back>女捜査官さなえ編 その4 刑罰
郊外の廃墟が佇むエリア、街灯は一切点いておらず、人気のない薄暗い道路を一人の女捜査官がバイクを走らせていた。
遠くのパトカーのサイレンや、行き交う車の音が微かに聞こえる中、
彼女は全身に緊張感を漂わせながらも冷静な目で周囲を警戒していた。
静かに路地裏を進んでいくと、目の前に大きくそびえる廃工場が現れる。
この廃工場は、最近の調査で犯罪組織「黒蛇会」のアジトとして浮上した場所だ。
黒蛇会は、ドラッグ取引や人身売買を行う冷酷な組織であり、何年もの間、警察の手から逃れ続けていたが、
先日逮捕した凶悪犯の龍堂が「黒蛇会」のアジトに関する情報を持っていたので、やっと組織の尻尾が一つ掴めたのであった。
数々の悪党を懲らしめてきた女捜査官のさなえは今回も犯罪組織を追っていた。
さなえは、そのリーダーである謎の男「黒蛇」を追って、この廃工場に辿り着いた。
「情報通りならここね…今日こそ手がかりは掴めるかしら…」
さなえは自分にそう言い聞かせ、静かに廃工場の扉に手をかけた。
鍵は掛かっておらずズルズルと音を立てて扉が開いた。
廃工場の中を進むと、長い通路が広がっており大きな部屋と繋がっている。
工場の屋根は半壊しており、今にも崩れ落ちそうな天井を錆びた鉄骨の柱が支えていた。
色々と錆びついているものの見た目よりも廃工場は頑丈な作りになっているようだ。
「内部は半壊しているけど、通路に廃棄物が一切転がってないわね…最近までここが使われていた形跡があるわ…」
壁や屋根には劣化が見られるが、床は不自然に綺麗に清掃されており、直前まで何か作業をしていたような形跡が残されていた。
しかし、工場内は閑散としており人の気配をまったく感じなかった。
無駄足と感じて引き返そうとしたその時、通路の奥から男の声が聞こえてきた。
「残念だが、ここにはもう誰もいないぜ…俺以外はな!」
さなえが周囲を観察していると、大部屋の方から一人の男がゆっくりと現れた。
龍堂と同じくらいの大柄な男が、静かに遠くから歩いて向かってくる。
「お前が例の女捜査官か…龍堂が世話になったようじゃねぇか…」
「あら?この前の凶悪犯の知り合い?凶悪犯は体の大きいお友達が好きなのね」
男が壁にあるスイッチを押すと、工場にチカチカと小さい光が灯り始める。
電気がまだ通っているという事は、最近までこの工場が使われていたのは間違いないようだ。
「俺は片岡ってもんだ。お前がここに来るよう仕向けたのは俺だ。」
さなえを待っていたのは片岡という男だ。話し方からして立場は龍堂の兄貴分といったところだろうか。
しかし、周りに仲間はおらず、片岡一人で待ち受けていた事からも「黒蛇会」のアジトはもうここにはないのだろう。
「一人でお出迎えなんて珍しいわね。礼儀正しい人は嫌いじゃないわよ…ふふ」
「単独行動の女捜査官に多勢で襲いかかる必要はない。俺一人で十分だ。それに子分の不手際のけじめをつける俺にもプライドはあるんでね!」
片岡が喋り終わると周りが一段と暗く、静かになるような雰囲気が漂った。
この場の空気が一変すると、二人はお互いの間合いを取りながら距離を取る。
「いくぞ!!!ウラアアアア!」
(早い!!)
さなえが後ずさりしたところにすかさず片岡は素早く蹴りを放った。
ズドォ!!
さなえは片岡のミドルキックを寸前でかわすが、片岡の蹴りがそのまま廃工場の壁に大きな穴を空ける。
廃工場とはいえ、分厚い壁に大きな穴を空けるほどのキック力は相当のものだ。
「不意打ちとはいえ一瞬で壁に穴を空ける威力…中々やるわね…」
龍堂と同じような力任せで攻撃するタイプに見えるがその破壊力は龍堂以上であった。
まともに攻撃を受ければさなえも一溜まりもないであろう。
「女の力じゃこんな力は出せないだろ?舎弟の仇を取らせてもらうぜ!」
「ウラアアアア!」
ズドォ!!ズドォ!!ズドォ!!
さなえは、何とか片岡のかわし続けるが片岡の隙のない攻撃に防戦一方であった。
「オラァ!どうしたぁ!龍堂を倒したってのは嘘なのかぁ?」
ズドォ!!ズドォ!!ズドォ!!
さなえは必死に耐えながら何とか反撃の糸口を探していた。
しかし片岡の隙のない攻撃に反撃どころか回避するので精一杯であった。
(くっ……隙がないわ…このままじゃまずいわね)
ズドォ!ズドォ!ズドォ!!
さなえが防戦一方になっていると、片岡が突然攻撃を止めた。
片岡は廃工場の壁に近づき、何やら物色し始める
片岡は壁についていた鉄パイプを取り外すと右手に持ってブンブン振り回す。
「逃げてばかりじゃつまらんな姉ちゃん。悪いが素手で戦うつもりはねーぞ。」
「あらあら、痺れを切らして素手の女相手に武器を使うのね…恥ずかしくないの?…クスクス」
相手に武器を持たれて明らかに不利な状況となっているのにも関わらず、さなえは挑発を繰り返す。
「うるせぇ!龍堂の仇だ!しねやあああああ!」
ブォーン!!ガンガン!ガンガン!ガンガン!ガンガン!
片岡がさなえに向けて鉄パイプを振り回す。
工場の壁にガンガンとパイプを当てながら少しずつさなえを通路の奥まで追い詰めていく。
ガンガン!ガンガン!ガンガン!ガンガン!
やがて、逃げ道が無くなると鉄パイプがさなえの腕を掠めた。
その反動で、さなえはバランスを崩した。
「きゃあ!や、やめて!!」
気づくとさなえは通路の角に追い込まれてしまった。
完全に逃げ道が塞がれると片岡は力いっぱい鉄パイプをさなえに目掛けて振り落とした。
「これで終わりだ!!!しねええええ!!!!」
ガツン!!!!!!!!!!!!!
さなえは咄嗟にしゃがむと、片岡が振るった鉄パイプが壁の亀裂に挟まった。
「な!?動けな…」
さなえは角に逃げ込み、追い込まれた振りをして、片岡の攻撃の隙を狙っていたのだ。
片岡は慌てて挟まった鉄パイプを取り外そうとするが、さなえはその隙を見逃さなかった。
「ふふ!かかったわね!…でやぁ!」
ドンッ!
さなえはハイキックで片岡の顎を蹴り上げると片岡はたまらず尻餅をついた。
片岡は激しい脳震盪を起こして体が硬直する。
「目の前がグルングルンするでしょ?そんな力いっぱい振り回すから大きな隙が生まれるのよ!パイプを使ったのが運の尽きよ。」
さなえは、そのまま地面に押し倒すように体重をかけて片岡の体に乗り、鉄パイプを奪い取って投げ捨てる。
「あなた、脚技に自信があるようね…それなら…私の脚技も受けてみる?」
そう言うと、さなえは片岡の頭部に移動して素早く両足を交差する。
首にスルスルと一瞬だけ網タイツの感触が覆うとギュッ!と擦れる音と共に
片岡の首を絞り上げる。
「…食らいなさい…必殺、首4の字!!」
ぐええっ…!!!
ちょうどライトの下に倒れ込むと、さなえの網タイツとロングブーツが光に反射して小さく輝く、床に溜まっていた粉塵も弾け飛び空中にゆらゆら舞って両者に降り注ぐ。
「ほら!逃さないわよ!!さっきのお返し!もっと攻めるわよ!」
ぎゅううううううううううううう!
片岡は苦しさのあまりジタバタ暴れる。工場内はドンドン!と床を叩く大きな音が響くがここにはさなえと片岡の二人しかいなかった。
「ふふ、どう?苦しいかしら?あなたが力任せなら私はテクニカルな脚技ってところかしら?」
片岡はさなえのロングブーツに手をかけて何とかして外そうとするが、さなえは両足を深く食い込ませて首を強烈に絞め上げた。
ぐへっ!!!ぐぐぐうぐぐぐうう!
「あなたの力と私のテクニック…どちらが上か試してみる?」
ぎゅうううううううううううううううううううううううううう!!!
うぐぅうううううううううううおおおおお!
片岡は力任せにさなえの両足を開こうとするがそうはさせまいとさなえもしがみついて首を絞める。
ぎゅううううううううううううううううううううううう!
うぐぐぐぐぐぐううういいい!!!!! ふぐううぅうう!!
さなえのロングブーツは勢いよく回転して片岡の首を絞めた。
片岡は懸命に耐えてさなえの首4の字固めを外そうとする。
ふぐうう!……があああ!!
さなえの首絞めと片岡の抵抗が続き、同じ攻防を何度も続ける。
片岡はもがき苦しみながらさなえの首4の字固めに耐えていると、技をかけているさなえ自身にも疲れが見え始めていた。
「ハァハァ…しぶといわねぇ…ここまで私の技に耐えるのは初めてよ…」
「ぐぅ…ま…まだ…こんな技…外してやる!」
「普通の男なら首の骨が折れてもおかしくないのに…頑丈な体…でも、技が極まってるからいつまでも耐えられないわよ…そーら!」
ぎゅうううううううう!!
「ぐえええええ!……があはあ……うるぜええええ!」
片岡は 右手を床に落とすと手探りする。
長い鉄釘を手に取るとさなえの足に突き刺そうとするが、さなえはそれを見逃さなかった。
「やっぱり武器を使ったわね!手癖の悪い手はお仕置きよ!」
突き刺す寸前に片岡の右手を叩くと、鉄釘を落とした。
そのまま片岡の手首と右腕の関節を逆方向に捻って極めた。
ぐきいぃいい!
「ぐあああああああああああああああ!!!!」
片岡の肘と手首が可動域を超えて曲がると乾いた破裂音が鳴る。
「さすがにもう限界のようね!そろそろ楽にしてあげるわ!」
さなえは片岡の右腕を取ると体を回転させて横側に移動する。
光沢のある網タイツが片岡の首に交差すると、両側から重量感のあるロングブーツががっしりと挟む。
変形の首4の字固めが完全に極まった。
先の首4の字固めよりも頸動脈をピンポイントに狙って首を絞める。
ぎゅううううううううううううううううううううううううううううう!
「……ぶぶっ!……」
「これ以上は付き合ってられないわ…もう、眠りなさい…」
片岡はビクビク痙攣し始めて、しばらくすると意識を失った。
長い間首を絞め続けられていたせいか、片岡の口から大量の泡が一気にブクブクと溢れてきた。
片岡が落ちたのを確認するとさなえは技を解く。
「ハァ…ハァ…ここまで落とせない相手は初めてだったわ…私の脚技もまだまだ甘いわね…」
さなえの技で一気に戦いを決したが、龍堂以上の力と頑丈な体を持つ片岡に苦戦していた。
さなえにとっても片岡の攻撃を一撃でも受けていたらどうなっていたか分からないだろう。
(もっと…技を磨かないといけないわね…)
片岡に手錠を掛けるとさなえは応援を呼ぶ。
駆けつけたパトカーに片岡を乗せると、さなえは乗ってきたバイクに跨り爆音のエンジン鳴らして廃工場を後にした。
冷たい夜風が戦いの汗で濡れたさなえの肌を冷やした。
さなえは、薄暗い街灯が照らす夜の街をバイクで走らせて、静かに消えていった。