デート前の訪問者
Added 2022-08-09 10:30:50 +0000 UTC恋する女の子のお話です。どっちもかわいい、好き。
「――うん、分かった。……えへへ、あたしも。それじゃあまた明日ね、ばいばい」
名残惜しさを感じつつ、一時間弱に及んだ通話を終えると、自然と笑みがこぼれるのを感じた。女性がやたらと長電話や無駄話を好むことを以前は不思議に思っていたけど、今ならその理由も分かる。話してて楽しい相手……ましてや好きな人との会話なんて、何時間続けても足りないくらいなんだから。
「いよいよ明日、楽しみだなぁ……。楽しみ、か。 ふふっ!まさかあたしが、男とのデートをこんなに待ち遠しく思う日が来るなんてね」
本来一回り以上も年下の相手、それも男とデートをするなんて、少し前の自分では考えられなかった。
少し前……そう、あの時と今のあたしは全く違う。こうして鏡を見てもそこにはくたびれたおじさんの姿なんてものは映らなくて、代わりに今のあたし、遠藤柚香の可愛らしい顔が鏡越しに見つめ返してくるのだ。
「うんうん。やっぱりあたし、可愛いよね。むくみも無いし、これなら海斗くんも可愛いって言ってくれるかな……って、また……」
あたしになってすぐの頃は自分の姿を見て思わずムラっと来るなんてこともあったんだけど、最近ではそんなこともなく、そんな可愛らしい自分を見て彼氏がどう思うかということばかりを考えてしまうようになっていた。最近ではオナニーの時なんかも、彼氏とセックスをした時のことを思い出しながらしてばっかりで……おじさんだった頃のあたし、『吉沢哲也』としての自意識はしっかり保っているつもりではいたけど、思っている以上に『遠藤柚香』の身体に精神が引っ張られてしまっているのかもしれない。
「まあいっか。どうせ、これからもずっと柚香として生きてくんだから、おじさんだった時のことなんてさっさと忘れちゃった方がいいのかもね」
そう独り言ちつつ、シャワーを浴びるためにパジャマを脱いでいく。今日は明日のデートに備えるためにネイルサロンに行って、そのついでに気になっていたカフェに立ち寄ってみるつもりだ。
何を頼もうか、いい店だったら海斗くんを誘ってみようか……などと、また彼氏のことを考えている自分に苦笑しつつ、ぬるめのシャワーで全身を濡らしていった。
***
俺があたしになったのは、3ヶ月前にとある製薬会社のモニターに参加したことがきっかけだった。
俺は風俗にお金を使いすぎて払えなくなった家賃のために、あたしの方は、誕生日が近かった彼氏へのサプライズプレゼントのために参加していたらしい。そうして何かの同意書を書かされて、渡された薬を飲んで、意識が遠のいていって……気づいた時には、俺はあたしの身体になっていたのだ。
どうやら薬を飲んだ全員が別の誰かと身体が入れ替わってしまっていたようで、それからはもう大変なパニックだった。
周りの目も気にせずに、老人のような言葉遣いで自分の身体を好き放題撫でまわすモデルのような美人と、そんな女性に泣きながら縋りつくしわがれた老人。「身体を返せ」と怒りながら背の高い青年に掴みかかる壮年の女性と、掴みかかってきた女性を逆に組み伏せ、そのまま無理やり犯し始めてしまった青年。身体を持ち逃げしようとでも思ったのか、ニヤついた笑みを浮かべながら会場をこっそり抜け出していったあたしくらいの歳の女性など、あちこちで阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていたように思う。
当のあたしも、その時は相当な醜態を晒してしまったものだ。でも、仕方ないよね?少し歩いただけでも汗だくになっちゃうデブのおじさんの身体から、こんなに顔が可愛くてスタイルもいい美人の女子大生の身体になれたんだもん。嬉しくなって、我慢できずに元のあたしの制止も聞かないでオナニーをしちゃったのも、あの場にいた半分くらいの人なら共感してくれただろう。
と、まあそんな具合であの薬を飲んだ人全員が入れ替わってしまっていたんだけど、どうやらそれは製薬会社の側にとっても予想外の事態のようだった。職員の人たちも、しばらくは何が起きているのか分からない様子だったけど、やがて事態を把握し始めた職員たちによってその騒ぎはとりあえず収まった。
それからはまあ、入れ替わったことを口止めされたりとか、お互いのフリをするために元のあたしと情報交換をしたりだとか、女としてのセックスに興味があったあたしが嫌がる元のあたしを無理やり襲っちゃったりだとか。まあ色々なことがあったんだけど……決定的だったのは1ヶ月ほど前に舞い込んできた、例の製薬会社が倒産したというニュースだ。
製薬会社からは元の身体に戻すための薬を開発すると約束されていたんだけど、倒産してしまってはそれもご破算。入れ替わった人たちはついに元に戻れなくなってしまったというわけだ。噂では政治家の娘と入れ替わった人が元の身体に戻れなくするために手を回したらしいけど、その話を聞いた時には内心とても感謝をしたものだ。
***
「――よしっ!髪のセットもオッケーっと。……ふふっ、ほんとあたしって可愛いなぁ」
軽くメイクとヘアセットをして、お気に入りの服に身を包んで鏡の前でくるりと一回転。うん、どこから見ても可愛い女の子にしか見えない。ファッションとかメイクとかも初めの頃は何も分からなかったし面倒だったけど、彼氏のために可愛くなりたいと思ってからはどんどん夢中になっていって……お世辞抜きに、今のあたしは前のあたしがこの身体を使っていた頃より、断然可愛くなっていると思う。
「ちょっと早いけど……もう出かけちゃおうかな。あんまり暑くないといいけど……あれ?」
そうして出かけようと準備をしている最中、突如インターホンの音が鳴り響いた。今日は誰も家に来る予定は無いし、何か荷物が来るわけでもない。恐る恐るモニターを見てみると、そこには懐かしい、それでいてよく知っている人物の姿があった。害のある相手ではないと分かり、安心してドアを開く。
「『柚香ちゃん』、久しぶり」
そこには汗でびっしょりになったTシャツにジーパン姿のおじさん、吉沢哲也の姿があった。と言っても、彼の中身は元のあたし、遠藤柚香なわけで、2人きりの時に今の彼の名前で呼ぶと不機嫌になるので、こうして『柚香ちゃん』と呼ぶようにしている。
確か最後に会ったのが1ヶ月ほど前……丁度元の身体に戻れなくなったことが分かった日だ。あの日、もうお互いの身体で生きていこうと約束させた日に「あなたの顔なんて二度と見たくない!」と罵声を浴びせてきたので、こうして自分からあたしの前に現れたのはとても意外なことだった。
「ひ、久しぶり……。それより……ふぅっ……ちょ、ちょっと中で涼ませてくれない……?今日すごい暑くって、汗だくで……ふぅっ……」
「あ、あはは……もちろんいいよ。ほら、上がって」
あれ?何か、彼の様子がおかしい気がする。
以前の彼はおじさんの身体になっても身だしなみには気を付けていたし、体臭を隠すためなのかちょっときついくらいの制汗剤をつけてたんだけど……今の彼はよれよれの、くすんだ色の服を気にもせず着ているようだし、汗のせいかツンとした臭いが部屋中に漂ってくる始末だ。……もしかすると、元の身体に戻れないと告げられたショックをきっかけに、彼もあたしと同じようにあの身体に染まりつつあるのかもしれない。
「それで、今日はどういう用事で来たの?」
部屋に招き入れた彼に麦茶を差し出しながら訊ねる。元に戻れなくなったことを知ったあの日は気分が高揚して、『柚香ちゃん』にとっては受け入れがたいことを色々と言ってしまっていたので、あたしのことを嫌っていると思っていた彼が会いに来た理由に見当もつかなかった。
「…………せて……」
「ん、何?」
「や、ヤらせてって言ったの!ほ…ほら、前に気が向いたらセックスさせてくれるって、そう言ってたでしょ!?だから……」
しばらく、目の前にいるこの人が何を言っているのか理解できず呆然としてしまった。そういえば別れ際にそんなことを言ったような気もするが、まさか本気にしていたのか。というよりも――
「……ごめん、あたしの聞き間違いかな?そもそも柚香ちゃん、前にあたしとセックスした時すごい嫌がってたよね?」
「あ…当たり前でしょ!あたしの身体を汚されるのが良いわけないじゃない!……で、でも…………!」
『柚香ちゃん』は興奮した様子で言葉を続ける。それは怒りによる興奮というよりも、溜まった性欲を一刻も早く解消したいという欲求……かつてあたしが何度も感じていたあの欲求から来ているもののようにも見えた。
「だめ、だめなの!風俗に行ってセックスしてもあの時の、あたしの身体のことが忘れられないせいで満足できなくて……あ、あなたのせいなんだからね!」
「……つまり、柚香ちゃんはあたしとセックスがしたくて、わざわざこんなところまで来たってわけ?」
「うぅ……だからそう言ってるでしょ……!も、もちろんタダってわけじゃないから……」
そう言うと、『柚香ちゃん』は財布から1万円札を1枚取り出して、震える手であたしに差し出してきた。
――目の前のこのおじさんは、間違いなく『あたし』だったはずだ。3ヶ月前まであたしとして生きてきた人。今のあたしの友達も……彼氏も、元々はこの人の魅力に惹かれてできた関係であって、後から『柚香』になったあたしは正直、彼氏の心を射止めた以前の『柚香』に内心嫉妬していた。
けど、今目の前にいるこの男はどうだろうか。あたしだったとは思えないほどのみすぼらしい恰好、だらしのない体型を恥ずかしげもなく晒している。話を聞いた限りだと風俗通いまでしているようだし、それでも飽き足らず元の自分にまでセックスを、お金まで出してねだる始末だ。
なんだかこの人に嫉妬していたことも……こんなおじさんを『元のあたし』として扱ってあげていたことも馬鹿らしく思えてくる。
「な、何がおかしいのよ……って、あっ!ちょっと!?」
差し出されたお札を取り、左手に持っていた財布もひったくる。
「1、2、3、4……これだけ?まあいっか。これ全部くれるんなら相手してあげても良いかな」
「でも、それは今月分の生活費で……」
「そう?それなら帰ってもらうだけなんだけど。あたしもボランティアをしてあげられるほど暇じゃないんだよね」
「はっ…払う!払うから!だからお願い、ヤらせて!もう限界なの……!」
お札を突き返そうと手を伸ばした瞬間、彼はその手を握ってきた。汗ばみ、熱を帯びた手の感触に思わず鳥肌が立つ。
必死の形相で懇願してくるその姿は滑稽で、とても見ていられるものではなかった。けれど、それと同時にかつてのあたしの姿を思い出すと……不思議と身体が火照ってくる。
「ぷっ……あははっ!そんなに必死にならないでよ!……仕方ないなぁ。それじゃ、相手してあげる」
「ほっ、ほんと……!?」
「ほんとって……あなたがお願いしてきたんでしょ?その前に、汚いからシャワー浴びてきてよね」
そう促すと、彼は顔を輝かせながら浴室に向かっていった。
シャワーが終わるのを待ちつつ、思わぬ臨時収入を財布にしまう。もし彼が以前と同じ仕事のままなら、月給から考えると相当な大金なんだけど……彼にとってあたしとのセックスがそこまで価値があるものだというのなら、今後も継続的に、今日以上の金額を出してくれるかもしれない。
「良い金蔓が手に入っちゃったなぁ。……そうだ。せっかくだし、ネイルついでに奮発してトリートメントもしてきちゃおっかな」
2週間前にヘアサロンでやってもらったばっかりだけど、明日は大事なデートなんだから少しでも綺麗にしておくのもいいかもしれない。
前の身体の禿げあがった頭とは大違いの、さらりとした艶やかな黒髪を指でつまんでみせる。海斗くんが褒めてくれた、あたしの自慢の髪……彼の笑顔が頭に浮かんで、自然と笑みがこぼれた。
「ね、ねえ……早くしてよ……!」
物思いにふけっているところを、そんな催促の声で邪魔される。全裸になった彼の股間は既に準備万端といった様子だった。
そういえば、以前はあんなに海斗くんとのことを聞いてきたのに、今日は話題にすら上がらなかったことを思い出す。きっと、もう彼にとってそれは重要なことではなくなりつつあるのだろう。大事な身体も、人生も、大切な彼氏まで奪ったあたしを恨むこともせずに必死にセックスをねだる……そんな、あたし"だった"おじさんの姿がなんだかとても可笑しく思えた。
「ふふっ、焦らないで? それじゃあ、たくさん気持ち良くしてあげるね……おじさん♡」
さようなら、『柚香ちゃん』。
かつてはあたしだったあの人に心の中で別れを告げつつ、あたしの身体に釘付けになっているスケベなおじさんをベッドに押し倒した。
Comments
ありがとうございます、めっちゃかわいいですよね……。『元』柚香ちゃんは他の人では満足できず、屈辱だと思いながらも元自分の身体を相手にえっちさせてほしいとお願いするしかなくなっちゃってるのもかわいそうでエッチと思いました😌😌😌
メス牡蠣
2022-08-10 11:20:21 +0000 UTCおじさんとして男の性欲に支配されてしまった元女の子は可哀想可愛い……。美味しゅうございました!
飛龍
2022-08-09 13:51:46 +0000 UTC