姉妹
Added 2020-07-11 15:02:08 +0000 UTC姉妹。 実沙と柊華は三つ違いの姉妹だ。 幼い頃はとても仲の良かったが、柊華が中学生になったくらいで関係が変わってきた。 もともと明るく友達も多い柊華と、内向的で一人が好きな実沙。 性格的には正反対であり、柊華の進学によって一緒に過ごす時間が減ってから交流が減るのも当然と言えば当然だった。 特にそれぞれが一人暮らしを始めてからは年に数回しか顔を合わせることもない。 お互いにそれを問題とは思っていなかったし、別に険悪なわけでもない。 そして、そんな状態に変化があったのはつい先週のことだ。 実沙は姉から送られた遊びの誘いを承諾したのだった。 足元に広がるのは住宅街。 並び立つ二人の足元ではすでに家が踏み潰されていた。 数千万円の小さなゴミを生み出す四本の巨塔うち、一組は真っ黒のショートブーツだ。 ブーツに続いて伸びる真っ黒のニーハイソックスは、実沙の白い太ももと実に対照的である。 さらに見上げれば赤チェックのミニスカート。上着はグレーのパーカーだった。 「スカートの中覗いちゃダメですよ♪」 背中で手を組みながら当たり前のように足元を逃げ惑う小人の上にブーツを落とす。 数棟の家と何十かの小人を踏み潰すも、固い靴底は実沙に踏み潰した感触を与えない。 グリッ、グリッ。 物足りない実沙は足を捻ってさらに周囲を破壊しつつ、足元のゴミを磨り潰す。 23メートルの巨大なブーツが動き回る様は、まるで怪獣が暴れているかのようだった。 「手伝ってあげる」 巨大なブーツから逃げ延びた小人。 一息つく間もなく、そこに真っ赤な靴が降りてきた。 その靴はヒールがなく、足首をギリギリ隠せないフラットシューズだった。 平らな靴底は小人を確実に踏み潰すことができる。 白のブラウスとスキニーデニムという柊華のシンプルな服装の中で、ひときわ目立つのが真っ赤な靴であった。 二人が遊びに選んだ町はすでに恐慌状態にあった。 突如として現れた百メートルを優に超す二人の巨人たち。 楽しそうに、遊ぶように、当然のように町を破壊している。 足元の惨状は見えないが、肌で感じる揺れに相応しい虐殺のはずだ。 小人たちはどこが安全なのか分からないまま、とにかく走り続けることになった。 実沙が住宅を踏み潰せば、柊華は小人を磨り潰す。 柊華が住宅を蹴り飛ばせば、実沙は小人を捻り潰す。 止むことなく振り下ろされる四足の靴によって、住宅街は数分立たずに瓦礫の山と化した。 次に二人の目に留まったのは住宅街のはずれにある高層マンションだ。 先ほどまでの街並みと比べると、明らかに不釣り合いで150メートルもある新築マンションだった。 周辺の反対を押し切って去年竣工し、来年以降は同型のマンションが周囲に立ち並ぶ計画だった。 半分くらいまで出来上がっていたマンションを実沙がブーツで蹴りつけて破壊し、まだ基礎工事の段階だったマンションを柊華が踏み潰す。 二人はちょうどマンションを挟み込むように並び立つ。 「まだ逃げてないんですか? なら遠慮なく遊んじゃいますよ♪」 実沙は片手でマンションの屋上を掴み、崩さないように少し揺らした。 一斉に窓ガラスが割れて雨のごとく地上に降り注ぐ。 続いて外付けの非常階段をいとも簡単にはぎ取ってしまった。 中の小人たちはこれでもう逃げることができない。 「本当に大勢残っているのね」 しゃがみこんで観察していた柊華。 中層階を覗き込むと、そこには逃げ遅れた若い夫婦と子供が三人いた。 彼らと目が合うとまだ小学生くらいの子供たちが泣き出してしまった。 親たちが慌てて子供を奥の部屋、柊華から見えない部屋に連れて行った。 「失礼な小人はこうしてあげます」 柊華は右手の人差し指で、家族のいた部屋周辺に大穴を開けた。 適当に指を動かして中にいる小人を捻り潰してやる。 指先に微かに何かが潰れた感触を得た。 「お姉ちゃん酷ーい。じゃあ私も。えいっ♪」 勢いよく実沙の人差し指が最上階に突き刺さる。 そしてそのまま一気に中層階まで指を下ろし、マンションに一本の線を引く。 途中にあった全てを粉々にしながら進んだ指。 小人も大勢磨り潰したが、瓦礫と埃に混ざってよくわからない。 汚れた指に息を吹きかければ、元に戻った。 「実沙こそ残酷じゃない。ほら、もう終わらせちゃっていいわよ」 「はーい♪」 一瞬にして持ち上がる太もも。 脚の正面にあるマンションは膝が叩きつけられることで内部まで大きく抉れる。 先ほどの指先のお遊びとは違い、数百の小人が瞬時に弾け飛ぶ。 マンションに膝蹴りしたまま、実沙はニーハイソックスに包まれた脛をまっすぐに伸ばす。 蹴り上げられたマンションの下部は爆散し、上部が崩壊を始める。 しかし、完全に崩壊するよりも実沙が脚を振りぬく方が遥かに速い。 脚全体でマンションを蹴り飛ばした実沙は、粉々になったマンションを見下ろして満足げだ。 「まだ生き残りがいるわよ」 奇跡的に生き延びた小人の命を柊華が奪う。 瓦礫を踏みつけても面白くはないが、その下で安堵していた小人を殺すのは面白い。 赤いフラットシューズの靴底は滑りにくいゴムであり、ゴム特有の臭いを放つ。 もちろん、小人たちはそれに気付く前に肉片に変わっているのだが。 小人たちの住処をあらかた片付けた二人は町の中心部に向かって歩き始める。 柊華は大通りで車と小人を踏み潰しながら、実沙は道路脇の建物を瓦礫に変えながら、しかし二人とも大して意識することなく小人を虐殺する。 中心街には複数の路線が乗り入れる大きな駅がある。 毎日数十万の人々を運ぶ線路は、まとめて柊華のフラットシューズの下に消えた。 送電が止まったことで駅から出たばかりの電車も動きを止めた。 足元にある電車。 その最後尾の車両を丁寧に持ち上げ、爪を使って連結部をはぎ取る。 斜めに傾ければ何十人もの小人が手の平に落ちてくる。 手の平から零れた小人は地面に叩きつけられ絶命し、当たり前のように圧し掛かってきた柊華の靴底でゴミと化した。 手の平に残ったのは三十人程度であり、恐怖に顔を引きつらせている。 「皆さん、これが見えますか?」 小人たちの真上で、摘み上げていた電車を握り潰し、 指で適当に折り曲げたりすれば簡単に小さな塊に変貌する。 電車が凄まじい力で強引に圧縮される音は、小人たちを震え上がらせる。 さっきまで自分たちが乗っていた電車だったそれ。 女の子の片手が数秒で作り出したそれは、どう形容してもゴミとしか表現できない。 「次は皆さんがこうなります。準備はいいですか」 電車だったゴミをポイっと捨てる。 柊華の人差し指が左手に乗る小人に迫ると、そのまま一人を巻き込んで押し潰す。 続いて親指を近づけ、指と指の間にいた小人を何人かまとめて磨り潰す。 狂ったように泣き叫びながら左手の上を逃げ回る小人たち。 その中には誤って転落していくものもいた。 しかし、そんな努力は実を結ばず小人たちは次々に指で捻り潰され、ほんの数秒で小人の数は半分に減ってしまう。 人数が減るのに比例して、小人の悲鳴も段々と小さくなっていく。 五人を残して柊華は指を引っ込めてあげた。 「あと10秒したら左手を握りますね。人生に後悔のないよう大切に使ってください。」 慌てふためく小人を見下ろすと、意地悪な笑みが浮かんでくる。 小人たちはその場に座り込んだり、電話を掛けたり、一縷の望みにかけて命乞いをしたりと様々な反応を示した。 彼らは自分がほんの一瞬だけ力を込めれば死んでしまうのだ。 必死に生きようとする人を遊びながら殺す。 その実感が柊華を高揚させていく。 そして…… 「約束の時間です。さようなら」 情けを掛けることなく左手をゆっくり閉じる。 迫りくる指を押し返そうと小人が腕を突き出すが、なんの抵抗にもならず腕をへし折られて悲鳴を上げる。 止まることのない指たちは次々に小人に襲い掛かり、手の平に押さえつけて膨大な重圧をかけていく。 プチプチ。 小人の身体が弾けるのはなんだかくすぐったい感触だった。 握った手を開けば、小人たちは跡形もなく単なる肉片に変わっていた。 そんな惨劇を知る由もないのは、地上に残された電車内にいた小人たちだ。 故障したドアを開けようと死力を尽くし、ようやく外に出ることができた。 外に出た小人は柊華から少しでも離れようと走り出す。 そんな彼らの頭上を黒い影が覆う。 実沙のショートブーツが逃げ出した小人と車内に残された小人を仲良く踏み潰した。 「もしかして逃げられると思ったのかな? 残念でした♪」 実沙のショートブーツは靴底が分厚い。 小人を踏み潰した感触も、電車を踏み潰した感触も足に伝わることはない。 面白味すらない、遊びですらない気まぐれな虐殺だ。 「あら。ありがとう実沙」 「どういたしまして!」 手の上に気を取られて足元の小人を逃がしそうになった柊華。 ドン、ドン、ドン。 足を三回振り下ろして残りの車両を小人ごと踏み潰した。 逃がすくらいなら適当に殺したほうがいい。 とくに理由がなくても小人を殺すのは、姉妹のよく似たところだった。 二人は仲良く半分こして駅を瓦礫に変えると、周囲のオフィスビルを蹴散らしながら町中の散策を始めた。 何ら抵抗することも出来ずに瓦礫と肉片が周囲に飛び散るのを楽しんでいると、ドーム状の大きな建物が見えてきた。 とても有名な屋根付きドームで、スポーツの試合や大規模なライブなどに使われる関係でテレビにもよく映る。 今日は屋根が解放されており、三万人が音楽イベントのため集結していた。 近づいてくる巨人から逃げようと出口に人が殺到したことで、満足に動くことができない。 そんな彼らに黒い山が襲い掛かった。 「はーい、出口は封鎖しちゃいま~す♪」 ドームの出入口を小人諸共ブーツで蹴り飛ばした実沙。 たった一蹴りで数百人を圧殺し、ドームに大きな穴を空けてしまう。 穴は建物の崩落によってあっと言う間に埋まり、小人がどれだけ頑張っても取り除くことは不可能となった。 すでに外に逃げ出していた小人たちは全速力で走るが、柊華の靴底が落ちてきて潰され、滑り出すことで磨り潰される。 数回、足を振っただけで外の小人はたちは消えてなくなった。 ドームの中を真上から覗き込むと、中心にステージが組まれていることが分かる。 周囲には大きなスピーカーやライトが据え付けられ、観客席の上部に取り付けられた大スクリーンにその様子が映し出されている。 本来はグラウンドであるはずの地面は、小人たちで埋めつくされており、色とりどりのモザイクアートのようになっていた。 実沙は脚を大きく持ち上げて観客先を跨ぐと、中央部にあったステージの上にブーツをかざした。 「真ん中に足を置きたいので、ステージ片付けてください♪」 ステージの真上でブーツを振る。 小さな瓦礫が降り注ぎ、小人たちはその影の下から我先にと逃げ出そうとする。 実沙の言うことを聞いてステージを片付けようとする小人は極わずかだった。 「言うこと聞かない悪い小人さんはお仕置きです! えいっ!」 黒い山、ショートブーツが群集に振り下ろされた。 数十人の小人を一瞬にして踏み潰し、周囲にいた小人はその衝撃だけで吹き飛ばされる。 強く踏みしめることで地面が捲れ、数百キロの重量の土くれが舞い上がる。 ブーツを持ち上げれば、土と混ざり合った無数の肉片が靴底の模様の中に挟まっていた。 「早くしてください♪ また踏んじゃいますよ?」 状況を理解した小人たちはステージに群がり、必死に動かそうと力を合わせる。 しかし、ステージは本来ならば重機を使って組み立てるものだ。 冷静に全員が力を合わせれば動いたかもしれないが、それが叶うことはない。 実沙が再び数十人の小人を踏み潰しながら足を下ろし、その側面を使ってステージを蹴り飛ばしてしまったからだ。 一瞬にしてバラバラになり、多くの小人を巻き込みながら観客席に叩き付けられるステージ。 単純な一蹴りで二百を超える小人が死傷する。 「これがお手本です。よく覚えておいてくださいね」 観客席を跨ぎ越し、ドームの中に両足を揃えた実沙。 二足のブーツは当たり前のようにそこにあるが、その下で無数の小人を圧殺している。 ショートブーツはすでにドーム内の観客を大勢……千に迫る数を殺害した。 残された小人はその恐ろしい光景に戦慄し、隅に固まって震えていた。 「あら。これなら二人とも入れそうね」 そんな彼らの真上にブーツとは違う、ほとんど模様のない靴底が翳される。 それに気付いた小人が逃げる間もなく、柊華のフラットシューズが振り下ろされた。 すこし離れてそれを見た小人が走り出すが、もう片足はその小人を踏み潰しながら下ろされた。 二人がドーム内に両足を揃えると、巨大なドームでも手狭になる。 観客席にいる二万人の小人は突然現れた四本の塔に呆然としていた。 一組は黒。もう一組は水色。 それぞれ実沙のニーハイソックスと柊華のスキニーデニムだ。 小人はそんな彼女たちの顔を見ることはできない。 角度の問題で、どんなに見上げても顔が見えないのだ。 小人が動けないでいると、突如として黒い塔が折れ曲がり、空からオーロラのような赤いスカートとそれに全く隠されない純白のパンツが落下を始めた。 一瞬にして観客先に叩き付けられた実沙のお尻は、下敷きにした数百人の命を一瞬で奪い去った。 十代の女の子のお尻に何百人もが潰される。 そんな理解できない光景を正面に見た小人は、観客席も安全ではないことを思い出した。 出口が塞がり、地上は靴によって蹂躙され、最後に残されていた観客席はお尻に消える。 彼女たちを相手にして安全などあるはずもない。 「ドーム内の小人さん、皆さんの音楽イベントは永遠に中止になりました♪ かわりに新しいイベントを企画したので、楽しんでいってくださいね♪」 実沙は座ったままブーツを脱ぎ出した。 あれだけ巨大で恐ろしいブーツをあっさりと持ち上げる女子高生。 両足からブーツを脱ぐと、まだ無事な観客席に向けて軽く放る。 数千トンの重量を誇るショートブーツは観客席を粉砕し、二足合わせて千人以上を犠牲にした。 続いて持ち上げていた脚を地面に叩き付ける。 黒いニーハイソックスに包まれた太もも、ふくらはぎ、踵。 脚の背面全てで数百の小人を粉砕してシミに変えたが、黒い生地では目立たない。 小人は死んだ痕跡すら残すことができなかった。 「シンプルなイベントです。私の靴下を脱がすことが出来たら皆さんの勝ち、出来なかったら負けです♪ 特別に片方だけでいいですよ」 地面を支配する八十メートルの脚。 履いているニーハイソックスの長さは55㎝程度である。 本人でさえ脱ぎ履きを面倒に感じることもある長さだが、小人はどうだろうか。 いくども振り下ろされた靴から逃れた僅かな小人が実沙の両脚に取り付き、ニーハイソックスを脱がそうと懸命に引っ張り始めた。 しかし、買ったばかりでまだゴムも強く、また汗で肌に張り付いているためそう簡単には動かない。 次第に観客席にいた小人も勇敢な者が下に降りて作業に力を貸した。 脚の外と内に合わせて千人が集い、女子高生の靴下を必死に脱がそうとする。 「んっ、ちょっとくすぐったい♪」 痒みを感じて少しだけ脚を動かした。 一瞬にして数百の小人がニーハイソックスに飲み込まれて消えるが、実沙の痒みは解消された。 残された小人たちは狂った叫びを上げながら再び靴下に取り付き、一心不乱に引っ張り続けた。 だが、彼らの力は奇跡を起こせなかった。 「はい、時間切れ♪」 聳え立つ黒い壁が突如として暴れ出した。 まるで小人がいないかのようにドーム内を動き回り、瞬間的にその場の数千人を一人残らず磨り潰した。 それはたった一回、実沙が脚を閉じて開いただけのこと。 日常的に無意識でする程度の動作でしかなかった。 スカートと靴下の瓦礫をはたき落としながら立ち上がる。 この数分で一万人近くを殺害した美しい身体。 立ち上がったことでその身体の生み出す影が増え、観客席で生き残っていた小人が絶望に染まる。 間違いなく、この少女は自分たちを皆殺しにするつもりだ。 もう誤魔化すことができない死の恐怖が体を凍り付かせる。 だが、意外なことに少女の履く黒いニーハイソックスはドームの外に消えた。 両足が共に外に消え去ると、もう一人の女性だけがドーム内に残っていた。 先ほど虐殺を働いた少女とよく似た顔立ちだが、少しだけ大人びているようだ。 その美しい顔で観客席を一瞥した女性は、口元に笑みを浮かべながらも、やはり少女と同じようにドームから立ち退いた。 しかし、当然だが彼女たちが帰ってくれた、つまり自分たちを見逃してくれたわけではなかった。 「小人さん、私たちから最後のチャンスをあげます♪ なんとお姉ちゃんの靴下を脱がせることができたら、皆さん生きて家に帰れます♪」 「本当よ。実沙と違ってカバーソックスだから簡単じゃないかしら」 カバーソックス。 足裏と足指、踵の半分程度を覆うだけの靴下は確かに脱げやすい。 実沙の履くニーハイソックスなどとは全く違う形状であり、百倍の差があっても力を合わせれば何とかなるかもしれない。 小人たちは最後の希望に縋りつくため、一斉に観客席からドーム中心部へ移動した。 おそらく差し込まれるであろう女性の靴下を脱がすために、一万人以上が待ち構えているのだ。 「フフッ、それじゃあ、頑張ってね」 女性の声がドームに木霊するのと同時に、小人たちは空が消えたことに気が付いた。 雲より遥かに低く、かつ遥かに重量をもった紺色のそれ。 間違いなく柊華の足であり、約束のカバーソックスだった。 「そうそう。その箱、小さすぎて足が入らないから、少し浮かしておくわ。疲れちゃうから早くしてね」 まるでドームの蓋のようだ。 250メートルもある足裏は小人から太陽を奪い去り、代わりに汗の匂いを与えた。 生暖かい空気がドームに充満していく。 あっさりと先ほどの十倍、小人の千倍の体格になった柊華は軽く足を持ち上げてドームに翳していた。 広大な彼女の足裏は、その小さなドームを丸々二つ踏み潰すことが出来るのだ。 爪先ですらドームの中に入れるのは難しい。 小人は空を見上げて呆然としていることしかできなかった。 言うまでもなく、手が届かないのた。 ドームの天井部分は高さが60メートル以上あり、専用の重機でもなければ彼女の足に触ることすらできない。 仮に触れることができても結果は同じだろう。 無理に決まっているのだ。高層ビルより巨大な靴下など、どれだけ努力しても手に負えるはずがない。 もともと微かな希望でしかなかったが、これではっきりした。 あの大人びた女性も、本性は同じなのだ。 我々を生かして帰すなど微塵も考えていない。 ただただ、生き残ろうと必死な自分たちを笑いながら殺したいだけなのだ。 「どうしました。もう諦めますか」 ググッ。 足がほんの少しだけ高度を下げると、ドームに尋常ではない負荷がかかり崩壊を始めた。 柊華も靴下越しにそれを感じる。 完全に覆いつくして見えないが、この右足のしたでは一万人が絶望しているのだろう。 そして、自分はそれをいつでも踏み潰すことができるのだ。 姿も声もない彼らだが、存在するだけで柊華を興奮させることができる。 唯一の価値だった。 柊華が足を動かす。 同じ高さのまま前後に少しだけ動かしてみると、ドームの外壁が足裏で削り取られていくのがわかる。 こそばゆい感覚が足から伝わったことで、柊華が小さく身震いすると、その揺れだけでドームは本格的に崩落してしまった。 足を持ち上げてみれば、そこには瓦礫の山が残り、瓦礫中心部の僅かな空間に数千人の生き残りが集まっていた。 「そんなに沢山いるのに、女の子の靴下を脱がすこともできない。……ほら、簡単ですよ」 柊華はそう言って右足のカバーソックスを脱ぎ去る。 小人が触れることすら叶わなかったそれを、柊華は二本の指だけであっさりと脱ぎ去った。 ズドン。 たったいま素足になった右足が振り下ろされる。 ドームに併設された駐車場に落ちた巨大な足が自動車を何百台とゴミに変えた。 「まだ左足があります。今度こそ本気でやってください」 靴から左足を抜き出し、再び小人たちの頭上にかざしてやる。 だが、やはり小人にはどうすることもできない。 先ほど振り下ろされた右足は膨大な質量を地面に叩き付け、 深さ数十メートルにも及ぶ足形の陥没と地割れを引き起こした。 数秒経過した今でさえ揺れが完全に収まったわけではない。 あまりに力が違いすぎる。 小人たちは各々信じる神に向けて必死に祈った。 この恐ろしい悪魔たちから自分を助けてくれと。 そして、その祈りが届くことがないことは彼らが一番よくわかっていた。 「お姉ちゃん、もういいんじゃないかな♪」 「それもそうね。じゃあ、今から踏み潰すわ」 巨人たちの声は雷鳴のごとく轟いたが、小声だったこともあってなんとか聞き取れた。 実に簡単に。気まぐれに。彼女たちは一万人を殺そうとしている。 女の子に踏み潰される。 こんなバカげた死に方を受け入れられるはずがないが、彼らの意思など意味はない。 彼女たちは好きなときに好きなやり方で遊ぶだけだ。 柊華の左足は実にあっさりと接地し、足元の全てを完全に押しつぶした。 巨大なドームだった瓦礫も、三万人以上いた小人も皆まとめて痕跡すら残らない。 さすがに靴下は少し汚れたが手で叩けば元通りになる程度のことだ。 瞬時に一万人を踏み潰した靴下の裏を満足そうに見つめる柊華は、少し離れた高層ビルにそれを向ける。 まだ無事なビルはエレベーターが止まり、一部は階段が崩落したことで大勢が取り残されている。 柊華の長い脚ならば一歩も動くことなく、それらを踏み潰せるのだ。 今度は何千人、何万人だろうか。次の瞬間に自分の足が生み出すだろう大殺戮に心が躍る。 「お姉ちゃん、今日はもうお終いだよ」 「…………」 「約束したよね? 遊んでいいのは、1日で5万人までって」 実沙が出した条件だった。 今までは自分一人が好き勝手やっていたが、姉がまた遊び始めるなら話は別だ。 制限を設けなければあっという間に使い切ってしまう。 小人を生き返らせてもいいが、それが出来るのは実沙だけだ。 そして、それは実沙の信条に反することになる。 だからこそ、小人の消費量に制限を設けることにしたのだ。 今まさに踏み潰されそうになっている高層ビル。 迫りくる足に恐怖した小人たちは、急に動きが止まったことで安堵していた。 先ほどのドームがどうなったのか見ていた彼らは、一刻も早く逃げようと必死だった。 動きが止まり、時間が稼げるならどんな理由でも歓迎するだけだ。 「ほら、帰ろう」 「……お願い。これだけ踏み潰させて」 紺のカバーソックスに包まれた足指が切なそうに動く。 まさに足元に大好物があるのに、これをお預けなんて我慢できそうにない。 足が徐々にビルに近づいていく。 再びゆっくりと動き出した巨人の足に小人たちは悲鳴を上げるが、どうすることもできない。 やめてくれ。思いとどまってくれ。許してくれ。殺さないでくれ。 数千の小人たちは250メートルの巨大な足に命乞いをしていた。 「はぁ…… これで最後だからね」 「ありがとう実沙。大好きよ」 紺の足裏がビルの屋上を叩き潰した。 そしてそのまま真っすぐに降りていく。 順番通りにまずは展望台が押しつぶされ、続いてマンション部分が押しつぶされていく。 柊華の足がゆっくりビルを破壊する速度は、しかしそれでもビル自体の崩落より早い。 半分ほどを踏み潰すと、そこから下はオフィスの階層だ。 そこに働く小人の中には、柊華の元同僚もいた。 たまたま休みを取っていたことで先週の惨劇から生き残り、今の会社に再就職したばかりだった。 だが、お互いにそんなことに気が付くことはなく、柊華の足裏は元同僚を一瞬で血飛沫に変えた。 低層階はいくつものテナントが入るショッピングモールになっていたが、結局は踏み潰されてしまう。 柊華の足は地上についても勢いを落とすことなく、地下の施設を踏みにじっていく。 地下なら安全と逃げ込んだ大勢の小人が身を寄せ合っていたが、何を知ることも無くソックスの下敷きになった。 屋上から地下施設までをたった一踏みで完全に破壊した柊華。 二秒足らずの時間であったが、踏み潰された人数は一万人を超えた。 その内訳としては、地下に逃げ込んでいた小人が半分近くを占めている。 埃が立ち上る中で柊華が足を持ち上げる。 自分がたった一度踏んだだけで、何年も掛けて建設された高層ビルは消えてなくなった。 その中にいた数千の小人もこの足が踏み潰したのだ。 クッキーを踏み潰すより脆い感触を与えることが、彼らにできる全てだった。 「ふぅ…… 満足したわ」 「ならよかった。じゃあ、帰ろっか」 柊華が頷くと、二人の姿は一瞬にして消えた。 お互いの家に魔法で帰宅すると二人ともまずはシャワーだった。 それから新しい服に着替えると、示し合わせたかのようにベットに倒れこんだ。 実沙はテレビのニュースを付け、自分たちのお遊びが引き起こした惨事を知って笑みを浮かべ、 柊華は自ら行った殺戮を思い出しながら行為に及ぶ。 似ているようで違う。 それが彼女たち姉妹なのだった。