまま自分は一生彼にいじめられて生きるのだろうか、と。自分を変える勇気も、強くなる勇気も彼にはなかった。 方や、意気揚々と家に帰っている倫夫は、これからも自分は弱い奴らを食い物にして生きる、順風満帆な人生を送れるのだと、調子づいていた。まるで自分がこの世の支配者であるかのように、本気で思っていたのだ。 ――しかし、二人のそんな人生は、唐突に終わりを迎える。 二つの、仮面によって。 ◆ 次の日の朝。マコトと倫夫は学校の裏庭で二人密かに会っていた。当然ながら、倫夫に二千円を渡すためである。 「約束のモン、持ってきたよなぁ?」 「うっ、うん……」 マコトは制服のポケットから千円札を二枚取り出す。これは自分の小遣いではない。母親の財布からこっそり抜き取ったものだ。マコトは当然この行為に大きな罪悪感を持っていた。が、これも自分を守るためなのだと自分の心に噓を吐いて、罪悪感を無理矢理押し殺した。 「へへ、これでしばらくは安泰だぜ。これからも頼むよ。マ・コ・ト・くん?」 (なんでコイツは平気なんだ……僕なんて泥棒してまで渡してるのに……僕は本当にこれでいいの? こんなことしてて……正しいの?) マコトの心に残るモヤモヤとした気持ち。これで自分はしばらくは危害から逃げられる。でも、やはりこれはやってはいけないことだ。という善心からの逃れられない罪悪感。その苦しみが、少し彼を動かした。 「そのさ、古部くん……」 「あん?」 「や、やっぱり、そのお金……」 「なんだよ?」 ――しかし、倫夫のその怒りを込めた一言によりその勇気はかき消されてしまう。こうしてマコトはまた振り出しに戻ってしまった。彼の言いなりになったままの人生に。 「あはは、お前は俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ。じゃあな」 倫夫は意気揚々とその場を去ろうとする。しかし、倫夫は歩みを止めた。茂みの裏に、あるものを見つけたからだ。 「……ん? 何だこりゃ」 それは二つの仮面だった。二つとも緑色で、鬼を象ったような意匠の仮面。誰の落とし物かは知らないが、そんな明らかに異様なものが、なぜか学校の裏に落ちている。それに倫夫は興味を示した。 「こんなん落ちてた。なんだこりゃ?」 「なにこれ? 誰かの落とし物?」 「知らねえ。でもなんか面白そうだな……」 倫夫はその仮面をまじまじと眺めている。そしてまた碌でもないことを思い付いたのか、にやりと嫌な笑いを浮かべた。 「そうだ。お前ちょっとこれ被ってみろよ」 「えっ、やだよ……そんなの……それに人のを勝手に」 「お前はイチイチうるせえんだよ! いい子ぶりやがって! だからムカつくんだよ! いいからこれでも被りやがれ!」 倫夫は、マコトに無理矢理仮面を被せた。それはほんのイタズラのはずだった。マコトが困るのを見て少しでも口答えされたイライラを紛らわせたかったのだろう。しかし、そんな彼の軽率な行動がとんでもない事態を引き起こすことになろうとは、倫夫も、当のマコトでさえ知る由もなかった。 「ちょっ……なにするん……うっ!?」 仮面を被らされたマコトの身体がビクンと跳ねた。それから程なく肉体が仮面に拒否反応を示すかのように小刻みに痙攣する。 「ん-ーーーっ! んうぅーーーーーーっ?!!」 「あはは。何やってんだお前」 体を震わせながら、仮面に覆われた顔面を強く引っ張るマコト。その滑稽な様子に倫夫はしばらく笑っていた。が―― 「うああああ、んぐううううぅううーーーーっ!!」 「……おい、ちょっとやりすぎじゃあねぇのか……?」 あまりにも異様なマコトの挙動に、さすがの倫夫も謎の危機感を覚える。それもそのはず。仮面はマコトがいくら強く引き剝がそうとしてもどこまでも伸びるだけで一向に外れず、それどころかマコトの顔を侵食するかの如く顔に張り付こうとしている。マコトの抵抗はしばらく続いたが、それも程なく終わりを迎えた。 「ああああああ!! うああああああああああぁ!!」 「な……何が起こってんだ一体……!?」 マコトが着けていたはずの仮面はその形を崩し始めていた。それは糸のような、液体のような、どちらともいえない奇妙な物体となってマコトの顔を覆い尽くそうとしていた。まるでマコトと一つになるかのように顔面に必死に張り付き、マコトもそれを必死に引き剥がそうともがく。 しかしその抵抗も虚しく、仮面の侵食は続き、とうとうマコトの頭全てを覆い尽くしてしまうほどに進行する。倫夫はそれをただ呆然と眺めるだけだった。 「んぐっ!? うおおおおぉぉ!?」 いつしかマコトの顔に定着した仮面だったそれは、厳つい鬼の顔となっていた。その恐ろしくもワイルドな雰囲気を持った相貌は、ひょろりとしたマコトの体躯にはとても似合わないものである。しかし、そんなアンバランスな状態も解消されることになる。 マコトの口から漏れ出た雄叫びは、その鬼の面に相応しい太く低い恐ろしい声だった。その声に倫夫は困惑と恐怖で動けなくなってしまう。 「ああぁ……なんだよこれぇ……」 声を漏らしへたり込む倫夫は、その非現実な状況に相対したことによる混乱で、気がつかなかった。自分の背後に、もう一つの仮面が浮きながら向かってくるのを。 「うああっ! やめろっ! ウオオオオオオ!!」 雄叫びと共にマコトの身体が変わっていく。普遍的な男子中学生だったマコトの姿は、みるみるうちにその体積を増していった。グングンと身長が伸びていき、あっという間に立派な大人のそれとなる。 大きくなったのは高さだけではなく、横にも立派に成長していった。【力仕事】や【戦闘】に耐えられるだけの剛健な筋肉が、身体のあちらこちらを埋め尽くし、発達させていく。筋肉を鍛えている人間が羨ましく思うであろうほど立派な筋肉が、数分前はただの中学生だった少年の身体に着けられた。 重い腕を持ち上げられそうな太い腕に、どんな重い体だって支えられそうな太い足。それに――女性だって惚れ惚れするような太いイチモツを携えた、厳つい鬼の顔に相応しい肉体が出来上がった。 「んぐぅっ!? んああああああぁぁ!!」 その時、マコトのちょうど向かい側からも空を引き裂くような叫び声が木霊した。叫び声がした場所では、マコトと同じように、緑の面をつけた古部倫夫が仮面を外そうともがいている姿があった。 「んがっ!? んぐううぅぅっ!(なんでっ!? なんで外れねぇんだぁっ!)」 力任せに仮面を引き剥がそうとするも、仮面は液体のように流動化し、倫夫の指をすり抜けていく。それどころか無数の糸となって頭部全体を覆い尽くそうとしているようだ。 「何が起きて……グオオオオッ!」 もがいている倫夫をよそに、マコトの変化は仕上げの段階に取り掛かろうとしていた。大地を揺るがすような声と共にマコトの生白かった皮膚の色が濃い深緑へと染まっていく。それは明らかに人間のそれではなく、マコトは人ならざる者へと変化していくのだということがわかった。そして仕上げとばかりに手と足の爪が鋭く伸びると、いち早くマコトの変化は完了した。 「やめろっ……ぎいいいいぃ!」 その間に倫夫は抵抗虚しく頭部全てを鬼の仮面に侵食されていた。マコトのものとは違い、その顔は厳つい、というよりも、醜い、と言い表す方が適切であろうものへと変化していた。腫れぼったい目にねじ曲がった顔面、そして異様に長く尖った鼻が特徴的な顔。その顔が今の倫夫の顔だった。 そんな顔になってしまった倫夫の口からは甲高く耳障りな金切り声が出てくる。と、同時に、彼の身体にも変化が訪れる。しかし、今度はマコトとは真逆の方向に変化していった。 部活といじめで鍛えられたその体がみるみるうちに萎んで、縮んで小さくなっていったのだ。 身長もグングンと縮み、なんと七〜八歳程度の肉体にまで退行していったのだ。着ていた制服はその身体に合わずぶかぶかになる――と思いきや、不思議なことに縮んでいく身体に合わせて制服も縮み始めた。そして小さな身体にフィットするように彼の制服は調整された。 それはマコトの制服も同様で、大きな体躯をしっかりと覆った特大サイズの制服となっていた。しかし筋肉や脂肪の量が多いのもあってそれでもピチピチに張っているのだが。 「あぁっ! うそっ、だっ、ギイイッ!」 服の下で、倫夫はとうとう自分の筋肉と別れを告げることとなる。身体は縮みながらも筋肉はそのまま保たれていたのだが、それすらも変化する肉体には相応しくないと見做されたらしく、はじめからなかったかのように体の内側に吸い込まれて消失していく。胸はあばら骨が透けて見えるほど貧弱になり、逆に腹は餓鬼のように膨れ上がる。 腕も脚も細くなり、逆に手足は不相応に大きくなる。指には鋭い爪が生え、全身の肌も顔の色に合わせた緑色に染まっていく。 マコトと同様の、しかし全く真逆の変化をした倫夫は、そのあまりの出来事に、ただ「あっ……あっ……」と声を出すだけだった。 二人の肉体の変化が完全に終わった時、その場に一陣の風が拭いた。 「なんだっ!? 体がっ!」 突然、マコトの大きな体が宙に浮く。倫夫の小さな体も同様だった。二人の背後には紫色の空間に繋がる穴が、ふたつ空を裂いて開いていた。そう。それは、二人を新たな世界へと誘うゲートだったのだ。 「いやだっ! やめろ!」 二人は声をあげて体をバタつかせるも、不思議な引力に導かれるかのように、体はゲートの方へと向かっていく。まるでゲートが『この世界は今のお前には相応しくない』と訴えているかのように、強制的に二人を吸い込んでいった―― ゲートが閉じられた時、二人はもうそこにはいなかった。まるで二人がいた痕跡すらも消してしまったかのように、そこは閑散とした空気に満ちていた。 ◆ 「……んっ……」 ぼやける視界がクリアになっていく。倫夫は、しばらく気を失っていた後、ようやく目を覚ます。しかしそれは夢から覚めたわけではない。彼の体は小さく醜いままだった。 倫夫は小さな体を起こすと、辺りを見渡す。 「ここ……どこだよ!?」 そこは森の中だった。周り一面が見たこともない不思議な木に囲まれ鬱蒼としている。香草のような爽やかな香りが漂い、倫夫の鼻腔を刺激する。 「うっ……」 しかし倫夫の大きい鼻は嗅覚を鋭敏に発達させているようで、彼にとってはそれはいいものではなかったのだが。強すぎる匂いに鼻を押さえて蹲る倫夫。 「おい! どうした?」 そんな彼に声をかける者がいた。それは緑色の肌をした小人のような鬼だった。 手には小ぶりな槍を握り、装備は簡素な腰巻き一枚といういかにも異質な格好だった。それは倫夫が人間の世界ではない、異質な世界へと飛ばされてしまったことの証左となった。 そしてその鬼は、顔つきこそは少し違うものの、倫夫とそっくりだった。おそらく倫夫はその鬼と同じ種族になったようだ。 「お前もゴブリン族だろ? それにしては見ない顔だな。変な装備してるし……別の島のモンか?」 自らを『ゴブリン』と名乗った鬼は、同族と認識した倫夫を心配し駆け寄ってくる。しかし倫夫は自分の置かれた状況に気づいてはいなかった。 「なんだてめぇ! 俺に話しかけんなこのバケモンが!」 「……何だとぉ?」 それが彼にとっての仇となった。怖いもの知らずの傲岸不遜な態度、そして今の自分の立場を自覚する前に彼らに出会ってしまったこと。これらの状況と、その無礼な一言が、彼の運命を大きく変えてしまうこととなる。 その頃、マコトは―― 「あ……すみません。助けてもらってしまって」 「気にするな。同じオーク族として、同胞を助けるのは当然のことだからな」 マコトは、小屋の中にいた。山中で気絶しているのをオーク族と名乗る大男に発見され、そして彼らの住む集落へと保護されていたのだった。今彼らがいるのはその集落にある小屋である。 「オーク族……? 同じ……?」 「何があったかは知らんが、ショックで記憶が混濁しているようだな。ほらよ」 自分の状況をつかめず混乱するマコトを見て、オークは懐から小瓶を取り出す。中には青く透き通った綺麗な液体が入っていた。 「オーク族に伝わる秘薬だ。これを飲めばどんな異常でもたちどころに治る。まあ、副作用もあるにはあるがな……」 「あ、ありがとう……ございます」 マコトはおそるおそるそれを受け取ると少し口に入れる。味は特にないが、喉を突き刺す冷たさがあり、まるで冷凍庫で冷やされた水を飲んでいるかのような喉越しだ。 「俺はゴルドと言う。お前の名は?」 ゴルドと名乗ったオークは椅子にもたれかかりマコトを見る。その厳つい顔つきにマコトはたじろいた。今のマコトも彼に負けず劣らず厳つい顔なのだが。 「マコト……です」 その時、自分の名前を言ったマコトはとある違和感に気が付いた。マコト――それが自分の名前なのはそうなのだが、苗字が思い出せないのである。元は日本人である以上、自分には日本の苗字があるはずなのに、そこだけがモヤがかかったように思い出せないのだ。 (あれ? 僕の名前、なんだっけ? まあ、いいか……) しかしそれに関して支障が特にあるわけでもなく、マコトはそのまま話を続けることにした。 「信じてもらえないかもしれないんですけど、僕、この世界の人間じゃないんです」 「ほう。では、お前は俺達とは違う世界からやってきたと。しかし、俺と同じオーク族が違う世界にいるとは、到底思えないのだがな」 「僕、本当はもっと違う格好だったんです。オークでもなくて……あれ、僕、どんな姿してたんだっけ……?」 次は、元の姿がぼやけて思い出せなくなっていた。元は人間の中学生だったはずなのに、その姿が真っ白なシルエットの中に溶けていくかのように薄れて分からなくなっていく。代わりに映るビジョンは、ゴルドのような厳つい壮年のオークの姿。それが今のマコトの姿なのだろう。 (なんだこのおじさん……もしかして、これが今の僕?) それを自覚した時、はっとしてマコトは自分の両手を改めて確認する。尖った白い爪にゴツゴツとした緑色の指が視界に映った。 「すいません、ゴルドさん。ちょっと、鏡見てもいいですか?」 「ああ、構わないが。案内しよう」 そしてマコトは小屋の姿見を見て確信する。あの脳内のビジョンにいたオークが、彼本人のものだということを。 太く濃い眉に大きく張った顎。口には立派な二本の牙が聳え立っている。制服を脱ぐと全身に生えた黒々な体毛が確認できる。それはあまりにも人間だった頃のマコトの面影を一切感じさせないものだった。 (僕、本当に同じオーク族になってるんだ。しかも、ゴルドさんより年上なんじゃないか……?) ゴルドが人間に換算して四十ほどとするならば、マコトは五十ほどになるのだろうか。ゴルドも歴戦の戦士を思わせる姿だが、マコトはさらに歳を経た貫禄が感じられるほどだ。筋肉も脂肪もゴルドよりあるかも知れない。 「ほう。なかなかだな。お前も相当鍛えているらしいな」 ゴルドは感心するが、マコトはこれが強制的に付けられたものなのを知っている。だからこそ複雑な気分だった。 「ありがとうございます、ゴルドさん。じゃあ僕は行くので……」 「まあ待て。せっかくの縁だ。お前、しばらくこの集落で暮らすがいい」 「えっ?」 「俺達オーク族は力と誇りを重んじる種族だ。それがあるならば、仲間もお前を同胞として歓迎するだろう。それに、お前のような強き者がいてくれると、俺達も心強いからな」 こうして、なし崩し的にオーク族との生活が始まった。 「俺達はいつもこうやって生活しているんだ」 時には他の種族のために建築や農作業などの力仕事をしたり、近隣で暴れる獣を退治したりして生活のための通貨を手に入れ、集落では時に仲間同士で宴を開いて親睦を深めたりもした。 料理は肉や魚が主で、しかもオーク族に合わせて大量の料理が振る舞われた。当然、マコトも食べるのだがいくら食べても腹が減る。どんなに体を動かしても疲れない無尽蔵のスタミナがある反面、取り入れるエネルギーも多いということなのだろうか。 大量の食事を取り、力仕事で体を動かし、夜はたっぷり寝る。毎日がそんなルーティンだったが、マコトは人間の頃より充実した日々を送っていたのだった。 そして時は過ぎ―― 「マコトよ」 「はい、マコトはここに」 とある日、集落の長に呼び出されたマコトは落ち着いた雰囲気で長の前に跪いていた。マコトの隣にはゴルドの姿もある。 「お前も、ここに来て随分と働いてくれた。その働きを見込んで、お前を正式にこの集落の一員にしようと思っている」 「左様にございますか……! この私が……」 マコトはオーク族と生活する内に、彼らの立ち振る舞いに適応するようになっていった。いつもおどおどしていた彼はもうそこにはいなかった。一人称も僕から俺へと変え、話し方も生活も変えた。マコトは今やその姿に相応しいオークの男となっていた。 「昔と比べて本当に立派な男になったなマコト。俺も誇りに思うぞ」 「ああ、お前達のおかげだゴルド。こんな素晴らしい仲間に出会えて俺も嬉しい」 マコトは、ゴルドの言葉に微かな涙を浮かべて微笑む。他の誰でもない、彼にそう言ってもらえるのが何より嬉しくて、つい抱き合いそうになったが、これから始まる仲間入りの儀式の前にはしたない真似はできないと、はやる自分を抑え身を引いた。 「ではこれからマコトにはこの集落仲間となるための儀式を行なってもらう」 「はい」 「マコトよ、まずはこれを半分飲め」 長が取り出したのはひとつの小瓶。中には液体がなみなみと入っている。マコトはこれに見覚えがあった。 『オーク族に伝わる秘薬だ。これを飲めばどんな異常でもたちどころに治る。まあ、副作用もあるにはあるがな……』 そう、以前ゴルドに渡されたあのオーク族の秘薬に似ているのだ。これも恐らく同じようなものなのだろうとマコトは推測した。 「これは我が一族に伝わる秘薬。全身の細胞を活性化させ、どのような異常でも治療する力があるのだが、これはそれを調整したものだ」 秘薬の入った小瓶がマコトの手に渡されると、マコトはすぐに蓋を開ける。すると、以前のものとは違う奇妙な香りが広がってきた。少し嗅ぐだけで、頭がクラクラするほどだ。 「これは、中に含まれている微量の媚薬成分を強めた我が一族特製の媚薬だ。お前には我が一族の中から選んだ者とまぐわってもらうこととなる。 当然、相手がお前を認めなければ成立せぬ。 この薬を互いに飲み合い、そして体を重ね合えるような絆を持った同胞を持った時こそ、お前は我が集落の一員となれる」 長にそう言われた時、マコトは(ああ。やっと俺は、彼らと同等になれるのか)。そう思った。人間だった時の記憶はあれど、もう自分がどんな姿でどんな名前だったのかは、靄がかかったかのように曖昧になり思い出せない。 自分を愛情をもって育ててくれた両親に対して名残惜しい気持ちはあれど、もうあの虐げられ続ける人生を送るのはマコトとしては堪えられなかった。 今の自分は誇り高きオーク族の一員であり、勇敢な戦士であると、マコトは人間時代の未練が残る自分に言い聞かせ、ゴルドに問いかける。 「ゴルド……僕、いや、俺と……してくれ、ないか? ……儀式を」 一瞬、元の彼に戻ったマコトを見て、ゴルドは微笑む。彼の回答は、この儀式に呼び出された時にすでに決まっていた。 「当たり前じゃないか。むしろ、他の誰かになっていたらどうしようかと思っていたんだ。俺も、お前と交わることができて、とても嬉しい」 マコトは、ゴルドのその言葉にまた涙が出そうになった。しかし、オーク族に涙は似合わない。そう思いすぐさま涙を拭い、静かに抱き合った。 「それでは儀式を始める。お互い、半分ずつ薬を飲むのだ」 「はい」 まずマコトが小瓶に口をつけてゆっくりと中の液体を流し込む。かあっと喉が熱くなったかと思うと、すぐさまその熱さは全身に広がりマコトの身体を漲らせた。 次にゴルドが同じように薬を飲む。これで儀式の下準備は終わった。これからが本番だ。 「んっ……なんだ、とても変な感じが……うおっ!」 薬の効果は即座に現れた。マコトの太々しく変化したオークのペニスに急速に血液が集まると、誰もが見惚れるほどの剛直となってマコトの眼前を貫いた。何度か勃起したことはあれどここまで大きくなったのははじめてだった。 「すげぇ……」 「この媚薬は強力なものだからな。己の性力を引き出し最大限の……」 「……あぁ……」 ゴルドが説明を始めるが、その時マコトは媚薬により強化された焼けるような性欲に脳を支配されかけていた。今すぐこの昂る獣のような欲を満たしたい。このゴルドの鋼の肉体を犯してしまいたい――そんな絶えることのない欲望を必死に理性で抑え込む。 「聞いてるか? やはり薬の効果が強いのか?」 「い、いや、聞いてる……」 嘘だった。ゴルドの言葉など聞こえやしない。今、マコトの思考にあるのは、この後の本番のことばかりだった。 そんな一瞬の時間の中、性欲という名の無間地獄の中で、マコトはあの時のことを思い出していた。 (相手がいねぇのか。なら俺が相手になってやる) オークになったことで毎日のように滾ってくる性衝動を一人で処理していたある日、ゴルドから声をかけられたこと。その時、初めての、男同士のセックスを経験したことを。 (お前、なかなかだな。本当に初めてなのか疑問だよ) ゴルドにリードされたとはいえ、初めてペニスをしゃぶられ、排泄をするためだけだと思っていた穴にペニスを入れられ、そして入れたこと。それがとても気持ちよかったことも。 マコトの記憶の中に強烈に焼き付いているそれは、アナルの疼きとして今でも思い出す。それから、マコトはゴルドの事を本当に愛おしく思った。このオークとなら、一生一緒に居ていたいと。 「では、儀式をはじめる」 長老の鶴の一声が聞こえる。その時マコトは『ああ、やっとゴルドとヤれる』そう思った。正式に集落の仲間入りができることも彼は嬉しく思ったが、何よりそれをゴルドと共にできるのが嬉しかった。いますぐ、この張り詰めたペニスを鎮めてほしい。そんな気持ちでいっぱあになったマコトは、つい顔を笑みで歪めていた。 「ゴルド、頼む」 「ああ、わかってる」 ゴルドはそう言うと、木の器に入った液体を口に含む。集落に生えている植物をすりおろしたものだが、それを体につけるととても滑りがよくなりセックスをスムーズに行う事ができる。現実世界で言うことろの、ローションの役割なのだろう。 「んっ……」 ゴルドはそれを含んだままマコトのペニスを咥え、そのまま前後する。ねばねばの液体を絡ませて、なおかつ筋からカリにかけて舌をねぶらせる。 「ふぅっ、ふぅっ……! あっ……」 するとマコトはたちまち気持ちよさで喘ぎ出す。マコトの勃起したペニスをさらに太く硬く張り詰めさせるため、絶頂には至らない絶妙なテクニックでマコトの興奮とペニスの硬度を高めていく。いつしか塩辛い我慢汁がマコトのペニスから出だすのを確認すると、ゴルドはずるりと口をペニスから離した。 「あぁ、さすがゴルドは上手いな。危うくイッちまうとこだった」 「おいおい、お前だけ気持ちよくなられても困るぞ。本番はこれからなんだぜ?」 緑の顔を赤面させるマコトを見てゴルドは意地悪そうに笑う。器の中の液体を今度は自分のアナルに擦りつけていく。マコトの硬くなったペニスを受け入れるために指で少しずつ解していく。今回はいつもより大きくなっているペニスにゴルドは不意に固唾を飲む。もしこれが挿入(はい)ったら、どうなってしまうのだろうかと。 「も、もういいか。入れるぞ」 「ああ。いつでも来い」 準備完了。と言わんばかりにゴルドが自らのアナルを彼のペニス目掛けて広げる。マコトは躊躇いもなく、そのアナルの歓迎を受け入れた。 「うおっ、うおおっ、あっっ!」 歓喜の雄叫びが集落の小屋に響く。二人の雄がお互い性を貪っている。それはまるで獣のようなセックスで、とてもこれが儀式であるとは思われないくらいに激しい。 マコトはゴルドの大きな背中を必死に抱き抱えながら彼の中を必死に突く。その度にゴリゴリと腸の壁がペニスを刺激し双方に快感を与える。 「なっ、何これ、気持ちいい! 今までもよりもっ、ずっとっ! ぬっ、ぬふうっ、腰が、止まらな、止まらぬっ! はっ、ぬあっ」 「マコトの……マコトのペニスが、入ってくる! いや、これはっ、はあっ、侵してくるっ、脳ガッ、痺レルッ…………ウアアァッ!」 逞しい筋肉、弾力のある脂肪、太い四肢。オークの持つそれらすべてを使い、ただお互いの快感を享受するため、そして愛を伝えるための交わりが続けられる。 それはもはや好意ではない、愛情であるのだとマコトは思った。たとえそれが自分の一方的なものだとしても、彼にこの気持ちを伝えたかった。だからこそ、彼は突くのだ。自分が愛してしまった相手に、体全身で、自らの分身で。 「ああっ……ゴルド……!」 この時が永遠に続けばいい――マコトはそう思ったが、生物である以上その時は必ずやってくる。快感が限界まで達した時、陰嚢で作られた精がせり上がってくるのを感じた。まだ終わりたくない、そう思いペニスに力を入れたがそれは叶わなかった。 「だっ、出る! もう出すぞ、中に出す!! あぁっ! イクッ!!」 ドプッ! ブビュルルルルルーーーーッ! そんな音とともにゴルドの中に濃厚な精液を注ぎ込む。薬で高められたそれは今まで以上に量が多く、濃厚さも相当なものであった。溜め込んだ分出る時間も長い。 まるでそれが永遠であるかのような射精の時間が終わると、ゴルドもうっとうめいてイッた。マコト程ではないがこちらも大量の精液をペニスから放っていた。 「はぁ……はぁ……」 「気持ちよかったぞ、マコト。やはりお前と一緒にいると、心が落ち着く。長年生きていてそう思ったのは久々だ」 「お、俺も……ゴルドと一緒にいると……その……落ち着く」 「そうか、嬉しいぞ。では、次は俺がマコトのアナルを突かせてもらおう」 「わかった。よろしく頼む」 こうして儀式という名のセックスは夜が明けるまでに及んだ。 「これにて、儀式は完了だ。晴れてマコトはこの集落の仲間として迎え入れることとする」 「ありがとう、ございます。これからよろしくお願いいたします」 マコトは長に向かって深々と頭を下げると、これからこの集落で生きていくことを誓った。そして、ゴルドとの共同生活を行うことも。 それからマコトはオークとしてめきめきと力を付けていき、彼が本来大人になるぐらいの時が過ぎる頃には、彼はいつしか集落のリーダー的存在として君臨するにまで至ったのだった。 「マコト様」 「ジュラか、どうした」 「最近、ここら一帯で怪しいゴブリンが潜んでいるようです。どうやらゴブリンの集落からも外れたはぐれ者らしく、本日彼らから情報をもらいにいく予定なのですが、同行できますか?」 「ゴブリンか……」 ただの迷い人ならそれでいいが、もし悪人ならば放っておくと周りに危険が及ぶかも知れない。マコトはそう考えた。 「わかった。俺も行こう」 「ありがとうございます!」 マコトは戦闘用の鎧に着替えると、小屋を後にする。その出で立ちは、あのおどおどとした少年だったとは思えないほど自信に満ち溢れていた。 「では、行ってくる」 「気をつけてな、マコト」 「ああ」 日が経ち少しばかり老けたゴルドを見ると、マコトはゴブリン達のいる集落に向かって出発した。 ――ゴブリンの集落。ゴブリンはオークと同じ緑色の肌をしているが、背は低く体型も痩せているため力はオーク程はない。しかし素早く機転が効くため狩りや情報収集に長けている。そんな彼らを頼る種族も少なくはない。 「お前がオークのマコトか。俺はゴブリンのグル。よろしく」 「ああ、よろしく」 二人は出会いの証の握手をする。手の大きさに違いはあったが、間違いなく関係は対等であった。 「おそらく、そいつは他所者のゴブリンだと思うのだ。どうやら奴は窃盗や襲撃を働いたこともあるらしく、警戒されているらしい。 我々にそのような蛮行を働く者はおらん。我が集落を代表して言わせてもらおう」 「では、その集落以外の者と断定して……心当たりはあるか? 例えば、以前に会ったとか、ゴブリンに恨みを持っている、とか」 グルは少し指を頭につけて唸る。思い入れがあるようで、うむむと唸るとしばらくのインターバルを置いたあと口を開いた。 「そういえば、以前、集落を追放した奴がいたな。 初めは同じ一族かと思いこの集落に迎え入れたのだが、『俺はお前らみたいなバケモノじゃない』と我らを侮辱しただけでなく勝手な行動で輪を乱したため、二度とここへ来るなと放り出した覚えがある。 そいつが今でもそこらをうろついているとしたら……」 「成程。最悪この集落に恨みを持っている可能性もあり得る。とりあえず、近くを探してみることとする。奴がまだそこにいないとも限らないからな」 「わかった。こちらも何かあったら連絡する。お前達も気をつけてな」 ゴブリンの集落を後にしたマコトとジュラは、集落に戻る前にそのゴブリンとやらを探すことにした。そいつにどんな考えがあるのかはわからないが、放っておくわけにもいかないと、マコトが決意したその時だった。 「何者だ!」 近くに自分以外の気配を感じたマコトはポケットの中の石礫を投げつけた。するとそこからうっと小さいうめき声がしたのをマコトは聞き逃さなかった。 「……やはり」 マコトがそう呟く。石の飛んだ茂みの中にいたのは緑色の小さな人影。頭を抱え蹲るゴブリンの姿だった。 そのゴブリンはボロボロになっているが、妙な衣を見に纏っていた。そして、マコトはそれに何やら見覚えがあった。こんな奇妙なものは見た事がないはずなのに――何やら、記憶に残っていたのだ。 「イテェ、何スンダ」 ゴブリンは涙目になりながらそう言う。全身傷だらけで、声も小さい。おそらく衰弱しており反抗する元気もないのだろう。 「お前か。ここら一帯を荒らしているゴブリンは」 マコトの斧がゴブリンの喉元に突き立てられる。ゴブリンは涙目になりながら言い訳をまくし立てる。 「ダッテ! ダッテ誰ニモ受ケ入レテモラエナクテ、ダカラ盗ムシカナカッタンダ! 生キルタメナンダ!」 しかしその言い訳は彼の自業自得である事をマコトは知っていた。集落で大人しくしていれば生きていられたのに、あまつさえ仲間をバケモノ呼ばわりするとは。マコトは呆れながらゴブリンを一発殴りつけた。 「ならもう生きれないようにしてやろうか」 「ウアァ! ゴメン、ゴメン、ナサイ! モウ、シナイカラ! ダカラ、許シテ、許シテ、クダサイ!」 おぼつかない言葉で必死に命乞いをするゴブリンに心底軽蔑しつつ、片手でゴブリンの体を地面に叩きつける。 その時、大の字になったゴブリンを見てマコトは思い出した。ゴブリンが着ているボロボロの黒い布。それがかつて自分が人間だった頃に着ていた制服に似ていることに。そして、この世界にはもう一人来ていた人間がいたことに。 「……ミチオ、お前、ミチオだろ」 「ナッ、ナンデ、俺ノ、名前ヲ」 「やはりな。俺の名はマコト。これで、分かるはずだろ。お前が本物のミチオならな」 「ア、ァァ……」 ゴブリン――ミチオのズボンが急激に湿っていく。おそらく失禁したのだろう。今までの記憶の奔流が、そしてこれから自分がなるであろう未来を想像して。 「マコト!? オ前、ドウシテ……タダ、殴ラレテル、ダケノ……嘘ダァ!」 「嘘じゃない。人は変われるんだ。まあ、そのきっかけをくれたのは、皮肉にもお前だったって事になるがな」 「嘘、ダ、コンナノ、夢……ギアアア!」 現実を受け入れられず頭を抱えるミチオだったが、唐突に顔を赤らめて奇声をあげた。腰をガクガクと虚空に向かって振ると、またズボンが少し濡れた。 「……どうした、気持ち悪い声あげて」 「前、アル村ニチョッカイ、カケタラ、ケツにナンカ、入レラレ、チマッタ。オ仕置キ、ダッテ。 コレツケルト、イッテ、俺カラ、ナンカガ、出テッチマウ。 ダカラ、モウ、俺、難シイ、コト、ワカンナイ、コンナコトシカ、デキナイ」 どうやら知らない内にミチオは罰として何かをされたらしい。先程以上に口から出る言葉がたどたどしくなっていく様子からも伺える。 「動クダケデ、イッチマウ、イッタラ、少シズツ、俺、消エテクンダ。ダカラ、オ願イ、コレヲ、抜イテクレ」 そう言うとズボンを脱いで尻を見せる。そこには何やら筒状のものが差さっていた。 「抜けばいいのか」 「アア、早クシテクレ! デナイト……」 マコトはそれを抜こうとしたが、このままではミチオの態度が変わることはないだろう。そう思い筒から垂れる紐を握った所で、抜く事をやめた。 「オイ! 何ヤッテンダマコト! 早ク……」 「なら心を改めろ」 「エ……」 「お前がゴブリンの一族に何を言ったかは聞いている。おそらくこのまま俺がお前を助けても、お前は反省は一切しないだろう。だから条件をつける。 俺はこれを抜く代わりに、お前は今までの狼藉を謝り、真面目に生きるんだ。俺も協力してやる。今までの誼ってやつだ」 ミチオはその時絶望という感情が渦巻いた。おそらく、彼を怒らせれば助からないのは明白だ。もし謝って抜いてもらったとしても、今後は彼の言う事を聞かなくてはならないだろう。散々彼をこき使ってきたミチオには、それが嫌で、悔しくてたまらなかった。 ミチオの心には憎しみの炎が渦巻いていた。『どうしてこんな奴に頭を下げなきゃならないんだ』『強くなったからって調子に乗りやがって』そんな怒りの感情がふつふつと湧き上がる。 しかしその感情も、『助かりたい』という生存本能の波にあっという間にかき消された。とにかく謝ればいいのだ。 その後のことはどうだっていい。恐らく、あんなふうになってもお人好しな性格は変わらないのだろう。だからあんな風に言ったのだと、ミチオは人間の頃の記憶からそう分析し、とりあえずここは形だけの謝罪をすることとした。 「……ワカッタ。謝ル。今マデ、酷イコトシテ、ゴメン」 「俺のことはどうでもいい。謝るのはゴブリン達にだ」 「アア……アイツラニハ、悪イコト、言ッタ。チャント、謝ルカラ……オ願イ…………シマス…………」 「……分かった。信じよう」 その言葉を聞いたミチオは内心笑みを浮かべた。約束通りマコトはアナルに深々と差さった筒を抜く。しかし、強引に紐を引っ張って抜こうとしたのがいけなかった。そして、それは自業自得の行き着く場所でもあった。 「んっ、これ固いな……抜けんぞ」 「……アッ。…………アアア! ヤメッ、引ッ張ルナ! スッ、擦レル! チンポ、タツッ、セーシ、デチャウウウゥ!」 勢いよく紐を引っ張ると、小気味良い音とともに筒が抜けた。それと同時に、ミチオの体には夥しいほどの快感が走ると彼を絶頂に至らせた。 「アアアアアアアアアア!」 膝をがくがくと振るわせ勢いよく射精し続ける。奇声をあげながら地面を白く染めていく。 業とは、人が起こしたことが重なって、いつか返ってくるものだ。彼の場合は、他人を頼らなかったこと、侮辱したこと――色々あるけれど、もし、彼があの仮面を着けなければ……マコトをいじめていなければ……こんなことにはならなかったのかも知れない。 もうなにもかもが遅いのだけれど。 「アァ……ヤダ……オッ、オレ……キエル…………」 ミチオの顔からは表情が消えていき、いつしか虚ろになる。まるで彼の中の何もかもが消えてしまったかのように。このミチオを陥れた筒の出所は彼にしか分からないが、もう分かることもない。もうその記憶も失われてしまっているのだから。 「……何だ、この筒は。うっ、だいぶ臭うな……」 筒からは強烈な臭いが発せられてマコトはつい鼻を塞ぐ。恐らく長い間着けられていたのだろう。 ふと気を失っていたかのように直立停止していたミチオが意識を取り戻す。 「お、おい……」 「ギッ、ギギャギャ……」 しかし、もう昔の彼ではなかった。目は血走り猫背の体勢で何やら唸り声をあげている。言語能力すら失われてしまったようで、ただひたすら奇声を発してマコトを威嚇している。 「グギ、ギギ……ギャーッ!」 悲鳴のような奇声を発してミチオだったゴブリンは走り去ってしまった。まるで獣のように変貌してしまったゴブリンを、マコトはただ呆然と身送ることしかできなかった。 「そんな事が……」 「因果応報とはいえ、哀れな奴だった。それにしても、生物の知能を失わせてしまうとは、恐ろしい動画があるものだ」 「それは、魔法道具だろう。恐らく奴はそれを使っている奴に実験台にでもされたのだろう。我々も極力関わらん方が良いだろうな。魔法に疎い種族は特に……」 ゴルドと話していたその時、マコトはふと思う。 あの日、自分がオークになることとなった、あの仮面も、この世界の魔法道具だったのではないのだろうか、と。 「マコト、どうかしたか?」 「……いや、なんでもない」 しかし、真実はマコトには分からない。分からなくてもいい。マコトはあの時のミチオの後ろ姿を見てなおさらそう思った。 「ゴルド、明日もよろしくな。そして、これからも――」 それに、今のこの暮らしは、悪くないと思っていたので。 マコトは、これからもオークとしてこの世界で生きていくのだろう。 しかし、この未来はきっと幸せであると、マコトは確信していた。 静かに微笑む相棒の横顔を眺めながら―― END