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ヘンリクト
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庭園

庭園。 人の手によって作り出されたその空間は造形美のみで人を魅了する。 生い茂る草木の生命力と咲き誇る花々の美しさは季節によってその姿を変え、一年を通じて飽きさせることがない。 都心部の郊外に佇む大きな屋敷には、その威厳に相応しいだけの庭園が備わっているが、そこに足を踏み入れることが出来る人間は限られている。 その数少ない内の一人である織絵は、有名私立高校のセーラー服に身を包みながら気の向くままに庭園の散策を楽しんでいた。 「ねぇ沙羅、この花の名前はなんていうのかしら?」 以前の散策では見かけなかった青い花を見つけた織絵は、自分から二歩離れた距離で付いてくるメイドに話題を振る。 沙羅と呼ばれた少女は自らの主が興味を示している花に視線を向けるが、植物に精通しているわけでもない彼女には名前など検討もつかなかった。 「さぁ? 沙羅は存じません。たぶん、タンポポとかそんな感じのやつかと」 「そう。貴方に教養を期待した私が愚かでしたわ」 「あ、またそういう悪口を言います? 学校サボっていること奥様にバラしますよ? あと私との主従を超えちゃった関係とかも。いいんですかぁ~? 屋敷での一人暮らし辞めさせられちゃうんじゃないですかぁ~?」 「…………貴方、少しくらいは私に対して敬意を払いなさい」 「はいはい、他の人がいるときはそれっぽく振る舞ってあげますって。……あ、ほら、お嬢様のお目当てが居ましたよ」 沙羅が指差す先は刈り揃えられた芝生があるのみで、目新しいものはないように見える。 だが、目の焦点を併せてじっと見つめれば違和感を覚えることができる。 極小の何かが蠢いている。 芝生の草の合間を縫うようにして動くそれについては、正体を知っている彼女たちであるからこそ蟻と見分けることができた。 極小種の小人。 その体長は1センチにすら達することはなく、最も大柄な個体でも4ミリ程度。 人間と類似した姿形と多少の知能を有する小人は、その貧弱な肉体でありながらも繁殖力を進化させることで莫大な子孫を残し、今日まで生きながらえてきた。 織絵たちが暮らす屋敷に付属するこの庭園には数年前から小人たちが住み着き、各所に自分たちの村を作り上げている。 こうして散策していれば、特別に探そうとしなくても小人の村を見つけることができる。 今回、沙羅が見つけた村はそれほど大規模ではないが、それでも一万匹ほどの小人によって構成されているものであった。 「あら、本当ね。ふふっ」 織絵が浮かべる笑みには意地悪な感情が隠しきれないでいた。 茶色の革靴を履いた足が散策用の舗装路から踏み出されると、綺麗に刈り揃えられていた芝生が踏み躙られ足跡が残る。 身長160センチの平均的な体躯の女子高生が無意識に行う歩行だが、芝生の影に隠れてしまえるほど小さな小人たちにとっては災害のようなものだ。 彼女が一歩踏み出し接近するたびに、小人たちは怯え泣き叫ぶ。 あまりにも矮小な彼らの平均寿命は一年に満たず、満足な文字記録も発明されていないため、人間との邂逅について知識や経験を持つものはほとんど居ない。 だからこそ、こうして人類と邂逅するたびに未知の巨大生物として認識して怯えることしかできないのだ。 そんな小人たちの反応は織絵の心の奥底にある嗜虐心を駆り立て、無意識の内に足を踏み鳴らすような歩き方を取らせていた。 織絵が草葉の陰に潜むように作られた小人たちの村の外れに到達すると、その巨体が生み出す影が村のほぼ全域を飲み込んでしまう。 「ごきげんよう、とても小さな小人さん。私の屋敷になにか御用かしら?」 小人たちに出来ることはただただ呆然と少女を見上げることばかり。 中には声を張り上げて彼女との会話を試みようとする者もいたが、悲しいことに数ミリの体長から生み出せる声量はあまりにも貧弱で、織絵の耳に彼らの声が届くことはない。 巨大な少女とのコミュニケーションは常に一方的であり、自分たちの懇願が彼女に伝わることはなく、仮に伝わったとしても織絵がそれに耳を貸す理由もない。 圧倒的な肉体の違いをまざまざと思い知らされた小人たちは、次第に不穏な空気を感じ取り始め、生物としての本能が危険を訴えだす。 「あら、私の言葉を無視するなんて酷い人たちですわ。……そういう態度をとるのでしたら、私も相応に対応いたしますわよ」 最初の一歩は当然のように繰り出された。 小人たちには全体像を捉えることすら難しい、日常生活において対面することもないほど巨大な黒塊が空を覆い尽くした。 地表を這い回るだけの小人からは太陽の光に隠れてうまく見えないが、黒塊には波状の文様と23,0という数値が刻まれており、女子高生の足を守る役割があった。 小人たちが草木で作った住居が何十軒もまとめてその下敷きとなり、一瞬たりとも持ち堪えることなく靴底の下へ消えていく。 あまりにも短い刹那の時間で行われたそれによって、悲鳴を上げる暇もないまま数百人がその生涯を終え、土と混ざり合って消滅してしまう。 女子高生が意地悪に村へ一歩足を踏み入れただけで、小人たちの平穏な生活は文字通りに踏み躙られることになった。 「これで理解できたかしら。……私がやろうと思えば、貴方達が作ったこのゴミ溜めなんて一瞬で掃除してしまえるの。 たくさんの犠牲者が出たことだし、貴方たちも考えが変わったのではなくて?」 小人たちは目の前で起こった惨事を嘆くばかり。 つい数秒前までそこに普段と変わらず存在していた光景が、今となっては巨大な革靴に置き換わってしまった。 あれの下にどれだけの人が巻き込まれているのかは想像もつかないが、そのうち一人たりとも生存していることはないだろう。 学校をサボって散歩している女子高生の気まぐれで引き起こされた大虐殺。 絶対的な体格差によって行われる抗いようのない虐殺に対し、小人たちは自分の無力さに言葉を失っていた。 「ふふっ。まだ犠牲が足りないみたいですわね。では、もう一度」 今しがた数百人を踏み潰した足を軸にして反対の足を持ち上げる。 今度は脚を少し伸ばして村を跨ぎ越し、反対側を踏み潰してあげた。 意識的に体重を乗せたことで、足が踏み降ろされたことによる衝撃は先ほどの比ではなかった。 小人の村全体を揺るがすほどの激震が駆け回り、人々をその場で転倒させる。 女子高生に村ごと跨がられるような状況になった小人たちは、頭上ではためくセーラー服のスカートと薄水色のパンツが新たな空であるかのように感じていた。 織絵が意地悪に微笑みながら踏み降ろした足をグリグリと捻ることで、被害は当初の何倍にも膨れ上がり、靴底が芝生をねじ切る不快な轟音が小人たちの恐怖を煽る。 「これで千匹くらいかしら? 考えを改めるには十分ではなくて? ……死にたくないなら心から私に侘びて命乞いなさい。勝手に敷地に入ってごめんなさい、無視してごめんなさい、どうかこの虫ケラを許してください、そんなふうに懇願されれば私も無下に扱うつもりはないわ。もちろん、態度も改める必要があるのは言うまでもないことよ」 実際には小人たちの言葉など聞こえるはずもない。 だが、それでも自分の股間の真下で何千もの小人が必死に助けを求め、遥か頭上を覆い尽くすパンツに向けて土下座していると想像するだけでも心が浮かれてしまうのだ。 彼らがどれだけの言葉を尽くしたとしても、その運命が変わることはない。 ただただ、小さな生き物の尊厳を踏み躙ることが楽しくてたまらないのだ。 「お嬢様は小人を虐めているときが一番楽しそうですよね~。自分で性格悪いと思わないんですかぁ?」 声のするほうへ振り向くと、いつの間にか隣までやってきていたクラシカルなメイド服に身を包んだ沙羅が佇んでいた。 年齢も体格もほとんど織絵と同じくらいであったが、決定的に異なるのがそのブロンド髪と透き通る青い瞳である。 西洋の血が色濃く混じっているのか、紫紺の髪と漆黒の瞳を持つ織絵とは対称的である。 美人メイドさんはその場でしゃがみ込み、主のスカートをペロッと捲りあげながらその内側に閉じ込められている小人たちに視線を落とす。 「小人さんに朗報で~す。お嬢様って小人を蹂躙して虐殺するのが大好きな人なんで、どんなに命乞いしても助けて貰えませ~ん! 残念でしたっ☆」 「沙羅、止めなさい」 「あ、お嬢様が不機嫌になっちゃう! 小人さん、それじゃバイバイ! 残り何秒かの人生を楽しんでね~」 摘んでいたスカートの裾を離すと、大地に広がっていた極小の世界は少女のスカートに遮られることで沙羅の視界から姿を消した。 しゃがみ込んでいた沙羅が立ち上がると、顔を少し赤らめながら怒っている様子の主がなにか言いたげな表情を浮かべていたので、先手を取って互いの唇を合わせることで黙らせておいた。 「ほら、あんまり長いこと怖がらせると可愛そうですよ。サクッと始末しちゃいましょ、サクッと!」 「………………」 「あー、その、続きはベッドの上でしてあげますから。そんな物欲しげな顔しないでくださいよ。なんか沙羅が悪いことしたみたいじゃないですかぁ~」 「………………嘘だったら許さないわ」 「嘘なんかつきませんよ~。沙羅はお嬢様のこと大好きですよ~。……ね、それより小人ですよ、小人。お嬢様の足元にまだ何千匹も残ってますからね! これ思いっきり踏み躙ったら楽しいですよ~」 少女たちの楽しげな会話は小人たちの元へ降り注いでいた。 あまりにも非現実的で無慈悲な会話であったが、それが彼女たちにとっては容易いことであるのは明白であった。 女子高生の革靴で踏み潰されたことで村の3割程度がすでに消失し、死傷者の数を把握することすら困難という災禍にあっても、小人たちは生存を諦めず村を捨てて逃げ出していた。 だが、遅い。 織絵や沙羅と比較して5百分の1という極小の彼らでは、どれだけ懸命に駆けたところで彼女たちの脅威から逃れることは叶わない。 事実、最も素早く避難を開始していた小人はメイドの履くパンプスによって無残に踏み潰され即死し、彼と正反対の方向を目指していた者は女子高生の革靴で踏み潰されて泥と混ざりあった。 百合少女たちはお互いの手を絡め合いながら、それぞれ遙か高みから美しい顔で小人たちを見下ろしていた。 「逃げ出してるの踏み潰しましたよ~。ほら、沙羅のパンプスに踏み潰されるのが怖くなったから、今度はお嬢様の方に向けて走ってますよぉ~」 「単純な生き物ね。見ていて滑稽だわ」 少女たちは互いの手を取りながら地面を這い蹲る虫けらを退治していく。 村の外周部からゆっくりと内部へ侵略する革靴とパンプスは、質量を持った嵐の如く村を蹂躙し、人も住居も区別することなくその下敷きにして葬り去る。 少女の体重が叩きつけられることで生じる振動によって小人たちは歩くこともままならず、その場で震えながら少女によって処刑される瞬間を待つばかり。 最期の力を振り絞って奏でた悲鳴でさえも足音に掻き消されてしまい、彼らの生きた痕跡は何一つとして残らなかった。 「ふふっ。女の子の悪戯に怯えながら靴底で踏み躙られて死ぬなんて、小人に相応しい無様な最期ね。私に屠られるならまだしも、使用人の沙羅に踏み潰されるなんてとっても惨めなことよ」 「あ、職業差別ですか? メイドは小人を踏み潰しちゃいけないんですか? あ~、なんか傷ついちゃったな~。 転職しちゃおっかな~」 「…………ダメ」 織絵が大きく足を踏み出して沙羅の足元にいる小人を踏み潰す。 そのまま踏み出した脚を軽く持ち上げると、メイド服越しに沙羅の股間部へ膝があたる。 ヒャッ、というメイドの可愛らしい悲鳴が聞こえると、次の瞬間には織絵がメイド服の袖を引っ張って、二人してその場に倒れ込む。 どちらのスタイルに優れる二人の脚が絡み合う様子は扇情的ですらあったが、それを目にするものはここにはいない。 もつれ合う二人の肉体が芝生の上に横たわったことで、奇跡的に生きながらえていた小人たちがセーラー服とメイド服にシミとなって完全に消滅したからだ。 小人の村があった場所には、美少女二人が抱き合うように寝転んでいた。 「あ、あの、お嬢様。服が汚れてしまいますから、ね? 屋敷に戻ってからに……」 「ダメ」 「え、えっと…… あー、はい。わかりました」 小人を蹂躙した背徳的快楽と、好きな人と触れ合っている幸福感。 それらが織絵の心のなかで融和した結果、理性の枷は簡単に外れてしまった。 こうなったときの織絵に言葉は届かない。 長い付き合いでそれを理解していた優秀なメイドは、お嬢様の気が済むまで付き合ってあげることにした。 一万を超える小人の屍の上でまぐわり合うのは、意外なことに気持ちの良いものであった。


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