コスプレ
Added 2020-07-11 15:02:33 +0000 UTCコスプレ。 もし今年の文化祭が中止されていなければ実沙のクラスの出し物だった。 最近はディスカウントストアでも豊富な扱いがあり、割とお手軽な出し物だ。 もちろん、アニメキャラのような専門的なものは特注になってしまうが。 実沙の住むマンションの一室、衣装室として使っている部屋のクローゼットには何種類かのコスチュームが並んでいる。 いつかこれで遊ぼうと少しづつ買い揃えていたが、なかなか出番がないのだ。 このまま眠らせておくのも勿体ない。 だからこそ今日はこれらを使って遊ぼうと思うのだ。 最初に選んだのはメイド服。 クラシカルなデザインだがスカートだけは異様に短い。 白のニーハイソックスとスカートの間から柔らかそうな太ももが覗く。 室内だというのに黒のパンプスを履き、高めのヒールが床に食い込む。 光沢ある尖った爪先は天井の光を反射している。 「あら。お部屋に虫が湧いていますね♪ メイドさんがお掃除しますよ~」 もちろん、実沙の綺麗な部屋に虫など湧くはずがない。 この小芝居のためだけに千分の一まで縮小された小人たちだ。 五百人近くの極小の存在は蟻と同じかそれよりも小さい。 持ち上がった女の子のパンプスでさえも、高層ビルより巨大なのだ。 「すい~っと。フフフ、お掃除お掃除♪」 爪先だけ下ろしてそのまま前に滑らせる。 パンプスの靴底が哀れな小人を磨り潰しながら三十センチほど動いた。 たったそれだけで百人の小人が床のシミになって消えてしまう。 「虫けらさん頑張らないと死んじゃうぞ♪ ……えへへっ、それ!」 靴で足元を軽く叩いた。 山のように大きな巨足が生み出す衝撃波が小人を襲い、 ゴミクズのように宙に持ち上げて地面に叩き付けることで、本物のゴミクズに変えてしまう。 実沙がほんの少し動くだけで、当たり前のように何十人もの小人が死んでしまうのだ。 「えい! えい!」 タン。タン。 パンプスが床を叩く度に小人がその数を減らしていく。 中には直接靴底に押し潰されて死ぬ小人も出始める。 実沙の悪戯が終わったときには、生きている小人は百人を割り込んでいた。 魔法を使い、彼らを一か所に集めて動けなくしてみる。 床に寝そべって彼らを正面に捉えて微笑みかける。 「よく見たら虫じゃなくて小人さんですね。間違えて沢山殺しちゃいました。ごめんね♪」 話しかけてみるが小人たちには聞き取ることが出来ない。 あまりに暴力的な声量に一瞬で鼓膜を破壊され、口から零れる吐息は爆風の如く襲い掛かってくる。 ビルよりも遥かに巨大な顔は確かに美しく、笑みも浮かべているが、目の奥の狂気だけは隠しようもない。 自分たちをどう殺そうか、それを楽しみにしているのが誰の目にも明らかだった。 「お詫びにオッパイに触らせてあげます♪ ついでに最期だけご主人様って呼んであげますね」 実沙は少しだけ状態を起こす。 腕を曲げながら床に手を付き、力を込めて小人を磨り潰す準備を整えた。 このまま腕を伸ばすだけで正面にいる百人の小人を殺すことができる。 「ご主人様♪ メイドのオッパイを堪能してくださいね!」 ゆっくり腕を伸ばしていく。 上半身が僅かに動く度に巨体と小人の距離が縮まり、ついには先頭の小人に胸が当たる。 小人が潰れることで白いエプロンにシミが出来る。 そのまま次々に小人がシミに変わり、そのたびに微かに潰れる感触が胸に伝わる。 「それ~ プチプチプチ~! なんちゃって♪」 小馬鹿にしながら一気に腕を限界まで伸ばした。 プチプチなんて可愛い表現ではない。 何十人もの小人が一斉にエプロンの下に消えるのは、まるで本当の掃除のようだった。 実沙が立ちあがると生きている小人は残っていない。 だが、床にはまだ多少なりと原型を留めている遺骸が散らばっているので、 パンプスで寄せ集めてから一気に踏み潰した。 「これでお掃除完了です」 部屋に散らばった汚れと肉片を魔法で消し去る。 実沙にとって掃除など一瞬で終わること。 この虐殺も最初から最期まで、単なるお遊びでしかないのだ。 続いて取り出したのは白のナース服。 今では廃止されたキャップを頭に乗せ、脚にはメイド服と同じニーハイソックスを使いまわす。 足には滑り止めのついた白いサンダル。全身が真っ白だった。 しばらく鏡の前でポーズを決めていた実沙だが、満足すると部屋の隅にあるベットに近寄る。 胸に手を当てて魔法を使い、ベットの上に千分の一まで小さくした街を転送した。 ベットに敷き詰められた町。いったいどれだけの人が暮らしているのだろうか。 「せっかくナースさんですし、まずは患者を用意しないといけませんね♪」 実沙は脚を真っすぐ伸ばしたまま持ち上げる。 Y字よりもIに近い角度まで持ち上げられた長い脚は、片脚だけでも町にあるすべての建造物を凌駕している。 圧倒的な存在感を放ちながら町を見下ろしているのだ。 「小人さん、いまからみ~んな怪我人にしちゃいますよ! えいっ☆」 踵落としの要領でベットに脚を叩き付ける。 山のように巨大な脚は真下にあった町の中心部を一撃で葬り去る。 そこにあった高層ビルも何十とまとめて叩き潰し、何千もの小人を跡形も残さず消し去った。 生じた衝撃波が町中に広がり、波紋が広がるように建物が倒壊していく。 ベットの弾力によって衝撃波は上下左右に拡散され、街並みを瓦礫の山に変えていく。 そこにいた何万という小人もほとんどが死に絶え、残るのは僅か数パーセントのみ。 その数パーセントでさえ無傷の者はなく、呻き声をあげながら命の火が消えるのを待つのみ。 実沙の踵落とし一回で生じた被害は災害と表現するほかないものだ。 「皆さん大丈夫ですか~♪ 今から看病してあげますね!」 実沙はポケットから体温計を取り出した。 少し古く脇に挟んで使うタイプの体温計の先端部分を瓦礫の山に近づけ、 目ざとく見つけた小さな生き物に押し付ける。 突如として襲い掛かってきた巨大な何かの正体を小人が知ることはない。 加減などできずにそのまま押し潰されてしまったからだ。 「う~ん、体温が測れないと困りますねぇ……」 顎に手を当てながら悩むフリをしてみる。 クスクス。 そんな笑い声が口から零れた。 「なら私と一緒に測りましょうか」 廃墟で生き残った蟻よりも小さな小人を魔法でかき集めて球体状にしてみる。 ピンポン玉と同じくらいのサイズのそれは何千という小人が隙間なく寄せ集められたものだ。 胸元を手で開けて小人の塊を服の内側に入れ、右脇の下で固定した。 申し訳程度の言い訳に体温計も脇の下にあてることで準備は完了した。 「皆さん一緒に体温測定です♪」 ギュっ。 右の腕を体側に押し付けると、球体は一瞬にしてその形を失った。 脇の窪みに嵌るように形を変えていき、続けて凄まじい圧力によって人体が弾け飛んでいく。 敏感な脇で何千という小人が弾けたことで、実沙はくすぐったさを覚えた。 そして、それを消すために無意識に力を込めて脇を擦り合わせてしまう。 何千人分の血と肉片がナース服の袖を汚していった。 「う~ん。懸命の看病も虚しく皆さんご臨終ですね☆ お悔やみ申し上げます♪」 念のためナースサンダルを履いたままベットに上り、瓦礫とかした町の上で足踏みしておく。 一歩踏み下ろすごとに足がベットに沈み込むのがわかる。 十秒も続ければ元がなんであったか想像することさえ出来ないほど細かく、まるで砂であるかのように町は破壊され尽くしてしまった。 次の衣装は巫女装束。 これまでの二着と異なり赤い袴がとても特徴的だった。 黒く長い髪の実沙が着ると、まるで本物のようだ。 ただ一点、これまでのコスプレと比べて足りないものがある。 履物がないのだ。l 足袋を履いた足が直接床を踏みしめている。 「あれ? 草履の上に小さな町がありますねぇ。神に仕える巫女さんの履物にゴミを置くなんて、罰当たりですよ♪」 もちろん、草履に乗る町など存在しない。 実沙が適当に選んで十万分の一まで縮めた本物の町だ。 突如として周囲の環境が激変した町の小人たちは、その理由に未だ検討すら付いていない。 自分が細菌のごとく小さくなってコスプレ女子高生の玩具になっているなど想像することもできないだろう。 だが、そんな彼らは次の瞬間には全員が全てを理解した。 見えもしない彼らを絶望させるためだけに、実沙が魔法で彼らの頭に情報を送りこんだのだ。 突如として起こった尋常ならざる理不尽に対し、憤る者、諦める者、発狂する者、そして逃げ出そうとする者。 狂乱の様子を覗き見て実沙は満足げにほほ笑んだ。 「でも急に潰したら可哀そうですよね。十秒だけ待ってあげます♪」 まったく意味を成さない猶予を与えて小人の反応を楽しむ。 本当なら魔法など使わず直接それを見物したいが、十万分の一では到底無理な話だ。 この町で一番運の良い小人は飛行機に乗っていた。 考えられる中で最も高速で移動することができる乗り物であり、助かると信じていた。 だが、飛行機の大きさも十万分の一であり、実沙の与えた十秒の猶予では1㎝すら移動できない。 小人のうち何人かは人生最期の時間を簡単な算数に費やし、そして絶望の中で正気を失うことになった。 「さて、約束の時間ですよ」 実沙は右足用の草履に足を近づけ、その鼻緒を足の指先で摘まんだ。 真っ白な足袋は親指とそれ以外の指を分けており、その間に挟むようにしている。 クイッ。 そのまま足首を持ち上げれば、たったそれだけの動作で草履の上に広がっていた町は砂が零れるようにして消えて無くなった。 ある日突然、何千メートルも大地が隆起することを想定しているはずもない。 もちろん、そこに住んでいた人々も運命を共にしている。 上空を飛行中だった飛行機も草履に巻き込まれて痕跡すら残らない。 数十万の命を奪ったのは片足の些細な動きだけだった。 「あっけない最期でしたね。さて、左の草履はどうしましょうか」 なんの面白味もないまま大虐殺を働いた実沙。 右の草履を床に下ろし、まだ町が残る左の草履と比べてみる。 全く同じように見えるが、百円玉ほどの黒いゴミがあるかどうかだけが異なっている。 それこそがこの後虐殺される小人とその町なのだ。 「せっかく草履の上なんですし、素直に踏み潰されてみますか?」 左脚を草履にかざす。 町の小人たちは自分たちの町の数十倍を覆いつくす巨大な足袋に恐怖した。 内包されている足指の一本ですら、この町の質量全てを上回る。 そんな指が五本揃い、またその指を遥かに超える足全体が存在している。 もはや浮遊大陸と言っても過言ではない。 たかが女子高生の片足は核兵器すら比較にならないほどの破壊力と悪意を秘めているのだ。 「うん。やっぱりそれが一番ですよね♪ ほらほらぁ~ 履いちゃいますよ~☆」 足を軽く振って驚かせてみる。 足を振ることで生まれた風が暴風となって町に襲い掛かる。 自然界ではありえない強大な力を秘めた風は建物を大きさに関係なく粉々に変えていく。 人、車、住宅、ビル、さらには地下施設に至るまで、小人の作った全てが瞬時に破壊され吹き飛ばされる。 数十センチ上空で女子高生が足を三回振ったことで町は消滅してしまったのだ。 だが足はそれに満足することなく降下を始め、鼻緒に指を通した。 そのまま躊躇なく足裏全体を靴へ下ろす。 白い足袋は町の残骸を蹴散らしながら降り立ち、残った全てを圧し潰す。 何度か足を擦り合わせてから足袋を引き抜いてみれば、微かに黒っぽい汚れが付いている。 何十万という小人の最期などそんなものだった。 「罰当たりな小人さんは天罰を受けて死んでしましましたとさ♪」 あまりにも惨めな最期を遂げた小人たち。 両足を合わせれば百万人近くいたはずの彼らは、ちょっとした気紛れのための消費されてしまった。 足袋の足裏を手で叩けば彼らの痕跡はどこにも残らなかった。