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知見を広める異文化交流(後編) 2/2

人口二十万人の小さな町は混乱の渦中にあった。 国を貫くように作られた国道沿いに発展したその町は、地平線の遥か彼方で行われている殺戮劇をまざまざと見せつけられたのだ。 長身ながらも女性らしさを強烈に主張する肉体の持ち主は、まるで幼子のように楽しげに人々を蹂躙していた。 彼女が大地を手で叩くたびに凄まじい激震がここまで届くのだから、その直撃を受けただろう場所がどのような被害であるかなど考えるまでもない。 これまで経験したことのない、それどころか想像したこともないほど無慈悲な殺戮を嬉々として繰り返している少女は、ごく短時間のうちにそれを終えたらしい。 立ち上がった少女が頭を振って髪を靡かせるのは扇状的ですらあったが、それは二百五十万人が暮らす大都市が使い尽くされたということだ。 それに比べて遥かに小さな自分たちの町など、文字通り一瞬で消し去られてしまうだろう。 全長二千八百メートルの巨足を踏み出すことで生じる地響きは、矮小な人々の心を押し潰すには十分な威嚇力を備えていたが、それすらも彼女にとっては無意識のものなのだ。 「なんだ、次は雑魚か」 シャルは行手に見える小さな町を見下ろして小さなため息をついた。 先ほどの大都市ですら満足にはほど遠い玩具だったというのに、それよりも数段小さな町などでは楽しめそうもない。 だから一撃で踏み潰してやった。 長い脚を高く持ち上げ、町の中心部に向けて全力で振り下ろしてみると、スニーカーの靴底が直接触れなかった周囲一帯にも衝撃波が広がる。 二十万の人々が逃げ惑っていた町は彼らの命共々消し飛ばされ、一つのクレーターが残るばかりになってしまう。 女の子の足踏みは、隕石の落下に等しいエネルギーを容易く生み出してしまうのだった。 「適当に潰しちゃってごめんね。私に遊んで欲しかったら頑張って町を発展させておいて」 そんなすげない一言を二十万人の亡骸に添えたシャルは、顔を持ち上げて少し先まで視線を伸ばしていく。 自分が進む先には今しがた踏み潰したのと同じ程度の町が数キロおきに点在しており、それらを一本の道路が繋いでいる。 だいぶ視線を進めた先にようやく楽しめそうな大都市、おそらくはこの国の首都が広がっているが、それまでは余りにも退屈な景色が続いておりシャルを落胆させた。 「本当につまらない国ね。……あ、でもいいこと思い付いた♪」 ニンマリと笑みを浮かべたシャルロットが再び歩き出す。 その気になれば足元の小さなものを無視して、ほんの数秒でこの国の首都まで踏み入ることができるというのに、わざわざ寄り道をすることにしたのだ。 人間が一時間かけて歩く距離の倍以上を一歩で移動したシャルは、小さな町のすぐ手前で立ち止まる。 手前、というのはシャルから見た感覚であり、次に犠牲となる町に暮らす人々からすれば遥か彼方の距離に感じるだろうか。 満足に避難する時間もなかった彼らは、まるで瞬間移動するかのような超高速で接近してくる女の子に対して震えて立ち尽くすことしかできない。 常人の一万倍という大きさは、ただ存在するだけでも人々を畏怖させるのだ。 「ねぇ、私の靴を預かって頂戴」 膝を曲げて片足立ちになったシャルは、スニーカーの踵に手の指を滑り込ませると、スッと足を抜き出してしまう。 蒸れるのが嫌で靴下を履かなかったシャルの素足は、白い素肌の中でもとりわけ白い。 軽く湿っているのは彼女自身の汗によるものだが、本人が不快に感じることがない程度の僅かなものだ。 脱ぎ去ったスニーカーを適当に眼前の町に放り落とすと、ゴロゴロと転がりながら何百何千という家と雑居ビルを押し潰して停止した。山脈が転げ回ったのと同じだけの天変地異のような異常事態は、それだけで数万人の命を奪い去る。 そしてもちろん、靴は両方が揃って初めて意味を成すものであり、同じだけの被害をもたらしながらもう一方の靴も町を蹂躙した。 町の半分を消し去った少女の靴は、周囲に比較するものがないほどの巨大で横たわる。 運よくその災禍を逃れた住民たちは、見慣れたはずの町並みが白く巨大な何かによって分断されている光景に言葉を失う。 「んっ。外で裸足になるなんて久しぶり。なんか変な感じ」 久しぶりに素足から伝わるのはこそばゆい感触だ。 彼女の体重によって押し潰された大地がミシミシと沈み込むのは、夏にビーチで遊んだ時のことを思い起こす。 感触に慣れるためにしばし足をモゾモゾと動かすと、数秒のうちに違和感はなくなった。 顕になったシャルの足指は、その一つ一つが目の前の小さな町に存在する何物をも凌駕するほど巨大だった。 「じゃ、それ預けたからね。……あ、そうだ。それ綺麗に並べておいてよ。まだ一万人くらいは生き残ってるだろうし、そのくらいならできるでしょ」 そんな言葉を残して巨人は歩き去って行った。 生き残った人々は、自分たちの暮らす町に横たわる白い断崖に視線を向ける。 文字通り山のように巨大なそれは、どうやら先進国の女の子たちの間で流行っているスニーカーらしい。 その推定重量は四億トン。 世界最大のクレーンを使ったとしても、その靴紐一本すら持ち上げることもできない。 もちろん、人間など何百万人集まったところで一ミリたりとも動くことはないだろう。 それを二つ綺麗に揃えて並べるというのは、おそらく全人類が結託して行うような壮大なプロジェクトとなるだろうが、そうまでした結果が女の子用のスニーカーが並ぶだけというのは余りにも馬鹿馬鹿しい。 もはや不可能と断じてしまってもよいものだが、それでも生き残った人々はシャルの靴に殺到して懸命にそれを動かそうとしていた。 それは、情けないことに恐怖によるものだ。 ブロンド髪の少女が戻ってきたとき、靴が横たわったままだったら、自分たちは殺される。 シャルロットという少女がどれだけ理不尽な存在かを理解していた彼らは、誰が口にするまでもなくそのことを分かっていたのだ。 そして彼らはその残り少ない人生を、十四歳の女の子が脱ぎ散らかした靴を整頓するために費やすことになるのだった。 「お前たちにはパンツを預けるわ。……あはっ、もし出来るなら悪戯してもいいよ」 次の町を訪れたシャルは間髪入れることなく、自らの履くホットパンツに手を掛け、そのままスッと下ろして両脚を抜き出した。 シャルの大ぶりなお尻を守っていたデニム生地のそれは、シャル自身が手に持っても少し重く感じるほど。 そんなものが地表一万メートルを超える高高度から落下した衝撃は、人間たちの作ったあらゆるものを吹き飛ばすには十分な破壊力だ。 まだ人の温かさが残るそのパンツは、一万棟ほどの建物と六十万人の命を奪いながら地表に降り立ち、膨大な砂煙を高さ数キロに渡るまで巻き上げた。 少女がやってきて、服を脱ぎ、その場に放り捨てる。 そんな余りにも唐突な出来事に対して、シャルの足元にいた人々は死に至る瞬間まで状況を把握することさえできなかった。 厚い生地に守られていたシャルのお尻と股間部は、漆黒の下着がまだ覆ってはいるものの、それでも異性を劣情させるに十分な肉感を醸し出す。 その尻を揉んだ友達が言葉を失うほどのハリと弾力、柔らかさを両立させたそれは、持ち主が脚を踏み出すたびに揺れ動くのだ。 まさか人生がこんなにくだらない終わり方をするとは思わなかった。 この町に暮らす人々は、誰もが似たような感想を抱いたに違いない。 老衰、病気、事故、事件。 人の最期は大半がそのどれかによって幕を閉じるものだろう。 そんな当たり前のことに疑問を持つことなどこれまで一度もなかったし、なんなら考えたことさえなかったかも知れない。 ――――今日、あの女の子が現れるまでは。 彼女は最初に靴を脱ぎ、一つの町を押し潰した。 続けてデニムパンツを脱ぎ、一つの町を押し潰した。 そして、今、彼女はシャツの裾に手をかけて一気にそれを脱ぎ去ったのだ。 彼女が手に持っている半袖シャツはおそらくそれほど厚手のものではなく、むしろ下着の色が透けてしまうほどに薄いものだろう。 完全に無地で特徴のないそれをスタイルの良さを際立たせる道具にできるような人はそう多くない。 桁外れの大きさを除けば誰もが目を奪われるような美人が、自分たちを雲の上から見下ろしているのだ。 だが、彼女の浮かべる笑みに心惹かれる者などこの町には一人もいないだろう。 今から自分たちを無慈悲に虐殺する少女に対して抱く感情など恐怖しかないからだ。 誰があげたか分からない甲高い悲鳴が町中から溢れ出したのは、彼女の手を離れたシワくちゃシャツが落下を始めたからだろう。 軽い素材で作られたそれはゆっくりとしたペースで、それでも確実に自分たちをめがけて降り注いでいる。 どれだけ悲鳴をあげても、泣き叫んでも、逃げ惑っても、隠れ潜んでも、結局のところ結果が変わることはないのだろう。 女の子の悪ふざけ。 自らの人生がこんなにくだらない終わり方をするなど、誰一人として想像できるわけもなかったのだ。 「あ〜あ、女の子のシャツに潰されて死んじゃった。町ごと吹き飛んでる感じ? ……あはっ♪」 三つの町を犠牲にして行われたシャルのストリップショーは大観衆の注目を集めた。 その注目の理由が、女の子が服を脱ぐことに対するものなのか、脱衣ごとに数万から数十万人の犠牲者が生み出されることに対してなのか、それは人によって異なるのだろう。 だが、その全員に共有していることとして、シャルロットという少女がこの国の中枢である大都市、一千万人が暮らす首都に迫っていることへの恐怖がある。 この国の総人口の三割以上が集中した世界的にも稀な超過密都市は、急激な経済発展の影響を受けて歪な拡大を続けていた。 この国における人生とは、首都において先進国並みの賃金と生活を送るか、地方で数世紀前から変化のない農耕生活を送るかの二択しかない。 豊かさを求めて田舎から集まっていた人々は、自分たちの故郷が長身美少女によって蹂躙される光景を見せつけられ、恐怖と怒りが入り混じる奇妙な心境を抱いていたが、その長身美少女が下着姿で自分たちの目の前にやってきたことで急激に恐怖だけが膨らんでいた。 そして、シャルが自分たちを見下ろしながら意地悪そうに舌舐めずりをした瞬間、その恐怖は人々の限界を超えて狂乱を引き起こす。 これまで冷静に避難の列に並んでいた人々が、周囲の人々を押し退け、突き飛ばし、踏み付けてまで脅威から逃れようとする。 そんなことをしても意味がないことは誰もが理解していたが、生物としての本能が生存に向けて衝動的に体を動かすのだから仕方ない。 そんな無秩序な光景は都市のあちこちで見られたが、それを引き起こした本人の目に映ることはなかった。 残念ながら米粒よりも小さな生き物たちの諍いなど気づくこともできないのだ。 「あら、いい感じに広い町じゃない。このくらいなら遊び相手にしてあげてもいいかな」 足元に広がる小さな粒々を見下ろして眺めるシャルロット。 彼女の瞳に映るのは町という単位であり、それを構成する一つ一つの建物など高層ビルですらも特別なものには見えないのだ。 だからこそ、遊び場とするためにもしっかりと眺めておく必要がある。 彼女が腰に手を当てながら覗き込むようにして地表の町を見下ろすと、ブラの奥で強烈に存在を主張するおっぱいが嫌でも強調されてしまう。 もともと自慢のスタイルを見せつけるために露出の多い服装を好むシャルだったが、先ほどの大虐殺ストリップショーによって今は下着を身に着けるのみ。 本来であれば人目を引き寄せ異性に劣情を抱かせる女の子の半裸体も、狂乱の渦中を逃げ惑う人々には人類を滅ぼそうとする悪魔のようにしか写らないことだろう。 しばし大都市を見下ろしたシャルだったが、それに満足すると屈めていた腰を元に戻し、大量破壊兵器である自分の左足をそっと持ち上げる。 全長二千八百メートルにもなる長大な素足を見上げる人々は、その白く美しい素肌からこぼれ落ちる莫大な土砂だけでも悲鳴をあげて逃げ惑い、運が悪ければ降り注ぐ巨大な瓦礫に押し潰されて弾け飛ぶ。 「最初の一歩をどこにするか迷うわね…… この辺りなんてどうかしら?」 シャルが選んだのは都市の一角を占める繁華街だ。 いつもなら流行の最先端を求めて集まった若い世代たちで賑わうこの場所も、今となっては阿鼻叫喚の地獄絵図だ。 まさに今、この瞬間に自分たちを踏み潰そうとしているのは、自分と同じかそれよりも少し幼いほどの女の子なのだ。 山すら蹴散らすその巨足が降臨するのであれば、この繁華街を象徴する高さ八十メートルの商業ビルも、創業から半世紀の歴史がある大型デパートも、都市中心部から直通で乗り入れている地下鉄も、何もかもが一瞬のうちに消し去られてしまうことだろう。 何も残らない。 自分たちが作り上げてきたあらゆるものが、たった一人の女の子によって、いとも容易く踏み躙られようとしている。 そんな受け入れ難い現実から逃避するため人々は懸命に逃げ惑うが、人間の脚ではどれだけ懸命に駆けたとしてもシャルの足元から逃れるのは難しい。 「ま、なんでもいっか。……はい、どーんっ♪ ぐしゃぐしゃ〜っと」 空を覆い尽くすほど巨大な肌色の巨壁。 もはや大自然の一部と言っても良いほど巨大なそれが落下する光景は、不思議なことに緩慢なものに見えた。 もちろん、それは遠近感が適切でないことによる錯覚に過ぎず、実際には音を置き去りにするほどの超高速での落下だ。 そこに存在していた数千の雑居ビルを瞬時に叩き潰した足裏からは、シュッという軽い感触が伝わるのみ。 ついでと言わんばかりに足首を軸にしてグリグリと踏み躙ってしまえば、賑わいを見せていた若者の町は跡形も残らない更地となってしまう。 一瞬にして数万人の命を奪い去った少女は特に感慨に耽ることもなく、次の目標に向けて反対の足を持ち上げていた。 「次はその汚いところを掃除してあげるね」 シャルが汚いと表現したのは大都市の外れに位置する工場群だ。 この国の安い労働力をあてにして世界各国の企業が工場を作ったことが、この都市が発展した要因の一つでもある。 何も特別なことのない普通の日である今日も工場は当然のように稼働しており、上空一万メートルを超える高みから見下ろすシャルにでも見えるほどの排煙が次々と湧きあがっている。 それはつまり、数千数万の労働者たちがまだそこにいるということである。 繁華街を踏み躙った左足を軸にして、それと同じく全長二千八百メートルにもなる右足を持ち上げた少女は、その素足を工場群の真上に翳した。 繁華街と工場は直線で十キロ近くも離れているというのに、それは少女にとっては少し大股で足を踏み出す程度のことでしかないようだ。 当然のように空を覆い尽くす巨大な影は、地表を逃げ惑う人々にとっては未知の存在。 自分たちが働く巨大な工場ですらそれと比較すれば小さな消しゴムのようなものか。 だが、地表を踏み締めたことで砂汚れを多量に付着させているそれは、彼らにとって見慣れたものでもあるのだ。 ただ、大きさが違うだけ。 長身美少女の汚れた足裏が飛来するのを察知しても、人々にできることは何もない。 せいぜい自分の人生を振り返り、満足するか後悔するかを選ぶくらいのこと。 しかし、残念ながら一秒に満たないほどの短時間で思い起こせることなど多くなく、彼らの大半は無意味に終わる自分の人生に価値を見出すことは叶わなかった。 ペタリ。 勢いを殺してそっと大地を踏み締めたシャルロットの足裏に、大きな工場をまとめて何棟も踏み潰したことによるクシュっという感触が伝わった。 それは一瞬だけで消えてしまう程度のものでしかなかったが、確かに数千人が毎日一生懸命に働いている職場と、働いていた本人たちを消し去る感触だ。 再び足を持ち上げては、最初の足跡の隣に降ろす。 そして更に同じことをもう一度。 数秒のうちにシャルが大地に刻み込んだ三つの足跡は、都市の発展を支えた大規模工場群に取って代わり、その場にくっきりと存在している。 「おっけー。アホな劣等国民どもによる環境破壊を食い止めてあげたわ。……どうでもいいけど♪」 大股で脚を開く少女はその足元に無数の建物を捉えている。 その一つの雑居ビル、そこの屋上で呆然とシャルロットを見上げる者がいた。 遥か頭上に広がるのは若々しい肉感と、女性らしい丸みを帯びたお尻だ。 黒い下着をビッチリと盛り上げているそのお肉は、空に漂う雲すらも超えた高みに存在している。 本来であれば若い女の下着姿を見ることで生じるのは欲情くらいなものだろうに、不思議とそれを見上げていてもそんな感情が湧き上がらない。 あまりにも非常識なほど巨大なそれに対しては、色欲よりも畏敬の念を抱いてしまう。 まるで雄大な山脈を見上げるかのような情景に心が奪われているのだ。 だからこそ、女の子の意地悪な笑い声とともにそれが落下を始めたとしても、それが自分の最期になることを理解したとしても、平然とそれを受け入れることができたのかもしれない。 「ちょっと失礼」 長い両脚をゆっくりと曲げながら腰を屈める少女は、今から自分の尻で押し潰してしまう町並みを見下ろしてニヤニヤとした笑みを浮かべている。 それすらも平常心で受け止めることができてしまったのだから、自分という存在はもはや自我を失ってしまったのだろう。 シャルの尻に押し潰されたことによる犠牲者は直後には十万人程度だったが、尻を叩きつけた衝撃波が周囲に伝播することでその数は加速度的に増えていく。 大地を地殻ごと破壊した衝撃は地表に連なるあらゆるものを吹き飛ばし、遥か天高くまで巻き上げては砂煙に変えてしまう。 シャルの体感で直径一メートル、実際には十キロにもなる巨大なクレータが穿たれたことによって、一万を超える建物とその数十倍の人間が死滅してしまった。 正確な犠牲者の数など何年かけて調査したところではっきりとはしないだろう。 十四歳の女の子が座り込むことは、人類史に残るだけの大破壊であり、そして大虐殺であった。 「あはっ♪ なにこれ弱過ぎっ♪ ……まー、ここからが本番なんだけどさ」 大地に直接座り込む少女は口元を手で隠して小さく笑う。 あまりにも貧弱で惨めな生き物たちに対して抱く優越感が、シャルの口元をだらしなく緩ませているのを無意識に隠していたのだ。 そのまま徐に体勢を変えていくシャルロットは、数えきれないほどの雑居ビルと住宅、マンションやアパートといった都市の居住空間を素肌で磨り潰しながらその長躯を大地に横たえる。 左半身を上にして寝転んだ彼女は、頬杖をつきながら眼下に広がる都市中心部を見下ろす。 「美女に添い寝してもらう気分はどう?ふふっ」 シャルロットの巨体によって生み出された女体の壁は巨大なものだ。 高さは優に三千メートルを超え、それが十八キロに渡って続いているのだ。 彼女がちょっと意地悪をして足首を曲げて足をピンと伸ばしてみれば、それだけでも壁の長さは一キロ以上も延長される。 人類が同じだけの壁を作り出すことは、おそらく数世紀という途方もない年月と、試算することすら馬鹿馬鹿しいほどの予算をつぎ込むことが必要だろう。 シャルが思いつきで寝転んだだけのことであるが、人類がそれを再現するのは、事実上、不可能であった。 「まぁ、嬉しいわけないか」 クスクスと笑いながら都市中心部に左手を差し伸ばしていく。 目当てにした超高層ビルの真上に手を翳すと、その中から人差し指だけを伸ばしてビルの屋上に押し付ける。 長さも、太さも、質量も。 大都市が誇る超高層ビルは女の子の指先と比較して何一つ勝るものはない。 指先はビルの屋上から地下施設までを内部に残っていた数百人の命と共に一瞬にして捻り潰し、その場所に取って代わるかのように鎮座した。 肌色をした巨塔は、ただ存在するだけで周囲のビル群とその内部で恐怖する人々を威圧するかのようであった。 「ほら、見てよ。私の指ってこんなに大きいの。どんなものだって壊せるのよ」 高層ビルを一瞬で捻り潰した指を大地から抜き出すと、周囲に立ち並ぶビル群に向けてピンっと奮ってみる。 直撃を受けた高層ビルが粉々に砕け散るのはもちろん、その背後に隠れていた雑居ビルまでもが凄まじい暴力によって生み出された爆発のような空気の流れによって倒壊してしまう。 あまりにも圧倒的。 少女が指先を動かすだけで都市の象徴たるビルが吹き飛び、数千の人命が失われてしまうのだ。 そして、その絶対的な暴力は無慈悲に、それも無制限に自分たちに向けられている。 そんな事実を思い知らされた人々が涙を流すのも自然なことだった。 「私がどれだけ強大な力を持っているか理解できた? それと比べてお前達はどう? 矮小でくだらない存在だと思わない? 私にはお前たちが塵くらいの価値しかないように見えるけど、それって間違ってないでしょ?」 シャルの言葉を理解できる人間はこの都市には存在しない。 あまりにも巨大する存在が発する言葉は、彼らの小さな鼓膜では聞き取れないのだ。 降り注ぐ女神の声に対して彼らができることと言えば、自らの耳を塞いでその場にしゃがみ込むことだけ。 文字通りの言葉の暴力から生き残るためにはそうするしかなかった。 「でも、私は優しいから無価値なお前たちに存在理由を与えてあげる」 シャルの一方的な宣告の直後、大都市に暮らす人々は凄まじい地鳴りによって地に這い蹲ることになる。 その地鳴りは先ほど少女の柔尻によって大地が抉り取られたものと同等だったが、徐々にそれすら上回る強震へ変わっていく。 人知を超えた激震は大陸を数メートルも移動させる程のものであり、その影響下に存在するほとんどの人工物を倒壊させてしまうほど。 ほんの数秒で数百万の建物と一千万を超す人々が暮らしていた都市は灰塵に消える。 辛うじてそれを耐え抜くことができたのは、ここ数年で建造された超巨大ビルが数棟だけ。 そのビルの中で震えていた千人にも満たない極々少数の生き残りは、自分たちの身に何が起きたのか理解できていなかった。 彼らが恐る恐る視線を向けるのは、先ほどまで広がっていた巨大な女体山脈だ。 こんな非常識なことを引き起こせる存在など、この星には彼女しかいないのだから、それに原因を求めるのは当然のこと。 だが、そんな考えを持っていた生存者たちは、先ほどまでと似て非なる光景に絶句する。 巨大な女の体が横たわっていることは変わりないが、それが目の前まで迫ってきているのだ。 視界の全てを覆い尽くしてしまう肌色。 先ほどまでは僅かながら青空が視界の一部に残っていたのに、それすらも消えている。 それは身長十八キロの少女が、寝転んだまま身長百八十キロまで大きくなっただけのこと。 シャルにとっては呼吸をするのと同じくらい当たり前のことであったが、もはや砂粒よりも小さな普通の人間にとっては想像の領域にすら存在しない超常現象だ。 自然に作られた山など吐息で消し飛ばしてしまえる少女は、小さな国であれば一撃で叩き潰してしまうような巨大な手で自分の腹部を撫で回していた。 ゆったりと手が動くたびに薄く付いた脂肪が形を変えるが、人類が核兵器を使ったとしても同じ光景は再現できないことだろう。 それは相対的に小さめの座布団と同じサイズまで矮小化した大都市のちょうど正面で行われている。 「ねぇ、私のお腹って引き締まって見えるでしょ。最近ようやくトレーニングの成果が出てきたところなの。……ここを特別に触らせてあげるから、その代わりにお前たちは一生懸命に逃げ回って、精一杯に声を枯らし泣き叫んで、全てを投げ打って命乞いをして、みっともなく生き残ろうとしなさい。そんなお前たちの努力を全部まとめて押し潰してあげる♪ 無様な最期で私を楽しませて」 数分前まで一千万人が普段通りに生活を送っていた大都市は、もはやその面影を感じることさえできないような瓦礫の山と化している。 立ち並んでいた高層ビル群はもちろん、大勢が避難所としていた学校や公民館といった大型施設、重要施設の地下に作られたていた対核シェルターすらもシャルが巨大化する過程で無数の人間を飲み込みながら崩落していた。 瓦礫の奥に耳をそば立てたとしても呻き声すらしないのだから、もはやここは人類が生存できる場所ではないのだ。 そんな大地に残されている生存者たちは、もはやそこにいること自体が奇跡なのだ。 だが、彼らは再び始まった凄まじい地鳴りによって飛び上がり、その場に打ち据えられた事による激痛で動けなくなってしまう。 今から天地が入れ替わるのだ、と言われれば信じてしまいそうな大地震。 その正体が、だらしなく横たわる女の子がうつ伏せになろうとしているだけだと理解できるはずもない。 「あはっ♪ こんな簡単に大虐殺してるなんて、考えるだけでゾクゾクしちゃう!」 若い少女の甲高い笑い声。 それが奇跡的な生存者たちにとっての最期の記憶となった。 最初の被害はシャルの肩口からこぼれ落ちたブロンドのロングヘアーによるものだ。 一本が太さ五メートル、一般的に大樹と呼ばれるような巨木すら上回るそれが数万もまとめて地表に降り注ぎ、そのまま地を這うように伸びていくのだ。 それを遠く離れて観察することができれば、黄金の濁流が全てを飲み込んだと表現することができたかもしれない。 人工物の残骸をまるで存在していないかのように消し飛ばし、あまつさえ山脈を突き崩してしまうほどの勢いで人類の生息圏を蹂躙した彼女の美髪。 髪が揺れ動いたことでそっと香るのは、シャルが好んで使うシャンプーの匂いだ。 空間を暴力的に支配し、そこに存在していたあらゆる匂いを上書きしてしまう。 仮に彼女がこの場を立ち去ったとしても、この匂いの自然拡散による消滅には長い年月が必要となることだろう。 それだけでも、ちっぽけな生き物たちにとっては経験したことのない大災害だが、その直後に訪れた巨大おっぱいによる蹂躙に比べれば可愛いものだった。 同年代の平均などとは比較する意味がなく、ようやく比較できるのがスーパーモデルのそれという、シャル本人にとっても自慢の巨乳だ。 指先で突けばどこまでも沈んでしまう脂肪の塊は、漆黒のブラに押し込まれていることが不満だったのか、人類では再現不能な圧倒的暴力で大都市の残骸を叩き潰した。 シャル自身の体重によって大地に押し付けられた乳房は、その柔らかさを再現に活かし、ブラを限界まで押し広げるようにしながら大地に直径三十キロを超える巨穴を穿つ。 もし仮に、この大都市が十全に残っていたのであれば、それだけで百万を超す人間を葬り去っていたはずだ。 そして胸を大地に擦り付けるように動かしてみれば、その数は加速度的に増えていく。 長身少女のパイズリは人類史に残る大虐殺となるのだ。 「んんっ♡」 だが、少女がそんな上擦った声を上げたのは胸を押し付けたときではない。 自慢のお腹を擦り付け、小さな大都市を敏感な素肌で磨り潰したときだ。 もはや想像の域を超えた超重量によってその場を制圧したフニフニのお腹は、砂浜に寝転ぶのと同じ感触をシャルに与えていた。 大都市の中に辛うじて残っていた建造物の一つは、地表百五十メートルの高さに展望台を有する巨大なものであったが、その程度のものは今のシャルにとっては砂粒のようなもの。 押し潰した、という認識を持つことが難しいほど矮小で貧弱な存在なのだ。 当然、その建物の中で泣き叫んでいる人間など、どれだけ目を凝らしたところでその輪郭すら判別することができない。 仮にシャルロットの耳に彼らの悲鳴や命乞いが届いたとしても、それは彼女の口元に浮かぶ笑みを少し深くする程度のことでしかないが。 うつ伏せに寝転んだシャルが息を吐き出してみれば、締められていた腹部の筋肉が緩み、柔らかいお肉が大地をべっとりと一キロ近くも沈め込んでしまう。 さらにそのまま体を時計回りに腹部のお肉で大地を擦り回すと、それに合わせて大陸全土が揺さぶられた。 シャルが全身での磨り潰しを楽しんだほんの数秒間で、遥か彼方まで行き渡った衝撃によって人類は急激にその数を減らしていた。 七億もの人類がそこに住み暮らしている大陸は、彼らが脈々と受け継いできた数万年の歴史と共に、この瞬間から一人の少女のベッドになった。 当然、細菌のような存在が少女と同じベッドで寝ることなど叶うはずもない。 絶対的な暴力によって大陸の正当な所有者となった少女は、自らの肉体で一つの国を滅ぼしたことに充足感を覚えつつ、仰向けになって寝転んでいた。 「ふふっ、ついに国の単位で滅ぼしちゃった♪ ……次はどの国に行こうかな。あの生意気な猿真似国家に身の程を教えてあげるのがいいかしら」 下着姿で両手脚を投げ出し寝転ぶ長身少女。 その口元から紡がれた言葉は、人工衛星によって映像になり、読唇術によって一般人類の知るところとなった。 だが、それを知ったところでなんだというのか。 人間にできることなど、せいぜいシャルが来ないように祈ることだけだ。 そんな全世界の人々の切実な願いをいつでも気まぐれに踏み潰すことができる少女は、堀深の顔に楽しげな笑みを浮かべるのであった。


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