楠葉ちゃんの学校生活:4月分限定作品
Added 2025-04-29 22:30:00 +0000 UTC異様なほどに濃いモヤが街を包んでいた。 太陽が昇って数時間が経ち、多くの人々が活動を始める時間帯となってもモヤが晴れることはなく、あまりの視界不良に電車が運行を取り止めたことで、駅には多くの人々が滞留することとなった。 徐々に増える人でホームが溢れ返り、遂には駅構内への入場が制限され始めたとき、空に走った強烈な光によって人々の視線は上を向く。 あまりにも短いフラッシュは雷のようであったが、不思議なことに轟音が響き渡るようなことはなく、むしろ喧騒がフッと消えて静寂が訪れてしまうほど。 それと同時にあれだけ濃密で消え去る気配すらなかったモヤがまるで存在していなかったかのように霧散し、急速に周囲の視界が開けたのだ。 開けた視界に入り込むのは白い大地。 上り下りが一本ずつ走るだけの小さな線路、駅に停車中だった電車、人で溢れたホームと駅舎。 見慣れたそれは変わらずに存在していたが、駅の周囲に存在するはずの雑居ビルたちが見当たらない。 それどころか住宅地へと伸びるはずの道路もなければ、その先に広がる住宅地もなく、線路すらも100メートル先で消失してしまっているのだ。 「おぉ、思ったよりたくさんいるじゃないですかぁ♪」 周囲の変わり果てた様子に言葉を失っている人々に変わって、楽しげな声音のそれが頭上から轟いた。 あまりにも大きい。 咄嗟に耳を塞いだはずなのに、その防御を容易く貫いたのは若い女の甘ったるい、それでいて蠱惑的な声は人々の視線を持ち主のもとへ引き付けるのに十分。 視線を向けた先に存在するのは白い布。 なんら珍しくもないポリコットン素材の安っぽい生地は、白い大地から駅舎を遥かに超える高さまで覆い尽くしており、人々の視界を覆い尽くしてしまうほど。 優美な円を描くそれは僅かに上下しており、それに合わせて生暖かい熱と、アクアティックな香りが周辺を包み込む。 外見だけでなく、その熱も匂いも、誰にとっても馴染み深いものであり、たとえ目の前に存在するものがどれだけ異常であってもそれが何かを理解できてしまうのだ。 「おーい、女子高生のおっぱいを集団でガン見するのマナー悪いですよぉ〜」 楠葉〈くずは〉は机上から自分を呆然と見上げる小さな生き物たちを見下ろしながら、その可愛らしい顔に苦笑を浮かべるのであった。 寮の個室。 窓辺に置かれた無機質な勉強机にポンと存在するペンケースほどのものは、楠葉が暮らす街の二つ隣にある小さな駅そのもの。 今朝のおもちゃを探していた楠葉がTwisterで見つけたそれは、そこに居た二千数百名とともに、1,000分の1という小さな存在としてそこにあるのだ。 果てしなく続く白い壁が制服のワイシャツ、丸みを帯びているのが内側に存在する巨大おっぱいであることを理解した人々は、混乱の中で悲鳴をあげる。 「な〜に騒いでるんですか視姦魔どもめっ♪ 迷惑防止条例を知らないんですかぁ?」 楠葉がそっと駅のホームに手を伸ばし、人差し指と親指で停車している電車を摘み上げると、開いたままだったドアから人間がまるで砂のようにこぼれ落ちる。 先ほどの悲鳴なんて比較にならないほどの絶叫を上げながら落下する人々は、駅の屋根や線路に叩き付けられて四散するか、運良く原型を留めても2度と動くことはない。 8両編成、全長160メートルに達する金属製のそれがまるで糸のよう。 楠葉は摘み上げた右手をそっと胸元に近づけると、空いている左手を使って制服の白シャツに手を掛けてそのボタンを外すのだ。 その瞬間、ただでさえ巨大な乳房がさらに巨大になったように感じ人々は、続けて柔らかな双丘が指によって押し広げられ、真っ暗な穴が生じたことに息を呑む。 その巨大な黒穴は当然のように電車を半分ほど飲み込んで隠してしまうと、楠葉が電車と乳房それぞれから手を離したとしても、電車はそこから落下しない。 巨大な肉の塊が電車の車体を包み込み、あっさりとそれを支えてしまえるからだ。 「せっかくのご縁なので教えてあげましょ〜。迷惑防止条例は私がなんか嫌だなぁって思うことを禁止する条例でぇ……」 楠葉がそっと上半身を持ち上げると、机の天板からあまりにも巨大なおっぱいが浮き上がり、そのまま自分たちの元へ侵攻してくるのだ。 とても浮かぶとは思えない超巨体と超質量。 先ほどはほのかに香った程度のコロンがより強くなり、さらにはそこに体臭までもが加わることで、まともな比較対象を用意することすら困難なそれが乳房なのだとどうやっても分かってしまう。 楠葉が身を乗り出して机に覆い被さるような姿勢を取った瞬間、おっぱいに挟み込まれた電車がちょうど駅舎の上空に到達するのだった。 「罰則は死刑一択なんですよっ♪」 楠葉が自分の脇をキュッと閉めた瞬間、フニフニした二の腕が同じくフニフニのおっぱいを押し潰し、巨大な谷間を瞬時に埋め尽くしてしまうのだ。 マッチ棒より細い電車がその圧力に耐えることはない。 乳圧によって隅々までを一瞬で捻り潰されたことで、落下することなく残っていた数百名の生存者たちは、何が起きたのか思考する間もないまま前後左右全てから襲い来る圧壊に巻き込まれて絶命するのだ。 乳房に包まれた車両が粉砕されたことで、乳房の外側でフラフラと揺れていた車両は支えを失い、当然のように地上に向けて落下すると、駅舎に衝突し一瞬にして凄まじい破壊音と数え切れない死傷者を生み出す。 「はい、死刑の第一弾が完了しましたぁ〜」 凄まじい大惨事を引き起こした張本人は、胸元に指先を突っ込むと、そこで完全に圧壊して汗まみれになったゴミをスッと引き出して、無造作に捨ててしまうのだ。 再び上空から落下してきた鉄の塊は、ようやく瓦礫から這い出した人々を容赦なく叩き潰す。 推定死者数千数百名。 通常の事故で生じることはまずない大規模被害に、人々は恐怖に泣き喚くか無様に逃げ回ることしかできない。 「今すぐ第二弾やっちゃおうかなぁ〜。……あれ、謝らないんですか? 本当に執行しちゃいますよ? もしかして、私に許してもらう以外に生き残る手段がないってこと、まだ分からないんですかぁ〜?」 そんなことを口にしながら、駅舎を飛び出して白い机上を懸命に走っていた1人に人差し指を向けると、えいっと小さく呟いてその2ミリメートルにも満たない小さな生命を終わらせてしまう。そのまま指をツーッと滑らせると、机には細い赤線が生み出されるが、それは瞬く間に使い終わって線を描けなくなってしまうのだ。 そんなことが何度も繰り返されるのを目の当たりにした人々は、もはや瓦礫と変わらないまでに破壊された駅舎とその周辺で恐怖に身を竦める。 目の前で行われているのは間違いなく虐殺。 女だろうと子供だろうと容赦なく。逃げ出した人間は赤い筋に変えられてしまう。 途中で諦めて許してくれと大声を張り上げた男も、次の瞬間には指の下敷きとなってその姿を消したのだ。 文字通りに山のような巨体であり、鉄の塊である電車を摘み上げ、そしておっぱいで粉砕する。あのふざけた口調も、今こうして目の前で行われる虐殺も、その全てがあまりにも恐ろしい。 1人、また1人と、その場に崩れ落ちるように膝を付く。 嬉々として人間を突殺して遊んでいる女子高生を見上げて、喉が張り裂けるほど叫ぶのだ。 ごめんなさい。許してください、と。 それが次々に周囲へと伝播することで、この空間には許しを乞う人間と虐殺を楽しむ人間が共存するのであった。 「お〜、ちゃんと謝れるじゃないですか。偉い偉いっ♪ 別に私も鬼じゃないので、ちゃんと謝ってくれたなら死刑にしたりしませんから。安心してくださいな」 小馬鹿にしたような声とともに凄惨な殺戮が止まった。 真っ白だった机には幾重にも重なった小さな赤線が数十と残っており、その線の近くには恐らく犠牲者が着用していただろう衣服の破片が散らばっている。 これだけ激しい人体損壊が数十人分行われたのであれば、その空間は凄まじい生臭さを残すはずだというのに、楠葉が付けたコロンがそれを許さないのだ。 その時だった。 ぴっ、ぴっ、という無機質な機械音声が鳴りだし、楠葉の視線がベッドの上に放り投げたままのスマホに向けられたのは。 「あー、もう出なくちゃか。……というわけで、これ以上やると遅刻しちゃうから遊ぶのはおしまいね」 寮の個室は狭い。 楠葉は立ち上がることなく、椅子をくるりと回転させると、ベッドでアラームを鳴らすスマホを取り上げて音を止める。 再び椅子を回転させると、楠葉に遊ばれたことで無惨な姿になった駅と、当初の1割程度まで数を減らした人間たちを一瞥するのだ。 「最期におっぱい触らせてあげるっ♪ ふふっ」 再びその巨乳をドンと机に置いた楠葉は、眼下に捉えた人々が恐怖に引き攣った顔で何か叫んでいることに気が付いた。 殺さないって約束したのに。 そんな恨み言ばかり言葉を変えつつ無制限に吐き出し続ける彼らに向けて可愛らしく僅かに舌を出して微笑み掛けるのだ。 「殺さないなんて約束してないですけど? 死刑にしないって約束ですよね。で、今からやるのは皆さんの罪に対する罰じゃないんですよねぇ〜。遊び終わったおもちゃをお片付けする、まぁ、言ってみれば処分なわけですよ。納得してくれましたぁ〜?」 自分の口からあまりにもスラスラと非道な言葉が出てくることが面白くて思わず吹き出してしまう楠葉。 咄嗟に口元に左手の甲を当ててそれを隠そうとしたが、女子高生の意地悪な笑みは生存者たち全員が目撃したあとのこと。 そして気が付く。 最初から助けるつもりはない。彼女の口にした遊びとは言葉通りに遊びという意味なのだと。 「はーい、おっぱい進撃開始ぃ〜」 そんな言葉が合図となって共に巨大な乳房が凄まじい速さで迫り来る。 音など置き去りにして、おそらくは戦闘機ですら振り切れない超高速だ。 彼女にしてみれば歩行速度よりもゆっくりと、じれったく感じるほどゆっくり動かしているのだろうが、それでも1,000分の1サイズの人々にとってそれは回避不能。 机上を懸命に走って逃げようとした数名を轢砕し、直後に駅舎と電車の残骸をその重量で破砕し、下敷きにすることで粉砕、それでも止まることなく一直線に突き進み、ほんの数秒で机上から全ての小人を消し去ってしまうのだ。 「ふふっ。死刑完了っ♪ ……あ、これは処分だっけ? ……ま、やることは同じなわけだし、どうでもいっか」 机に覆い被さるようにしていた上半身を起こし、はだけていたシャツのボタンを止め直すと、楠葉は机上とおっぱいに残る残骸に視線を向けてそっと目を閉じる。 それだけで残骸は全て消え去り、転送する前に存在していた場所へと送り返されるのだ。 これが世界を騒がせている全世界各地で起きる消失破壊事件の真相。 楠葉が全寮制高校に入学してから始めた朝の日課である遊びは、彼女が受けた授業日数と同じだけの回数実施されている。 入学式からまだ3週間だというのに、すでにその犠牲者は一万人を優に超えているのだった。 「慣れちゃったのかなぁ。な〜んか物足りないんだよねぇ〜。……今日はもう少し何かしちゃおうかな」 何をしようかと思案しながらバッグを手に持って寮の個室を後にする楠葉。 168センチの長身は同じ寮で生活する同級生たちより少しだけ大きく、同じく校舎へ向かう人混みの中でもすぐに見つけることができる。 シャツのボタンをしっかり止めて、ブレザーを羽織っているのにその存在を強烈に主張するおっぱい。膝の上で揺れているスカート。そこから伸びる長脚は黒ニーソックスへと続き、先端部はローファーの中へと消えていく。 癖のない長い黒髪を揺らしながら歩く楠葉は、同級生たちと挨拶しながら、頭の中で悪いことを思考することで意地悪な笑みを浮かべるのだった。 *** 碧泉女学院の校舎と学生寮を繋ぐのは一本道 寮から通う学生たちが左右を木々に挟まれた狭い道を談笑しながら歩くのがいつもの通学風景だ。 長い歴史を持つがゆえにコンクリートの舗装は所々が欠けており、特に端っこは沿道に植えられた木の根っこによって持ち上がってしまっている。 当然ながら無数の小石や細い木の枝、桜の花びらなどが散らばるその道路に、今日は不自然な形状のものが混じっている。 長さは4センチ弱、高さは2センチ弱というそれは、周囲に転がる小石よりはやや大きく、そして何より全ての角が直角の長方形をした明らかな人工物。 色がグレーのためそこまで目立つものではないが、よく観察して存在に一度でも気が付けばその違和感は強烈だろう。 「はい、クシャ〜っと。これで2つクリアっ♪」 楠葉がそれを見つけてテトテトと歩み寄ったかと思えば、長方形のそれをローファーの靴底で粉砕してしまうのだ。 特別なことなど必要なく、それこそローファーだけの自重でさえ粉砕できてしまうのに、そこにわざわざ体重をかけるのだ。 さらにはグリグリと念入りに踏み躙ってみれば、すっかり砂と化してしまうのだ。 それが小石であれば当然ながら女子高生に踏まれただけで姿を変えるはずもなく、こうして粉々にされてしまうのは、それが楠葉によって縮小転送された団地だから。 本来であれば高さ17メートル、幅34メートルにもなる大型住居であるはずのそれも、1,000分の1サイズであればこうして小石に紛れてしまう存在。 「あと3つ、どこかなぁ〜?」 楠葉が通学途中に遊べるようにと5棟の団地群を縮小し、ランダムで通学路に配置したのがついさっきのこと。 こうして通学しながら探し回り、見つけては踏み潰していくのだ。 もし一つでも見逃してしまったり、誰かが縮小団地の存在に気付いて騒ぎになったら負け。 ルールはそれだけのシンプルなゲームながら、こうしてキョロキョロと探し回るのが意外と面白くてすっかり夢中だ。 「ん〜、あれ怪しい気がするなぁ」 楠葉の視界に入ったのは道の端っこに放置されたビニール袋。 近くのコンビニのロゴが入ったその袋をしゃがんで持ち上げてみれば、予想通りその下からは長方形のそれが姿を表す。 どうやら頭上をビニール袋に覆われてしまったことに驚愕して住民が外に出ていたようで、彼らと楠葉の視線が一瞬にして交わるのだった。 何が起きているのか分からず呆然としている彼らを見下ろす楠葉は、小さく手を振って手短なお別れの挨拶を済ませると、ちょうどいいやとばかりにビニール袋を軽く握って地面を何度か撫でてあげる。 まるでテーブルを掃除するかのようであったが、ビニール一枚越しに砂細工を粉砕する微細な刺激が伝わったことで、自分の右手が建物一つとおそらく数十人を叩き潰したのだという実感が湧くのだ。 手を持ち上げてみれば、そこにあるのは小さな砂の山だけ。 人間も存在したはずであるが、おそらく瓦礫が粉砕される過程に巻き込まれて砂の一部となっているのだろう。 満足そうに微笑んだ楠葉は、ビニール袋の汚れた面を内側に折り畳んでスクールバッグに押し込むと、立ち上がって再び歩き出す。 「あれ、こんな近くにあるじゃん」 歩き出した直後に見つけたのは転移させた際、運悪く小石が転移場所にあったせいですでに半壊した団地。 ちょうど半分が残っているものの、それも小石にもたれかかることでなんとか立っていられるといった具合らしい。 住民らしい人々が小石の周りに集結しているのが気になってよく観察してみれば、どうやら瓦礫を退けて生き埋めになった人を助け出しているようだ。 重機はおろか満足なスコップすらないため手を使っての懸命の救助作業。最初の1人が助け出された瞬間、歓声のようなものが人々から上がっていた。 「…………あ、やば。めっちゃ虐めたくなってきた」 楠葉の右足がそっと持ち上がると、ローファーのつま先を救出劇に沸く会場へ向ける。 途端に空が暗くなったことに驚いて彼らが空を見上げれば、そこには無機質な黒くて硬いゴム底が数百メートルに渡って続いているのだ。 呆気に取られる彼らを跨ぎ越したローファーは、未だに無事でいる団地の半分に近づくと、そのつま先を軽くコツンと衝突させる。 コツン、なんて可愛らしい表現は楠葉にとってのものであり、そこにいた人々にとってはどれだけの質量があるか想像もつかない、まるで戦艦のようなそれが建物と衝突したのだ。 凄まじい衝撃波が周囲に襲い掛かり、外にいた人々は次々にその場で倒れるか、体重の軽い子供に至っては落ち葉のように転げ回る。 当然ながらローファーが直撃した団地が無事でいられるはずもなく、ほんの一瞬のうちに大きな音を立てて瓦解し、膨大な砂煙を周囲に舞い上げた。 「ごめーんっ!その小石が邪魔そうだから退けてあげようと思ったんだけど、うっかり間違えちゃったっ♪ まだ中に人が居たりしない?大丈夫かなぁ〜。心配だなぁ〜」 楠葉が足首を一度振るっただけで、ローファーが巻き起こした暴風が周囲から粉塵を消し飛ばす。 その場で這い蹲るようにして難を逃れた人々は、今さっきまで存在していた建物が完全に消え去り、瓦礫の量が倍以上に増えたことに驚愕する。 そして、その直後、危険だから室内にいるようにと指示して団地内に残した子供達のことを思い出し、喚きながらその瓦礫に殺到するのだった。 「んふっ、やっぱり居たんだぁ。可哀想〜。早く助けてあげないと死んじゃうかも?まぁ、なんかもう死んでるっぽい気もするけど。……ふふっ」 全身が僅かに火照り始めたことが自分でもわかる。 まだ汗ばむほどの陽気ではなく、特別に激しい運動をしたわけでもないのに。 自分の足元で小さな命が懸命に助け合う姿があまりにも滑稽で、馬鹿馬鹿しくて、今すぐにでも踏み躙ってしまいたい衝動が沸々と湧いてくる。 ローファーと団地の衝突による余波によって転げ回った人間は全身から流血しており、中には倒れたまま動けなくなる者すらいた。 あまりの非常識に楠葉の足元では生者と死者の境界線が曖昧になっているのだ。 「な〜んか瓦礫に群がる姿に既視感あるなって思ったんだけど、これ虫の死骸にたかる蟻さんに似てるんだ。……でもさぁ〜」 先ほど団地一つを触れただけで粉砕したローファーが再び動き出す。 つま先を地面に残したまま踵だけがスッと持ち上がり、足の甲がほとんど垂直になったかと思えば、そのまま動き出して人々の眼前までやってくる。 真っ黒な壁。 超高層ビルを引き合いに出さなければ満足な比較もできないほど巨大なそれは、小さな生き物が思わず救出作業の手を止めてしまうほどの威容。 「蟻さんはこうしても生き残れることあるよ?君たちはどうかなぁ〜」 えい、と可愛らしい掛け声で楠葉が軽く足を振るった。 団地の残骸とそこにいた人々は、圧倒的質量のそれが超高速で衝突したことで文字通りに粉砕され、刹那の間を開けることもなく扇状に散らばってしまう。 例え紙粘土をショットガンで撃ってもここまでバラバラになることはないだろう。ましてそれが鉄筋コンクリートで形成されていたのだとしたら、なおのこと。 それと対照的だったのは一緒に蹴り出された小石。 なんら原型を変えることなく、特別に飛び跳ねることもなく、当然のようにコロコロと転がっていくだけだった。 それは、楠葉が本当に軽く小突く程度で足を振るったに過ぎないこと証左だった。 「ん〜、弱っちぃなぁ〜♪」 思い描いた通りに粉々に消し飛ばすことができて爽快な気分の楠葉は、その足取りをさらに軽くして通学路を再び歩き始める。 残る一つをどうしてやろうかと考えるとニヤニヤが止まらない。 周囲にキョロキョロと視線を配りながら学校に向かうものの、しかし、そのまま何も発見することなく校門に辿り着いてしまう。 「あれ、見逃しちゃったかも? ……う〜ん、しょうがないか」 警衛室に見せるための生徒手帳を探すフリをして校門前で立ち止まった楠葉は、スッと瞳を閉じて自分の足元にそれが存在するイメージを浮かべる。 瞳を閉じた時間は一瞬であったが、その一瞬で楠葉の足元に小さな箱がポツンと出現するのだ。 通学路の端に存在する木の根本に転移したことで、辛うじて難を逃れたはずだったその人々は、巨大な木の根が同じく巨大なローファーに置き換わったことにまだ気が付いていない。 「はいはい、最後まで隠れ切れて凄いね〜。見つけられなかったからゲームは君たちの勝ちでいいよ〜。あの世で自慢してねっ♪」 彼らが異変に気がついたのは、動くはずのない巨大なそれが動き出し、自分たちが暮らす団地に覆い被さり始めた瞬間であったが、状況を理解して悲鳴をあげるよりも楠葉のローファーがそれを踏み潰す方が早かった。 そこに体重をかけてグリグリと踏み躙ることで、ゲーム失敗の苛立ちが消えていく。 靴底にこびり付いた残骸を地面に擦り付けて落とした楠葉は、そのまま普段と変わらない様子で校内へ姿を消すのだった。 *** 黒板をチョークが叩く軽快な音がする。 それにワンテンポ遅れて鉛筆が紙に擦り付けられる筆記音がするのは、いつもと変わらない授業風景だ。 典型的な名門校だけあって真面目な生徒が多い中、窓際最後列という席に座る楠葉だけが退屈そうに片手でペン回しをしている。 ふと窓の外へ視線を向けてみると、快晴の空に一本の白い筋が伸びている。 黒板にチョークが粉を残すのと同じく、空に飛行機が航跡雲を作っているのだ。 それを見つけた楠葉が意地悪そうな笑みをこぼして瞳を閉じた瞬間、遥か彼方を飛行していたはずの旅客機が楠葉の眼前にフッと姿を現す。 10,000分の1スケールで現れたその機体は、僅か7ミリとなったことで楠葉の目の前を信じ難いほどゆっくりと飛行する。 内部の様子を覗こうとして小さな窓に焦点を絞ってみるものの、あまりにも小さ過ぎるために窓があることを認識することも満足にできなかった。 だが、その逆はまるで別問題。 乗客たちは飛行機の全長を遥かに超える巨大な瞳に見据えられ、その僅かな好奇心と隠し切れていない嗜虐心を全身で感じていた。 機内は一瞬にして混乱の極地に達し、誰かが叫び声を上げた瞬間、次々とその絶叫が連鎖して周囲に轟き、直後に起きた急加速と旋回によって悲鳴は絶頂に至る。 異常事態を察したパイロットがその場からの離脱を図ろうとして、無理に機体を動かしたことで、鋼鉄の鳥は全身から嫌な金属破裂音を響かせた。 楠葉の目には単に飛行機がのんびりと曲がり始めたように見えるのみだが、当事者たちにとっては一瞬一瞬が恐怖と対峙する緊張の場。 ようやく旋回が終わって飛行機が楠葉に向けて背を向けた瞬間、楠葉がそっと顔を近づける。 「馬〜鹿っ♡」 隣の席のクラスメイトにも聞こえないような小声で彼らに語りかけた瞬間、口から漏れた吐息が凄まじい質量兵器になり代わり、鋼鉄の機体を一瞬でバラバラに引き裂くように粉砕し、机の上に残骸が降り注ぐ。 あまりにも脆い。 思わず笑い出しそうになってしまうものの、今が授業中であることを思い出しそれを必死に堪える楠葉。 なんとか込み上げる笑いを押し殺すと、椅子に腰掛けたまま軽く脚を広げて、座面とスカート、左右の太ももによって区切られた狭い空間を作り出す。 楠葉の細腕一本を仕込むのがやっという狭い空間であったが、先ほどと同じサイズの航空機が飛行するには十分な広さ。 そんな空間に10機の飛行機を呼び出した楠葉は、ペラっとスカートを捲ることで彼らが真っ直ぐに自分のパンツめがけて飛行している様子を一瞥すると、そのままスカートを下ろして、股間の内側に神経を集中させて刺激が訪れるのを楽しみに待つ。 女子高生のお股に閉じ込められた飛行機たちは、彼女がスカートを戻した瞬間に光を失ったことで困惑の渦中にあった。 計器が示している高度は僅か地上数十メートルであり、これではまるで建物の低層階にいるようなもの。無線に呼びかけても地上空港はどこも応答することがなく、乗員乗客の誰もが事態を飲み込めないのだ。 次の瞬間。 右前方を進んでいた別の飛行機が突如としてオレンジ色の閃光を放って爆散した。 座面によってむにゅっと広がった女子高生の太ももは、奥に向かうについて太さを増しており、最外周部を飛行していた機体の進路にも姿を現したのだ。 数万トンにもなる鉄の塊が時速900キロメートル以上で衝突するエネルギーは凄まじいもので、例えそれが超高層ビルでも粉砕していただろうに、女の子の素肌はまるで何事もなかったかのように爆発前と変わらず存在する。 だが、素肌そのものに直に触れた爆発であったためか、楠葉に微細な刺激が届いてしまったようで一瞬だけ脚にキュッと力がこもり、その極々僅かな動きに巻き込まれてさらに2機がオレンジの閃光に変わった。 さらに、その光景に慌てて逃げ出そうと機首を上げた機体はスカートの内側で爆散し、弧を描くように旋回して反転しようとした機体は左の太ももに激突して消えた。 飛行機が存在するのに十分な空間も、飛行機が自由に飛び回るのには不十分。 彼らにできることは、できる限り中央によって飛行することだけであったが、その際にあるのは行き止まり。 楠葉が選んだなんの面白味もない無地の白色パンツはまるで山のようにそこに鎮座しており、まだ飛行している機体に終わりが近いことを無言で告げている。 もはや何もできないことを悟った彼らが言葉をなくした瞬間、まだ彼方に存在したはずの白い逆山脈が一瞬にして目の前に現れ、驚きの言葉を漏らすことすらできないまま、残りの機体は少女のパンツの表面を撫でるように爆発四散した。 「んふっ」 ほんの僅かに全身を前方へと押し出した楠葉は、自分の股間で極々小さな刺激が生じたことに辛うじて気がつくことができた。 太ももに感じたこそばゆさとは比較にもならない微弱な刺激だったのは、たかが航空機の激突で生じるエネルギーでは下着の奥まで衝撃を伝えられないというだけのこと。 もう一度やろうかなんてことを考え始めた瞬間、授業を終えるチャイムがなり始めたことで、世界の空を飛行中の飛行機のうち何機かは奇跡的に女子高生のパンツで死ぬ運命を逃れることができたのだった。 *** 昼休憩の過ごし方は人によって異なる。 多くの生徒は食堂でランチを済ませるが、寮に戻って済ませる生徒もおり、食べずに勉強する生徒もいるのだ。 授業時間以外は何をするのも自由という校風は、気まぐれな性格の楠葉とは実に相性がよく、こうして昼休憩の時間を部室で過ごすことだってできる。 そのまま午後の体育授業へ行けるようにと体操服への着替えを済ませた楠葉は、白地に校章が入っただけの半袖の上着と、濃紺のハーフパンツ、髪も後ろでポニーテールにまとめたラフな格好で部室を見渡す。 一応は文学部ということらしいが、部員が新入生の楠葉ひとりのため、実質的には彼女の秘密基地のようなものだ。 長机を2つくっ付けて部屋の中心に置き、向き合うようにパイプ椅子がある。 部屋の奥に置かれた本棚にかつて刊行していたらしい文集があることで、ここが文学部なのだということが辛うじて分かるような質素な空間だ。 だが、質素だったのは楠葉がその瞳を開くまでのことであり、次に彼女が目を開けた瞬間、部室内は数百万という途方もない人々が存在する賑やかな大都会へ変貌する。 中心部の超高層ビル群が長机の上に、それ以外は床に敷き詰められた街。 10,000分の1というあらゆるものを微生物に変えてしまうスケール差で発生したその街並みは、もはや一つ一つの建物を認識することは困難であり、全てをまとめて街として捉えるしかない。 「お昼時に呼び出してごめんね〜。ちょっとだけ蹂躙させて欲しくてさっ♪」 大都市の郊外に位置するのは山脈の麓で栄えていた工場とその周囲の住宅街。 職場と家庭が緊密に繋がったその土地では、山脈などまるで存在していなかったかの如く跨ぎ越してくる学校の上履きに誰もが視線を奪われていた。 安っぽいゴム質のギザギザ模様が刻み込まれたそれは、明らかに自然のものではない発色のよい青色をしており、その靴底が何百という建物を覆い隠す。 2,400メートルに達するそれは、もはやこの街でもっとも巨大な建物であり千数百人が働いている大規模自動車部品工場をいくつもまとめて捉えることも可能という規格外の存在で、人々にとってはもはや景色と同一視するような大きさ。 「あ、そうそう。別に無理して残らなくていいからね。逃げてもいいし、気が向いたら刃向かってみたら? その辺りはお任せしま〜っす♪」 楠葉の上履きがその直下に存在するもの全てを押し潰して着地した。 今回は踏み締める感触を楽しむために地表だけでなく、地中まで全てをリンクさせて転移させたために、建物がクシャッと潰れる感触はもちろんのこと、自分の体重が大地に沈んでいく感触も確かに楽しむことができる。 凄まじい衝撃波が周囲を薙ぎ払い、波紋のように伝播していく光景も面白い。 街の一角がたったこれだけで消え去ってしまい、200を超える住居と工場、そしてそこに存在したはずの数千名の命をあっさりと散らしてしまう。 もはや小型の核兵器に等しい破壊力となったそれであるが、楠葉にとってそれは特別なことでもなければ、苦労するようなことでもない。 だからこそ、もう一方の足も踏み出して同じ規模の被害を生み出し、さらには初撃となった足を踏み出して3度目をやってのけるのだ。 狭い部室の中をドアから窓辺まで移動するのは僅か5〜6歩のことであるものの、床のところどころに隕石の直撃を思われる大穴が穿たれ、それを終えたときにはすでに犠牲者の数は万単位に達している。 「ふふっ、大惨事じゃん。避難するなら私が止まってる今がチャンスだよ〜。……だってほら」 窓際の壁に寄りかかるようにして体を支えた楠葉は、先ほど数万人の命を奪い去った上履きを脱ぎ去り、運動用にと履き替えた真っ白なアンクルソックスを履いた足で床に立つ。 つま先だけを床につけて足首をグリグリと回してみたり、肩をゆっくりと回す楠葉を見上げた人々は、彼女の服装と相まって何をしようとしているのか察してしまう。 人々は微かな希望を求めて安全だと思われる場所、部屋中央に置かれた机の下に潜り込むことを目指して一斉に駆け出すのだ。 「こうして私も走り始めちゃうわけよ」 168センチの長身が躍動する。 床に存在する小さな人間にとって楠葉は身長17キロメートルにも達する凄まじい巨人であり、その体重は600億トンにも達するというもはや小惑星。 ゆっくり歩くだけでも街に壊滅的な被害を与えるというのに、そこに小走りによる勢いが加わってしまった。 ここまでいくともはや踏み潰すというよりは塗り潰すに等しい激烈な被害であり、大都市を形成していた建物をはじめ、自然物だろうと人工物だろうと関係なくその全てが吹き飛んでは抉られた茶色の大地が円形に露出するのだ。 それほど広くない部室内で長机の周りをゆっくりジョギングするという、それだけではなんの面白みもないものであったが、自分がもたらす凄まじい被害を眺めつつならそんなに悪いものではない。 二週目に入ってからは、最初に踏み残した部分のできるだけ選ぶようにして足を下ろすことで、周回を重ねるごとに灰色がみるみる削られていく。 住宅も、学校も、商業施設も、病院も、それがどんな用途で作られていた、どれだけ頑強で大きくとも楠葉にとっては何も変わらない。全てを白靴下で粉砕して突き進むのみである。 時間にして僅か1分程度のことであったが、それだけで10周近くも走った楠葉は、うっすらと額に浮かんだ汗を手で拭って、変わり果てた都市の成れの果てを見下ろして満足そうな息を漏らすのだった。 「正直に言うと運動なんて大嫌いなんだけどさぁ、これなら面白いから続けられるかも? ……あー、やっぱいいや。運動嫌い」 数百万人を文字通りに踏み躙った少女は、一瞬だけ生じた、運動が楽しいかもという気の迷いを振り払うと、残しておいた中心部に向かって歩み寄る。 普段の癖でパイプ椅子の背もたれに手を掛けた瞬間、その座面部分にも雑居ビル群と何棟かの高層ビルが存在していたことに気が付く。 椅子の上にちょこんと乗っているそれが可愛らしく思えてきたので、細い脚をそっと机と椅子の間に差し込むように入れ込んで、数百棟で構成されるビル群に対してハーフパンツのお尻を向けてあげるのだ。 「疲れちゃったから座りたいんですよねぇ。だから、そこ退いてくれません? 5秒以内にっ♪」 意地悪にも事実上の虐殺宣言をしてみれば、心なしか椅子の上が騒がしくなったような気がする。あまりにも小さな人間たちの悲鳴など楠葉の耳に届くはずもないが、実際に彼女の尻の直下では数十万人が怯えて逃げ惑っていた。 だが、どこへ逃げたところで最終的には椅子の淵に辿り着くだけ。 彼らにとって座面から床までの高さは途方もない距離となってしまい、山の頂上から地上へ向けて飛び降りるのと同義。 彼らにできることは逃げ惑うだけであり、逃げることは叶わないのだ。 「はい、時間になりましたぁ〜。退いてってお願いしたのに居座るなんて君たち性格悪すぎじゃないですか? ……ぷっ、ふふ」 自分で言っておきながらあまりにも滅茶苦茶な主張に笑ってしまう。 何十万人もの人間が避難するのは例え地上であっても極めて困難なことで、仮にここに居る人々が避難するなら、それは航空機を数百機手配して数日かけて行うような一大プロジェクトになる。 椅子から退く、たったそれだけの話なのにと笑うことができるのは、この空間において楠葉だけの特権だ。 「じゃあ、これはお仕置きも兼ねてってことで。失礼しま〜すっ♪」 楠葉がいつも通り椅子にスッと腰掛けた瞬間、天まで聳えるかのようだった高層ビルもその周辺を埋め尽くしていた無数の雑居ビルも、それらの合間に存在した駅もデパートも公園も学校も、何もかもが女子高生のお尻の下へ消え去った。 運動用に設計されたハーフパンツは厚めの生地で作られており、高層ビルと呼ばれるたかが数ミリ程度の砂粒がどれだけ集まったところでその刺激は全て遮断されてしまうのだ。 あまりにも感触に乏しいので不思議に思った楠葉が軽く腰を持ち上げて確認してしまうほどであったが、確かにパイプ椅子の座面と自分のお尻には砂が付着しており、確かに存在していた街の複数区画を葬り去ったのだという事実はそこにあった。 *** あまりにも非常識な光景は今でも受け入れ難い。 突如として光に包まれたかと思えば、空が消えて変わりに照明が光を放つ天井がそこに現れたのだ。 状況を理解しようと誰もが手に持ったスマホに視線を落とすものの、全ての端末が圏外を表示しており、誰一人として外部との連絡を取れたものがいない。 よって、現状を知るために彼らにできることは、都市に隣接していた陸軍駐屯地から飛び立ったヘリによる偵察結果を無線で聴くことだけ。 そこから伝えられた状況は極めて不可解ながらも、自分たちの視界に映っているのが、どう見ても巨大な室内としか思えないものであったことから、事実として受け入れるほかなかった。 自分たちは巨大な部屋にいる。もしくは、普通の部屋で小さくされている。 どちらにしたって自分たちの知る科学では理解できるものではないが、スマホの電波が全く入らないことから、小さくされて電波を拾えなくなったと考える方がまだ説明が付きそうだった。 だが、そんな彼らでも確実に分かることは、恐らくこの部屋の主なのだろう体操服姿の女子高生が室内に一人いることと、彼女が歩き回るたびに足元では凄まじい被害が出ていること。 そして、彼女がそれを楽しんでいることと、自分たちが見逃されるはずもないということも、嫌でも分かってしまう。 なにしろまさに今、彼女は自分たちを見下ろして楽しげに思案しているのだから。 「これが一番大きなビルかな? おぉ、指の第一関節くらいまであるじゃん! 凄〜いっ♪」 都市中心部に聳え立つ高さ291メートルの複合型超高層ビルの真横に楠葉が人差し指を突き立てたことで、さっきまでそこに存在していた高層ビル3棟が瞬時に捻り潰されて地中深くまでその残骸を埋め込まれる。 遠目から見ているだけでも彼女がどれだけ巨大な存在かは分かっていたつもりだったが、こうして見慣れた人体の一部と、同じく見慣れた建物とを比較されてしまうと、その絶大な存在を改めて痛感させられてしまうのだ。 今だって指を押し当てただけだというのに、ビル内部で息を潜めていたオフィスワーカーたちが数千人、もしかしたら一万人を超えてその犠牲になった可能性がある。 その行為は外観に可愛らしい要素が残っているものの、無抵抗の民間人に対する虐殺に他ならないものであり、軍隊による攻撃を開始する理由には十分過ぎるものだ。 楠葉が床に存在していた街並みを踏み躙って遊んでいるときから備えていた陸軍は、ようやく射程に入ってくれた楠葉の指先に対する戦車と迫撃砲による砲撃、また頭部を狙った戦術弾道ミサイルを立て続けに発射する。 狙った的が巨大であることも手伝って、それらの攻撃は当然の如く予定したポイントに着弾し、同じく予定した数の爆発を引き起こしてそれにダメージを与えた。 「ん、あれ? いま何かしました、よね……? よく見えなかったのでもう一回やってくれませんかぁ〜?」 数百を超える砲弾の雨を受けた人差し指。 地下施設破壊用の強烈な炸薬を搭載した弾道弾の直撃を受けたほっぺた。 軍隊からの攻撃されているらしいことは何となく察しているものの、注視していなかったことでどこから攻撃されたのかはよくわからなかった。 楠葉のお願いを聞き入れてくれたのか、そもそも第二次攻撃を予定していたのかは不明だが、改めて陸軍による攻撃が行われたことでようやく彼らが超高層ビルから直線で20センチほど離れた場所にある空き地が軍隊の駐屯地なのだと気が付く。 「あ、場所OKで〜す。……じゃあ、ほら、こうしたら戦いやすいですよね?」 楠葉は容赦なく体操着に包み込まれたおっぱいを机にドンと乗せる。 数千の建物を叩き潰し、同じく数千の道路を寸断し、地下を走っている鉄道網などは大地ごと陥没させて瞬時に埋め尽くしてしまうのだ。 更にはそれをグイグイと押し付けながら前方に滑らせることで、逃げ惑う人々を何万人も轢き潰し、地方都市であれば壊滅させただけの大災害をもたらすのだ。 軍事基地の手前数百メートルでようやく停止したおっぱいは、山すら突き崩すだけの圧倒的な質量でそこに鎮座する。 「遠慮しないでいいんですよ〜。目とか首とか心臓とか、なんかその辺りとかを狙うのがオススメですっ♪」 クソデカおっぱいによる蹂躙がもたらした衝撃だけで展開していた軍隊はその3割程度の兵器が使用不能になったものの、それでも弾薬はまだ十分。 残った戦力を投入しての砲撃が体操服越しのおっぱいに直撃するものの、破壊することは愚か、それを揺らすことも叶わない。 そんな様子をジーッと見つめていた楠葉は、何か面白くならないかと期待をしていたものの、十数秒間それを眺めても何の状況変化も起きないことにため息を漏らす。 「寮の水圧弱々の残念シャワーの方が全然マシじゃん……。多分、君たちもこれが無意味だって気付いてますよね? 一応は人間なわけですし。どう見たって私を倒せないってこと明らかじゃないですかぁ〜」 戯けた口調でそんなことを言いながら、楠葉が上半身を持ち上げると、軍隊では何もできなかったクソデカおっぱいが当然のように動き出す。 そして、空に浮かんだおっぱいはそのまま遥か先へと飛び去り、代わりに上空にやってきたのは、先ほどと同じ体操服に包まれた腹部だ。 女の子らしく柔らかな脂肪を備えたそれが都市上空で停止したとき、ようやく人々はこの大都市が女の子に覆い被さられたのだと理解した。 「ふふっ、そろそろ移動しないと体育の授業に遅れちゃうので、最後にお別れのハグしてあげようかなって思いましてっ♪」 おっぱいが飛び去ったことで目標を失った軍隊は、慌てて残っていた弾道ミサイルの垂直発射を行なったものの、重力によってわずかに垂れた体操服の皺を伸ばすことすらできず、その様子を見ていた楠葉を小さく失笑させるだけの結果に終わった。 都市の人々にとって軍隊の存在は微かな希望であったはずなのに、こうしてそれが無力だと思い知らされてしまうと、もはや絶望しない方が無理な話。 そんな人々の中にも、諦めることなく逃げ惑うものもいれば、屋内に退避することを選ぶものもいて、楠葉に対して跪いての命乞いをするものや、家族と抱き合って震えるものもいる。 「いきますよぉ〜。……ぎゅ〜、っと」 人々の反応は確かに多様であったが、その誰もが周囲の建物ごと女子高生の全身に押し潰されて原型すら留めることがない。 体操服越しに大都市を押し潰す感触を堪能する楠葉は、そのまま身を捩って体を机に擦り付け、更には左右に大きく振るなどして都市を隅々まで破壊するのだ。 あれだけ堂々と聳えていた超高層ビルですらも瞬時に粉砕されてしまうのだから、それ以外の建物が無事で済む道理などあるはずもない。 300万人をこえる人々とのハグを終えた楠葉が立ち上がってみれば、机の上に存在していた綺麗な街並みはもう跡形も残っていないのだった。 「これでよし! 蹂躙させてくれてありがとうございましたっ♪」 そんな感謝の言葉と共に瞳を閉じて、大都市をもとあった場所へと送り返す楠葉。 体操服や靴下、上履きに付着した汚れもついでに送り返しておいたので、楠葉の全身は綺麗な状態を取り戻す。 間も無く昼休憩を終えることを告げるチャイムが鳴り出し、楠葉はそっと部室を後にすると、軽い足取りで体育館へ向かうのであった。 〈終わり〉