この日、大半の予想を覆すほど風太は善戦していた。
ロープブレイクを活かして関節技や絞め技から脱出を繰り返す地味な戦法ではあるが
桜はロープ際で立ち回る風太に苦戦していた。
短期決戦の多い風太にとって試合時間が15分を越えることは珍しかった。
「なるほど…間合いを取って接近戦を避ける…考えましたね」
「はっはー!接近しなければ得意の関節技も意味ないよ!」
何度も桜と対戦しているが未だに勝てない風太は勝利のために自らのスタイルを捨ててまで入念にロープ際の戦い方を特訓していたのだ。
しかし、攻撃をしなければ風太も試合には勝てない。
当然、風太もそれを理解しており桜の攻撃に入る動き出しの隙を狙っていた。
「!!」
桜が掌底を突き出した時、足取りが乱れて体勢を崩す。
これをチャンスと思い風太は一気に攻勢に出た。
「よし!いける!!」
風太は間髪を入れずに桜にタックルを仕掛けた。
「やはり…隙を見せた時に仕掛けてくると思っていました」
次の瞬間、風太のタックルは空を切り桜の懐で動きが止まる。
桜は風太のタックルを避けると、風太の首の下に左腕を入れて二の腕で首を挟んだ。
右腕を風太の肩の上に乗せて桜は前屈みで風太に覆いかぶさる。
「お前!わざと隙を見せて…ぐぐ!」
「反撃ができるように体は残したんです…さぁ、覚悟してください!」
後頭部にほのかに桜の胸の感触を感じるが、頭はガッチリと固められて動かせない。
桜の体重が掛かると風太は耐えきれず、跪くようにリングに崩れ落ちた。
桜のくノ一式裸絞めが完全に極まってしまった。
「これで終わりです…」
「ぐっ!!」
「抵抗すると苦しくなるだけですよ!」
桜は上半身を使って風太の後頭部を押しつける。
「……うぅっ……」
風太は必死に逃れようともがくが抜け出せない。
自力で外すのは無理だと感じてロープに手を伸ばすもあと10cm…わずかに届かない。
「ロープブレイクはさせません!」
桜はそう言うと、風太の頭を自身の胸の中に引き寄せて左腕をさらに上へ吊り上げた。
風太は首を吊った状態になり喉が潰されてまともに呼吸ができなくなる。
しかし、これでもタップしない風太を見かねて喉に小さな隙間を作り、彼が降参を宣言するように促す。
「風太さん……もう諦めてください!」
「いやだぁ!!!」
「これ以上、あなたに苦しい思いをさせたくありません!」
風太は桜の再三の警告を拒否して抵抗をするが一向に技を外すことが出来ない。
桜の体を引き剥がそうと手を上下左右に動かし逃げ道を探す。
しかし、無慈悲にも桜の腕は徐々に風太の首に食い込んでいく。
ギチッ! ミシミシッ!!
「これでも、降参しないのですね…」
喉の隙間が閉じていくと風太は咳き込み始めた。
「ゲホッ!ぐぁ…ゲホゲホ!」
もう、風太を苦しませるわけにはいかない。
苦しそうに咳き込む風太を見てせめて最後は楽に眠らせてあげようと桜は絞め落とす事を決意した。
「すみませんが…少しの間、眠ってもらいます…」
桜はそう言うと、腕の隙間を一気に閉じて風太の頸動脈の血流を止めに入る。
風太の脳に運ばれていた酸素と血液が彼女の小さな腕にせき止められた。
数秒もしないうちに風太の抵抗は収まり、腕が床に垂れ落ちた。
鈍い音と共に、風太の意識は闇へと沈んでいった ーーーーーー
○ 桜 VS 風太 ✕
17分23秒 くノ一式裸絞め
試合が終わり、控室に戻るなり、へなへなと座り込む風太。
そんな彼に、桜はスポーツドリンクを差し出した。
「今日はお疲れ様でした」
「なんだよ新人…敗者を冷やかしにきたの?」
自嘲気味に笑う風太に対して、彼女は首を横に振る。
「いいえ。むしろ逆です。風太さんの戦い方に感動しました。これはその労いの気持ちです」
「…まぁ…ありがとう」
そう言って、風太はペットボトルを受け取るとキャップを開けて一口飲み、そして再び地面に落とす。
そのまま黙って俯く彼を見て、桜は不安そうな表情を浮かべた。
「あ、あの……もしかして、どこか痛めたのでしょうか?」
心配する彼女に、風太はゆっくりと顔を上げる。
「違うよ。ただ…悔しかったんだ」
「えっ!?」
驚く彼女を他所に、風太は天井を見つめて話す。
「だってさ、やっぱり勝ちたかったじゃん。あんなに頑張ってきたのにまたお前に勝てなかったし。桜は強いよなーずるいよ!もう!」
風太のふくれっ面に思わずクスっと桜は笑った。
心配していた桜に笑顔が戻り風太も少し微笑んだ。
「まっ、いつまでもクヨクヨしてても仕方ないし、またTOMOE先輩と特訓だなーそれにしても桜の柔術はすごいよ、今日も何もできなかった。」
「いえいえ…私なんて、まだまだ風太さんには及びません!私も今日は自分の弱点を知る事が出来ました。ありがとうございました!」
「なんだよ…勝った奴の台詞かい…それ…」
桜の謙虚な返答に風太はやれやれと苦笑いをする。
「はい!これからはもっと練習して、いつか必ずあなたに追いついてみせます!」
「まったく、気を遣ってくれているのかからかっているのか分からないよ...でも、ありがとな!オイラも次こそは絶対勝つからね!」
風太は立ち上がり、桜に手を伸ばす。
彼女もそれに応えるように手を伸ばし、互いに固く握手を交わした。
終わり
■English version
■文字無し
Maia Amos
2024-04-30 16:20:34 +0000 UTCpanakiman
2023-12-31 06:57:20 +0000 UTCRainbow
2023-12-30 01:28:29 +0000 UTCpanakiman
2022-10-13 09:07:56 +0000 UTCf.k
2022-10-12 15:52:56 +0000 UTC