身も心も、魂も
Added 2022-10-23 16:26:08 +0000 UTC3000字くらいの短編です。そのつもりだったんですがいつの間にか10000字超えてました、筆がすごく乗った。女の子がおじさんと入れ替わって、最後は魂まで入れ替わっちゃうやつです。魂まで入れ替わるのってマジでエッチで最高っすよね……分かる……。
そこは、都内にある何の変哲もないビジネスホテル。いくつものドアが立ち並ぶだけの殺風景な廊下を歩いていたのは、その場に似つかわしくない制服姿の少女だった。
「ちょっと、ジロジロ見ないでくんない?邪魔なんだけど」
「あっ……す、すいません……」
前方からやってきて、彼女を目にしたかと思えば見惚れるように足を止めたサラリーマン風の男に睨みつけながらそう言うと、相手は委縮した様子でその場を立ち去っていく。
制服姿の女子高生がビジネスホテルにいる、という状況に驚いたということもあったのだが、彼が足を止めた一番の理由はその女子高生の容姿にあった。どこか気が強そうな印象を受ける整った顔立ちは言うまでもなく、腰ほどまで伸びたグレージュカラーの長い髪は、彼女が歩く度にふわりと揺れる。制服は着崩したセーターの下に覗くシャツは大胆にも胸元まで大きく開かれ、スカートは少し風が吹いてしまえば中が見えてしまいそうな短さで……ふと、振り返ったかと思うと、未だにこちらに視線を向けている男へニヤっとした笑みを浮かべ、スカートをたくし上げて見せた。
「えっ……ちょっ……!?」
「あははっ!じゃあね、お・じ・さん♪」
小馬鹿にしたような声でそれだけ言い残すと、彼女はひらりと手を振って再び歩き出す。男は唖然として、しかしその股間を膨らませつつ彼女の姿を見送ることしかできなかった。
(あー、おもしろ。あのおじさんも、帰ったらアタシのパンチラでも思い出して寂しくおちんちんシコるんだろうなあ、ふふっ♪)
彼女、松永亜美は自らの優れた容姿に自覚的だった。学校でも街でも男から言い寄られたりいやらしい目つきで見られることがしょっちゅうで、かといってそれに不満を覚えるようなこともなく、むしろそういった相手を今のように弄ぶことに悦びを見出すような性質を持っていた。
やがて、ある部屋の前で立ち止まりコンコンとノックをする。数秒もしないうちにドアが開き、中からは全身がでっぷりと太った、覇気のない中年男性がおずおずと姿を現した。
「あ、亜美ちゃんだよね?待ってたよぉ。しゃ、写真で見るよりもずっとかわいいね……」
「そういうおじさんは写真で見るよりもずっと不細工じゃん?」
「うっ……」
「あははっ、じょーだんだってば!それより早くどいてくんない?中に入れないでしょ」
「あっ、ご、ごめんね……」
男は慌てて道を開け、亜美に言われるまま部屋の奥へと引っ込む。その様子を見てクスッと笑いながら、彼女は部屋に入ると我が物顔でベッドに腰掛けた。
「で?早速だけどさ、おじさんはなんでアタシになりたいって思ったわけ?」
亜美がニンマリとした笑みを浮かべながらそう尋ねると、男はビクッと身体を震わせてから彼女に目をやる。
「な、なんでって……べ、別に、そんなの教えなくたっていいじゃないか……」
「ダーメ。アタシが知りたいんだよね、ふふっ、わざわざ大金払ってまで他人になりたいって、どんな気分なのかなって。おじさんはアレかな?今流行りのLGなんちゃらってやつとか?」
「うぅ……」
「別に教えてくれなくてもいいんだよ?そしたらアタシは何もしないで帰るだけだもん……あ、手間賃くらいはもらうけどさ。 で?黙ってちゃ何も分からないんだけどなぁ」
口ごもる中年男に対して、亜美は愉しくて仕方がないと言わんばかりの声色でそう言い放つ。
彼女がこれからしようとしている行為。『身体を貸す』という行為。相手がそれを望む理由を知ることは、彼女にとって何よりの楽しみだった。――自分になりたいという相手の動機を知ることは彼女にとって、相手を見下し、嘲り、優越感に浸るために欠かせないことだったのだ。
やがて、俯いたままの男はぽつりぽつりと語り始める。
「そ、その……ぼ、僕は、昔から自分に自信が持てなくて……。そ、それに、ほら、こんな見た目だろ?だ、だから、学生の頃なんかは女の子にモテたこと、いや、話したことすらなかったし……」
「くすっ、そうなんだ?それでそれで?」
「う、うん。それで……そ、そんな時に亜美ちゃんの噂を聞いてね。き、君みたいなかわいい子になれたら、僕ももっと、自身が持てるようになのかなあ、なんて、思って……」
「へえ~、おじさんはちょっとの間アタシになれるだけで、自分が変われるとでも思ってるんだ?」
「うっ…………」
その言葉に、男は気落ちしたように視線を落とす。そんな彼の様子を見て満面の笑みを浮かべながら、亜美は言葉を続けた。
「あははっ、萎えすぎでしょ!いいんじゃない?アタシもおじさんのこと応援するよ~、ふふっ♪ それじゃあ始めるけど、その前にほら、お金」
「あっ……う、うん。ほら、これ……」
そう言うと、男は分厚く膨らんだ封筒を亜美に手渡す。
「えーっと……よし。ちゃんとあるね、まいどあり~。それじゃあやろっか」
「う、うん……。え、えっと、僕はどうすればいいのかな……?」
「おじさんはなんもしないでいいよ、こっちで全部やるから。……あ、でも動かないでいてもらえると助かるかな」
受け取った封筒を鞄にしまうと、今度はその中からなにやら液晶の付いたリモコンのような物を取り出す。彼女が数ヶ月前に偶然拾ったこのリモコンは、使用者と他人の身体を入れ替えるという効果を持っていた。とはいってもずっと入れ替わったままということはなく、あらかじめ設定した時間――今回の場合は5時間が経てば自動で元の身体に戻り、時間内であっても再度リモコンを使えば元に戻るという代物。彼女はこれを使い、自分でもその自覚がある"美少女の身体"を他人に貸すことで、高校生ながらにしておよそ"小遣い"の範疇には収まらない規模の大金を荒稼ぎしていたのだ。
「それじゃあ、えいっ!」
「えっ……うわぁっ!?な、何これ!?ぼ、僕の身体が……!?」
ピッ、と短い電子音が鳴るのと同時に、2人の"肉体だけが"、動きを止めて力なくうなだれる。全身がぼんやりとした光に覆われたかと思うと……するっと、その光とともに全裸になったもう1人の亜美が、男が、虚ろ目でだらしなく口を開けている自身の肉体から抜け出ていった。
「あ、亜美ちゃん……こ、これっ、どうなってるの!?まさか僕たち、死んで……」
「あー、そういえば言ってなかったっけ。入れ替わるときはこんな感じで、一回幽霊みたいになっちゃうんだよね」
「ゆ、幽霊って……」
「あははっ!もう、そんな心配しないでよ。アタシだって何十回もやってるけど全然平気なんだから……あ、ようやく始まったみたい」
「うわっ!?」
しばらくして、その場に留まっていた2人の幽体がゆっくりと動き始める。亜美の幽体は男の肉体へ、男の幽体は亜美の肉体へと、2人の意思とは関係なく引き寄せられていく。
(うーん、ちょっとの間だけとはいえこの不細工でデブなおじさんになるんだよね……。ま、身体を売ることに比べたら100倍マシだし、我慢我慢)
どんどんと引き寄せられていき、眼前に来た中年男の肉体を見下ろしながら、亜美はそう自分に言い聞かせる。彼女と同じように、男の幽体も困惑した表情を浮かべながら亜美の肉体に引き寄せられていき――そして、2人の幽体が自分のものとは異なる肉体に触れたかと思うと、触れたその箇所から少しずつ吸い込まれていく。
「あ゛ぁっ!?う゛っ……ぁ……うぅぅ……」
「んごっ!?あ……あぐっ……ぅ!?う゛、ぅ゛ぁぁ……」
やがて、幽体が互いの身体へ入り切ったかと思うと、2人は同時に痙攣し始めた。まるで身体へ入ってきた異物に拒否反応を示しているかのように、苦しそうな呻き声をあげ続ける。しかし、それも長くは続かなかった。彼らの肉体へと入り込んだ幽体に適応していくかのように次第に痙攣は収まっていき……やがて、ビクッと一際大きく身体を震わせたかと思うと、2人は同時に瞼を開いた。
「うぅ……あ、あれ……?ぼ、僕は、一体……」
「ううん……よし、今回も上手くいったわね。ていうか、やっぱこの身体重くて動かしづらい……。おじさんさぁ、ダイエットでもした方がいいと思うよ」
「えっ!?ぼ、僕……!?なんで僕が目の前に……!?」
「なに今更驚いてるの?身体を入れ替えたんだから、そりゃ目の前にいるでしょ。ほら、鏡」
「あ……う、うん……」
男は先程とは打って変わった様子で、ハキハキと喋りながら亜美に手鏡を渡す。一方の亜美は普段の自信に満ちた態度が見る影もないほどおどおどとしていて、恐る恐る手鏡を覗き込むと、驚いたように目を丸くした。
「わ……す、すごい!ほ、本当に僕が女の子に……亜美ちゃんになってるんだ……!」
「ほら、ちゃんと入れ替わってるって分かったでしょ。……あのさ、そろそろ鏡じゃなくてこっち見てくんないかな?この後のこと説明したいんだけど」
「あっ……ご、ごめん」
少し苛立ったような声色と、くぐもった低いダミ声で男は亜美を威圧する。亜美はビクッと身体を震わせると鏡を置き、あろうことかベッドの上で正座すらしている始末で、普段の彼女を知っている者が見れば間違いなく目を疑う光景がそこにはあった。そんな亜美の……本来の自分の身体を見て苦笑しつつ、男は言葉を続ける。
「えーと、おじさんはアタシの身体で出かけたいんだっけ?」
「う、うん……そ、その、1回でいいから女の子の身体でショッピングとか、してみたいって思ってて……」
「それは別にいいんだけど、変なことしないようにアタシもついていくからね。今までのやり取りでも言ってきたけど、アタシの評判を落とすようなことは絶対に許さないし、もしヘマしたらその場で元の身体に戻すから。それと――」
男は指折り数えるようにしながら、つらつらと注意事項を述べ始める。亜美はそれを黙って聞いていたが、少しずつ自分が別人の身体に……先程まで目の前にいた美少女の身体になっている自覚が湧いてきたようで、自身から発せられるほのかに甘い女の子の匂い、ブラジャーに包まれている重たい胸の感覚にどぎまぎしながらも、男の話に耳を傾けるのだった。
***
「あー、ほんと疲れたぁ……おじさんの身体マジ最悪なんだけど!次にアタシと入れ替わるまでにはちゃんと痩せてきてよね」
「う、うん……その、ごめんね……」
数時間に及ぶ外出を終え、2人は再びホテルの部屋へと戻っていた。2人の身体は未だ入れ替わったままではあるが、リモコンの機能が事前に設定していた時間通りに動作すれば、後数分で元の身体に戻るはずの時間になっている。
男は部屋に入るなり、どかっとベッドに腰を掛け、亜美はそんな彼の機嫌を伺うようにおずおずとその場に立ち尽くしていた。
「ふぅ……。それで、おじさんは半日アタシとして過ごしてみてどうだった?」
「す、すごく楽しかったよ!お、男の身体だと行きづらいとことかに行けたのもそうだけど……な、ナンパとかされたり、お店の人とかに嫌な顔をされなかったのも新鮮で……。な、なんだか亜美ちゃんのおかげで自信がついたような気がするよ」
どもりながら、しかし嬉しそうにそう話す亜美の言葉を聞いて、男は内心ほくそ笑んでいた。普段の生活がどれほど悲惨なものなのかは知らないが、今日『亜美』が体験したことは『亜美の身体』になっているからこそ味わえたものだ。当然、元の身体に戻ればそれらは再び得難いものになってしまうわけで、その体験をもう一度味わうために『彼』は再び入れ替わりを求めると踏んでいたのだ。これまで入れ替わった他の男たちと同じように、大金を携えて。
「そう?それならよかったな~、ふふっ♪ それじゃ、そろそろ元の身体に戻ろっか」
「あ、うん……。そ、それなんだけどさ、ちょっといいかな……?」
「何?」
「え、えっと、その……あ、あと1日だけでいいから、亜美ちゃんの身体でいさせてくれないかな……?」
「……はぁ?」
予想外の申し出に、男は怒気を孕んだ声をあげる。親しみやすいような態度から一転して苛立ちを見せた男を前にして怯えたように身体をビクつかせるも、亜美はそれでも震えた声で主張を続ける。
「あ、亜美ちゃんの身体になれて本当に楽しくて……その、やっぱりまだ、僕の身体に戻りたくなくなって……。い、1日だけでいいんだ!そ、そしたら満足するから……」
「あのさぁ、自分で言ってて自己中だって思わないわけ?アタシにもアタシの生活とか用事とかがあるって分かるでしょ。ていうか、1日入れ替わるだけのお金持ってんの?」
「な、無いけど……で、でもっ……!」
「あっそ、話になんないわ。あーあ、おじさんは物わかりの良い人だと思ってたのになぁ……ちょっと、それ、どういうつもり?」
男は呆れたようにため息をついていたが、ふと、あることに気づくと再び苛立ちで顔を歪める。男が睨む方向には怯えた様子の亜美がいて、その手には彼女の持ち物であるリモコンが握られていた。
「こ、これがないと入れ替われないんだろう?……か、身体を貸してくれないんだったら、このリモコンも……あ、亜美ちゃんの身体も返さないからな……!」
亜美はリモコンを強く握りしめながら、絞り出すような声でそう言い放つ。男は驚いた様子でしばらく目を丸くしていたが……やがて、堪えきれないといった様子で吹き出した。
「な、何がおかしいんだよぉ……!」
「あははは!あー、いや、こんなに大胆なことする人だとは思わなくてさ。ちょっとの間でもアタシになれたからって調子に乗っちゃったのかな?ふふっ」
「ぼ、僕は本気で……」
「たまーにだけど、いるんだよね。おじさんみたいに恥知らずな人が。だからアタシも対策を取ってるってわけ。 これ、何のアラームか分かる?」
男はポケットからスマホを取り出すと、画面を操作して亜美に見えるように掲げる。画面に映し出されたアラームの残り時間は1分を切っていた。
「わ、分かるわけないだろ……」
「それじゃあ教えてあげる。おじさんには言ってなかったけど、リモコンを使う時にどれぐらいの時間だけ入れ替わるかって、設定ができるんだよね。で、このアラームはそれに合わせて設定したやつだから……元に戻るまであと30秒ってとこかな?」
「そっ、そんなの聞いてないぞ!ズルじゃないか!」
「ズルしてアタシの身体を借りパクしようとしたのはおじさんの方でしょ?そのお返しはあとでたっぷりしてあげるとして……あ、鳴った。楽しい時間もこれで終わりだね?お・じ・さん♪」
「うぅ…………」
亜美はその場に崩れ落ちるようにしてへたり込み、その様子を見て男は心底愉快そうな笑い声をあげる。
やがて来る、元の身体へと戻るその時を、亜美は後悔と絶望の入り混じった表情で、男は愉悦に満ちた歪んだ笑みでもって待ち続ける。しかし――数秒、数十秒、1分、2分と、どれだけ待とうがその時はやって来なかった。
「な、なんで……?ちょっと誤差はあるとしても、流石に遅すぎるでしょ……」
余裕の表情を保っていた男の顔にも、少しずつ焦りの色が見え始める。そんな彼の様子を見て、亜美は少しずつ目に光を取り戻していった。
「あ、あは……あははぁ……!な、なんだか分からないけど、元に戻れないみたいだね?」
「調子に乗って……ちょっと、それ寄越しなさいよ!」
痺れを切らした男は、嬉しそうに笑う亜美からリモコンをひったくる。慌てて状態を確認するが……どういうわけか、拾った時から操作メニューが表示されていて、消し方すら分からなかった液晶画面が今は消えてしまっていた。
「ちょっ……はぁ!?なにこれ!?壊れた!?電池切れ!?ちょ、ちょっと、勘弁してよ……!!」
自分の身体を取り戻すために必死にボタンを押し続けるが、一向に反応はない。しかし、このままリモコンが動いてくれなければ、彼は一生今の身体、自身が見下していた中年男の身体のままになってしまう。その焦りからか、男は何度も必死に、今は自分のものになっている丸く太い指で強く押し込むように、祈るような気持ちでボタンを押し続けた。すると――
「あっ」
ばきっ。そんな乾いた音が響いたかと思うと、彼が持っていたリモコンから何かが床に落ちた。それは何かの部品のようで……ケースが割れ、液晶もひび割れてしまったリモコンからは、次々と破片やら部品やらが零れ落ちていく。
「嘘……ち、違う、ダメだってばこんなの、やだ、やだやだやだ……!!」
床に散らばったそれらを必死にかき集めるも、このリモコンを作ったわけでもない、そもそも機械音痴の男にはどうすることもできなかった。亜美は何が起きているのか分からずただただ呆けていたが……やがて今の状況を理解し、今借りている美少女の身体が永遠に自分のものになったのだという考えに至ると、心底嬉しそうな笑みを浮かべてみせた。
「は、はは……ははははははっ!!よ、よく分からないけど、それ、壊れちゃったし……も、もう元に戻れなくなったんだよね!?ははは……!あと1日どころじゃない、こ、これからはずっと、僕が亜美ちゃんに……!」
亜美は歓喜に打ち震えながら、新しく自分のモノとなった身体をぎゅうっと抱きしめる。腕に当たる柔らかな胸の感触と、それが潰されているこそばゆい感触。女性にしか味わえないその感触。それをいつでも味わうことができる今の身体が自分のものになったことを改めて実感し、彼女は絶望している男のことすら忘れ悦びに耽っていた。
「やだ……どうしよう……!あ、あなたもへらへらしてないで直すのを手伝ってよ!元はと言えばあなたのせいなんだから!」
「ふ、ふふ……!手伝うわけないじゃないか。……そ、それにもう決めたんだ。これからは僕が亜美ちゃんとしてこの身体で生きていこうって。だ、だからさ、亜美ちゃんは代わりに僕として、そのおじさんの身体で生きていってよ」
「このっ……!!」
男は彼女に掴みかかろうと立ち上がろうとしたが、すぐに膝から崩れ落ちてしまった。よく見れば男も亜美も、まるで意識を無くしてしまったかのように動きを止めていて……2人の全身がうすぼんやりとした光に包まれる。やがて男の肉体からは可愛らしい全裸の美少女の幽体が、亜美の肉体からはでっぷりと太り全身にムダ毛を生やした汚らしい中年男の幽体が、それぞれ困惑した様子で抜き出て行く。
「え……?う、嘘!?ちゃんと動いてくれてたんだ!!よかったぁ……!」
「そ、そんな……壊れたはずなのに、なんで……!?」
男の手によってリモコンは壊されてしまったが、その直前、彼が何度も必死に押していたボタン操作の内1回が、入れ替わった2人を元に戻す信号を出すことに成功していたのだ。元々、リモコンが動かなくなってしまったのはバッテリー切れが原因だった。そのため液晶も映らず何の操作も受け付けなくなっていたのだが、幸か不幸か、ほんの少しだけ残っていた電力を使うことで、不完全ながらもリモコンの効果は発揮されることになった。
「よかった、これで元の身体に戻れ……る……?あ、あれ?なにこれ、なんか変……?」
そう、リモコンの効果はあくまで不完全なまま実行されてしまった。本来の効果を発揮するための電力は残っておらずその5割分の……およそ半分の効果が、剥き出しになった2人の幽体に向けられる。
「な、なんなの?気持ち悪い……な、何かが抜けて行っちゃう……?うぷっ、だめ、耐えられない……あぁっ!?」
ずりゅんっ。そんな生々しい音ともに、彼女の中から何かが……彼女の幽体を構成するうちの"半分"が、"元に戻る"ために抜け出ていく。
(なにあれ……ア、アタシ!?)
抜けてしまったのは、彼女の肉体とも幽体とも異なる、"もう一人の自分"の姿だった。いや、もう一人というには語弊があるだろうか。たった今彼女自身から抜け出て、元の肉体の方へと向かっているのは紛れもなく"亜美の幽体"そのもので、それがあった場所……彼女の意識だけが残っているその場所には、幽体とすら言えないピンク色の玉が浮かんでいた。それが今の"元"亜美の姿だった。
(どういうこと!?元の身体に戻れるんじゃないの!?そ、それに、あれって、もしかして……)
遠ざかっていく"自分の姿"を見ていた亜美だったが、ふと、その横をすれ違って別の何かが近づいてきていることに気づく。生気のない顔をした、ぶくぶくと太った中年男の幽体。自分のものではないはずのそれが、ゆっくりと、しかし確実に亜美の意識へと近づいて来る。それが近づくにつれ、奇妙な引力を感じて……やがて彼女は、自分の身に何が起きようとしているのか気づいた。
(や、やだやだ!!そんなキモい姿になんてなりたくない!!助けて、誰か助けて……う゛ぅ゛ぅ゛ぅぅっ!!?)
必死に喚こうが、もがこうが、幽体すら持っていない今の彼女にはどうすることもできなかった。当然助けなど来るはずもなく……ぴたっと、彼女の意識が男の幽体に触れたかと思うと、その孔を埋めるように取り込まれ、浸透し、馴染んでいく。
やがて2人の幽体はそれぞれのあるべき場所へと"戻り"、亜美の肉体の前にはその麗しい容姿に見合った美少女の幽体が、中年男の肉体の前には、彼の肉体とまったく同じ姿の、全身がでっぷりと太った醜い男の幽体が浮かんでいた。
「わ……僕の幽霊の姿まで亜美ちゃんになってる!?ふふっ……あははっ♪この綺麗なカラダが、もう僕のモノなんだぁ……!」
「い、いや、いやぁ……!こ、こんな気持ち悪い姿、アタシじゃない……!う、うぅぅぅ……」
意識を取り戻した亜美の幽体は確かめるように自分の全身を眺めながら、満面の笑みを浮かべて喜んでいた。少しして、同じように自分の姿を確かめてはそれを否定するように首を振っている中年男の姿が目に入り、そんな男を小馬鹿にしたような声で話しかける。
「なんでこうなったのかは分からないけど、これで正真正銘、僕が亜美になれたってことだよね?あははっ!こんなに良いものを気前よく譲ってくれたんだから、"元"亜美ちゃんにはお礼を言わないとなぁ。あ、これからはおじさんって呼んだ方がいいのかな?ふふっ♪」
「ふ、ふざけないで……!ア、アタシはおじさんなんかじゃ……」
「はぁ?その姿、どっからどう見ても中年のおじさんでしょ。ていうか、これからは自分のことを"アタシ"なんて言うのもやめた方がいいんじゃない?オカマみたいで気持ち悪いからさ……あははっ♪」
「うぅ……」
"自分自身"とも言える幽体すら交換されてしまったことで、2人はその身体に見合った性格へと"戻って"いた。男は必死に言い返そうとするが捲し立てるように話す亜美を前に押し黙ってしまい、そんな彼女も、元は自分のものだった幽体を、性格を押し付けられてすっかり変わってしまった"元自分"の哀れな姿を前にして愉しくて仕方がないという様子だ。
やがて2人は自身の肉体へと吸い寄せられ、その中へと吸い込まれていく。別の肉体に入った時とは違い、拒絶反応などは全くない様子だった。それも当然だろう。ただ、肉体に見合った幽体がその中へと戻っていっただけにすぎないのだから。
「んっ……なんかさっきより動きやすいかも?まあ"自分の身体"だし当然だよねぇ、あはっ♪」
「あ、あなたのじゃない、アタシの身体なのに……う、うぅぅ、返して、返してよぉ……!」
泣き崩れる中年男を鼻で笑い、亜美は自分の荷物を持って立ち上がる。そのままドアへと向かおうとしたが……ふと、何か思い当たったように足を止め、項垂れる男の元へと向かっていった。
「そうだ、忘れてた。もしかしたら直せるかもしれないし、そのがらくたは僕が預かっておこうかな。なんだかんだで最高のおもちゃだしね」
「あっ……や、やだ、持っていかないで……!」
「やだ。ていうかおじさんに指図される筋合いなんてなくない?これだって元々はこの身体の、僕のモノなんだから。……うん、そうなんだよね。身体だけじゃない、亜美が持ってた物も、家族も友達も全部、これからは僕の……いや、アタシのモノになるんだ……ふふっ♪」
「そ、そんな……」
亜美は床に散らばった破片まで全てビニール袋に集めると、持っていた学生鞄にしまいこんだ。
「あははっ!じゃあね、お・じ・さん♪」
もうこの場にも、目の前にいる男にも用はないと言わんばかりに背を向けて、亜美はホテルを後にする。残されたのは絶望に震えながら涙を流す哀れな中年男だけで……そんな彼の心情を想い、嘲笑いながら、少女は満たされた気持ちで家路につくのだった。
Comments
メス牡蠣さんのこの作品にぶつけた性癖を余すことなく読めていたことがとても嬉しいです!こちらこそいつも素晴らしい作品をありがとうございます!これからも応援しています!
2022-10-29 19:17:47 +0000 UTCまさに言っていただいたこと全部が私自身こだわったところだったりとても好きだったりするポイントなので、それを楽しんでいただけたのがすごく嬉しいです!ありがとうございます!
メス牡蠣
2022-10-25 11:02:38 +0000 UTC