他人の視界で見る『わたし』
Added 2022-03-01 11:11:47 +0000 UTC5発目です。ダークじゃないんで苦手な人は注意してください。もう1個短編を同時に投稿してるので、ダーク成分が足りてない人はそっち読んでみてください。
それと、投稿数がそこそこ溜まってきたので目次作りました。短編は告知無しでちょくちょく投稿してるんで、もしまだ読んでないやつがあったら読んでみてください。
https://female-oyster.fanbox.cc/posts/2985157
「石井さん、今手空いてる?さっき来た補充分の陳列お願いできるかな」
「あっ、はい。す、すぐにやっておきますね」
バックヤードまで行くと、陳列の準備ができたいくつかの本の山が補充用の棚に積まれていた。郊外の小さな書店とはいえ、1日に入荷される本の数は結構な量になる。本の山から1つの束を掴み、売り場まで運んでいると、上の方に積んだ本がいくつか胸に当たって落ちてしまった。
「あっ……!う、うぅ……またやっちゃった……」
落としてしまった本の状態を慌てて確認すると、1冊はビニールが裂け、中の表紙が折れてしまっていた。大学への入学がきっかけで始まった、生まれて初めての一人暮らし。生活費の足しにと、本好きのわたしに向いてそうなこのバイトを初めてみたけど、どんくさいわたしはしょっちゅうこんな失敗をしてしまうのだ。
今日もだけど、昔からこの無駄に大きな胸に悩まされてしまっている。重くて動きづらいし、足元は見づらくて何もないところでもよくこけちゃうし、かわいい服は全然似合わないし……周りの人からも変な目で見られることなんかもしょっちゅうだった。
「店長に報告しないと……うぅ、また弁償かなぁ、今月厳しいのに……。 あっ、でも読みたかったやつだ、よかった……」
「ごめん、ちょっといいかな?」
「えっ!?あっ、はい、ど、どうなさいましたか?」
不意に声を掛けられ、思わず声が裏返ってしまった。顔を上げると、常連客の井出さんがこちらを見下ろしていた。最近よく来るようになった人なのだが、正直あまりいい印象はない。こう、なんというか、やたらと距離感が近いし、妙にプライベートのことを聞いたりしてくるし。それに……
「いやあ、こないだ石井ちゃんに薦めてもらった本、すごい面白かったよ。相変わらずチョイスが渋いというか、やっぱり俺たち気が合うんじゃないかな?それでさ――」
始まった。この人は話すのが好きなのかそれとも暇なのか、よく作業しているわたしを捕まえてはこうして長話をしてくるのだ。一方のわたしは人の話を聞くことがあまり得意ではなく、はい、そうですね、などと話も分からないまま相槌をしていると相手が満足して帰っていくということが多かった。
「――なんだけど、どうかな?」
いけない、またボーっとしちゃってた。井出さんは何かを期待するような目でこちらを見ている。
「あっ、はい、いいんじゃないでしょうか……」
「ほんと?いやあ、言ってみるもんだね。それじゃ!」
買う本でも迷っていたのだろうか、彼は平積みにされていた本を1冊手にして上機嫌でレジへと向かっていった。緊張が解けたせいか、思わず深いため息が出てしまう。
「はぁ……わたし、やっぱり接客向いてないのかなぁ……」
どんよりした気分のまま、残りの仕事に取り掛かることにした。
***
帰り支度を終えて裏口を出ると、もうすっかり日が落ちていてあたりは真っ暗になっていた。
「お疲れ、石井ちゃん」
しばらく歩いていると、背後から突然声をかけられる。振り返ると、そこには随分前に店を出て行ったはずの井出さんが立っていた。
「えっ、あっ、こ、こんばんは、井出さん。どうしたんですか?な、なにか忘れ物でも……?」
「やだなぁ、とぼけちゃって。ほら、行こうか」
「い、行くって……ど、どこにですか?」
「何って、食事だよ。それにしてもこんな夜に食事に付き合ってもらえるなんて……期待しちゃってもいいのかな?」
「ひっ!?」
ススッと近づいてきた彼の手が肩に触れようとした瞬間、反射的にビクっと身体を引いてしまった。そんなわたしの反応を見て、彼が苦笑いを浮かべる。
「ああ、ごめんね。ちょっと気が早かったかな?」
「あっ、あのっ!さ、さっきから何の話をしてるんですか……?」
「いやだから、バイトが終わったらデートしようって話をさっきしてたと思うんだけど……もしかして忘れちゃったの?」
「でっ、デート!?」
さっきって、もしかして勤務中に話しかけられていたのはその話だったんだろうか。聞き流してつい空返事をしてしまったことを後悔すると同時に、全身の血の気が引いていく。デート……こ、このおじさんと?
「あっ、あのっ……! ご、ごめんなさい、わたし、そんな話だったなんて思わなくて……」
「へぇ……?」
「そ、それに、えっと……き、今日はこの後用事があるので……なので、し、失礼しますっ」
頭を下げて、それだけ言い残して逃げるようにその場をあとにする。そのはずだったのに、わたしはその場から動けないでいた。井出さんの手がわたしの手首を強く握っていた。
「いっ……な、何するんですか……?」
「まあ待ちなって。今日がダメってんなら明日はどう?明後日は?石井ちゃんが都合のいい日に合わせるよ」
わたしの言い方が悪かったのか、彼は全く引き下がる気配が感じられなかった。怖い。心臓がバクバク鳴ってるのがわかる。どうしたらいいかわからず、とにかく手を離して欲しい一心で首を横に振る。
「やっ、やめてください!……い、いやです、あなたと、でっ、デートするのは……。ず、ずっと嫌でした、勤務中話しかけられるのも、き、気持ち悪くて……!も、もうぜんぶやめてください……!」
涙声でそう叫ぶと、井出さんは呆然としたような顔でこちらを見ていた。なんだか、すごい久しぶりに大声を出したような気がする。というか頭が真っ白で、余計なことまで言ってしまったような……
「え、えっと、違うんです、つまり、その……」
「ぷっ、あははははははは!!」
突然井出さんが吹き出して笑いだしたので、今度はわたしの方がぽかんとしてしまう。
「いやあ、参った。まさかそんなに嫌われてるなんて思ってもなかったわ。それなのに毎週好きでもねぇ本なんてわざわざ買って……ははっ、随分な道化だよなあ?」
「え……え?え?あの……きゃっ!?」
さっきまでの紳士的な態度が嘘のように豹変して、彼は下卑た笑みを浮かべながらわたしを見下ろしていた。一体何が起きたのか分からずに混乱していると、急に腕を引っ張られて路地裏の方へと連れ込まれる。
「ちょ、ちょっと、やめてくださ……」
「うるせえ、黙ってろ」
「むぐっ!」
口元を押さえられ、そのまま壁に押し付けられる。あまりの力の強さに呼吸が苦しくなり、必死に抵抗しようとするもびくともしなかった。
「いい掘り出し物だと思ったんだけどなぁ。こんなエロいカラダしてる割には男に慣れて無さそうでよ。 はぁ……せっかく穏便に済ませようと思ってたのに、台無しじゃねえか」
「んーっ!?ん、うううっ……!」
訳も分からないままなんとか逃げ出そうと足掻いていると、ぎゅっと胸を鷲掴みされて思わず声が出てしまう。
あれ、これってまさか……レイプ?わたし、レイプされるの?生温かい吐息が首筋にかかり、全身に鳥肌が立つ。なんで、さっきまでいつも通りだったのに、なんで、なんでわたしが?
パニックに陥っているうちに、ごつごつとした手がスカートの中に侵入してくる。ショーツ越しにお尻を撫で回され、嫌悪感と恐怖で震えることしかできない。
「んむぅ……」
「そうそう、そうやって大人しくしてりゃ……ん?」
突如、ガサッと何かが動くような音が茂みから聞こえてきたと思うと、わたしを押さえつける力が少し緩んだ。その隙を狙って彼の手を振り払い、急いでその場から逃げるために足を動かす。
「あっ……クソッ、待ちやがれ!」
「や、やだっ!!こ、こないでくださ……きゃあっ!?」
後ろからの声に驚いて振り向いた瞬間、身体のバランスが崩れて足が地面から離れていった。
「うおっ!?」
嘘でしょ。こんな一大事にも関わらず、わたしはいつもみたいに盛大にこけてしまったようで……わたしを追う彼もそれは予想外だったのか、勢いのまま、わたしの方へとぶつかるようにして向かってくる。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。スローになっていく視界の中、井出さんの顔がどんどん近づいて来る。額に強い衝撃が来たと感じたと同時に、わたしの意識は途絶えていった。
***
「うぅ……」
気が付くと、誰かの上に重なるようにして倒れていた。
あれ……なにしてたんだっけ?……そうだ、井出さんが急にわたしを襲ってきて、逃げようとして転んじゃって、えっと、それから……。
打ち付けた額がズキズキと痛む。強く頭を打ったせいか、なんだか身体全体も重くてだるいし、喉も変な感じがする。
霞む目を凝らしていると、わたしの下敷きになっている人が女性であることに気づいた。わたしと同じくらい大きな胸をしていて……あれ?そういえば井出さんがいないような……。
目を覚まさない女性から身を離し、少し身構えながら辺りを見回したが、それらしい人影は見えなかった。もう逃げてしまったのだろうか。
「うぅん……」
女性が寝返りを打つと、わたしの方に顔を向けた。長い黒髪がさらりと揺れて、頬にかかる。そして、なぜかわたしはその人の顔をどこかで見たことがあるような気がした。
「あ、あれ……?わたし……?」
その人は、わたしとそっくりの顔をしていた。顔だけじゃない。髪型も、身に着けていた服やリュックまでもが、わたしが使っているものとまったく同じものだった。
ドッペルゲンガー……なんているわけないし、ここまで似てるとちょっと怖いけど、きっと他人の空似だろう。この人を置いていくわけにもいかないので、とりあえず肩を揺すって起こそうとする。
「あ、あの、大丈夫です……か……?あ、あれ?」
そうこうしているうちに、ある異変に気づいた。わたしの胸が無くなっている。いつもであれば下を向こうとすると視界を遮り、腕をこうして揺すろうものならつられて揺れてしまう邪魔な胸は、いつの間にか視界に入らなくなっていた。
「な、なにこれ……ど、どうなって……」
そうして初めて、わたしは"今の自分の身体"に目を落とした。着ていたはずのパーカーは何故かダウンジャケットに姿を変えていて、うんざりするほど見てきた胸は影も形も無く、その代わりと言わんばかりにお腹のあたりがぽっこりと膨らんでいる。触ってみると服越しにぷにっとした脂肪の感触が、そして同時に触られている感触が返ってくるし、その手もまばらに毛が生えた、ごつごつとしたものに変わっていた。
「や、やだっ、これっ、ど、どうなってるの……!?」
慌ててペタペタと体中を触ってみるが、"これ"が自分の身体だということを示す感覚が返ってくるだけだ。パニックになって飛び出た声も、自分のものとは思えないオカマみたいな声になってるし、なんだか頭のあたりがスースーする。
「んぅ……うっせぇな、一体なにを……」
不意に、眠たげな声でそう呟きながら、目の前の女性がゆっくりと起き上がった。
首のあたりに、じんわりと嫌な汗が滲む。ああ、多分そういうことなんだろう。小説なんかで読んだことあるし、でも、現実に起こるなんて……。
わたしの方を指差し、口をパクパクとさせているもう一人のワタシに恐る恐る声を掛ける。
「あ、あの……あなた、井出さんですよね?」
「おっ、お前誰だ!?なんで俺の名前を知ってんだ!?」
「お、落ち着いてください。わたし、石井です。そ、そこの書店の……」
「は、はぁ!?お前が石井ちゃんなわけねぇだろ!頭おかしいんじゃねえのか!?」
「で、ですから……ああ、もう…………。し、下を向いてみてください……」
「下ぁ……?」
彼はパニックになっているようだった。当然だろう。起きたら目の前に自分と同じ顔をした人間がいて、勝手に動いているのだから。あんまり気は進まないけど、今の状況を分かってもらうために、自身の身体を見てもらうことにした。
「……は?なんだこれ、重……む、胸? んあっ♡は?なんだこれ、本物か!?は、ははっ……」
しばらく呆然としていたもう一人のワタシだったが、自分の身体が変わってしまっていることに気づくと、今度は自身の胸を乱暴に揉みしだき始めた。
「ちょ、ちょっと、やめてください…!」
まるで痴女みたいな自分自身の姿を見せられ、恥ずかしくなって慌てて胸を弄っていた腕を掴んだ。
「あっ、おい、良いところだったのによ……ていうかこれ、どうなってんだ?そもそもなんでお前は俺と同じ顔をしてんだよ」
「わ、わたしと井出さんの身体が、その、い、入れ替わってしまったんだと、思います……」
「入れ替わった?はぁ?なんだそりゃ」
「え、えっと……つまり、わ、わたしが井出さんの身体になっていて、井出さんはわたしの身体になってしまってるんだと……」
自分で改めて言葉にしてみたが、あまりにも荒唐無稽すぎて頭がクラクラしてくる。それでも、嫌でもそれが現実に起きてしまっているんだと信じるしかなかった。現にわたしは男の人の身体になっていて、本当のわたしの身体はこうして目の前で勝手に動いているんだから……。
「……へえ?つまり、俺そっくりのお前が本当は石井ちゃんで、今の俺のこの身体が石井ちゃんの身体ってことなんだな?」
「は、はい、多分……」
「ふーん?そっかそっか、なるほどねぇ」
井出さんは納得したようにうんうんと首を振り、改めて自身の身体を眺めはじめた。何かを確かめるように腕をさすったり、頭から垂れる長い髪を触ったりしている。戸惑っていた先程とは打って変わってニヤついた笑みを浮かべるその姿を見て、少し不安がよぎる。
「あ、あの……ど、どうしたんですか……?」
「いやあ、大変なことになったなあと思ってよ。そっか、俺、石井ちゃんになっちゃったんだなあ。ははっ、これからはこの胸も……んっ♡ 俺のものになっちまったわけか、へへっ」
井出さんはそう言うとおもむろに両手で自分の胸に手を伸ばし、ぐにゅっと鷲掴みにした。明らかにこの状況を楽しんでいるその様子に、カッと頭が熱くなる。
「な、なにやってるんですか、やめてください……!」
「ふへっ♡悪い悪い、石井ちゃんのおっぱい重いから、つい気になっちまってよぉ」
自分の胸を揉んでいた彼の腕を掴み、無理やり引っ張って引き剥がす。相変わらずその表情はだらしなく緩んでいて、とてもじゃないがわたしの姿だとは思えなかった。
さっきからどこかこの状況を楽しんでるようにも見えるし……この人はわたしの身体になってしまって、不安じゃないんだろうか。
「そうだ、石井ちゃんの家に連れてってくれよ」
「え……?」
「ほら、このままここで突っ立ってたってらちが明かねえだろ?もう夜も遅いしよ。とりあえず家に戻ってゆっくり、これからのことを話し合おうぜ。確か一人暮らしなんだろ?」
「そ、そっか……それもそうですね」
確かに彼の言う通り、こんなところで立ち尽くしていてもしょうがないのかもしれない。さっきの彼の様子にまだ不安は残るけど、とりあえずわたしの家に向かうことにした。
***
「こ、ここです……」
「おお、なかなか良さそうなところだな」
マンションの一室の前で足を止めると、彼は感慨深げに辺りを見回していた。玄関の鍵を開けると、井出さんが勝手にずかずかと部屋に入っていく。
「あっ、ちょ、ちょっと……」
慌てて後を追うと、彼はまるで品定めをするかのようにあちこちを観察しているようだった。正直あまり見られたくない……というか、よく考えたらこの人、わたしをレイプしようとしてたんだよね。わたしの身体になってるとはいえ、部屋に上げちゃってよかったんだろうか……。
「ふーん?やたらと本が多くて邪魔くさいのは気になるが、悪くないじゃねえか」
彼は満足げにそう呟いたかと思うと、ソファに積み重なっている本を乱暴にどかし、ドサッと座り込んだ。
「あっ、あのっ……あ、あんまり部屋に置いてある物には、その、触らないでもらえると……」
「あぁ?別にいいだろ、もう俺のもんなんだから、俺が何したって勝手だろ」
「な、何言ってるんですか。あ、あなたのじゃないです……」
「……はっ!石井ちゃん、今の状況を理解してないみたいだから、よーく教えてやるよ」
井出さんはそう言うと、なんと身に着けていた衣服を脱ぎ始めた。パーカー、そしてTシャツまで一思いに脱ぎ、ついにはその下のブラまでも取り去ってしまった。包まれていた大きな胸が、ぶるんと揺れながら露わになる。
「なっ……なにしてるんですか!?やめてください!」
そのままズボンにも手をかけようとする彼に慌てて駆け寄り、彼の細い腕をガシっと掴んでなんとか制止した。
「わ、わたしの身体で変なことしないでください……!」
「何言ってんだよ、これはもう俺の身体だぜ。それに、こんなことしていいのか?」
「え……?」
「今は俺がこの部屋に住む女子大生で、お前はもうただのおっさんなんだぜ?もし俺が叫んで人を呼んだとして、この状況を見たやつはどう思うよ。おっさんがかよわい女の子をレイプしようとしてるって通報されちまうんじゃねえか?」
「あ…………」
井出さんの言葉を聞いてハッとする。確かに、今の状況は傍目から見たらわたしの身体になっている井出さんを、彼の身体になったわたしが襲っているようにしか見えない。というか、え?通報?なんでこの人はそんなこと……
「ほら、分かったんならとっとと手を離せよ。その身体のまま刑務所なんて行きたくないだろ?」
「きゃっ!」
井出さんはそう言いながら、強引にわたしの手を振り払った。その勢いに押され、思わず尻餅をついてしまう。
「こ、これからどうするのか、話し合うんじゃなかったんですか……?も、元に戻る方法を探すんじゃ……」
「ははっ!戻る?なに馬鹿なこと言ってんだ。俺はずっとこの身体のままでいるつもりだぜ?」
井出さんがわたしの顔で、わたしの声で、わたしに向かって笑いかける。その言葉の意味がわからなくて混乱してしまう。
「な、何を言って……い、井出さんは元の身体に戻りたくないんですか?」
「はぁ?当たり前だろ。まあ初めは面食らったが、よく考えたら一気に若返ったようなもんだしよ。それに……へへっ♡こんな美女として人生をやり直せるチャンスなんて、二度とないだろうしな♡」
井出さんは姿見の前に立つと、そこに映った自分の姿を眺めながら、恍惚とした表情で胸を揉みしだいていた。なんだろう、わたしの身体の井出さんが服を脱いでからずっと変な感じがして、彼の痴態を見ているとそれが大きくなっていってる気がする。
わたしの身体が、いや、人生までもが目の前で奪われようとしているのに、トロンとした目で自分の胸を揉んでいる姿を見ていると、股間の辺りからムズムズとした奇妙な感覚が伝わってくる。それがなんだか妙に気持ちが良くて、わたしは井出さんの奇行を止めず、ただただその様子をじっと見つめていた。
「お?なんだぁ? ……ははっ、お前この状況で勃起してんのかよ!」
「えっ?あ、あの、ちょっと……!?」
井出さんがこちらを振り返ると、ニヤリと口角を上げてわたしのズボンを下着ごと、一思いに引き下ろす。すると、解放感と共にぶるんと、目の前に怒張した男性器が姿を現した。わたしの股間から生えているそれは、ビクビクと脈を打っている。さっきから感じていた違和感と変な気持ちよさの正体は、恐らくこれなのだろう。
「まさか自分の裸を見て興奮でもしたのか?おいおい、とんだ変態じゃねえか」
「ちっ、違います!そんなこと……ひゃうっ!?」
否定しようとすると、突然何かヌルっとしたものが亀頭を撫で上げた。びっくりして声を上げてしまったけど、その原因はすぐにわかった。井出さんが自分の指を舐めて、それをわたしの男性器に這わせてきたのだ。今まで味わったことのない未知の快感に、脳の奥が電気が流れたかのようにビリビリと痺れる。
「ひひっ、男は興奮でもしねえとそうはならねえんだよ♡ほら、気持ちいいんだろ?言わなくてもわかるぜ、こんなエロい女が目の前にいてそいつに手コキまでされてるんだ。俺のカラダが我慢なんてできるわけねえよなあ?」
「あ、あぁっ!そ、それっ、や、やめてくださっ……あっ!へ、変になっちゃっ……あうぅっ……!」
彼はわたしの言葉など意にも介さず、どんどん手の動きを早めていく。自身も楽しむかのように胸を揉みしだいていて、その姿を見ていると、何故か擦られている股間がもっと気持ちよくなっていく。まるで搾り取られるかのような刺激が何度も襲ってきて、頭が真っ白になって何も考えられなくなるほど、強烈な快感だった。ずっとその気持ちよさに身を任せていたいくらいだったが、そんなわたしを尿意が前触れなく襲った。
「あっ、も、漏れちゃう!」
「お、もう限界か?いいぜ、このまま射精しちまえよ♡」
「や、やめてください!だ、だめっ……!?あ、あぁぁぁぁ……っ!」
一際強い快感が全身を襲ったと思った瞬間、わたしの股間から何かが勢いよく噴き出していった。おしっこだと思っていたそれは白く粘ついた液体で、そういえば男の人は精液っていうのを出すんだっていうことを、ボーっとした頭で思い出していた。
「うおっ…随分とたくさん出してくれたな。まあ今日のためにオナ禁してたから、当然っちゃ当然か。それよりどうよ?初めて男としてイった気分は♡」
「はーっ……はーっ…………」
井出さんがわたしの顔で、ニヤニヤとしながら話しかけてくる。その顔はわたしが出してしまった精液でべっとり汚れていて、見慣れた顔のはずなのに、こちらを煽るようなその表情を見ているとなんだか変にドキドキしてしまう。
「はははっ!聞くまでもないみてぇだな、射精したばっかなのにそんなにチンポ大きくさせてよ♡」
「……えっ?あ、な、なんで……!?」
さっき射精した直後、わたしの股間は役目を終えたみたいに小さくなっていったのに、いつの間にかムクムクと膨らんできていた。さっき彼が言ったことが本当なら、わたしはまた興奮してしまっているということなんだろうか?じ、自分の顔を見てただけなのに……?
「まだまだ元気そうだな。そうだ、せっかくだし石井ちゃんに、男の身体の良さってやつをたっぷり教えてやるよ♡」
「やっ……ちょ、ちょっと……!?あっ……」
彼がそう言うやいなや、わたしの股間が柔らかいもので覆われた。井出さんがわたしの胸を使って、わたしから生えている肉棒を一気に包み込んだのだ。
「ほらほら、どうだ?自分にされるパイズリはよ」
「ぱっ、パイズリっ!?や、やだっ、や、やめっ……あっ、き、きもちいいっっ!」
彼の手の動きにしたがって大きな胸がぐにゅぐにゅと形を変え、それと共にわたしの股間にも気持ちのいい圧迫感が与えられる。自分の胸に自分の男性器が包まれている光景なんて、当然だけど今まで見たことも想像したこともなかった。
わたしの股間を刺激しながらも、胸を動かしている感覚が気持ちがいいのか井出さんはたまに喘ぎ声をあげていて、そんな声も、顔も、今までずっと邪魔だと思ってきたこの胸も、全部が全部すごく魅力的になものに見えてしまう。気が付けば、わたしはその感覚を楽しむかのように自分からも腰を動かし、今のわたしの股間を大きな胸に擦りつけていた。
「あっ、あうぅっ……!も、もっと……もっとしてくださいぃ……!」
「あっははは!石井ちゃんもすっかり男らしくなってきたなぁ!? ……でも、まだおあずけだぜ♡」
「えっ……?あっ、な、なんでやめちゃうんですか……!」
突然、彼によって与えられていた快楽が中断された。どうして?という疑問と同時に、残念だという気持ちが湧いてきて……自分で自分が恥ずかしくなりながらも、目の前のわたしの身体から目が離せないでいた。
「ん?さっきまでやめてやめて言ってたのはお前じゃねえか。やめてほしいんだろ?」
「そ、それは……その……。や、やっぱり、してほしい…です…」
わたしは、今すぐに彼に続きをしてほしくてたまらなかった。
こんなのおかしいってわかっているけど、それでもわたしはどうしても続きをしてほしい。さっきまでのわたしだったら、絶対にありえない感情だった。でも今はもう、何も考えられない。ただ、もっと気持ちよくなりたい、はやく射精したい。そんなことしか考えられなくなっていた。
「そうかそうか、石井ちゃんは自分の身体で興奮して、パイズリされて気持ちよくなっちゃうド変態だったんだなぁ♡」
「ち、ちがっ……!」
「違くないだろ?ほら、今だって俺に扱いて欲しくてチンポがビクビク言ってるじゃねえか。 ……でもまぁ、やってやらんこともないぜ?」
「ほ、ほんとですか!?」
「ああ、元に戻るのを諦めて、この身体を俺にくれるって約束するんならな♡」
「えっ……?」
彼はわたしの顔に意地の悪い笑みを浮かべてそう言い放った。戻るのを諦める。それは、これから一生井出さんとして……このおじさんの身体で生きていくことになってしまうということだ。そして、わたしのものだった身体を、人生を彼に渡してしまうということ。
そんなの、当然ダメに決まってる。それなのに、わたしは彼の言葉に心が揺れ動いてしまっていた。
「あ、あの……わたし、その……」
「おいおい、迷う必要なんかねぇだろ♡」
「えっ!?あ、あああぁっ……!?」
彼はわたしの手を掴み、導くように自分の胸へと押し当てた。むにゅっとした柔らかい感触とともに心臓の音が更にうるさくなって、股間からの気持ちよさが際限なく膨らんでいく。
「あんっ♡……あっはは!おもしれえな、やっぱりそうか。俺は相当な巨乳好きだったんだが、今の石井ちゃんもたぶんそうなってんだろ?ひひっ、その様子だと聞くまでもないけどな」
「だ、だって、き、気持ちいいから……」
いつの間にか、押し当てられた手で彼の胸を夢中で揉んでしまっていた。ずっと邪魔で、嫌いだとすら思っていたはずのわたしの胸だったのに、今ではむしゃぶりつきたいとすら思ってしまっている。太り気味だと思っていたお腹もその肉感が魅惑的に見えて、陰気で嫌だった顔すらもかわいいなんて思えてしまって。わたしが知らなかったわたしが目の前にいて、今まで感じたことの無いような感情が込み上げてくる。
「そうだ、どうせならこれからも、またこの身体で抜いてやるよ♡こんないいカラダをもらえるんだ、そんくらいしてやらなきゃ悪いもんなぁ?ほら、どうだ?」
彼は耳元でそう囁きながら、わたしの指を男性器に見立てるようにして、挑発するように胸を上下に動かし始める。そのたびに、彼の声と吐息がダイレクトに耳に響いて頭がクラクラしてくる。わたしはもう、この快感に逆らうことなんてできなかった。
「ほ、ほんとにまた、してくれるんですか……?」
「ああ、知らん男共とヤるなんてごめんだが、元自分相手なら話は別だしな」
「……わ、わかりました、も、元に戻るのは、諦めますから……そ、その、だから…………」
「おいおい、どうした?聞こえねえぞ?」
わたしのものだったカラダが、小馬鹿にしたような顔でこちらをじっと見つめてくる。もはやそれすらも、今のわたしにとっては興奮の材料にしかならなかった。
「い、いいんです!戻らなくてもいい!もうどうなってもいい!だ、だから、早く続きをしてくださいっ……!」
「あっはははは!やっと素直になったなぁ♡そんじゃさっそく、ド変態のおっさんのチンポを慰めてやるとするか♡」
言葉にしてしまったことで、わたしの中の何か大事なものが抜け落ちていったような気がしたけどもうどうでもいい。もはや、変態呼ばわりされることすらも快感の一端になり、これ以上の我慢なんてできそうにないのに、井出さんはなかなか続きをしてくれない。
「な、何してるんですか…?ぱ、パイズリしてくれるんじゃ……、は、はやく……」
「まあ待て、それよりもっとイイことしてやるからよ……♡」
彼はそう言うと、ズボンを下ろし始めた。わたしはそれを見て、何をしようとしているのか察する。同時に、期待に胸が高鳴った。
「ほら、見えるか?石井ちゃんの……いや、俺のお・ま・ん・こ♡さっきからずっと、疼いて疼いてしょうがねえんだよな♡」
彼がパンツを降ろすと、体液が滴る程に濡れた女性器が現れる。他人として初めて見るそれはグロテスクで、それでいて暴力的な欲望を掻き立てるほどの魅力を放っていた。
「まさか俺が入れられる側になるとはなぁ……まあいいか♡ほら、いくぜ……んぁぁっ!?」
「あ、あうぅっ……!す、すごいぃっ!」
ぬぷっと音を立てて、彼の膣内にわたしの男性器が挿入されていく。それはまるで別の生き物のようにわたしのモノに絡みついてきて、胸でされたのとはまた違う気持ちよさに今にも射精してしまいそうになりながらも、少しでも長くこの気持ちよさを味わいたくて必死に我慢する。
「痛ってぇ……!お、お前まさか処女だったのか!? ……あっ…で、でも……んんっ♡だ、だんだんよくなって、あっ♡♡ひぃっ♡♡♡」
「あっ!やっ、う、動かないでっ……!あっ、で、でも、もっと、もっとぉ!」
段々と慣れて来たのか、彼はわたしの肉棒を抜き差しするように腰を動かし始めていく。生温かいヒダに搾り取られるような刺激、そして彼の動きに合わせて目の前でゆさゆさと揺れる豊満な胸に、わたしの理性はプツンと切れてしまった。
「あぅっ♡な、なにして……♡♡ち、乳首吸うなぁ♡♡♡あっ♡♡♡♡き、きもちい、あ、あひぃっ♡♡♡♡♡♡♡」
ほんと、わたしなにやってるんだろう。頭の片隅ではそんなことを考えているのに、身体はまったく止まってくれない。彼の胸の先端に吸い付き、舌先で転がし、歯を立て、甘噛みしながらもう片方の胸を揉みしだいて……。そのたびに気持ちよさそうに声を上げる彼の顔を見ると、どうしようもなく興奮してしまう。気が付けば、さっきも感じた尿意、いや、射精してしまいそうな感覚がすぐそこまで来ていた。
「あっ、で、出ますっ、もうっ!あっ、うぁぁっっっ!!!!!!!」
「ちょっ♡♡♡イ、イってんのにそ、そんなことされたら……♡♡んあっ♡♡♡あああああああぁぁぁぁっっっっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
脳みその奥に電気が走ったみたいな強い快感とともに、どくどくと脈を打ちながら精液が吐き出されていく。それと同時に彼も絶頂を迎えたようで身体を大きく仰け反らせ、ビクビクと痙攣していた。
身体を離し、しばらくの間お互いぐったりとして息を整えていたが、しばらくして彼が口を開いた。
「ふぅ……♡ふぅ……♡ま、まだ気持ちいい……。お前、自分の身体相手によくもまあ遠慮なく中出しなんてできるな……」
「べ、別にいいじゃないですか……。そ、それに、もうわたしの身体じゃ…ないです…」
そう、もう目の前にいるこのわたしは、わたしではなくなってしまったんだ。そんな風に考えると、何故か胸がすく思いがした。
ずっと嫌いだった、わたし自身の身体。でも今は……男の人の身体になっているからそう感じるのかもしれないけど、井出さんが動かしているわたしの身体は全然そんな風に思えなくて。
それに、これからはそんなカラダを他人として、好きにできるようになったんだと思うと、ゾクゾクとした興奮が込み上げてくる。彼にも言われたけど、そんなことを思ってしまうわたしは本当に変態なのかもしれない。
「あ、あの……ほ、本当にこれからもエッチしてくれるんですよね?」
「ああ、まあお前とのセックス、かなり良かったしな。 ……それよりも、改めて今後の話をするとしようぜ。新しい身体で生きていくために、お互い知らなきゃいけないことが山ほどあるだろ。俺に……わたしについてのこと、たくさん教えてくださいね?井出さん♡」
そう言ってのける彼の……彼女の表情は輝くような笑顔で、わたしだった頃とは比べ物にならないくらい生き生きとしていた。
「わ、わかりました。……そういえば、名字だけで、名前は言ったことなかったですよね。わたしの、いや、あなたの名前は――」
もう彼女はわたしじゃない。それでも、わたしだった彼女との間に、他の誰ともありえない特別な関係を持てることに喜びを感じてしまう自分がいた。
Comments
ありがとうございます! 口調が元のままだと倒錯感があっていいですよね😀
メス牡蠣
2022-03-01 20:35:00 +0000 UTC最高でしたぁ……! 口調まで染まらずにおじさんの体でのHに夢中になってしまう女の子が最高に可愛いです! 名前をあえて明かさず、最後に「あなたの名前」として教えるシチュもグッときました! メス牡蠣さんの書くおじさんと女の子の入れ替わりもの大好きです!
飛龍
2022-03-01 12:53:13 +0000 UTC