back>女捜査官さなえ編 その3 手錠
さなえは、街外れの倉庫に来ていた。
今は廃屋だらけでほとんど誰も近づかない波止場の倉庫が並ぶエリアに、凶悪犯罪者が潜伏していると情報があり張り込んでいた。
しばらくコンテナの物陰から周辺を監視していると、薄暗い小道から一人の黒いスーツを着た大柄な男が歩いてきた。
さなえも急いで男の後をつけると男は古びた倉庫の中に入る。
さなえも辺りを警戒しつつ、他に敵が居ないことを確認すると倉庫の中に入る。
倉庫の中は暗がりが漂い、緊張感が空気を支配し静寂と緊張が高まる。
そのままゆっくりと奥へ進むと男が倉庫の中で待ち構えていた。
「まさか女が来るとはな…噂に聞く女捜査官のさなえってのはお前か…」
男は喋ると同時に倉庫のライトをつけた。廃屋の倉庫に似つかわしくない新調した蛍光灯の眩しい灯りがさなえを照らす。
倉庫の中にいたのは龍堂という男で、まさにさなえが追っていた凶悪犯罪者であった。
龍堂は大柄の筋肉隆々な元格闘家であり、一瞬で人を押し潰す「ステゴロの破壊者」の異名を持つ。
数々の犯罪を犯した事で業界からも追放されたが、その後もあらゆる犯罪に手を染めている札付きの悪党だ。
「俺を嗅ぎ回ってる輩がいると思っていたが、たった一人で乗り込んでくるとはたいしたもんだな…姉ちゃん」
自分が監視されていたこともすでに気づいていたのであろうか、さなえを倉庫の中におびき寄せたようだ。
龍堂が目の前に立つとさなえよりも一回り以上も体格差があるのが分かる。
「あなたこそ、他に仲間はいないのかしら?」
「そんなもの必要な時に雇えばいい。俺には力も金もある」
龍堂は利害関係が一致した時だけ徒党を組む。
仲間が増えれば増えるほど裏切り者が出てくるのを嫌うからだ。
普段も単独行動を好み、足跡を残さないように行動するため、警察も龍堂の尻尾がほとんどつかめずに苦戦していた。
さなえにとってもわずかな情報を頼りに張り込んでいた甲斐があった。
「で、刑事が何の用だ?世間話しに来たんじゃないんだろ?」
さなえは優しく微笑むと手錠を取り出し、ゆっくりと握りしめた。
両手で手錠を伸ばすと鎖がキリキリと音を立てながら光沢が輝く。
「当然、あなたを逮捕しに来たのよ。大人しく投降するなら痛い目に遭わずに済むわよ?」
「ふざけるなよ!非力な女一人が俺を止められるとでも?」
龍堂は余裕の笑みを浮かべると、さなえを見下ろしながら威嚇する。
一気に間合いを詰めるとさなえに向かって突進してきた。
その瞬間、さなえは素早く突進を避けて龍堂の背後に周ると彼の背中に蹴りを入れる。
龍堂はそのまま壁に突っ込むと頑丈な倉庫の壁に穴が開いた。
(あぶなかった…今のを受け止めてたらひとたまりもないわね…)
龍堂は真正面に倒れ込むがダメージはそれほど受けておらずすぐに立ち上がった。
スーツについた木材の破片を払い落とすとニヤリと笑う。
(今のを避けたか……なかなかやるじゃねえか)
再び構えを取り直すと、今度は両手を広げて勢い良くラリアットを放つ。
さなえは冷静に避けると龍堂の背後から膝裏を蹴った。
体勢が崩れたところで、すかさず腹部に強烈なパンチを叩き込んだ。
「ぐふぅ!噂通りの女だ…いいパンチだ!」
「あなたこそ、素手で私に1対1を挑むなんて度胸あるじゃない」
お互い褒め称える中、龍堂は口角を上げて不敵に笑い始める。
「あら?まだ投降する気はないのかしら?」
「所詮女の力…。鍛えぬかれた俺の体には効かない!」
龍堂はゆっくりと構えを取るとさなえとの距離を縮めていく。
「極刑になるあなたにせめて手錠だけは優しくかけてあげると言ってるの…これ以上は私も手加減できないわよ?」
「大きなお世話だ!女一人に捕まるわけにはいかねえんだよ!」
龍堂は怒りに震えながらも、さなえの言葉に従う気はなかった。
彼は再びさなえに向かって突進し、今度は落ちていた鉄パイプを取って振りかざして襲いかかった。
しかし、さなえの瞬時の反応は驚異的だった。
鉄パイプを寸前のところででかわし続ける。
「忠告を聞かない悪い子はお仕置きね!覚悟しなさい。あなたの行く手はここまでよ!」
彼女は一瞬の隙を突いて龍堂の腕を掴んで飛びつくと彼を引き込みながら回転して、自分よりも大きな男を地面に転倒させた。
すかさず、さなえの両足は龍堂の右腕を挟んで腕ひしぎ十字固めを極める。
彼女の得意技の一つである。
「残念だったわね。あなたみたいな力任せのタイプは得意なの。はぁっ!」
バキッ
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」
龍堂の右肘を破壊すると同時に彼の悲鳴が倉庫中に響く。
さなえが腕ひしぎ十字固めで固定していた両足を解くと龍堂は苦痛に顔を歪めたまま、倉庫の床にひざまずいた。
その状態を利用して、さなえは龍堂の背中に跨り、彼の右腕に手錠をかけた。
「どう、私の関節技、効いたでしょう?…体を鍛えていても耐えられないようね」
さなえは手錠を引き絞るようにして固定し、龍堂の右腕を彼の首に食い込ませた。
そのまま後ろに体重をかけると、龍堂の右腕は自身の首を巻き込んで絞め上げる。
「さてと、女の子を見下す悪い子にはもっとお仕置きしないとね!」
「ぐげえええごげげげ!!!」
「ふふふ、こうしゅけいの予行演習ってところかしらね」
龍堂は苦しげな声を上げ続けた。
手首が後ろに引っ張られ、手錠がジリジリと肌に食い込む。
すでに右腕は腕ひしぎで破壊されているので、残された左腕で何とか抵抗するが、さなえは動きに合わせて龍堂の体を抑えつける。
「どう?苦しい?ほーらぁー…非力な女がかけた手錠くらい外してみなさいよ!」
「ぐうううううううぶふううううううううう!!!」
龍堂の背中が反り曲がりギリギリと音を立てて首を絞め続ける。
よっぽど苦しいのか足をバタつかせて暴れる。
「ぶふぅーーーーーー!!!!!!」
「女だと思って舐めてた罰よ。ほら、自分の腕で自分の首を絞めなさい…」
パンッ!パンッ!
喉を潰されて言葉が発せない龍堂は残された左腕は抵抗をやめてでさなえの足を叩いてタップをし始めた。
戦意を失った龍堂は只々、ギブアップの意思表示をさなえに送り続ける。
しかし、さなえは決して龍堂を許さなかった。
「無様ね…今更反省したって遅いのよ。ギブアップで済んだら警察はいらないの」
「ふぐうううううううううううう!」
さなえは容赦なく体重をかけて手錠を引き、龍堂の首を絞り続ける。
「これで終わりよ!」
「ん!!!!!!…うう……… …… …」
しばらくすると龍堂は左腕を落として、口から泡がブクブクと溢れ出して失神した。
龍堂の力任せの攻撃は脅威ではあったが、いざ、蓋を開けてみると、さなえの技術が圧倒しており彼女に翻弄された彼はいとも簡単に絞め落とされてしまった。
龍堂の無力な姿を見つめながら、さなえは深い溜息をつくとようやく彼女は龍堂の両手に手錠をはめた。
「うふふふ、正義の力を思い知った?牢屋の中でたっぷり懺悔することね」
こうしてまた、さなえは凶悪犯罪者を逮捕した。
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