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兵隊幻酔
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📘 四宮麻衣『午後五時の少女』より

第1章:配信前の緊張と崩壊(冒頭) 湿度82%、気温30.5度、風速1。 学校帰りの電車は、午後五時の蒸し釜のようだった。 四宮麻衣は神戸・北野坂を、家の鍵を握りしめながら早足で登っていた。スカートの内側に貼りついた太ももの汗が、歩くたびにじゅくりと音を立てるような気がした。 自宅の白いタウンハウスの玄関に辿りついたときには、制服のシャツの背中は濡れて透けていた。襟足から垂れた汗は、未処理の腋毛を伝って、ワキの谷間ににじみ落ちている。家の方針で一度も剃ったことのないその毛は、ぬめった汗を吸って艶めき、ブラウスの内側で重く揺れていた。 「……っ」 靴を脱いだとき、下着の内側――肛門まわりにまとわりついていた毛が、一瞬、粘着したまま引きはがされた。朝、便意が中途半端なまま出てきたせいで、ぬぐい切れなかった汚れと汗とが、湿った毛にからまり、臭気を生んでいるのを自分でも感じていた。 冷房は入れない。家訓である。 階段を上り、二階の自室に辿り着いたとき、麻衣は一瞬、床に座り込んだ。 汗まみれのシャツ、べたついた下着、脇から漂う酸化した臭い、そして股間と肛門まわりに広がる濃密な蒸れ。 もう、どこからが自分の汗で、どこからが残った排泄物なのか、判別できない。 けれど――。 「配信……始めないと」 部屋の隅にある、小さなドレッサーの前に立つ。 その前には、セーラーネプチューンの衣装が、丁寧にハンガーに掛けられていた。 四宮麻衣は、深く息を吸った。 臭いが鼻に入る。下腹部からふわりと立ち上る自分の体のにおい。 汗、毛、尿、便。すべてが入り混じった「生の証明」。 ――それでも、ネプチューンになる。 誰よりも美しく、誰よりも自由な、“わたし”。


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