嫉妬
Added 2020-07-11 15:03:35 +0000 UTC嫉妬。 塔禾がそんな感情を覚えるのは初めてのことだった。 高校のグラウンド、その片隅にあるベンチにジャージ姿で俯いている。 短距離ランナーとして中学まで活躍していた彼女は、高校入学から記録を伸ばせないでいた。 どれだけ練習してもタイムは縮まらず、それどころか自己ベスト更新すらない。 陸上の強豪として知られたこの高校に集まってくる部員は誰もが優秀なのだ。 そんな環境にいればどうしても理解してしまう。 自分には才能がないのだと。 「クソッ! クソッ!」 子供の用に地団太を踏む塔禾。 足元のピンクのシューズが砂埃を立ち上げる。 ポニーテイルにした黒髪がそれに合わせて上下に揺れた。 もうすぐ昼休憩も終わりの時間になる。 ふと、部室の方へ目を向ければ自分と同じ女子陸上部の姿があった。 意識の高い彼女たちはすでに自主的にストレッチをしているようだ。 それに比べて自分はどうか。 ベンチで頭を抱えて呪詛を吐いているだけ。 これではすでにある差が縮まるはずもないし、だからといって仲間に加わりたくない。 自分のダメさ加減に嫌気が差す。 ついに休憩時間が終わった。 溜息をつきながらも部へ合流しようと立ち上がった。 その瞬間、ほんの一瞬だけ部員たちから視線が外れる。 次に顔を上げたとき、そこには誰もいなかった。 「あれ? おかしいな」 そう言いながらも部室へ向けて走り出す。 軽快な脚回りで進む塔禾。 その走りは一般的な女子高生より数段早かった。 集合場所になっている部室の前まできたが、誰一人そこにはいない。 ついさっきまで二十人ほどがいたはずなのだが。 その証拠に水筒やタオル、脱いだジャージが人数分そこに落ちている。 「おーい。みんなどこー?」 プチッ。 底の薄いシューズから何かを踏み潰した感触が伝わる。 ある程度の質感があったし、芋虫かカエルでも踏み潰したのだろう。 心底嫌そうな顔をしながら足を持ち上げ、靴底を確認する。 「うげぇ。キモッ!」 靴底には真っ赤な肉片がこびり付いていた。 塔禾は急いで靴を地面に叩き付け、前後左右に擦り動かす。 何度か擦れば靴底の汚れは完全に消え去り、代わりにコンクリに汚れがついた。 「最悪ッ!」 塔禾が足元を見下ろせば、何やら小さなものが何匹も蠢いていた。 いや、少し視野を広げればそれは何十もいるようだった。 虫に対する嫌悪感はただでさえイライラしていた塔禾の機嫌をより悪くしていく。 全部踏み潰してやろうか。 そんな負の感情が湧き出てくるが、そのうちの一匹と偶然視線が合わさったことですぐに引っ込んだ。 「え、嘘。これ人間の形してる? 服着てるみたいだし……」 塔禾はその場にしゃがみ込んだ。 視線の会った一匹に向けて手を伸ばして摘み上げてみた。 もともと虫は嫌いだが触れないわけではないのだ。 「……先輩?」 顔の前まで近づけてみれば、それが見慣れた人であることがわかった。 2㎝もないような大きさ以外は部活の先輩に間違いない。 だが、その顔には見たこともない表情を浮かべていた。 何やら叫んでいるようだが、キーキー言っているようにしか聞こえない。 「本当に先輩ですか? あ、あのっ! 何言ってるのかわかんないんです」 塔禾は決して大声ではなかった。 しかし単純な大きさの違いが女の子の声を音の洪水へ変えた。 小人の鼓膜が瞬時に弾け飛び、耳から血が噴き出した。 「え? 血? どうしたんですか?」 塔禾の声が再び小人を襲い、ついには気絶させてしまった。 単なるお喋りでも十分に暴力的なのだ。 「……」 摘まみあげたままの動かない小人をよく観察してみた。 間違いなく先輩だ。 だが、あまりに小さい。小さすぎる。 本当の先輩は自分よりも背が高いはずなのだ。 測ったわけではないが、指先と同じくらいで1.6㎝ほどだろうか。 しかも言葉が話せなず鳴き声をあげるばかり。 何を考えたわけでもないが、自然と小人を摘まむ指先に力が籠る。 ポキポキ。 あっさりと両腕の骨が砕けた。もう少し力をいれれば肋骨も壊れるだろう。 激痛で目を覚ました小人は大きな悲鳴をあげた。 その鳴き声はあまりに小さいが、辛うじて塔禾の耳に届いた。 「……ププッ、アッハッハッハ! なにこれ弱っわ!」 故意に指先に力を込める。 摘ままれた小人は強大な肉の壁に圧されて体が壊れ始めた。 苦悶に表情が歪む。 肉も骨も皮も関係なく破壊する指先はまるでプレス機の如く凶悪な力を持っていた。 「害虫は駆除しなきゃね。バイバイ、先輩そっくりの虫けらさん」 プシュッ。 小人の肉体が潰れる音は間の抜けたものだった。 閉じられた指の隙間から生暖かく赤黒い汚れが零れ落ちる。 適当に指先を擦り合わせてから残骸をピンッと弾いてみれば、小人は跡形も残らない。 指に付着した血は舌でなめとってしまえばいい。 塔禾はしゃがんだまま周囲を入念に観察する。 たった今磨り潰したのと同じくらいの大きさの虫が四方八方へ駆け出している。 仲間が無残に殺されたのを見て逃げ惑っているのだろうか。 虫たちは陸上部のユニフォームや学校指定の体操着、ジャージなどの各々が見慣れた服を着ている。 信じがたいことだし、あまりに馬鹿馬鹿しいが、虫の正体は部員たちなのかもしれない。 だが僅か1.6㎝の生き物が人間であるはずもないのだ。 塔禾はあまり深く考えないことに決め、とりあえず日ごろの鬱憤をぶつけてやることにした。 「せっかくだし着替えよっかな。大会用のユニフォームあるし」 着替えは目の前の部室の中にある。 普通の歩幅で四歩程度の距離だが、その途中に一匹の虫がいる。 へたり込んで自分を見上げているようだ。 塔禾はニヤリと笑ってその場で立ち上がった。 視線が倍以上の高さに移り、へたり込む虫はさらに小さくなったようだった。 二回だけ脚を動かせば、そのすぐ目の前にシューズを踏み下ろせる。 鮮やかなピンク色のシューズ。 入学当初から使い込んだお気に入りの靴だ。 塔禾の体重をずっと支え続け、内側には汗がしみ込み、外側は砂埃で少し色が変わっている。 「どう? 踏み潰されたい?」 軽く持ち上げた靴底を見せつけてやる。 自分の数十倍の大きさがあるシューズが軽々持ち上がる様子に小人は泣き出してしまった。 だが、そんな様子はシューズに隠れて見えないのだ。 「そんなわけないかっ!」 グシャ。 たった一踏みで小さな命を消し去ってしまう。 先ほどうっかり踏み潰したときは嫌悪感を覚えたが、今回覚えたのは爽快感だ。 自分の嫌いなものを排除した実感が満足感を与えてくれる。 気分が良いので何度か足を踏み下ろしてグチャグチャにして、最後は体重を掛けてグリグリ踏み躙ってみた。 「あ、ヤバ。これ超楽しい」 足を捻じる度に心が疼く。 抱えていたモヤモヤが消え去っていくようだ。 なかなか死体を踏み躙るのをやめられない。 ようやく気が済んだ時には小人の体は完全に液体と化していた。 靴底とアスファルトに半分ずつこびり付いてる。 「今から着替えるけど、五分もしないうちに戻ってくるからね」 相手が聞いていようがいまいが関係ない。 適当に言い放ってみれば心なしか小人の逃げ足が速くなった気がする。 もちろん、塔禾からすれば大した違いではない。 楽しみを残したまま、部室に入って着替えを始める。 ジャージと体操着を手際よく脱いで、大会用のユニフォームを取り出した。 臙脂色の生地に高校の名前を刺繍しただけのシンプルなユニフォーム。 上下に分かれたセパレートタイプの本格的なユニフォーム。 最初に見たときはまるで下着のように見えて気恥ずかしかったが、もう慣れてしまった。 身体に吸い付くような着心地でまったく重さを感じない。 部室の隅にある姿鏡に映る自分はうっすらと腹筋が割れていた。 忘れずに靴紐を結び直せば準備完了。 楽しい遊びの時間だ。 「みんなお持たせ~ 死ぬ準備はできたかな?」 自分の意地の悪さに思わず苦笑してしまう。 虫たちはこの数分でだいぶバラけてたようだった。 想像していた以上に遊びがいがありそうだ。 「まずはこれ片付けないとね」 塔禾は足元に散らばる部員たちの私物を蹴飛ばしていく。 エナメルカバン、ジャージ、タオル、水筒、普段なら決してそんなことはしないが、 どうせもう持ち主は帰ってこないのだ。 置いてあった食べかけの弁当箱はすぐ横にあったジャージを被せて踏み潰す。 何度かグリグリしてから蹴り飛ばすと、その陰から互いに抱き合った二匹の虫が出てきた。 この二人は塔禾もよく知っている。 自分と同じ一年生。一卵性の双子で400メートルリレーのレギュラーだ。 彼女たちもついさっきまで嫉妬を向けていた存在だったが、今は違う。 向けるのは嘲笑だ。 「ストレッチしよっかな~」 わざと二匹を跨ぎ越し、すぐそばに足を振り下ろしてやった。 二人の真上には臙脂色のスパッツに包まれたお尻。 無駄なく引き締まった小ぶりなそれに意思はないがどことなく楽し気に思えた。。 塔禾が膝を曲げることで、小人の何千倍もの質量をもつお尻は急速に落下を始める。 小人たちは喉が張り裂けそうになるほどの悲鳴を上げた。 それが功を奏したのか、彼女たちを押し潰す寸前でお尻の落下は止まった。 地面との隙間は1㎝もない。 二人の矮小な身体は女子高生の柔らかいお尻に覆われて全く動かなかった。 塔禾は座り込む直前に両手を後ろについて身体を支えていた。 それは、ほんの僅かに残した空間で友人を嬲るためでしかない。 スパッツ越しに小さな人型を感じる。 ちょうど上手い具合に左右で一匹ずつ捉えることができたらしい。 二匹ともそこから逃れようと必死に暴れているらしく、どうにもこそばゆかった。 「ん~? なんかムズムズするなぁ~」 ニヤニヤしながらお尻に力を込めて筋肉を引き締めた。 僅かに地面との隙間が広がった。 二匹が逃げ出そうとしたので、筋肉を緩めて再び地面に押し付けてやった。 引き締め、緩め、引き締め、緩め。 尻肉で何度も何度も虐めてあげる。 楽しかったがちょっと疲れてきた。そろそろ終わりにしよう。 「二人とも聞こえる~? そろそろ潰すけど、もしかして助かりたかったりする?」 スパッツ越しに伝わる動きが一段と激しくなった。 どうやら言葉は通じるらしい。 「私は優しいからどっちかだけ助けてあげるよ! 死にたくないって、お尻を叩いて教えてね」 お尻と地面の隙間で生き残ろうとする二人。 小さな命はあまりにも惨めな命乞いをすることになった。 力を振り絞って臙脂色の巨塊を叩く。だがどれだけ叩いても変化はない。 それは自分と同じ温かさと柔らかさを持つが、圧倒的な質量を持っている。 そして、自分たちを嬲り殺そうとする悪意も併せ持つ。 「うんうん。二人とも頑張ってるね! どっちにしようか迷うな~」 楽しくてしかたない。 塔禾にとっては単なる悪戯でしかないのに、二人は命懸けだ。 大きさが違う。 単純な違いだがどうあっても覆せない力の差。 遊ぶ者と死ぬ者の差だった。 「決~めた。えいっ!」 塔禾は左手を地面から離した。 身体を支えるバランスが崩れたことで、持ち上がっていたお尻が地面に付く。 左側でお尻を必死に叩いていた双子の妹は、あっさりと潰れて温かいシミに変わった。 「キャハハッ! プチッてしちゃった! 変な感触~」 ポリエステル地のスパッツに血がしみ込んできた。 命の温かさを感じて塔禾の気持ちが高ぶってくる。 器用に体を動かして左尻の下の遺体を磨り潰してやった。 満足したので重心を前に倒し、お尻を持ち上げた。 しゃがんだ姿勢で生き残った小人にこびり付く肉片を見せつける。 「ねぇねぇこれ見て! 汚れちゃった!」 臙脂色のスパッツについた血肉片。 遠目にはあまり分からないが、数十センチのところで見せつけられた小人は違う。 左の臀部に丸く赤黒いシミが出来ている。 あれがずっと一緒にいた妹なのだろうか。 「私ね、色々考えたの。やっぱり姉妹は仲良くしないとダメだよ」 塔禾の重心が徐々に倒れ始める。 巨大な身体を支える足に力を込めているのは、脹脛の膨らみでわかった。 伸縮する筋肉が生み出す微かな音でさえ小人には轟音だった。 「だからあんたも潰してあげる」 ストン。 塔禾はその場に座り込んだ。 特別に勢いをつけたわけでも、高くから座ったわけでもない。 本当に普通に座り込んだだけ。 小人の身体を粉々にするには十分すぎる暴力だった。 スパッツにシミが増える。 姉妹はなかよく一枚のスパッツに溶け込んで消えてしまった。 「これでよし! さて、じゃあそろそろ追いかけようかな」 最初の目的通り軽いストレッチを終えた。 最初の一人を誤って踏み潰してから十分ほどが経過している。 虫けら達はすでにあちこちに散らばって逃げていることだろう。 それを探して、潰す。 とても楽しい鬼ごっこの始まりである。 塔禾は平均的な体躯の女子だ。 身長も体重も特別なことはないが、体脂肪率は平均よりかなり低い。 物心つく前から続けた陸上競技が全身を引き締めている。 しなやかな筋肉に覆われた身体。むき出しの腹部には薄く腹筋が浮いている。 本職は短距離走だが、トレーニングに十分な体力は付けている。 高められた心肺機能によってフルマラソンのタイムは三時間を切っているのだ。 百分の一しかない虫けらがどれだけ必死でも関係ない。 普段よりも軽く余裕をもったジョギング。 まずは一か所しかない出口を目指して走り出した。 「あはっ。み~つけた!」 一人目は校庭のちょうど中心の位置で捉えた。 片脚を引きづるようにして歩いていた。 怪我でもしたのだろうが、塔禾にとってみればどうでもいいことだ。 小人は凄まじい足音に後ろを振り返り、157メートルの巨体が迫ってきていることを知った。 巨人はとてもゆっくりとした走り方をしていた。 あれなら疲れることなく長時間走り続けることができるだろう。 恐らく時速換算すれば10キロ程度でしかない。 しかし、その絶望的な体格差はそれを飛行機の巡航速度並みに変えてしまう。 自分が必死に移動した距離などものの数秒で詰められてしまった。 「邪魔で~す」 ズンッ。 ピンクのシューズで虫けらを一匹踏み潰した。 たまたま歩幅の調整がいらなかったので気軽に潰すことができた。 地面を踏みしめるのとは明らかに違う感触。 靴底にうまった肉片は何歩か進むうちに砂に混ざって落ちていった。 その直線状に今度は三人を見つけた。 どうやら逃げ出すのが遅かったらしい。 走るペースは小人にしては早く、おそらく大会でも上位を狙えるのだろう。 だが、残念なことに彼女たちは今は虫けらだった。 「残念でした~」 三人目掛けて足を振り下ろす。 が、少しあてが外れて一匹だけ踏み残してしまう。 思い通りにいかなかった塔禾は面倒くさそうにその場で立ち止まり、 もう一度シューズを踏み下ろして残った一匹を潰す。 苛立ちをぶつけるように足首から先を何度か捻れば、肉片は砂とゴムの摩擦で泥に変わった。 それから数十秒ほどで校庭の隅に到着した。 そこには自分と同じ色の服を着た小さな生き物が途方に暮れていた。 普段なら気にすることもない程度の段差が、彼女たちの行く手を塞いでいたのだ。 ほんの5㎝の園芸用ブロック。 隙間なく並べられたそれはまさに絶望の壁だった。 「追いついちゃった。さぁ、どうするぅ~?」 片手を腰に当てならが見下ろしてやる。 そこに固まっている二十人の反応はとても愉快で笑いそうになった。 座りこんだり、抱き合ったり、また逃げようとして走り出すものもいた。 中でも一番面白いのは跪いて必死に祈る虫だ。 そういえば留学生に熱心な信仰を持っているのがいた気がする。 「毎日熱心に祈ってるけどさ、どう? 神様は助けてくれそう?」 ズンッ。 祈りを続ける彼女の真横に足を叩き付ける。 塔禾は少し足首が痛いかな、くらいに感じる程度だったが小人は違う。 自分の何千倍もの質量を持つ塊によって生じる激震と衝撃波。 姿勢を保つことさえ出来ずにその場に倒れ伏せ、全身を激しい痛みが駆け抜ける。 あまりに恐ろしい力をいとも簡単に振るう女。 昨日まで一緒に練習していた友達だったが、ついさっきその存在は変わってしまった。 姿形と声に変化はないが心がおかしくなっている。 「ほらほらぁ~ 踏んじゃうぞ~」 ズンズンズンズン。 塔禾が肩幅に開いた両足を次々に振り下ろす。 なんてことはない足踏みだ。引き締まった脚が何度も持ち上がっては振り下ろされる。 自分たちの通う校舎以上の質量の持つピンク色のシューズが落ちる度、 途轍もない衝撃と絶望が小人を襲う。 立ち上る砂埃が嵐のように吹き荒び、縦断のように体中の切り裂く。 本能的に頭を手で守ってみているが何の意味もないのは明白だった。 「飽きちゃった」 グチャ。 突如として嵐は消滅した。 女子高生が気まぐれに足を止めたからだ。 引き換えに一つの命があっけなく奪われた。 透き通るような白い肌をもつ小人だったが、潰れてしまえば同じこと。 人の本質が平等なのだった。 「だいぶ汗かいちゃったな…… そうだ!」 塔禾がその場にしゃがみ込む。 高層ビルが崩壊するかのような錯覚。 小人の足が竦むのも無理はない。 そんなのに構うことなく手を伸ばし、上下のジャージを着た一人を摘み上げる。 「うわっ、汚っ!」 砂まみれになっている小人に嫌悪感を抱く。 だが、唇を細めて強めに息を吹きかければ解決する。 爆風よりも強烈な風が汚れを吹き飛ばした。 ある程度綺麗になったのを確認してから、右の脇に擦り付ける。 若い少女の熱気と臭気が籠る脇のくぼみ。 摘ままれた少女を擦り付けるたび、溜まっていた汗が小人のジャージにしみ込んでいく。 だが、予想通り汗はほとんど拭き取れなかった。 「使えないなぁ……ティッシュにもならないじゃん!」 自分の汗まみれになった小人を覗き込む。 哀れな虫けらは服も髪も顔も、全身がずぶ濡れになっていた。 口や鼻、耳から塔禾の汗が入り込んで呼吸ができない。 強めに擦られたせいで瞼が引き千切られ、眼球はすでになかった。 彼女は最期に涙を流すことさえできないのだ。 長袖のジャージを着ていただけで選ばれた少女の運命はあまりに残酷だった。 「役に立たないなら死んじゃえ」 摘まんでいた虫を地面に押し付ける。 幼い子供が砂遊びをするように、指先で地面に擦り付けていく。 小人の体は徐々に削られすり減っていく。 地面に残った10㎝ほどの赤黒い筋が彼女の全てだった。 「ねぇ、みんな。 もう分かってると思うけど、ウチは許すつもりとかないから」 足元で怯える二十名ほどに運命を教えてあげる。 希望なんてないし、奇跡なんておこらない。 誤解も勘違いもさせてあげない。 確実に死ぬ。 目の前の巨人にもてあそばれて殺されるのだと。 その現実をしっかり教えてあげるのだ。 「当たり前だよね。そんなに小さくて、弱くて、くだらなくて、無意味な存在のくせにウチに惨めな思いをさせたんだから。まだ生きていられるのはウチの優しさだよ」 自分の呼び方が小学生の頃に戻っている。 意識的に矯正してきたが、心の枷が外れている今では無意識に出てしまう。 それを恥ずかしいと感じることも無い。 だって、ここにいる人間は自分だけなのだから。 「いろんなやり方で殺してあげるから、元気よく泣き叫んでね」 普段の自分じゃない。 頭の奥にある冷静な部分がそうシグナルを送っているが、 遥かに強い嗜虐心がそれを塗りつぶしてしまった。 とにかく、足元にいる虫けらを虐めて嬲って殺したくて仕方ないのだ。 無造作に一匹の虫けらを摘み上げた。 そのまま手の中に包み、思いっきり握り締めた。 平均より強い塔禾の握力によって小人の体は弾け飛ぶ。 骨と肉を区別することなく破壊して圧縮していく。 握った手の平を開けば真っ赤に染まっている。 なんとなく顔に近づけて舐めとってみたが、鉄臭くて美味しくなかった。 「不味っ! なにこれ」 唾と一緒に吐き出す。 掌の汚れは地面に擦り付けて落とすことにした。 汚れが落ちたあとで、手を叩けばだいだい綺麗になった。 「ん?」 塔禾は小人たちがこれまで以上に怯えているのがわかった。 なんだろう。 残酷なことはたくさんやってきたのに、とりわけ怖がっている。 その答えはとても単純だった。 確かめるためにさっそく次の一匹を摘み上げる。 「クスクス。おやつにしてあげる」 小人に吐息を吹きかける。 寒い日に手を温めるように優しく温かい風。 それを受けた小人の震えが大きくなり、塔禾にもはっきり聞こえる叫びを上げた。 よくよく観察してみれば股間部にシミが広がり始めている。 捕食。 小人が怯えたのは原始的な恐怖だ。 パクッ。 小人の懇願を無視して口の中に放り込む。 すぐに歯と唇を閉じて全ての光を奪ってやった。 舌の上に暴れまわる小さな存在を感じる。 しばらく舌で嬲ってみた。 口蓋や歯に押し付けて骨を砕いてみたり、全身を舐めまわして衣服を奪い取ったり、唾液の海に沈めてみたりした。 小人の抵抗はどんどん小さくなり、今ではほとんど感じない。 器用に舌を動かして右の奥歯で小人の両脚を挟んだ。 ゆっくりと噛み潰していけば、体内から悲鳴が聞こえる面白い体験ができた。 最初は足首、膝、太腿と順番に?み砕いていく。 たくさん味わうために小刻みに潰していたが、五回も噛むと殆ど残っていない。 楽しみに残しておいた頭部も噛み潰してしまえば、口の中全体に鉄の味が広がった。 「べぇ~~ ぺっ、ぺっ」 唾液と混じってよくわからないものになった血肉を吐き出す。 小人にかけてやりたかったが、うまくいかなかった。 吐瀉物のように降り注いだ仲間の姿に小人は狂ったように騒ぎ出した。 「やっぱり美味しくない! 食べられもしないんじゃ、ほんとに無価値じゃん!」 入念に唾を吐く塔禾。 どれだけやっても生臭いのが取れない。 水でうがいしないとダメそうだ。 幸いすぐ近くに水道があった。 「あ、そうだ」 塔禾は立ち上がり、片足を大きく持ち上げて靴を脱いだ。 使い込まれたピンク色のシューズを足元に放り投げる。 突如落下してしてきた巨大な靴は一匹の小人を瞬時に押し潰した。 それを気にすることもなく、塔禾はもう片方のシューズも脱いで同じように放った。 靴と揃えて用意したピンクのアンクルソックスで地面を踏みしめる。 その足先で転がった靴を動かして、ちゃんと立った状態にした。 「ウチが戻ってくるまでに靴の中に入れたらイイコトあるかもよ」 そんな言葉を残して塔禾は歩き出す。 足元の虫けらどもを堂々と跨ぎ越し、彼女たちがどうすることもできなかった段差を軽々と超えていった。 残された小人は迷っている。 この隙に逃げるべきか、指示に従うべきか、命を懸けた選択。 多くの小人は指示に従うことを選んだ。 だが、塔禾のシューズは巨大であり、その中に入り込むのは容易ではない。 シューズの繊維にしがみ付きながら必死に登る。 全身の力を込めて中に入り込むと、凄まじい臭いが襲い掛かった。 十代の若い身体が放つ熱量はよく知っている。 何せ自分たちも同じなのだから。 本来の大きさであっても決して良いとは言えない臭いは、百分の一の彼女たちの意識を奪うことが出来るほどだった。 中に入った半数ぐらいはその場に倒れて動かなくなった。 ほどなくして地震が起こる。 その正体はもちろん、この電車より巨大な靴の持ち主だろう。 揺れが徐々に大きくなり近づいているのがわかる。 だが、完全に規則正しくはない。 時折立ち止まっているようだ。 「ただいま~ ねぇねぇこれ見て!」 そういって塔禾は足をかざす。 23㎝の足は靴の履き口を容易に覆い尽くしてしまう。 ピンク色だった靴下には様々なものが付着していた。 一番多いのは砂。続いて小石、雑草を踏んだシミなどだ。 その中でも目を引いた色は赤だ。 爪先の周辺に赤黒い汚れが集中しているのである。 「言うこと聞かない奴ら踏み潰したんだ~! 指先で押し潰して、握り潰して、グッチャグチャにしてやったの!」 上空を支配する巨大な足が指を動かせば、 こびり付いていた肉片が零れ落ちてきた。 いったい何人が犠牲になったのだろうか。 人の形を失っているため、それはよくわからなかった。 「あんたらはラッキーだね~ ほら、イイコトあったでしょ?」 笑い出しそうになる意地悪。 これは全く意味のない遊びだった。 自分の靴という狭い空間の中で怯える姿は愛らしくもあった。 あんまり可愛かったので、ご褒美を上げることにした。 塔禾は無造作に片方の靴を持ち上げた。 「ウチの靴の中は快適だったかな?でも、もっといいところに入れてあげる」 塔禾は胸元のユニフォームを摘まんで隙間を作る。 籠っていた熱気が溢れ、周囲に塔禾の臭いが一層強くなった。 紺色のスポーツブラもズラしてしまえば、柔らかい乳房が丸見えだ。 「ちょっと小さいけど勘弁してね」 塔禾の発育は残念ながらあまり良くはない。 引き締まった身体に相応しく、平均よりもだいぶ小ぶりだった。 それを塔禾はだいぶ気にしていた。 だが、今から行う残酷な遊びには十分な大きさがある。 開けた胸元に靴の履き口を近づけていく。 そして躊躇うことなく傾けて、中に入っていた小人たちを胸元に閉じ込めていく。 最後に摘まんでいたユニフォームを離せば、胸元は6人を閉じこむ肉の檻と化した。 「アハハッ なんか小さっいのが動いてる!」 塔禾は胸の下の腕を回して胸を持ち上げた。 そのままちょっと揺らしただけで中の小人は狭くて暗い空間を転げまわる。 谷間に落ちた小人たちはそこから這い出そうと藻掻いたが、十代の少女のきめ細やかな肌は掴むことができず、加えて汗ですべってしまう。 六人はまったく逃げ出すことができず、全身で塔禾にくすぐったさを与えた。 「ねぇ。せっかくだし揉み合いっこしようよ。まずはあんたたちからね」 夏の合宿なんかでよくやった女子同士のオッパイの触り合い。 なんだかんだ盛り上がって楽しかった記憶がある。 今度は百倍の体格差だが、はたして面白いだろうか。 6人の小人たちは塔禾の胸を力いっぱい揉もうとしたが、なにぶんそれは大きすぎた。 どんなに力を込めてもビクともしない。 「……弱っわ。全然気持ちよくないんだけど」 想像していたより遥かに刺激がない。 感じるのはくすぐったさだけ。 6人の力を合わせても、塔禾の指一本分の力にすら遠く及ばない。 「女の子の胸はね……こうやって揉むんだよ!」 塔禾は両手を自分の胸に当てた。 そしてゆっくりと、しかし力強く揉みしだいていく。 自室で一人でするのと同じくらいの力。 手の温かさと胸の温かさが交じり合い、女の子の温かみが生まれる。 段々とその温かさは体の芯まで伝わっていくのだ。 頬が火照り、汗が滲む。鼓動が高まっていくのが自分でもわかる。 谷間にいた一匹の体が柔肉に磨り潰されたのはほんの数秒後のことだ。 「あっ、んっ」 押し殺しきれない声が漏れた。 やっぱり今日の自分はおかしいのだ。 自分の胸が小さな命を奪ったことに興奮している。 一人でする時よりもとてつもなく感じてしまう。 残りの五人はどうしようか。 一人ずつゆっくり楽しんで…………いや、それじゃだめだ。 今すぐ欲しい。 「死んじゃえっ!」 グチャグチャグチャグチャ。 塔禾が胸を思いっきり寄せ合わせ、残っていた五人を瞬時にミンチに変えた。 だがそれでも手は止まらなかった。 塔禾が満足するまで胸に潰され続けた小人たち。 その遺骸は無残にも液化してブラを浸透してユニフォームに浮き上がった。 「はぁっはぁっ…… こんなの、おかしくなっちゃうよ」 火照った身体と荒れた呼吸。 途中からパンツがぐっしょり濡れ始めたのは分かっていた。 自分を慰める経験は無数にあるが、これほど心躍ったことはない。 たいして長い時間ではなかったはずなのに、全身に充足感と倦怠感が満ちている。 ドスン。 塔禾は崩れ落ちるようその場に座り込んだ。 恥ずかしげもなく脚を広げ、残っていたもう片方の靴を股間部の正面に捉えた。 「あとは…… 四匹だけか……」 シューズを真上から覗き込む。 靴という狭く臭い空間で怯えながら最期を待つかつての仲間たち。 これほど惨めな人生の終わりなどそうそうないだろう。 塔禾は彼女たちにほんの少しだけ同情したが、助けてあげようなんて考えは浮かばなかった。 無造作に靴を手に取って、逆さまにして振ってみた。 中にいた4人は次々に地面に激突し、全身の至る所で骨が砕けてしまう。 「ははっ、やっぱりみんな小さいね。そうやって寝てるとホントに虫みたい」 塔禾は手に持っていた靴を背後に放り投げる。 続いて膝を曲げていき、小人たちの両脇に横倒しの足裏で壁を用意した。 右足と左足。それぞれが高さ9メートル、幅23メートルの壁だ。 スポーツ用のアンクルソックスはピンク色で可愛らしいものだったが、 それが内包しているのは何十人もを虐殺した足だ。 そして今も塔禾がやろうと思えば次の瞬間にでも二つを合わせることができる。 その間の虫けら4匹など存在しないも同じことだ。 「最期だし教えて欲しいんだけど、訳も分からず虫けらみたいに小さくなって、女の子に嬲り殺されるのってどんな気分なの?やっぱり悔しかったりする?」 塔禾の問い掛けに返事はない。 最初から答えを期待していたわけでないのだ。 ただただ、彼女たちに惨めな思いをしてほしいだけだった。 塔禾は靴下に包まれた足指を動かしながら、両足で4人を捻り潰す妄想を繰り返す。 「ま、いっか。ウチは人間だから関係ないし! ……ねぇもういいかな」 塔禾は足を少し近づけた。 電車のように巨大な女の子の足裏が虫けらの空間を侵略していく。 残された最後の4人は倒れこんだまま動けず、逃げることはできそうになかった。 彼女たちにできるのは迫りくる靴下に怯えることだけだ。 「ハハハッ! 死んじゃえ♪」 パンッ。 両足裏が叩き付けられる音は乾いたものだった。 4人の体は瞬時に弾け飛び、彼女たちの生きた証は塔禾の靴下の汚れのみとなった。 「うーんっ!なんだかよく分かんないけど楽しかった~」 そのままの姿勢で真後ろに倒れこんだ。 快晴の空を見上げていると、気分がスッキリ晴れ渡るのを感じる。 ここしばらく、ずっと心にあった暗く辛い感情は微塵もない。 ストレス解消という言葉はまさにぴったりだった。 これからどうしようか、なんて面倒なことは後で考えよう。 塔禾は誰もいなくなった校庭に一人寝そべり、ゆっくり瞼を閉じて眠りについた。