NeverEnd RubberBeast
Added 2021-09-05 10:47:46 +0000 UTCギュウギュウと、内で弾力のあるそれが身体を余すことなく押し潰している。キュム、キュムと耳障りな音が動くたびに頭の中に響く。全身からはとてつもない程の快感が襲い、十全に体を動かすことも敵わない。 「どうして……どうしてこんなことに……」 その日、佳司は後悔していた。要らぬ好奇心を持ってしまったこと。こんなものに遭遇してしまった自分の運の無さ――しかしそんな後悔もすぐに消えてしまうだろう。何故なら、彼はもうヒトではなくなるのだから。 ◆ 「じゃあなー」 県立高校の制服、普遍的な手提げ鞄。そんな出立ちの少年がクラスメイトに別れを告げひとり学舎の校門を潜る。 彼の名前は桃上佳司(ももうえけいじ)。今年の四月に高校生になったばかりの普通の少年。彼は学業は平均よりやや下という程度の成績、運動もそこそこ。中学の頃から続けているサッカー部にベンチとして在籍していた。 今日は学校の部活もなく普通に真っ直ぐ家へと帰るはずだった。そう、いつもならば普通に家は帰っていたはずなのだ。 しかし彼は見てしまった。知ってしまった。人間が知ることのない超常の世界を。 「今日はジュースでも買って帰るか」 喉の渇きを感じた佳司は自販機のあるコンビニに寄り道することにしたのだ。財布から硬貨を取り出し炭酸飲料を購入する。ここまでは、何てことのない、一日の風景。しかし、佳司はその時、コンビニの近くの横道から何やら小さな声が聞こえてくるのに気がついた。 「……! ――で、……だ!」 「ん? なんだ……この声?」 かすかに聞こえるその声は、囁いているようにも叫んでいるようにも聞こえた。声の高さから女性か子供のものだと推測することができた。 「……なんだあれ」 建物と建物の間の細い道。犬や猫ならば容易に通れそうなその隙間。佳司がそこを覗いた時にはほとんど何も見えなかった。しかし佳司は確かにこの目で目撃していた。青色の小さな影がヒュンと横切るのを。 「動物……か?」 ここでただの動物だ。と割り切ることができたのならば、どれだけ彼は幸運だったのだろう。しかし、彼は好奇心を持ってしまった。あの動物のようで動物でない不気味な影を怪訝に思ってしまった。それこそが彼の運の尽き。 「行ってみよう」 好奇心は猫を殺すと云うが、殺すのは猫だけではなかった。 ◆ 「……やっぱり、何か声がする」 埃にまみれた通り道を只管に歩いていく佳司。暗くて姿は見えないものの、先程聞こえた声は確かにまだ続いている。その声を頼りに細い道をただ真っ直ぐ進んでいく佳司。いつしか明るい光が佳司の暗闇に慣れた目を突き刺した。出口だ。 「うっ、眩しいっ……」 数分ぶりの太陽の眩しさに目が眩みつつも佳司はゆっくりとその瞼を開く。そこには大きな草原が広がっていた。それはまるで異世界に迷い込んだかのような壮大な景色で、風に運ばれて流れる空気すら美味しいような気がするほどだった。 「なんだここ……あの奥に、こんな場所が?」 辺り一面が緑色の雑草で覆われ右も左も分からない。後ろを向けばさっき通ってきた塀の間に少しだけの隙間がある。ここで諦めて引き返せたのならば、まだ彼には日常へと帰るチャンスがあったかもしれない。しかし彼はそれをしなかった。 「……とりあえず、近くを探してみるか。見つからなかったら帰ればいいんだし」 そう言いながら佳司は草原を探索する。しかし周りは似たような雑草が広がっているためか佳司は今自分がどこへ向かってどこに立っているのか。それすら曖昧になっていった。 「うーん……いないみたいだな……俺の気のせいだったか……」 やがて一通り探索し終えた佳司は探すのを諦め家へ帰ることを決めた。今度は帰り道であるコンクリート塀を探しはじめる。 「確かにいると思ったんだけどなー……」 そう呟きながら草原を歩く佳司。しかし、数分歩いて、彼はあることに気がついた。歩いて、歩いて、ある程度歩き終えた後に、彼は漸く自分の置かれた状況を自覚した。 「……あれ。俺どこ通ってたんだっけ」 帰り道が見当たらないのだ。辺りを見渡しても見えるのは雑草の絨毯。ただそれだけがずっとずっと遠くまで広がっている。そこでやっと彼は理解した。自分が道に迷ったのだと。 「嘘だろ……どうやって帰ればいいんだ……?」 呆然とした佳司はつい手に持っていた鞄を落としてしまう。叢に力無く転がる鞄をただ見つめることしかできなかった。が、しかしその時佳司はあることに気がついた。鞄に入っている、あれを使えば―― 「そうだ、スマホ!」 そうだ。自分には文明の利器があるのだ。そう考えた佳司はすぐさま鞄からスマートフォンを取り出す。スマートフォンを使えば細かい位置の情報も分かるし最悪誰かに電話を掛けて助けて貰えばいい。佳司はそう思いながらスマートフォンを起動した。しかし…… 「どう、して……」 液晶画面のアンテナマークは一本も立っておらず、スマートフォンの左上にはただ『圏外』という二文字が素っ気なく並んでいた。 「国内で圏外なんてありえない! ここは一体どこなんだよ!?」 当然ながらネットも繋がらず、位置情報も確認できない。それどころか誰かに連絡を取ることも敵わない。佳司はとうとう、本当に途方に暮れるしかなくなっていた。 「嘘だ……俺、どうやって帰れば……」 「……キミ、困ってるの?」 その時だ。どこからともなく、佳司を呼ぶ声がしたのは。 その声はどこかあどけない口ぶりで、なおかつ変声期前の甲高いものであった。感じからして、その声の持ち主は年端もいかぬ子供であることがわかった。 しかし、“それ”はただの子供ではない。 「誰かいるのか!? だったら道を……は?」 「困ってるなら、ボクと遊ぼうよ」 つるつるの青い肌をした、獣の仔だった。 「ボクはフォール。よろしくね」 フォールと名乗った子供の獣は、屈託のない笑顔で佳司に詰め寄った。しかし当人の反応といえば、ただ困惑し沈黙するだけだった。 「……なんだこれ? 俺は夢でも見てんのか? こんなマンガの中に出てきそうなやつが、俺の目の前に?」 フォールは、一言で表すならばオオカミのような姿をしていた。衣服のようなものは別段身につけておらず、その代わりなのか背中には黄色いマントが巻かれている。 当然といえば当然ではあるが。二足で立ち歩行してなおかつヒトの言葉を話す動物なんて架空の世界でもないこの世には存在しないはずの生き物なのだから。しかし実際にその存在が佳司の目の前に立っている。佳司はこれを夢だと思わなければ今もなお遠のきつつある意識を保つことはできなかった。 「なに言ってるかよくわかんないけど……ボクはいつの間にか生まれてきて、いつの間にかここにいたんだ。それだけは覚えてるよ。キミもそうなの?」 フォールは屈託のない笑みを浮かべてそう言う。どうやら彼は記憶というものがほぼ存在していないらしい。それでも彼があっけらかんとしていられるのは、彼自身の性格によるものなのか、それとも人格を形成するのに必要な記憶が存在していないからなのか。それは分からなかった。 「俺は……桃上佳司。ただの高校生だ。記憶も、ちゃんとある」 「コウコウセイ……うーん、よく分かんないや。とりあえずよろしく! ケイジ君!」 フォールが右手を差し出す。どうやら握手がしたいらしい。どうすればいいか分からなかったので、とりあえず佳司も右手を差し出した。 「よろしく……んっ!?」 ギュッと佳司の手とフォールの手がしっかりと握られる。その時佳司は無意識に声を出してしまう。右手に奇妙な感触がしたからだ。それは間違いなくフォールの手のものだ。手の大きさと比較してやけに大きな肉球の感触もそうだったのだが、特に気になったのはその皮膚である。獣毛でもなく皮膚でもない――一番近いものを例にするならば、ゴムだ。そう、まさしく彼の手はゴムのようであった。 (なんだこりゃ……気持ち悪ぃ) その感触を感じた途端、佳司は握手をしてきた目の前のケモノがさらに不気味なモノに思えてきた。佳司の奥底に眠る第六感が、『こいつは、やばい』と警告してきているように思えた。 「なんだこいつ……逃げっ……!?」 反射的に体が逆の方を向く。踵を返し、目の前の獣を置き去りにする勢いで、佳司は緑色の草原を走り出す――ことはできなかった。 「どうしたの? ボクと遊ぶんじゃ、なかったの?」 フォールが、先程まで浮かべていた笑顔のまま、佳司に抱きついていた。やはりそいつの体はゴムのような質感で、佳司の体と擦れるたびにキュム、キュムと耳障りな音がする。 『もう離さない』、『ずっとここにいよう』。同じような笑顔の筈なのに、フォールの瞳はそう訴えているように見えた。佳司はそれがたまらなく恐ろしかった。 「ちょっ、何してんだ、離せよ!」 「そんなこと言わないで、ボクとお話ししようよ」 死んでも離すまいといわんばかりに佳司の体を強く抱きしめているフォール。そんな彼から発せられる声はばかに明るいはずなのに、どこか空虚さが感じられた。 「い、嫌だっ! 俺は、家に帰りたいんだ!」 必死にゴムのケモノの抱擁を振り解こうと体をめちゃくちゃに暴れさせるも、ケモノはバケモノのような力で佳司を掴んで離さない。 「助けて! 助けて、誰か!」 いくら大声で助けを呼んでも、人っ子一人現れる気配はない。いつしか笑いながら佳司に抱きついていたフォールも、彼の行動に不快感を表したのか、段々と表情が強張っていく。それに比例して佳司を抱きしめている腕の力が強くなっていく。そしてフォールはこう独り言ちた。 「そうなんだ。キミはボクのことが嫌いなんだね」 それは先程の朗らかさが嘘だったかのように冷たく無機質な声で、その言葉を発した瞬間、あれ程強く抱きしめていた佳司を、飽きてしまった玩具の如く放り投げる。佳司は叢に顔から落ちて額に擦り傷を作った。 「いてっ! ……なんだ急に!」 「……それなら、ボクが、キミを『トモダチ』にしてあげる」 フォールはそう言いながら背中には羽織っていたマントを外し目の前に広げる。それは布でできた黄色いマント――ではなかった。フォールが身につけていたそれは、マントのように見えていたがマントではない。それは、黄色くて、つやつやで、耳が生えていて、尻尾があって、まるで、動物のような―― 「……着ぐるみ?」 それは、着ぐるみだった。フォールの身体と同じようなゴムでできた動物を模した着ぐるみ。まるで、フォールの皮をそのまま剥いで造られたかのような―― 「これは、ボクが生まれた時からずっと一緒にいた『トモダチ』さ。ボクは記憶がないけれど、これだけは憶えてる」 フォールは、着ぐるみを持ちながらゆっくりと佳司に近付いていく。様子の変わったフォールに気圧された佳司は、動くことができない。そしてそのまま―― 「こうすれば、『トモダチ』を作れるって」 その着ぐるみを、佳司に向かって被せた。 「なっ……うわあああぁああぁ!?」 その着ぐるみは、まるで命を吹き込まれたかのようにひとりでに動き出し佳司を襲う。手足の部分が佳司の手足に重なるように覆い始め、侵食する。その瞬間、佳司は自分の手足の感覚がひんやりとしたゴムのようになるのを感じた。グニャグニャと柔らかく、弾力のある感触。冷たくて心地の良い感覚。しかしまるでそこだけが作り物になってしまったかのように固まって動かなくなってしまった。 まるで柔らかな牢獄に手足だけが入れられてしまったような――佳司はそんな感覚を味わっていた。 「手が……動かない。や、やだっ! やめろ!」 身動きが取れないと悟るや否やパニックを引き起こし大声を出して暴れ出す佳司。しかし、着ぐるみの侵食は順調に続いていく。手の部分は腕へ、足の部分は下半身へと柔らかなゴムが佳司の肉体を侵略していき、いつしか首から下は完全にフォールと似たケモノの姿と化してしまった。 「お、俺の体が……こんなの嫌だ……元に戻せぇ……」 「可愛くなったね、ケイジ君」 着ぐるみを着せられた首から下の部分は、まるで拘束具に掛けられたように動かすことができず、佳司はただ涙を流して懇願するしかなかった。そんな佳司を見てフォールはにこりと微笑む。 全身ゴムに覆われた佳司の体は、ゴムの着ぐるみに押し潰されてギュウギュウと刺激される。その度に佳司は言葉にできぬ心地良さを感じてしまう。ひんやりとしたゴムは体を舐めるように纏わり付き佳司を快楽の世界へ誘う。 「んっ……くっ、ふぅ……」 「気持ちいいの?」 「んふぅ!」 フォールが佳司の腹部をなぞるように触る。その瞬間、佳司は快感でついいやらしい声をあげてしまう。分厚いゴムに覆われているはずなのに、その感覚は鋭敏に佳司の脳に伝わってくる。着ぐるみを着ているはずなのに、それが自分の肌であるかのように感じる。人間には存在していないはずの尻尾でさえ、今の佳司にはそれが本当に着いているかのように感じていた。 「じゃあ、さっそく遊ぼうか。立って、“ゾフ”」 「んっ……ああっ!?」 フォールがそう口にした瞬間、指ひとつ動かせなかった筈の佳司の体が急に動き出した。しかしそれは佳司の意思のものではない。まるで身体だけが別々に意思を持ったかのようにひとりでに動いたのだ。 勢いよく寝転がっていた体を起こすと両手を下ろして直立の体勢を取る。 「ゾフ……ゾフってなんだ。俺の体は、一体どうなっちまったんだ!?」 「ゾフは、ボクのトモダチの名前だよ。そして、キミの新しい名前。そっちの方が可愛いでしょ?」 「ふざけんな! 俺には桃上佳司って立派な名前が……!」 「うるさいな」 「んぐぅ!」 着ぐるみのつるりとした股間を、フォールが指でつつ――となぞる。その瞬間、佳司の脳に強烈な火花が散った。全身を襲う甘い刺激に佳司は今まで出したことがないような声で喘いだ。 「どうやらキミはボクとトモダチになりたくないようだし……ゾフと代わってよ。ゾフもキミのカラダが欲しいみたいだしね」 「そんな……い、嫌だ! やめろ化け物! 俺はっ! ああんっ! …………なんだこれ……」 再び強い快感を感じ喘ぐ佳司。その瞬間、股間から勢いよく何かが飛び出してきた。佳司が感じた快感の正体はそれだった。それは、着ぐるみと同じくゴムでできた真っ赤で細長い――獣のペニスだった。根元には風船のような瘤が付いている。 「ああ、可愛い……ゾフも、興奮してるんだ……ボクもだよ……」 それに呼応されたのか、フォールも股間から佳司と同じような赤くて細長いペニスを露出させる。一体どこから現れたのかは分からないが、それは確かにフォールの股間に聳え立っていた。 「一体それを……ど、どうする……」 「あ、まだ首から上はケイジのままだったね。そろそろキミの顔ともお別れしないとね」 そう言うと、徐にフォールは着ぐるみを唯一佳司のままだった頭に被せる。顔にゴムが纏わりつく感覚に佳司は思わず叫んだ。 「やめっ……うあああああぁ!」 むせかえるゴムの匂いに包まれて、佳司の顔は着ぐるみに合わせて変わっていく。耳は上にピンと立って、口はケモノのそれへと切り替わる。 「んっ……んんん……うっ、んむぅ……ア、オ、オレ、ハ……アガッ……」 着ぐるみを被せられた初めはくぐもった声しか出せなかったが、しばらくすると、完全に定着したのか佳司は新しい顔に合わせて喋ることができるようになる。しかしそれは佳司の人間との別れを意味していた。 「こんな……ことって……」 声帯も変わったのか、発せられる声も声変わり前の子供のような甲高いものへと変わり果てていた。 「こんな体じゃ、もう家へ帰れない……」 ふと手のひらを見るとケモノの手に有り余るような大きな肉球があった。それもおそらくゴムでできているのだろう。大きな尻尾につるつるの黄色い体。今の彼を誰かが見れば、きっと彼のことをある動物で言い表すだろう。 「これ、キツネか……? 俺は、キツネになったのか……? 誰か教えてくれよ……」 今の佳司は、愛くるしい容姿のゴムキツネとなっていた。目の前のゴムオオカミとそっくりなその姿は、彼があのケモノと同じモノになったのだと証明していた。 「どうして……どうしてこんなことに……」 中ではギュウギュウと圧迫するようにゴムが佳司の体を圧縮している。その中ではしっかりと佳司本来の体の感覚を感じることができる。しかしそれ以上に着ぐるみであるケモノの感覚がよりダイレクトに伝わり、人間としての、『中身』としての感覚を掻き消してしまう。佳司は今、着ぐるみと人間、両方の感覚を同時に味わっていた。 佳司は心の中で(どうしてこんなことになってしまったんだ)と後悔していた。しかしその後悔ももはや意味はない。 なぜなら彼は、もうヒトではなくなるのだから。 「それっ」 「きゃうっ!?」 その時、佳司は尻の部分に何やら異物感を感じ、無意識に甘い声をあげていた。尻の穴に何かを突っ込まれたかのような感覚。その感覚は全身に行き渡り佳司に未知の快楽を与える。 佳司はこのようなモノは挿れられたことは一度もなかった。しかしゴム製の尻穴は何度も慣らされたかのようにすんなりとフォールのペニスを受け入れていた。 「ふっ! ……ふっ!」 「あっ、うあっ! あんっ!」 フォールがヘコヘコと腰を前後する度にキュキュキュとゴムが擦れる音がする。一度フォールが佳司の奥を突くたび、佳司は可愛らしい喘ぎ声をあげる。 「あっあっ! ダ、ダメッ! やめて! 何だっ、これっ、すげぇ……気持ちいい、ああん!」 佳司は必死に抵抗しようとするも、自由に動かせない身体と間髪入れず襲ってくる快感のせいでただフォールのなすがままよがることしかできなかった。 佳司の快感のボルテージが上昇していく度に、佳司のペニスはビクビクと小刻みに震え彼としての最期の時間を早めていく。 「あっ……イク! ボク、そろそろ……はあっ!」 最初に絶頂を迎えたのはフォールだった。声をあげたのと同時に佳司の中に盛大に射精する。ただしフォールのそれは精子であって精子ではなかった。全身がゴムでできているフォールは、精子までゴムでできていたからだ。フォールと同じ青い色をしたラバー状の液体が佳司の体内に隅々まで行き渡っていく。フォールの着ぐるみの体はそれを栄養源として生きるのだが、この時はまだ佳司にはただの異物でしかなかった。しかしそれは異物から栄養へと置換され、代わりに別の『モノ』を異物と判断して排出する準備にかかる。 「ああ……あっ! ダメッ! やめて、出る! 俺の何かが、出てイクゥ! あああっ!」 ラバー精液を入れられたと同時に佳司も絶頂を迎えていた。まるで押し出されたトコロテンのように、佳司のペニスからもドバドバと大量の精液が噴き出す。そしてそれは正真正銘、本物の精液だった。色も匂いも人間の出すそれと全く同じ――しかし量は人間が一度の絶頂で排出する量の何十倍もあった。 「やっ、やだ! なにこれ! おっ、おれの、おれのせいし、すごいでてる! やめて、とめてぇ!」 睾丸の中に溜まっている人間の精液を一滴残らず搾り尽くすかのように絶えず出続ける佳司の精液。その度に佳司の体からはある感覚が消えていった。それは、着ぐるみの中に入っていた筈の自分本来の肉体の感覚。射精する回数に比例してゴムに包まれる感覚は少しずつ消え、残るのは着ぐるみとしての感覚のみになっていった。 そう。この精液は彼の人間そのものなのだ。彼の人間としての肉体を材料として、この精液は作られているのだった。彼がペニスから人間の精液を出せば出すほど彼の人間は体からいなくなってしまう。つまりは、完全に着ぐるみそのものになってしまう。ということだった。 「はぁ……はぁ……」 射精が止まる頃には佳司の体はすっかり軽くなっていた。まるでいらない垢が全部落ちたかのように。あれだけ動かそうとして動かせなかった体も、自由に動かせるようになっている。しかし―― 「ゴムの感覚、もうしない……俺、完全に着ぐるみに……」 佳司は完全にキツネの着ぐるみとなっていた。それが本来の身体であるかのように自由に動かすことができる。それは尻尾も同様で、本人の意思で容易に振り回すことができた。 「やっ……やだっ!」 混乱した佳司は、何やら地面を必死に掻き出していた。まるで動物が穴を掘るかのように必死に草の間を掻き分けて自分の大切なものを手に入れようとしていた。 「やだ、だめ! 俺の人間、消えちゃう! 俺の人間、消さないで!」 彼が探しているものは地面に吸い込まれていく自分の精液だった。自分を取り戻したい一心で、無数に生えている草を抜き次々と土の栄養になっていく『佳司だったモノ』を掬い出そうとするも、それも虚しく精液はみるみるうちに消えていく―― しばらくして、打つ手を失った佳司は、ただ地面にへたり込みながら呆けていた。もうどうすることもできない。このままケモノとして生きていくしかない。そう思うと涙が止まらなかった。 そんな彼を見て事の張本人であるフォールはにこやかに微笑む。しかしそれは佳司に向けたものではない。彼の『トモダチ』に向けた言葉であった。 「大丈夫。すぐに楽になるよ。 キミはボクの新しい『トモダチ』として産まれ代わるんだから」 「あうっ!!」 そう言いながらフォールは未だに勃起を続けている佳司のペニスをぴんと指で弾く。それだけで彼のペニスはビクンと跳ね、快感をもたらす。 「もっと気持ちよくなる方法、教えてあげる。 その肉球で、そのチンチンを触ってごらん。きっと、気にいると思うよ。ゾフ」 「にくきゅう……? ちんちん……?」 ふと佳司は手のひらを見る。そこにはぷにぷにとした大きな肉球。そして、股座には未だ興奮冷めやらぬペニスが屹立している。佳司は、ケモノの誘惑に絆されて、言われるがままその肉球をペニスに押し付けた。 「ああっ!」 柔らかなゴムの感触がペニスを包み込む。その時の快感は先程の性行為とはまた違った良さがあり、佳司を肉球オナニーの虜にさせるには充分だった。 「あっ、ふうっ! これ、やばいっ、ダッ、ダメなのに……これ以上は、ダメなのに! 止まらない! 肉球……気持ちいいいぃっ!」 絶頂と同時に再びペニスから精液を吐き出す佳司。しかし次の射精は先程のものとは違う射精だった。 「はあっ、はあっ……これ、精子じゃない……なにこれ、ゴム……?」 フォールと同じような、ラバー状の液体が精液の代わりに佳司のペニスから吹き出したのだ。それはベトベトで熱を帯びて――まるで熱で溶け出したゴムのようだ。その色はフォールのものとは違いピンクの蛍光色で、今の佳司の精神状態を表すかのようだった。 「いらないものは、全部出そうね。そして、キミは産まれ代わるんだ」 「お、おれは……いらないものを……だす…… いらないもの、だして……うまれかわる……」 フォールの言葉に呼応して佳司はぶつぶつとうわ言を呟く。まるでフォールの言いなりになっているかのように、フォールの口にした言葉を反芻して同じように口にする。 「キミの名前は、ゾフ。ボクのトモダチ。人間は、キミにはいらない。キミには、ボクさえいればいい」 「おれは、ゾフ。きみの、ともだち。ニンゲンは、おれにはいらない。おれには、きみさえいればいい」 肉球を擦り付ける度に、ピクピクとペニスが震えピンク色のラバーザーメンを吐き出す。そしてその液体は、蠢き、密集し、新たな形を作っていく。まるで新たな存在に生まれ変わるかのように。 「おれはだれ。おれはゾフ。おれはニンゲン。ちがう、おれはケモノ。おれは、ナカマをふやす。おれは、トモダチをふやす。おれは、フォールのトモダチ。フォールは、おれのトモダチ。 おれは、ゾフ。キツネの、ケモノ。キグルミ、つくって、キグルミ、ふやして。ナカマを、ふやす。おれは、ゾフ。オレは、ゾフ! オレは、ゾフだ!!」 そう高らかに宣言した瞬間、今までの中で一番の量の精液が“ゾフ”のペニスから吐き出された。こうして桃上佳司は、新たな着ぐるみのケモノ、キツネのゾフとして生まれ変わった。 「ありがとな、フォール。オレをトモダチにしてくれて」 「うん、これからよろしくね、ゾフ!」 こうして二人は再び握手を交わした。今度は見知らぬ他人ではなく、大切なトモダチとして。 そしてそんな彼らの足元では、ゾフの出したピンク色のラバーが蠢き新たなモノに変化を遂げる。それは、ウサギを模した薄いゴムの着ぐるみだった。あの時、フォールが佳司に被せたものとそっくりだった。 「おや、新しいトモダチが出来たみたいだね。じゃあ、それはゾフにあげるよ」 「おう、ありがとなフォール」 ゾフは手渡されたウサギの着ぐるみをマントのように背中に羽織ると、フォールと二人仲良く手を繋ぎながら草原を歩いていった―― ◆ それから数ヶ月の時が過ぎて―― 『――月に行方不明になった◯◯県在住の学生、桃上佳司君の所在は、未だ掴めておらず、目撃情報の調査を引き続き――』 「あっ、この子よ、近くで行方不明になったって子」 「誘拐? それとも家出? どちらにしろ、可哀想だよね……」 行方不明となった佳司は世間では失踪事件として今でも取り上げられている。メディアでは様々な憶測が出されているが、まさか彼が着ぐるみのような姿をした生き物に変えられてしまったなど誰も想像はしないだろう。 そして、そんな人々の影をすり抜けるかのように、未知なる生物が今日も生きている。そう、あの桃上佳司だったケモノも―― ――あれ。 ここ、どこだろう。 ぼくは、だれ? ぼくは、どこからうまれて、どこにいくんだろう? きみは、だれ? 「大丈夫だ、ティバル」 だいじょうぶ? 「オマエも、すぐに産まれ代わらせてやるからな」 うまれかわる? てぃばる? そこにいるひとは、だれ? なんだか、こまっているみたい。 「やめろ……んなモン近づけんじゃねぇ! このバケモン!」 ばけもん? ちがう。 ぼくは、てぃばる。 このこをぶじょくしないで。 「あああぁああああぁぁ!」 あれ。からだができた。 からだって、こんなにいいものなんだ。 てがうごく、あしがうごく。 たのしい。 「あぁ……俺の手が勝手に……元に戻せ!」 「元に戻すわけないだろ。オマエは今日からティバルになるんだよ」 「ティバル……!?」 「そう、オレのトモダチだ」 トモダチ? そうか。ぼくは、このことトモダチになるためにうまれてきたんだ。 それにこのこからは、なにかなつかしいにおいがする。 まるで、かぞくや、きょうだいのような…… どうしてだろう。 とても、うれしい―― 「へへ……オレのチンポもギンギンになってる……早くティバルと会いたくてたまらないんだ……」 「や……やめろ……」 「待ってろよ、ティバル」 「やめろおおおおおおおぉぉぉ!」 ――もうすぐ、トモダチになれるね。 END