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夏目なつめ
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果てなき楽園の寵児たちは(サンプル)

§ 「…………やっぱ、増やし過ぎ、かな」  いや、明白だ。増やし過ぎだ。もう、100や200という数じゃない。バカ。私の、見境なし。  でも増やしてしまったものは仕方ない。最後まで面倒を見るのが、筋というもの。とはいえ、やはり多いものは多いのだ。 「……これ、全部生きてるんだよね……」  棚にズラッと並んだタッパー。そのの中にそれぞれ、豆粒のようなものが100個ずつ。私は業者か何かか? しめて1000は数えるんじゃないか。 「いや、でも、管理はできてる、はず……」  試しに一つ、手に取ってみる。  食品用のただのタッパー、箱の重さしか感じない中には、布が敷いてあるだけで取り立てて目立ったところはない。  けれど、その中を開けると。 「「………………!」」  無数の点が一斉に蠢き、こちらへ寄ってくるのだ。  人間。  違う、元人間。  縮小病の、なれの果てだ。  それが、最近の私のお気に入りだった。 「みんな元気かな? ……指入れるから、問題ない子は寄ってきてね」  箱の中に住まう小人たち。それが懸命に愛慕を示しているのだから、頬が綻ばないはずがない。1㎝サイズの小人、もう米粒程度の重みしかない命が100個。私の手の中に納まっているのが、本当に、本当に不思議だった。この子たちだって、元は私と同じ大きさ人間なはず。それが縮小病になって、この大きさにまで縮んでしまった。  そんな彼らには、もう私しかいないのだ。  社会から手厚い保護は望めない。もちろん、社会に参加できない人は他にいる。でもこの子たちの場合、自ら人間であることを放棄してしまったのが問題だった。体の大きさが、心の容積も決めてしまうらしい。一般人の巨大さに、心を粉々に砕かれて。もう、小動物としてしか生きたくない。自発的に求めなければ与えないのが世の中の残酷なところ。何より、上位の存在から施しを受けるという事態が理解できなくなっているらしい。  そんな、どうしようもない自分。無に等しい自分たちに、こんなに手厚く保護してくれる女の子がいるのだから。  彼らにとって私は、救済者以外のなんでもなかろう。 (そんなに深い意味ないんだけどな)  確かにはじめは、慈善の情が1ミリくらいはあった。店から買わず捨て猫をもらいに行くのに近い。けれどいつしか趣味、蒐集癖に代わっていって、今じゃマンモス校みたいな大所帯だ。1000人集めたって、私の指一本の方がよほど重い。なので大した手間ではないが、1000の命には変わりない。  そう思うと、自分の体が恐ろしく感じてしまうのもまた自然なこと。この子たちには私、どんなふうに見えてるのか。  もう、何度思ったかもわからない。  何度、鏡に目を運んだかもわからない。  ただ返ってくるのは、本当に、何の変哲もない光景だった。  ネットで買った普通の姿見。  普通の部屋で、普通に立っているだけの鏡面。  そこには、私が一人立っているだけだ。  ……多少、大きいところはあるかもしれないけれど。  いや、やっぱり、かなり目立つ。  映るのは、すらりと高い身長と、主張の激しい体つき。“女性的”な、そう、マイルドに言うならそう表現すべきシルエットだった。長めの茶髪はボブカット、Tシャツとホットパンツだけのラフな格好。暑いし気楽だからこの格好だけれど、シャツはパツパツで露出した生脚は生々しく、体のラインが丸見えだ。  巨人として恵まれた体型は、小人にとっては脅威だろう。どうもそれが慣れなくて、柄にもない善人を演じてしまう。    そのぎこちなさもまた、笑い草なのだけれど。 「何か、困ってること、……ある?」  なぜ顔も見えない小人たちにこんなに下手なのか。片や手元からは、弾けるように声が聞こえてくる。上位の存在の問いかけに、黙ってはいられないのだろう。  まあ、米粒一匹の声が聞こえる訳もなく。 「えっと……、ちょっと、声、聞くね?」  指先に一人を乗せ、そっと耳元に近づける。いや、耳の穴にほとんど入れてしまう。そうしてようやく、か細く聞こえてくる小人の声。 「ん、……ごめん、もうちょい大声で……」  恥ずかしい。耳内を覗かせるなんて。念入りに、神経質なくらい綺麗にしているとはいっても、体内は体内。それを顕微鏡越しのようなスケールで見つめられているのだから、全身が羞恥で火照ってくる。見せたくなくて思わず、指で栓をしてしまった。暗くなった耳内で、不安げに私を呼ぶ声が罪悪感を生んで。 「……ご、ごめん」  でも耳元に集中していると、手元がおろそかになるというもの。  胸元で不穏な物音が聞こえたと思うと、 「あ、ごめんッ!」  蓋をひしゃげて、箱にずっぽりと胸がハマりつつあった。  ああ、私の無駄肉がまた粗相を……。  申し訳なくなるくらいに、ボリュームのある乳房。恵まれた体つきがかえって恨めしい。あちこち死角の多くなるこの体じゃ、粒っ子たちを世話するのも一苦労だ。 「ほんと、ごめん……」  なるべく怖がらせないのが私の常、なぜって、私の気分が悪いから。この子たちがどう思っているかは知らないけど、自分が巨大な存在であるというのは女性にとってはやはり恥ずかしい。私だってかわいいものが好きだ。それが、100倍サイズの巨人だなんて……。  巣箱は普段、目線の高さに置いてあげている。足元から見上げた私は、この子たちにとっては160m、30階建てのビルと同じ。目の前に振り下ろされる足だけで、失神させてしまうかもわからない。足跡だけで25mプールを作ってしまえるような足が、どこまでもそびえる光景。それが私だなんて、考えるのもぞっとしない。  多分。この子たちは、気にしてない。むしろ逆だろう。私の大きさを、欲しがっている。同じ存在だった過去を、忘れたがってる。今更戻れないのだから、叶えてあげるのも優しさだろうか? ただ、徹底的にモノ扱いするとなると、それまた処遇に困るのだ。 「……ご飯だよ。お食べ。ケンカしないで、平等に分けること。良いね?」  複雑な気持ちをごまかして、なるべく静かに、食事を箱の隅に落とす。粉々に砕いたウェハース。幸い知能はあるから、手はそこまでかからない。……元は一般人だから、当然か。  けれど今、彼らは給仕されるのを心から喜んでいる。  それが、私を癒してもくれるのだ。  本当に、何度見てもいじらしい光景だった。  わらわら集まり、両手いっぱいの菓子屑を分け合う子供たち。それが、指についた粉もしっかり綺麗にしていく。小さい。びっくりするくらいの小ささ。カプセル錠剤に3人は入ってしまえるサイズだ。  もう、最初に拾った子が誰かもわからなかった。  彼ら自身、そのちっちゃな頭でどこまで明確な記憶と思考を保っているのか。あまりの小ささと卑屈な態度に、研究もさほど進んではいなかった。 「……ん、どうしたの?」  食事を終えても、指に群がる数人。  どうも、愛着を示しているらしい。 (縮んだらみんな、こうなるの……?)  訝しまずにはいられない。もう一人一人識別するのも難しい点々が、私の指にこびりついている。何をしているかもわからない。自然な感情の発露としか思えない。  自分に群がる無数の“人間”。彼らにとって私は唯一絶対の存在で、中には女神が何かだと思っている者もいるらしい。  客観的に考えれば、ありそうな話だ。けれど私はただの人間で、ただの飼い主でしかない。それに、この子たちも元は同じ立場だったはずなのに。  だのに豆人たちは、私をおそらく崇めている。  奇妙な気分だ。  やはり考えずにはいられない。彼らの目には、私はどう映っているのだろう。特段縮めたりはしていないにせよ、手のひらの上にさえまとめて載せられてしまう途方もなさ。私は間違いなくこの子達より上位の存在で、かつ無償の愛を注いでいる。それを女神と呼ぶことは、この子達には自然なことだったろう。  そう思うと、やっぱり応えてあげたくなるのが人間というもので。 「いいよ、遊んであげる……」  ベッドに横たわり、カゴの一つを傾けた。手を添えてやれば、箱の内から次々に手のひらに乗船していく小人たち。女性の手だって、この子たちにはテニスコートほどもある空間だ。ふにふにとした起伏に足を取られ、手相にハマったものを数人がかりで引き上げたりしている。  ダメだ。胸がキュンとしてしまう。 「大丈夫、他の子たちも後でしてあげるからね」  私に触れられるだけで光栄なようだった。途方もなく大きな私を、より近くで感じたい。その大きさに圧倒されたい。私の巨大さを知れば知るほど、それに嘉される喜びが襲ってくるのだろう。  まして、体の上に乗せてもらったら。ベッドに寝そべる16000㎝の女体の上を、歩かされたら。  私の巨大な肉体の、巨大なあれこれに、圧倒されてしまうのだ。 (おっぱいだけで7階のビル……、ううん、ドームみたいなもの、なんだよね……)  そうでなくても持て余す大きさなのに。それが今、人間という比較対象ができてしまう。否応なく感じる、おっぱいの大きさ。思わず、顔が赤くなってしまう。  大きい。物々しいくらいに。びっくりするくらいに。自慢じゃないと言えばウソになるけれど、彼らに対してはあまりに過剰だった。もはや物量というべきGカップのボリューム。これじゃ、胸から下の体が全く見えない。 「いいよ、登っておいで。……そこじゃ見えないから、遠慮しなくていいよ」  この子たちに羞恥心なんて感じる必要はない。この子達は気後れしているようだけど。  それでも、巨乳の裾野いっぱいに広がって、下乳や北半球、谷間から粒々たちは這い上がってきた。  けど、妙だ。 「……?」  小人が一定間隔で、落ちてはよじ登ってを繰り返している。  しばらく観察して、ようやく気付く。  私の分厚い乳房の奥、静かに心臓の立てる鼓動が、彼らを跳ね上げているようだった。自分の拍動なんて、そうそう目視することなどない。けれど彼にとっては、1㎜だって10㎝の縦揺れ。丸く柔らかなおっぱいがそれだけ揺れて、彼らが振り落とされないはずもなかった。  定期的に“どぷんっ♡ どぷんッ♡”と突き上げ、まとった香りと熱をまき散らしながら自身を跳ね飛ばす女神の乳房。無意識な呼吸は大きく地盤全体を押し上げ、繰り返し粒を上空へ連れ去っていく。ふもとの人々からはどんな光景が見えていることか。どっぷり広がる100倍バスト。ブラのロープの軋む音さえ聞こえてくるほど張り詰めさせて、繊維の格子が膨らんではしぼむのも見えているのだろう。  どうしてだろう。  少し、イタズラしてやりたくなった。 「ちょっと痒いから……、ごめんね、よけてね?」  優しく優しく囁きつつ、ストっと指先で撫でてやる。人差し指は3人をまとめて圧し潰し、乳肌がたわむと数人まとめて転げ落ちていった。  なんていうか、重機で子猫を撫でようとしている気分だ。  やっぱり、危ないな。  慌てて手を退け、下ろしてあげると、 「ん、もう大丈夫……。あっ、ごめんっ!」  どうも、ベッドマットに沈み込んだ手で数人吹っ飛ばされたり潰されたりしたらしい。それだけじゃない。慌てた声に吹き飛ばされた子、大きく膨らんだ胸に弾き飛ばされた子、そのたくさんの悲鳴が伝わってくる。そちらを覗こうとすると、長い髪がふわりと、ずっしりと、小人たちに襲い掛かってしまった。 (あ、これ、動けないかも……)  気づけば小人たちは、私の上から転がり落ちてらあちこちへと散らばっているようだった。ベッドの大地は私の巨体で大きく沈降し、彼らを輪郭にぴっとり侍らせている。下手に動けば潰してしまう。でも、この子たちが自力で脱出できるかどうか。  自分が大きすぎて、私自身その図体を持て余してしまう。いや、私はただの、160㎝の人間なのだけれど。  ま、まあ、彼らが楽しんでいるなら……。  が、実際は、そんな呑気な話ではないようだった。  最初に気づいたのは、私のお尻の下で、何かが肌をくすぐっているのを感じた時。 (……ん?)  スマホのカメラ越しに、そちらを見る。  画面には、一面に広がる私の太ももが、どっぷりと鎮座していて。そこにパラパラと、砂をまぶしたような点が散らばっていた。それから、やや青ざめる。 (あ、やっば……)  ホットパンツからぷにっと溢れ出たお尻の下。盆地のように沈み込んだマットの奥に、下敷きにされている子がいたのだ。10人ほどでなんとか引っ張り出そうとしているけれど、とてもじゃないが歯が立たない。当たり前だ。この子たちは私の重さの100万分の1。髪の毛でさえ重くて引きずれないチビたちだ。そんな非力な子達が、私のお尻なんかに勝てるはずない。指先ですら彼らには絶望的なのに。    それだけじゃない。ふくらはぎの下敷きになっている者、髪の中に溺れて、1人ではどうしようもできなくなっている者。あちこちで私の肉体に圧し潰され、一部にされ、私が助けてくれるのを待っていた。幸い小さすぎて潰されはしないが、建物の下敷きになって怖くないはずがない。  残りの子達は、なんとか寝ている女神から離れようとしているけれど、ベッドの上からじゃ絶対降りられない。ケージの中では、仲間を助けようとみんなが必死に私を呼んでいる。  気づかないうちに私は、愛し子たちのパニックの中心になっていたらしい。  注意してようやく聞こえてくる、静寂の中のさざなみの音。絶叫している。私を中心に、誰も彼もが混乱に陥っている。  それを、意識しているうち。  ──何か。言葉にできない何かが、ゆらりと胸中にくゆり始めてしまって。 「…………」  素知らぬ風を装って、お尻をわずかに上げる。快哉を叫び、慌てて逃げ出そうとするペットたち。  そこに、ストン、と。  まとめて、お尻で、ブッ潰し。  “ぐり、ぐりぃっ♡”と思いっきり踏みにじった。 (あ、これ、すご……っ♡)  デカすぎてホットパンツからはみ出た尻肉や裏腿に、一挙に広がる小人たちの絶叫。太ももの間に囚われた子達が、助けを求めてお股や美脚を這いあがろうとしては落っこちる。サワサワと、刷毛で敏感なところをくすぐられている感覚だった。  “じわぁっ♡“、と、湿った火照りが滲み出た。  だから、思わず。 「……んっ♡」  “キュッ♡“と、太ももを閉じてしまうのだ。

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