朱を奪う紫の華
Added 2022-08-17 11:53:20 +0000 UTC10発目です。いつも通りな感じのやつです。いつも通り女の子とおじさんが入れ替わって元に戻れなくなるやつ。いつも通りめちゃくちゃエッチな仕上がりです。
「ブスが足元見やがって……てめぇなんざこっちから願い下げだっての!」
金曜日の夜ということもあり、賑わいを見せる繁華街。その最寄り駅にある広場で、不快そうな表情を浮かべつつスマホを弄る女性を相手に、捨て台詞を吐く男の姿があった。
彼の名前は町田健治。43歳という年齢もあってか腹回りには見て分かるほどの贅肉がつき、髪が薄くなりつつある頭部は地肌が見え隠れしている。お世辞にも、整った容姿とは言えない中年の男だ。
彼がいる広場には、声を掛けた女性以外にもちらほらと若い女性の姿があり、その内の何人かは健治と同じような目的を持っているであろう男たちに声を掛けられているようだった。そんな中、先ほど声を掛けた女性に今度は若い男性が近寄ると、一言二言と会話を交わしたのち、そろって繁華街の方向へと歩き始める。
「クソッ!どいつもこいつも……」
この広場は立ちんぼ……いわば売春目的の女性が集まることで密かに有名な場所で、健治もそんな女性たちに声をかけようとこの場所に来ていたのだ。
しかし、結果はご覧の通り。声をかけた女性は、あろうことか健治のことを"キモいオヤジ"だと罵った後、若い男性と共に夜の街へと消えていった。
悪態をつきつつも、次のチャンスを探そうと広場にいる他の女性に再び目を移す。
「おっ……?へへっ、良さそうなのがいるじゃねえか」
ふと目に止まったのは、黒髪を肩口まで伸ばした、清楚そうな印象を受けるボブカットの女性だった。遠目から見てもはっきりとわかる豊満な胸元に、整った顔立ち。何より、白いブラウスに濃いブラウンのロングスカートという服装は、派手で露出の多い衣服で着飾っている他の女性と比べるとかなり大人しそうに見えた。このタイプの女性なら強引に誘えば断られないかもしれない。そう判断した健治は、害の無さそうな笑顔を精一杯作りながらゆっくりと近づいていく。
「よう、嬢ちゃん。暇なら俺と遊ばねえか?2…いや、嬢ちゃんみたいな美人相手なら3は出してもいいぜ?」
「えっ? あ、あの……私に言ってるんですか?」
声を掛けられた女性……竹内奈緒は読んでいた文庫本を閉じることもせず、ただただ困惑していた。
今日はこの近くが勤務地である彼氏と映画を見る予定だったのだが、待ち合わせの時間までは少し余裕があったため、人通りが多い待ち合わせ場所から少し離れたところで時間を潰していたのだ。
まさかその場所が売春で有名だとは微塵も知らない奈緒に、男は言葉を続ける。
「ははっ、とぼけちゃってよ。こんな時間にこんなとこにいんだから、嬢ちゃんもそのつもりなんだろ?なんならもう少し出してやっても……」
「ごっ…ごめんなさい!私、人を待っているので……」
このままではまずいと悟った奈緒は、申し訳なさげな態度を取りながらも男の言葉を遮るようにしてその場を早足で後にする。一方の健治は、既に何人もの女性に断られている苛立ちと焦りからか、しつこく彼女のことを追いかけ始めた。
「まぁ待てって。どうせ嬢ちゃんも体を使って稼ぎたいってタチなんだろ?金なら多少は出せるし……それに、ぐへへっ、俺のブツはデカくて気持ちイイって評判なんだぜ?」
「ひっ……!?や、やだっ、来ないでください……!」
「あっ!?おい、待ちやがれ!」
男の言動に恐怖を感じた奈緒はとうとう走り出し、それを男が追いかけるという構図が出来上がる。しかし、普段あまり来ない街だということもあってか必死に走り続けるうちに少しずつ人通りが少ない場所へと進んでしまう。やがて小さな公園にまで差し掛かったところで、ようやく追いついた健治に腕を掴まれてしまった。
「ぜぇっ……ぜぇっ……。は、ははっ、やっと捕まえたぜ……! こんなとこに来るなんて、嬢ちゃんはレイプされる願望でもあんのかぁ?」
「い……いやぁっ!離して!離してください!」
必死に手を振りほどこうとするが、対格差もあってかビクともしない。男の荒い息遣いと、ニヤけた表情。そして自分を見つめる粘っこい視線に耐えられなくなった奈緒は思わず涙を浮かべてしまう。
一方の健治も、必死で逃げる女性を追いかけつつ、その頭には「流石にマズイのでは」「捕まるかも」といった懸念が浮かんでいた。しかし、彼の身体から沸き起こる強い性欲はそんな躊躇すらいとも簡単に塗りつぶしていき、むしろ周りに誰もいない今を好機だと捉えると、彼は男性器から伝わる衝動のままに、行為に及ぶための場所をキョロキョロと探し始めてしまっていた。
「お前が悪いんだぜ?商売女の癖してお高く止まりやがってよ……っと。さて、どこにするか……」
と、その瞬間、油断からか奈緒の腕を掴んでいた手の力がフッと緩んだ。チャンスとばかりに腕を一気に引き抜き、横にある階段に向けて思い切り男を突き飛ばす……が、慣れない行動をとったためか足がふらつき、そのまま奈緒自身もバランスを失ってしまう。
「うおおぉぉっ!?」
「きゃああっ!?」
空中で2人の身体がぶつかり、そのまま抱き合うような体勢で階段を転げ落ちていく。コンクリートが身体にぶつかる痛みと共に、2人は奇妙な感覚を感じていた。全身から徐々に意識が抜け落ちていき、全身の感覚が薄れていく。それと同時に、その意識が宿っていたものとは別の"何か"の中へと抜け落ちていった意識が吸い込まれ、その"何か"の感覚が少しずつ自分のものとなっていく。
やがて2人は階段の下へと投げ出され、後には静寂だけが残っていた。
***
「う、うーん……」
先に目を覚ましたのは、奈緒の方だった。目を擦りながらも周囲を見渡し、倒れている健治の姿を見て一瞬ギョっとした表情を浮かべるも、再び何かを探すようにキョロキョロと辺りの様子を伺う。
「チッ、逃げられちまったか……。しかし、このおっさんは誰……ん゛……んん!?な、何だこの声!?」
自分の発した声に違和感を感じた奈緒は、喉の調子を確かめようと首元に手をあてる。しばらく咳ばらいをしていたが、やがて視界に入ってきた色白のか細い手をじっと見つめると、化粧が崩れることすら厭わずベタベタと自分の顔を触り、そして白いブラウスに包まれた乳房を恐る恐る掴んだ。
「んっ……こ、この感触、本物なのか……!?つーかこの服装、もしかして……」
「う、うぅぅ……なんなの?か、身体が重い……」
奈緒が騒いでいる声を聞いてか、健治も呻き声をあげつつ意識を取り戻す。重苦しげな様子で身を起こし、その視界に奈緒の姿を捉えた途端、口を大きく開けて固まってしまった。
「なっ……なんで私がそこにいるの!?」
「なんだ?うるせえな。こっちはそれどころじゃ……って、お、俺!?」
先ほどとは打って変わってオカマのような口調で話す健治と、男のように粗野な口調を使う奈緒は互いを見つめ、驚きの声を上げる。なにしろ、姿かたちがまったく同じ"自分自身"が目の前にいるのだ。驚かないはずがないだろう。
「『俺』って、もしかして……きゃあっ!?そ、そんな、私の顔が……!」
健治は奈緒が持っていたショルダーバッグを漁ると、手鏡を取り出して自分の顔を映し出した。そこには当然、『健治』の顔が映っていたのだが、今彼の身体に入ってしまっている奈緒にとってそれは鏡に映るはずのないもので……自分の顔が先程まで自分を執拗に追い回してきた中年のそれになっていることを知り、青ざめた顔で嘆いた。
「お、おいっ、俺にも見せろ! うおお……ははっ!やっぱりさっきの嬢ちゃんになってやがる、どうなってんだ!?」
健治の魂を宿した奈緒は手鏡をひったくると、それを見つめながら驚嘆の声を上げていた。そこに映る、薄めの化粧で飾られた端正な容貌をした女性の顔。それが本当に自分のモノになっているのだと確かめるように、自分の思い通りに変わるその顔を楽しむかのように、角度や表情を何度も変えては鏡を見続ける。
「わ、私の顔で変なことをするのはやめてください!」
「ああ、悪い悪い。……しかし、『私の顔』ね。やっぱお前、さっきの嬢ちゃんなんだろ?」
「は、はい……ということは、やっぱり……」
「ああ、どうやら俺たちの身体が入れ替わっちまってるみてえだな。まさか、こんな漫画みたいなことが起きるとはなぁ?」
不安げに眉をひそめる健治とは対照的に、奈緒はどこか楽しげにニヤニヤと笑みを浮かべている。その態度に一層不安を募らせる健治だったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「そ、それで……これからどうしましょうか?」
「どうするって、何がだよ」
「そ、その……このままではお互い大変だと思いますし、これからどうするか相談をしないと……そ、そうだ!また階段から落ちてみたら元に戻れるんじゃ……」
「あー、そういうのはお前1人で勝手にやってくれ。そもそも、俺は元に戻る気なんてさらさら無いぜ?」
「えっ…………」
あっさりと言い放つ奈緒の言葉に、健治は再び唖然として表情で固まってしまう。そんな姿を嘲笑うかのように、奈緒はその可愛らしい顔を邪悪な笑みで歪めながら、地面に座り込んでいる健治にゆっくりと近づいていった。
「いいか?俺は……いや、その身体はまあ悲惨な人生を送ってきててな。その歳で結婚どころか彼女すらできたこともねえし、ついこないだリストラされちまってどん底だったんだよ。それに……見てくれだってこの通り、ひでえもんだしな?」
「むぎゅっ!?」
奈緒は呆然としている健治の弛んだ頬を両手で潰すように掴むと、自分のものだった容姿を他人事のように乏しめてみせる。
「ははっ!こんな不細工なおっさん、そりゃ女も寄り付かねえわな」
「や、やめてくださいっ……!」
思わず手を振り払う健治だったが、そんな彼を見下しながら、今度は自身の顔に手を当てて見せる。
「それに比べて、この身体はどうよ?若いうえに相当な美人ときたもんだ。それに……ひひっ♪スタイルも抜群だしな?こんなに良いカラダを捨てて、お前みたいなおっさんに戻りたいわけねえだろが」
「で、でもっ……!それは私の身体で……」
「バーカ、これはもう俺の身体で……お前のはその、薄汚ねぇおっさんの身体なんだよ。 ってわけで、これからはお互い新しい人生を楽しむとしようぜ?」
「ふっ……ふざけないでください!私の身体を返してっ!」
激昂した健治は低く野太い声でそう叫ぶと、必死の形相で奈緒の細い肩に掴みかかった。が……
「ひぐう゛っっ!?がっ……ぁ…………」
「はははっ!じゃあな嬢ちゃん……いや、おっさん♪少しはマシな人生になることを祈ってやるぜ」
奈緒は健治の股間に思い切り膝蹴りを喰らわせた。これまでは女として生きてきた健治にとっては初めての、男にとっても耐え難い激痛を前に悶絶して倒れ込んでしまう健治の姿を眺めながら、奈緒は勝ち誇ったような表情で笑い声を上げる。そして、そのまま痛みで動けずにいるかつての自分の身体を置き去りにして、新しく手に入れた身体の長い脚を動かしてその場を走り去っていった。
***
「――ここで合ってるんだよな?へえ、これが今時の女の部屋か……なんか良い匂いがするな」
元の自分の身体と別れを告げた奈緒は、彼女の荷物に入っていた免許証に書かれていた住所を頼りにして、彼女が住むマンションの部屋に入り込んでいた。
本来の彼女であれば、今頃は仕事帰りの彼氏と合流して約束していた映画を観ていたのだろうが、そんなことを知りもしない今の『奈緒』は新しい自分の住居、若い女性の部屋を好きに探索できるということに浮足立つ。
「ガキくせえぬいぐるみなんかは捨てるとして……広いし片付いてるし、元の俺のゴミ部屋とは大違いだな。この部屋が……いや、ここにある物も、この身体も全部、これからはもう俺のものなんだよなぁ♪」
彼氏からプレゼントされた大事なぬいぐるみを乱暴にベッドから追いやり、満悦の表情を浮かべながら寝転ぶ。そして、財布から免許証や学生証を取り出すとまじまじと見つめた。
「ふーん、これが今の俺なんだな。竹内奈緒。20歳の大学生、か。上手くなりすませるか分かんねえが……ま、なんとかなるだろ。いざとなりゃ大学なんざ辞めちまえばいいしな」
新しい『奈緒』は、本来の彼女が生きてきた竹内奈緒としての人生を奪い、乗っ取る気でいた。今度はバッグからスマホを取り出すと、免許証に書かれた生年月日を見つつ、パスコードを入力していく。
「……チッ、だめか。これが見れるようになんなきゃマズいんだが……」
スマホからは先程から、メッセージや着信を示す通知が何度も鳴り響いていた。身体が本人のものである以上、彼女が『竹内奈緒』だということを怪しまれはしないだろうが、彼女に来ている連絡を無視し続けるのにも限界があるだろう。何より、個人情報の塊であるスマホを見れるようになれば、竹内奈緒になりすますことが容易になると彼女は踏んでいたのだ。
「ま、いざとなりゃ修理にでも出しちまえばいいか。それより……へへっ……♡」
スマホを放り投げ、胸の上にたぷんと重くのしかかる双丘をじっと見つめる。しばらくは仰向けになったまま、感触を確かめるようにゆっくりと揉んでいたが、やがて身体を起こすと鼻息を荒くしながら揉みしだき始めた。
「ははっ!でけえとは思ってたが、こうして自分のものとして見ると相当なもんだな。それに……んっ♡揉むのが好きだったが、こうして揉まれる感触も意外と……♡」
やがて邪魔になったのか、身に着けていたブラウスやキャミソールを慣れない手つきで脱いでいく。その下に着けていたベージュのフルカップブラが目に入ったところで、奈緒は怪訝な表情を浮かべる。
「うおっ…なんだこりゃ?ババ臭ぇの着けてやがんな、これじゃあ萎えちまうだろうが。もうちょいマシなのは、っと……」
タンスを漁ってみたが、どれも地味な色の下着ばかりでため息がでる。今度自分好みのものを買い足そう、などと勝手なことを考えていると、タンスの隅に追いやられている下着の存在に気づいた。
「へえ、中々エロいのがあるじゃねえか。勝負下着ってやつか?へへっ、奈緒ちゃんもすみにおけねえなぁ」
取り出したのは、布地が少なめな黒いレースの下着だった。彼氏との行為に備えろと、おせっかいな友人から半ば強引に勧められて買ったものだったが、奥手な奈緒はそれを自分から身に着けることもなく、いつしかタンスの肥やしとなっていたものだった。
身に着けていたベージュのブラのホックを四苦八苦しながらもなんとか外すと、支えから解放された乳房がぷるんっと揺れながら露わになる。余程興奮していたのか、その先端では乳首がピンと勃起しており、早く触れて欲しいと言わんばかりに震えていた。
「うほっ!いいねえ、綺麗なピンク色じゃねえか!感度も……んぅっ♡なかなか……っと、お楽しみはとっておくとして、まずはこのエロい下着姿を拝ませてもらうとするかな……♡」
指先で乳首を弾いて喘ぎ声を漏らしつつ、タンスから引っ張り出した黒いブラジャーを手に取る。ストラップを肩にかけつつ、たぷたぷと揺れる双丘をカップに収めていくのだが……
「おおっ……?な、なんだこりゃ、どうすんだ……?」
脱ぐことができたのだから着るのも容易だろうと考えていたが、タイプの違うブラだったためか上手く装着することができずにいた。それでも苦労して、なんとか後ろ手にホックをパチッと嵌めたはいいものの、豊満な乳房がカップから溢れて乳首が見え隠れしている始末だ。
「これはこれでエロいからいいけどよ……やっぱこういうことも一から覚えなきゃなんねえのか?めんどくせえな……へへっ♪」
ぶつくさと文句を垂れる奈緒だったが、かといって、元の身体に戻りたいなどという気は微塵も湧かない。それどころか、以前の自分とは全く違う若い女性になれたという事実を改めて実感し、高揚した気分にすらなっていた。
そして、ショーツも履き替えようとスカートに手を掛けた時、ガチャッと、部屋のドアが開く音が聞こえてきた。
「(だ、誰だ!?もしかして、俺の身体のあいつが追いかけて来たのか……!?)」
部屋に入ってきた人物は、迷うことなく奈緒がいるリビングまで進んでいく。慌てる奈緒の目に入ったのは、以前の自分の身体などではなく、スーツを着た若い男の姿だった。
「奈緒、大丈夫か……って……な、なんて格好してるんだよ!?」
元の自分の身体が追いかけてきたのではないと分かり、ひとまず胸を撫でおろす。しかし問題は残っている。この男が『奈緒』にとっての何なのか、ということだ。
「おい、お前……じゃねえや。 えーと、あなた、私の彼氏とかだったり……する?」
「当たり前だろ、何を変な冗談言ってるんだ?……そ、それよりも、早く上になんか着てくれよ。目のやり場に困るからさ……」
奈緒の予想通り、男は『奈緒』の彼氏のようだった。とりあえず、男の言う通りにブラウスを着直してみせる。奈緒としてはせっかくのお楽しみを邪魔されたような形なので、半ば苛立ちながら男に問いかける。
「ほら、着てやったぜ。で?何の用?」
「何のって……今日は一緒に映画を観に行く約束してただろ。忘れてたのか?連絡しても全然繋がらないから心配で……」
「あー、そういうことか」
「そうだ、それより……さっき部屋の前に変な奴がいたんだよ。奈緒は大丈夫だったか?」
「お…私は別に何も。変な奴って?」
「いや、なんか『私が奈緒なの!』とか言ってくる男がいてさ。警察を呼ぶって脅したらどっかに逃げていったんだけどさ、俺たちの初デートでどこに行ったのかとか知ってて……気味が悪いよな。もしかしてお前、ストーカーでもされてるんじゃないのか?」
男が言った"変な奴"とは恐らく、奈緒の魂が入った健治の身体なのだろう。どうやら奈緒を追いかけて部屋の前に来たものの、実の彼氏に不審者だと思われて追い返されてしまったようだった。
「……奈緒、どうしたんだ?ニヤけたりなんかして」
「ん?いや、別にぃ?そうそう、あのおっさん私のストーカーだからさ。今度見かけたらぶん殴っておいてくれよな」
「ぶん殴るって……今日のお前、やっぱ変だよ。熱でもあるんじゃないか? とにかく、ストーカーの話は後でちゃんとするとして……この調子じゃ映画なんて無理そうだし、今日はもう家でゆっくりすることにしようか。いいだろ?」
そう言うと、男はネクタイを外しながらクッションに腰を下ろした。
「は?なんだお前、まさか泊まる気なのか?」
「そりゃまあ……先週は俺の部屋だったし、元々その予定だったじゃないか」
「別れる」
「…………へ?」
「聞こえなかったか?別れるっつったんだよ!おら、とっとと出てけ糞野郎!」
呆然とする男をグイグイと押しやり、そのまま玄関の外に放り出してドアにチェーンを掛ける。
「お、おい!?いきなりどうしたんだよ!やっぱりさっきの男に何かされたんじゃ……おい、奈緒!?」
扉越しに必死で呼びかけてくるが、奈緒は返事をしない。すると諦めたのか、しばらくした後、ゆっくりと部屋の前から離れていく足音が聞こえてきた。
「ったく、やっと行きやがったか。良いところで邪魔しやがって……。しかし、勢いで追い出しちまったが……まあ別にいいか。男と乳繰り合う趣味はねえし、それに……へへっ♡こんな極上のカラダが目の前にあるんだから、そもそも恋人なんざいらねえよなぁ♡」
奈緒は最愛の相手であるはずの男に悪態をつきながら、中断していた行為を再開する。ブラウスを再び脱ぎ、足を覆うスカート、そしてベージュのショーツを一息に脱いでいった。
「うおぉぉっ!当たり前だけど、チンコもなにもねえんだよな……これが奈緒ちゃんの、俺のマンコ……♡」
先刻の行為によってか少し濡れていた秘所に指を這わせると、甘い快感とともにぴくっと身体が撥ねる。以前の自分の身体にはついていなかった器官に触れているという事実が、より一層の興奮をもたらしているようだった。
「あとはこいつを履いてと……へへっ、いいねぇ!やっぱあんな地味な恰好よりこっちのが断然似合ってるよなぁ♡」
姿見の前に立つと、そこには以前の自分……醜い中年の身体とは似ても似つかない、若い女の姿が映し出された。
ブラウスを脱いだことで露わになった透き通るような白い肌に、蠱惑的な黒いレースの下着に包まれた豊満なバスト。ウエストは女性らしいくびれを保ちつつ、そこから下腹部にかけて肉付きの良いヒップラインが続いている。当然その股間に膨らみなどはなく、ショーツに覆われたのっぺりとしたその箇所は、彼女の興奮を表すかのようにうっすらと湿り気を帯びていた。
しばらくは鏡に映る自身の蠱惑的な肢体に見惚れていたが、自分の思い通りに動く美女が鏡に映るという状況が余程嬉しかったのだろう。胸を下から持ち上げてゆさゆさと揺らしたり、脚を大きく開いて見せたりと、まるでグラビアアイドルのようなポーズを次々と取っていく。
「うっふーん♡現役女子大生の竹内奈緒でーす♡ってな!はははっ!こんだけエロい身体が目の前にあるんだから当分オカズには困んねえな……っつうか……んぅっ……♡」
奈緒は、いや、奈緒に宿っている健治の魂は強い違和感を感じていた。自分の精神は、脳は、目の前で繰り広げられている痴態に対して間違いなく興奮している。しかし、今の身体にはその興奮を表現するための、慣れ親しんだ肉棒は備わっていないのだ。
けれど、この身体は未だかつてないほどの強烈な疼きと共に興奮を体現している。ジクジクと疼く下腹部を撫で、そのままゆっくりと指をショーツの中へと滑らせていく。ぐちょっとした生温かい感触と共に、ショーツの下から滴るほどの潤滑液に塗れた陰核に触れた瞬間、これまで感じたことのないような痺れるような感覚に襲われる。男だった時には感じようもなかった感覚。
「は、はは……これ、クリってやつだよな?チンコがねえってのは相当な違和感だけど、この感じ……多分これがチンコの代わりみてえなものなんじゃ……あんっ♡♡ !?な、なんだ今の声、俺が出したのか……?」
充血し、屹立しきったその箇所を指先で弄ると、甘い嬌声と共に再びあの痺れにも似た刺激が全身を駆け巡る。それは今まで味わったどんな快感よりも強烈であり、気付けば奈緒は無意識のうちに指の動きを激しくしていた。
「ん゛っ♡♡う゛ぉぉぉっ♡♡あぁっ♡♡♡ や、やべぇっ♡♡♡こ、これ、チンコなんかとは比べ物になんねえくらい……あひぃっ♡♡気持ちよすぎて……あっ♡あぁんっ♡♡♡」
最初は軽く弄る程度だったはずの愛撫は、徐々に快楽を得るためだけの行為へと変貌していく。いつの間にか奈緒はショーツを脱ぎ捨て、鏡の前で淫らに身をよじらせながら自慰に耽っていた。快感に身を任せ、更なる快楽を得るために自身の豊満な乳房を揉みしだき、敏感になっているその先端をくにくにとこね回していく。鏡に映るそんな『奈緒』の痴態も、今の奈緒にとっては興奮を更に刺激する極上のスパイスとなり、自慰に没頭する自分を見て興奮し、それを糧に快感の質が高まって更に興奮するという、永遠にも思えるような快楽の循環を生み出していった。
「あっ♡♡♡あはぁっっ♡♡♡♡奈緒ちゃんのマンコもっ♡♡おっぱいもぉっ♡♡♡♡もう全部俺のもんなんだっ♡♡♡イっ……イクぅっっ♡♡♡♡奈緒のっ♡♡♡♡俺のカラダでぇっ♡♡♡♡♡♡」
一際大きい快感が脳を直撃したと思った瞬間、ビクっと、意思に反して全身が大きく跳ね上がる。快感の起点となった股間を中心として全身に心地の良い感覚がじわじわと広がっていく。
奈緒に宿った男の魂にとっては初めての、女性としての絶頂の快楽。その強烈な刺激を前にしてしばらく息を整えることしかできなかったが、やがてあることに気づく。
「はぁっ…♡はぁっ…♡こ、これっ、全然興奮が収まらねぇっ……♡♡つーか、さっき以上に……♡♡♡♡」
先刻の自慰であれほど激しい興奮と快楽を感じていたというのに、一向に昂りが鎮まる気配がないのだ。それどころか、むしろより一層強くなっているようにすら感じる。
それもそのはず。今の奈緒の肉体は性欲を持て余す若い女そのものなのだ。一度の射精で興奮が冷めてしまう男の肉体とは対照的に、奈緒の身体はもっと強い刺激を求めて止まなかった。そして、幸か不幸か彼女の肉体は、肉欲で頭が埋め尽くされた卑俗な男の魂のものになっている。
「くっ……はははっ!いいねぇ、とんだドスケベボディじゃねえか、奈緒ちゃん♡♡ そんじゃ、お互いに満足するまでとことん楽しむとしようぜ……♡♡♡」
奈緒は鏡に映る自分にそう告げると、再び自身の身体へと手を伸ばし始めていった。
***
気が付くと、奈緒は屋外を歩いていた。テーマパークか何かだろうか。遠目に城のような建造物やアトラクションのようなものがいくつも見え、周囲は大勢の人で賑わっている。
「(はぁ?どこだここは……って、なんだ!?こ、声が出ねえ……!?)」
それだけではない。身体も動かず……というよりは、自分の意思とは関係なく勝手に足が動いている。ふと、身体が勝手に隣にいる人物を見上げる。そこには先刻追い返したはずの男、奈緒の彼氏の姿があった。
「(てっ、てめえ!いつの間に戻って――)ふふっ……私、なんだか夢でも見てるような気分です。先輩とこんな風に一緒に歩けるなんて……」
奈緒の思考を上書きするように、奈緒の身体は勝手に言葉を発する。困惑と苛立ちが、強い喜びの感情で塗りつぶされていく。
「そんな風に言ってもらえると連れてきたかいがあるってもんだよ。それよりほら、乗りたいアトラクションがあるって言ってたろ?行列になる前に早く乗っちゃおうか!」
そう言うと、男は奈緒の手を握った。気色が悪いと手を振り払おうとしたが身体は思うように動いてくれず、代わりにぎゅっと、男の手の感触を確かめながら握り返してしまい、それと共に温かい感情で心がいっぱいになっていく。
「(な、なんだこれ……!?俺、どうなって……うおぉぉぉっ!?)」
それをきっかけにして、奈緒は脳内に浮かぶ膨大な数の場面を見て……否、体験していた。それは、彼女の脳細胞が記憶していた、『竹内奈緒』が20年間生きてきた中で蓄積した記憶の数々。それが一瞬、そして永遠とも思える時間の中で再生されていく。その時奈緒が味わったもの、見た景色、嗅いだ臭い、耳にした声、触れたものの感触。そして、その時感じた想いに至る全てが、奈緒の中に宿った健治の魂へ現実感を伴った体験として刻まれていく。
「(これっ……わ、私の記憶……!? ち、ちげえっ!俺は奈緒なんかじゃ……お、俺は、私は――)」
***
「――うわぁっ!? はぁっ……はぁっ……な、何だったんだ今の……夢、なのか……?」
がばっと身を起こすと、奈緒は汗だくになりながら荒い呼吸を繰り返す。どうやら昨晩、激しい自慰を繰り返した果てに寝てしまっていたようで、姿見の前のフローリングには水たまりができるほどの愛液が跡を作っていた。
「ああ、シコったまま寝ちまってたのか。……そういや昨日風呂入ってなかったな。汗もかいちまったことだしさっさと済ませるか」
体液で汚してしまった床を綺麗に拭き取り、もはや恥部を隠すという役割を果たしていない下着を慣れた手つきで外していく。クレンジングで化粧を落とし、軽くシャワーを浴びてからシャンプーで頭を丁寧に洗っていく。やがてトリートメントに手を掛けたところで、奈緒は自分の身に起きている異変に気付いた。
「……なんで俺、こんなことができてんだ?当たり前みたいに……ていうか……これ、奈緒ちゃんの身体だよな?それなのに違和感がねえっつうか……」
奈緒の身体に宿っている魂は、昨日と変わらず他人の、健治のものだった。にもかかわらず、彼女は本来の『奈緒』がやっているであろう行動を無意識にこなしてみせ、それどころか昨日は目にしただけで興奮していた美しい肢体ですら、そこに在るのが当然である自分の肉体として認識していたのだ。
「もしかして……うおぉっ、マジか!?わ、分かる。私の、奈緒ちゃんのことが全部……!ははっ、なんだか知らねえが記憶まで手に入っちまったってことだよな!?これならなりすますなんて楽勝だぜ……!」
人間の脳は、睡眠の際に記憶を整理している。通常であれば、一日の内に体験したことを脳細胞に刻み込み、優先度が低いと判断した記憶を少し奥へと追いやるだけなのだが、その日は全てが違っていた。その肉体に、脳に宿った魂が、今までのそれとは違うものになっていたのだ。今まで『奈緒』ではなかった健治の魂は当然、『奈緒』が経験してきた記憶を持ちようもない。しかし、健治の魂を奈緒のそれだと誤認した彼女の脳は、そのことを『奈緒が記憶を無くしてしまった』と捉えてしまったのだ。その結果、記憶の差異を埋めるために奈緒の脳に刻まれた記憶の全てが健治の魂に明け渡されることになったのだが、そんなことを知る由もない当の本人は、『奈緒』としての身体だけでなく記憶まで手に入れたことに歓喜の声を上げる。
「へえ、奈緒ちゃん昔は太ってて……ふーん、それでいじめられてたんだ?だから自信なさげだったってわけか……へへっ、それなら俺と入れ替わって、このカラダもラッキーだったんじゃねえか?俺なら……んっ♡このエロエロボディの価値を分かってやれるんだからよぉっ♡♡」
鏡の前で胸と股間を弄りながら、奈緒は快感に身を震わせる。その姿からは、かつての清楚な雰囲気は微塵も感じられなかった。
奈緒は濡れた床に座り込み、再び自慰を始める。2度3度と絶頂に達すると満足したのか、いつも通りのルーティンをこなすと浴室から出て行った。
「さて、今日の『私』はどういう予定だったか……って、ああ、そういや……」
ドライヤーで髪を乾かしつつスマホを手にし、パスコードを入力してロックを解除する。通知が溜まったメッセージアプリを確認すると、彼氏からのメッセージが真っ先に目についた。
「昨日、無理やり追い出しちまったんだよな。あんなに心配してくれてたってのに……って、な、何考えてんだ!?いや、でも……」
画面には、待ち合わせ場所に来なかったことを心配するメッセージが数件。そして、ストーカーの被害に遭っているのだと勘違いして奈緒の身を案じているであろうメッセージが数件と、部屋を追い出されたことに対する謝罪のメッセージが積み重なっていた。それを見て、チクリと胸の痛みを感じる。
奈緒の身体に宿っている『健治』としては、当然男と付き合うことなどもってのほかだ。『奈緒』が今まで築いてきた関係などどうでもいいと、彼氏の連絡先をブロックしようとするが……どうしてもその手は思うように動かなかった。
「ああ、クソッ!……まあ、女としてのセックスってのにも多少興味はあるしな。利用するだけ、セックスのために利用してやるだけだ……」
何かを誤魔化すように独り呟いたかと思うと、今度は画面に表示されている相手に通話を掛け始める。
「もしもし、康介くん?……うん……ううん、康介くんは悪くないよ!私が……。ねえ、これから会えないかな?直接会ってちゃんと謝りたくて……うん、うん――」
電話口の向こうにいる彼氏に向かって、奈緒は必死に語り掛ける。そこには昨晩浮かべていた下卑た表情とは似ても似つかない、彼氏を想う『奈緒』そのものの顔があった。
***
「(ふぅ、疲れた……。それにしても、今日の"パパ"は随分気前が良い人だったなぁ。また呼んでもらえるようにしておかないと)」
繁華街にあるラブホテルを出た奈緒は、その日得た収穫のことを思い浮かべながら最寄りの駅まで向かっていた。
『奈緒』と『健治』の身体が入れ替わってから既にひと月が経過しているが、2人の身体は一向に戻る気配もなく、どういうわけか本来の『奈緒』の魂が入った健治の身体も入れ替わった日以降は彼女の前に姿を現すこともなかったため、『健治』の魂は今も奈緒の身体に宿ったままでいた。
「(そういえばここって、あの時の……ふふっ!みんな鼻の下伸ばしちゃって、バカみたい)」
駅に向かう途中、数人の男女がたむろしている広場が視界に入った。そこは以前、奈緒と健治が出会った場所。つまりは健治が女性との関係を持とうと足しげく通っていた場所でもあるのだが、奈緒はそこに集まっている男たちを一瞥すると、クスリと笑みを浮かべる。特にその場所に用もなかったため、そのまま駅の中へ入ろうとしたが――
「(あれってもしかして……『私』?いや、でもそんなはず……)」
たむろしている男の中にはかつての自分……つまりは『奈緒』の魂が宿っているはずの健治の姿があった。広場に立っている女性に声を掛けたかと思うと、今度は怒ったような様子で喚き散らす、以前の健治と全く同じ様子の男がそこには居た。
見間違いかと思い、足を止めてその男の姿をじっと見つめていると……ふと、その視線と目が合ったような気がした。慌てて目を逸らし、早足で駅まで駆けてそのまま電車に乗り込む。
「(やっぱり、あれって『私』だったよね?なんであんな……いいや、忘れちゃおう。どうせもう私とは関係のない人なんだし)」
1ヶ月もの期間を『奈緒』として過ごしてきた彼女は、ほとんど以前の『奈緒』と同じ人物となっていた。数点違うことをあげるとすれば、以前と比べて彼氏とのセックスが頻繁になったこと、服装に露出の多い派手なものが増えたこと、消極的だった以前よりも自信に満ち溢れていることと、小遣い稼ぎにパパ活を始めたということぐらいだろうか。
新しい人生を謳歌している奈緒は、自分が中年の男として生きてきたということをすっかり記憶の端に追いやっていた。そのため、元の自分の身体を目にしても他人のようにしか感じられなかったのだが……そのせいか、男の目つきに込められた熱に気づくことはなかった。
***
奈緒が自宅に着く頃には、時刻は既に午後10時を回ろうとしていた。明日は金曜日。恒例となっている彼氏とのデートに胸を躍らせつつ玄関の鍵を開ける。
ハイヒールを脱ぎながら扉を閉めようとしたところで――閉めようとしていた腕を外から伸びてきた手が掴んできた。
「きゃっ!?な、何!?」
「や、やっと見つけた!私の身体……今度こそは逃がさないんだから……!」
そこに立っていたのは薄汚れた衣服に身を包んだ中年の男……かつては『奈緒』だった健治の姿だった。どうやら駅からずっとあとをつけていたようで、自宅に帰る奈緒を追うようにしてここまで来たらしい。
「私の身体、返してもらうんだからね!おら、さっさとついてこいっ!」
健治は怒鳴り声をあげながら、グイっと奈緒の腕を引っ張り外に連れ出そうとする。突然のことに慌てる奈緒だったが、やがて"あること"に気づくと落ち着きを取り戻し、余裕の笑みを浮かべながら健治に語り掛ける。
「へえ?奈緒ちゃんはそんなに元の身体に戻りたいんだ?」
「当たり前でしょ!」
「そっかぁ。でも本当は、私のことを犯したくて仕方がないんじゃないの?」
奈緒はそう言いながら、健治の股間部分を指先でスッと撫で上げる。そこはズボン越しにも分かるほどに膨らんでおり、健治の顔には動揺の色が浮かんでいた。
「そ、そんなわけない!私は……」
「男の人のここはえっちなことでも考えてないとこうはならないんだよ? 当ててあげよっか。こうやって女の子の部屋に押し入ったりしてるの、レイプ物のAVみたいで興奮したんでしょ?」
「っ…………!」
どうやら図星だったらしく、撫で上げていた男の股間がビクッと撥ねる。
「ふふっ、元は私だったのに、すっかり男の人そのものになっちゃったみたいだね♪」
「うっ…うるせえ!それもこれも、お前の身体のせいなんだから!」
「あははっ、ごめんごめん。 でも、そっかぁ。そんなに元の身体に戻りたいのなら、協力してあげてもいいよ?私も、女子大生としての生活を十分楽しませてもらったしね」
「ほっ、ほんと!?」
「もちろん。……積もる話もあることだし、とりあえず上がってかない?」
奈緒はニコッと微笑みかけると、健治の手を引いて部屋の中に招き入れる。健治は一瞬戸惑ったものの、すぐに奈緒の言葉に従い彼女の後についていった。既に主導権が逆転してしまっていることにも気づかずに。
***
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……」
リビングに向かい合って座ると、奈緒は健治にハーブティーが入ったグラスを差し出す。それは彼女が以前から愛飲していたものなのだが、それを飲んで不味そうに顔を歪める健治の姿を見て、奈緒はクスリと笑みを浮かべた。
「で、元の身体に戻るんだっけ?それならあなたが言ってたみたいに、あの階段でもう一度転がり落ちて見るのもいいかもね。でもその前に、1個聞いておきたいことがあるんだけどいいかな?」
「聞きたいこと……?」
「奈緒ちゃんさ、もうほとんど私の……『奈緒』だった時の記憶、覚えてないんじゃない?」
「うっ…………」
「入れ替わった日に部屋の前まで来てたみたいだけど、それ以降は来なかったし。で、あの広場で私と目が合ったその日にこうやって来たわけでしょ?だから自分が住んでた部屋の住所すら忘れちゃったのかなあって思ったんだけど……どう?当たってる?」
うなだれる健治の姿を見て、疑惑は確信へと変わった。目の前にいる男は既に、ほとんど元の『健治』になってしまっているのだと。
入れ替わったあの日、奈緒が身体の記憶を手に入れたように、健治もその身体の脳に宿った記憶を、その内に宿った魂へと無理やり詰め込まれてしまったのだ。しかし、20年しか生きていない奈緒に比べて、健治はその倍以上の人生を経験し、その記憶を脳は保管している。許容量を超えた他人の記憶に呑み込まれた奈緒の魂は、元の身体の記憶をほとんど失ってしまっていたのだ。それでも何とか必死に、自分が『奈緒』だったということを支えに数少ない記憶を今日まで保っているような状態だった。
「う、うるせえっ!全部お前のせいなんだからな!?私のことが何も分からなくなっちゃったし、なんとか私に会おうとしてあの広場に行っても、たむろしてる女どもを見てたらセックスしたくなっちゃうし……こ、このままだと私が私じゃなくなりそうで……!だから、早く元に戻して!その身体を返してよぉっ!」
「あーあー、そんなに怒鳴らないで。興奮しすぎると血管切れちゃうよ?お・じ・さん♪」
「っ……!だ、誰のせいだと……!」
「だから怒んないでってば。ちゃんと協力してあげるって言ったでしょ?それより……ねぇ、せっかくこうして再会できたことなんだし、ちょっとだけ遊んでみたくない?」
そう言いながら奈緒は立ち上がり、健治の背後に回るとその背中を抱きしめる。そしてそのまま自分の胸を健治の背中に押し当てるようにすると、彼の耳元で甘く囁いた。むにゅり、と柔らかい感触が背中全体に広がり、健治は思わず鼻の下を伸ばす。そんな彼の反応を楽しむかのようにクスクス笑うと、奈緒は健治の股間部分を優しく撫で上げた。
「ちょっ、何を……」
「何って、私に抱きつかれて、おっぱいをぎゅーってされてるだけで勃起しちゃうおじさんチンポを触ってあげてるだけだよ?」
「ふ、ふざけるのもいい加減に……」
「せっかくなんだしさぁ、元の身体に戻る前にその身体で……元の身体にえっちなことされてみたくない?ほら、私のおっぱい、気持ちいいでしょ♡この柔らかーいおっぱいで、パ・イ・ズ・リ♡してほしくない?」
奈緒は甘ったるい声をあげながら、ぐにぐにとわざとらしく背中に胸を押し当てて健治の反応を伺う。彼は顔を真っ赤にして黙ってしまったが、返事の代わりだと言わんばかりに、奈緒の細い指先に触れられている股間はより一層その大きさをムクムクと膨らませていった。
「あはっ、素直になってくれて嬉しいなぁ♡それじゃ、脱がせてあげるね?」
慣れた手つきでズボン、そしてパンツまで脱がせてしまうとそのまま健治をベッドに押し倒す。その間も健治は抗議の声をあげることも抵抗することもなく、ふぅふぅと息を荒げながらされるがままになっていた。
奈緒はそんな男の姿を見て満悦な笑みを浮かべると、肩を大きく露出させたブラウスをぐいっと捲り上げてみせる。どうやら下着を身に着けていなかったようで、ぶるんっと音を立てて彼女の大きな乳房が露わになった。
「どう?私のおっぱい、柔らかくて気持ちよさそうでしょ♡ノーブラだとすぐパイズリできるし、直接触らせてあげたりもできるから"パパ"と会う時はいつもこうしてるんだよね♡」
「パ、パパって、もしかして……!ふ、ふざけんな!私の身体で勝手なことしないでよ、変態!」
「ひどいなあ、私はこのえっちなカラダを有効活用してるだけだよ?それに……あははっ♡そんな風におっぱいをガン見されながら言われても説得力ないかなぁ♡」
「うぅ…………!」
自分の肢体に釘付けになっている健治に見せつけるように、ゆっくりと両手を使ってその巨乳を上下させてみせる。たぷたぷと揺れ動くその光景に夢中になってしまっている健治の姿を見て、奈緒はクスクスと笑い声をあげる。
「それじゃ、私のおっぱいが大好きな変態おじさんに大サービスしてあげるね♡」
そう言うと奈緒は健治の下半身に馬乗りになり、その巨大な胸を近づけていく。そして谷間に肉棒を挟み込むと、そのまま前後に動かし始めた。
「うおぉぉっ!?これっ……や、やばっ……!気持ちよすぎ……っ!!」
男根からダラダラと流れ続ける我慢汁を、こぼさないように胸の谷間で受け止めていく。ヌルついた液体によって滑りが良くなったことで更に快感が増したのか健治はビクビクッとその身を震わせ、一方の奈緒も、胸と胸の間を熱い肉棒で擦られ続ける感覚を愉しみながら、自身もピンと張りつめた乳首を親指でこねくり回し、快感を貪っていた。
「あははぁっ♡気持ちいい?気持ちいいよね♡♡自分のものだったおっぱいでパイズリされながらこんなに鼻息荒くしちゃって、変態なのは一体どっちなのかなぁ♡♡」
「う、うるせぇっ!今はお前のモンなんだから関係ねぇだろが!うぅっ!」
「ふふっ、そうだよねぇ♡今はこのおっぱいはあなたのじゃなくて私のなんだから、あなたがこうやって必死におちんちんを擦りつけてくるのも仕方のないことだもんね♡♡だからほら、遠慮なんてしないでもっと気持ちよくなっていいんだよ?」
奈緒の言葉に促されるままに、健治は彼女の胸に擦りつけるように、腰の動きをより激しくしていく。ぬちゅっ、にちゃっという卑猥な水音に混じり、男の汚い呻き声と女の艶やかな嬌声が部屋中に響き渡る。
健治は快感がピークに達しようとしたことを感じ取り、思い切り射精してやろうとして奈緒の乳房を掴もうとする。しかし、奈緒が胸を動かすことをやめて身体を起こしたことで、その手は空を切ってしまった。
「あっ……おい、ふざけんな!いいところだったってのに、なんでやめちまうんだよ!!」
快感が中断されたことで、健治は苛立ったように声をあげる。その姿は性欲に溺れた浅ましい男そのもので、そんな男に"とどめ"をさしてやろうと、奈緒は妖艶な笑みを浮かべながら甘い声で囁く。
「最後までシてあげてもいいけど、その前にこう約束して?もう元の身体に戻りたいなんて言わない。これからはずっとその男の身体で、『町田健治』として生きていくって♡そしたら私のこの自慢のおっぱいで天国までつれていってあげるよ♡」
奈緒は自らの胸を両手で持ち上げると、見せつけるように揉みしだいてみせた。
「はぁ!?う、嘘だろ?そんな……」
元の身体を、『竹内奈緒』の身体を諦めて、今自分が入ってしまっている中年の男として一生を過ごす。それを認めて、受け入れてしまえば何か取り返しのつかないことになってしまうような気がして、彼の中に微かに残っている『奈緒』はそれを阻止しようと必死に警鐘をあげつづける。だが――
「――そんな簡単なことでいいのか!?」
『奈緒』の必死の抵抗も虚しく、健治は歓喜の声をあげてしまった。度重なる誘惑、そして寸止めされている状況を前にして、彼の中に微かに残った理性は巨大な性欲に塗りつぶされてしまったのだ。
「簡単って……さっきまであんなに元の身体に戻りたがってたのにいいの?ずっとその、おじさんの身体のままになっちゃうんだよ?」
「はぁ?お前の方から言ってきたってのに今更何言ってんだ?もういい……元の身体がどうとか、んなことはもうどうだっていい!元の身体に戻りたいとか二度と言わねえって約束するから!だから、早くそのエロい巨乳でヌいてくれよぉっ……!」
とうとう、彼は言われるがままに、自分のものだった身体を諦める宣言をしてしまった。元の自分に愛撫をしてもらうことで射精をする……ただそれだけのために、彼は自分のものだった綺麗な女性の身体を諦め、薄汚い中年の男の身体で生きていくことを約束してしまったのだ。
しかし彼の中に後悔などは一片たりとも無く、むしろやっと念願の快楽を得られることに期待を膨らませていた。欲望に満ちた視線を向けられ、奈緒はゾクッとした興奮を覚える。
「あはっ♡そこまで言われちゃったらしょうがないよね♡ それじゃあお望み通り……私のおっぱいでイかせてあげる♡♡」
そう言いながら奈緒は再び健治の上に馬乗りになると、その巨大な胸で肉棒を挟み込んだ。そのまま先ほどと同じように前後に動かし始めると、今度は胸だけではなく、舌先までも使って敏感になっている亀頭を責め続ける。
「んあぁぁっ!ズ、ズられてるだけでもやべえってのに、んなことまでされたら……っ!!うあ゛ぁっ!!」
「ほーら♡我慢しなくていいからね♡♡いっぱい気持ちよくなって、私のおっぱいにどぴゅっ♡びゅーっ♡って射精しちゃおうね♡」
再び訪れた絶頂感を前に、健治はより長く快楽を得ようとして、歯を食い縛って耐えようとする。しかしそんな彼に対して奈緒は容赦無く快感を与え続けていった。
「あ゛あ゛ぁぁぁっ!!も、もう出る、出ちまうっ!わ、私が出て行っちゃう……あっ!も、もうだめ……う、うお゛お゛ぉぉぉぉっ!!?」
ついに健治は、自分が『奈緒』だった最後の残滓とともに大量の精液を吐き出してしまった。男としての快感を邪魔していた女としての自意識がようやく消えたことで彼の股間からは堰を切ったようにとめどなく精液が溢れ、奈緒の顔や胸元を白濁とした粘液で汚していった。
「ふふっ、まだおっぱいのナカでビクビクしてる……♡♡ どう?私のパイズリ、とっても気持ちよかったでしょ?」
「はぁっ……はぁっ……ひひっ♪当たり前だろ、最高だったぜ!……ってか、あれ!?こ、ここどこだ?」
「え?」
「さっきまで公園にいたってのに……つーかそもそも、なんで嬢ちゃんにこんなことしてもらえてんだ!?」
どうやら健治は自分が『奈緒』だったことを……それどころか、入れ替わった日以降の記憶も忘れてしまっているようだった。欲望に流されるままに、自分が『健治』であることを認めてしまった結果、自分が『奈緒』であるということを支えにして繋ぎとめていた記憶を手放すことになってしまったのだ。
様子のおかしい健治を見て奈緒はしばらくポカンと口を開けていたが、やがて事態を把握したらしく、口の端を歪めて笑みを浮かべると彼に語りかける。
「忘れちゃったの?おじさんがあんまりにもしつこいから、私の家で相手をしてあげることになったんだよ?」
「お、そうだったっけか?なんか忘れてる気が……へっ、まあどうでもいいか。そこらの女とは比べ物にならねぇくらい良かったからなぁ♪」
健治は先程の行為を思い返しながら、ニタニタと気色の悪い笑顔を見せる。すっかり『健治』そのものに成り果てた男の姿を見つめながら、奈緒は心の中でほくそ笑んでいた。
「よく覚えてねえけど……へへっ、パイズリまでしてくれたってことは、嬢ちゃんもその気になったってことなんだよな?それならさっさと下の方も脱いでくれよ!ぐへへっ、俺のブツで嬢ちゃんのこともヨガらせてやるからよぉ♪」
「もう、そんなにがっつかないでよ。残念だけどこっちはだーめ♡私のアソコはカレ専用なんだよね」
「は…はぁっ!?ふざけんなよ、それじゃあ生殺しじゃねえか!」
「話は最後まで聞きなってば。おまんこはダメだけど……私のこの手で、足で、お口で、おっぱいで♡たくさん気持ちよくしてあげるよ?私、すごい上手だって評判なんだから♡」
奈緒はそう言いながら、自身の肢体をいやらしく撫でまわすようにして指を這わせていく。胸の谷間にべっとりとついた精液を指でぬぐい取るとそれをペロリと舐め、健治を挑発するように妖艶な表情を見せた。
「ああでも、あなたがイヤだって言うなら……」
「嫌じゃねえ!嫌なわけねえだろうが!早く…早くしてくれよ!もうチンポがはち切れちまいそうで限界なんだ!」
「そう?よかったぁ♡それじゃあたっぷりサービスしてあげるからね、お・じ・さん♡」
もはや『奈緒』だった面影が一つも見られない男は、かつて自分だった相手から与えられる快楽に身を委ね続ける。
そして、そんな『男』から全てを奪った女性、『竹内奈緒』は、何も知らない男を弄びながら嗤うのだった。
Comments
ありがとうございます、そう言って頂けて本当に嬉しいです! これからもマイペースに好きな作品を書いていくので、その中の何個かがこうすけさんに刺さればと思います😊
メス牡蠣
2022-08-20 16:10:05 +0000 UTCメス牡蠣さんの作品がどれもツボで大好きです。 おじさんと若い女性の入れ替わり→大好き、ギャップたまらんです 徐々に体に合った口調、精神になってく描写→大好き、元おじさんが彼氏のことを想い出したりする描写が特に好き 元の体との性描写→大好き、元女の子を元おじさんが誘惑するのがいい! これからも応援してます! 頑張ってください!
2022-08-20 12:33:38 +0000 UTCありがとうございます! 名前表記が肉体準拠なの、倒錯感があっていいですよね。書く時も肉体の名前を書きつつその中にいる精神のことも思い浮かべているのでとても楽しいです😊
メス牡蠣
2022-08-17 20:45:01 +0000 UTC今回は三人称視点で体の名前表記なのがシコいですね~ 元の自分相手に射精するために自分が女の子だったという認識すら手放してしまう元女の子、良い……
飛龍
2022-08-17 12:33:21 +0000 UTC