ホテル
Added 2020-07-11 15:02:57 +0000 UTCホテル。 人によって様々な用途で使われる宿泊施設のサービスはピンキリである。 柊華が予約したホテルは一般的にはビジネスホテルと呼ばれ、 サービスは最低限だし部屋も狭いが格安であるのが特徴的だ。 数日前から宿泊している部屋に戻ると、ベッドに腰を掛けてため息をつく。 「またダメでしたか」 手に取ったスマートフォンには不採用通知。 先月、その場のノリで勤めていた会社を踏み潰した柊華。 再就職に向けた活動中であるが、なかなか上手くいかない。 この数カ月で各地を襲った大規模災害によって多数の企業が倒産し、 町には人間が職を失った人が溢れているのだ。 国家財政ですら破綻が噂される中、就職活動は困難を極めていた。 その原因の一端が自分にあるとしても、ストレスの溜まることに変わりはない。 「そろそろ気分転換が必要ですね」 柊華はベットから立ち上がり、窓から外を覗いた。 駅に近い大通りに面していることもあって、人通りは夜まで途切れることはない。 人混みの中から適当に選んだ一人を百分の一に縮小して転送し、右手で摘まむ。 突然の出来事に驚き、周囲を見渡す小人の様子が滑稽だった。 「小人さん、こんにちは」 適当に選んだ小人は少年だった。 私服なのでわからないが、おそらくは妹と同じ高校生くらいだろう。 幼い顔つきは可愛らしくもあった。 適当に摘ままれているだけでも相当苦しいのか、顔が苦痛に歪んでいた。 頭に酸素が送られないことで数秒もしないうちに失神してしまう。 「挨拶も出来ないなんてダメですね。お仕置きしてあげます」 動かなくなった小人を握る手を頭の上まで持ち上げ、そこから全力で床に叩き付ける。 百メートルを落下した小人の体は潰れて床にこびり付き、カーペットにシミを作った。 当然ながら即死である。 だが、柊華はその上にパンプスを振り落とし、さらにはグリグリと踏み躙った。 何度か捻ってから足を持ち上げてみれば、小人の体は原型を留めていない。 「ちゃんと反省しましたか? フフッ」 返事など出来るはずもない小人だった肉片。 パンプスの底からは生温かい血肉が零れ落ちる。 靴底を床に擦り付けて汚れを拭いとる。 就活中の柊華は久しぶりのスーツ姿。 学生時代に購入したスーツは黒無地の無難なもので、前職では着る機会がなかったので新品も同然だ。 背が高くなりすぎないよう低めのヒールを選んではいるが、それでもタイトスカートから伸びる脚は長い。 黒のタイツを履いてスラっと伸びた脚は小さな生き物を虐めるのが大好きだった。 次は5人をまとめて床に転送する。 2cmに満たない彼らのすぐそばに足を落としてやれば、各々が必死に走り出す。 彼らの走る速度はあまりに遅く、どれだけ眺めていても大して進んでいないように見える。 試しに一人に狙いを付けて一歩踏み出せば、そのまま何の問題もなく踏み潰すことができた。 「クスクス。足元にいると危ないですよ」 柊華はドアに向かって3歩歩いてみた。 あまり広くない部屋はそれだけでドアの目の前まで移動することが出来る。 小さな小人の真上を巨大なパンプスが通過し、生じた暴風が小人の足を止める。 振り向いてしゃがみこめば、先頭を走っていた小人がへたり込んでいた。 自分の遥か頭上を当然のように巨体が通過したことに怯え、動けなくなっていた。 「あなたは足が速いのですね。でも残念、私には勝てませんでしたね」 腰を抜かし立ち上がれない小人に微笑みかける。 しゃがんだまま手を伸ばし、小人の前に指の爪で壁をつくる。 そのままデコピンの要領で弾いてみれば、小さな体は血飛沫にかわってしまう。 血飛沫の飛び散った先に二人の小人がいた。 女の子同士で震える身体を抱き合い励ましあっているようだった。 そんな二人に手を伸ばして引き離した柊華。 しゃがみ込んだまま小人を握って持ち上げる様子は、人形で遊ぶ子供の様であった。 「お二人は仲が良いのですね」 柊華はその場で立ち上がって小人に話しかける。 単に姿勢を変えただけでも、小人からすれば凄まじい急上昇だ。 体に掛かる負荷で内臓が潰れそうになる。 右手の小人は鼓膜が破れたのか耳から血を流していた。 しかし、そんな些細なことは柊華に気づかれることすらない。 柊華はその場で器用に足を擦り合わせることで、手を使うことなくパンプスを脱ぐと、 再びしゃがみこんで脱いだばかりのパンプスの中に小人を入れた。 もちろん、片方に一人ずつであり一緒になどしてあげない。 柊華にとってはちょうどいい25㎝のパンプスも、小人にとっては自宅より広い監獄だ。 つい数秒前までは足で満たされていた空間であり、相応の臭いが残っている。 閉じ込められた小人は意識を奪われそうになりながら、ヒールが生み出す傾斜を転がって爪先に叩き付けられた。 「女性の靴の中はどうですか? あまりに惨めで死にたくなりますよね?」 柊華は右足のパンプスの履き口を足で塞いだ。 厚めの黒タイツに包まれた足裏が小人から光を奪い取る。 小人は汗と革の臭いが充満する密室に閉じ込められ、次第に酸素が薄くなることに恐怖した。 何も見えなくとも頭上に凄まじい質量を持った肉体があることはわかる。 柊華の若い身体はタイツ越しにも健康な脈動を放っているのだ。 しばらく完全に閉じ込めてから足をどけてあげると、中の小人は横たわって動かないでいた。 よくよく見れば微かに動いており死んだわけではないようだった。 現に今、急激に明るくなった空に顔を向けて懸命に深呼吸しているようだった。 自分と同じ人間だった小人。 同じように生きていて、同じように命を持つ人間だ。 それが今では虫のように小さくなってパンプスの中で死にそうになっているのだ。 そして、それをいつでも捻り潰すことができる自分。 とくとく湧き上がる衝動を抑える必要などなかった。 「殺してあげます」 自分のパンプスの中に足を滑り込ませる。 爪先が小人を突き飛ばし、指の付け根がその小さな体をインソールに押し付ける。 足を包んだタイツはその滑らかな触り心地とは裏腹に、凄まじい重量で小人の肉体を圧迫する。 せっかく整えた呼吸を瞬時に乱され、肺から空気を搾り取られた小人。 意識が遠のくが全身の骨が砕ける激痛で無理矢理現実に引き戻される。 悲鳴をあげることすらできずに小人の身体は潰れてしまうのだった。 「簡単に死んでしまいましたね……そうだ」 柊華は再びパンプスから右足を引き抜き、たった今小人を捻り潰した足裏を左のパンプスの履き口に翳した。 突如として現れた巨大な黒い天井。 小人が見上げる足裏には赤黒い肉片がこびり付いているのだが、漆黒の布地では目立たない。 親友の亡骸を見てもなんとなく色が濃いような気がする程度の印象しか持つことができないのだ。 「見えますか? この汚れがあなたのお友達ですよ」 軽く足を振りながらパンプスの中の小人に教えてあげた。 巻き起こった汗臭さに微かな血の匂いが混じっている。 ついさっきまで一緒に遊んでいた友達は、この残酷な巨人に踏み潰されたのだ。 そして次は…… 確実に来るであろう死の恐怖に小人は泣き崩れた。 その様子に嗜虐心を刺激された柊華。 もう少しだけ絶望させてみたくなった。 「少し動かしますよ」 持ち上げていた足でパンプスをこずいた。 小人にとっては電車よりも巨大な空間だが、柊華からすれば単なる履物に過ぎない。 いともたやすくパンプスは横に倒れ、中の小人は床に放り出された。 全身を地面に叩き付けられた小人はとっさに動いた両腕を骨折していた。 そのせいでうまく立ち上がることができない。 一刻も早く走り出し、この狂人から逃げなければ。 死を目の前にして思考が狭くなり、それに意味がないことを理解できなかった。 何度か挑戦してようやく立ち上がることができた瞬間、頭上から降ってきた巨大な足が身体を床に押し付けた。 「十秒だけ踏み潰さないで待ってあげます。生き残るチャンスですよ。……クスッ」 背中に感じる莫大な重圧。 自分のことなど一瞬で潰してしまえる強大な足。 人肌の温もりと柔らかい脂肪を備えているが、これは決して優しさなどとは無縁の存在だろう。 百メートルを悠々超える高さから聞こえる楽しげなカウントダウンは止まらない。 小人が死力を尽くしてどれだけ暴れようとしても、柊華の足裏は全く動かないのだ。 圧倒的な体格差。一人で山を動かそうとしているようなものだった。 「約束の時間になってしまいましたね」 カウントダウンを終えた柊華が呟く。 足裏に捕らわれて動くことさえできない小人の気持ちに思いを馳せる。 怖いのか、悔しいのか、それとも全く別の感情なのか。 当然ながらいくら考えても柊華には分からない。 柊華は人間であり、人間の気まぐれで踏み潰される虫けらなどではないからだ。 絶妙な力加減で小人を生かしていた左足の力を抜いて、普通に立ってみる。 プチ。 たったそれだけで小さなものが弾ける感触と温かいシミが生まれたのが分かった。 仲の良かった小人たちは柊華の両足で消え去り、二度と会うことは叶わないのだった。 柊華は残りの小人を探す。 さっと見渡しても姿はないが、この狭い部屋では隠れる場所など限られる。 ベッド、机、椅子、ゴミ箱。物陰になりそうなものはそれくらいだ。 順番に見ていけば椅子の脚にしがみ付いている小人を見つけることができた。 「椅子に上りたいのですか? なら乗せてあげます」 適当に小人の服を摘み上げ、そのまま椅子の上に乗せた。 ソファに似た作りの椅子は背もたれとひじ掛けで三方を覆われている。 もし小人の視点から見ることがあれば崖のように見えるだろう。 唯一、視界の開けた正面には二本の黒い巨塔が並び立ち、その頂点はオーロラの中に消えていく。 就活性の着るタイツとスカートでさえも、百倍という非常識な大きさであれば恐怖を呼び起こすことができるのだ。 「私も少し疲れたので座りますよ。押し潰してしまったらごめんなさい」 椅子に背を向けて腰をかがめる柊華。 座る動作など本来は一瞬であるが、小人を怖がらせるためわざとゆっくり動く。 お尻が突き出されてタイトスカートが盛り上がり、そのまま座面に向けて下ろされる。 狭い空間で小人が逃げ惑っているが、当然ながら出来ることは殆どない。 飛び降りて死ぬか、柊華のお尻で潰されて死ぬかを選ぶことだけが可能だった。 柊華のお尻が落下した瞬間、小人の姿は見えなくなった。 「フフフッ」 見えなくなった小人はまだ生きていた。 開かれた太ももの間、股間の正面にあるわずかな空間。 柊華がお尻で押し潰す寸前に思いついた悪戯のために小人は生かされていた。 「命の終わりに見るのが女性の下着です。嬉しいですか?」 小人は何も答えない。 もう死んだと思っていた自分が生きている。 目の前にある理解不能な光景といい、受け入れられるはずもない。 黒いタイツの奥に隠れた下着はおそらく黒系統なのだろう。タイツと混じってよくわからない。 「変態は許せませんね。死んでください」 パンッ。 そんな音がはっきり聞こえるほど強く太ももが閉じられた。 再び小人の姿が消えるが、今度はどれだけ待っても見つかることはない。 柊華の太ももが矮小な身体をぐちゃぐちゃに変え、タイツの繊維で絡めとったからだ。 何度か太ももを擦り合わせて小人の痕跡を完全に消し去る。 さっき用意した小人を使い終わった。 もう少し遊ぼうと再び窓の外を覗き込むと、先ほどよりも人通りは格段に増えていた。 似たような紙袋を持った人が多く、おそらくは何かのイベントでもあったのだろう。 歩道を埋め尽くす人々の数は一万人程度であり、柊華の心が躍った。 これだけの人を使わないのはもったいない。柊華はとっさに自分の身体に魔法をかけた。 さっきまで利用していたホテルも存在しない。 500メートルから見下ろす街並みは玩具のように小さく、当然ながら小人もより小さな存在となる。 75メートルの巨大な足が周辺の建物を何棟もまとめて瓦礫に変えている。 それが二足。 300倍の巨躯となった柊華は足元に溢れている一万人の小人に視線を向けた。 「まだ疲れが取れていません。ここで休ませていただきます。」 柊華は小人で溢れる道路を跨いだまま座り込む。 無数の建物と小人を巻き込んで下ろされたお尻と長い脚。 座っただけなのに何百という小人が死んでしまう。 だが、それは無意識で行われたことであり、特に柊華を喜ばせることはない。 柊華が意識しているのは脚の間に伸びる道路と、そこに犇く一万人の小人たちだ。 「フフッ、この町には変態が大勢いるのですね」 ほんの少しだけ右脚を動かしてみた。 脚がぶつかった建物は大きさに関係なく破壊され、瓦礫と化し、磨り潰されて消え去ってしまう。 女の子が脚を動かす。 たったそれだけなのに数十の小人の命が消える。 圧倒的な力を持つ脚を止めることはできない。 女の子がその気になれば脚を閉じるなど簡単であり、それによって生じる惨劇はこの比ではない。 状況を理解した小人は柊華から逃れようと走り出した。 「クスクス。逃げなくてもいいじゃないですか。女の子の脚、触りたいのでしょう?」 柊華は座ったまま右脚を振り上げた。 250メートル脚が巨大な棟であるかのように聳え立つ。 そして、真っすぐに伸びる目の前の道路に合わせれば、小人たちの背中に長い長い影を生み出す。 四車線ある広い道路でも柊華の太ももが収まりきることはない。 このまま振り下ろせば、道路上の全てを脚の背面で押し潰すことができる。 そして、ちょうど踵が駅の真上に落ちるだろう。 たった一瞬で一万の小人を潰してしまえるのだ。 タイツに包まれた太ももを手で撫でながら今から行う虐殺を想像して心が震わせる。 柊華はあまり我慢が好きではない。 小人の運命はさほどの時間を待たずに決まった。 「特別に触らせてあげますね。……死ね」 柊華は持ち上げていた右脚を振り下ろした。 超高層ビルと同じだが、その数十倍の質量を持った女の子の脚が小人たちを叩き潰した。 真下にあるもの全てを瞬時に押し潰し、その重量を持って大地にめり込ませる。 踵が直撃した駅など跡形もなく消し飛んでした。 生じた衝撃によって周囲の建物は崩れ去り、あたり一帯は廃墟と化した。 片脚だけで行われた大虐殺は柊華の心を十分に満足させた。 しかし、柊華はまだ帰ろうとしない。 「左脚にもやらせてあげないと可哀そうです」 座ったまま体の向きを反転させる。 お尻のしたでは瓦礫たちがさらに捻じり潰され砂になった。 巻き込まれた小人の姿など欠片も残りはしない。 右脚で破壊し尽くした道路は長く続いており、柊華の身体で挟んだ向かいにもまだ小人は残っていた。 先ほどと同じ要領で今度は左脚を振り上げる。 「数が少ないですが仕方ないですね。それでは、さようなら」 叩き付けた左脚は、少ないとはいえ千以上の小人の命を奪い去った。 やはり生じた衝撃波が再び周囲に襲い掛かり、一回目では倒壊しなかった建物を今度こそ破壊したのだ。 柊華が大きくなってから一分も経っていないのに、二万人近い小人が虐殺された。 その場で立ち上がって周囲を見渡せば、柊華が動かずに踏み潰せる範囲に無事なものはなにもない。 地方都市の中心部と三万人の犠牲によって柊華のストレスは解消されたのだった。