back>女捜査官さなえ編 その2 取調べ
この日、さなえは郊外にある廃屋のビルに来ていた。
あらゆる犯罪に加担する闇バイトを斡旋する犯罪組織のアジトの情報が入り、秘密裏にこのビルに潜入捜査をしていた。
今回の作戦は、敵に気付かれないように一人で動くことであった。
普段は複数人で行動するのが鉄則なのだが、敵の警戒網が非常に強く単独で潜入することになったのだ。
また、さなえのこれまでの実績が買われて彼女が今回の任務に抜擢されたのが経緯である。
事前に調査した情報から敵戦力は把握しており、犯罪組織の制圧は目前まで近づいていた。
緊張と高揚で高鳴る胸を抑えながら、さなえは慎重に歩を進める。
(……あと少しね)
さなえは足音を立てないように階段を上り、廊下の奥へと進む。
すると、廊下の途中にあった扉が突然開いた。
中からは男が一人現れ、さなえに向かって歩いてくる。
「姉ちゃん、随分と暴れ回ってくれたようだな?」
男は組織のリーダー格のようだ。
男はニヤリと笑いながら言ったが、抑えきれない怒りも同時に漂わせている。
それもそのはずで、男の部下はすでにさなえの手によって全員倒されており犯罪組織はこの男が最後の一人となっていた。
「おっと、手を上げな!妙な真似したら撃つぜ!」
男が近づくと、さなえの顔に緊張が走る。男の手には拳銃が握られていた。
男の命令に従い、さなえは両手をあげる。
「あらあら、女相手にそんな玩具を持ち出して…恥ずかしくないのかしら?」
数秒間睨み合うと、先に動いたのは男のほうだった。
「うるせぇ!俺の大事な部下を痛めつけやがって!後悔させてやる!」
男は銃口を向けて引き金を引く。
パァンッ!!
乾いた音が響くと同時に、銃弾が発射された。
しかし、それはさなえに当たることはなかった。
彼女は男の動作に合わせて別の部屋に跳び込んで回避したのである。
パァンッ!!パァンッ!!
「くそ!待ちやがれ!」
すぐに男も追いかけると、部屋の中には机や椅子などが散乱していた。
「ちっ……逃げ足の速い奴め……どこに隠れやがった!」
辺りを見回す男の隙を見て、さなえは落ちていた木片を拾って部屋の隅に投げるとカコンと音を立てる。
木片がそのままコロコロと男の方に転がると男は銃を音の方へ向けて撃つ。
パァンッ!!パァンッ!!
そして、何度か別の方向に木片を投げるのを繰り返す。
パァンッ!!パァンッ!!
男は少しでも物音がすると、その音がした方向に銃を乱射していた。
次々と家具が破壊されて、部屋の中はさらに木片を撒き散らす。
しばらくすると、部屋の中は埃と木屑の粉で覆われる。
「くそ!ホコリが…ゲホッ、こざかしいマネしやがって!!」
その隙にさなえは上手く物陰に隠れつつ隣接した部屋に移動すると、今度は障害物が一切ない大きな部屋に出た。
さなえは部屋の窓際に立ち手を動かすと床の影が動く。
「そこかてめぇ!待ちやがれ!!!」
男はさなえの影に気づくとその部屋まで追いかけた。
カチャ!カチャ!
「ちっ!弾切れか!」
弾切れになったらしくカチッカチッという音だけが虚しく響いていた。
男は舌打ちしながら銃を床に捨てる。
「うふふ、おしかったわね」
さなえは余裕の表情を浮かべていた。
実は彼女にとってこれは想定内の出来事であった。
事前に潜入しておいたアジトの見取り図を元に行動していたため、このフロアの構造は全て頭に入っていたのである。
もっとも、銃弾を遮るものが無いこの部屋で銃口を向けられたら一溜まりもないのだが、敵との遭遇パターンについても入念にシミュレーションし、敵の弾切れも想定していたため、最も安全な場所に避難できたというわけだ。
今回は相手の武器を把握していたこともあり、最初から敵を倒すのではなく無力化するつもりであったため冷静に対応ができた。
また、彼女の戦闘能力の高さもあり、このような場面では非常に強い。
「あなたみたいな無駄撃ちする相手に銃なんていらないわ…うふふ、この手錠も必要ないわね」
さらに彼女は手錠、銃の入ったホルスターを捨てて武器を持たず素手で戦おうと男を挑発する。
「ほら、丸腰の女相手よ?かかってきなさいな。それとも怖いのかしら?うふふ」
男は焦りながらも腰からナイフを取り出すと、さなえに向かって突進した。
「なめやがって!!うらああああ!」
さなえは、とっさに男の手首を掴み関節を極めて捻ると男は軽く悲鳴を投げてナイフを落とした。
そして、そのまま男の腕を抱え込むようにして体を密着させると、背負投げの要領で一気に投げ飛ばした。
ドガッ!バタンッ!
すかさず倒れた男の右腕を両足で挟んで腕ひしぎ十字固めを極めた。
「うふふ、捕まえた!これが私の手錠よ…あなたに外せるかしらねぇ?」
男の右腕はさなえの両足でガッチリとロックされ、彼女のショートブーツが男の首元で交差し男を押しつけて逃さない。
彼女の網タイツが顎に接触すると甘い香水の香りがほのかに香る。
「10数えるうちに外せたら見逃してあげるわ♥ じゅうー、きゅうー」
ギリギリギリッ! 骨の軋む音が聞こえてくる。
さなえはそのまま体重をかけて締め上げた。
「いでえぇええ外れねぇ!!くそぉおお!!!!!」
「なーな、ろーく」
ミシミシ……
男は激痛で悲鳴を上げる。
完全に腕十字を極めているため脱出は不可能だが、男はなんとか必死に外そうとしていた。
「ごー、よーん、ほら…どうしたの?見逃してもらえるチャンスなのよ?」
男は必死にもがくが、それでもビクともしない。
さなえはギリギリで折れずもっとも激痛を与える力加減で技をキープしていた。
「ぐあああ!無理!降参だ!ギブアップだ!やめてくれええ!」
ついに男は激痛に耐えきれず、抵抗を諦めて降参を宣言した。
…
「…うふふ、そう?降参したいの?ふーん、 さーん…にぃー…」
さなえは微笑みながら言ったが彼女のカウントダウンは止まらなかった。
まるで天使のような笑顔だったが、彼女の目は笑っていなかった。
男はゾクリと背筋に冷たいものが走る。
「うわああやめてくれえ!」
「だーめ、外せたら見逃すとは言ったけど、降参は認めてないわよ?」
さなえは、そんな男を見て楽しげに笑う。
しかし、男の懇願を無視して容赦なくカウントダウンを続ける。
いや、むしろ楽しんでいるようだった。
「いー…………ちー…………」
男の恐怖を煽るかのようにゆっくりと時間を使って最後の数字を言う。
パニックになった男はなんとか技を外そうとして体を左右に動かし暴れ回るが右腕は固定されたまま、足だけジタバタさせるだけであった。
そして、ついにカウントがゼロになった。
「ぜろ!」
ゴキャ!!!!!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」
男の右腕は完全に破壊された。
続けてメキッ!ボキィッ! 乾いた音が鳴り響くと、男はさらに絶叫した。
「があああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「あらあら…残念、私の手錠…外せなかったわねぇ?」
男は歯を食いしばると両目から涙がこぼれ落ちた。
「刑法35条って知ってる?法令又は正当な業務による行為は罰しない…
あなたみたいな凶悪犯の腕を折らないと何されるか分からないもの♥
か弱い女の子の正当防衛ね。うふふ」
このえげつない行為は正義の鉄槌であると主張するさなえだが、
男の目に映ったさなえの姿はもはや人間ではなく、悪魔にしか見えなかった。
男が完全に戦闘不能になった事を悟るとさなえは腕ひしぎを解いた。
「あらぁ…痛いわよねぇ?ごめんなさいねぇ…うふふ…」
さなえが男の耳元で囁くとそれは悪魔の誘惑のように甘く、優しく、しかし、どこまでも残酷な響きがあった。
さなえは男を引きずって破れた壁の穴に男を投げると、壁の穴の先はロビーへと繋がっていた。
すでにロビーでは男の部下達がさなえの手によって倒されており、ロープで体を拘束されていた。
男はまともに喋ることができず、低いうめき声を上げ続けるが、さなえは気にせずそのまま男の体に座って話しかけた。
「悪いことをしなければあなたもこんな事にならなかったのにね…」
しばらくすると、男は痛みで意識を失い、うめき声もあげなくなった。
「少しやり過ぎたかしら…これに懲りたら罪を償って改心することね。」
その後、さなえは捜査チームに犯罪組織の連中を引き渡した。
こうして、さなえの活躍により今回の事件は無事解決したのであった。
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