NokiMo
メス牡蠣
メス牡蠣

fanbox


とりちがえ

熱いうちに打った鉄です。多分初めてできた全年齢(?)作品です。衝動書きの短編だとシチュ重視になって物理エロが頭から消えますね、まあ入れ替わること自体がエロいんでエロはエロですけど。

とりちがえ

「おい、何ジロジロ見てんだよ」

「え、あ……。 す、すみません……」


人通りが多くなってきた夕暮れ時の駅構内。その中にある時計台の前で、2人の人物が向かい合うように立っていた。

そのうちの一人、犬飼綾香はこのように理不尽な言いがかりをつけられても反論すらできないような、大人しい性格の少女だ。学校ではその性格ゆえか友人と呼べるような間柄の人間は少ないが、本人もあまり自覚していない整った容姿と年齢に似つかわしくないスタイルの良さから、密かに男子生徒の間で人気を誇っていたりする。

もう一人の飯田浩平は、少女とは対照的に粗暴で乱暴な性格をした中年だった。通信機器メーカーの営業職に勤めているが、持ち前の気性の荒さから顧客と揉めてしまうことが多く、新規開拓はおろか得意先からも契約を切られてしまう始末で水面下ではリストラ候補の筆頭に挙げられてしまっている。


そんな対照的とも言える2人がこうして同じ場所に立っていることは、偶然ではなかった。理由とすら言えないような理由。ただ、『この時間、この場所に来なければ』という強い衝動を感じて、考えるまでもなくここに足を運んでいた。特に用事があるはずでもないのに、浩平に至っては業務中であるにも関わらずに、だ。


「ああよかった、ちゃんと来てくれたんですね」


すると、そこに1人の男が姿を現した。やたらと目立つ、白いスーツを身にまとった軽薄そうな雰囲気の男に声を掛けられた2人は、怪訝そうな表情を浮かべる。


「あん?誰だよお前」

「申し遅れました、僕、天使をやっているものです」

「はぁ?」


いきなり突拍子もない事を言われてしまい、ますます眉間のしわが深くなる浩平だったが、対する男は気にした様子もなく話を続ける。


「今日あなたたちを呼んだのも僕で……ちょっと人が多くて面倒なことになりそうですね。よっと!」


男が指を鳴らした瞬間、賑やかだった駅内から一瞬にして音が消える。それだけではない。周囲の人間も一様に動きを止め、まるで時が止まってしまったかのように固まっていた。


「うお!?なんだこれ!どうなってんだ!?」

「きゃっ……!? な、なにこれ……」


突然の出来事に狼乱しながらも周囲を見渡すが、動くものは存在せず、静寂だけが辺りを支配していた。そんな中、男の声だけは変わらず響き渡る。


「これで安心して続きができますね。それじゃあ本題に入りましょうか、実はあなたたちは本来の身体ではないんです。最近天界の方で大規模な書類整理があったんですけど、そこで何件か、本来入れるべき身体に異なった魂が割り当てられてしまっていたことが発覚しましてね。こうして僕みたいな天使が出向いて、修正作業を行っているところなんですよ」


ポカーンとした顔のまま、黙って話を聞いていた2人だったが、男の話が一区切りしたところで浩平が口を開いた。


「なんだ、ただのキチガイか。 付き合ってらんねえな……ってアレ、あ、足が動かねえ、なんだこれ!?」

「言ったでしょう?修正作業をしてる最中だって。 それが終わるまでの間、あなたたち2人には大人しくしててもらいますから」

「なっ……! てめえ、ふざけてんじゃねえぞ!!」


動けない体を振りほどこうともがく浩平だったが、身体が全く言うことをきかない。その言葉を聞いた綾香も同じようにその場から動こうと試みたが、足だけではない、全身が固められてしまったかのように、ほんの少しも動かすことができなかった。

怯えた様子の綾香だったが、天使と名乗った男が言った言葉が気になり恐る恐る問いかける。


「あ、あの……修正作業って、何をするんですか……?それに、私たちが本来の身体じゃないって……」

「ああ、それなら簡単なことです。お二人の魂をそれぞれ入れ替えるだけですよ」


男は笑顔のままでさらりと言ってのけた。


「え……?あ、あの、それって……」

「魂を入れ替える……?どういうことか説明してもらおうじゃねえか」


浩平は男の話に興味を持ったのか、先程までの暴れようはどこへ行ったのかと思えるほどの冷静さを取り戻して質問を投げかける。


「なんといいますか、先程も言ったように身体に入れる魂を間違えてしまうといったミスが起きてしまっていましてね。あなた…飯田浩平さんの身体に入っている魂は本来であればこちらの犬飼綾香さんの身体に入るはずで、逆に犬飼綾香さんの魂は飯田浩平さんに入って生まれるはずだったんですよ」

「はぁ?」

「ですから、今からあなたたちの魂を入れ替えて、正しい状態に直そうということなんです」


男は当然のことのように言ってのける。しばらく呆然とした様子の2人だったが、その意味を理解したのか浩平は笑みを浮かべ、反対に綾香の顔からは血の気が引いていく。


「へぇ?ってことはなんだ、これから俺がこの女になるってわけか?」

「はい。『なる』というよりは『戻る』、ですかね。本来彼女の身体はあなたのものなんですから」

「ふーん?そっかそっか。 まあエロい身体してやがるし、前髪で隠れて分からなかったがよく見りゃツラもいい。こいつになれるっつーんならまあ悪くはねえか。俺に比べりゃ随分健康そうだしな」


ニヤニヤとしながらそう言い放つ浩平を見て、綾香は震えながらも声を絞り出す。


「ちょ、ちょっと待ってください…!そんなのダメに決まってるじゃないですか! あ、あなたも嫌ですよね?別人になるなんて……」

「俺は別にいいぜ?」

「……え?」


あっけらかんと言い放った浩平の言葉を聞いて、今度は綾香がぽかんとした表情を浮かべる。


「むしろラッキーって感じだな。借金も帳消しになるし……女の身体ってのはちょっとアレだが、若い身体で人生をやり直せるってのは最高だろうよ」

「なっ……!?」

「まあ、お前にとっては災難かもしれねえけど、あいつが言うには元々俺の身体だったんだろ? その歳までその身体を使わせてやってたんだ、むしろ感謝してほしいくらいだぜ」


あまりにも自分勝手な物言いに絶句してしまう綾香だったが、浩平は気にすることなく話を続ける。

天使を名乗った男はしばらくその様子を眺めていたが、少し苛立った様子で口を開いた。


「えーと、もう話は済みましたかね? それじゃあ、ちゃちゃっとやっちゃいますね」

「おう、早いとこ頼むわ」

「ちょ、ちょっと待ってください!私、やっていいなんて一言も……!」

「あーもう、やかましいですね。今日はあと5件残ってるんですから手早くやらせてくださいよ。それにあなたが何と言おうが、これはもう決定事項なんですよ……っと!」


男は2人の頭にそれぞれ手を当てたかと思うと、何かを掴むようにして、それを一気に引き抜く。ずるん、と、身体と同じ形をした半透明の、魂のようなものが2人の身体から露出し、ふわふわと空中に漂っている。


「な、なにこれ……私、幽霊になってる……?」

「うおっ、なんか気持ち悪ぃ!!おい!何してんだよてめえ!」


自分の身体の中にあったものが抜かれるという初めての感覚に、綾香と浩平は戸惑ったような様子を見せながら、それぞれの反応を示す。

しかし天使を名乗る男はそんな2人の様子を気にも留めず、ただただ面倒くさいといった表情を浮かべていた。


「あー……やっぱりあなたたちもそうなっちゃってるんですね」

「あぁ?何の話だよ」

「いやね、魂っていうのは元々形が無いようなものなんですけど、肉体に入って長い時間が経過するとその肉体に合った形になっちゃうんですよね……。 そうなっちゃうと、別の身体には入れられなくなっちゃうんですよ」


男は困ったものだというように頭を掻いている。


「えっ……? そ、それじゃあ、私たちは元の身体のままでいられるんですか……!?」

「ええ、このままだとそうなっちゃいますね」


俯いていた綾香だったが、その目には光が戻っていた。見ず知らずのおじさんに身体を奪われ、その上その相手の身体にさせられようとしていた。現実味の無い話ではあったが目の前の男がそれをできるであろうことは今の、魂だけの姿なってしまっている状況が嫌というほどに示していて、絶望の最中だったところに希望の光が差し込んだようなものだ。


「はぁ!?ふざけんなよ、無駄に期待させやがって!」


一方、浩平の方は先程までとは打って変わって、不機嫌さを隠そうともせずに男を睨みつけている。天使を自称する男はそんな2人を交互に見ると、少し申し訳なさそうに口を開いた。


「ああ、ちょっと言い方が悪かったかな。 えーと、ちょっと待っててくださいね」

「お、おい、何を……うおぉぉ!?」


男がおもむろに浩平の頭を掴むと、その手が白い光を放ち始める。光は浩平の魂を侵食するように広がっていき、彼の魂もやがて淡い白い光に包まれていく。そして少しずつ、その形がぐにゃぐにゃと姿を変えていき、やがてその光は収まっていった。


「てめぇ、なにしやが……る……? あぁ?な、なんだこの声……身体も!?」


そこに現れたのは、綾香と瓜二つの姿をした人間の魂だった。自身の身体に違和感を覚え、初めて触るかのように全身を弄り始める。


「う、嘘……なんで私がもう一人……?」

「僕の力で飯田浩平さんの魂を本来の、犬飼綾香さんの形に戻しただけですよ。これでほら、身体にもすんなり入っていけるようになりました」

「ふへへ……っておい!ちょ、いいところだったのに邪魔すんじゃ……」


男が手をかざすと、自身の胸を揉みしだいていた浩平の魂がゆっくりと綾香の肉体へと入り込んでいった。


「これからはその身体で生きていくことになるんですから、後でご自由に楽しんでください。それでは、良い人生を」


男が手を振り下ろすと、ズプン、と、頭までもが綾香の肉体へと沈み込む。魂になった綾香は、ただただその様子を呆然と眺めることしかできないでいた。


「や、やだ……。 私の身体が……そんな……」

「ふぅ……。 さて、後はあなただけですね」


天使を名乗る男は綾香の方を向くと、再びその頭に手を当てる。


「お、お願いします、やめてください!私、こんなおじさんになんかなりたくないです!」

「いやだから、本来はあなたがそのおじさんなんですってば。 それじゃあやっちゃいますね」

「やだ、や、やめて!いや、いやあぁぁ……!」


ゆっくりと、男の手から伝わるように綾香の魂が光に包まれていく。光に覆われた魂は少しずつその大きさを膨らませるように形を変えていき、光が収まった頃には綾香の魂は浩平と同じ姿になっていた。


「うぅ……ひどい、ひどいです……こ、こんな身体じゃ生きていけない……」

「ああ、今までと違う身体で生きていけるのか心配だったんですね。安心してください、肉体に入れば魂も馴染んで、元の身体のことなんて忘れちゃいますから」


泣き崩れる綾香に向けて、男は淡々と言葉を続けた。彼にとっては親切心から出た言葉だったが、綾香からそれは死刑宣告にも等しいものだった。

男は手をかざし、浩平の姿になってしまった綾香の魂を、抜け殻になっている浩平の身体へと沈み込ませていく。


「そ、そんな……!や、やだ!戻して!元に戻してください!!」

「もちろん、元からそのつもりですよ? それでは、よい人生を」


男の手が振り下ろされると同時に、綾香の意識はスッと闇の中へと消えていった。




***




「おいオッサン、何ジロジロ見てんだよ」

「えっ……?」


2人の身体が動き出すと同時に、時が止まっていた周囲も再び動きを取り戻した。天使の姿は既に消えていたが、2人はそのことを気にする様子がないどころか、まるで先程までのことを忘れてしまったかのようだ。


「あ、そ、その、すみませんでした……」


少女に指摘され、浩平は自身の行動を反省する。柄にもなく、他人に向けて無遠慮に視線を送ってしまって――

そこまで考えたところで、少しの違和感を覚えた。記憶の中にある自分はむしろ逆で、女性の身体を舐めるように見るだけでなく、痴漢すらしょっちゅうだ。それなのに、何故この程度のことで罪悪感を覚えてしまっているのか。


「チッ……。 つーかなんで私こんなとこいんだ?もうバイトの時間じゃねえか」


少女は浩平を睨みつけると、急ぐように背を向けて歩き始める。立ち去っていく少女の姿に心がざわつく。行かせてはいけない、引き留めなければ、と。


「ま、待ってください……!」

「ちょっ……オイ、いきなりなにすんだよオッサン!!」


気が付けば、少女の細い手首を思い切り掴んでいた。大人しそうな見た目から出たとは思えないような怒号に一瞬身体を強張らせるが、それでも何故か、彼女を行かせてはならないと思ったのだ。

少女は必死に浩平の手を振りほどこうとするが、対格差もあってかビクともしない。そんな2人の周りにはいつの間にか多くの野次馬が集っていて、焦る浩平の肩を、ポンと誰かが叩いた。


「ちょっと、何やってるんですか? その子嫌がってるじゃないですか、離してあげましょうよ」


騒ぎを見て駆け付けた駅員によって、掴んでいた手はあっけなく引き剥がされる。


「そいつにさっきからしつこく付きまとわれてるんだよね、どうにかしてくんない?」

「ハァ……。 えーと、ここじゃなんですから、ちょっと事務所の方まで来てもらえますかね」


呆れたようにため息をついた駅員に腕を引かれる。何故自分がこんなことをしているのか、浩平には理解できていない。それでも、初対面のはずの少女が去っていくことがどうしても許容できなかった。そんな浩平を、少女は蔑むような目で一瞥して背を向ける。


「あ、あぁ……」


少女がその場から立ち去る姿を、浩平はただただ見ていることしかできなかった。


Related Creators