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ハロウィン

ハロウィン。 10月の終わりに行われるお祭りだ。 元々は収穫を祝ったり悪霊を追い出したりするためのイベントで、立派な宗教行事だったらしい。 だが、この国においてハロウィンといえば仮装して行うお祭り騒ぎでしかなく、本来の意義など知らない人も多い。 今年で11歳になる碧莞もまたそんな一人であり、純粋にイベントを楽しむつもりだった。 碧莞は滝のように美しく長い黒髪を靡かせながら、用意しておいた魔女の衣装に着替えている。 漆黒のワンピースのスカートは短く、露出した肩を隠すようにマントを羽織った。 オレンジと紫という普段は選ばない配色のニーハイソックスも今日だけは違和感なく履くことができる。 子供部屋から出た彼女はそのまま玄関に向かい、コスプレに合わせて用意しておいたパンプスに足を滑りこませた。 やはり漆黒のパンプスはその滑らかなエナメル地に光を反射している。 最期に姿鏡に全身を映して帽子を整えると、玄関の取っ手に手を掛けた。 一年に一度だけ。 とっても楽しい殺戮の始まりに碧莞の小さな胸は高鳴っていた。 「あはっ! ミニミニタウンのみんな久しぶり~! 今年も碧莞が遊びに来たよ!」 碧莞が玄関を出て一歩を踏み出した。 底の薄いパンプス越しにクシャっとした感触。 積み木の玩具よりも小さな住宅を何軒もまとめて踏み潰した。 クシャクシャ。 さらに一歩を踏み出し、明確な悪意で住宅を踏み潰す。 僅か二歩で何十億円もの損害を生み何十もの命を奪った。 轟音と激震に驚いて家から飛び出した小人たちが碧莞を見上げて悲鳴を上げる。 突如現れた150メートルの可愛らしい巨人は、自らの足元の惨状を愉快そうに見つめていた。 だが、彼女が脚を高く持ち上げると、その可愛らしい顔は靴底に隠れて消えてしまった。 「トリックオアトリート! たっぷり悪戯してあげる♪」 ズガァアンンン。 勢いよく振り下ろされた22メートルのパンプス。 哀れな住宅を十件ほど消し飛ばしてクレーターを作った。 当然、その間を縫うように逃げ惑っていた小人たちも一緒にだ。 碧莞の靴が落ちればそこは街並みではなく地獄に変わる。 可愛らしい魔女の持つ力は絶大だった。 「えいっ!」 碧莞が住宅を三軒まとめて蹴り上げる。 家は一瞬も耐えることなく砕け散り、無数の瓦礫となって降り注ぐ。 亜音速で飛び散った破片は他の住宅や車を貫き破壊し、小人に当たれば瞬時に肉片に変えてしまう。 面白くなって何度も繰り返していると、あたり一面は無残な姿に変わった。 適当に住宅街を蹴散らした碧莞はもっと面白い玩具を探して中心部へ向かって歩き出す。 巨大なパンプスが数十メートルごとに振り下ろされ、その下にある全てを押し潰した。 もちろん、足元で逃げ回る小人は見つけ次第に踏み潰してやった。 二百人ぐらいをパンプスの靴底で押し潰したころ、碧莞は足元に面白い玩具を見つけていた。 逃げないようにパンプスの爪先で地面に押え付けているのは大型バス。 たまたま町を通り抜けようとしていただけの観光バスだった。 すでに天井が潰され、窓ガラスは全て割れた。もちろん、乗降ドアを開けることもできない。 閉じ込められた五十人は恐怖に悲鳴を上げた。 「えへへっ。それ、コロコロ~」 碧莞が器用に足を動かすと、何トンもある巨大な鉄の塊が空き缶のごとく転げまわる。 コロコロ。コロコロ。左右に振り回される大型バス。 五十人の乗客たちは次々に骨を折り、体を粉砕されて死んでいった。 碧莞がバスを弄んだのは数秒だけだったが、生き残れた者はいない。 ボロボロの屑鉄と化したバスを一思いに踏み潰し、碧莞は再び歩き出した。 町に一つしかない駅には小人が殺到していた。 ホームどころか構内にすら収まりきらない小人たちはロータリーに溢れ、電車の到着を待ちわびていた。 そんな彼らが地響きを伴う足音と振動を感じ始めてから数秒足らず。 高層ビルのように巨大な女子小学生が姿を現した。 何千という小人が集まっているのを見つけた碧莞は口元に笑みを浮かべた。 わざとゆっくり、歩いて彼らのもとへ向かう。 「到~着♪ みんな集まってくれてありがとう! よっ、と」 碧莞はさも当然と言わんばかりに足を持ち上げる。 そして小人たちの頭上でフラフラと振ってみる。 巨大な影が揺れる度に悲鳴が巻き起こり、碧莞の笑みは深みを増していく。 「こんなにいると迷っちゃうな~ どこを踏み潰そうかな~」 右に左に巨足は揺れる。 漆黒のパンプスが小さな命を選定しているのだ。 基準はもちろん碧莞の気分。 そして、彼らにとっては気の毒なことに碧莞は残虐な性格をしていた。 「よし、ど真ん中いってみよ~」 ブジュブジュブジュ。 22メートルの靴底が百数十人を下敷きにして振り下ろされる。 人間には多くの骨があり、昆虫を踏み潰すのとはだいぶ異なる感触だ。 初めて小人を踏み潰したときから碧莞はその感触に夢中だった。 しっかりと矮小な肉体を押し潰してから足を持ち上げる。 ロータリーは小さな足の形に沈み込み、底には血肉がこびり付いていた。 「どんどんいくよ~ えいっ☆」 ズドン! 持ち上がった足を素早く叩き付ける。 先ほどよりも深い足跡が瞬時に生み出される。 碧莞が振るった暴力は軽々と数百の命とアスファルトを破壊し、なおも有り余ったことで周囲の低層ビルは振動だけで崩れ落ちる。 「反対の足もやってみよ~ どっかーん♪」 碧莞の虐殺は止まらない。 左右の足は競うかのように繰り返し振り下ろされ、その度に百人以上を押し潰して地面と同化させる。 楽しい足踏みが二十秒も続くと、ロータリーは地獄に変わった。 止まっていた無数のバスやタクシー、噴水、アーケード、町のモニュメント、そして何よりも二千人以上の小人。 その全てが幼い魔女の悪戯によって破壊され、ごちゃ混ぜになっていた。 瓦礫と血肉と泥が混じったこれらはまさにゴミだった。 「次はそっちの番だよ」 駅を挟んだ向かい側。 足元がゴミクズに変わる前と同じく、ロータリーになっている。 駅舎が壁となっており、彼らには幸いなことに碧莞の虐殺は見えなかった。 ただし、凄まじい轟音と激震、悲鳴と怒号によって何が行われたか予想するのは簡単なことだった。 はしたなく大股を広げる碧莞。 駅舎を跨いで向こう側を虐めてやるつもりだった。 だが、ふと履いている靴に視線が向く。 すでに数千人の命を奪った靴は泥で汚れているのだった。 「脱いじゃお♪ 碧莞のお靴プレゼントしてあげる!」 持ち上げていた靴に指を入れてスルッと脱いでしまう。 そのまま吐き口に入れた人差し指でパンプスを振り回す。 まだ若く運動神経のよい彼女は片脚立ちの姿勢を難なくこなせるのだ。 ハロウィンに合わせて用意したボーダー柄のニーハイソックス。 オレンジと紫というカラーリングは普段着では着こなしのしようがないものだ。 女子小学生の足を守る布からは、汗と皮脂の臭いが立ち込める。 「ちゃんと受け取ってね♪」 振り回していたパンプスを遠心力のまま軽く飛ばした。 超スピードで飛来した女子小学生の靴は狙い通りのビルにぶつかり、圧倒的な破壊力でビルを粉々に吹き飛ばす。 「脆っ~い。じゃあ次はこっち!」 ベチョ! 持ち上げていた足を向かいのロータリーに振り下ろす。 パンプスを脱ぎ、ニーハイソックスだけを履いた状態だとより敏感に小人が潰れるのが分かる。 温かく小さなものが何十と弾け、ニーハイソックスの足裏のシミと化す。 しっかり地面に押し付ければ土踏まずの下でも踏み潰すことができた。 「う~ん、気持ちイイ~! このままみんな潰しちゃうぞ~」 ズリズリズリズリズリ。 数十人を踏み潰した足がそのまま暴れ出す。 まるで津波のように動き回り、アスファルトごと全てを飲み込んでいく。 左右に動き、上下に動き、右回りに動き、左回りに動く。 まるで熱い湯舟を掻き混ぜるようだが、実態はまるで違う。 ほんの数秒間でその場の小人は全てひき肉になってしまうのだ。 「はい、おしまいっ♪ うわっ靴下ヌメヌメする~」 千人近くを虐殺した碧莞の右足。 足首を掴んで持ち上げてみると、足裏はまるで泥に突っ込んだときのように汚れている。 これが元は全て小さな命だった。 そして残っているのはスカートに隠れた駅本体だけ。 巨大な少女がが動き回った衝撃ですでに半壊状態、中には大勢の怪我人が横たわっていた。 碧莞はそんなこと知らないし、知っていても何とも思わないが。 さっそく駅舎を跨いだまま腰を下ろしてしゃがみ込んでみた。 女子小学生の小ぶりなお尻が駅の屋根を容易く突き破り崩落させる。 崩れ落ちた屋根の残骸は真下の小人たちを叩き潰す。 屋根の代わりに君臨したのは薄緑色をした女児用の下着だった。 傍から見れば馬乗りしているようでもあるが、実態は違う。 壊れやすい玩具をしっかり楽しむため、脚に力を入れて全身を支えているのだ。 「カウントダウン始めるよ~ 10、9、8、7……」 碧莞のお尻は小さくムズムズと動いていた。 先ほどは屋根だけを破壊したが全く物足りない。 建物自体と中にいる小人を圧し潰したくてたまらないのだ。 壊したい。潰したい。殺したい。 心に湧き起こる衝動に胸が熱くなってくるのがわかる。 同時に、自分のお尻の下で逃げ惑う小人の姿を想像すると、なんだか股間が湿っぽくなってくるのであった。 幼い身体で覚えてしまったいけない遊び。 それには沢山の尊い犠牲が必要なのだった。 「3、2、1…… ヘヘッ。ちゃんと逃げられたかな?」 脚の力を全て抜いた。 碧莞のお尻は重力に轢かれて当然のように落下する。 頑丈なはずの駅舎をグシャっと押し潰し、その重量で中にいる何百もの小人を磨り潰してしまう。 ほんの数十㎝の高さから女子小学生が腰を下ろしただけのことだった。 碧莞が押し潰したのは駅のおおよそ半分程度だった。 股間の正面にはまだ無事な駅舎が残っている。 「こっちは待ってあげな~い♪」 女子小学生の細い太腿が動き出す。 目の前にあるのはショートケーキほどの大きさの建物。 中にいる小人たちまで含めて捻り潰してやる。 もじもじと両腿を擦り合わせる度に建物が瓦礫に変わってしまう。 パッと脚を開いて見れば、駅舎はすでに砂と化していた。 脚にこびり付いた砂を叩き落としながら立ち上がり、その場で身体を伸ばす。 ずっと足元を見ていたせいで肩と首が疲れていたのだ。 高さ40メートルの低層ビル。 中規模のこの町にある建物にしては大きい部類だ。 そんなビルの屋上に碧莞がニーハイソックスに包まれた足を乗せた。 ビルの構造は巨大な女子小学生の重さに耐えられるようにはできていない。 普通に足を下ろすのと同じようにビルは爆散して消えてしまう。 たった今、ビルを踏み潰した脚を軸にして反対の足を振り抜いてみる。 奥にあった別のビルにパンプスが捻じ込まれ、粉砕してから周囲にまき散らす。 ついでに足首を振って靴を脱ぎ捨てた。 「ん~♪ 建物が簡単に壊れちゃうの面白~い! ほらほら逃げろ逃げろ~」 幼く残虐な魔女が歩き出した。 建物の大きさは一切関係ない。 ビルも犬小屋も等しく踏み潰して瓦礫に変える。 ボーダー柄のニーハイソックスは意思を持って町を蹂躙する。 それを履きこなす女子小学生はキャッキャッとはしゃぎながら歩き回る。 「あっ、学校みっけ」 碧莞が見つけたのは小学校。 自分と同い年の子供が通う場所だが、残念ながらすでに帰宅時間を過ぎていた。 校舎に残っているのは教師と事務員だけ。 そんな事情などお構いなく碧莞は足を踏み入れ、最初に屋外プールを踏み潰した。 次は校庭の端にあるアスレチック、児童たちが育てた花壇、象徴とされた木々。目に付くものは順番にニーハイソックスのシミにする。 残った校舎をサッカーボールのように足の甲で蹴り飛ばすと、瞬時に粉々になって吹き飛んでしまう。 最後に残った体育館はジャンプして全体重を叩き付けて破壊した。 学校を蹂躙し終えた頃、すでに日は沈んでいた そろそろ夕飯の時間になるから帰らなければならない。 でも、最後にどうしても破壊してみたいものがある。 「あの大きいビルを壊すの楽しみだなぁ」 隣町にある高さ160メートルの超高層ビル。 今の町で遊んでいる間にもチラチラ視界に入ってきたのだ。 恐らくここからの距離は10キロ程度。 普通に歩いていけば二時間以上の距離だが、今の碧莞ならもっと早い。 「皆どいて~ 踏み潰しちゃうぞ~」 ズドン、ズドン、ズドン、ズドン! 150メートルの巨体が走る速さは時速2,500キロメートル。 小さくて可愛らしい22メートルの足が足元の全てを吹き飛ばしながら進んでいく。 魔女の三角帽子が風圧に負けて飛んで行き、無事だった住宅街を押し潰した。 途中にあった中層のビルとマンションを膝で蹴散らした。 電線を引き千切り、車を巻き上げ、商店街をクレーターに変える。 どんなものも碧莞には敵わない。 目的の超高層ビルがグングン迫ってくるが碧莞が足を緩めることはない。 風邪にたなびくマントがスピードを上げたことを証明していた。 高層ビルまであと数歩というところで、碧莞は思いっきり脚に力を込めて飛びあがった。 踏み込みで直径三十メートル以上あるクレーターを生み出し、碧莞の巨体は勢いのまま滑空していく。 姿勢を整えて脚を正面に突き出してみれば、綺麗な飛び蹴りの出来上がりだ。 ドッシャァアアンンンン。 碧莞の身体が高層ビルを爆砕し、その先にあった建物を何十と消し飛ばしながら着地する。 振り返るとさっきまで建物だった場所には粉塵だけが残されていた。 特撮番組のワンシーンのようだが、倒されたのは悪者ではなく善良な一般人。 そして倒したのは正義の味方ではなく悪戯好きな女子小学生だった。 「ヘヘッ 今年もたくさん壊しちゃった! 楽しかったぁ~」 二つの町で遊んでひとしきり満足した碧莞は帰路に付く。 近所のお姉さんが用意してくれる年に一度の楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまうのだった。


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