NokiMo
Jin(鬼頭ジン)
Jin(鬼頭ジン)

fanbox


メリーバッドクリスマス

今回の作品は過去作である『更生ショー』と同じ世界設定でのお話となります。 FANBOXの方にも『更生ショー』を投稿しましたのでそちらも一緒にお楽しみください。 「おい、金はちゃんと持ってきただろうな?」 「は、はい……」  平和な学校の校舎裏で、一万円札を数枚握りながらビクビクと震えている少年がいた。何故彼はそのような大金を持ちながら震えているのか。それは目の前の生徒に持ってこいと脅されていたからだ。  その生徒の名は仲井勝人(なかい かつひと)。校内では最悪の不良生徒として恐れられている人物で、彼の素行は文字通り最悪の一言であった。 「何見てんだよ!」  少しでも気に入らないことがあれば暴力に訴え、 「先公だからって舐めてんじゃねえぞ!」  彼の行動を注意する教師に対して暴行を働き、 「こんなどうでもいい授業なんて受けてられっかよ」  学校の授業も真面目に参加しない始末。  当然ながら彼は未成年の飲酒や喫煙行為も行っており、何度か万引きで補導も受けた経験もある。  当然ながら地方では要注意人物とて恐れられている悪童であり、今こうして万札を握っている少年も、彼の被害者一人であった。 「三万円か……上出来じゃねーか。高見」 「ねえ……これ以上は無理だから、これで勘弁してくれないかな……」 「バカ言え。もっと持ってくんだよ。お前の親は金持ってんだから財布からパパッと盗ってこいや」 「そんな……これ以上はっ!」  高見の反論を遮るかのように仲井の拳が顔面に飛ぶ。高見の頬は赤く腫れ、目には涙が潤みはじめる。 「うぐ……っ」 「いいか? 最低でも一万円だからな。持ってこなきゃ、どうなるかわかってんだろうな!?」 「っ! ……は、はい…………」  暴力による恐怖と大声による恫喝に脅され、高見は強制的に言う事を聞かざるを得なくなった。教師をも恐れぬ彼にとって“チクリ”など自殺行為に等しいものであったし、何よりさらに攻撃が過激化するのが彼にとっては怖かったのだ。こうして最悪の不良、仲井勝人による被害者がまた増えていくのであった。 「へへ……これでまた……」  いつものように授業を抜け出した仲井が向かった先は、銀行だった。彼は高見から奪った金を入金しに行ったのだ。理由はたった一つ。彼の夢のためだ。 「ただいま」  夕刻。  勝人はブラブラと街を散策して暫く経った後、家へと帰ってきた。彼の家はボロボロのアパートで、家の中も物の少ない閑散としたものであった。  家に帰ってきた勝人が真っ先に向かう場所。それは母・春恵の寝室であった。春恵はいつものように、経年劣化により黄ばんだベッドで浅い息をたてながら横になっていた。 「おかえり、勝人」 「ただいまお母さん。今日も学校楽しかったよ」 「それはよかった……勝人が元気なようで、何よりだよ」  春恵は元気そうに微笑む勝人を見てにこりと微笑む。まるで、彼が地方中の嫌われ者であるかも知らない様子で。  それもそのはず、彼女は息子の本性を知らないのだから。  ――――…… 「そんな! そんな! お母さん……お父さん!」  当時小学五年生だった藤田勝人は見た。宙に浮いている両親の姿を。乱雑な黒で引っ掻き回された紙切れを。  勝人の父であった藤田冬紀は当時莫大な借金を抱えており、その借金返済に困り果てていた。そしてその時期に運悪く妻である春恵の病の発症。そしてとうとうやってきた催促の日。追い詰められた二人は、息子を遺して先に逝く事を選んだ。  12月25日、雪の降るホワイトクリスマス。その日、勝人の何かが壊れる音がした。結果、冬紀は死亡。春恵は運良く一命を取り留めたものの……運悪くそれによる後遺症が残ってしまった。その時によるものなのか、それとも精神的なショックによるものなのかは分からないが、その日から春恵はうまく記憶を保つことができなくなっていた―― 「それよりも、お母さんは大丈夫? 病気、酷くなったりしてない?」 「私は大丈夫よ。それより、ごめんね、ええと、あの……あんた、勝人に迷惑かけて」 「ううん。迷惑なんかじゃないよ。俺にはお母さんさえいてくれれば、それでいいんだから」  勝人は、彼女の前では“善い息子”を演じている。つまらないハリボテの、ぐしゃぐしゃな糸で取り繕った不恰好なアップリケを被って。 「くそっ、あと何万ありゃあいいんだ……」  彼は金を欲していた。数百数千万にもよる額の大金を。  その理由のひとつは家に残った借金の返済。そしてもうひとつは春恵の病気の治療費だ。  彼が生徒から金を奪っていたのもそれが理由である。幸せのために彼は汚いことでもなんでもやると決めていた。当然ながら学校に内緒でアルバイトも行っていた。  彼が不良になったのも、この腐った世界なんてどうでもいいと自暴自棄になったことが大きい。ただ、小学生の頃、自殺した親の子供として酷いいじめを受けていなければ、また彼の未来は変わっていたのかもしれないが。 「畜生……もっと金があれば……」  寝たきりの母を見ていられなかった勝人は、家を出てどこか気晴らしになりそうな場所を探してひたすら歩いていた。明日になればまた退屈な学校が始まる。それがまた彼にとっては憂鬱だった。  ぼやきながら街を歩く勝人。そんな彼の前に現れたのは怪しげなスーツ姿の男だった。 「キミ……仲井勝人君だね?」 「そ、そーだけど……なんだおめぇ」 「聞いたよ。キミ、お金が欲しいんだって?」  男が発したその言葉に勝人は一瞬だけだが反応を示した。そしてすぐに考え直す。そんな美味い話が急に転がり込んでくるわけがない。あまつさえ、自分の名前を知っている赤の他人に――まあ、自分の名前が悪い意味で近所に知れ渡っているのは本人も知っていたからそれ自体はあまり気にしてはいなかったが。 「怪しいな。何が目的だ?」 「いやいや、私は怪しい者ではないです。私はとある番組のプロデューサーでして、その番組に参加する一般の方を探している最中だったのですよ」 「ふーん……」  テレビの人間ならば、確かに自分の名前を調べるなど容易いだろう、と勝人は思う。しかしそれでもそんな簡単に個人情報が入手できるのだろうか? と疑問も感じた。 「それであなたにはその番組に参加していただけたら、と思いまして」 「はぁ? 俺がそんな番組に出るわけねーだろバカか!」 「一億円の賞金が出る……と言っても、ですか?」 「……っ!?」  勝人はぐらっ、ときた。一億円――その数字を聞いた時、勝人は思った。これは天が自分に与えた僥倖だと。  これがたとえ詐欺だとしても構わない。幸せになるためには多少のリスクを取ることも必要だ。と勝人は覚悟した。もし本当に一億が手に入るのならば、家の借金も母親の治療費も簡単に払える。自分達は幸せを手に入れられる。そう思ったからだ。  彼の答えは、一つだった。 「……わかった。出てやるよ」 「それでは、名刺と連絡先をご用意しますので、12月24日に指定の会場に来てください。そちらも後ほどご連絡いたしますので……」  こうして彼はプロデューサーと連絡先を交換してその番組に参加する事を選んだ。  そしてその日が彼、仲井勝人にとっての終わりである事を、彼は知る由もなかった。  ――時は過ぎ、12月24日。とうとう収録の日がやってきた。  勝人は指定された会場へ早めの入場を行うと、スタッフへ軽く挨拶をし、プロデューサーの男の下へと向かった。 「よくぞ来てくれました、仲井勝人くん。収録は今日の夜になりますから、それまでゆっくりしていてくださいね」 「それよりよぉ……」 「何ですか?」 「本当に手に入るのかよ? ……一億」 「……勿論ですとも。  ――あなたが耐え切れば、の話ですけどね」 「……は?」  ゴッ。勝人の頭の中でそんな鈍い音が響いた。何をされたのかわからなかった。ただ、鈍痛とともに闇に飲まれていく意識――そんな勝人が聞き取ったのは、プロデューサーの不気味な笑い声だった。     ◆ 「さて始まりました、本日の『Trans Execution Show』、略してTES! 司会は私、――――がお送りいたします!」  そんな耳をつんざくやかましい声により勝人は目を覚ます。そこは赤と緑に彩られた極彩色の会場だった。  『Trans Execution Show』――そんな聞き慣れぬ番組名に勝人はただ困惑することしかできない。そんな彼を尻目に司会は説明を続ける。 「今回の処刑……もとい、挑戦者は高校二年生の仲井勝人君16歳!  彼は暴力、窃盗、未成年飲酒、恐喝などの犯罪行為を日常的に行っている悪逆非道の青年です!  彼のような害悪的な存在を野放しにしておくわけには、いかないですよねー!?」 「いかなーい!」  確かにその説明は間違ってはいなかったが、もっとましな言い方があるだろう。と勝人は思った。しかし彼の説明はこれだけでは終わらない。 「そんな彼は今全身を縛られて動けない状態……そんな彼が今回行うゲームは、『射精を我慢しまショー』のコーナー!」  その宣言とともに観客から歓声があがる。そこで気がついた。自分が一切の身動きが取れないことに。そして、自分が縛られ磔にされていることに。  それと同時にサァと勝人の顔から血の気が引く。射精、我慢などの散漫的なワードから、大体何をされるか予想がついたからだ。 「『悪人更生でSHOW』の頃から人気のこのコーナー、ルールは簡単。彼のグレフェンベルグ・スポットに取り付けられたアナルバイブを数秒に一度ずつ作動させます。  彼がそれにより百回射精を行わなければ、彼の勝利、彼に賞金の一億円が贈呈されます。  なんと彼は病床の母親のためにお金を稼いでいたそうです。それがカツアゲでなければ立派だったんですけどね〜」 「ははははははは!」  司会の煽りに観客が一斉に笑い出す。その様子を見て血の気の引いていた勝人の頭に一気に血が上る。 「んだと! もっぺん言ってみあうっっ!!」  その瞬間、奥から震えたモノの快感に勝人は素っ頓狂な声をあげる。それと同時にパンツの中にじっとりと温かい液の感触がいっぱいに広がった。 「まさか……」 「おっと、あまりに五月蠅かったのでうっかりバイブを作動してしまいました。いきなり射精してしまったようですよ。この方」 「ふざけん……うっ!?」  司会の声をさらに遮ろうと叫ぼうとするが、その時勝人の体に異変が起きる。 「あああっ、うああ、あうあう、ああうっ」  勝人の頭が不意にガクガクと揺れる。勝人は頭の中が熱いようなくすぐったいような不思議な感覚に捉われた。そしてすぐにバキバキと音がして頭に鈍い痛みを覚える。 「がっ!? あ、あががっ!」 「このバイブにはある魔法がかかっています。それは彼の精巣の中に溜まった精液に、彼を構成するすべての要素を詰め込む魔法です。  それは例えば、人間としての体組織、人格、記憶、そして彼が今身につけている衣服でさえも、精液に変換することができるのです。常連の視聴者様ならお馴染みですね?」 「な、なんだ!? 何が起きた!」 「それを出してしまう。つまり射制してしまうと彼としての要素が排出された精液とともに失われ、それを補うための別のもの――私共がバイブに込めた魔法に沿って彼の全てが変化します。  今回はクリスマススペシャルということで、彼をトナカイに変身させてみたいと思います!」 「な、なっ……!?」  トナカイ――変身――まるでファンタジーのような荒唐無稽な単語に勝人は困惑する。しかしそれは紛れもない現実であった。何故なら今の彼の頭には、立派なトナカイのツノが生えていたから。 「1回目で、彼の頭には角が生えました。これから射精するたびに段々と彼の体はトナカイへと変化していくのです。しかもただのトナカイではなく、トナカイの獣人に、です!」 「……は、はぁあ!?」  獣人。さらにファンタジーじみた単語を口にする司会に勝人の脳は混乱するばかりだった。 「意味わかんねー事言ってんじゃねーぞ! 早く解きやがれ!」 「さあ、この威勢のいい彼は、射精欲を耐え切り、見事母親のために一億円をゲットできるのか!  それでは、TES年末クリスマススペシャル、『射精を我慢しまショー』スタート!」 「スタート!」 「うああぁ!」  観客の掛け声と共に、広々とした会場にバイブの音と勝人の嬌声が鳴り響く。  身体の奥に小刻みに揺れる甘美なリズム。アナルを刺激される感覚は彼にとっては初めてのことだった。何よりただただそういう事をするのが気味悪かったし、絶対にそんなものでイキたくないとも思った。しかし、身体自身はそんな彼の想いとは裏腹に逸物をギンギンに反り立たせ、我慢汁を垂れ流していた。 「ぐおっ……やめろ……あっ、やば、出る出る出る、イクイクイク! あっ!」 「おっと、3回目にして2度目の射精!」  ふたたびパンツを濡らす勝人。すると次はズボンを突き破ってふさふさの栗色の尻尾が飛び出してきた。やはりそれはトナカイのものだった。 「ああっ、やだ! はあうっ!?」 「おおっと、これは痛恨のミス! なんと勝人君、尻尾が生えた快感で射精してしまったようです!  当然これでも変化は進行します」 「そんな……あっ、あがっ!?」  爪先に違和感が走ると、ビキビキと音がして硬質化していく。黒く硬く変化したそれは、一つに収束して割れ目が消えていく。それに伴う痛みで先程味わった快感も消し飛んでしまった。が、勝人はそれをラッキーだと感じた。これで快感はリセットされたのだから。  しかし彼の足は蹄と化してしまった。仲井勝人の肉体は人間からさらにトナカイへと近づいていってしまっている。 「マ……マジで俺、トナカイになってってる……んぐぅっ!?」  再び彼の奥を突くピンク色の快感。下半身から背中を通って脳を貫く言葉にできぬ劣情に勝人はただ悶えることしかできない。しかし、どうにか人間をやめたくない一心で耐え切る。  トナカイになってしまえば、二度と母親に会う事もできないからだ。 「ふむ、これで10回目。なかなか耐えますね。しかし10回毎にバイブのパワーは上がっていきますからね。どこまで耐えられるかが見ものですね」 「なっ……」  そうなのだ。このルールにより均衡を崩し何度も散っていった者たちは数知れず。どれだけ逮捕の恐怖に怯えながらもその日々に耐え切っていた犯罪者でも、段々と強くなるバイブの刺激の前には皆敗北していった。  そして彼も例外ではない。 「あああっ!」  11回目。先程よりも強くなったアナルバイブの刺激は予想以上に彼の中に快感をもたらした。その刺激により勝人の逸物は濃厚な精液を吐き出した。  そして、全身に尻尾と同じ栗色の毛が生えていく。まだらに真っ白な体毛も生えていき、あっという間に彼の全身はトナカイのふさふさな毛で覆われてしまった。 「あっ、はあっ……くひぃ……」 「なかなか良いトナカイになってきましたね。では次、いきます」 「はぁ! や、やめ……んぐっ、ぐぐ……くそぉ……」  12と13のバイブ攻撃を耐える勝人。しかし…… 「あっ、ダメだ! 出ちま、うっ!」  14回目の作動で4度目の射精。その射精により彼の側面に生えていた人間の耳が沈み込むと、頭頂部にトナカイの耳が新たに生えてきた。 「あっ! アガァ!  …………うっ! ぐっ……くはぁっ!!」  その後も射精は続き、5度目の射精で勝人の顔が前へ前へ引き延ばされるように伸びていき、獣の顔へと変貌。トナカイの分厚い舌をだらりと出してしまう。そして6度目の射精の後、パンツの中の逸物に変化が起きる。皮がズル剥けになっていくと、色は真っ赤に、形は尖っていき、人間だった彼の逸物はトナカイらしい獣の逸物へと変わった。しかしトナカイの金玉袋の中にはあいも変わらず人間のDNAがしぶとく泳いでいる。それだけが、唯一残った彼の人間としての名残であった。 「あーあ、18回目にしてとうとう完全にトナカイ獣人になってしまいしましたね。さて、お次に彼が吐き出すのは……“年月”です!」 「”年月”……?」  そのワードにいまいち見当がつかなかった勝人。しかしその疑問は彼の7度目の射精の時――通算21回目のバイブ作動により嫌でもその身に味わわされることとなる。 「あぐっ!? や、やばっ。さっきより、イィーッ!!」  バイブの強さが三段階目に到達する。先程とは比べ物にならないレベルの刺激が彼を一瞬で絶頂に追いやる。バイブの刺激に身体が慣れていたのにも関わらず――いや、慣れていたからこそその刺激を甘んじて受け入れてしまったのだろう。彼の中では知らずにその刺激と絶頂のプロセスが当たり前になってきているのだ。  そして、次の変化がやってきた。 「……なっ!? お……俺の体が!」  射精した瞬間、ピッタリだったはずの服がどんどんブカブカになっていくことにより、勝人は気がついた。司会が言っていた”年月“の意味に。 「やめろ! か、体が……縮んで……!」  勝人の体が段々と縮んでいく――いや、違う。退化しているのだ。彼が子供だった頃の姿へ、トナカイの獣人のまま肉体年齢だけが逆行していっているのだ。 「今から彼を何も知らなかった頃の無垢な子供へと変えていきます! 仲井勝人君は人間の高校生からトナカイ獣人の子供へと人生をやり直すのです!  ちなみにこの変化は射精する回数ではなく質で進行します。吐き出す精液が濃厚であれば濃厚であるほど若返りが進行するのです! 濃いほどその中に年月が詰まっているということですからね!」  年月に濃厚も糞もあるか、と心の中で毒吐く勝人。しかし実際に肉体年齢は中学生の頃まで退化してしまっている。喧嘩のために鍛え上げられていたはずの筋肉もなくなってしまい、栗色の体毛に覆われた平坦な胸板が、緩くなったシャツの間から情けなく主張している。 「あぁ……やめろぉ! こんなっ……こんな……あんっ、があっ…………がはあ……っ!」  25回目の作動で再び射精する。そして若返りはさらに進み、勝人の身体は小学校低学年くらいの頃まで戻ってしまっていた。筋肉はすっかり失われぷにぷにとした脂肪が代わりについている。手足もすっかり細く短くなり可愛らしくぷらぷらと揺れている。  しかし身体が縮んで緩くなったはずの拘束は即座にその身体に沿うように調整され再びがっちりと固定される。子供同然の力にまで戻ってしまった今の勝人では自力で拘束を解くことはもう二度とできなかった。 「俺のぉ、俺の体がぁ……」  声も変声期前の少年の可愛らしいものへと変化し、もはや不良高校生の面影は一切感じられない。ブカブカの服を着た子供のトナカイ獣人がそこにはいた。  しかしまだ番組は終わらない。 「次に変化するのは服ですね。次の射精で、クリスマスに相応しい衣装へと彼の服装が変化します! ちゃんと見ていてくださいね!」  司会の声はもうすでに勝人の耳には届いてはいなかった。急激に変化した体、体を迸る快感、それらが彼の精神をすり減らしていたからだ。もう、今の勝人には、刺激を耐える気力はない―― 「はうっ……」  射精とともに、彼の着ていた服が真っ白な光に覆われると、真っ赤なケープとサンタ帽子になって彼の体をぴったりと覆う。ズボンはハーネスを模したサスペンダー付きの緑色のズボンへと変わり、勝人の姿はサンタの仮装をしたトナカイの子供というものになった。 「あぁ、こんな服、やだ……子供みたいな、ダセェの……元に戻せっ……」  その声には力がない。手足はだらんと揺れ顔は涙と涎でベタベタに濡れている。何度も何度も刺激され続けたアナルだけが次の快感を待ち望み元気にヒクヒクと動く。 「さて……バイブはまだ30回目ですよ? 後の変化は精神面だけです。70回も耐え切れるんですかねぇ? 勝人君?」 「う、うるさいっ、もとはと言えばあいつが……あっ、ああっ!」  バイブの刺激に勝人はあいも変わらずに嬌声をあげる。子供の体になったにもかかわらず性欲は旺盛、袋の中は精液を作り出そうと元気に動く。そしてそれは彼を彼たらしめる要素。それが自ら出ていくために準備を続けている。彼の意思とは裏腹に。 「ダメだっ、これだけは! これは出てっちゃダメなヤツだから……やめろぉ! 俺の中から出ていくなぁ!」  彼の願いは届くことはない。無慈悲に快感に負けて精液を吐き出す。彼の記憶が精液となってズボンの中に撒き散らされた。 「あ……あれ? 俺、なんでこんなとこにいるんだよ! 家に帰してくれ!」 「おやおや、勝人君はここに来た時の記憶を出してしまったようです。おっとー、また射精した! 次は何を忘れてしまったのでしょうか!?」 「ここはどこだ? 今日は何月だ? 何日だ? ……何年だ? これは何だ? 俺は何をして……やあんっ!」 「44回目でまた射精! 心なしか気持ちよさそうな声になっていますね。実際のところどうなんでしょうか、勝人君?」 「勝人? だ、誰だよそいつ? えっと、おれ、おれ? わかんない……ただ……尻の中がきもちいい……」 「自分の名前すらも忘れてしまったようですね。一億円、欲しくなかったんですか?」 「あっ、やっ、ほ、ほしい! お母さんのために、ほしいけど……それより、このお尻の中の取って! きもちいい……おれ、ぼっ、ぼく、きもちよすぎておかしくなっちゃう! 大切なことわすれちゃう!」 「おやおや、そんなかわいい声をあげて、先程の威勢が嘘のようですねぇ」  もうどれだけ射精したかもわからなくなった頃、新調された緑色のズボンは精液でべっとりと濡れそぼり、いつしか口調すらも肉体に引っ張られ幼くなっていた。頭の中の記憶も、小学生の頃程度のものがかろうじて残っている程度なのだろう。友達らしき人物の名前や、当時の担任教師、そして両親のことをぶつぶつと呟いている。 「ぼくは、誰、わかんない。ぼくは、トナカイで、おしりがきもちよくて、ちんちんから白いのがいっぱい出て、それで、お母さんが、病気で、お金、かせがなきゃって、それだけおぼえてて、でも、気持ちよくて、それいがい、ぜんぶわすれちゃって、もうダメっ、“しゃせい”しちゃうっ、ぼくがぜんぶ出ちゃうっ。あっ、頭が痛い……  俺っ、嫌だ! 助けてくれ! 謝るから! 俺がやったこと全部謝って反省するから! だからっ、やっとなんとか戻れたのに、思い出せたのにっ、次出したら、またぼくにもどっちゃう! やだ、また頭のなか白くなって、ガキの頃にもどっちゃう!」 「仲井勝人君。あなたのやったことは善行ではない、詭弁です。どれだけあなたが母親思いだろうが、それ以外にやっていたことはただの犯罪です。だからあなたが許されるには――存在を抹消されるしかないんです」  司会の言葉が急に静かになる。おちゃらけた態度はなりを潜め、どこか冷たい刃のようなものへと変化する。そしてその言葉は、勝人の魂に深く刺さり、そして二度と戻らない決壊を起こした。 「やだ、ふああぁぁあぁああぁんっ!」  ズボンを突き破って大量の精液が会場に降り注ぐ。それは真っ白な雪のようにも、ケーキを彩るクリームのようにも見えた。そしてそれは、彼の人間としてのDNAすべてを抽出した最期の精液でもあった――  ――会場にブザーが鳴り響くと、勝人につけられていた拘束具が外される。勝人はがっくりと首を垂れたまま動かない。ただ「あっ、あっ」と喘ぎながら小刻みに揺れるだけだ。 「挑戦失敗! 仲井勝人君は62回目で全てを出してしまったようです!  では、完全なトナカイ獣人となった新しい勝人君にインタビューしてみましょう。今のお気持ちはどうですか?」  司会はゆっくりと勝人にマイクを握らせると肩を揺さぶりながら優しく話しかける。するとそれに呼応するかのように勝人がたどたどしく喋り出す。 「えっと、ぼくは、トナカイです。なにもおぼえてないけど、きもちよかったからよかったです。あと、びょうきのお母さんがぼくをまっているので、早く会いたいです」 「そうですか……また会えるといいですね。では、本日の『Trans Execution Show』はこれまで。皆様、次の放送でお会いしましょう!」  こうして悪人を抹消する裏社会のテレビ番組は幕を閉じた。こうやって社会にあぶれいつか悪影響を及ぼすであろう悪人を改造する番組を秘密裏に行っているのだ。今回の視聴率もいつも以上に好調であった。  『悪人更生でSHOW』が終了し新たに作られた前作をリニューアルしたこの番組では、以前とは違い悪人を更生はさせず、戒めの存在として家族も友達も存在しないまま社会に放り出す。  そして悪事を働いた罰を永遠に味わわせ続ける。本人の一番大切な記憶だけを残したまま。  仲井勝人だった頃の記憶は殆ど精液と共に排出され消滅したが、母親の仲井春恵に関する記憶だけは残されていた。これは彼唯一の美点であること。そして、もう一つこの記憶を残した理由があった。それは……     ◆ 「いたっ……なにするんだよぅ」 「金返せよ、クソトナカイ」 「今までよくも散々やってくれたな!」 「さっさと路頭でのたれ死ね!」  ここは人間だった頃の彼が通っていた学校。そこで勝人だった名もなきトナカイが拳や石の雨を浴びせられていた。  周りを囲んでいるのは勝人のクラスメイトだった人間、他のクラスの生徒に、教師達。皆勝人の被害に遭った人間達である。  実は、先の番組が放映されたのは裏テレビだけではなかった。彼がいた地方の放送局にのみ限定して『TES』が放送されていたのだ。  理由は勿論、涙を呑んできた彼らに溜飲を下げてもらうためである。そして、彼が今までやってきた悪行のしっぺ返しを身をもって知ってもらうためだ。 「さっさとこの街から出てけ。それなら許してやる」 「いやだよ……ぼく、どうしたらいいかわからないのに……だれかたすけて……」 「ふん、お前はもうトナカイのバケモンであって人間じゃない。つまり人権なんか存在しないんだよ。それにお前には散々な目に遭わされてきた。だから助けてやる義理も住まわせてやる理由もない。わかるよな?」 「そんな……ひどい、ひどいよ……ぼく、どうしたらいいの……」  泣きじゃくるトナカイ少年――勝人へ校庭から石が再び飛んできて勝人の頭に当たる。頭からは真っ赤な血が流れ鼻を汚す。勝人の顔は血と涙でグシャグシャに濡れていた。 「散々酷いことしておいて、自分がやられたら泣くのか? もう覚えてないにしても、自業自得だろ? だからムカつくんだよ!」  そう言いながら生徒の一人がまた石を投げた。その生徒は先日恐喝の被害に遭ったC組の高見だった。 「うう……ひっく……」  もはや何も覚えていない勝人は、罵声と石礫を背中に浴びながら学校を逃げるように去っていく。もう彼がこの場所へ戻ってくることは二度とない――  全てを失った勝人はボロボロの体を引きずりながらただひたすら目的の場所は歩いていく。それは、自分が唯一覚えている所。 「お母さん……まってて……ぼく、かえるから……かんびょうしなくちゃ……ぼくがいなくちゃ……」  人間だった頃の大切な記憶を頼りに大好きな母親がいる家へ向かう。唯一の記憶。唯一の肉親。それだけが彼の希望だったからだ。  しかし、現実は甘くはない。 「あれ……? ここ、どこ……?」  仲井春恵と勝人が住んでいたはずの家は、どこにもなかった。家はもう存在すらせず、まっさらな空き地と化していた。そして、有刺鉄線のバリケードに寂しく張り付けられた看板がポツンと存在感を放っていた。 「し……さえ……?」  知能が下がり漢字もその文字の意味も分からなくなった勝人にはそれがどういう意味を持つのかはわからなかった。ただ、それがとても悲しいことであることはわかった。 「……うぅ、うえーん、えーん! おかあさーん! 会いたいよー!」  たまらずとうとう泣き出してしまった勝人。しかし、いくら泣いてももう母親は帰ってこない。そして二度と会うこともない。春恵がその後どうなったかは、勝人が知らなくて良いことだ。寧ろ、知らない方が良いのだろう。 「うう……」  途方に暮れる勝人は、空き地の近くに何やら赤い箱が落ちているのに気がついた。緑のリボンで包装されたそれは、おそらく誰か宛のプレゼントだろう。 「なんだろう? これ……」  勝人はおそるおそるプレゼント箱の包装を解いて箱を開ける。そこには手紙と共に二つのおもちゃが入っていた。  『哀れな勝人君にこれを贈ります。せいぜい幸せに生きてください』――手紙にはそう書かれていた。  その“おもちゃ“は赤色のオナホールと緑色のディルドだった。それは間違いなく彼のために誂えられたものだ。そして、これをどう使うのかは、何故か勝人はちゃんと知っていた。 「うう……ダメだ。こんなことしちゃ……でも、これを見てるとおしりがうずいちゃう……いますぐこれで、きもちよく、なりたい……」  頭の中によぎるのは、番組内で受けたバイブの刺激。これを、緑のディルドを挿れれば、きっとバイブ程じゃあなくても気持ちよくなれる。オナホを使えばチンチンも気持ちいい。きっと、この悲しみも洗い流してくれる。そう思った瞬間、勝人の体は勝手に動いていた。 「あひっ! ああっ、やっ、ばいっ、きもちっ、きもちいいよぉ! ひゃあん!」  12月25日、クリスマス。  彼の家だった空き地の前で、一人のトナカイが嬉しそうに逸物を扱いていた。  アナルにディルドを挿れ腰を振りながら、オナホールを逸物に挿れ激しく前後させる。  それだけで嬉しい気持ちも悲しい気持ちも快感に溶けて消えていく。この時だけは、何もかも忘れて気持ちよくなれる。  何度も味わった快楽と大切な母親の記憶以外は何も残っていない彼にとって、これは今最大の幸福だった。 「あはっ、んんっ、やばい、さい高っ、きもちいいっ、あんっ、ぼく……ここにこれてよかった! はあぁん!」  家も家族も、自分自身すらも全て失ったにも関わらず、勝人は幸せそうであった。  情けなく顔を歪ませ、鼻水と涎を垂らしながら何度も何度も絶頂し射精する。  それが今の彼にとって一番大切なことで、最高の時間だった。  ちらちらと雪が降ってくる。今日はホワイトクリスマスだ。そう、まるであの時と同じ―― 「あっ、ダメぇ! もう……イクウゥゥゥーーーーーーーッ!」  しかし今度のホワイトクリスマスは、最高に幸せなクリスマスだった。  彼の新たな人生を祝福するかのように、雪にように真っ白な精が夜空に降り注いでいた――  END


Related Creators