§ カリスは下界に降り立つことにした。 地表の光景が、美しかったからだ。 《……こんなの、久しぶりだなー》 虚空に、不意に幻想的な穴が開く。そこから漏れるのは、澄んだ細い少女の声。ついで、美しい足が、体が現れて。 《……ふぅ》 ふわりと降り立ったのは、豊かな銀髪と、蒼い瞳の美少女女神だった。 神秘的な雰囲気をまとった、永遠の少女性が降り立ったのだ。 《ん、久々に形を持ったけど……。やっぱり、物の器って窮屈ね?》 そう言って、自身の姿を確認するカリス。それは、天界の薄い服を身にまとい、銀髪少女の形を取った神性だった。 長い銀の髪はふわりと広がり、目には夜明け前の澄んだ青。まとうのは、真っ白で、ワンピースのような簡素な服。その短い裾は、長く色白の美脚を隠せていない。夢の中から現われたような、生命力と少女性の象徴。それが彼女だった。 《うんうん、ちゃんと顕現できてる。さすが私♪》 白魚のような指を握ったり。すらりと長く、むっちりとした少女の生脚を曲げてみたり。最後に銀髪をふわりと手で広げ、自分の物質態に満足する美少女女神。 それから、周囲の光景に目を向けると。 美少女は、その目を輝かせた。 《……わぁ、すっごい!》 広がっていたのは、一面の朝霞。 見たこともないほどきめ細やかな煙が、足元に揺蕩っていたのだ。 《素敵、すっごく幻想的♪》 地面に降り積もった煙は処女雪のようで、太陽に照らされ一面が輝いている。雲ひとつない世界に純白が広がって、銀世界のようだ。カリスの髪色に似た純銀は、星とエーテルと共に生きる彼女にも驚きだった。 《でも、こんな場所あったかしら? 地形が変わったのかしら。それともここって、別の星?》 うーんと小首を傾げ、少女はしばらく思案する。足元には、銀雲に覆われた地表が、特に起伏もなく伸びている。見上げれば、空は切ないほどに青く晴れ、大気が薄いのか宇宙の群青色。 地球に来たつもりだったけど。 久しぶりの実体化で、間違えちゃったのかな? とはいえこの女神は、深く考え込むタイプでなかった。 《うんうん、多分別の世界だよね♪ だってこんなところ、来たことないし……》 何より、目の前には見たこともないほど綺麗な雲。緻密な煙は、ずっしりと地面に横たわり漂っている。ゆっくり動いてもいるようで、どうも、少女の好奇心をそそる光景だ。 《これ、なんだろう……?》 恐る恐るそこへ踏み入ると、綺麗な裸足が、ゆっくり純白の中に埋もれていく。手応えはない。やはり雲煙のようだ。ひんやりとした感触も足を撫でて気持ちよく、期待以上の感触。雲海のような光景と、この冷涼さに、少女の心が疼いた。 《♪》 ゆっくり足を差し入れて、カリスは不思議な感触を楽しんだ。つま先が地面に触れれば、サクリと不思議な肌触りが足指を撫でる。霜柱が立っているらしい。もっと感じたくて踵を下ろせば、小気味良い刺激が足裏全体に広がった。 《……んっ♪ これ、気持ちいい♪ ふふっ、もう片足も……、ひゃんっ♪》 ゆっくり足を踏み入れて、もろ出しの美脚で雲煙に立つ少女。無邪気にはしゃぐ光景は、まるで海に足を浸す少女のようだった。 実際、それは不思議な感触だった。 霞で湿った裸足に、ぴっとり張り付く地面。足指の間で霜柱はホロリと崩れ、足裏には微細な砂が肌をくすぐっている。濃い煙の下は、一面の雪か霜柱で覆われているのだろう。きっと綺麗な光景に違いない。でもそれを直接覗くのは、なんだか興醒めというものだ。 興が乗って、ピョン、ピョンっと跳ねてみる女神。むっちりとした美脚が白を纏って、綿飴のように肌に絡め取っていく。足を掲げると、もやに濡れて輝く生足。足指の間では、雲の残滓が尾を引き、足先から散る微細な雫は、光に煌めいて美しかった。 そんな朝霞へと踏み入っていき。 カリスは、ひとつのことに気づく。 《あら? これ、厚くなっているのね》 踏み込んでいくにつれ、雲はだんだん厚く、高くなっていく。どうも、真ん中が膨らんでいるらしい。海を掻き分けるように歩いていけば、もう白煙に腰元まで埋もれてしまうほど。まるでスカートだ。すっかり太ももは、煙の下に隠れてしまった。 加えて、カリスは。 ふと、足に違和感があることに気づく。 太ももが、足が、妙に冷たい。 《?》 少しふくらはぎ同士をこすりつけてみせると、ツルツルと滑らかな感触。元々肌はつるりと若々しいけれど、明らかに滑りが良すぎる。抜いてみれば、もう生足はびしょ濡れだった。 《あーあ、濡れちゃったなー。そんなに霧が濃いのかな? ホントに、海に入ったみたい……》 すっかり濡れ切った女性的な素足。そこから太ももにかけて、徐々に濡れ具合が薄くなっていき、透明のタイツを穿いたような光沢だ。 それでも、カリスにとってはさしたる不快感でもない。 しばらく立ち止まり、雲を手に乗せてみたり、手ですくってみたり。 それが、しばらくすれば、様子も変わってきた。 《……ちょっと、何これ、まとわりついてくる……!》 モクモクと、煙が立ち昇ってきている。体熱で温められた空気が、上昇してきたらしい。雲にまとわりつかれて、カリスにしても面白くはない。おまけに足も濡れてしまったものだから、女神は雲を払うことにした。 脚で、軽く雲を蹴飛ばし。 むっちりした太ももで、それを掻き分けていく。 《えいっ♪ ふふっ、なんだか海辺で遊んでるみたい♪》 太古の昔、まだ人と神の共に住んでいた頃を思い出す。その時もこんなふうに、ザブザブと波打ち際を歩いていったものだ。 そんなノスタルジーが、女神はくすぐったく笑って。 鼻歌まじりに、雲の中を歩き、蹴散らし、踊るようなステップで、幻想的な世界を楽しんで行った。 ⁂ 女神の戯れが、他愛もなく、語るほどでもない話であれば。 こちらはもはや、語り継ぐ者もいない話であった。 それに、強いて枕を置くならば。 その日はどんより暗く、雲の重い日であって。 それはそれは、陰鬱で憂鬱な雨空であった。 中には胸騒ぎを覚えるものもいたようだが、大半は低気圧のせいだろうと、痛む頭を抱えて仕事に向かう。 流れ出す日常は、現代的で。 重苦しくも現実的。何もかもが、滑らかに、精巧に、緻密に噛み合って進行していたのだった。 だが。 だがそんな中、遠来のように、何かが轟いた。 日常の亀裂に、銘々立ち止まる。電線が揺れる。看板が落ち、悲鳴が上がった。 それが、もう一度、今度はより細やかな音で響き渡り。 二度、三度と、徐々にこちらに近づいてくる。 そして、次の瞬間。 雨雲が、夜のように真っ暗な色に染まり。 不意に、大きく沈み込み始めたのだ。 どよめく人々の声に呼応するように、雨が一瞬土砂降りに変わる。黒々とした雑巾を絞り出したような大雨。それとともに暗雲が、楕円型にググッと突出してくる。こちらに身を乗り出す黒い塊。 ついで、それが散り散りに、踏み破られると。 途方もなく巨大な天体が、顔を現した。 たおやかない起伏を持った、独特の造形。 星に似つかわしくない滑らかな表面は、透き通る乳白色をしていて。 それが、足なのだと。 山より巨大な足なのだと。 誰も、そう誰も、理解することはなかった。 ──その前に、爆風が全てを吹き飛ばしたからだ。 《♪》 天空を踏み破って現れた、女性的な素足は耽美だった。けれど、10000倍の足裏が作り出したのは世紀末的光景。足指に雲の残滓を絡め、不気味な速度で沈んでいくおみ足大陸。凄絶なまでの足裏は視界にすら収まりきらず、山の向こうへ隠れている。 そして、アポカリプスには似つかわしくない艶かしい造形で、街をめちゃくちゃに吹き飛ばしてしまう。 《ふふっ、ひんやりしてる♪》 迂闊な女神が、無遠慮にも数千mもの巨大生足で街に踏み込む。 あまりの巨大さに、その接近だけで大気を圧縮し、人を車を吹き飛びしてしまう始末。 そして巨大天体のように、ゆっくりゆっくり落下していけば、既に足指は数百メートル上空。超高層ビル群をクッキーのように粉砕していき、堅牢な鉄骨全てを一瞬ですり潰し、どころか爆風だけでなぎ倒していく。 そして、大地に激突した瞬間。 同心円上に広がったのは、壊滅的な威力の衝撃波だった。 《──んっ♡》 大陸を銅鑼にして、メチャクチャに叩きつけたような轟音。柔らかおみ足は、衝撃波と共に地盤を跳ね上げさせる。“ずっしいぃ……!“と何十mも地面へめり込むと、ふっくら足裏で大地を爆砕してしまうのだ。次々に砕け散った岩盤が舞い上がり、足周辺に放射状に飛び散った。 《あはっ♡ サクサクして、気持ちいいかも♪》 200mを超えるビルだって、カリスの足指の厚みにすら届かない。運良く足指の間に挟まった高層ビルが、ぷにぷにの肌に軋まされ、一瞬で粉塵へと変えられてしまったのは次の瞬間だった。ほろほろと崩れるビルの中、人間たちは足指のキメへと挟まったり、そのまま貼り付けられたり。それも、美少女がムズムズと足指を擦り付けると、跡形もなく練り潰されるだけだった。 たった一歩で、この惨禍。 だがカリスは、足跡一つつけるために来たわけではない。 《んっ♪ これ、気持ちいい♪ ふふっ、もう片足も……、ひゃんっ♪》 鼻歌をまじえながら、もう片足も雲の中に差し入れていくカリス。あの世紀末が、山二つ隔てた先で巻き起こる。一瞬雨雲を照らす、爆発の光と電気の閃光。摩擦により雷が落ちれば、おみ足メテオの轟音に光を添えた。 そして、山体を砂山のごとくひしゃげさせたのだ。 それが、女神の蹂躙の、第一歩だった。 《〜♪ こんな綺麗な青空、地上にもあるんだね? 私、見直しちゃったかな〜♪》 また、一歩。重低音とともに、カリスが足を持ち上がる。 少し踵が上がると見えたのは、足裏にびっしりこびりついた、街そのもの。地盤ごと剥ぎ取られた街区が、少女の足裏に寄生させられる。しっとりおみ足は肌の水分だけでベッタリ人間界を貼り付け、まるで砂まみれの足だった。 無論、周囲の街も無事ではない。道路で、配管で、地面で繋がる辺り一帯さえも、上空へと引きずり上げられる。ついで、持ち上がる足裏に大気が持ち上げられるれば、周囲の空気塊が吹き込んだ。巻き起こる竜巻。足裏はそれを引き伸ばすように上空へと舞い上がる。 その急上昇だけで、全てのビルは、瓦礫にまで粉砕されてしまう。そして、おみ足の上昇が止まると、パッと残骸の花を開かせた。 ひらひらとゆっくり落ちていく、人、物、街。あまりのスケールに、終端速度さえ遅く見えるほどだった。 ぽろぽろと足裏の楽園から追放される、人間界。 それを尻目に、2000mおみ足は。 遠く遠方に、閃光と爆轟を響かせた。 《ふふっ♪ ひんやりしてて気持ちいい♪ サクサクしてるし……霜柱かな?》 雲上で、ゆったり歩く可憐な美少女。幻想的な光景に胸を躍らせて、少女の心を満たしていく。雲海は恒星の光に煌めいて、空には宇宙の群青色がほんのりと。足を洗う冷涼さは気持ちよく。サクリサクリと崩れる霜柱が、裸足に快い。可憐にピョンっと飛び跳ねては、無邪気なあそびに夢中だった。 だから。 だから、一歩ごとにその足が大地を引き裂き、地獄より悲惨な光景を作っていることなど知りもしない。工業地帯を踏み潰せばガス爆発が起こり、一歩であたり一帯が停電すれば、電線をスパークが走り抜ける。暗い雨空の中で業火が広がり、それを足メテオの爆風が吹き飛ばしていく。輝きを許されるのはおみ足だけ。エロい足裏がくねり、猛速度で大地に叩き込まれる。 それが、何歩も、何十歩も繰り広げられるのだから。 この大陸はあまねく、カリスの足拭きマットも同然だった。 《天界も嫌いじゃないんだけどね?》 “ずっどんッッ!!“と足裏を叩き込み。 《こういう驚きはないっていうか……》 “ぐりんっ♡ ぐりんっ♡“と重々しく足を左右に振る度、山も平野も、平らにならされていく。 そして、山より巨大なおみ足を、振り上げると、 《もっともっと踏んじゃおっ♪》 女神は、人々に足裏を見せつける。 次いでぴょんっと跳んでは。 大陸に、ほっそりとした足跡を刻み付けていった。 《〜〜♪》 軽いステップで、世界を踏み鳴らす銀髪女神。無遠慮に何十歩と蹂躙するものだから、もう美おみ足は、街の汚れでいっぱいだった。 スタジアムより巨大な足指は、指紋すら2メートルの堀。その中にぎっしり詰め込まれた人々は、女神の神性に興奮しながら自我と肉体を破壊されていく。何万人もの人間が、足指一面にこびりつきコワされていくのだ。瓦礫は何億トンと汚れおみ足に張り付いて、ふっくらとした起伏を薄く煤けさせていた。 そんな中で、女神も何かに気づいたようで。 《あら? これだんだん厚くなっていってるのね?》 そう言って、ズンズンと大陸の奥へと進んでいくカリス。 まるで水中を歩くように、雲を太ももで掻き分けて。後には雲が渦を巻き、その軌跡が空に刻み込まれていく。 そして、地図帳に足を置くように。 現実の街へ、何万人も生きる大都市へ、数千mの足が、叩き込まれてしまうのだ。上から見れば、すとんすとんと足の置かれていくだけの光景。それを下から、砂粒サイズとなって見上げれば、終末の光景はもはや理解の範疇を超えていた。 立ち去る後に残されたのは、少女の美しい足拓だけ。足跡アートのように無数に散らばる足拓は、女性的で耽美ではあった。だがその一つ一つでは、煙と炎が煮えたぎり、濛々と煙を上げている。少女の足が街も地盤も練り潰し、圧によって高温に熱していたのだ。乱流によって巻き起こされた竜巻たちが、足裏の形を這い回っていく。足型の地獄だった。 そんな、足跡が点々と、伸びていき。 続く先には、しっとり柔らかそうな美少女の足裏。 それが、雨霞の向こう、隣街を爆砕していくのが見えた。 結局進撃が止まったのは、雲の最も分厚い場所に女神が到達した時であった。 《ここが真ん中かな? ふふっ、ひんやりしてて気持ちいい〜♪》 立ち止まる数千mの巨柱。周囲の全てを無意識に蹂躙した虐殺おみ足が、ようやくその侵略を止めるのだ。 厚い雲を、腰にまとい。 何キロも何キロもそびえ立つ、むちむち美脚。 それは、あまりに異様な光景だった。 ザーッと雨音の響く街の真ん中で、雲を貫きそびえる肉感の塔。その圧倒的な姿に引き比べれば、雄大な山脈でさえ足指の厚みに叶わず、世界有数の都市すら地に生える苔も同然。俗世に闖入した場違いな肌色は、物も言わずそこにそびえ立ってただただ煽情的だった。 人々はそんな光景を前に、どうすることもできない。 顔も見えず胴さえ雲の上。見せていただけるのは唯一、女神の美脚だけだ。気づかれないまま剥き身の生脚を見せつけられ、ずっしりみちみちの肉感美に興奮させられる。まるで盗撮しているような視点。少女のむちむちの太ももをローアングルから眺め、無意識のエロスが街に光り輝く。 おまけに想像を絶して巨大なのだから、人々は宗教的感情さえ催す始末だった。 《あれ、足が濡れてる? んー、これ、本当になんなんだろ?》 “ずずぅ……ん“とでも形容すべき轟音を立て、すりすりと身を擦り付けあうふくらはぎ。足指もくねり、あまりにエロい造形を晒し出す。途方もないその重みに、地盤が骨折する音が響き渡った。カリスが足指をくねらせれば、“ドドドッ!!“と連続して大地を穿つ直径数百メートルの足指惑星たち。そして、再び静かになると。 人々に、無言で絶望を要求するのだ。 《久しぶりに来たから、世界間違っちゃったのかな? なんかここ、見たこともない形してるし……》 自身が10000倍に実体化してしまったのにも気づかず、周囲を見回す16000m娘。 確かに雲の上は白く輝き、幻想的で、異世界的であったろう。 だから、雲の底。 地獄のような光景にそびえ立つ自身の美脚の状態など、意識すらしていなかった。 それは、8000mを超えてそびえ立つ、ぴっちりギチむちの生太もも。 雨に濡れ、その肌に幾つもの雨粒の蛇が這う。雨を弾く若々しい肌はうっすら輝き、雨空を照らしてさえいた。神々しいほどのバベルの塔。そんな極太の太ももが、濡れてはさらに艶っぽく曲線美を曝け出し、生肌を輝かせ、ぬらぬらと光沢さえ帯びていく。ぴちぴちの肌、どっぷり極太のむちエロ太もも、それがずっしりとした肉感のままに、神の鉄槌を下していく。 だが動かずとも、存在するだけで10000倍美脚は脅威だった。 《ふぅ、ちょっと、汗ばんできちゃった……♪》 雨に濡れた、むっちり太もも。その少女の柔肌が、“むわあぁっ♡“と体温を振り撒来始めたのだ。 エロく甘い香りが世界に満ちる。雲で密閉された待機の中に、永遠の少女のフェロモンが溢れ出す。代謝が旺盛な4000m美脚は、それ自体が巨大な熱源。冷たい雨を蒸発させ、濛々と湯気立っていく濡れ濡れおみ脚。 それが立てる上昇気流は、猛烈だった。 心躍る少女の香りが、物々しいまでに満ちた世界で。 ぬるくなった大気が流れ出し、風となり、徐々に強まっては。 少女を台風の目として、暴風と化していった。 《……ちょっと、なにこれ、まとわりついてくる……!》 温められた空気が雲を押し上げれば、雲は少女の肌を這い上がらされる。そして限界に達すると、ドレスのように女神にまとわりつくのだ。それを振り払おうと振るのは、当然だった。 カリスは、手でそれを払いのけると。 今度は脚にまとわりつく雲を、蹴散らし始めた。 《えいっ♪ えーいっ♪ あはっ、雫がキラキラして綺麗〜♪》 足を振り上げれば、濡れたつま先からキラキラ光る小さな粒。だがそれに、無数のビルの残骸が混ざっているとは気づかない。カイスは雲に夢中で、足元の山脈を蹴り飛ばしていることに気づきもしない。 踏ん張り、大地を掘削する足指。 剥ぎ取られ、そのまま蹴り飛ばされる大都市。 エロい太ももはぶるんっと震えて、飛び散る雫で隣国まで爆撃していく。 その激震は、大陸全体を震わすに十分だった。 もう、どこにも安全地帯などなかった。遠く、雨のベールの向こうに繰り広げられていた光景が、ゆっくり、鮮明になってこちらへ近づいてくる。雨霞の向こう、雲が裂けたり、雷や爆発が起きたりしたと思えば、雨の間から、ゆっくりと艶かしい肌色が迫ってくるのだ。 足指の間にびっしりビルを挟み。 指紋に、何万人もの人間をこびりつかせた少女の足裏。 人間界をすり潰し、ぐちゃぐちゃに貼り付けた、10000倍濡れおみ足。 それが、こちらへ、一歩。 核爆発のような威力を、大地に叩き込んだ。 《んっ……♡ このサクサクって感じ、好きになっちゃったかも♪ 霜柱なんて天界にはないしね♪》 “ピョンっと飛び跳ねると、雲を突っ切り降ってくる幅1000mものつま先。あの惨禍がカジュアルに、気軽に繰り広げられていく。そしてあちこち練り歩いては、人間たちにその絶対性を知らしめていった。足の下で、爆発が、絶叫が、絶望が、終末が起きていることなど知りもしない。 気ままに歩き、ぎっちり太ももで雲を掻き分け、ペタペタと裸足を押し付けて。 何万人もの人々へ、おみ足爆撃を降らせていった。 地上からは、いつ上に足が降ってくるかもわからなかった。雲の上へと消えては、雲ごと嫋やかな生足が落下してくる。土足が自身の上を通り過ぎたり、遠くから突然近くを爆砕したり。地面に這いずり回る人間に、雲は神との断絶を示すものとさえ思えた。 カリスにしてみれば、ただの霞だというのに。 もちろん人々は、どんな存在に終焉を迎えさせられているも知る由もない。声はあまりに膨大で、現れるのは、むちむちのエロスだけ。 けれどそれに切り裂かれ覗いた雲間に、一瞬、一瞬女神の後ろ姿が広がった時。 《あはっ♪ すっごく綺麗♪ 楽しいし気持ちいいし、また来ちゃおっかな?》 その無邪気な笑みに、人間の寄せる絶望の広さといったら。 まさかこれほどの天変地異を繰り広げ、それがわざとでないはずがない。とすればあの少女は、破壊の女神なのだと。 カリスの笑みの純朴さが、かえって人々を畏怖させた。 ただ彼女は、霞を楽しんでいるだけなのに。 けれど、破壊神が再び足を上げた時。 そんな笑顔が、不意に驚きに変わった。 振り上げた、ずっしり美脚に、バランスを取られ。 思いっきり、尻で俗世へ飛び込んだのだ。 尻もちだった。 《あっ……》 あれほど、巨大であった足。 それより何倍も巨大な生尻が、降ってきた時。 短いワンピースが、パッと広がり。 現れたのは、幅何千mものデカ尻。 何も身にまとってない、むちむちの尻鈍器だった。 《きゃっ────!》 身を守る必要のない女神に、下着などという概念はない。ただ薄布一枚着ただけで、生の尻を雲の上で降っていたのだ。つま先からお尻まで、滑らかに連なる裸のむちむち女体。それが雲を突っ切ると、豊満な下半身全てを見せつける。星を消し飛ばせる威力の、ずっしり太ももと、巨大生尻隕石。 そんなものが、突如雨雲を消し飛ばし、凶暴なエロスで世界に影を落とす。航空写真のような光景を、全て多い尽くす尻の影。そしてそのまま、一気に世界へ降り注げば──! 星に、亀裂が走ったのだ。 《きゃあああっ!!!!》 言葉にならない光景だった。 数千mの生尻が、平野に“どんむ゛うぅッ!!!“と突き刺さる。それだけで噴き上がるマグマ。プレートがひしゃげ、尻の形に捻じ曲げられる。ついで“ずだんッ! ずどんッ!!“と太ももが降ってくると、山脈を粘土のように叩き潰してしまう。 そして、どっぱあぁ……っと尻肉が平野に溢れ出すと。 生尻は、人間世界ごと大地に、クレーターを穿ってしまったのだった。 《いったたた……》 押し流されていく雲の中、銀髪女神は“もーーっ!“と可愛らしく痛みを叫ぶ。そのむちむち下半身で、文明を消しとばしたことなど知りもしない。既に尻の底ではマントルが吹き上がり、生肌に塞がれては周囲に噴出していた。跳ね上がったりズレたりしたプレートは、対蹠地に山脈を作り上げている。陥没した大地には、深さ何百メートルもの尻型がクレーターを掘るばかり。 一方の10000倍女神は、雲の真ん中に尻餅をついて、己の不憫を嘆くだけ。 《ううっ、汚れちゃった……》 手のひらを見れば、地盤ごと剥がれベッタリ張り付く巨大都市群。尻の底にはマグマが滲んでいるが、女神の気づくところではない。 《あーあ、やりすぎちゃったかな? 楽しかったのになー。でも、やっぱり……》 ため息をつき、数万mもの巨体が立ち上がる。パンパンと手を叩き、尻を叩けば“ぶるるんっ♡“と弾んで地殻を跳ね飛ばした。 《でもやっぱり、物の器って不便!》 それからカリスは、無邪気に言い放つと。 あれほど巨大であった存在を、ふっと消してしまった。 天界に、帰ってしまったのだ。 少女の占めていた空間に、大気がなだれ込めば。わずかに残っていた雲も、掻き乱されて霧散していく。 そこには、女性的な形の、足跡が、何百個もクレーターを穿ち、二つの手形と。 特大の尻拓とが、残されるだけだった。