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寄り道

寄り道。 もう何度目になるか分からない短縮授業を終えた実沙は昼の町を歩いていた。 歩きながらも手に持ったスマホを熱心に見つめていた。 数日前にやってもらった栞捺のお遊びに学校の関係者が巻き込まれたらしい。 学校では無期限休校の措置を検討していると説明があったが、取りあえずは短縮授業で続けるとのことだ。 実沙の帰り道にも人影は少なく、電車が動いているだけでも奇跡的だった。 町を行く実沙の服装は学校指定のブレザー制服の上下。 緑色を織り込んだチェック柄のスカートからは、珍しく厚手の黒タイツが覗く。 履くのが面倒なので普段はハイソックスを選んでいるのだがついに寒さに負けた。 ジャケットの中には紺のセーターを着込み、長めの袖が指先を隠している。 もう少し寒くなったらコートを着なければならないだろう。 「フフッ。今日はこれにしよっと」 駅のホームで電車を待っていた実沙。 手に持ったスマートフォンはニュースサイトを映していた。 海を隔てた遠い国のニュースは、世界でもトップクラスの超高層ビルの開業記念の記事だった。 記事の紹介文には、80階建て600メートル。商業施設とオフィス、ホテルを兼ねる超高層ビルが本格稼働し大盛況であるとあった。 見つけてしまっては気になる。 喫茶店によるのと同じ感覚で寄り道がてらに蹂躙することに決めた。 実沙か瞬時に移動したのは海と森に囲まれた小さな町の郊外だった。 表れただけでも230メートルのローファーが何十という家々を踏み潰している。 恐らくは観光収入のみで成り立つ町なのだろう。 ビルや空港といった大きな建物は殆どなく、住宅と宿泊施設、僅かばかりのスーパーなどがあるだけだ。人口も数千人程度でしかない。 「つまんない町ですねぇ。ま、いっか」 ズドォン。 適当に踏み出した足で街を踏みにじる。 数十の住宅とその十人数百を一度に消し去った、 いつもながらローファー越しには大した感触はない。 当然のように次の足が動いて同じ被害を生み、もちろん次の足も動いた。 なにを工夫することもなく何歩か歩いただけだが小さな田舎町には致命傷だった。 一応、海のそばには頑丈そうなホテルもあったのだが、爪先で小突いてみたら爆散してしまった。 町の隅々までを踏み潰すまでにかかったのは僅か1分。 生き残りの存在は絶望的だった。 「小さすぎて何にも感じませんでしたよ。これじゃ無駄使いです」 何千の命を奪っておいての感想は淡白なものだった。 周囲を見渡せば、どうやらこんな感じの小さな町が無数に存在しているようだ。 試しに一番近くの町に近づいて見下ろすと、豆粒のようなものが無数に蠢いていた。 どうやら走って実沙から逃げようとしているらしい。 最初の町なんてあっという間に滅ぼしてしまったのだし、この小人たちは随分と早く判断しているようだ。 道路の渋滞を考えて車を使わないあたりもなかなか賢い。 「あはっ♪ 皆さん頑張ってますね~」 実沙は大きく脚を開いて、一気に町の中心部を踏み潰した。 そのままグリグリとローファーを動かす。 周囲にあったすべての建物を粉砕すると、もう片方の足を再び大きく踏み出した。 そしてさらにもう一歩。 たったの3歩で街を横断した実沙がその場で振り返ると、細々した町の中に一際巨大な自分の足跡が残っていた。 必死に逃げていた小人たちは自分たちの頭上を通り過ぎる巨体に畏怖し、遅れてやってきた暴風に吹き飛ばされた。 「追い越しちゃいましたよ♪ どうします? 戻りますかぁ?」 あれだけ必死に逃げ惑っていた小人が動かなくなった。 もちろん、中には死んでいる者もいるだろう。 自分たちの何キロも後ろにいたはずの巨人が目の前にいる。 逃げられない。 実沙は賢い彼らにそんな現実をちゃんと教えてあげたのだった。 そして、動かなくなった彼らに靴底を見せつける。 「私の足、おっきいでしょ。小人さんが逃げられる訳ないんですよ♪」 ローファーの大きさはまるでタンカーのようだった。 町中の力をかき集めてもピクリとも動かないだろう巨大な靴。 それを履きこなして歩き回る女子高生は、とても意地悪そうな笑みを浮かべていた。 ズドォン。 数百の小人たちを蹂躙するローファー。 実沙の意思で振り下ろされ、足元にいた全員を地面と同化させる。 まだ無事でいる町の大半部分も同じ運命だった。 糸のように細い道を踏み潰しながら町を探す。 途中にあったガソリンスタンドとモーテルはちゃんと踏み潰した。 凄まじい気化爆発が生じたが、実沙の靴底が何千倍もの質量エネルギーで簡単に圧し潰した。 道路上にいた無数の車を蹴散らしながら歩いていると、道路が山脈の下のトンネルを潜る形で消えてしまった。 すぐに山脈に踵を叩き付けることでトンネルを崩落させる。 そのまま身を乗り出すようにすれば、実沙の体重で山が沈み込み始める。 跨ごうと思えばできなくもないが、たまには自然ごと蹂躙してみたくなったのだ。 山を越えた先には先ほどよりは少し大きめの町が広がっていた。 「お邪魔しま~す♪」 区画ごとに整えられた街並み。 実沙からすると床のタイルのようだった。 一足でちょうど一区画を踏み潰しながら町に入る。 住宅街を蹴散らしながら進んでいると、大型のスーパーマーケットが見えてきた。 慎重に狙いをつけてローファーを下ろしていけば、ヒールが生み出す数センチのスペースに閉じ込めることができた。 突如として光を奪い取り、周囲にゴムの臭いを充満させるローファー。 実沙が体重を掛けることで靴は柔らかい地面に沈み込んでいく。 沈下が止まることはなく、スーパーマーケットは数秒の延命の後に靴底に消えていった。 立ち並んでいたアパートはまとめて足で薙ぎ払い、学校は校舎と体育館を一気に踏み潰す。 駅はちょうど止まっていた電車と一緒に蹴散らした。 数千人を踏み躙った実沙は町の外れにあった空港に来ていた。 二本しかない滑走路を踏み潰してしゃがみ込むと、身近な飛行機に手を掛ける。 「なんか消しゴムみたいですね~ ちゃんと消せるかな?」 実沙は摘み上げた飛行機を駐車場に擦り付ける。 瞬時に機首が押し潰され、下敷きになった何十の自動車が消えた。 気にせず前後に動かしていけば、メキメキと機体が削り取られていき中の乗客もろとも擦り潰れてしまう。 「はははっ、ちゃんとカスになるんですね」 次に手に取った飛行機は先ほどよりも少し大きめだった。 搭乗数も百を超えており、あと数分もあれば空に飛びたてたはずの飛行機だった。 摘み上げて中を覗き込んでみようとしたが、小さすぎる窓からでは何も見えなかった。 どうせ面白いものがあるわけでもないだろうと思い、適当に摘まんだまま紙飛行機と同じ要領で飛ばしてみたが、まったく進まないうちに墜落して爆発した。 最後に残った飛行機はちょこんと手に乗せてみた。 「女の子の掌は小さくて柔らかくて温かいんですよ? 触ってみてください♪」 ゆっくりと指を折りたたんでいく実沙。 飛行機は掌に生まれた皺に挟まれてバランスを崩し翼が折れてしまう。 中指と親指が触れあい超巨大なドームが完成すると、飛行機は暗闇に包まれた。 グシャ。 実沙が手を握れば飛行機など跡形もない。 温かい肉の大地が機体を飲み込みんで握り潰してしまう。 手を開いたときに残っていた残骸を息で吹き飛ばし、最後に両手をパンパンと叩けば痕跡一つ残らない。 残りの管制塔と格納庫はお尻の下敷きにしてみた。 スカートを挟まず、タイツ越しで直接敷き潰したので潰す感触がくすぐったかった。 座ったまま脚を伸ばし空港から逃げようとする大型バスを踏み潰す。 もう一方の脚はちょうど大きめのホテルに届いたので足を振り下ろしてやった。 伸ばしきった両脚の間では、逃げ遅れた数千の小人たちが不安げにタイツに包まれた脚と股間を見上げていた。 女子高生の脚は高さ百メートル、長さ八百メートルの圧倒的質量を備えた壁として聳え立つのだ。 「小さな虫ケラさんは死刑で~すっ♪」 両脚を閉じ始める実沙。 タイツに包まれた脚は人も車も家もビルも関係なく、全てを破壊しながら迫ってくる。 触れたものはもちろん、触れる前でも振動によって建物は倒壊していく。 一瞬で閉じることもできるが、あえて絶望させるためにゆっくり閉じていく。 めくりあげた土や瓦礫が積み重なっても、そんな些細な存在では女子高生の脚は止められない。 黒いタイツが通過した後には何も残らないのだ。 完全に閉じられた脚をさらに擦り合わせ、扇状の跡地になにも残さない。 タイツの汚れを叩き落としながら立ち上がり、周囲の様子を見まわす。 自分が歩いてきた方角にはくっきりと足跡が刻まれており、遠くからでもよく分かる。 「う~ん、思ったより町が大きいんですね。まだまだ残ってるじゃないですか」 それはつまり、生き残っている小人も大勢いるということだ。 不満げな表情を浮かべた実沙だが、すぐに簡単な解決策を思いついた。 セーター越しにそっと胸を触って力を使う。 ただでさえ山の如く巨大だった身体が膨張を始めた。 爆発的に大きくなるローファーは足元の何もかもを飲み込んで破壊している。 しばらくして巨大化が落ち着くと、先ほど両脚で作った扇状の破壊痕が見当たらない。 あんな小さな痕跡など一万倍の巨体なら片足だけで余裕でかき消せるのだった。 「これで良し! 塵みたいな町はお掃除しちゃいま~す♪」 足元にある砂粒のような街並みにローファーを滑らせる。 側面で薙ぎ払うようにサッとひと撫でしただけだが、2,300メートルの巨足はそこにあった数千の建物を消し去る。 生じた暴風はどれだけ巨大な建物であっても耐えることができず、町は瞬時に壊滅状態に陥った。 すでに興味の薄れた町の扱いは適当なもので、何度か薙ぎ払われただけで完全に消え去ってしまった。 「はい、おしまいっ♪」 消し去った町を後にして歩き出す。 道中で見つけた小規模の村や町は一歩で踏み潰してやった。 何千何万という命をサクッと消し去るローファー。 実沙の歩く速度は人知の及ばない領域であり、どんな手段でも逃げることは叶わない。見つかってしまえば死ぬしかない。 無慈悲で巨大な女子高生は小人がどれだけ祈ろうと歩みを止めなかった。 二キロ以上もある足跡を大地に刻みながら移動した先には、これまでとは規模の違う大都市があった。 中心部には100メートルを超える高層ビルが立ち並び、それを囲うように無数の住宅群が広がっている。今日のメインディッシュにする600メートルの超高層ビルはその中でも一際巨大だった。 空港も先ほどの町にあったものの比ではなく、何十もの飛行機がひっきりなしに飛び交っている。 少し視線を動かせば町には小さな湖があり、埃のように小さなボートが何十も浮いていた。 特に奇抜なものは町の郊外に残る城。煉瓦で作られた巨大な城は町を見渡せる丘の上に堂々と構えていた。 持ち込んだスマートフォンで簡単に調べてみると、そうやら数百年前に作られた本物らしく、幾多の戦争に耐え抜いて今日では観光名所になっているらしい。 この日も世界中から訪れた何千もの観光客で賑わっているようだ。 人口400万人の大都市は実沙が歩いたことによる振動で一部の建物が倒壊し、知らずに発電所を踏み潰されたせいで全体が停電している。 大規模災害と同じ規模の混乱だが、遥か上空から見下ろす実沙にはまだ無事であるかのように思えるほど整っていた。 「キャハハッ なんですかこの苔みたいなやつ! もしかして町なんですかぁ~?」 実沙は両足を器用に動かし、手を使わずに右足をローファーから抜き出した。 自らの体温によって革靴の中は湿気が籠り、黒タイツは足にピッタリ張り付いている。 足裏に感じるヒンヤリした空気が気持ちいい。 トン。 タイツの踵だけを地面に付けてみれば、僅か数センチの踵が数百の住宅を捻り潰し、そのまま何百メートルも沈み込ませる。 足首を意識的に曲げてみれば、2,300メートルの女子高生の足が町に直立した。 「私の足だよ♪ 山みたく見えるでしょ?」」 山の如く聳え立つ巨足。 その指先をグニグニと動かせば、周囲の雲が散らされ消えていく。 一番小さな小指でさえ百メートルを超す大きさであり、もし動き回れば高層ビルですら瞬時に破壊する力を秘めている。 十代の活発な新陳代謝は汗を生み出し、その臭いは他の臭い全てを暴力的に塗り替えて圧倒的な存在となった。 「ほ~ら、踏み潰しちゃうぞ~☆」 足首をほんの少しだけ伸ばした。 垂直まで曲げられたいた足首が戻されることで、タイツに包まれた足裏が街並みに近づいていく。 空気が圧縮されることで木造の住宅が弾け飛び、コンクリート製の建物もひび割れ窓が砕ける。 外にいた小人など跡形もなく消え去った。 女子高生が数センチ足を動かすことは、数千の命を容易く奪うことだった。 もちろん、実沙には足元の惨状は見えない。 単純に近づけて怖がらせてみたくらいにしか感じてなかった。 「最初の一歩いきま~す♪ えいっ」 トン。 踵を軸として足を下ろす動作はそんなものだ。 地面に叩き付けられたエネルギーは火山の噴火にも匹敵するものであり、足元にあったものは全て消え去った。 直接押しつぶされた全長2,300メートル、幅800メートルはもちろん、その周囲を巻き込んでその倍ぐらいのクレーターを作り出す。 足元にあった小さな建物ではタイツの厚みを通り抜けて実沙に感触を与えることはできなかった。 「たくさん死んじゃいましたね♪ さ、次は~」 実沙は左のローファーも脱ぎ、右足のものと揃えて町中に置いてみた。 ローファーは女の子の体重がなくても悠々とビルを破壊した。鎮座する姿は矮小な小人の町をあざ笑うかのようだった。 だが、最初の一歩とローファーがもたらした三万人の犠牲など些細なものでしかない。 当然のように町に足を踏み入れた実沙は、その巨足で一度に数万の犠牲を生みながら町を縦断した。 縦断した先にあるのは空港だった。 「空を飛びたいなんて生意気ですっ♪」 スッと持ち上がる足は当然のように五千メートルを超える高さに位置した。 巨大な足裏があまりに高く持ち上がったことで、遠近感が狂いそうになる。 ゆっくりと空港の中心部に足裏をかざすと、思いっきり地面を踏み付けた。 数万人が待機していたターミナル、数百人が乗っていた何機もの飛行機、彼らが使っていた無数の自動車が駐車ごと消し去る。 軽くグリグリしてから持ち上げれば、空港の面影はどこにもなかった。 ついでに着陸しようとして旋回中だった飛行機を太腿を持ち上げたり、脚を振り回したりして撃墜しておいた。 空港から湖に移動するまでに要したのは四歩だけ。 たったそれだけで五キロ以上を移動して、十万の小人を踏み潰してしまう。 細心の注意を足裏に向ければ微かにクシャっという感触があったような気もしたが、やはりよく分からなかった。 湖に近づいてみると不自然に直線が多く、どうやら人工の湖のようだった。 桟橋を二箇所用意して、そこからボートに乗ることが出来るらしい。 「小さな水溜りですねぇ」 直径1キロの湖を軽く跨いだ実沙。 腰を曲げて一万メートル上空から見下ろす姿勢は、足元にいる小人を完全に侮辱するようでもあった。 だが、実際に湖は左右に降ろされた片足でさえ収めることができない程度のものでしかない。 実沙はおもむろに上着を脱ぐと、その下に来ていた紺色のセーターを脱ぎ去った。 適当に丸めたセーターをポイっと真下に落とす。 女子高生の体温が籠ったセーターが落下すると、湖の水は跳ね上がり数百メートルの水飛沫を作り上げた。 もちろん、水面のボートに乗っていた小人たちは即死している。 一万倍の巨人が着るセーターが湖の水を吸い込み始めると、ほんの数秒のうちに湖は干乾びてしまった。 零した水を袖で拭き取るような手軽さで、湖一つを消し去ってしまうことができるのだ。 「私のセーターあげますね♪ 宝物にしてください!」 捨てることにしたセーターを踏み付けてみる実沙。 セーターは湖を干上がらせてなお余裕があるらしく、踏み付けたタイツに水がしみることはなかった。 築城から700年が経過した古城。 とうの昔に防衛拠点という本来の役割を終え、今では観光資源として活用されている。 四棟で構成される本体とそれをグルっと囲う城壁によって難攻不落とされた城が今、女子高生のお尻に破壊されようとしていた。 「くすくす。この石ころってお城なんですよね? ちゃんと市民を守れるかテストしてあげますね♪」 しゃがみ込んだ姿勢から重心を後ろに傾ければ、お城の数百倍の質量を持つお尻が数千メートルの高さからゆっくりと降りてくる。 タイツに包まれた柔らかいお尻が棟の先端に触れると、何の抵抗もなく崩壊してしまった。 お尻の下降はそこで一旦止まったが、上部を破壊された城はすでに半壊状態であり、見学に訪れていた数千人もまた殆どが死に絶えていた。 お尻が動いたことで生まれた空気の塊が地上を蹂躙したのだ。 「あれあれ? こんなに弱っちいと誰も守れませんよ? テストは不合格ですっ♪」 ドシンッ。 城とその周囲の城壁をまとめて尻に敷く実沙。 女子高生の下半身は城が立地する丘を巻き込みながら地面に沈み込んでいく。 町のシンボルとして威風堂々と聳え立っていたそれをタイツ越しに蹂躙するお尻。 600年間も不落だった城は、たったいま女子高生の思い付きによって完膚なきまでに破壊されるたのだった。 実沙が一歩を踏み出すたびに数千の建物が足裏の下敷きと化す。 膨大な重量に圧し掛かられた大地は圧縮され、どれだけ固い地層であっても何百メートルという深い穴となってしまう。 一般的な住宅は1㎜、高層ビルでようやく1㎝でしかない小さな世界を歩くのは、霜柱を踏み締めるより感触に乏しい。 だが、そこには多くの人々の生活と命が確かにあったのだ。 絨毯のように広がる町の灰色が茶色の足跡に変わっていく様子は実沙だけが楽しめるお絵描きのようなもの。 町の大半を茶色に変えるなんてことは鼻歌交じりの散歩で十分だった。 人口の9割に迫る400万人以上を踏み潰した女子高生は、最後まで残しておいた中心部の高層ビル群に足を翳していた。 「さて、どうしましょ。このまま一瞬で踏み潰してあげましょうか? くすくすっ」 2,300メートルの巨足が振り下ろされれば、何十と密集して高層ビル群はそれでお終いだろう。 小人が何年という歳月を掛けて作り上げた高層ビル。 建造に費やした費用も何十億から何百億円、ものによってはそれ以上だろうか。 それを一瞬で、それも纏めて踏み潰す。 甘美な背徳感は想像しただけで堪え切れなくなりそうだった。 その衝動をどうにか抑え込み、足を元に戻した。 それどころから一歩下がって膝を付き、四つん這いの姿勢で高層ビル群に向き合った。 それでもなお実沙の視線は高層ビル群を悠々と見下ろせる。 右手を伸ばして200メートル程の高層ビルを摘み上げようとしたが、予想外に脆くそのまま捻り潰してしまった。 指を擦り合わせて埃を落とし、改めて同じくらいの大きさのビルを摘まんでみる。 顔の高さまで持ち上げたビルはすでに崩れかかっており、数メートルサイズの瓦礫を振りまいている。 中にいた人間は室内を跳ね回り血飛沫に変貌していた。 「脆すぎです♪ こんなのゴミですよゴミ♪」 口をすぼめて摘まんでいるビルに息を吹きかけた。 女子高生の吐息はコンクリートの建物を粉々に変え、文字通りに吹き飛ばしてしまった。 続けて100メートル程度の高層ビルにデコピンを放つ。 バシュ、っという気の抜けた音とともにビルは消え去った。 次のビルは人差し指で真上から押し潰し、そのまま動き回らせれば周囲のビルを突き崩して瓦礫の山に変えた。 あまりに脆いせいで少々飽きてきた実沙は中高層のビルをまとめて右手で叩き潰した。 残りは目当てにしていた600メートルほどの超高層ビルのみ。 「こんな大きなビルを建てるなんて小人さん頑張りましたね! 私の小指くらいあるじゃないですか♪」 心から見下すような声音で話しかける実沙。 しかし、肝心の小人たちはすでに大半が死亡し、その侮蔑を受けることが出来たのは極少数の運の良い者だけだ。 しかし、実沙にとっては目に見えない微生物の生死など本来はどうでもよいことなのだ。 「ご褒美にオッパイで壊してあげますよ♪」 特別に大きいわけではない実沙の胸。 普段から生地の厚いブレザー制服越しでも分かる程度には押し上げているが、今のように四つん這いでは重力によってはっきりわかる。 制服のまま胸を地面に軽く付け、ゆっくりと身体を押し出していく。 柔らかい胸が轟音を立てながら大地を削り取る。 超高層ビルに実沙の胸が衝突すると、ビルは形を保ったまま横倒しになり、そのまま胸の重量に押し潰されて砂になった。 「ん~~? なんか物足りませんねぇ」 胸元の瓦礫を払いのけながら立ち上がる実沙。 460万人が暮らす大都市を踏み躙ってなお、大した満足感は得られなかった。 だから最後にもう少しだけ悪戯して帰ることにした。 実沙は再び胸に手を当て、魔法を使うのだった。 「あはっ こんなに大きくなるのは久しぶりだなぁ~」 百万倍という大きさ。 先ほどまで絶対的な力で暴れまわっていた自分でさえ、指先だけで抑え込めるような大きさである。 その身長は日本列島と変わらず、大地を踏み締める240キロの足は町どころか小さな国を一歩で踏み潰せるのだ。 「この国のみなさ~ん。なんか物足りないのでこの国ごと滅ぼしちゃうことにしました♪ 死にたくなかったら頑張って逃げてくださいね☆」 実沙は半歩離れたところに灰色の砂溜りを見付けたので踏み付けてみた。 100万人を超える都市が一瞬にして足跡に変わってしまう。 岩盤すら踏み砕いた実沙の足は深い渓谷を作り出し、長い年月が経てば巨大な湖となるだろう。 さらにグリグリと足を捻ってみれば湖のサイズは何倍にも拡大していく。 いかに広い国でも240キロもの範囲に何もないはずはない。 大小問わず村や町、都市が踏み潰されてしまう。 実沙の一歩は当然のように何百万の命を奪い取る。 そしてその多くは存在に気づかれることすらなかった。 「あったあった♪ これが首都ですかぁ~」 実沙が見つけたのは1200万人が暮らす大都市。 世界でも有数の人口密度を誇る一大都市であり、先ほど胸で壊した超高層ビルのような建物もいくつか擁している。 実沙の歩いた激震によって電気や水、もちろん交通網までもが機能を失っていた。 1200万の人々は逃げるすべもなく、神の如き存在が自分たちを葬り去るのをただ待つばかりだ。 実沙はその場に腰を下ろすとお尻がグググと沈み込むのがわかった。 反発のないクッションに座るようでなかなか気持ちいい。 タイツに包まれた両足を首都の左右に置き、自然の山脈がちっぽけに思えるような巨大な壁を作り出す。 真っ黒なそれは世界の終わりを告げる天変地異のような存在であり、正体はタイツを履いた女子高生の足裏でもあった。 「女子高生の足裏で捻り潰してあげます♪ 足コキで国を滅ぼされちゃうなんて惨めですねぇ~」 女子高生の足裏が動き始めた。 地上の全てを破壊し、地表を削り取りながら黒い壁が擦り寄ってくる。 首都にいる1200万の小人たちは悲鳴を上げながら逃げ惑うが、彼らがどれだけ走っても意味はない。 230キロという大きさは本来は距離を示すものであり、自動車を真っ直ぐに走らせても2時間以上かかり、飛行機ですら15分を要するものだ。 では高さはどうか。横倒しになった女子高生の足は80キロの幅があり、その頂点は大気圏にまで達している。残念ながら首都にある航空機がどれだけ頑張っても超えることはできない。 それを知っているのか、女子高生はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら足裏での虐殺を続け、数秒もしないうちに両足は合わさった。 そのまま足裏を擦り合わせて奇跡的な生き残りすらも許さない。 「細菌たちの国は女子高生の足に磨り潰されてしまいましたとさっ♪」 今日だけで五千万の人命を葬った実沙。 最初の予定では町を一つ使うだけのつもりだったが、ついつい国一つを使い切ってしまった。 充実した遊びに満足した実沙は帰宅する前に自ら脱ぎ捨てたローファーとセーターを見つけ出す。 一万倍サイズのときに脱ぎ捨てたそれらはあまりに小さく、回収するのも馬鹿馬鹿しくなったので踵を叩き付けグリグリ捻ってみた。 実沙の膨大な質量が小さな衣服類を引き裂き、細切れになったゴミを地面に刻み込む。 「ちょっと勿体無いですかね? まぁいいや!」 笑い声を残してその場から突如消える実沙。 次の瞬間には居心地の良い自室に戻っていた。 今日のことは後で栞捺に聞かせてあげよう。 そんなことを考えながら着替え始めるのだった。


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