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霊符
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肉の日 SS 「おかわり」

ふと、目を覚ます。 そもそも自分が寝ていた自覚もなかったけれど、電車の中でうたた寝をしていた時のように、とてもぼんやりとした意識まま目だけが薄っすらと開いていました。 それから、私の頭はしばらくぼんやりとしたままで、気が付いた時には私は真っ白い部屋のど真ん中で椅子にちょこんと座っていました。 そう、私は寝ている間に謎の真っ白い部屋に誘拐されていたらしいのです。 らしい、というのも私にはそんな記憶はありませんでした。直前の記憶というのも曖昧で、自分が高校生2年目の夏を謳歌していたという記憶はあるけれど、『昨日』だとか『2,3日前』とかそういう記憶がまるでないのです。本当に気が付いたら、という感じに。 とはいえ夢でもドッキリでも、このよく分からない何もない――誘拐犯も居ない、椅子と扉だけの部屋に閉じ込められている状況に私は不安を覚え始めていました。 (――なんかこう、ホラー映画でこんなの見た気がする。) つまり下手に動けば何が起きるか分からないというか、【説明のつかない何か」で死んでしまうじゃないかという根拠のない不安で私は全く動けずにいたのでです。 ただ、結局その不安との闘いの決着は ぐぅうぅぅう…… 「………。」 いつまでも此処で立ち止まっていてもお腹が空いて死んでしまう、という消極的な決断の元私は扉に向かいます。真っ白な(壁や床と同じように)ペンキなどで塗られた様子もない奇妙な材質の扉をえいやと勢いよくあけると、次の部屋も真っ白でした。 ただその中央には椅子と丸いテーブル。 そしてその上には口の広いコップ?がちょこんと置かれていました。 恐る恐る近くによってみると、コップの下に紙が一枚。 『前菜:スープ お好きなだけお飲みください。』 その紙の隅っこに、『おかわりがほしいときはいえばいい』と誰かの筆跡で書かれています。 「言えばいい」という事は誰かがこの部屋を見張っていて、その誰かは呼べばやってくる、ということなのでしょうか。しかし何はともあれ既にお腹はぐぅぐぅと悲鳴を上げていますので、 「すみません、スープください!」 と入ってきた扉の向かい側に見えていた扉に声を掛けます。 けれど、何もうんともすんともいいません。 勿論カップの中身も空っぽです。 期待していたわけでは――いえ、結構期待して声をかけた分、がっかり感はマシマシです。 「……おかわりも何も入ってないなら意味ないじゃん……。」 はぁ、とため息をついて 「えっ?」 カップの中になみなみと入っている透明なブラウンのスープに目を疑います。 目を離していた覚えどころか、じっと見ながらため息をついたその目の前でカップの中身は満杯になっていました。アハ体験も真っ青です。ほかほかと湯気が立つそれは、今まさにお鍋から注がれたようで…… ごくり と、唾を飲んでしまいます。 コンソメスープのような、香ばしい匂いを吸い込んでしまえばお腹はもうぐぅぐぅどころかぐぉうるるごるるると怒り狂った猫ちゃんの如く唸りだしています。 でも何が入ってるかもわからないひょっとすればこの匂いに釣られてまんまと毒を飲ませる悪趣味なトラップかもしれなうまーッ!! 「んん”-っっ!」 ギリギリ舌がやけどしない熱さに調整されたスープに唇を付けてズゾゾと啜れば、口の中にコンソメのような、魚介だしのような、もしかしたら混ぜているような、でも雑味の無い透き通ったうまみが爆発するように広がります。 そしてそれは塩気が強すぎず、それでいて優しい甘さがあり、頭の中では美味しいという文字が手を取って踊り回って本当においしいですねこれ! 「んくっ、んくっ……っぷぁ」 そうして、あっという間に――というか一息で飲み切ってしまいました。 お腹が空いていたことも相まって、口を離さずぐびぐびと。 しかしこうして飲み切ってしまえば酷く勿体ないことをしたとも思えてしまい 「おかわりください」 カップを拝むようにしてそう呟いて目を開けばそこには再びなみなみと入ったスープが。 私はもうためらう事無く口を付けます。 「んく、んく、んく……っ」 さっきよりはゆっくりと、でも遠慮なくゴクゴクと。 だってこれを飲み干しても―― 「ん、ぷはぁ……おかわり。」 たった一言でこの夢の様なスープは飲めてしまうのです。 両手でお椀にしたような大きさのカップ2杯も飲めばお腹はちょっとちゃぽちゃぽしますが、口の中に残る余韻が、もう一口と私を駆り立てます。 「ごく、ごく、ごく……! おかわり!」 今まで食べてきたどんなものよりも美味しい、そう言い切れる程の美味に私はもうメロメロでした。 「ごくん……ズズ……はぁ~……おかわり」 それはもう飲み溜めするかの如く、何回も何回も。 「ぐび、ぐびっ……っげぇふ……はぁ…ふぅ……おかわり……」 不安だとか、そういうのを全部忘れて私はスープを飲み続けます。 そうして 「っぐぇぇふ………ぅぷっ……フーッ……フーツ……!」 飲むのを止めたのは、頭で考えた止めたのではなく、身体が限界の悲鳴を上げたタイミングでした。 前のボタンを外して楽にしたお腹はシャツをまくり上げて、まるで妊婦さんのようにまん丸く突き出ており、しかし少しでも身体を動かそうとすると、耳に聞こえて「じゃぽっ、じゃぽっ」と中のスープが音を立てて揺れるのが聞こえます。 背を反らして引っ張っても吐きそうですし、丸まって圧迫しても吐きそうなので椅子に寄りかかりながらも背筋をピンと伸ばして必死に呼吸を繰り返す私は、それでもその呼吸にスープの匂いがするのが嬉しいぐらいどうしようもなくなっていました。 そうして、スープを詰めた人間水風船の気分でふぅふぅと呼吸を続けていましたが、お腹がいっぱいになった眠気も相まって、徐々に徐々に意識が遠のいていって…… 「ん、ぅ……?」 そうして、目が覚めるとまた何もない部屋で椅子に座らされていました。 「……ん……夢……?」 けれど夢ではありませんでした。あの息の詰まるような苦しさこそ無くなっては居ますが、真ん丸に突き出たお腹はそのまま。スカートのホックがその根元を締め続けて苦しいので、ホックを外す為に手を当てれば『ぶにゅり』とたわんで――たわんで? 「……えっ?」 恐る恐る、スープがたっぷりと入ってパンパンの筈のお腹を触れば、ぶにゅんぶにゅんもっちもっちたぷんたぷんとやわらかいお肉に――贅肉になっていました。 暫く呆然として、それからゆっくり正気に戻って、この摩訶不思議な現象に恐怖して、私をこんな目にあわせた何者かをどうにかしてギッタンギッタンにしてやれないか考え始めたところで ぐうぅぅうるるる…… 「駄目、駄目よ……我慢我慢我慢……」 正直すぎるお腹が、ぐぅぐぅと音を立てて空腹を主張しだしました。 しかしここで目の前の扉をくぐってしまえばスープの時の二の舞です。 ぐぉうるりゅりゅぎゅるごごごご…… きゅ~~~ぎゅごぐるるるぅぎゅるぐごご…… ですが、死んでしまっては元も子もありません。 なのでこうして食事を取るというのは極めて正常で理性的な判断というわけです。 断じて、カップの代わりに大きな器に代わっている事に気付き、また違う絶品に出会える期待に負けたわけでは……。 いえ、はい。 一人っきりでこんな空しい言い訳も必要ありませんよね。 眩暈がするほどの空腹に、私はもはや吸い寄せられるようにテーブルの前に座っていました。 そこにはスープのカップを大きくしたような、どんぶりとコップが置かれていました。 そして意を決して「おかわり」と呟けば、 「うっ!えほっ、ケホっ!」 むぁ。と広がったその香りにゲホゲホとむせてしまいました。 いえ、それは決して嫌な臭いではありません。鼻を、喉を刺したその匂いは強い香辛料――山椒の強い刺激が立ち上る麻婆丼が私の目の前に現れていました。 「いただきます。 はむ、ん”っ、えふっ、はふっ!」 食べてもむせるその辛さ! ですが、口の中でお米の甘さと噛み合わせていけば程よくその辛さも弱まって、むしろ今まさに舌を刺激する辛さが、スプーンを動かす手を早めさせます。 「はふっ、はふっ、もぐもぐ……ごくごくっ!……ぷは、モグモグモグモグ……」 時折水を飲んで箸休めしつつ、匙で器を掻いて食べ進みます。 勿論汗はどんどんと滲み出てきて、顔だけでなく全身汗だくです。 「んふーっ……んふー……あっつ……ハァ…ハァ……あむ、ガツガツ…っ」 汗を袖で拭いながら、食べ終えるのに数分もかかりませんでした。 少しピリピリと舌に残る痺れを抑えるために、つい私はこう言いました。 「お水おかわりください」 そうして、再び満杯になるお水  とラーメンどんぶりのような器一杯に盛られた麻婆丼。 やってしまった、と思いました。 ですが、作ってくれた何者か……はともかく無駄になる食材には悪いのですが、これ以上食べるわけにはいきません。満腹を超えて限界以上に食べて太らせる……フォアグラの様なこのルーチンに流されるわけにはいかないので、鋼の意志で―― きゅーーくるるる…… 「ぁむ、はふ、ガツガツ、んふーっ、ふーっ、ガツガツガツッ」 満腹になるまで食べるのはもっての外ですが、しかし空腹のままでいれば餓死してしまうのでこの2杯目までは食べる事に決めました。 ですが、辛いのを我慢して水を飲まずに食べ進めていくと汗はますます酷くなっていき、もはや大雨に濡れたようにべっちょりとくっつく制服が気持ち悪くて 「誰も、みてないし……」 上着を脱ぎ、そのままシャツも、スカートも脱いで床に落とせば『べちょ』と湿った音を立てて、床をじっとりと濡らします。幾らか涼しくなった身体からは汗が少しひきますが、ホコホコと体の中から温められて、たちまち汗がじわりと吹き出します。 「んむ、ぁむ、はぐはぐはぐ、バクバクバクッ…!」 ずっと「辛い」と表現していますが、勿論この麻婆丼は辛いだけではありません。餡そのものの甘味、豆腐のさっぱりとした甘み、ご飯の甘み、そういった甘さを引き締める辛さ。このバランスで麻婆丼は成り立っていました。食べれば食べる程その味にのめり込んでしまいそうで、私自身甘党のつもりでしたけれど、今はこの辛さに一心不乱に匙を動かしていました。 そうして、遂に完食した時にはラーメンどんぶり1杯分では「まだ足りない」だったお腹は腹9分目というところで、起きた時にはたぷたぷとゆるんでいたお腹は再び中身を詰めて前にせり出し、その周りについていたお肉はでろんと周りに押し出されて、遠目に見れば見事な台形に見える事でしょう。 「ハァ…ハァ……げっふ……うぅ……」 9分目、と言っても明らかに増えた食欲の9分目は腰を上げるのを億劫にする程度に重い。 なんとか落ち着くまで少し休憩してから…… そう考えながら、ついコップを見てしまう。 何故、と言えば当然口の中が辛いからだ。 食べている間は我慢出来ていたけれど、口の中が空っぽになってもその辛さはちくちくぴりぴりと刺激する。でも、我慢しなくちゃ。……多分、また出てきてしまったら私はどんぶりを食べだすことを我慢できる自信がないからだ。 そう、我慢我慢……。 辛くても我慢………。 ………辛いけど…………。 ……辛い…………辛いよぉ……。 辛い、暑い、喉乾いた、辛い、辛い、水――!! 「……おかわり……っ」 一瞬で注がれ終わった水を、ガブガブと飲み干す。 それでも喉が渇いて、もう一度叫ぶ。 「おかわりっ! もう一杯!」 ――けれど、コップに水は注がれない。 「なんでっ!?おかわりっ!お水おかわりっ!!」 おかわり、おかわりと何度叫んでも変わらない。 ただ、「何故」という疑問の答えは分かりきっていた。 「はぐっ、ぁんぐ、ガツガツガツガツッ!!」 再び、汗がぶわっと吹き出す。 ブラとパンティ一丁のあられもない恰好で私はどんぶり一杯の麻婆丼を掻きこんでいく。 たった一杯の水を求めて――― 「んっぶぇ……っっぐげぇぇっふ……げぶっ………ぶふぅ……はふぅ……」 お腹はパンパンという表現も生温い程に張りつめていた。 胃が押し広げられているのがわかる。もはや椅子に寄りかかる事すらできない。背中側にまで広がった気さえする内臓を、バランスボールに載ったように足を広げてどっしりと突き出た三つ子でも入っているんじゃないかというほどに突き出たお腹を落ち着かせて、お腹に刺激を与えないように両手も左右に投げ出す酷い恰好で荒く息をつく。 最早水がどうこう言えるような状態でもなく、唾ですら飲み込めば吐き出してしまいそうな程の満腹感の中、私の意識は真綿に首を絞められているかのようにじわじわと遠のいていった……。 「はぁ……はぁ……暑い……ふひぃ……」 きっとこうなるだろうという予想も空しく暴食した私の身体は、最初に来た時とは見違える程に変わっていた。 まず、見てわかるほどに突き出たお腹。今まさに空腹を訴える程に空っぽだというのに、ずどんと突き出たお腹はしかし、前だけではなくその左右に広がるように漫勉なく肉がべっとりとついている。特に脇の肉は巨大な浮き輪肉がだぷだぷとついているだけでなく、掌サイズだった胸がブラの中でミチミチと詰まるほどに膨らんだ余波を受けて段のついて酷くみっともない。 下半身にはあまり肉がついては居ないが、しかし腹回りの肉が落ちてくるようにお尻をムチムチと膨らませている。家に置いてあるジーンズは軒並み履けなくなっているに違いない。 最初の頃はなんてことはなかった室温も無性に暑く感じて、汗も止まらずべたついた全身は他の人がかげば酷い匂いを漂わせているかもしれない。 客観しすれば絶望で膝を折りそうなほどの変化。 今や40kg程だった私の身体は3倍近く――いや、5倍ぐらいはいってるのかもしれない。それだけ太らされてしまっていたのだが、しかし私はプルプルと膝を震わせながら立ち上がる。 「フヒュゥーっ……ハァー……ハヒュー……う”っ」 むぎゅ、と扉につっかえながらギチギチとねじ込むようにテーブルの部屋に入り込む。中央に置かれた大皿は腕を使って丸を描くよりも大きく見える。 そうして私は―― 「おかわりっ!!」 「テーブルの部屋の先はどうなっていたんですか?」 「別の参加者の部屋に繋がっている。最近搬入口をテーブルの下に作り直したからね。」 「悪趣味ぃ~」 「こんな実験に出資してる人間が言ってもな。」


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