皮に包まれメイド喫茶で働くことになった少年の話 5
Added 2021-06-04 08:59:13 +0000 UTC名札って普通なら胸元に付けるものじゃないのか!? なんでこんな所に…… 「そして、ここにあるのがあなたのこのお店における名前ですね。」 「んっ!?」 店長が名札を持ち上げる。当然の様にビーズが引っ張られ、お尻の穴と有り得ない位置にある尿道が刺激される。 「ほらほら。ちゃんと見て下さい。」 「分かりました。分かりましたからあんまり引っ張らないで下さい。」 名札を無理やり引っ張られ、数珠状のビーズが身体から引きずり出される。おしっこやウンチをしているときに近いけれど、それとは明らかに違う感覚。 自分の意志で身体から出すのなら感じるのは気持ちのよさと解放感だ。けれど力ずくで勝手に引きずり出された今は違和感と不快感しかない。背筋を逆撫でされたようなゾクゾクとした気持ち悪さ。けど、それだけじゃない。言葉に出来ないけれど、何だか妙な感覚も同時に襲ってくる。 「見て下さいってば。それとも、もっと顔に近づけないと読めません?」 「ま、待ってください。見ます。見ますからこれ以上引っ張らないで。」 そのまま持ち上げられたせいで上下が逆になっているものの、何とか名前欄に書かれた『慕生魅瑠玖』の文字は読み取れた。 「ぼ……なま? えっと、すみません。この名前ってなんて読めば……」 「読めませんでした? これはですね、『ぼにゅうみるく』と読むんです。これからお店に出た時は『ミルクちゃん』って呼ばれることになりますからね。」 いくら何でもその名前は酷いんじゃないか? それにぼにゅう? 羽生ならともかく、そんな苗字聞いたこともない。 「ですからミルクちゃんって呼ばれたらちゃんと返事をして下さいね。」 「は、はあ……んひっ!?」 店長が名札を手放す。重力に従って落下した名札が揺れ、股間へと刺激を生み出す。けどそれで終わらなかった。どういう仕組みなのか、垂れ下がったビーズがビーズがゆっくりと身体の中に戻っていく。 勝手に抜き出された時にも違和感があった。けど、本来出すだけにある場所に入り込んでくるのは比べ物にならないほど凄まじい違和感だった。 「さあ、それじゃ制服をお渡ししますね。契約通り、今日から働いて貰わなくちゃなりませんからね。」 「え、あ。はい。……これって。」 ハンガーにかけられた一式の制服を渡される。一応はメイド服と呼べそうな服だ。色は黒と白のみで、店で見たカラフルなメイド服とは違って落ち着いた雰囲気をしている。けど、決して普通のメイド服とは呼べそうにない。 俺の知っている普通のメイド服と言えば裾の長い黒のワンピースにエプロンをかけるってイメージだ。けどこの服はワンピースは黒だけど、胸元が開いていて覆われていない。下に着るシャツが見えてしまっている。ハンガーにかけられていても立体的に作られているとわかるシャツが大きく突き出していた。そのシャツ自体も胸元が大きく開いていて、これだとおっぱいの半分近くがさらけ出されてしまいそうだ。スカートの丈も短くて少しかがんだら下着が見えてしまうんじゃないかって程しかない。エプロンは腰に巻くタイプで、丈は短いスカートと同じ程度だ。 胸とエプロンの間、ウェストは細く絞られている。巨大に膨まされたおっぱいとお尻を強調されそうな作りだ。シャツとエプロンは基本的に白だけど、黒い模様が入っている、所謂ホルスタイン柄ってやつだ。背中側を見れば腰とお尻の境目辺りから牛柄の尻尾が生えていた。つまりこれは牛をイメージしたメイド服だってことなんだろう。 「あ、頭にはこちらを被って下さいね。」 「これも……」 メイドがよくかぶっている白い布の立てられたカチューシャ。けれどここにも牛の様な角と耳が付けられている。 「あの、これって牛をイメージしているってこと……ですよね?」 「えぇ、そうですよ。折角これだけ大きなおっぱいのメイドさんなんですからね。イメージを生かさなくっちゃ勿体ないでしょう?」 勿体ないもなにも、そもそも俺の本来の身体でなくそっちで用意した皮のせいなのに。 事前に教えられていなかったのは釈然としないけれど、これは仕事なんだと割り切ろう。 「それじゃあメイド服を着れるようにしますね。」 「え? 着れる様って、着方なら多分だけど分かりますよ。そりゃ分からなければ教えて貰わなきゃならないとは思いますけど。」 自由に動けるようになって改めて恥ずかしさが湧き上がっていた。 皮を着る前と違って今は裸じゃない。いや、一見すれば裸なんだけど、あくまでこれは皮で自分の身体じゃない。そう分かっているものの、どう見ても人の肌としか思えない皮に包まれていると本当の裸を晒しているようにも錯覚してしまう。 「いえいえ。そうじゃなくてですね。さっきの補正の続きがあるんですよ。仕上げと言ってもいいですかね。」 「仕上げ?」 店長の手が首元に伸びる。そう言えばさっき皮を閉じる時に指輪を当てて引き上げたっきりだったっけ。まだ首元にあの指輪が付いてるのか? 「はい、ちょっと我慢してくださいねぇ。」 「んんっ!?」 首元から何かが引きずり出されるような感覚。存在しない尿道からビーズを引っ張り出された感覚に似ていた。 けど……なんだろう。それとは明らかに違う。妙な喪失感がある。 「あのぉ、一体何をされたんでしょうかぁ?」 ……あれ? なんだ、今の。俺が喋ったんだよな? でも今の言葉遣いも口調も、思っていたのと違うような気がする。 「すみませぇん。これって一体なんなのでしょう?」 やっぱり。声自体を女の子っぽくされたのは分かっていたけれど、今のは喋り方まで女の子みたいだった。しかも妙に間延びのしたおっとり、というか気の抜けたような喋り方。言葉遣いも違ってしまっている。 「あら、契約書にちゃんと書いてありましたけど読みませんでした? このメイド喫茶で働く上で、サポートするためのシステムみたいなものですよ。」 「サポートぉ?」 意味が分からない。というか契約書なんてそんな細かいところまで読んでないのに。 「そんな心配そうな顔をしなくっても大丈夫ですよ。ほら、これを見て下さい?」 見せられたのはさっきちらりと見た指輪だった。けれど何もなかったはずの台座の上には不思議なものが付いている。人形、とでも言えばいいのか? 肌色をした人の身体の様なものが台座の上に直立している。 「分かりません? ほら、顔をよく見て下さい?」 「これってぇ、ひょっとして私ですかぁ?」 この皮の顔ではない。その下にある本当の俺の顔だ。よく見れば体型も俺を再現してる気がする。 「はい。働いてる最中にうっかりと地が出てしまったらアルバイトをしていることがばれちゃうかもしれませんよね。ですのでアナタの一部を抜き取ったんです。あ、抜けた部分には代わりに皮が入り込んでくれていいますよ。今口調や言葉遣いが変わったのは抜けた部分を補った皮のおかげですね。これで意識をせずとも別人を演じられるって仕組みです。」 いや、そんなこと……出来るのか? でも実際に思ったように喋ることが出来なくなっている。てか、あの指輪についている人形が俺の一部だってことだよな。 「そんなぁ。返してくださいよぉ。」 「心配しなくてもきちんと契約に則って返却しますから安心してください。それに、仕事の最中だって皮がサポートしてくれますからうっかりミスの心配だってなくなるんですよ?」 「うぅ。でもぉ。」 自分の一部が抜きとられ人の手の中にある。そんなの簡単には受け入れるわけがない。 「それならばアルバイトの契約を破棄します? 当然ペナルティもありますけどね。この人形だってちゃんとした手順で身体に戻さないと元通りには戻れませんよ? 契約を破棄した方相手にちゃんと戻してあげるなんてことはしませんし。」 そんなことを言われたら受け入れざるを得ない。 「分かりました。このまま働きますぅ。」 「よかった。じゃあ早速メイド服を着ちゃってくださいね。着方もサポートの中に入っていますから。」 「はぁい。」 出来るだけ不満げに了承したつもりが、何故か満面の笑顔を浮かべていた。