キバ道の回はここで書くこと特に無いんでおまけ代わりに僕の飲酒エッセイ(笑)を置いておきます。 残業で遅くなった夜。会社を出て駅までとぼとぼと歩く。へとへとだ。なにせ晩飯も食ってない。長い残業をする日は大抵そうなる。忙しいから飯を食う余裕など無く、デスクに隠し持っている非常食のチョコレートを頬張り、給湯室の少し濃すぎるコーヒーを安っぽい紙コップで流し込むくらいなものだ。仕事をこなすための最低限のエネルギー補給。生きる為ですらない、目の前の仕事を片付ける為だけの摂取。仕事が片付いた後に残るのはうんざりするほどの疲労感と空腹だけ。そんな夜は、会社の最寄駅にある日高屋に飛び込むことになる。 日高屋は関東を中心に展開しているチェーンのラーメン屋だ。中華そばが一杯390円、半チャーハンとセットで660円。日高屋が関東に住み働くサラリーマンの胃袋を支える一助となっている事は想像に難く無い。若い頃はランチでよく入ったし、昔ほどではないけれど今でも昼飯に390円の中華そばを啜る。 どちらかというと最近は、昼より夜に入るだろうか。気心知れた仲間と池袋あたりで痛飲した夜、部活帰りの女子中学生が友人と別れるのを惜しんで夕暮れの道端で長々と立ち話と洒落込むのと同じように、解散するのがなんとなく惜しくて終電を気にしながらはや足でなだれこむのが日高屋だ。うすぼんやりとした居酒屋とは打って変わった馬鹿みたいに明るい店内で、馬鹿みたいに中身の無い会話をしながら餃子をつまみにビールをやる。気だけは若いから締めに油そばだのつけ麺だのを注文し、はちきれんばかりの満腹感を抱えて家路につく。こんな生活をいつまで続けられるだろうか。五十路絡みのオヤジ達が日高屋で310円のウーロンハイを舐めているのを見るにつけ、俺もまだまだ飲めそうだと勇気づけられる反面、将来の自分を見ているようで悲しくなりもする。 脱線したが、残業終わりで疲弊した今の自分に必要なのは、とにもかくにもまずは酒。それから飯だ。このふたつを可及的速やかに、かつリーズナブルに提供してくれるのが日高屋という訳だ。ビールとメンマ、それから餃子あたりを注文して腰を据えて飲みたいという助平心をぐっと抑え、卓につくなりカタヤキソバとレモンサワーを注文する。今日の注文はこれだけ。終電の時間もあるし、明日の朝も早い。飲みたい気持ちと早く帰りたい気持ちの落とし所が、俺にとっては日高屋のカタヤキソバとレモンサワーということになる。 酒とツマミをあらかた片付けてから締めに重いものを食うのが尋常な飲み方であろうが、事情によっては最初から締めのメシで一杯やることもある。これを俺は飲みメシと呼んでいる。飲みメシの要諦は諸所あるが、詰まるところはいかに酒を楽しく飲むかという点に尽きる。白米と味噌汁をかき込みながらビールを飲んでも味気ないことこの上ない。持論だが、カタヤキソバ、あるいは皿うどんは飲みメシとしてトップティアに位置している。 麺類は伸びると不味いというその性質上、飲みメシとしての適正は低いだろう。パスタ系は伸びはしないが、冷めると麺がくっつき決まりが悪い。もり蕎麦と冷酒の素晴らしさは歴史が証明しているが、あれはあくまで蕎麦屋のつまみを一通り堪能した後にもりを手繰るのがいいのであって、最初から飲みメシとしてもりをやるのは個人的には野暮だと感じる。まぁ蕎麦周りの飲み方については議論が紛糾するためあまり深くは触れたくない。 カタヤキソバ、あるいは皿うどんは飲みメシとして最高だ。中華餡の染み具合により麺はその表情を変えていく。パリパリとした食感も、染みきってくったりとした食感も、酒にアテるにはもってこいだ。酒は炭酸系ならなんでもいいだろうし、人によっては冷酒や紹興酒あたりでやっているかもしれない。カタヤキソバの懐の深さだろう。俺は大抵レモンサワーでやる。夏にはビールでやることもある。 レモンサワーをちびちびと吸っているところに湯気を立てながらカタヤキソバが運ばれてくる。皿の端に塗り置かれたカラシが心憎い。一口目は無論そのままいく。パリパリと駄菓子のような食感とその味が、なんともレモンサワーに合う。パリパリを一通り堪能したら酢を回しかける。カタヤキソバに酢は絶対に必要だ。酢がなければカタヤキソバなど頼むまいと毎度思う。もし試したことのない人は是非やってみて欲しい。発祥の長崎ではソースをかけると聞いて昔やってみたことがあるが、あれはあれでいいものだ。具をつまみながらレモンサワー。しんなりし始めた麺をつまんでレモンサワー。二杯目にいくかどうか迷う日が多いが、二杯だとどうしても足が出る。酒の方が余るのだ。そんな時は仕方なくメンマかなにかをとって場を繋ぐのだが、今夜は流石に余裕がない。一杯のレモンサワーを、砂漠のど真ん中で抱えた水筒の中の水のように大切に飲む。うずらの卵が嬉しい。俺がレモンサワーを飲むのを見越しているとしか思えない。豚肉は皿の中で一際輝いているようだ。脇を固めるもやしも良い仕事をしている。ブロッコリーにはたっぷりのカラシを。薄切りのカマボコ、これは麺と一緒に。途中で胡椒を振り、あるいはラー油を垂らし、刻一刻と変化する麺を楽しむ。たった一皿のカタヤキソバでなんと豊かな飲み方ができるのだろうか。疲労も空腹も忘れ、折れて短くなった麺を丹念についばめば今日の晩酌はお終いだ。お気に入りの音楽でも聴きながら帰ろう、そう思いながら終電近くなって混み合っている電車に乗り込む。疲労と空腹を抱えている時には死にたくなるが、多少のアルコールで痺れた頭でやり過ごす。明日もなんとか乗り切ろう。また疲れ切ったら、日高屋でレモンサワーを飲めばいいのだから。
伝説のプレインズウォーカー-がーら・酒呑み
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