駆除
Added 2020-07-11 15:05:48 +0000 UTC駆除。 一般的には害あるものを自分の領域から排除することを指し、日常生活で使うことはあまり多くない。 せいぜいが不衛生な部屋に出る害虫に対して使うくらいだろうか。 しかし、ここ十数年間で駆除という言葉は異様なほど早く社会的に広く普及し、今では誰もが実際に経験する当たり前へと変貌した。 長らく都市伝説とされていた小人の存在が明るみに出たことが、その原因だった。 小人はまるで人間そのものの容姿をしていた。 縮尺がちょうど100分の1という大きさであることを除き、両手足もあれば頭部も発達している様子はまさに人間だった。 当然、声帯も発達しており人間と変わらない発話が可能であり、自らの衣服を作るくらいには知能も高い。 まさに童話世界の小人と呼ぶべき彼らの存在が人間に認知されたことは、彼らにとっても不幸の始まりだった。 最初の論点は彼らを人とみなして扱うかだった。 そして、結論として彼らは人とは違う存在と位置付けられた。 その生態数が大きな問題だったのだ。 推定されるだけで地球上に300億匹以上とされる彼らを人間と見なすと、現代社会が機能不全になることが明白だ。 例えば選挙。小人にも選挙権を認めれば、絶対数の少ない人間の候補者は確実に全て排斥されることだろう。 例えば保障。小人の多くは身体的な理由から経済的な自立は不可能であり、それを保護するには莫大な予算が必要となる。 例えば医療。彼らの身体はその大きさ故に貧弱であり、人間と同じ扱いで医療を受けることがあれば、保護費を遥かに上回るコストが生じる。 例えば犯罪。人間が小さな彼らをうっかり踏んでしまえば殺人罪に問われる。車も自転車も同じだ。社会の根幹である人の移動に大幅な制限がされることになる。 現在の社会は彼らを人として受け入れることはできなかった。 人間と小人は住む世界が違う。 だが、人間は小人を必要としないが、小人は人間が必要だった。 人間の住居にいれば野生動物から襲われることはないし、なにより調理された栄養価の高い食料を得ることができる。 小人たちは人間たちとの共生を望んだ。 人と同じ姿で人の言葉を話す知性ある生き物。 そんな彼らの存在は哀れながらも、しだいに人間たちに疎まれるようになった。 だが、高校一年生の咲凛にとっての小人とは、一般人のそれとはだいぶ異なる存在意義を持っていた。 夜。 すでに夕飯の時間帯は終わり、早い人は就寝の準備を始めている頃合いだ。 とある一戸建て住宅の中庭に小さく蠢く影が7つあった。 まだ若い小人の男女だった。 彼らが狙うこの家は、今の時期になると庭に面した引き戸を開けて涼をとるのだが、古くなった網戸には小人が通れるだけの穴が開いていた。 その穴から侵入してすぐの脇にあるテレビラックと壁の隙間に身を隠し、住人の動きを観察する。 彼らが知る限り、この家には女性が一人で住んでいるだけ。 まだ十代半ばの彼女はスナック菓子が好きなのか、よくリビングのソファで寝転びながら食べている。 小人たちの目当てはその食べカスだった。 侵入してから一時間程だろうか、女の子が欠伸をしながら部屋から出ていった。電気を消すとあたりは暗闇に包まれる。 こうしてたまに窓を閉め忘れてくれたときは運が良い。 普段なら翌日の夕方までテレビの裏で息を潜める必要があるのだから。 今日は食料を回収したら早々に帰ることができそうだ。 小人たちは人気のなくなったリビングに躍り出て、各々が手にした布袋や葉籠の中にスナック菓子の食べカスを詰め込んでいく。 袋や籠がいっぱいになるまで詰め込み終わったころ、まとめ役が撤収しようと声を掛ける。 7匹が女の子の食べカスで重くなった荷物をしっかりと支えながら元来た道を引き返す。 これだけの量があればしばらく村も食料に悩むことはないだろう。 村を代表して選抜された彼らの帰りを大勢が待ち望んでいるのだ。 彼らが侵入するときに使った網戸の穴まで戻った時、唐突に異変が起こった。 自分たちの数千倍以上の質量を持つ巨大なガラスが、物凄い轟音と共に右から現れて道を塞いだのだ。 ガラス戸が壁にぶつかる音が誰もいない室内に響き渡る。 小人たちの背筋に悪寒が走る。彼らの知能は何が起こったのかを理解するには十分な能力があった。 窓が閉まった。いや、人間が閉めたのだ。 部屋には誰もいないのだから、その人間は外にいるのだろう。 恐る恐る首を持ち上げて空を見上げると、そこには見覚えのある女の子が立っていた。 着替えるのを面倒くさがったのか高校の制服を着たままの少女。 白いシャツの上から薄い水色のカーディガンを来て下着が透けるのを防止しているが、紺のスカートをだいぶ短く折り込んでいるため、下の方の下着は小人からは丸見えだ。 スカートから伸びる健康的な肉付きの脚は膝から下を漆黒のニーソックスが覆っている。 庭に出るために履いた黒のローファーには月明りが反射している。丁寧に手入れされているのだろう。 それらを着こなす咲凛は、整った綺麗な顔立ちに笑みを浮かべながらガラス越しの小人たちに向けて小さく手を振る。 「こんばんわ、小さな泥棒さん♪」 小人たちはその場で呆然と動けないでいた。 あの巨人は自分たちの存在を確実に認識している。 157㎝の身体は自分たちの100万倍の重量を誇るが、彼女はその超質量を当然のように操るのだ。 表情を見るに怒っているわけではないようだが、ならなぜ自分たちを閉じ込める必要があるのだろうか。 彼女の真意など彼らは知る由もない彼らにとって、選択肢はそんなに多くない。 逃げるか、隠れるか、説得するか。 「あんまり怖がらないでいいよ。少しお話がしたいだけだから。私も中に入るけど、逃げたりしないでね」 そう言って彼女は先ほど閉めた窓に手を掛ける。 小人たちが村人総出で力を合わせても開かないそれを、彼女は片手で難なく開け放つ。 続いて虫よけの網戸も開けると、彼女はローファーを履いたままリビングに上がり込んできた。 フローリングの床に固いゴム底が叩き付けられるコツリという乾いた音が部屋中に響き渡る。 もう片方も同じようにして部屋に上がり込むと、咲凛は後ろ手に窓を閉めてしまう。 再び閉じ込められた小人たち。 さっきまでと異なるのは、室内に自分たちを捉えた巨人がいることだ。 自分たちの百倍の体躯を持つ少女は小人たちの脇を通り抜けて、壁際に取り付けられた照明のスイッチを入れる。 一瞬にして周囲が光りに満たされて暗闇は葬り去られる。 人間と小人はお互いに相手をしっかり認識した。 「たまにウチに来てるのは知ってたの。いつも食べカスを大事そうに持って帰るよね」 咲凛が歩く度に床に小さな振動が生まれる。 人間にとってはそうとう注意深くしなければ気が付けない、しかし小人にすれば満足に立っていることもできないほどの衝撃。 小人まであと一歩と迫ったところでローファーは動きをとめ、続いて膝が畳まれて巨体が振ってくる。 咲凛がしゃがみ込んだ姿勢は、まるで小さな小人に自分のパンツを見せ付けるようでもあった。 その姿勢のまま、咲凛は彼らの目の前に手を差し伸べる。 女の子の小さな手も、小人なら7人全員が寝転がることができる。 「床にいると話しにくいでしょ。誰か乗ってよ」 小人たちは互いに顔を見合わせた。 巨人の手に乗れば逃げることはできなくなる。 しかし、すでにこうして見つかっている状況から逃げることは最初から不可能だろう。 数瞬の目配せの後、代表して女の小人が咲凛の手に乗った。 おそらく歳は咲凛と同じか少し上くらい。 村の中でも知能が高く、問題なく人間と話すことができる数少ない小人の一人だ。 小人が恐る恐る柔らかい手の平に近付き、自分の身長と同じくらいの厚みをどうにか乗り越える。 小人が手の平の中心に到達したのを確認して、咲凛が顔の前まで手を持ち上げた。 「小人さんは軽いんだね~ 何も乗ってないみたいだよ」 目の前で巨大な口が開いて言葉を発する。 その音も風も小人を怯えさせるには十分だった。 一瞬だけ除いた白い歯も、容易く自分を嚙み砕くのだと想像して戦慄した。 逃げ場のない手の平に乗ったことを後悔し始めていた。 「私は咲凛だよ。よろしくね」 『あ、はい、私は……』 「アハッ。名乗らなくていいよ。どうせ違いなんて分からないし、小人さんって呼ぶね」 この人間が小人をどう考えているのがわかった。 その辺の虫かなにかだと思っている。 ペットですら名前を付けるのだから、その関心の低さは間違いなくそれ以下だ。 間違っても同じ人として扱ってくれることなどないだろう。 「小人さんに質問なんだけどさ、貴方たちの巣ってどこにあるの?」 『えっ!』 「最近よく見かけるし、この近くに巣を作ってるんでしょ? 遊びに行きたいから場所教えてよ」 『それは、そのっ』 教えてはいけない。 誰に言われるまでもなくそれは分かっていた。 人間は小人をあまり良く思っていないし、中には非道な扱いをする人間もいるのだ。 「言えないの?」 『はい。教えることは禁止されてて……』 「ふーん、そっか。なら仕方ないね。……全然関係ないクイズなんだけどさ、何で私は靴を履いたまま家に上がったと思う?」 『???』 「正解は……」 咲凛は手の平の小人を落とさないよう気を付けなら立ち上がる。 何てことはない。畳んでいた膝を伸ばしただけのこと。 157㎝の平均的な少女が立ち上がると、その身体は照明の光を 遮って足元の小人たちを陰に包み込んだ。 ほんの一瞬の出来事だった。 咲凛の右足がスッと持ち上がり、当然のようにトンっと一歩先に振り落とされる。 固いローファーの靴底がフローリングの床を踏み締めるが、それだけではなかった。 男性の小人が一人、その下敷きになって押し潰された。 降ろした足を何度か捻って小人の死体を磨り潰す咲凛。 「生意気な虫けらを踏み潰すためでした」 咲凛は小人を一匹踏み潰したローファーを片手で脱ぎ、そのまま持ち上げて手の平に乗せた小人に見せつけた。 もはや人の形など残っておらず、小さな赤黒い肉片が靴底にこびり付いているだけ。 辛うじて残っていた衣服の破片だけが、小人が生きていた証だが、数瞬後には重力に引かれて床に落ちていった。 「たぶん男の子だったかな? 貴方のお友達、グチャグチャになっちゃったね」 『ひィっ…………』 「私さぁ、結構短気なんだよね。あんまりイライラさせると友達がどんどん死んじゃうよ?」 見せ付けていた右足のローファーを履き直す咲凛。 履き慣れた靴はあっさりと黒ソックスに包まれた女子高生の足を覆い隠す。 床にトントンと爪先を叩き付ければ、ピタリと嵌り込む。 その衝撃は床の小人たちを揺さぶり、床に倒れ伏させるのに十分な力を持っていた。 彼らは凄惨な光景と圧倒的な力に恐怖し、その場から動けないでいた。 「どうする? 他の子たちともお別れしたい?」 『あっ、あああ』 「ちなみに次はこの子にするからね」 咲凛は足元の小人を一匹掴まえて手の平の小人に見せる。 それは、この調達班で一番若い男の子だった。 自分より巨大な指に摘ままれて悲鳴を上げている。 咲凛はリビングのソファまで移動して腰を掛け、テーブルの上に置いたガラスの灰皿を手元に手繰り寄せた。 その後、摘み上げていた男の子の両脚を指で押さえ、そのまま腿も脛も膝も全てまとめて押し潰してしまう。 下半身を潰された小人は絶叫を上げた後で気絶した。 咲凛はピクピク動いている小人を灰皿の中に落とすと、テーブルの脇に置いてあったマッチを取り出す。 「今からこの子を火炙りにするから。……ああ、そうそう。もし巣の場所を言いたくなったらいつでも言ってね」 『や、やめて、やめてください』 「なら教えてくれる?」 『い、言えないんです! お願いですから止めてください』 「そ。じゃあ燃やすね」 咲凛はマッチ箱から取り出したマッチを擦って火をつける。 そのまま燃え盛るマッチ棒を小人の真上に置いた。 人間の小指より小さな炎が、一瞬にして小人の全身を包み込む。 数百度の灼熱に包まれた小人は一瞬で意識を取り戻したが、喉が焼け落ちたせいで言葉を発することができない。 押し潰された脚では逃げることもできない。 せいぜいがその場で少し転がる程度だ。 若い命はなんの抵抗もできずに小さな炎の中に消えていった。 「ん、もう死んだの? 早すぎでしょ」 『ヒドイ……』 周囲には肉の焦げる臭いが微かに漂う。 灰皿に残ったのは、両腕を天に伸ばして絶命の瞬間まで助けを求めていた小人の無残な焼死体。 先ほど踏み潰された小人に比べれば原型を留めてはいたが、全身の皮膚が黒く炭化しており人相は判別できない。 彼の家族のもとへ運んでも、それが本人だとわかるものは一人もいないだろう。 女子高生の思いついた火遊びは、小人にとっては残酷な処刑だった。 「二匹殺してみたけど。どう? 気持ちは変わりそう?」 『本当に言えないんです。ごめんなさい、許してください、ごめんなさい、ごめんなさい』 「けっこう強情なんだね。また友達が死んじゃうけどいいの? 貴方が話すまで止めないよ?」 『ひっく、うぅ……』 「泣いてもダ~メ。……ねぇ床にいる小人さんたち、こっちまできてちょうだい」 手の平に乗せていた小人をテーブルに下ろした咲凛は、床で呆然としていた小人たちに呼びかける。 ついさっき、目の前で友人を踏み潰された彼らは、その暴虐を働いた巨人の呼びかけに戸惑いを隠せない。 近付けば死ぬ。殺される。 決して女子高生に対して頂くことはないだろうはずの感情が彼らの脚を止めてしまうのだ。 巨人の座るソファまでの距離は3メートル程だろうか。 小人が走っても一分以上掛かる距離を、巨人はものの数歩で移動しているのだ。 行く手には何か所か床汚れがついているが、それはソファに近付くごとに少なくなっている。 踏み潰された友人の肉片が靴底から落ちていったのだろう。 何歩か歩いた彼女のローファーに、彼の痕跡は殆ど残っていないということだ。 「ちっ」 動けないでいる小人たちに苛立った咲凛は、咄嗟に目の前の灰皿を手に取って投げつける。 小人たちの目の前でガラスの灰皿は粉々に砕け、破片が周囲に飛び散った。 その飛び散ったガラス片が一人の小人に襲い掛かり、肋骨を砕いて内臓を押し潰す。 血反吐を履き散らしながら転げ回る様子は、誰がどうみても致命傷だった。 「聞こえないの? こっちに来いって言ってるんだけど」 ソファに深く腰掛けたまま脚を組む咲凛。 咲凛は平均的な背丈だがスタイルが良く、脚を組む仕草は扇情的だった。 しかし、そんな感想も人間だからこそのものだ。 脅されている小人からすれば威圧してるようにか映らない。 床にいる小人たちは一斉に走り出した。 この少女の機嫌を損ねれば、容赦なく殺される。 彼女にとっての自分たちは限りなく無価値な存在なのだ。 それが分かったからには、小人たちに残された選択肢は一つしかない。 従うこと。 理不尽で横暴で凶悪な少女の要求に応えること。 彼らが生き残る方法はそれしかなかった。 3メートルの距離を一気に駆け抜けた小人たちが咲凛のもとに着いた時、彼女の浮かべる表情には強い苛立ちが滲んでいた。 ソファに座っているはずの少女が遥か高みから見下ろしてくる。 綺麗に整った顔立ちに子供っぽさが残る彼女。 可愛らしいはずの顔なのに、小人たちは竦み上がっていた。 恐ろしい巨人は片手を伸ばして三人の小人たちをまとめて鷲掴みにし、テーブルの上に下ろした。 最初に捕まえた小人と合わせて4人。 全員が怯えた表情で震えながら咲凛を見上げていた。 咲凛はそのうちのひとり、小人の中でも小柄な女の子を人差し指でテーブルに押え付けた。 「へぇ、結構可愛いじゃない。……良い声で鳴いてくれそう」 咲凛は小人の肩に人差し指の爪を当てる。 そのまま軽く押し込むと、女の子の爪がギロチンのように突き刺さり、小人の腕を胴体から切り離した。 小人が悲鳴を上げるより早く、咲凛の指先が小人の左肩も切断する。 両腕を失った小人は咲凛が想像したとおりの悲鳴を上げた。 切り口からは血が噴き出し、あまりの激痛に発狂しそうだった。 「次は両脚を切り落とすから。腕より太い血管があるし、たぶんもっと痛いと思うよ。 ……ねぇ小人さん、まだ強情張るつもり? この子も死んじゃうけど本当にいいの?」 『止めて! もう殺さないで、許して、お願いです! お願いします』 「もう聞き飽きたよ。はい、ブシュッ、ブシュッと」 ふざけた口調で効果音を呟きながら、咲凛の人差し指が容赦なく振るわれる。 女の子の綺麗な爪が小人の両脚を付け根から切断した。 腕とは比べ物にならないほどの大出血。放っておいても数十秒も経たずに出血死することが誰の目にも明らかだった。 「最期は頭だね。デコピンで粉々に消し飛ばしてあげる。……ほら、皆も何か声かけてあげなよ。永遠にお別れなんだからさ」 目の前で行われる惨忍な処刑。 その最中に話を振られた小人たちは、あまりに恐ろしい光景に声が出ない。 自分たちの友人が切り刻まれて形を失っていくのだ。 赤黒い血が周囲に飛び散りテーブルを赤く染め、鉄の臭いが充満している。 吐気を催すほど凄惨な現場だった。 「何も言ってあげないんだ。……じゃあ、これでお終い」 宣言通り咲凛はデコピンを放つ。 それほど強い力ではなく、友達と冗談でやりあう程度。 だが、放たれた中指は正確に小人の頭部を捉え、頭蓋骨を瞬時に砕き中身を撒き散らした。 テーブルに残ったのは胴体と切断された両手足。 可愛らしかった小人の面影などどこにも残っていない。 「また死んじゃった。次はどうして欲しい? 口から息を吹き込んで破裂させてあげよっか?」 咲凛は残された小人たちに優しく息を吹きかける。 100万倍の肺活量から繰り出される暴風が小人に襲い掛かり、埃のように吹き飛ばしてしまう。 全身を痛めながら転げ回った小人たちは、彼女の脅しに心が折れた。 これだけの威力を持つ暴風を体内に吹き込まれたら、一瞬たりとも持ち堪えず内側から裂けるのは必然。 仲間を無残に殺害された彼らは、もう恐怖に支配されつくしていた。 『……わ、わかりました。私たちの村の場所を言います。だから、もう殺さないでください』 「そ。明日は午前中で学校終わるからさ、午後に案内してよ。小人さんの尺度で場所聞いてもよく分かんないし」 『はい……』 「じゃあ私もう寝るから。小人さんたちはテーブルの上で適当に過ごしていいよ」 巨大な女子高生はそう言い残して、リビングを後にした。 再び明かりが消えたリビングには3人の生存者と4人の死体だけが残る。 残された小人たちは途方に暮れていた。 自分たちがいるテーブルは高さ50㎝ほどのガラス板版だ。 テレビやエアコンのリモコンが置かれており、ガラス面に着いた細かい傷はここが生活拠点であることを嫌でも連想させる。 彼らが逃げるには50メートル下の床まで飛び降りるしかないが、そんなことをすれば死は避けられない。 結局、彼らにできたことは切り刻まれた友人の遺体から距離を置き、その場で眠ることだけだった。 これだけ冷酷で残忍な巨人を村に連れて帰ればどうなるか。 明日起こるだろう惨劇が頭をよぎるが、もはやどうすることもできない。 この出来事が悪い夢だったらどれほど嬉しいか。 そんな無意味な妄想は一晩中続いた。 日の光が窓から差し込んでくる。 不安で一睡もできなかった小人たちは、軽い振動を感じ取った。 あの悪魔が目を覚ましたのだ。 光りが差し込むことで見えてくるのは、テーブルの上には惨殺された者、床には踏み潰されて形を失った者、火に焼かれて炭化したもの、ガラス片にぶつかり絶命した者。 昨日の夜までずっと一緒に暮らしてきた仲間たちの遺体だ。 結局、これは悪夢ではなく現実なのだということを改めて痛感する。 「おはよう、小人さん」 昨晩と同じく制服を身に纏った咲凛がリビングに入ってきた。 流石に必要がないためかローファーは脱いでいた。 キッチンでコーヒーを淹れ、サンドイッチと共にリビングまで運んでくる。 小人たちのいるテーブルに朝食セットを置くと、あたりにはコーヒーの香りが広がった。 「昨日はお友達を酷い方法で殺しちゃってごめんね。なんか途中から楽しくなってきてさ、やりすぎちゃった」 コーヒーに口を付けながら話しかけてきた。 ふとした拍子に、背中まで伸びる茶色の髪が肩に零れる。 咲凛という惨忍な巨人も、こうしてみると普通の女の子なのだ。 しかし、自分たちより遥かに大きなサンドイッチを軽々と持ち上げ、噛み砕いて飲み込む様子はやはり怖い。 生物としての本能が食われることを連想させるのだ。 「お詫びにサンドイッチあげるね。一個でも十分かな? 朝ごはんとお昼ごはんに食べて」 短いモーニングタイムを終えた咲凛が食器を片付ける。 そして、代わりに数枚のティッシュとコンビニのレジ袋を持ってくる。 咲凛は床とテーブルに残っていた遺体をティッシュで包み、レジ袋の中に入れていく。 4体分を回収し終えると、咲凛は空気を抜きながら袋の口を縛り、壁際のゴミ箱に捨てた。 まるでペットのフンを処理するかのように、あまりに容易く行われた死者への冒涜。 やはりあの巨人の本性は冷酷だ。小人のことなど何とも思っていない。 感性が狂っているといってもいいだろう。 「じゃあ学校行ってくるね。午後からはよろしく~」 可愛らしく手を振りながら歩き去る巨人。 通学用の鞄を手に取り、リビングから出ようとしたときだった。 ふと巨人が振り返り、小人たちの乗るテーブルに再び近付いてきた。 「ああ、そうそう。言い忘れてた。ただの道案内に三匹もいらないから、帰ってきたら一匹処分するね。誰が死ぬかは決めさせてあげるから、話し合っておいて」 無慈悲な処刑宣告を残した巨人は今度こそリビングをあとにした。 遠くから聞こえるガチャという音は、玄関が閉まった音だろうか。 残された小人たちは深い絶望の中で数時間待ち続けることになる。 巨人が戻ってくるまでは6時間ほどと思われるが、その時間をどう過ごすか。 奇跡を信じてテーブルから飛び降り、物陰に隠れて逃げ出す機会を伺うか? いや、間違いなく助かる高さではない。 仮に命があっても着地の衝撃で骨は砕け散るだろう。 それに、自分たちがテーブルにいないことに気が付いた巨人はどうすだろうか。 決まっている。部屋中を探し回って見つけ出し、残酷に引き裂くのだ。 物が少ない部屋で隠れられる場所はそう多くない。 では、説得を試みようか。 幸いなことに言葉が通じる相手なのだ。説得できる可能性は0ではない。 だが、彼らの脳裏に昨晩の虐殺が染み付いている。 あれだけ冷酷な少女が相手ではまず成功することはないだろう。 最期の手段は戦うこと。 全ての生物に許された防御行動である。 もちろん、こんなことは検討する価値もない。 例え100人集めて立ち向かっても数秒後には全員が靴底のシミになることだろう。 結局、ちっぽけな小人たちがどれだけ知恵を絞っても状況の打開は叶いそうにない。 絶望しながら呆然と立ち尽くすうち、時計の針は無慈悲に進んでいく。 「ただいま~」 命の終わりを告げる少女の声が響く。 学校から帰宅した咲凛は、小人たちのいるリビングへは向かわない。 玄関脇の階段を昇って自室に向かい、鞄を机の上に置く。 そして、鞄の代わりに昨夜のうちに準備しておいたスポーツバックを取り出した。 中学生の頃に使っていた部活用具を持ち運ぶための大きめのバック。 久しぶりに使うバックには思いつく限り遊べそうな道具を詰めておいた。 この後は楽しい遊戯の時間。 着替える時間も惜しい咲凛は制服のまま出かけることにきめた。 バックを手に持ち、小人たちが待っているリビングに向かう。 「お待たせ。あれ? なんだ逃げなかったんだ。床で逃げ回るの追い立てるの楽しみにしてたのに。残念」 開口一番にそんなことを言う。 やはり、この女は悪魔だ。 わざと時間を与え逃げる機会を用意しておいて、その微かな希望ごと踏み潰すつもりだったようだ。 「じゃあ、予告通り一匹処分するけど、誰を殺せばいいかな?」 小人たちは押し黙る。 小さな体で懸命に生きる彼らの仲間意識は人間のそれより強い。 だからこそ、大勢に危害が及ぶ危険のある村の情報は言えなかった。 まして、生贄を出すなんてことが出来るはずもない。 「決まってないなら私が決めるね。……うん、じゃあその男の子しようかな。これで男の子は全滅だね」 咲凛はそう宣告してから三人の小人を掴みあげる。 そのまま移動して、リビングを出てすぐのトイレへ向かう。 何の変哲もない洋式トイレがあるだけの無機質な空間。 咲凛が近付いたことでセンサーが働き、自動的に便座が開いた。 「小人さんは知らないだろうけど、人間は排泄をこの容器にするの。それで、このボタンを押すと水が流れて排泄物を捨ててくれるんだよ」 咲凛は実際にボタンを押した。 便器の左右から勢い良く水が出て、渦を描くようにして奥に流れていく。 小人にとっては滝が流れ落ちるような轟音だった。 「よし、じゃあさっき決めた君の両手と両脚を潰してっと……」 左手に乗せられた小人の上に、右手の指が現れた。 昨晩、仲間の一人を切り刻んだ指と爪だが、もうどこにも汚れは残っていない。 綺麗で小さい女の子の指先だ。 その指先が男の小人に襲い掛かり、一突きで右腕を押し潰した。 骨が砕かれ筋線維はズタボロにされる。 左腕を潰し、右脚を潰し、左脚を潰す。 ほんの数秒で彼は二度と歩くことができず、それどころか自力では立ち上がることすらできなくなった。 関節が破壊されたことで構造上有り得ないはずの方向に腕が曲がっている。 「うん。これでいいかな。……えいっ」 ボロクズのようになった小人を摘み上げ、便器の中に投げ捨てる。 ベチャっという水気を含んだ鈍い音がした。 手足を潰され高所から叩き付けられた彼は、それでも奇跡的に生きていた。 もぞもぞと僅かに動いているのだ。 「さっきの水の勢い見てた? 私がこのボタンを押したら、あの子も流されちゃうんだよ。流された先は汚物ばっかりでとっても臭いの。……ウンコまみれで死ぬなんて惨めだよねぇ」 『なんで、どうして、村の場所は教えるって言ったのに……』 「保険だよ。もし、案内してもらったところに巣がなかったら、家に帰ってこのボタン押すから。……わかった?」 『ひィっ、わ、わかりました』 「うんうん。じゃあ行こう!」 従順な小人を連れて外に繰り出す咲凛。 小人は肩に乗せて、落ちないように髪を掴ませてあげた。 今日は久々の晴天で絶好の遊び日和だ。 小人たちの巣は咲凛が歩いて10分程のところにあるという。 そこは、主要道から一歩踏み込んだ売地看板の立つ雑木林の中。 車通りが多いせいか野生の動物があまり近寄らず、また雨風も太い木々が遮ってくれるおかげ暮らしやすい。 道中で小人から聞き出した情報によると、千匹前後の小人が集まって暮らしているのだという。 雑木林の中で小人が指さした先には、一見すると何もないように見えた。 しかし、裸眼視力が2.0を超える咲凛には地表で蠢く小さな存在を見て取ることができた。 間違いなく、ここが彼らの巣だと確認できた。 「道案内、ありがとうね」 『もうこれでいいですよね。酷いことしないでくれますよね!』 「もちろん。信じてくれていいよ」 そう言いつつ巣に近付いていく咲凛。 一方、小人たちは彼方に見える巨人の姿に慌てふためいていた。 この村を作って以来、人間が立ち入ってきたことは一度もない。 神が守護する神聖な土地であると信じていた。 それは私有地であることが原因なのだが、小人たちに人間のルールなどわかるはずもない。 巨人はあっというまに村の目の前までやってきた。 「アハッ。本当にたくさんいるんだ~。小人さん、こんにちは。私は咲凛。皆で遊びたくて来ました」 村の小人たち巨人の足音だけでも気が狂いそうだった。 滅多に外の世界には出ず、出るとしても選抜した体力のある若者だけ。 村の大半は人間と初めて会うことになった。 自分たちとまったく同じ容姿をした、157㎝もの巨人が目の目にいる。 可愛らしく小さく手を振っているが、その手ですら自分たちの住む家を握り潰せるほど大きいのだ。 どうしていいのか分からない小人たちは、この状況から逃げ出そうとして走り出す。 巨人と正反対の方向に向けて全力で走る。 その先頭を行く小人の目の前で何かが急に弾け飛んだ。 ブニブニして生暖かいものが飛び散り、小人たちの衣服を汚した。 自分を無視する小人に苛立った咲凛が、肩に乗せていた小人を掴んで地面に投げ付けたのだった。 女の子の弱い力では大した速度はでなかったが、それでも地表にぶつかって弾け飛ぶには十分すぎる。 「ねぇ、私は遊びに来たって言ったよね? なんで逃げようとするのかな? 私と遊ぶのが嫌なの?」 威圧的な巨人の声が村中に響き渡る。 その頃には逃げようとしていた小人たちにも、目の前で弾け飛んだものが、自分たちと同じ小人であったことが理解できた。 『もう殺さないって! 殺さないって言ったのに!』 「うん、そのつもりだった。でも態度悪いからダメかな。ちょっとお仕置きしないと」 『そんなっ……』 「あ、そうだ! 言い忘れてたんだけど、ウチのトイレって最新式だから、消臭のために自動的に水が流れるんだ。だから、あの男の子もたぶん今頃はウンコの仲間入りしているよ」 『騙したんだ……』 「忘れてただけだよ~」 絶望する小人を眺めるのは気分がいい。 咲凛にとって小学生のときから変わらない一番好きな遊び。 今日まで小人を見つけては様々な方法で嬲り殺してきた。 一晩も生かしておいたことは今回が初めてだったが、おかげで大勢の玩具が見つかった。 「貴方の順番は最後にしてあげるね。……たっぷり楽しめるよ」 咲凛は持ってきたバックを開けて、中から虫かごを取り出した。 それほど大きくはないプラスチックの箱に、何やら叫んでいる小人を閉じ込める。 全力で殴りつけているようだが、残念ながら虫かごは虫けらの力では壊せない。 それを巣の脇にある見通しの良さそうなところに置いて、このあとの遊びを鑑賞させてあげることにした。 「さ、お待たせ。まだ時間もあるから沢山遊びましょ」 咲凛が足元の小人たちに微笑みかける。 小さな体にボロ布を纏う彼らと、近所の高校の制服を纏う咲凛。 その身長差はちょうど百倍。 小人たちは遥か頭上から見下ろす少女の顔に様々な感想を浮かべる。 その大半は恐れと諦めだ。 ついさっき、この女は小人を地面に叩き付けて殺害して見せた。 それも衝動的に行われただけで大した意味もないことだっただろう。 犠牲になった小人がどれだけ頑張ったところで、彼女の肌に傷を残すことすらできなかったはずだ。 仮に何か粗相をしていたとしても、決して殺されるような謂れはないだろう。 「あー、でも、まずは逃げようとしてた人たちにお仕置きかな」 巨大なローファーが宙に浮いた。 持ち上げるというほどでもなく、低空を滑るように進んでいく。 普段と同じく歩いているだけ。しかし、足元には小人たちの村がある。 小枝や茎を組み合わせて作った家々を容赦なく踏み潰す。 咲凛の背中に快感が駆け抜けた。 小人たちが頑張って作った家、家族と過ごす大切な場所。 それをまとめて踏み潰せる自分の足。 なんの罪もない人間から人生のすべてを奪い取る背徳感。 それが快感の正体だった。 ほとんどの小人が騒ぎを聞きつけて外に出ていたおかげで、二十件ほどの住居を踏み潰しても犠牲になった小人は10人に満たなかった。 咲凛は最初に逃げ出そうとしていた小人の一団を足元に捉え、彼らの真横に思いっ切り右足を振り下ろした。 もともと土が柔らかいこともあってか、ローファーは1㎝ほど沈みこんだ。 今度は左足。小人たちを跨ぐようにして反対側に振り下ろす。 ズンッ、ズンッ。 咲凛の耳に聞こえるのは普段と変わらない自分の足音。 小人には落雷の如き爆音と衝撃波だ。 股下に閉じ込められた小人たちは恐怖に身を縮め、その場で頭を守るように抱え込んだ。 「人間の足音が怖いの? 大丈夫。すぐに慣れるよ。ほらっ、ほらっ!」 小人たちを股下に捉えたまま、咲凛は足踏みを始める。 ちっぽけな存在が自分に怯えている様子を想像するだけで楽しくなってしまう。 小人たちの脇に巨大な肉柱が降臨しては消えていく。 自分たちの百万倍もの超質量を誇る怪物が暴れ回る様子は、小人たちにとっては災害の如き超常現象だった。 女の子の悪ふざけが生み出す激震と爆音が恐怖を煽り立てていく。 小人の頭上には脚が上下する度に形を変える柔らかそうな秘所とそれを守る黒の下着があるが、それを見る者は一人もいなかった。 許しを請うて泣き叫ぶ声すら咲凛の足音が掻き消してしまう。 「はい、お終い。どう? 怖かった?」 数十秒間に渡って足踏みを続けて咲凛が足を止めた。 足元にはあまりの恐怖に泣き崩れ、中には失神した者も多い。 鼓膜が破れたのか耳から血を流して苦しむ者もいた。 なにより、立っていられないほどの振動に倒されたものは怪我をしている。 死者こそいないが、無事なものは一人もいない。 「キャハハッ、泣いちゃったの? まだお仕置き始まってないのに? ……弱虫」 小人を圧倒的な力で嬲ること。 理不尽な嘲笑で侮辱すること。 身体が熱くなるのは動いていたからだけではない。 お腹の芯から湧き起こる衝動の正体は知っている。 快楽。 弱者をいたぶる快楽が脳髄まで駆け巡っているのだ。 咲凛は自分の性癖が異常であることは理解していた。 だが、だからなんだというのだ。 この場にあって咲凛は圧倒的な存在であり、その気になれば千匹の小人など数分で皆殺しにできる。 誰も逆らえない。だから、なにも我慢する必要はない。 衝動にまかせて好き放題に遊ぶだけのこと。 再び脚を持ち上げたとき股から聞こえたクチャという小さな水音。 それは、咲凛が興奮していることの何よりの証左だった。 足元で怯える小人たちを踏み潰す。 23㎝の靴底から千切れた四肢が周囲に飛び散った。 咲凛は何も言わずそのまま磨り潰すように捻りを加える。 小さな命を奪う感触を足裏でしっかり楽しむのだ。 「ああぁ、たくさん死んじゃったぁ……。 グチュグチュして気持ちイイ……」 六匹をまとめて踏み潰したローファーを持ち上げて靴底を確認する。 死体は完全に押し潰され土と一体化しており、知らない人間からすれば元が6人の小人だったとは分からない。 ただの血生臭い泥だ。 残酷な虐殺の痕跡が自分の靴底、それも滑り止めの溝なんていう僅かな空間にこびり付いているのだ。 自分が生み出した地獄のような光景に胸が高鳴る。 「逃げようとしたのが悪いんだからね」 靴底の泥に向けて話しかける咲凛。 上気した頬と荒くなった吐息。 普通なら、持ち上げた自分の靴に話しかける少女は奇異の目を向けられるだろう。 だが、ここにいる人間は咲凛だけ。 小人たちにすれば無慈悲な虐殺の成果に酔い痴れる異常者だ。 視線を向ける理由は奇異ではなく恐怖。 誰ともなく、彼らは惨忍な巨人に背を向けて走り出す。 恐怖で強張った体は自由に動かせず、躓き転びながらも少しでも距離を取ろうとする。 他人を押し退け突き飛ばすものも多い。 それは全て生き残るため。本能的な行動に理由などなかった。 「まだ分からないんだ。……本当に馬鹿なんだから」 咲凛は後ろ手に手を組みながらゆっくりと歩き出す。 ミニスカートから覗く生足が動く度、47キロの身体が前に躍り出る。 平均的な背丈でもスタイルの良い咲凛。 散策でもするかのように歩き回る楽し気な少女は、その足元で大勢の命を奪っていく。 小人が懸命に走るよりも咲凛がゆっくり歩く方が10倍も速い。 あっと言う間に彼らを追い越し、反転して正面に捉えた。 「はい私の勝ち~。……ねぇ、さっき逃げ出した人たちを私がどうしたか見てたでしょ? こうなるって分からなかったの?」 先頭を走っていた小人を躊躇いもなく踏み潰した。 その次も踏み潰し、その次も踏み潰した。 いちいち足を持ち上げるのも面倒なので、地面に靴を付けたまま左右に滑らせて何匹かまとめて磨り潰す。 巻き込まれた小人は地面に残る赤い筋となった。 「ほ~ら、また死んじゃった。これで何人目かなぁ? ……ねぇ、私は貴方たちと遊びに来ただけ。駆除しにきたわけじゃないんだよ」 どれだけ死力を尽くしても逃げることができない。 少女が散歩気分で歩くだけで軽々と追い付かれ、さり気無く足を振るえば人が死ぬ。 恐ろしい怪物から逃れる術はないのだ。 小人たちが生き残る手段はただ一つ。少女の機嫌を損ねないよう、どんな理不尽にも黙って従うこと。 小人の小さな頭でもようやく理解することができた。 「もう逃げないでね。次は連帯責任で皆殺しにするから。……じゃあ準備するから、巣の真ん中に集まってて」 皆殺し。 誰もが頭の片隅で思い描いた最悪の結末。 少女の口から発せられたことで、その不安は爆発した。 その場で跪いて口々に命乞いを並べ立てる。 助けてください。赦してください。殺さないでください。 喉が張り裂けそうになるほどの叫び。 哀れな小人たちに、咲凛は足を振り落として答えてあげた。 水気を含んだ足音が一度聞こえたあと、ローファーの周囲は静寂に包まれる。 「集まれって言ったよね。なんで言うこと聞かないの? 逆らうなら何度でもお仕置きするけど」 咲凛の可愛らしい声が知らせる通告。 少女に慈悲はない。 小人たちは一斉に巣の中心に向けて走り出す。 自分たちが数秒前に駆けてきた道を引き返すことになった。 その様子に満足げに頷いた咲凛は、巣の外に置いてきたバックまで戻り、ガサゴソと中を漁りだす。 しばらくたって取り出したのは、折り畳まれた一人用のレジャーシートだった。 広げたシートを小人たちの巣に敷いてみると、シートの重みだけで小人たちの家は押し潰される。 広場に集まっていた小人たちの目の前で、数百円の安っぽいシートが彼らの村が滅び去るのだ。 それをただ見ることしかできなかった小人たちの目の前に、数十㎝の高さから二本の巨塔が降臨してきた。 シートに乗る前にローファーを脱いだ咲凛の足。 汗で少し湿った漆黒のニーソックスを纏った23㎝の女の子の足だ。 それに遅れて数秒。 次に降りてくるのは靴下と同じく真っ黒なパンツだった。 スカートを巻き込まないように直接パンツで座り込む。 細身な咲凛に相応しく小振りな臀部だったが、上半身の重みを一手に引き受けるだけあって、その重量は凄まじい。 レジャーシート越しでもお尻が土に沈み込んでいくのが分かる。 「土って結構冷たいんだ。……じゃあ小人さん、二列に並んでくれる? 私の両足の前に一列ずつね」 咲凛がズイっと両足を前に押し出す。 体育座りのような姿勢で小人たちの前に座る女子高生。 脚と脚の間からはパンツが覗くが、それに欲情するような小人はいない。 彼女を苛立たせればどうなるのか彼らは十分に理解していた。 数百の小人たちは言われたとおり、咲凛の足の前に列を作った。 「先頭の人は前に出てきて頂戴。一人ずつだよ」 列の先頭に並んでいる運の悪い小人は恐怖に泣き出した。 だが、逃げることはできない。 そんなことをすれば、目の前の巨人が立ち上がってまずは自分をソックスのシミに変え、次の瞬間には虐殺が始まってしまう。 誰一人生き残れない。 泣きながら前に進み出る二人の小人は、巨人が止まれと言うまで重い足取りで歩き続けた。 目の前にはシートを踏み締める巨大な足。 足指だけでも小人の身長を超えるほどの大きさだった。 「よくできました。……実はね、君たちは今から足指怪獣のおやつになっちゃいます」 咲凛はほんの少しだけ指先を浮かせると、小人の目の前でグニグニと動かして見せる。 黒のニーハイソックスに包まれた可愛らしい五本指。 それは小人にとっては自動車が暴れ狂っているかのようだった。 「はい、モグモグ~っと」 咲凛が一瞬にして小人を爪先で捉えると、そのまま足指を動かしていく。 その次の瞬間には万力の如き破壊力で小さな体を粉砕された。 女の子の指先で命が生ゴミに姿を変えた瞬間だった。 ゴミはレジャーシートとソックスに染み込むが、幸いなことに人の形を半分ほど残していた。 「ははっ、小人さん食べられちゃったね。……じゃあ次」 女子高生による処刑が始まった。 目の前で捻り潰された小人は女の子の指先にこびり付いている。 小人の下半身だったものがレジャーシートに残されている。 列の先頭に並ぶ小人はその光景に吐き気を催しながら、震える足を踏み出した。 そんな勇気ある小人に女子高生のつま先が無慈悲に襲いかかる。 「あっ、プチッてしたぁ。なんかくすぐったい」 笑いながら指先を擦り合わせて小人を潰す咲凛。 彼女の履く黒いニーソックスは小人の血肉を吸って重くなっていく。 シートに踵を付け、可愛らしい足裏を列に並ぶ小人たちに見せつけてあげる。 巨木の如く聳える漆黒の壁はまだまだ命を奪いたくてしかたないのか、その巨体をうねらせて楽しげにしている。 「次」 無慈悲な女子高生が処刑を告げる。 小人たちは泣きながら処刑場へ足を運ぶ。 逃げても助からないからだ。彼女が気紛れで助けてくれることを祈りながらも、そんなことはないと冷静な頭が忠告している。 「せっかくだから少し虐めてあげるね」 足指が生み出すアーチ状の僅かな隙間に小人を閉じ込める。 汗と小人の血液で湿ったソックス生地が目鼻を覆い尽くした。 小さな生き物は自分の100万倍の質量を持つ女の子が放つ、汗混じりの体臭と体温に全身を包み込まれて悶絶する。 呼吸をすれば女の匂いが肺を満たしてしまうのだ。 そんな劣悪な空間には惨殺された小人の血の匂いが少し混在していたが、咲凛の体臭に掻き消されて小人には嗅ぎ取れなかった。 足指に感じる小人の必死の抵抗が徐々に弱くなっていくのがわかる。 「女の子の指先に閉じ込められる気分はどう? 何匹かモグモグしたから汚いと思うけど」 囚われた小人に咲凛の声は届かない。 なぜなら彼らはすでに気絶していたからだ。 経験したこともないほど劣悪な環境に閉じ込められた彼らは、数度の嘔吐で自分の顔面を汚したあと、糸が切れるように動かなくなった。 「あんまり面白くないからもう食べちゃうね。いただきま~す」 グチャ。 少女の足指が閉じるのに合わせて、小人の命が消える。 今度は念入りに何度も何度も擦り合わせることによって、小人のちっぽけな体を醜い肉塊へ変えてしまう。 咲凛が指を開いたとき、落下してきたそれは人の形を残さない生ゴミだった。 「足指怪獣はこれで満足だってさ。生き残った人たち、食べられなくてよかったね」 目の前の惨状に怯え嘆く小人たちに、少女が処刑の終了を告げた。 露骨にホッとした表情を浮かべる彼らに、咲凛もまた微笑みかける。 なぜ安心しているのか、まだ女子高生は殺戮を続けるつもりだというのに。 咲凛の微笑は嘲笑をうまく隠すことができていた。 「よし、じゃあ次はシートの上に5つに分かれて集まって。人数は適当でいいけど、お団子みたいに一直線に並ぶようにしてね~」 小人たちが従順に従うのを確認した咲凛は再びバッグに手をかけ、中から四角く長細い箱を取り出した。 自宅から持ち出した食材保存用のラップフィルムだった。 まだ未開封でこの遊びには十分足りる。 封を開けて中から透明フィルムを引っ張り出し、適当な大きさで切り分けていく。 それを小人の集団の上にサッと被せていけば、小人たちが不安げに空を仰ぎ見る様子がよく見える。 流石の小人もラップフィルム程度の重さで潰れることはなかったが、持ち上げたり破ったりすることは出来そうもない。 こうすることで制服を汚すことなく、また彼らに逃げる選択肢を与えることもなく遊びに専念できる。 従順な小人たちが懸命に走ったおかげもあってか、咲凛の予想よりも早く準備が整った。 レジャーシートを上から見れば、まるで薄汚れた皿が一列に並べて置いてるかのようだ。 その一つ一つが知性ある生き物が何十、いや百以上も集まって作り出す小人の円だった。 「結構早いじゃん。お疲れ様」 咲凛は直線に並んだ小人たちをうっかり潰さないように気を付けながら、両手と両膝をシートの上に落とした。 四つん這いの姿勢で全ての小人たちを身体の下に捉えたのだ。 小人たちは太陽と空を奪われ、その代わりに一般的なブレザー制服を仰ぎ見ることができた。 紺色の上着のしたには真っ白のシャツを着込み、胸元には赤いリボンが結ばれている。 それらを止めるボタンですら小人たちの住居と同じくらいの大きさがある。 「今から私の身体に触らせてあげる。たぶん、貴方達が最期に感じる感触だと思うから、ちゃんと堪能してね。……ああ、でも、もし皆が協力して私を支えられたら助かるかもよ。私、体重47キロだから、頑張ってみれば?」 そんなことは不可能だ。 咲凛は検討するだけバカバカしいような提案をしておいて、思わず吹き出しそうになった。 ここに来る途中で聞き出した情報によれば、この巣には千匹近くの小人が暮らしているらしい。 仮に犠牲者が一人もいない状況であっても、彼らが咲凛の身体を支えるには、人間換算で一人あたり47トンを持ち上げねばならない。 47トン。それは戦車と同じくらいの重量。 例えどれだけ体を鍛えていて、どれだけ力を尽くしても不可能な数字。 圧倒的な女子高生の体は容易く数百の小人を挽き肉に変えるだろう。 「最初は腰の下に集った小人さんから潰そうかな。……女子高生のお股で潰されるなんて惨めだね」 フフッと笑う咲凛が四つん這いのまま足を開き、腰を下ろしていく。 重力に引かれた制服のスカートが小人たちの視界を覆い尽くし、その数瞬後には温かい肉の天井が彼らを抑え込む。 清潔にしていても完全には消せない女の臭いがラップフィルム越しでも嗅ぎ取れる。 小人たちにはもう何も見えない。動くこともできない。 ただただ、女の子の股間で捻り潰されるのは待つのみ。 そんな彼らをいたぶるように、咲凛は身体を前後に軽く動かして股間部を擦り付けてみると、スカートとパンツが少女の肌に擦れる音が小人たちの聴覚を犯す。 「そろそろ潰すけど、心の準備はできた? ……じゃあ死ね」 咲凛が円の端っこにストっと腰を下ろすと、なんの抵抗もなく小人の矮小な体が圧倒的な重量に押し潰される。 どれだけ小人が集まっても女の子の股間に敵わず、骨も肉も臓器も密度に関係なく瞬時に形を失ってしまう。 この一瞬で半数以上が血肉に化け、ラップフィルムで覆われた狭い空間の隙間を埋めるように広がっていく。 同じ空間にいる小人たちは生暖かい仲間だった死骸の海に溺れ、そのあまりの惨状に気を狂わせる者まで出る始末。 咲凛が腰を前に動かすたび、生者と肉片の比率が逆転していく。 沸き起こる悲鳴と怒号は微かに咲凛の耳にも届いたが、それによって少女の嗜虐心が擽られる。 最期は我慢できずに一思いに体重を載せて股間を擦り付け、小さな命を一瞬で使い尽くしてしまった。 「んっ……、ふぅ」 股間の下で小人の死体を磨り潰しながら、汗で少し湿った前髪を掻き上げる咲凛。 正直、予想よりもだいぶ気持ち良かった。 乱れた呼吸で自分の性的指向がどれだけ異質なものか改めて実感できた。 サディスティックな部分があることは自覚していたが、まさかこれ程だったとは。 「これヤバいなぁ~。……ゴメン。本当は時間かけてたくさん虐めて、嬲りながら虐殺するつもりだったけど、我慢するのしんどいから無理そう。雑に使っちゃうかも」 小人が咲凛の言葉を理解するよりも、咲凛が制服に包まれた腹部で次の小人集団を皆殺しにする方が早かった。 床に股間を擦り付ける体制から、上半身を少し落としてお腹で彼らを押し潰したのだ。 山