OGREISM HERO(後編)
Added 2022-03-31 15:00:00 +0000 UTCそこはヒーローや怪人が存在する世界。そこでは二人の高校生バディヒーロー、レッドサンシャインとブルーフルムーンがその名を轟かせていた。
しかしある日、怪人によってその存在は消え失せることとなる。
ブルーフルムーンは赤鬼怪人の手によって自らの身体を乗っ取られて、本人自身が鬼の尖兵を作る鬼の頭領となってしまった。
そして、相棒である砥場野太陽(とばの たいよう)ことレッドサンシャインも、森林に現れた怪人によってその人生を終えさせられることになろうとは、この時人類は誰も考えてはいなかった。
「どこだ! 来るなら出て来い!」
「ヒーローか……お前も、私の”コレクション“に加えさせてやろう……ククククク……」
鬱蒼とした森林。その静けさに似つかわしくない熱苦しさをまといながら、サンシャインは叫んでいた。相対する怪人は対照的にその姿を見せず、余裕の面持ちを思わせる語調で彼を煽る。
「ふざけるな! 誰がお前の“コレクション”なんかになるか! 今すぐ出てこい!」
「出てこいと言われて出てくるほど、私は甘くはないわ! まずは私の部下達とお相手願おう」
その時、サンシャインの耳をつんざく声が鳴り響く。そのキーキーとした耳障りな声は、夜の虚空から際限なく鳴り響きはじめる。そして間も無く上から何人もの戦闘員が出現した。
「ご主人様のところへは、行かせませんよ」
「覚悟してもらいます、ヒーロー様」
それは燕尾服やタキシードなどといった正装をその身に纏った二足歩行の蝙蝠人間たちだった。言うなれば『蝙蝠戦闘員』というのがぴったりだろう。しかし他の戦闘員とは違い言語を介し、さらには敬語まで使っている。その他の戦闘員とは違う彼らの佇まいにサンシャインは一瞬たじろいた。
「お前ら、他の戦闘員とはやけに違うな」
「それは、我がご主人様の教育が行き届いているからです。あなたもご主人様の素晴らしさ、すぐに理解していただけますよ」
マントを翻しお辞儀をする蝙蝠戦闘員。その次には牙をかっと剥き出しにし戦闘態勢に入る。やはりいくら繕っても怪人は怪人。破壊の本能には勝てないとサンシャインは心の中で笑う。
「来い! 俺は絶対にお前ら怪人なんかには負けたりしない!」
サンシャインがそう宣言した瞬間、戦闘員の戦闘スイッチが入ったかのごとく彼に飛びつく。そして、その口内に聳え立つ鋭い牙を立ててきた。
「サンシャインパワー・チャージ!」
サンシャインは力を込めて太陽のエネルギーを吸収する。ヒーロー、レッド・サンシャインは世界に存在する太陽のエネルギーを取り入れてその力を増し、そこから繰り出される技は絶大な威力を誇る。しかしその能力にも弱点がある。
(……あまりパワーが溜められていない。ここからは太陽のパワーがほとんどない……か)
そう。近くに太陽がないと力を最大限に発揮できないのである。太陽が遮られる夜や屋内などではサンシャインの力は本来の半分も出せない。強力ではあるがその分弱点も大きい力なのだ。
「だが、このくらいなら、これでもいけるはず! はあっ!」
しかしそれでも戦闘員程度では彼の敵ではなかった。サンシャインが手刀を繰り出すと、光の刃のようなオーラが戦闘員を薙ぎ払う。
「くっ、この状況下でもなかなかのパワーのようですね」
地面に横たわる戦闘員を目にして彼らのリーダーらしき蝙蝠戦闘員は一歩後退する。そして倒れている戦闘員に手をかざすと、手からは黒いオーラが迸りはじめ、戦闘員を包み込む。
「さあまだまだですよ。行きなさい!」
「キィィ!」
リーダー戦闘員が命令すると他の蝙蝠達が立ち上がり再びサンシャインに襲いかかった。しかし何度立ち上がろうとも力関係が同じならば、当然ながら結果は同じことで、戦闘員達は再びサンシャインに倒されることとなった。
「何度やっても無駄だ! さっさと親玉のところへ案内してもらおう!」
「ふふふ、まだまだ。戦闘員だからとはいえ私たちを舐めてもらっては困りますよ」
そう言うと再び戦闘員を復活させるリーダー。また同じように襲いかかってくるのかとサンシャインは高を括っていたが、彼らも流石に三度目であるが故に、少し工夫を凝らしてきた。
「キキィ!」
戦闘員達が後ろにジャンプし空中で旋回しはじめる。何度か空を飛びながらサンシャインを煽ると、そのまま彼目掛けて急降下してきた。
「ふん! はっ、やっ!」
しかしそんな攻撃もサンシャインはいともたやすく回避する。すぐさま戦闘員も空中にジャンプし、ミサイルのように彼を狙って攻撃を仕掛ける。そんな状況が幾重にも渡って繰り広げられることとなった。
「キィィ! フンッ!」
「甘い!」
何度も避け続けて体力的にも消耗してきたサンシャインだったが、まだまだ力は有り余っている。それ以上に、繰り返される空中からの攻撃にも慣れてきた。爪を振り下ろすタイミングを見計らって戦闘員の腹部に思い切り拳を叩き込んだ。
「うおおおおおぉ!」
飛んでくる蝙蝠を撃ち落とすかのごとくサンシャインは戦闘員を次々と地面に伏していく。とうとう戦闘員達は動かなくなった。死んでいるのか、気絶しているのかは分からないが、とにかくもう戦える余力は残っていないことだけは伺えた。
「ふふ、素晴らしい」
そう言うとリーダーは手を叩いてサンシャインを賛辞する。戦いに集中していたサンシャインは、そのクラップ音ではっと我に帰る。
「それでこそ、ご主人様のコレクションになる価値がある」
リーダーの背後に聳え立っていたもの。それは城だった。まるで王族が暮らしていたもののような大きく立派なものだ。しかし、その造形は怪人らしく禍々しくて人々に不安感を抱かせる。そんな城だった。
石壁や屋根は赤、紫、黒――そんな毒々しい色たちで構成され、意匠はやけに刺々しく、そして近くには夥しい数の蝙蝠が飛んでいる。その威圧感にサンシャインは一瞬たじろいだ。
「此処は通称不夜城。我がご主人様の根城にしてコレクションルームです」
リーダーは彼を誘導するかのように不夜城の闇へと溶けていく。この中にも戦闘員が跋扈しているだろうし、何より彼らの親玉である怪人もいるだろう。
「此処では光という概念は存在せず、一生闇のままの世界――それでも良いなら入ってきなさい。その時が貴方の最期でしょうけどね。フハハハ……」
「最期になるのはお前ら達怪人共の方だ! 俺がお前らを絶対に倒す!」
サンシャインはヒーローとして宣言をすると勢い勇んで不夜城へと走っていく。しかし、もしここで冷静になって基地へと戻りこの不夜城と戦闘員のことを報告してさえいれば、また未来は変わっていたかも知れない。
彼は気づかなかった。何故この場に自分以外のヒーローが一人も来ないのか。自分より先にここへと派遣されたヒーローがいたはずなのに、その森には誰一人そのヒーローがいない。この事に気付いてさえいれば――だが、もう遅い。
不夜城の扉は、閉ざされた。
「くそっ、どこだ! どこにいる!」
「ギィ!」
不夜城の中、幾重にも襲いかかる刺客を蹴散らしながらサンシャインは進む。怪人のもとへ辿り着くために。
数十体もの蝙蝠戦闘員が自分の命を狙ってくるが、それを自らの肉体と太陽のエナジーを駆使して払い除けていく。
しかしいつまで経っても奴のもとへは辿り着けずにいた。サンシャインは、まるで何時間も何日も時間が経っているような、そんな感覚に陥る。だが地球の平和を脅かす者達を許すわけにはいかない。そう、家族や、部活仲間の笑顔のためにも――
「じゃーん!」
「利樹センパイ、なんですかそれは!?」
太陽が通う学校のラグビー部の先輩、持田利樹(もちだ としき)が彼に見せたのは、真っ赤なラバースーツだった。明らかにそれは、ヒーローしか着る事を許されないヒーロースーツだった。
「俺もヒーローになったんだぜ! ヒーロー名はキャプテン・ラガー! 俺らしくていい名前だろっ!」
「そんな、俺はセンパイ達を助けるためにヒーローになったのに、何で自分からそんな危険なマネを!」
「だからだ」
「えっ?」
「お前一人を危険な目に遭わせたくなかったからだ。
お前がヒーローとしてちゃんと俺達を守ってくれてるのはみんな知ってる。でもな、それはお前に責任を押し付けてることでもある。
だから、俺だけでもお前と一緒に戦いたかったんだ」
その眼差しは真剣だった。いつもはあっけらかんとしている性格の利樹が、その様子が欠片も感じられないほどに。
「……この戦いはスポーツじゃないんですよ。負けたら死ぬ事だってあります。実際に戦いに行って戻ってこなかった同期を何人も見てます。それでも、ですか?」
「当たり前だ。ワンフォーオール・オールフォーワン。お前の戦いは俺の戦い。俺の戦いはお前の戦いなんだ。
俺は、お前とヒーローとして戦う事を決めたから、ヒーローになってるんだ。それだけは、揺るがん!」
こうして数ヶ月遅れて彼の憧れの先輩はヒーローとなった。そして今でも一線級のヒーローとして自分のように戦い続けている。
(そうだ……ワンフォーオール・オールフォーワン。俺はいつでも、みんなと共に!)
そして長い戦いを経て、とうとうサンシャインは辿り着いた。怪人・ヴァンパイアキングのもとへ。
「よくぞここまで辿り着いた、ヒーロー・レッドサンシャインよ。私こそがこの不夜城の主、ヴァンパイアキングだ」
そこは王室を模した部屋で、その奥の玉座に座っているのは深紅のタキシードを着込んだ蝙蝠人間。しかしその体格は一回り大きく、顔もどこか戦闘員達とは違い精悍なものをしている。そしてその隣にはあのリーダー戦闘員が跪いていた。
「さすがですね。王の前へと辿り着くとは。しかしそこまでです」
王は玉座を降りると、靴音を響かせながら少しずつサンシャインのもとへ近づく。一体何を考えているのか彼にはよく分からなかったが、とにかく仕掛けなければ、と思った。
「くらえ! シャインブレット!」
サンシャインは、出会い頭に太陽のエネルギーを固めた拳をヴァンパイアに目掛けて放つ。しかしその拳は王室の空を切る。サンシャインは背中からバサリとマントを翻す音が聞こえることに気がついた。
「下品な男だ。これだから人間という生き物は」
背後にはヴァンパイアがくつくつと笑いながら立っていた。まるでそんな攻撃は歯牙にもかけぬと言わんばかりに余裕の面持ちを見せている。
「黙れ! 地球の平和を脅かす怪人は俺が倒す!」
負けじと渾身の“必殺技”を連発するサンシャイン。戦闘員達との戦いでエネルギーを大分消耗していたが、まだ余力は残っている。だからこそ早期に決着を付けるべく、サンシャインは持てる力を全て出して拳を振り下ろした。しかし……
「単純な拳だ。それが我らを浄化する光の力だとしても、闇を捉えられないのでは、ただの飾りでしかないな」
闇に溶け、宙を跳び、幻影のようにすり抜ける。そんなのらりくらりとした動きにサンシャインの拳はただ空振りするだけだった。
このままでは埒があかない。そう考えたサンシャインは一つの賭けに出る。
(もうサンエナジーは残りわずか……もし、失敗すれば勝てるかどうか分からない。でもっ、諦めることだけは、したくないっ!)
サンシャインは全身にエナジーを込める。それを凝縮し、一帯に放つ彼の大技が今繰り出されようとしていた。
「くらえっ! サンエナジー・フラッシュ!」
その時、サンシャインは光り輝いた。体内に満ちる太陽のエナジーを太陽光として放射する彼の隠し技。これでヴァンパイアの感覚を狂わせ、渾身の一撃を叩き込む。これが彼の最後の策だった。
「なっ、何だこの光は!」
「いけえええええぇ!」
「あがァッ!?」
蝙蝠男の腹部にサンシャインの拳が叩き込まれる。手応えはあった。骨の折れる音も、肉体が壊れていく感覚も、サンシャインの拳に確かに伝わった。
いくら相手が怪人だとしても、この肉体を破壊する感覚は、彼としてはどうも慣れなかったが、平和を脅かす輩に情けは不要とそれを呑み込んで、拳をさらに撃ちこむ。
「はぁ……はぁ……やったか」
目の前には力なく横たわる蝙蝠男の姿があった。とうとうやったんだと脱力するサンシャイン。しかし彼はヴァンパイアとの戦いに集中する中で忘れていた。
「あっ……!?」
この部屋にはもう一人いた事に。
この戦いを傍観していたリーダー戦闘員の存在に。
「よくやったぞ、リジュー」
その声と共に、サンシャインは首筋にひどい熱と痛みを感じた。次に襲ってくるのは、何かを啜る音と何かを吸い取られる感覚。途端にサンシャインの全身からは力が抜け、抵抗の術すら失われる。
「な、なんで」
目の前には確かに怪人の親玉であるヴァンパイア・キングが横たわっている。はずだった。その姿は黒い霧に紛れて変化していく。
彼が倒したのは、王ではなく『リジュー』と呼ばれたリーダー格の戦闘員だったのだ。
その瞬間、今まで決して折れなかったはずのサンシャインの不屈の精神は、ぽっきりと折れてしまった。
「その心は硬ければ硬いほど、一度叩くと簡単に壊れる。ダイヤモンドと同じだ。傷つきはせずとも砕けるのは一瞬というわけだ」
その声を聞いた瞬間、サンシャインはがっくりと膝から崩れ落ちる。全身を襲う未知の感覚に抗う事すらできず、ただただ絶望の底に沈んでいくしかできない――
「だが、まだまだ砕かせてもらうぞ。再構成の下準備のためにな。
目覚めろ、リジューよ。次は貴様が奴に絶望を見せる番だ」
ヴァンパイアはそう笑いながら言うとパチリと指を鳴らす。それはまるでスイッチがオンからオフになったかのような音だった。
「ぐっ、いてぇ……あれ? 俺はどうして……どこだここ……」
それとともに、満身創痍の『リジュー』の様子が変化する。今までの口調はなりをひそめ、声色も違っている。
「確か俺は怪人を倒そうと森に入って……ぐっ、体が動かん、どうして……ぐはっ!」
リジューは黒い血反吐を王室の床にぶち撒ける。サンシャインの渾身の一撃で既に彼は瀕死の状態だった。もう長くはもたないだろう。
そんな時彼は見た。彼がいつも見てきたヒーローの姿を。自分が守りたかった人間を。
「……太陽……お前も、来て……」
「……うそだ……」
その口調は、声色は、確かに持田利樹のものだった。
「どうした……そんなに涙とか、涎とか、流してさ……あー、やべぇ、頭が霞んで何もわかんねえ……」
わけがわからなかった。ヒーローとして、部活動の仲間として切磋琢磨してきた先輩が、どうして戦闘員として自分と敵対したのかが。そして同時に理解した。彼が戦闘員としては明らかに図抜けた戦闘力を持っていたことに。
「奴も、私のコレクションなのだよ。確か二百年ほど前に愚かにもここへ私を倒しにやってきたのでね。その力を見込んで戦闘員のリーダーとして働いてもらっていたのだ」
「に、にひゃく……ねんまえ……?」
サンシャインはさらに理解が及ばない。彼が森林へとやってきたのはついさっきの事のはずだ。それなのに、どうして二百年も経っているのか。
「理解らないのなら、理解させてやろう。この森は私の力で時空を歪めている。だから外の世界とは時間の流れが違うのだ。まあここでは貴様が来てからもう百年程経っているだろうな。外の世界では一、二時間程度のものだろうが」
それを聞いて彼はぞっとした。もしかすると、今まで倒してきた戦闘員の中に、ヒーロー仲間がいたのかもしれない。それを想像した時、サンシャインの精神はさらにぐちゃぐちゃに掻き乱された。
「さて、リジューよ。最期に、ディスペアエナジーを取り込ませてもらおう。今までご苦労だった」
ヴァンパイアはもう一度指を鳴らす。すると倒れていた利樹の体がが空中に浮かぶと、その状態で静止する。
「あっ! 頭がいてぇ! なんか、ヘンなのが流れ込んでくる! 何だこれ! あぁ、ああぁ!」
利樹は頭を抱え悶える。その時頭の中にフラッシュバックしたのは彼との戦いと敗北の記憶、再教育の記憶、そして戦闘員のリーダーとして嘗ての仲間を手に掛けてきた記憶だった。
「うああぁ! そんな! 俺は……私はなんてことを! やめてくださいご主人様! 私のそんな記憶を思い出させないでください! あぁ、どうして、口調が変だ、お許しください、元に戻してください!」
利樹はリジューとしての自我を強制的に引き出され、二つの相反した記憶を反芻させられる。利樹の心の中には仲間を手にかけた罪悪感と主の命令を遂行できなかった無力感がせめぎ合う。その感情を絶望として、主のために提供する。
「私はあなたを赦さない、私はあなたに赦してほしい、ごめんなさい、ごめんなさい、私はご主人様の役に立てなかった、私は、太陽を、守れ、なかっ――」
エナジーを吸収された利樹は、塵となって消滅した。
「あぁ、ああぁぁぁぁぁぁ……」
その時、彼はヒーローではなくなった。
体を纏っていたヒーロースーツが消滅し一糸纏わぬ姿を晒す。
彼の心はただの絶望で満たされていた。最低で、心地よい虚無の無力感が彼の中を侵していく。
そんな彼を見て、ヴァンパイアは衣服を脱ぎ、毛むくじゃらの下半身を晒した。
「さて、我がエナジーを注入してやろう。私の息子として、その一生を私のために捧げよ」
ズルリと粘液を纏いながら飛び出したのは彼の真っ赤な肉棒。ヌラヌラと月明かりに照らされ妖しく光るソレは、すぐさま彼の尻の穴目掛けて差し込まれた。
「あ゛っ! お゛ぉっ!」
グチュグチュと淫猥な音をたてながら出し挿れされる怪人の肉棒。それをただ野太い声で喘ぎながら受け入れるしかない太陽。不快感しかないはずのその感覚を彼は受け入れていた。その証拠に彼の肉棒もギンギンに勃ち上がっているからだ。
「んあっ! んあああああっ!」
甘い叫びと共に太陽の肉棒から大量の精が噴き出る。彼の全てを追い出すかのように白濁液が絶えることなく出続ける。
「ひあっ!」
そのタイミングを見計らってヴァンパイアは本物の吸血鬼のように太陽の首筋に牙を突き立て血液を吸い上げる。その度に、太陽のラグビーで鍛えられた筋肉はまるではじめからそんなものはなかったかのように萎んでいく。
「下品な筋肉など捨ててしまえ。代わりにもっと良いものが手に入るから……なっ!」
ヴァンパイアはより強く腹を太陽の腰にぶつける。肉棒を引き抜くと太陽の尻からは濃い精液が溢れ出てきた。
それと同時に太陽の体が人ならざるものへと変貌していく。耳が尖り上の方へ移動、口からは彼のものと同じ牙が生えてくる。
鼻と口は前へ前へと突き出していき、全身からは柔らかな獣毛が噴き出す。
腕と脇の間から皮膜が生まれると、足の爪も鋭く伸びて土踏まずがなくなる。
あっという間に太陽の体は戦闘員と同じ蝙蝠のものへ変えられてしまっていた。
「ギキッ、オ、オレの、カラだ……」
「さて、再教育の時間だ。身も心も我が子として変わりゆくがよい」
「い、いやダ、助けテ! やメテ!」
こうして太陽の再教育がはじまった。
様々な書物が置いてある部屋に首輪と鎖で繋がれた太陽は、精巣の中に残っている人間としての精を搾り取られながら、怪人としての全てを延々と聞かされた。
太陽の尻の中には固定されたディルドが填められており、数時間毎に彼の奥を突くように設計されている。その度に太陽は精を吐き出して少しずつ怪人へと近づいていく。
敗北したヒーロー達や、利樹もこうして長い年月を経て戦闘員へと“教育”されてしまったのだろうと太陽は思った。そして自分もそうなることも。
「貴様は怪人だ。愚かな人間を駆逐し、この宝石を清らかなものへと戻すのが使命」
「違うっ、俺は人間だ……俺はっ、お前らを倒す、ヒーロー、やっ、やだっ! あっ!」
「貴様は私の息子。そして王の後継者となる者」
「ふざ、けんな……誰が、お前の息子なんかに、うあああああっ!」
太陽は少しずつだが確実に変わっていった。外の世界では数分でも、この世界では何年経過しているかわからない。つまりは、助けはもうやってこないということだ。
快感を感じて射精するたびに、太陽の体は段々と幼くなっていった。手足は短く細くなり、体に脂肪がついて柔らかくなっていく。それと引っ張られて精神も退行してしまった。
「人間は自らの欲しか考えない愚かな生物だ。そうだろう? 息子よ」
「違う、違うよ。人間はそんなんじゃないもん! 僕だって、みんなだってそうだもん!」
「では貴様は思い出せるか? 人間がどれだけ素晴らしいものであったかを」
「当然だろ! ……あれ? なんで!? なんで何も思い出せないの!? 友達は!? お父さんはお母さんは!? 僕の名前は!? 僕ってどうしてここにいたんだっけ?」
かけがえのないものであった記憶ですら、何も覚えていなかった無垢の頃へ巻き戻り、もう何も思い出すことはできなかった。いや、最早そんな記憶は彼の中には“存在していない”のだから。
「友達はこれから用意してやろう。そして父はこの私。貴様の名前は……そうだな。貴様の元の名前に因んで『ジャイン』としようか」
太陽は怪人の息子、ジャインとしての記憶を植え付けられた。ヴァンパイアの宣言と共に射精した瞬間、ジャインの心にはそれが当たり前のように植え付けられた。
「ねえ、お父様。僕はなんでここにいるの? 僕はどうしたらいい?」
今までの反抗的な態度がうってかわってしおらしい臆病なものへと変化する。精神が段々と怪人に相応しいものへと書き換えられていく。
「ジャイン。よく聞きなさい。貴様は人間を駆逐するためにここにいる。そして貴様はこれから立派な怪人となるための教育を受けるのだ。いいね」
それが砥場野太陽の最期の時であった。ジャインの小さな肉棒から精液がぴゅっと飛び出す。その瞬間、ジャインの表情が確かに変わった。
「わかりました、お父様」
それは彼の面影はまったくない、無垢ながら邪悪な笑み。まさに怪人というべき雰囲気を持つものだった。
こうしてヒーロー・レッドサンシャインは、蝙蝠怪人ヴァンパイアプリンス。ジャインとして生まれ変わったのだった。
「ここが貴様の部屋だよジャイン。ここで沢山怪人としての全てを学びなさい。情報ならば人間の脳に全て入っている。私と揃いの服も用意したからね」
「ありがとうございますお父様。僕も立派な怪人になってみせます」
ジャインは王と同じタキシードを着込むと、本棚の無数の本に手をつけ始めた。人間と戦う知識を蓄えるために。
◆
「ヒーロー基地の場所はどこだ? ご、58番地区の……ビルの、早く教えろ。い、いやだ……私は……」
とある僻地の奥で、一体の赤鬼が自らの巨大なものを扱いていた。そして声色を変えながら別々のことを呟いている。
元ブルーフルムーンだった怪人だった。彼は依代の心に蓄積された情報を引き出すために自慰を行なっていたのだった。
「ううむ。少し残しすぎたか? では、魂を少し抜いてやるか。やめろ! これ以上俺が無くなったら……ぬううんっ!」
赤鬼が低い声で唸った瞬間、彼の肉棒から黄ばんだ濃い精液が飛び出る。その中には体の中に残留したフルムーンの魂も含まれていた。
「さあ言え。儂らの地球のために。は、はい……58番地の高層ビルの中にあります。そこから23階奥へ進み、部屋の前でパスワード『164970435245890』と入力して、それから……」
『情報』以外の余計ものを吐き出されたフルムーンは赤鬼に洗いざらい内部情報を報告する。もう彼の中には正義の心もヒーローとしての矜持も存在してはいなかった。
「ご苦労。では、そろそろ全部出してやるか。あぁ、私は、精液となって出ていけ! おおぉう…….」
こうして赤鬼の中に残存していたフルムーンの魂は射精された。その瞬間の喘ぎ声がどちらのものだったのかは、彼にしかわからない。
「怪人赤鬼、第25ヒーロー基地の位置を特定しました。全ての怪人に連絡した後、襲撃準備に移ります」
『ご苦労。お手柄だぞ、赤鬼よ。大量のヒーローを戦闘員に迎え入れたことでこちらの戦力強化及びに相手の戦力減少に繋がった。褒めて遣わす』
「ありがとうございます、我が王」
「オニィー!」
赤鬼は深々と王と呼ばれる声に向かって頭を垂れる。それと同時に怪人基地にもう一人の怪人が入ってきた。
「王、報告があります。私めヴァンパイアキングは、数十名のヒーローが不夜城へと襲撃を図ったため彼らを戦闘員として改造いたしました」
『おお、そうか。ヴァンパイアもよくやった。双方ともに大いなる貢献だ』
「ありがたきお言葉、感謝してもしきれません」
ヴァンパイアも同じように跪く。
ヒーローを堕とした二人の怪人は王の言葉を噛み締め、満足気に笑う。
『では、さらなる働きに期待している。この地球の浄化のために』
「はっ」
そういうと王の気配はぷっつりと途切れた。それと同時に彼を一回り小さくしたような蝙蝠の怪人が姿を現した。
「お父様、もう終わった?」
「ああ。いつか貴様も王に紹介してやろう」
「ありがとうございます、楽しみです」
その青年はまだまだ若く、怪人としてはまだ未熟なところもあったが、その精神性は父であるヴァンパイアにも劣ってはいないだろう。
「おいヴァンパイア。そいつは何だ?」
「赤鬼か。彼は私の息子のジャインだ。私の後継者として教育を続けているところだ」
その言葉に赤鬼は目を丸くして大笑いする。彼は知っているからだ。彼の教育という名の悪趣味な趣味を。
「グハハハハハッ! まさか息子まで作っちまうとは思わなかったぜ! ほんとお前さんは趣味悪いぜ全くよ!」
「お父様を馬鹿にしないでいただきたい。彼は俺にとって最も尊敬すべき存在なのだ。まあ鬼などという下品な輩には分からぬだろうがな」
「馬鹿にしてねェよ、褒めてんだよ。まあよくもそんな従順な息子ってヤツを作れるモンだと感心してたのさ。それにしても……」
そう言うと腰布の下の肉棒を膨らませる赤鬼。この淫乱鬼はまだ若々しく柔軟な蝙蝠の体を犯したくてたまらなかったのだ。
「なーんか、お前見てると興奮してくんだよなァ、初めて会ったはずなのによぉ……」
「奇遇だな。私も、お前に犯されたくて……仕方ない」
そう言うと二人は服を脱ぎ始める。それを見たヴァンパイアはくつくつと笑いながら基地を出る。何故この二人が惹かれ合うのかは大体の想像がついたからだ。
「はっ、はっ、はっ!」
「んっ、くっ、ふうっ!」
この後二人は激しいセックスを行った。それは子作りでも愛情表現でもない。ただ快楽を貪るだけの獣以下の行為。しかし二人はそれでも満足だった。
片方が肉棒を挿れ、片方が中を突かれる。今は使命も征服も忘れて、ただ肉欲に溺れていた。
「あっ、鬼の陰茎、大きいっ、あの時よりも、ずっと気持ち良い!」
「お前すげぇ締め付けだな! だいぶ丁寧に開発されててっ……やべっ、イッ、イッちまうぅ!」
「僕も、もう、ふああぁっ!」
二人が嘗ては正義のために戦っていたとは、もう誰も思いはしないだろう。
『哀れなものだな。偽りの支配者も、概念の傀儡も』
その様子を遥か遠くで観察している者がいた。
“それ“は、宇宙で保護されている青い宝石の不純物を取り除くために派遣された者であった。“それ”は、ニューロンから概念を取り出し実現化させる力を持ち、さらにそれを傀儡人形として操ることができるのだ。
数百年の時をかけて、不純物は全て自らの概念の傀儡人形に取り込まれて全て消滅するであろう。“それ”はその時をただひたすらに虎視眈々と眺め続けていた。
OGREISM HERO――END