ある勇者のハーレム物語
Added 2020-05-25 12:17:03 +0000 UTC1章 始まりの国 Case.1-a ティアナ王女の場合 冬が終わった春の始まりの頃。 人々の会話は王国中に広がった噂で持ちきりになった。 『勇者が魔王討伐に成功した』 世界には、魔物という悪魔より遣わされた神に造られた人間の魂を奪うために生み出された生き物が存在し、人々は魔物と戦いながら日々の糧を得ていた。 ある時、魔物を統べ人々のように規律を持って魔物を動かす魔王という存在が現れた。そして悪魔の寵愛を受けた恐ろしき魔物、魔王は世界を徐々に悪魔のモノに変えていった。 人々は魔王を恐れ、神に祈りを捧げた。神は人々を哀れみ、特に熱心に祈る信徒の妊婦に寵愛を与え、人間でありながら魔物の様な力を持つ存在を作り出した。人々はその力ある存在を畏れながらも崇め、「勇者」と呼びその旗印に集い、魔王と戦った。 ――そして、その勇者は魔王を倒して国へ凱旋しているという噂だ。 「いやはや、これでまた安心して暮らしていける。」 「勇者様様だな、ありがたい話だよ。」 「しかし、魔王もぶっ殺せる勇者様ってぇのは魔王倒したら何するんだ?国の将軍にでもなるのかね?」 「それがよ、聞いたところによると『欲しいものは自分で手に入れるから何もいらない』って言って居なくなっちまったんだとよ。」 「なんだそりゃあ、勇者様ってのは欲が無いんだねぇ。」 「いやいや、聞きようによっちゃあ自分で国を興して世界征服でもするかもしれねぇじゃねぇか。」 「ひえぇ、そしたらオラは勇者様の国に逃げるだよ。」 「俺だって勇者様の国に逃げるよ」 「そん時はウチも連れてってくれな。」 「みぃんな勇者様の国に行けば、平和になるかもな。」 「わはは、違ぇねぇ。」 そんな風に好き勝手に勇者の話題で盛り上がる市民達の横を、掠れた草色のローブを被った男が通り過ぎて行く。 街の外から来たらしいその人物にちらりと視線を向ける人間も幾人かは居たが、今まさに話に花が咲いている勇者の話題に顔を向けて注意を払う人間は誰も居なかった。 男はそのまま真っすぐに城へと向かい、見えなくなっていた。 始まりの国の第一王女であるティアナは、勇者の旅に着いていった『英雄』の一人だった。 王女だから着いていったのではなく、国で一番強いから彼女は勇者に着いていき、多くの活躍をして凱旋したのだ。 ──ところで、この世界で人間は平等ではない。 生まれも育ちも違えば「差」は生まれる。 それは王族と一般市民との違いを見れば何をかいわんやというものであるが、精神論や権益の話ではなく、出生によって「魔力」と呼ばれる力の量が違い、良い環境であればあるほど強くなる傾向がある、というだけの話。 その使い方は結局才能なのだが、王族という環境で英才教育をされた彼女はそれはもうメキメキと実力を伸ばして、国の将軍ですら1:1で戦えば彼女に膝を屈する程である。 癖のない美しい腰程までに伸びた金髪。 聡明で勝ち気な印象を与える凛々しい顔立ち。 透き通る海原のようなアクアブルーの瞳。 しなやかな山猫のような、しかし出る所は出た野性的な美を持つ体つき。 そして、怒れる火竜のブレスすら真っ向から打ち負かす焔を操る事を可能とする人間離れした魔術師の才能。 そんな王女ティアナの部屋に、ノックもなしにガチャリとノブを回して入ってくる無礼者が居た。 「──誰?」 無論、そんな無礼を許される人間など彼女の親族ですら有り得ない。彼女はギロリと視線を向けて、一息に呪文も無しに成木を消し炭に変えられる恐ろしい力を持った指をそちらに向ける。 其処に居たのは古びた草色のローブを被った怪しげな男。見るからに不審者なその男にティアナは既に灯り始めた焔を── 「……なんで私の部屋にいるの、"勇者"君。」 握る様にして消して、つり上がった眉尻を落として嘆息した。 「何で……って、ほら、話したろ。魔王討伐が終わったら、皆に声をかけに行くって。」 勇者と呼ばれた男は、それに何でもないかのように答えを返す。ティアナは年頃の女の子の部屋にノックも無しに入るなだとか、声をかけるっていうのは普通直接ではなく手紙などで間接的に行うものだとか、ツッコミたいことが非常にあったが、この男にそれを言っても面倒なだけで何も改善されない事をよくよく理解しているので大きなため息一つで不平不満の処理を済ませた。 「言ってたわね。……で、用件は何?ただの挨拶って言うんだったらぶっ飛ばすわよ。」 「あぁ、いやそれは違う。 なぁティアナ、俺と一緒に暮らさないか?」 「………は?」 ティアナの思考は其処で一度途切れて、数秒かけて意味を咀嚼して顔を真っ赤にして椅子を蹴飛ばすように立ち上がる。 「~~~はぁあぁあっ!!!??っちょ、ちょっとアンタ急に何言い出すわけ!?!?」 「急にじゃない。お前が言ったじゃないか、国に戻ってもきっと詰まらない政略結婚をして、『王女』として余生を過ごすくらいならアンタと一緒にいたいって。」 「っそ、そそ、それは言葉の綾って言うか、何のしがらみも無く生きてみたいっていう事で、アレは初めて国を出たばっかりで興奮してただけっていうか、そ、それに私が居なくなったらこの国は……お父さんだって!」 「でも、本音だったろ? それに王様はこの前「勇者が婿ならこの国は安泰じゃのう」とか言ってたし。勇者が庇護する国に攻め入ってくる奴が居れば、その時は俺が潰してやる。監視役も兼ねてやるよ。横暴な執政だったら拳骨してやる。」 「で、でも……その………そ、そうよ!どこで暮らすつもりよ!!」 「魔王城。うちよりも凄いかもってびっくりしてたろ?」 そうして、ティアナが頭に登った血が徐々に降りたところで、その微かに潤んだ瞳で勇者に尋ねた。 「…………あ、アンタは……その、私が……いいの?」 「いや、お前以外にも声はかけるよ?」 「は?」 空気が凍った。 「皆に声をかけるんだってば。俺は俺の事を好きな女の子達でハーレムを作ってみたいんだ。俺が好きな俺の事を好きな女の子を集めてみたいからどんなに辛くっても勇者頑張って来たんだ。ここで一人に絞るだなんてセコイ事はしたくn」 直後、王女の部屋で爆発騒ぎが起きた。 「ふっざけんなこのバカーーーーーッッッ!!!!」 ティアナは宙を舞う黒焦げの人影に罵声を浴びせて、窓を力強く閉めた。 「……はぁぁぁあぁ……アイツにムードを欠片でも期待した私が馬鹿だったわ……。」 そうして、どっかりと椅子に座り 「……でも、皆が皆あいつに着いていくなら……私も、行こう……かな。」 堀に落ちて『失敗したな』とでも言いたげに頭をかく男にべーっと舌を出した。 『「煉獄の魔術師」王女ティアナ』 勧誘失敗 to be contenued...