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彼女の隣に居るために

11発目です。爽やかにしようと思って学生同士のやつを書きました。そう思って書くと毎回ジメっとしてて粘度の高いやつができるんで、不思議ですね。

彼女の隣に居るために

帰りのホームルームが終わり、部活動の時間が始まったこともあってか、グラウンドから運動部のものと思われる騒々しい声や音が聞こえてくる。そんな中、僕は誰もいない屋上で一人佇んでいた。


(立花さん、来てくれるかな……)


立花さんは同じクラスのクラスメイトだ。少し外国の血が混じっているらしく、生まれつきだというベージュのセミロングに、どこかおっとりした印象を受ける垂れ目気味の大きな瞳が特徴的な美少女だ。学年が上がり、初めて同じクラスになって顔を合わせた瞬間に一目惚れをした彼女へラブレターを渡せたのが、それから半年が経過した今日。……もっと早く渡せていたらとも思うけど、引っ込み思案な僕にとっては渡せた時点で上出来なくらいだ。


(うぅ……さむっ。セーターでも着て来ればよかったな)


ついこの間までうんざりするほど暑かったのに、今みたいな曇り空だと途端に肌寒く感じる。ぶるりと身震いしながら両腕をさすっていると、屋上のドアが開いた。


「っぁ!?た、立花さん、僕、その……あ、あれっ……?」


立花さんが来たものと思い、事前に何度も反芻していた台詞を口に出そうとしたのだが……目の前に立っていたのは彼女ではなく、長い黒髪をまとめあげたサイドテールの少女だった。彼女、蒼木さんは立花さんと仲が良いクラスメイトで、立花さんを眺めていたときに一度目が合い、その時に睨まれて以降は近寄りがたいと思っていた相手だった。


「あっ……ごっ、ごめんなさい、人違いで……その……」

「ん、人違いじゃないよ。えーと、佐竹だっけ?あんたさ、綾音に手紙渡したでしょ」

「えっ……!?な、なんでそれを……」

「綾音に頼まれたんだよね。代わりに断ってきてほしいってさ」

「へ…………?」


思ってもいなかった事態、そして言葉を前にして考えがまとまらない。いや、僕だってそりゃ立花さんと本当に付き合えるなんて夢ほどにしか思ってなかったけど、だとしても……


「なっ、なんでそれを蒼木さんが……。た、立花さんと話したいんだけど。ど、どうせフラれるにしたって、本人の口から……」

「はぁ……分かんないかなぁ?綾音はあんたみたいな男とは話したくないってことよ。ていうかあんた、嫌がられてる自覚もなかったわけ?四六時中綾音のことを気持ちの悪い目でジロジロと……。その挙句にあんな手紙渡してくるとか、嫌がらせのつもり?」

「ちっ、ちがう!僕は立花さんのことが本当に好きで……」

「本当に綾音のことを思ってるんなら、金輪際近寄らないことね。……っていうか、今度綾音に話しかけでもしたらタダじゃおかないから」


蒼木は僕を睨みながらそう言い捨て、踵を返して屋上を後にしようとする。

嫌がられてた?僕が?立花さんに?そんなことをいきなり言われても、納得……できるわけがない。

屋上を出た蒼木さんを必死で追いかけ、階段を降りようとする彼女を引き留めようと腕を掴む。


「ちょっ……何すんのよ!」

「ま、待って蒼木さん!き、きっと何か誤解してるだけだってば!一度だけでも立花さんと話をさせて……」

「っ……!だから、綾音に近づくなって言ってんでしょ!」


掴まれた腕を離させようとしたのか、蒼木さんは腕を思い切り振り払い――


「えっ?」


彼女の力は想像以上に強く……いや、彼女が想像していた以上に僕の体重が軽すぎたのだろうか。バランスを崩した僕の足は宙に投げ出され、前のめりになって蒼木さんに倒れ込んでいた。


「わっ……うわぁぁぁ!?」

「きゃああぁぁぁっ!?」


お互いの頭を強く打ち付け、そのまま抱き合うような形で階段を転げ落ちていく。身を打ち付けるごとに感じる痛みや衝撃とともに、奇妙な感覚も覚えた。自分の中にある大切な"何か"。その"何か"が、自分の中から追い出されていくような。それと同時に、その"何か"が、別の容れ物に入り込んでいくような。そして、階段の踊り場に背中をドッと打ち付けられる衝撃を最後に、僕の意識は遠のいていった。




***




「んぅ…………?」


なんだか胸のあたりが苦しい……重い?何があって……僕、何してたんだっけ……?

いつの間にかベッドに寝かされている。どうやらここは保健室らしく、周囲をぼーっと眺めていたら保険医の先生と目が合った。


「よかった、気がついたのね。大丈夫?気持ち悪かったりとかしない?」

「は、はい。大丈夫です。ただなんか、胸が苦しく……て……?」


ふにっ。

そんな音が聞こえてきそうな柔らかい感触が、胸の苦しさを確かめようと触れた僕の手に返ってきた。


「え??? な、なにこれ…………?……んっ♡ほ、本物…………!?」


いきなりのことで訳が分からず、何か詰め物でもされてるんじゃないかと思って恐る恐る胸を揉んでみると、ブラジャーに包まれた柔らかいモノを揉んでいる感触、そして胸を撫でられている……いや、掴まれているという感触が、時折感じる淡い快感とともに伝わってきたのだ。


「ちょ…ちょっと、はしたないわよ?寝てるとはいえ、一応男の子もそこにいるんだから」

「男って……えっ!?ぼ、僕……!?」


先生が指した方向にあったベッド。そこで寝息を立てていたのは、慣れ親しんだどこか頼りなさげな顔をした男子……紛れもない"僕"の姿だった。


「あっ、あの!か、鏡とかってないですか!?」

「鏡ならそこの洗面台に……あ、ちょっと!気絶してたんだから、いきなり立ち上がると危ないわよ!?」


先生の制止を無視して、僕はふらついた足取りで洗面台に取り付けられた鏡の前に歩いていく。このふらつきも、頭を打ったからとかそういうのよりも、以前のそれより高い視界、そして以前とは大きく違う身体のバランス感覚に戸惑っているからで……


「や、やっぱり……これ、蒼木さんの……!?」


自分の姿が映るはずの鏡。そこに映ったのは、さっき僕を睨んでいた蒼木さんの顔だった。階段から落ちた時に髪が崩れたのか、サイドテールの編み込みが解けて乱れた長髪姿ではあるものの、凛々しさを感じる目や整った顔立ちは間違いなく蒼木さんのもの……少なくとも、僕本来のパッとしない顔とは似ても似つかない美少女の姿がそこに映し出されていた。


「どっ、どうしよう……!?せ、先生、僕、蒼木さんの身体になってて……!」

「蒼木さん、落ち着いて。今日のあなたちょっと変よ?」

「で、でもっ……!」

「……っと、ごめんなさい。電話が来たから少し席を外すわね。……とにかく安静にしてること、いい?」


僕に念押しするようにそう告げつつ、先生はスマホを片手に廊下へ出て行った。


「あっ……。 ど、どうしたら……なんでこんなことに……」


そう弱弱しく呟いた声も高くか細い女の子の声になってしまっていて、僕が女子に……蒼木さんになってしまっていることを、改めて自覚させられる。

蒼木さんの身体に僕が入っているのであれば、今、僕の身体はどうなってるんだろうか。時折寝息と一緒に声を漏らしている様子を見る限り、死んではなさそうだけど……もしかすると、本来の蒼木さんが僕の身体に入ってしまっているんだろうか。

なんにせよ……こんな風に他人の身体になってしまうなんて、アニメかなんかでしか見たことがない、現実ではあり得るはずもない話だ。さっきは咄嗟に先生に助けを求めようとしたけど、先生に、いや、ちゃんとした病院の医者に診てもらったとしても、果たして元に戻れるのか……。


「あ…あはは……。蒼木さんのこんな顔、初めて見たな……」


改めて鏡に目をやると、そこには不安を顔いっぱいに浮かべ、少し涙目になってすらいる蒼木さんの姿があった。普段はクールで、男子を相手に笑いかけたりしないような彼女がこんな表情をしていたところなんて見たこともなくて、中身が僕とは言えこんな顔ができたのかと、現実逃避混じりに感心していた。


「こ、こんなことしてる場合じゃない。早く元に戻る方法を見つけないと。元に戻って……」


あれ?

元の……僕のこの身体に戻って、僕は何がしたいんだっけ。何をそんなに焦って……そうだ、早く立花さんの誤解を解かなきゃいけないんだった。けど、あれ?もしかしてこれって……


「チャンス……なんじゃないか?」


約束の場所に立花さんじゃなくて蒼木さんが来たことはショックだったけど、それはつまり蒼木さんが……今僕が入っているこの身体が、それだけ立花さんから信頼されているということに他ならない。立花さんとほとんど話したこともない僕なんかよりも、蒼木さんの身体で説得した方がきっと上手くいくんじゃ――


「ごめんなさい、待たせちゃって。それで、この後の話なんだけどね。怪我は無かったけど頭を打ったみたいだし、念のため病院で検査してもらった方が……」

「いっ…いえ!だ、大丈夫なので、そ、そのっ……し、失礼しますっ!」

「あっ、ちょっと!?」


蒼木さんの上履きを履いて、先生を振り切って保健室を後にする。告白を断ってほしいと蒼木さんに頼んだと言うことは、立花さんはまだ校内にいて、蒼木さんが戻ってくるのを待っている可能性が高い。気づけば僕は元に戻りたいなんて思っていたことも忘れ……むしろ、まだ元の身体に戻りたくないとすら思い始めていた。


「すごい、蒼木さんの身体……走ってるのに全然息が切れない……けど、こ、これは……」


教室までの道すがら、普段の自分との身体能力の差に驚くも、それ以上に困ったことがあった。風圧でスカートの下がスースーとする気恥ずかしい感触と、足を動かすたびにゆさゆさと揺れる胸の膨らみ。

元の身体に戻るまでに立花さんと話さなければと意気込んで走ってはみたものの、それらの感覚が耐えられなくなり、結局途中からは歩いて教室まで向かっていた。


「あ……良かった、戻ってきたぁ……」


教室に入ると、予想通り僕を……いや、蒼木さんを待っていた立花さんが出迎えてくれた。


「もう、心配してたんだからね?全然帰ってこないし、荷物も置いてっちゃってたから連絡も取れないし……」

「あ…ぅ……」


可愛い。立花さんが可愛いなんてことはわかりきったことだけど、あれ?こんなに可愛かったっけ?

身長の高い蒼木さんの身体になっているせいかいつもより小さく見えるし、何となくだけどいつもの少しおどおどした様子の彼女よりも、どこか雰囲気が柔らかく感じる。


「どうしたの?ボーっとしちゃって」

「ぇぁ……う、うん。ちょっとその、えーと、トイレに寄ってたから遅れちゃって……」

「そう?それならよかったけど……もしかしたら佐竹くんに何かされたんじゃないかって、気が気じゃなかったんだから」


いきなり自分の名前が出てきてドキリとする。そうだ、早く僕の誤解を解かないと……


「え、えっと、そのことなんだけど……」

「あれ?髪解けちゃってるよ。結び直してあげるからほら、座って」

「えっ?あ、う、うん。お願い、します……」


彼女に促されるまま席に座って背を向ける。するとすぐに、後ろから慣れた手つきで髪を弄られるのを感じた。

やっぱりというか、明らかに彼女の様子は普段と違うものだった。立花さんのことはずっと見てたけど、こんな風にハキハキと喋っているところなんて見たこともなかったし……やっぱり、気の知れた相手だと態度も変わるものなんだろう。そんな"気の知れた相手"に僕がなれているという事実に、少しだけ優越感のようなものを覚えてしまう。


「……やっぱりゆずちゃん、さっきからちょっと変だよ?屋上で何かあったんでしょ」

「あっ……。そ、そのことなんだけど、えと……。さ、佐竹くんと、ちゃんと話してみるっていうのはどう、かな……?」

「え?」

「そ、その、話してみたら意外と良い人だったし、一度会って話してみたら、もしかしたら、その……」


髪を結っていた手がピタリと止まって、それにつられて思わず口ごもってしまう。もしかして、何かまずいことでも言っ――


「ひゃっ!?」


不意に、右耳にふっと息を吹きかけられ、ぞわぞわした感触に驚いてつい声を上げてしまう。耳を押さえながら振り返ると、そこにはいたずらっぽく笑う立花さんの姿があった。


「えへへ、意地悪言うから仕返し♪私が男の子と話せないのはゆずちゃんが一番分かってるでしょ?」


彼女はそう言いながら屈託のない笑顔を見せ、僕の顔を前に向けると再び髪を結い始めた。


「それより、ちゃんと断ってくれたんだよね?佐竹くんとは付き合えないって」

「えっ?あ、う、うん。だけど、その……」

「あー、よかったぁ。あの人、いつもジロジロ見てきて、正直ちょっと気持ち悪かったから……。でも、これできっと私のことは諦めてくれるよね」

「あ…………」


目頭が熱くなってじわりと視界が歪む。気持ち悪いって……僕、そんな風に思われてたんだ?そりゃ、確かに見てはいたけど、こんな風に面と向かって言われるなんて、いや、今は蒼木さんの身体だから面と向かって、ではないのか?


「はい、終わり!それじゃあ……え、嘘…泣いてるの!?ちょっともー、今日のゆずちゃんやっぱり変だよ?」

「う……ぐすっ、ごめっ、ごめんなさ……」


気づけば目から涙が零れてしまっていたようで、立花さんはハンカチを取り出してそれを優しく拭ってくれた。好きな子にこんなことをされて嬉しくないわけがないけど、本来の僕は彼女とこんな関係になれないのだと思うと余計に悲しくなる。


「それじゃあ、行こっか」

「えっ?ど、どこに……?」

「もう、何言ってるの?どこって、そんなの――」




***




僕は女の子の部屋に来ていた。ふんわりとした良い匂いがする部屋。綺麗に整頓された本棚と、ベッドの上に置かれた可愛らしいぬいぐるみの数々。そして、壁に掛けられているコルクボードには、立花さんと蒼木さんが映っている写真がいくつも貼られている。

そう、ここは立花さんの家だ。放課後、教室を出てすぐ立花さんに手を引かれ、そのままこの部屋に連れ込まれてしまったのだ。


(ど、どうしよう……!?ていうか、僕、いつまで蒼木さんの身体に……!?)


目が覚めてから一時間ほど経過しているが、元の身体に戻るような兆候は何もなく、今も僕は蒼木さんの身体に入ったままだった。

好きな女の子の部屋にいる。それだけで心臓が跳ね上がるくらいドキドキするのに、心臓が動くたびに少し揺れる胸の感触で自分が蒼木さんに……女子の身体になっているということ改めて自覚させられ、よりいっそう鼓動が加速していく。

落ち着かないまましばらく座っていると、アイスコーヒーが入ったグラスを二つ持った彼女がやってきた。


「お待たせ~。それじゃあ、お願いしていいかな?」

「あっ、う、うん。もちろん……」


どうやら蒼木さんは、立花さんに勉強を教えるという約束をしていたようだった。幸い、僕も勉強はできる方なので、彼女が分からないと言った範囲を教えながら一緒に解いていく。本当なら、僕が立花さんの彼氏になってこういうことをしたかったんだけどなぁ……。


「ゆずちゃん、なんかいつもより教え方上手だね。数学そんなに得意だったっけ?」

「そ、そう……?い、いつもと変わらないと思うけど……。そ、それより、他に分からないところとかは……」

「うーん、問4かなぁ。そもそもどうやったらいいのかすら思いつかないんだよね」

「え、えっと、これはさっきの問題の応用で…………え?」


スッと、セーラー服の裾にいきなり手を入れられ、背中のあたりを弄られているとプツっという音と共に胸元から解放感が伝わってきた。


「ちょっ、た、立花さん、何して……」

「どうしたの?早く続き教えてよ」


立花さんは何事もなかったかのように涼しい顔をしている。僕の勘違いなのか?いや、でも……


「う、うん。えと、ここはさっきみたいにまず余弦定理を……ひぅっ!?」


胸の先がピンと弾かれるような感覚と共に快感が響いて、思わず声を上げてしまう。間違いない。彼女はさっき蒼木さんのブラジャーを外して、今度は露わになった胸を直接弄び始めていた。


「あっ♡ま、待ってぇ……っ♡そ、それっ、やめて……んぅっ♡♡」

「もう、ゆずちゃんってば、本当に勉強見てくれる気あるの?ふふっ、何言ってるのか全然分かんない♡」


気が付けば、僕は立花さんに押し倒されていた。小さい体躯の全体重が僕に預けられ、馬乗りになった彼女に僕の……蒼木さんの胸の先端をくりゅっと摘ままれる。そのまま指先で転がされるように弄られ、敏感すぎるそこから痺れるような快楽が脳天にまで響き渡る。


「んっ♡あぁっ♡♡や、やらぁっ♡♡あっ♡あぅぅっ♡♡♡」

「あははっ♡やっぱり今日のゆずちゃん、いつもより可愛いなぁ……♡初めての時みたいに喘いじゃって……そんなに私とのえっち、楽しみにしてくれてたの?」

「あぅぅ……♡まっ、待って、聞いて!実は……んむぅっ!?」


耐え切れず、「僕は蒼木さんじゃない」と打ち明けようとしたところで、突然彼女の唇によって口を塞がれてしまった。柔らかい舌が口内に侵入してきて、互いの唾液を交換し合うように絡ませてくる。彼女の柔らかい唇の感触と、甘い香りが鼻腔をくすぐり、頭の中まで蕩けるような錯覚に陥る。やがて長いキスが終わり、僕と彼女の唇の間を繋ぐように透明な糸が引き、ぷつりと途切れた。


「可愛い……♡私だけのゆずちゃん…………」


僕の頬に手を当てて愛おしそうに見つめてくる彼女を見て、何も言えなくなってしまった。たぶん、蒼木さんと立花さんは"そういう関係"なのだろう。今僕に向けられているこの視線も、感情も。僕ではなく蒼木さんに向けられているモノで、そして本来の僕には今後一生向けられるはずのないモノだ。

そう、だから……。たった一度、蒼木さんの代わりに彼女と体を重ねてしまっても、罰は当たらないよね……?


「あ、あの、立花さん……」

「ん?なあに?」

「その……も、もっと、その、シてほしいん……だけど……」

「……ふふっ♡ほんと、どうしちゃったの?いつものゆずちゃんじゃないみたい♡ そんなの言われなくても……あ、1個だけお願いを聞いてくれたらやってあげようかな?」

「お、お願いって……?」


少し考えるような仕草をしつつ、立花さんは悪戯めいた笑みを浮かべる。今日、蒼木さんとして接した彼女は今まで見たことがないような表情や可愛らしさを見せていて、そんな光景を目に焼き付けるようにしながら、ゴクリと唾を飲み込んで次の言葉を待った。


「……ちゃんと、いつもみたいに綾音って呼んで?何の遊びのつもりなのか知らないけど、ゆずちゃんに名字で呼ばれるの、やっぱりちょっと寂しいからさ」


そう言われて初めて、僕は蒼木さんではなく、本来の僕として立花さんに接していたことに気づいた。確かに蒼木さんは立花さんのことをそう呼んでた気がするし……というか、呼び名以前に自分のことを何度か"僕"と言ってしまっていたような気もする。そんなヘマをしても、僕が蒼木さんじゃないことはバレなかった。いや、バレるはずもない。今の僕は蒼木さんなんだから……。だから、何も遠慮することなんていないんだ。


「あ…綾音……」

「ふふっ、よく言えました♡それで?ゆずちゃんは私にどうしてほしいのかな?」

「僕は……あ、あたしは……その、あ、綾音にもっと気持ちよくしてほしい、です……。だ、だから、あの……んむっ♡♡」


再び僕の唇を塞ぎ、今度は激しく舌を絡めてくる。すると、息ができないくらいの激しいキスを交わしながら、彼女は僕のスカートの中に手を入れ、下着越しに割れ目をなぞるようにして指を這わせてきた。


「~~~~~~っっ♡♡♡♡♡♡♡」


口を塞がれているため声をあげることさえできず、ただビクビクと体を震わせるしかできない。チンコ……いや、それ以上に敏感な突起のような箇所を下着の上からクリクリと弄られ、頭の中で火花が散るような快感を覚える。


「!?っ……♡♡♡♡♡♡♡」


ビクンっと、全身が勝手に大きく跳ね上がり、今まで感じたそれとは比べ物にならないほど大きな快感が下腹部、そして頭の中で弾けた。同時に、僕の中にある大切な"何か"。僕自身とも言えるような何かが融け、快感と共に全身に染み込んでいくのが分かる。

未だ強く残る快感の余韻で身体中がビクビクと痙攣し、それが収まった頃、綾音はようやく唇を離した。


「気持ちよさそうにしちゃって……ふふっ♡ほんと、今日のゆずちゃんすっごい可愛い♡なんだか小学校の頃を思い出しちゃうなぁ」

「うっ…うるさいな、言わないでよ……」


気恥ずかしくなり、思わず腕で目を覆ってしまう。最近はあたしの方からリードすることも増えてきただけに、久々に醜態を晒してしまったことが余計に恥ずかしい。

……あれ、あたし?何かおかしいような……というか、もしかしてこれって……。


「……ねえ、綾音。あたしたち、半年前に旅行に行ったよね?春休みに……」

「え?どうしたの急に」

「あの時さ、どこに行ったかって覚えてる?」

「忘れるわけないじゃん、沖縄でしょ?あははっ、もー、今度は何の遊び?」


綾音の返答からすると、やっぱりあたしの記憶に間違いはないようだった。短期バイトで貯めたお金で綾音が行きたがっていた沖縄に行って、一緒に海を楽しんだことまで鮮明に覚えている。けど、今年の4月に初めて彼女のことを知った"僕"が、春休みに彼女と旅行に行ったことなんてあるわけがない。だとすれば……


「? ゆずちゃん……?んっ……」


綾音の背中に手を回し、そのまま抱きかかえるようにして唇を重ね合わせる。最初は戸惑った様子を見せていた彼女も、すぐに僕の舌を受け入れて積極的に絡み合わせてきた。眼前に映る蕩けた表情の彼女を見て、2人分の愛しいという感情が心と身体から込み上げてくる。


「ぷはっ……。ねえ、あの時もやったアレしない?お互いクンニし合って……」

「先にイかせた方が今日は好きにしていい、ってやつでしょ?もう、私に責めてほしいなら素直にそう言えば良いのに♡」


綾音は、ふふんと自信ありげに笑いながら態勢を変えて僕の股間に顔を向け、自らの秘所を恥ずかしげもなく僕の目の前に晒した。正直、これの勝敗なんてどうでもいい。というか、蒼木さんってあんな感じなのに実はマゾなのかな?"あたし"の方はむしろ負けたがっていて、この後のことを考えるだけで下腹部がキュンキュンとした疼きを伝えてくる。


「ぴちゃっ、れろっ……んっ♡♡んぅっ……♡♡」


これまで何度も見てきた、初めて見る綾音の綺麗なおまんこに舌を這わせる。その間にも温かくてぷにぷにした綾音の舌が僕の敏感な部分を刺激し、身悶えしてしまいそうな快感が全身に染み渡っていく。

それと同時に、じわり、と"僕"が"あたし"の中に融けていくような感覚がして、熱に浮かされた脳内に、さっきは思い出せなかった小学生の頃の記憶が蘇る。


(そっか……昔はあたしの方が綾音に守ってもらってたんだっけ……。中学から共学になって、男子が苦手な綾音を守るために自分を変えようって、空手にも通うようになって……)


気のせいじゃなかった。この身体で気持ちよくなるたびに、僕が知らないあたしの記憶が僕の中に入り込んでくる。あたしの中に僕が馴染んで、この身体への違和感が少しずつ消え去っていく。これを続ければ僕はあたしに、蒼木柚香になれると、僕の直感がそう告げていた。


「んっ……♡あっ♡♡あうぅっ♡♡♡♡」

「んむっ……ふふっ♡ゆずちゃんってば、あんなに自信満々だったのにもう降参なの?」


彼女は得意げな声で揶揄いながら、なおも僕への愛撫を続けていた。

"ゆずちゃん"の前でしか見せることがない無邪気な綾音のそんな声も、笑顔も、何もかも全てが愛おしくて、絶対に渡したくない、返したくないという想いが強く込み上げてくる。


「こ、降参するからぁっ♡♡お願い、イかせてっ♡♡♡大好きな綾音の舌でぇっ♡♡♡♡あたしをあたしにさせてっ♡♡♡♡♡」

「っ……ゆずちゃん、そんなの私だって……♡♡」

「ひゃうぅっ♡♡♡♡」


舌先の動きがより一層激しさを増し、同時に性感帯である尾てい骨のあたりまでも、くにゅくにゅと無遠慮に弄られる。綾音も僕をイかせてくれるために協力してくれてるんだ。そう思うと嬉しさで頭が一杯になり、綾音への愛情が快楽と興奮へと変換されていく。


「あぁっ♡♡イクっ♡♡♡♡イっちゃう♡♡♡♡綾音ぇっ♡♡♡♡あっ……うぅぅぅっっ♡♡♡♡♡♡♡」


脳天まで痺れさせるような快感が走るのと同時に、カチッと、自分の中で噛み合っていなかった最後の何かが嵌るような感覚がして――それは、僕が"蒼木柚香"として生まれ直した瞬間でもあった。


「はぁっ……はぁっ……♡」

「あははっ♡ゆずちゃんってば、顔真っ赤にしちゃって可愛い♡涎まで垂らしちゃって……そんな顔、クラスのみんなには見せられないね?」


軽口を叩く綾音の声色はどこか、優越感のようなものが含まれていた。お互いにしか見せられない顔、仕草、身体……そんな唯一の相手を独占し合えるこの関係を、そしてこの身体を改めて尊く感じる。嬉しそうに笑う綾音をぎゅっと抱きしめながら、これからは……いや、これからも僕が蒼木柚香として生きていこうと、そう強く思うのだった。




***




「あんた、佐竹なんでしょ……!?あたしの身体で何勝手なことしてるのよ!」


翌朝、いつも通りの綾音との楽しい会話の時間は、そんな耳障りな怒声によって中断された。振り返るとそこには元の僕の身体、佐竹が立っていた。この口ぶりからすると、元のあたしがこいつに入っているのだろう。階段から落ちた時に捻挫でもしたのか、松葉杖をついているのが少し滑稽だ。


「何言ってるの?見ての通りあたしは蒼木柚香だけど……変なこと言うのはやめてくんないかな、佐竹くん?」

「このっ……!ね、ねえ、綾音なら分かってくれるでしょ!?こいつは、あたしじゃない、あたしが本当の柚香なの!」

「ひっ……!?」


佐竹が必死な表情で捲し立て、その声を向けられた綾音が小さく悲鳴をあげる。

……なるほど、確かにこれはムカツクなぁ。男の癖して話しかけて綾音を怖がらせて、その上軽々しく呼び捨てにするなんて。……いや、元はこいつがあたしだったんだし、こいつにとっては当たり前のことなのかな。それなら……


「もう違うってことを思い知らせてあげなきゃ、かなぁ?」

「なっ、何を……」


席を立ち、身長の高い僕は必然的に佐竹を見下ろす形になる。身体に癖でも染みついているんだろうか?目が合った瞬間にビクっと身体を震わせて目を逸らすその姿は元の僕そのもので思わず苦笑してしまう。


「あんたなら分かるでしょ?綾音が怖がってるって。喚き散らすのもいいけど、とりあえず場所を移さない?」

「うっ…………」


怯えている綾音の様子にようやく気付いたのか、佐竹は気まずそうに目を伏せた。


「ほら、さっさとついてきてよ」

「……ええ」


教室を出ようとする僕を綾音が不安げに見ていたので、大丈夫だから、と安心させるために笑顔を向ける。そんな僕たちのやり取りを、佐竹は恨みがましい目で見つめていた。




***




「それで?佐竹くんはあたしに何をしてほしいわけ?」


佐竹を連れて、僕は屋上に来ていた。ホームルーム前のこの時間ならまず誰もいないだろうし、屋上への扉をモップで塞いでおいたから誰も来ることはない。つまり、今からこいつに何をしようが誰にも邪魔される心配がないというわけだ。


「っ……!しらばっくれないで!あんたが佐竹なんでしょ!?あたしの身体を返してよ!」

「返せだなんて、人聞きの悪いこと言わないでよね。あたし達が入れ替わったのは事故なんだし、返し方なんてあたしにも分からないわよ」

「う、嘘……!?そんな…………」

「ま、分かったとしても、そんな身体になんて絶対に戻らないけどね」

「きゃっ……!?」


絶望の表情を浮かべる佐竹の胸元を軽く押してやると、彼は簡単にバランスを崩して尻餅をついた。綾音よりもひ弱そうなこんな身体で綾音の恋人になりたいだなんて……ははっ、"僕"はなんて身の程知らずだったんだろうか。


「な…何すんのよ!」

「言ったでしょ?思い知らせてあげるって。蒼木柚香はあたしで、あなたはもう佐竹和人って名前のただの雑魚男子だってことを……その身体に教え込んであげるから」

「ひぃっ!?」


ベルトを外し、中に履いているトランクスごとズボンをずり下ろしてやると、そこには縮れた陰毛に覆われた股間……そして、そこから伸びる皮を被った汚らしい肉棒が姿を現した。


「んー、どうしよ……あ、そうだ。こっちの方がやりやすいかな」

「ちょ、ちょっと……!?」


背後に回り、胸の谷間でこいつの首を抱えるようにしながら男性器に手を添える。うん、やっぱりこの態勢の方が慣れてるしやりやすそうだ。以前僕がしていたように、こいつの股間にある肉棒を上下に扱きあげてみせた。


「あぅっ……!?ちょ、ちょっと、何を……」

「あんたのこの汚いチンコを、あたしの手で扱いてやってんのよ」

「ふ、ふざけないで……!これはあたしのじゃなくて、あんたの……」

「だからぁ、これはもうあんたのなんだってば。どうせもう元になんて戻らないんだから、さっさと認めちゃった方が楽だと思うけど?」

「うっ…うるさいっ……!はぁっ、こ、こんな気持ち悪いモノ、あたしのなんかじゃ……あうぅっ……!」


案の定と言うべきか。言葉とは裏腹に、彼の男性器は徐々に硬度を増していき、やがて先端から溢れた先走り汁があたしの手を汚していった。


「あれぇ?佐竹くん、もしかして感じてんの?」

「あ、あたしは佐竹なんかじゃない……!それに、感じてなんか……!」

「違くないでしょ。こうやってクラスの女子に手コキしてもらって、あははっ、抵抗もしないで無様に喘いでる男子。それがあなたよ。いい加減認めたら?」

「ち、違うってばぁ……!お、お願いだから……あっ!も、もうやめて……」


少しずつだけど、こいつの語気が弱り始めているようだった。僕があたしに馴染んだのと同じように、こいつもゆっくりと元の僕に近づき始めているんだ。しばらく続けていると彼はとうとう何も言い返してこなくなり、情けない喘ぎ声を吐き出すだけになっていた。


「ほら、さっさと射精しちゃいな?そうすればあんたは晴れて元の"僕"になれるんだから」

「い…嫌ぁっ!あ、あたしはあんたになんてなりたく……あ゛ぁぁっ!!!」


とどめと言わんばかりに亀頭のあたりをグリグリと擦り上げてやると、佐竹は野太い声を出して呆気なく果ててしまった。ビクビクと脈打つ男性器の先端からは白濁液が勢いよく飛び出していき、僕の手だけでなく屋上の壁にまで飛び散っていた。


「はい、終わり。良かったね?あたしみたいな美少女に手コキしてもらえてさ。ま、これであんたも"あたしが柚香だー"なんてバカみたいなことも言わなくなるでしょ」

「あ、あぁ……う、嘘だ、僕が、そんな……」


いつの間にか一人称すら元の"僕"に染まってしまった様子を見るに、彼はちゃんと新しい身体に馴染んでくれているようだった。手についてしまった汚い精液を彼の制服で拭き取り、背を向けて立ち去ろうとする――


「ま、待って……!」

「ちょっ……何すんのよ!」


屋上の扉を開こうとした腕を、背後から駆け寄ってきた佐竹に掴まれる。不意に触れられたことに苛立ち、彼の腕を思い切り振り払って突き飛ばした。


「痛っ……!」

「何?まだなんか文句でもあるわけ?」

「僕……あ、あたしは絶対にその身体を諦めない……わよ……!ぜ、絶対に元にもどってやるんだから!それで、ぼ、僕が立花さんの恋人に……ふへっ……」

「……はぁ?」


こいつ、なんでそんなことを……いや、考えれば当然か。こいつは元々あたしだから柚香としての記憶も持っていて、その上で僕の記憶や身体に馴染んだのだから……僕が綾音と付き合っていること、そして僕の身体を乗っ取れるかもしれないということを知ったこいつならそういう思考に至るのもおかしくはないのか。


「あーもう……めんどくさ、どうしよっかな……ってあれ? キモっ、あんたまだ勃起してんの?」

「こ、これは……し、仕方ないでしょ!蒼木さっ……だ、誰かにあんなことされたのなんて、その、始めてだったし……」


ついさっき出したばかりだというのに、佐竹の男性器は再びその硬さを取り戻していた。顔を見ようとすると、相変わらず目を逸らす。しかし、どうも先程とは様子が違うようで、怯えているようには見えず、頬を赤らめながらチラチラと僕の身体に視線を向けているようだった。

なんとなくだけど、こいつが今どういう状態なのかが分かり……同時に、こいつの気色悪い視線が二度と綾音に向かなくなるであろう妙案を思いつき、それを実行に移そうとセーラー服を脱ぎ、付けていたスポーツブラも地面に脱ぎ捨てた。


「ちょっ……な、何してるの!?」

「何って……ふふっ。佐竹くんがまだ出し足りないみたいだから、手伝ってあげようと思って♡」


なるべく興奮されるように、いかにもこいつが好きそうな、少し高めで優し気な声を作りつつ近づいていく。突然様子が変わった僕に困惑しているようだったが、その視線はしっかりと僕の胸に向けられており心の中で思わずほくそ笑む。そのままゆっくりと腰を落とし、ビンビンになっている彼の男性器を大きな乳房で包み込むように挟み込んだ。


「あっ……!や、やめてっ!ぼ、僕の身体でそんなこと……あぅぅっ!す、すごっ……!」

「ほらぁ、あたしのおっぱい、気持ちいいでしょ♡触ってもいいんだよ?佐竹くんにだけ……特別だからね♡」


挟んだまま上下に動かして、柔らかなおっぱいで彼のモノを刺激していく。最初は戸惑っていた彼だけど、やがて恐る恐るといった感じで手を伸ばそうとしているのが見えたので、彼の両手を掴み、自分の胸に誘導してやった。

初めて触れる女性の柔らかい肌。その上、こいつには今後一生縁がないレベルの美少女を相手にさせてやっているのだから、たまらない快感なのだろう。気づけば佐竹は抗議の声をあげることもなく、一心不乱に僕の胸を揉み、男性器からの快楽に身を委ねていた。


「うぅぅっ……!蒼木さん、蒼木さんっ……!くぅっ……あぁっ!!」

「あははっ!佐竹くん、そろそろ射精しちゃいそうなんでしょ?でも……その前に、少しだけお話しよっか」

「えっ?あ、あぁぁっ……な、なんで……」


もう少しで絶頂に達しそうになったところで、僕は胸を動かすのをやめて佐竹から身体を離した。もはや僕のことを"蒼木さん"と呼ぶことを躊躇せず、そればかりか元は自分のものだったはずの身体に、こうして名残惜しそうに性的な目を向けているこいつはもうほとんど、精神まで佐竹に成り果てているのだろう。そう確信した僕は口角をあげ、彼の耳元に顔を近づけて囁いた。


「ねえ佐竹くん。続き、シてほしい?」


佐竹が頷く。


「それじゃあ……あたしのこと、好き?」


再び頷く。


「綾音のことよりも?」


一瞬躊躇うような素振りを見せたが、すぐにまた首を縦に振った。


「あははっ、そっかそっかぁ。それじゃあこうしよ?もう元に戻りたいなんて言わないで、ずっと佐竹くんとして生きていくこと。それと……もう二度と綾音に近づかないこと。これだけ約束してくれれば最後までシてあげる♡どう?」

「えっ……?で、でも、それは……」


僕の提案に戸惑いを見せる佐竹だが、明らかにその目は欲望の色に染まりきっていた。あと一押し。こいつがその薄汚い心に素直になれるように、誘惑するような甘い声で言葉を続ける。


「もちろん、今日だけじゃないよ?たまにはまた、今日みたいなことをしてあげてもいいし……あたしの機嫌によっては、もっとすごいこともしてあげよっか♡」

「っ……!」


つーっと、自分の股間のあたりへ指先を持っていき、その動きに佐竹の目が釘付けになる。もちろん、こいつにここを使わせてやる気なんて一切ないけれど、その誘いは性欲で頭がいっぱいになった佐竹にとって、十分すぎる効果があったようだ。


「わ……分かった。も、元に戻りたいなんてもう言わないし、立花さんにも近寄らないから……」

「ふふっ、いいの?もう二度と綾音と一緒に出掛けたり、話したりすることすらできなくなるんだよ?」

「い、いいよ、そんなの元からしたことなかったし、それに……ふ、ふへっ……そ、その、エロいことは、蒼木さんがしてくれるんでしょ……?」

「……あはは、そうだね」


ニヤニヤと下卑た表情でそう言いのけた佐竹に蔑みの笑みを返す。僕の方から誘導したとはいえ、こいつは綾音のことを諦め……それどころか、元の自分相手に欲情する雄に堕ちたのだ。こんな奴があたしだったのかと思うと虫唾が走るけど、こういう汚らしい"男"を綾音に近づかせないためなら、僕はこれからもなんだってやるつもりだ。


「それじゃ、約束通り最後までしてあげる。……汚れるの嫌だからさっきみたいに手でやるけど、いいよね?」

「も、もちろん……あぁぁっ!あ、蒼木さんの綺麗な手、気持ちよすぎて……あっ、あうぅぅっ!」


返事を聞く前に佐竹の男性器を握り、上下にしごいてやると、佐竹はビクビク震えながら快楽に身を捩らせた。射精の快感なんて、綾音とのえっちに比べたらゴミみたいなものなのに……きっとその快感すら覚えていない佐竹はこれからも男の性欲を満たすために僕を求めるのだろう。そう思うと……こいつから"あたし"を完全に奪えたという優越感に、少しだけ子宮のあたりが疼いた。


「うぅっ!ぼ、僕もう、で、出るっ!!あっ、あぁぁぁぁっっ!!!!」


そんなことを考えながら手を動かしていると、佐竹はいつの間にか絶頂に達していたようで汚らしい精液をびちゃびちゃと地面にまき散らした。射精の余韻で未だ息が整わない彼を尻目に、先程脱いだ制服を一つ一つ身に着けていく。


「うわっ、もう1限始まってるじゃん……。あんたも急いだほうがいいよ?って、あははっ、聞こえてないかな」


屋上を出ると、今度は彼も追いかけてはこなかった。先生に謝りながら教室に戻り、心配そうにこちらを見つめてくる綾音に笑いかけて安心させてから授業を受ける。少しトラブルもあったけど、こうして僕はいつも通りの日常を取り戻すことができたのだった。




***




数週間後。今日も、いつものように綾音の部屋に来ていた。今は綾音の両親とも出張に行っているようで、せっかく土曜日だということもあり、泊まるつもりで荷物を用意してそのせいか少し浮足立っていた。綾音も今日のことを楽しみにしてたはず、なんだけど……


「……………………」

「ねえ、お願いだから口きいてよ。……もしかしてあたし、なんかしちゃった?」


彼女は今朝からこんな様子だった。明らかに不機嫌で、中々目も合わせてくれない。こんな日も、大抵は数分もすれば少しずつ機嫌が直っていくのだけれど、今日はどういうわけかずっとこんな調子で、流石の僕も不安になってくる。

それでも声を掛け続けていると、綾音はおもむろに口を開いた。


「……ゆずちゃん、佐竹くんと付き合ってるんでしょ?」

「…………え?」


余りにも突拍子もない質問に、思わず呆然としてしまう。

聞くと、僕は佐竹と付き合っていると、クラスメイトの間で噂になっているようだった。というのも、詳しく聞いてみるとどうやら佐竹が"蒼木さんと付き合っている"なんて吹聴しているようで、その噂が綾音の耳にも入ってきたというのが真相らしい。


(はぁ……。調子に乗せすぎちゃったかな)


あれからも何度か佐竹の相手はしてやっていて、その甲斐もあってかあいつの視線が綾音に向かうようなことはなくなっていた。けど、まさかこんな事態に発展するなんて……一度、あいつには改めて身の程を分からせてやる必要があるみたいだ。


「それで、どうなの……?」

「どうって、ないない。あんな奴と付き合うとか、あり得ないから……って、や、やだちょっと、泣かないでよ、もー」

「ぐすっ……う、うぅ……だってぇ…………ぐすっ」


ハンカチを取り出し、綾音の綺麗な瞳からポロポロ零れていく涙を拭っていく。久しぶりに見たけど、やっぱり泣き顔も可愛いなぁなんて思いながらも、彼女の頭を優しく撫でた。

綾音はしばらく泣いていたが、やがて落ち着きを取り戻したのか、僕の胸元にぎゅっと抱き着いてきた。


「……証明して」

「え、何?」

「証明して、私以外の誰とも付き合わない、ずっと私だけのゆずちゃんでいてくれるって……。そしたら、今回のことは許してあげるから……」


どうやら、今回のことは綾音の中では僕のせいということになったらしい。こうなってしまうと言い訳なんて聞いてくれなくなるのがいつものことなので、今の彼女がしてほしい正解は何かと考え続ける。


(証明って言われても、僕が綾音以外の誰かと付き合うなんて絶対にあり得ないことなんだけどなぁ。そんなことを今更言っても納得してくれないだろうし……あっ)


ふと、まだ僕が彼女に伝えていなかったことを思い出した。"あたし"としても、そして"僕"としても伝えることができていなかった大切なことを。


「綾音……ううん、立花綾音さん。あなたのことが好きです、あたしと付き合ってくれませんか……?」

「え……?」

「ほら、あたし達小さい頃からずっと一緒だったから、こういうのをちゃんとしたことってなかったでしょ?これが証明ってことで……それにさ、綾音もあたしのことをそんな風に思ってくれてるのか、あたしも知りたかったから……」


そう言うと、彼女は俯いたまま動かなくなってしまった。気まずい沈黙が流れ、今度は僕の方が泣きそうになってくる。


「ちょ、ちょっと、また黙らないでよ。これでも結構勇気を出して言ったんだから……んむっ!?」


いきなり綾音が飛びついてきて、そのまま唇を重ねられる。数十秒ほどキスをしてから離れていくと、彼女は顔を真っ赤にしながら微笑んでいた。


「私も……ううん、私の方がずっと、ずっと好きだよ、ゆずちゃん。だから返事は……えへへっ、これからもよろしくお願いします、かな♡」


少しだけ照れ臭そうにはにかむ綾音の顔を見て、心の中が愛しいという感情でいっぱいになる。僕が"僕"のままだったら知ることすらできなかったであろう彼女の顔。でも、今はそれが僕に向けられていて……本当に、あの日僕が柚香になれて、本当によかった。


「あたしの方こそ、これからもよろしく……ずっと、大好きだよ、あたしだけの綾音……♡」


今度は僕の方からキスをして、そのままどちらからともなく身体を重ね合わせる。永遠とも思える時間の中で、僕たちはお互いの愛を確かめ合うのだった。


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