§ 極限までドロドロにされた僕は、多分、本当にすごい姿になっていたのだと思う。 ただでさえ大人と子供のような体格差。40㎝近い差では、のしかかっただけで潰れてしまう大きさ。それが今じゃ3分の1、数字では4分の1に近い差にまで変えられてしまったのだから、お尻なんかに勝てるはずがない。快感を植え付けられて、愛でイジワルされて。 女の子の底で蒸しあげられた僕は、結局、放心状態で瑠菜の視線にすべてを晒していた。 「……ごめん♡ やりすぎちゃった、かな?」 大きさを元に戻しながら、綿あめのような糖度の声がする。頭を撫でて、抱き上げ、小さな体をギュッと抱き締めた。 「照れ隠し、入っちゃったかな? 私もね、ちょっと、素直になれなくて……」 それから、額に一つキスして。 「お風呂入ってくるから、大人しくしてるんだよ〜……♪」 去っていった。 音の立てない歩き方だった。 彼女の音が聞こえてきたのは、しばらく経って、シャワーのホワイトノイズが響いてきた時。 シャワーの音が変化するたび、彼女の輪郭が聞こえてくる。扉越しに長躯が揺れ動く音、肌に弾かれ肌を転がる水の音。水音のスクリーンに空いた人型の穴が、瑠菜のシルエットを映し出していた。 だから、30分後、瑠菜が戻ってきたとき。 「……」 僕は赤面して顔をそむけてしまうのだった。覗き見していたような気分だった。 一方、ホカホカしながら髪を拭き、下着とシャツ一枚だけを羽織る瑠菜。ソファで蕩けている僕を見下ろし、さっぱりした顔をした顔で微笑んでいるのが可愛らしかった。 「す〜っごく疲れた、って顔してる♪ でもなんだか、頭ふわふわだね♪ 何があったのかな?」 「……イジワル」 頭を撫でくりながら、瑠菜は優しいお姉さん顔だ。これ以上刺激すると、この柔和な女の子はどうなるかわからない。甘えたい、包まれたい。それを今するわけにはいかないから葛藤しているのが、彼女は本当に面白いらしい。彼女だってただのママになるつもりはない。そうと知っている僕の表情は、瑠菜の悪戯心を搔き立ててしまうのだろう。 「とりあえず、保湿だけしちゃうから……。キミはそこで、ゴロゴロしているといいよ」 保湿クリームを取り出し、手にまとわせるお姉さん。そのまま腕に伸ばして、オレンジの香りを漂わせ始めた。 日常感のある行動と、瑠菜の綺麗な肢体。女の子の生活を覗き見しているような気分で、未だにどこか慣れない。いつまで高校の時と同じまなざしで彼女を見ているんだろう。もう、一緒に住んでさえいるのに。 ウロウロする視線に、瑠菜も気づいたらしい。こちらに振り向くと、ベージュ髪の少女はチューブと僕を見比べる。 それから、“お手”と言って僕に手を出させ、 「ん♪」 買ったばかりの保湿クリームを持たせる瑠菜。 続いて、キョトンとする恋人に、 「ん♪」 すらりとした、生脚を伸ばした。 「塗れって、こと?」 透明感ある美脚。足先の綺麗な造形から太ももへ一気にむっちり太くなる曲線が、長く長くこちらへ伸びてくる。普段黒タイツを穿いていることが多い分、肌色が眩しい。 それが、僕の脛をつついた。 「これでも、サービスのつもり、なんだからね?」 「……お姫様が言うなら、仕方ないかな」 チューブを絞って跪くと、足に手を触れる。無心で、そう、極力無心で肌にクリームを延ばして、“何でもないことだ”と自分に言い聞かせた。とはいえ、ふくらはぎから膝へと手を這わせていく段になればどうしても心が騒いでしまう。目がぐるぐるしてきた。どうしよう、自分でも困惑する。なんでこんなことだけで……。 ちびっ子が目を回しながら自分のケアをしているのは、多分、瑠菜じゃなくても何かを感じてしまう光景だったのだと思う。突き出した足にひざまずいて、自制心を乱されながら肌を手入れしている。お姫様のようだし、それ以上のようでもある。子供に自分の大人の肉体を手入れさせるも同然の光景。自分の存在が脅威となって恋人を追い詰めている事実は、彼女の心をくすぐらずにはいられなかった。 「……………♪」 ケアしている最中に、ヨシヨシと、頭を撫でられる。今そうされると、本当に奉仕させているみたいになるのだけれど。日常的な行為だったはずが、だんだん、おかしな方向に曲がり始める。それを拒める僕じゃない。だんだん、沼に引きずり込まれていく。 足の甲を撫でて、そこから、ふくらはぎのふっくらとした肉付きを撫であげる。脛に手を這わせれば、すべすべの肌はほんのりと艶をまとい始めた。ツヤを帯びた光沢が、透き通る肌の上を走る。膝も、ひかがみも、丁寧に塗ってあげて。 そして、太ももへ、手を進めた。 「…………っ♡」 内股に触れた瞬間、少女がピクッと震える。僕もくすぐったがりだけれど、単純に筋肉が薄いこちらと違って、敏感ゆえの反応だった。骨を厚くしっかり包むお肉と、その表面で張り詰める柔肌。手を這わせれば軌跡が残るほどに健康的な肉付きが、手の中で溢れて、むにむにたわむ。そして、水分をまとうと手に吸い付いて、ぴっとりくっついてきた。 ショーツのキワまで、太もも全体を撫で回す僕。内股の筋のうねりや起伏、椅子に乗っかる裏腿のどっぷり感が手のひらに踊って、頭がおかしくなりそう。でも、まだ片脚だけ。えっちなお姫様は、もう一本そびえている。 その様に、瑠菜が、くすりと笑った。 「目、泳いでるよ?」 「っ……!」 満足いく反応だったんだろう、少し、こちらに身を傾けると、 「キス、しても、いいよ?」 つま先に跪く僕に、ぽそぽそと囁いた。 美脚が伸びてきて、顎先をなぞりクスクス笑った。 「……しろって言ってる?」 「したいって、顔してる♪」 バカ、と僕は瑠菜の足先をはたくけれど、バカだ、抗えるわけない。足へキスさせられるという倒錯までの距離は、こんなにも近い。まただ。また簡単に、ゾワゾワさせられてしまってる。 その内、変な想像まで働いてしまって。 このまま頭を掴まれて、太ももに叩きつけられたらどうなるんだろう。僕の頭ほどの太さがある太ももに、べちんっと叩きつけられたら。暴力的に、容赦なく、顔を潰されたら。どうしても、そんなことを思ってしまう。重量感と弾力が想像できそうで、だのに実感がそれを上回るのもわかる。震える美脚と、風呂上りのもっちもちのお肉。言葉にすればそれは暴力なのだけれど、その分強烈に与えられるだろう肉感を思うと想像が止められない。 「……ゆうくん?」 多分、全て筒抜けだったんだと思う。我に返って見上げれば、目を丸くしている瑠菜の顔がある。 それから頬を少し染めて、撫でくる手を止めた。 ……無理やり、頭を叩き潰すようなことはしなかった。 ただ、手をするりと後頭部に回すと。 「……………」 ぐぐ……っ、とゆっくり太ももの方へ押し始める。ギリギリ抵抗できるくらいの、けれど明確な力加減で。こうして欲しいのと問いかけてくる、あるいは自分の衝動と戦っているような微妙な手つき。でも、その手が止まることはなくって。 「……ぐ、──ッ!」 鼻先が触れたと思えば、ふにぃっと顔面に広がる柔らか太もも。お肉のたっぷり溢れかえる腿に抱きついて、顔をうずめる構図だ。そして、じっとりした手つきで押しつけられる。まるまるとふっとい美脚の、大木みたいなボリューム感。そこに抱きついて、お風呂上がりの餅みたいな柔肌を感じてしまう。 太ももへの強制キス。二人で住む部屋の片隅、どこか背徳的な行為。 「……♡」 力を緩めると、僕の髪を指に絡めるように二、三度頭を撫でる。見上げれば、そこにはシャツを羽織っただけの長身女子の姿。胸からシャツがカーテンのように垂れ下がって、乳房を頑張って支えるブラの底が垣間見えている。こんなに綺麗で艶やかな女性に、こんなに情けない姿を見られるなんて。夢見た光景を与えられて抗えない、自分の弱さを今は、憎めないでいた。 でも、やられっぱなしも癪なので。 「………ほんと、イジワル」 僕は、ズボッと手をシャツの中に突っ込んだ。 大きな体が跳ねたのは、次の瞬間のこと。 「ひゃんっ?!」 反撃されるとは思わなかったのだろう、まともに跳ね上げる瑠菜。少女然とした軽やかな動きと共に、ゆさっと巨乳が宙に浮く。危うく顎先を蹴られるところだった。けれど虚を突かれた瑠菜は、すごく可愛かった。 瑠菜がジト目で僕を見下ろす。手を伸ばし、僕の体を持ち上げて。 「ちょっと、くすぐったい……、よっ♪」 向き合ったまま、僕をくすぐるのだ。細長い指に肌を這われるくすぐったさに声をあげるけれど、その膝の上から逃げられない。驚くような、情けなくなるような非力さが、今は妙に心地よかった。 それが一転、手を止める瑠菜。 「……はぁ。私たち、何やってるんだろうね?」 「急に正気に戻らないでよ」 「キミ見てると、もみくちゃにしたくなるんだよ~……」 そう言って、ぎゅうぅッと僕を抱き締める。頬をすり、すりっと擦りつけているけれど、それも半分無意識みたいだった。ミルクティー色のセミロングが、僕の顔をくすぐる。乳液とシャンプーの香り。僕は抱き返して、されるがままにしておいた。 「ちっちゃい……、こんな子、抱きしめなきゃ、損♪」 「人を赤ちゃんみたいに……」 「キミも、嬉しいくせに……♡」 そう言って抱きしめれば、オトナっぽいブラジャーに包まれた巨乳が、僕に抱き着いてむにぃっと押し広がる。しっとりとした谷間を押し付けられて、頭がどろどろになり始めた。彼女のハグに抗えない彼氏なんて、多分僕くらいのものだろう。まだ、縮められてすらいないのに。 「……ボディケア、まだ終わってないでしょ」 「ん……。残りも塗って、ね……?」 このままだと、何時間でも抱き責められそうな勢いだった。ようやく腕を離してもらった頃には僕は汗ばみかけていて、半ば頭も溶けかけている。そして、ふわふわした気持ちの視界の中で、瑠菜はこちらに背を向けると。 シャツを脱ぎ。 「瑠菜……?」 生背中の、一面の曲面美を広げたのだ。 「背中、まだだから……」 本当に、本当に綺麗だった。 真っ先に目に入る、女性の華奢な肩と肩甲骨。白い肌に陰影が落ちて、柔らかな彫刻のよう。そこから広がる、女性的な背中のシルエット。たおやかに流れる背筋と、くびれて広がる腰のラインが、どっしりとしたお尻の丸みへと繋がっていく。 広くて細い、美背中。思わず抱き着きたくなる、透明感ある後ろ姿。それが、ソファの上に寝転がる。 「優しく、してね?」 「……善処します」 からかう瑠菜の、くびれのあたりに、手を下ろす。ピトッと触れる僕の手に、少し瑠菜の体が跳ねた。そして手が上へゆっくり伸びていくにつれ、少し吐息を漏らしながら、僕のマッサージを受け入れる。 しばらく、瑠菜は無言でいた。 ぽつりと口を開いたのは、半ば背を塗り終えた後のこと。 「……ごめんね」 「いいよ、このくらい」 ただ、瑠菜はすぐにそれに答えなかった。 一つ呟いたのは、 「嘘でも言っちゃいけないこと、あったよ〜……」 それだけ。 どう返せば良いかわからず、僕はしばらく肩甲骨あたりを塗り続ける。そんな小男にさせるがままにしてから、瑠菜は。 「それにしても……」 少し溜めて。 「何であんなこと、言ったんだろうね?」 しれっと、そんなことを言うのだ。 ずっこけそうだった。 「知らないよ! ……いや、それは自分もそうか……」 「キミも、酔ってる時の方が、よっぽど普通に話せてたよ?」 「ちょっと、変な精神状態になっちゃって……」 「……もしかして私たち、まずい領域に踏み入ってない……?」 瑠菜にしてみても、極端な体格差は何かを狂わせてしまうらしかった。いつからそういう性癖になったんだろう。きっかけがあったのか。或いは長身に生まれついたからか。僕の下に広がる、華奢で広い媚背中。塗ってあげればあげるほど再確認するその大きさは、僕みたいに極端なわけではないけれど、それでも上位5%の長身なはず。 生背中に手を這わせ、チビがお姉さんのお世話をする。寝そべって横に“むにぃっ♡”と溢れる巨乳が、滑らかな表面を垣間見せていた。見ていいんだろうかと悩みつつ、ぽつぽつと会話は続いて、時計が思い出したように音を立てた。 首筋へ、肩へ、そして最後に、背筋をするりとなぞり上げる。 仕上げだった。 「終わったよ」 「ありがと」 僕を乗せたまま身をもたげようとする瑠菜から、慌てて降りる。おっきなイルカにでも乗っている気分だ。 「抱き着いてみる? 背中、キミ、好き?」 「……今日はやめとく」 「今日は、ね」 ふふっと笑いながら、シャツを羽織って、なにやら探している。 そして袋を手繰り寄せ、パッケージを開けると。 「あとは……、保湿手袋買ったから、試してみようと思うんだけど」 僕に手の甲を差し伸べ、ふわっと笑う長身美少女。 もう片手でハンドクリームを握らせて、どうも、手先の手入れを要求しているらしい。 「これ使って?」 「ん、わかった」 けれど、瑠菜はニコニコしたまま。 それからスルリとそれを解くと、人差し指で僕の手のひらを撫でて。 「握って?」 耳元に、意味深に囁いた。 「……?」 訝しみつつ、言われたままにする。握りこぶしから少し先端の覗く指。体格差があるとはいっても、さすがに握りこめば指が余る、 はずだった。 「……あれ?」 なぜか、指が回りきらない。おかしい。今なお手の中で膨らむ指。慌てて見やれば、瑠菜の手にはスマートフォンが握られている。 縮小の時間だった。 「えっ?! えっ!?」 慌てて手を放そうとする僕の手を掴み、瑠菜がそのまま指と指を絡める。するりと忍び込む細指が、ほっそりとした大きな手が、ギュッと僕を捕まえてしまう。そして、こっそり、囁いた。 「大丈夫、今度は、間違えないから……♪」、と。