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体育祭

体育祭。 二学期に予定されていた学校行事だが、今年は中止するらしい。 夏休み明け初日の今日行われた全校集会で発表された。 この40日の夏休みの間に生徒が350人以上も行方不明となったことで、 予定されていた行事は全て中止、しばらくは短縮授業になることが決まった。 実沙が覚えているのは体育館で虐殺した女子バスケ部と図書館に来た数十人の生徒だけ。 合わせても百人はいないはずだが…… しかし、思い返せば夏休みの最後に花火大会で遊んだし、あれは隣町だった。 学校の生徒がそこにいても不思議ではない。 実沙の通う二年一組の生徒も何人か行方不明になっており、 知らず知らずのうちに顔見知りも足裏の汚れにしてしまったらしい。 夏休みの課題提出だけで放課となったので、実沙はまっすぐ帰宅した。 次の土曜日。 学校は休みだが実沙は何故か体操着に着替えていた。 自室の窓の外に見えるのは大雨。 だからこそ、実沙は自室内で体育祭を開催することにしたのだ。 普段は勉強道具やパソコンが置いてある机の上を片付ける。 幅が120㎝、奥行が60cm、高さが70cmのウットデザインの勉強机はしっかりと壁に寄せてあり、ペンやプリントが落ちることはない。 椅子を机の中心に合わせて座ってみると、体操着という服装だけがミスマッチだ。 準備を整えた実沙は魔法を使って、今まさに体育祭をやっている二つの高校を校舎ごと机の上に転送した。縮尺は三百分の一である。 二校はまったく関連性はなく、適当にネットで探して見つけた学校だ。 どこにあるのか、名前はなんというのか、実沙には興味のないことだった。 「小人さん、こんにちは♪ 声聞こえるかな?」 聞こえないはずはない。 なにせ三百倍の巨体から発せられるのだ。 何人かはその場で蹲ってしまう。 「今日の体育祭はちょっとだけルール変更しますね! まずは生徒以外の皆さん、特設グランドの中央に集まってください!」 だが、何が起きたのかわからない小人たちは動けない。 何の前触れもなく出現した巨大な少女を見上げて固まるばかりだ。 なかなか動かない小人を無理矢理動かすために、実沙は座ったまま膝で机の天板を軽く蹴る。 たったそれだけで三百分の一しかない小人たちは恐慌状態に陥る。 その衝撃で多くが転び、体重の軽いものは跳ね上がって机に叩きつけられる。 すぐには把握できないほどの死傷者が出ているのだ。 わけもなく叫ぶ者や、その場で失神する者もいる。 「う~ん、どんくさい小人ですねぇ~ 最初だし仕方ないか」 呆れたように呟やいて胸に手を当てる。 天板の上にいる二千人以上の小人は一斉に整頓され、三つに分かれた。 一つは右端の学校に通う生徒、もう一つは左端の学校に通う生徒、そして生徒以外だ。 今回の実沙の遊びに生徒以外は必要ないので、最初に消費することにした。 「は~い、生徒のみんな、中央の大人たちに注目してくださいね」 二千人の生徒が見守る中、魔法で動けない二百人の大人たちに影が差し込む 20×10で整列させられている大人の小人たちは、上を向くこともできず、 影の正体すらわからない。 一方、それを傍からみていた高校生たちには正体が分かった。 とても見慣れているそれは、あまりに現実的ではない。 「すぐに終わっちゃうので、目を逸らしたらダメですよ♪ えいっ」 小人たちの上に振り下ろされたそれは、 お行儀悪く机の上に投げ出された実沙の足、その踵部分だった。 白のくるぶしソックスを履いた踵は、凄まじい衝撃を机に与えながら動けない大人たちを粉砕した。 そしてそのまま、何かを掻き混ぜるように天板を動き回る。 ほんの数秒で二百人はくるぶしソックスの汚れになった。 実沙はこの前の花火大会で良いことを覚えた。 白い靴下は汚れが目立つので、こびり付いた肉片を生きてる小人に見せつけると大騒ぎするのだ。 さっそく二百人を磨り潰した踵を持ち上げて生徒たちに見せてやる。 だが、今回はその効果が薄かったのか大して騒ぎにならない。 やはり足裏全体が小人の成れの果て、くらいないとインパクトがないのだろうか。 だが実際は違う。 小人が騒がなかったのは恐怖で凍り付いたからに他ならない。 「今日のルールその1♪ 私の言うこと聞かないと、みんなもこうなっちゃうぞ☆ わかったかな?」 いい感じの見せしめもできたし、ここからは順調に進めそうだ。 足を下ろして座り直すとスマホを取り出し、事前に用意しておいたプログラムを確認する。 面倒な開会式とかは省略して…………最初の種目は徒競走だ。 「第一種目の徒競走を始めます! 両校、代表を一人選んで、真ん中に集合してください」 選出を待つ間に実沙は定規を使って、机に線を書いていく。 60㎝の奥行きのちょうど半分。 小人からすれば90メートルの線を三本引いて、徒競走の準備を終える。 これで両端から応援することができるだろうし、そのほうが盛り上がる。 両校の選出は意外と早かった。 巨人を怒らせると殺される、シンプルな恐怖が彼らの決断を早めたのだ。 選ばれたのはどちらも男子生徒である。 二人は緊張した面持ちでスタートラインに並ぶ。 そこは実沙の胸の真下であり、その体温が伝わってくる場所であった。 「徒競走のルールは簡単です♪ 線に沿って走って、先にゴールした人が勝ちですよ」 スタートラインの小人からは実沙の顔は見えない。 実沙からも小人の様子はわからない。体操着を盛り上げる、大きな胸が邪魔をしているのだ。 「よ~い、どんっ!」 実沙の声に合わせて小人たちが走り出す。 ほんの少しだけ右側の高校の代表が速い。 半分を過ぎたあたりで体一つ分の差をつけていた。 だが、ここはコーティングされた机の上。 普段から使って慣れている地面とは違う。 リードしていた右側の小人が転んでしまうのも仕方ないことだった。 転んだ小人は左隣を駆けていく見知らぬ高校生を見つめながら、なんとか立ち上がった。 だが、相手はすでにゴール目前であり、勝機があるようには思えなかった。 そして、確かに勝てなかったのだ。 彼は走り出す前に背後から迫ってきた何かに捻り潰されてしまった。 「ゴール! へへっ、私の勝ち~」 実沙は小人たちが走っていたコース上に人差し指を乗せて、 同じ方向に向けてなぞってみた。 小人が死力を尽くして駆けた距離を一瞬にしてなぞり終える。 二人の小人は人差し指に引き殺されてしまった。 「言い忘れてましたけど、この体育祭は三つ巴です♪ ハンデとして私は一人で全部の競技に出場してあげますよ」 人差し指の汚れを消し去ると、 遅くなりながらもルールを説明してあげる。 「さ、徒競走の二回戦ですよ♪ 次は三人ずつ選んでくださいね」 出ていけば確実に殺される。 それが分かった小人たちは今度こそ誰も出ようとしない。 普段は勇敢な小人でも足が竦んで動けないのだ。 どんなに待っても立候補者が出ることはなかった。 「遅いですね~ ヘヘッ、ペナルティです♪」 実沙は両腕を広げてそれぞれの集団に手を近づける。 そして左右同時に適当な位置でデコピンをお見舞いしてあげると、何人もの小人が消し飛んでしまった。 中指の固い爪は小人の体を簡単に砕いてしまうのだった。 「出揃うまで続きますよ~ ほらっ!」 二回目のデコピンも最初と同じように繰り出される。 結局、徒競走の選手が揃うまでに合計8回のデコピンがあり、両校合わせて百人以上が死傷した。 「くだらないことで死んじゃいましたね♪ さ、じゃあ二回戦いってみましょう! よーい、どん!」 一斉に走り出す6人。 だが、実沙がその真後ろに右手を叩きつけると彼らは全員が転んでしまった。 指を大きく開き、手の平全体を机に着けた実沙。 さきほどと同じように小人がゴールする寸前にひき潰してやるつもりだ。 しかし、巨大な手が自分たちを殺そうと準備しているのを見た小人の一人が、コースを外れて逃げ出す。 実沙は咄嗟に手を滑らせて5人の小人を捻り潰すと、逃げ出した小人の前に手刀で壁を作る。 「いけない小人さんですねぇ~ ほら、他の人たちはこうなっちゃいましたよ?」 小人の前に置いた手にはさっきまで一緒に走っていた小人の残骸がこびり付いている。 そのうちの一人はクラスメイトでよく話す仲だった。 ペチ。 実沙は立てていた手を寝かせることで、逃げ出した小人を叩き潰した。 「途中で逃げちゃうのもペナルティです♪ ん~、このくらいかな」 左側の高校の生徒たちを指先で潰さないように一掴み。 ざっと20人くらいの生徒を、先ほど選手を捻り潰した手の平にまき散らす。 潰さないように気を付けならがら、椅子から立ち上がった。 「ほら、見えますか? 皆さんがいたのは机の上なんですよ? 人間の顔の高さでもとっても高く感じるでしょ~」 手の平の小人たちは下の景色なんて見えない。 あるのは肌色。自分たちと同じ体温を持った広い床だけだ。 そして同じ色をした美少女の顔。 三百倍の大きさの顔が近くにあると、呼吸だけで吹き飛ばされそうになる。 「でも安心してください。今からみんなのところに帰してあげますよ♪」 クルリ。 実沙は小人を乗せた手の平を返す。 200メートル以上を落下した小人たちは、他の小人を押しつぶしながら机に帰ってきた。 巻き込まれた小人もろとも、その原型はとどめていない。 何事もなかったかのように椅子に座る実沙。 阿鼻叫喚する左側の小人に構うことはしない。 「もうわかってると思いますけど、競技から逃げたり、拒んだり、手を抜いたりしたらペナルティがあります♪ 無駄死にしちゃうので気を付けてくださいね~」 小人はやっとすべてを理解した。 この巨大な少女は自分たちの命を使って遊んでいるのだと。 だからこそ従うしかない。 言うことを従順に聞いていれば、もしかしたら許してくれるかもしれない。 そんなことはありえないと頭ではわかっているが、小人たちには希望が必要だった。 「どうやら徒競走が不人気みたいですし、次はダンスにしましょう。参加は女子限定です!」 小人たちの反応は早い。 いかなる抵抗も無駄だし、下手に怒らせれば皆殺しにされてしまう。 選出されたのはどちらも細身の女の子だった。 彼女ら二人が机の中央までやってくると、突如として身体が大きくなっていく。 さっきまでと比べて10倍。本来の三十分の一の大きさになった。 あまり小さいと何しているのかよくわからない、というのが巨大化の理由の一つだ。 「私は今回は審査員です。なのでどっちかは助かりますよ! 良かったですね」 もちろん、机の上に登ってダンスを披露してもいい。 だが、登っただけで小人は全滅してしまうで面白くない。 「さらにビッグチャーンス! その小さくて大きな身体を使って、二分以内に自分のクラスメイトを皆殺しにできたら、勝負は免除にしてあげます♪」 正直、ダンスなんかに興味のない実沙としては、 こっちを選ばないなら適当な理由をつけて彼女たちをプチッとしてしまうつもりだ。 そして彼女らを大きくした最大の理由である。 「他の小人なんてハムスターみたいな大きさですし、楽勝ですよ♪ どうします?」 右側の代表は実沙の提案を受け入れた。 開始前から自らのクラスメイトを血眼で探しているようだ。 一方、左側の代表はダンスを選んだ。 この場合、左側の女の子の命運は審査員の実沙が感動するかどうかできまる。 ……おそらく、結果はすでに決まっている。 机にタイマーを置いた。 そのスイッチを押した瞬間が勝負の始まりだ。 「いきますよ~ はい、はじめ!」 実沙がタイマーを作動させると同時に、 右側の代表は全速力で走り出した。 始まる前から見つけておいたクラスメイトに駆け寄りって勢いよく踏み潰した。 使い込まれた白の運動靴はもともと砂で汚れていたが、今度は友達の死骸で汚れる。 常に明るくクラスの中心的な存在だった彼女は、クラスメイトたちの顔をよく覚えている。 千を超える人混みの中でもすぐに見つけ出しては踏み潰す。 英語が得意で留学を目指していた女の子を踏み潰し、 本が好きで大人しい男子を踏み潰し、 短距離走の自己ベストを更新したと喜んでいた女の子を踏み潰し、 家族のためにアルバイトを頑張っている男子を踏み潰す。 ちなみに、彼女と一番仲の良い親友は最初に踏み潰した。 仲が良いからこそ、見つけやすかったのだ。 たまに間違えて、ときに巻き込んで、他のクラスの生徒たちも踏み潰してしまうが気にしている余裕はない。 とにかく時間がないのだ。急がなきゃ…… 最期のクラスメイトを見つけて足を振り上げたとき、タイマーが鳴った。 それは病弱で小柄な女の子だった。病院の入退院を繰り返し、今日が人生初めての体育祭なんだ、と楽しそうに話したことをよく覚えている。 構うことなく、彼女は靴を振り下ろして最後の友達を踏み潰した。 「さあ結果発表で~す! まずは素敵なダンスを披露してくれた左側の女の子から!」 大量の汗をかいて息を切らす少女。 音源機材がないため、自分で歌いながらダンスをしていたのだ。 もちろん、実沙は一瞬も見ていないが。 左の握り拳で適当に少女を叩き潰した。 「ん~残念! あとちょっとでしたね! 続いては右側の代表は~」 自信満々な表情を浮かべる少女。 間違いない。間違いなく全員を踏みつぶしたはずだ。 「こっちも惜しい! 最後の女の子を踏みつぶすのが間に合ってません!」 一瞬にして表情を変えた少女にニヤニヤした笑みを掛ける。 最後の一人は実沙が何度も転移させ、ギリギリ間に合わないくらいで踏み潰させたのだ。 実沙は右手を握り拳にすると左側の少女と同じように叩き潰した。 真っ赤になった両拳から汚れを消し去ると、再びスマホを取り出して流れを確認する。 「さあ、次の競技は綱引きです! 出場者を百人選んでください。女の子は半人分でいいですよ♪」 巨大な女の子がとんでもないことを言い出した。 デモンストレーションで大人たち二百人が踏み潰されて以降、 最大の犠牲者が出ることになってしまう。 だが、選出に時間を掛ければペナルティと称した虐殺が待っている。 迷う時間すらないのだ。 結果、右側は男女混成で140人を選び、左側は女子のみで200人を選んだ。 「一回戦は私と左側のみなさんですね♪ 女の子同士、頑張りましょう!」 綱引きに使うのは裁縫用の糸だった。 十分な長さに切って机を左右に分けるよう中央に置いておく。 小人の女の子たちが二列になって糸を持ち、実沙は左手の小指に糸を巻き付けた。 「じゃあ、はじめ!」 200人の女の子たちが声を合わせて一斉に縄を引く。 最初から渾身の力と体重で縄を引っ張るが、一ミリたりとも動く気配がない。 それもそのはずで、この勝負の体重差は13万倍。勝負ですらないのだ。 実沙は小指に感じる僅かな感触を楽しんでいた。 気にしなければ気づくことさえない弱弱しい力が、彼女らの限界なのだ。 「な~んにも感じませんよ? 真面目にやってますか~ 手を抜いてるならペナルティですよ♪」 小人たちは体力を振り絞って縄を引く。 だが、どれだけ力を込めても、体重をかけても、声を合わせても、縄が動くことはなかった。 勝負がついたのはその直後だった。 愛らしい彼女たちを虐めたくなった実沙が小指をクイッと内側に曲げたのだ。 それだけで縄が中心線を超えることはなかったが、代わりに小人たちの手を引き千切った。 ほとんどの小人が手首から先を、まれに肩から先を失った小人もいる。 必死に縄を掴み、踏ん張っていたのが仇となった形だ。 凄まじい絶叫がグランドに響き渡り、参加していない小人たちまでその光景に戦慄する。 「あれあれ~ 縄を落としちゃダメですよ 失格にしちゃいますよ?」 実沙が脅しをかけると、何人かの気丈な小人が縄を脇に挟み込んで引っ張り始めた。 消えた手首からは止め処なく血が滴り落ち、体操着を赤一色に染めていく。 先ほどよりも遥かに小さな抵抗が実沙の小指に伝わる。 健気に頑張る様子を見ていると、もっと虐めたくなってしまう。 「サボってる人がいるから失格ですね~♪ ペナルティ決定♪」 再び小指で糸を引っ張ってやる。 脇で縄を挟んでいた小人たちの腕が消えてなくなる。 気丈だった彼女たちも今度こそ倒れて動かなくなった。 実沙は回収した糸で輪を作って女の子たちを囲い込み、手前で軽く結び目を作る。 そして、結び目から伸びる両方の糸を引っ張っていく。 糸で作った輪がどんどん狭くなる。体を寄せ合って耐えようとするが、糸が止まることはなかった。 「ふふっ、えいっ!」 実沙は勢いよく糸を引き、結び目を一番小さくした。 その輪の中にいた小人たちは文字通りの輪切りとなり、真っ二つになった無数の破片が机の中央に転がっている。 何人かは難を逃れたらしいが、実沙は特に気にすることもなく、肉片と一緒に消し去ってしまった。 「左側がルール違反で脱落したので、次が決勝戦ですね! はやくやりましょ!」 新しい糸の用意はすぐに終わった。 魔法の力で綺麗に掃除されたとはいえ、先ほどの地獄絵図が頭から離れずにいる。 この縄に触れたら自分もああなるのだ。 しかし、彼らにはそんな葛藤の時間すら与えられない。 目の前の巨大な女の子の機嫌を損ねれば、それこそ最後なのだから。 140人の準備が終わと、実沙は右手の小指に縄を結ぶ。 「いきますよ~ はじめ!」 先ほどと何も変わらない。 意識を集中しなければ小人の力を感じることさえできないのだ。 何秒かかけて様子を見たが、どうやら最初から全力で挑んでいるらしく、これ以上は何も期待できそうにない。 面白くなさそうな試合に興味はない。さっさと終わりにしよう。 実沙はゆっくり右手を引いた。 一瞬にして総崩れとなった140人は、そのままゴミのように引きずられていく。 中央線を越えて負けが決まったが、実沙は引く手を止めない。 ついには机の終わりが見えてきた。次に起こることを悟って、小人たちは必死に糸にしがみ付く。 糸が机から外に出る。 垂直に宙づりにされる小人たち。ポロポロと落下するものが出始めた。 「皆さんからは全くやる気を感じませんでした。さっきの女の子たちのほうがマシなくらいです」 実沙は糸にしがみ付いている小人たちに息を吹きかける。 単なる悪戯だが、半分の小人が糸から落下した。 「だから当然、ペナルティです♪」 実沙は糸から手を放す。 小人が落下した先は、巨人の座る椅子の上だった。 先に落ちた者もほとんどがここにいる。 その無事を確かめようとした瞬間、明るい緑色の壁が動き出す。 実沙の履く学年指定色のショートパンツ。そして、それに隠れた太腿だ。 すりすり、と。 太腿の間で100人以上を虐殺し、椅子からこぼれて床にいる小人はくるぶしソックスで踏み潰す。 「さてさて、次に行きましょ~」 実沙が机の上を見渡すと、小人は随分少なくなっている。 もしかすると半分くらいかもしれない。 潮時だと思った。 実沙は胸に手を当てて魔法を使う。 一瞬にして机の上にあったすべてが消えた。 そして、それらは隣の空き部屋の床に下ろされたのだった。 小人からすると最初から見上げていた巨人だが、それは上半身だけだった。 こうして地表から全身を見れば、これまでとは比べ物にならない威圧感がある。 自分たちの校舎ですら一踏みで消し去る巨人。 「楽しかった体育祭もついにおしまい! 最後は全員参加の騎馬戦です♪」 全員参加。 考えなかったわけじゃない。 普通の体育祭だって、最後を全員参加にすることはよくあるのだ。 ここまで生き残った僅か600人の小人たちは、その絶望についに涙を流した。 「最後は特別ルールです♪ 小人さん全員と私で戦いま~す お互いに頑張りましょうね♪」 そう広くないフローリングの床。 家具どころか物さえない。 隠れる場所なんてどこにもないのだ。 打ちひしがれる小人を楽しみながら、実沙は頭に鉢巻をまいた。 「この鉢巻を取れたら皆さんの勝ち。できないなら負けです。……他のルールはありません フフッ♪」 判定勝ちの可能性も与えない。 小人たちはせめてと仲の良い者たちで集まって騎馬を作る。 陣形はシンプルだ。 空き部屋のドアからみて奥に小人たち。 二つの校舎がまるでお城のように控えており、その前に騎馬たちが陣取る。 対する実沙はドアに寄りかかりながら小人の準備が終わるのを待っていた。 そして、ついに最後の騎馬が完成した。 「では最終決戦です! はじめ!」 開始と同時に小人の騎馬が動き出す。 しかし、1㎝にも及ばない小人などただでさえノロマだ。 騎馬など組んだらなおのこと遅い。 あんまりに遅いので、実沙から遊びに行くことにした。 一歩踏み出すと、小人たちはその場で動かなくなった。 揺れに耐えるので精一杯のようだ。 実沙は一歩で180メートルを移動することができる。 小人騎馬が同じ距離を移動するにはどれだけの時間がかかるのか。 「先頭で頑張ってて偉いですね! ご褒美にまだ真っ白できれいな靴下で潰してあげます♪」 白のくるぶしソックスに包まれた足の指。 その親指だけをちょんと乗せてみると、一騎は何の抵抗もなく靴下のシミに変わる。 先ほど綱引きのペナルティで踏み潰したため、反対の足はすでに汚れている。 一番最初の見せしめは消し去っているので考慮しない。 「ははっ! 両足とも汚れちゃいました! 早い者勝ちですからね。他の人たち、残念でした~」 周囲の騎馬たちはその様子をただ見ることしかできない。 助けることも、自分が逃げることも、満足に戦うこともできない。 潰されるのを待つだけだ。 先頭の騎馬を潰した実沙は大股で他の騎馬たちを跨いだ。 何騎かが運悪くそれに巻き込まれて潰された。 向かう先は校舎だ。 中にはこれまでの競技で負傷した生徒と、その手当をしている生徒がいる。 わざと最後まで気づかないフリをしてあげたのだ。 「ん~? おかしいなぁ~、なんで中に小人さんがいるんですかぁ? 私、全員参加って言いませんでした?」 最初に左側に置かれた高校の前まで来た実沙。 立ったまま校舎を見下ろして声をかけてあげる。 返事を待つことなく、左足を持ち上げて校舎を覆いつくす。 70メートルを超える巨足。 その本来は真っ白であるはずの足裏には点々と赤いシミが残る。 「言うこと聞かない人がどうなるか、せっかく最初に教えてあげたのに…… よっ、と」 足を踏み下ろして校舎を踏みつぶす。 砂場で作った山より遥かに脆い。 中にいた小人たちは逃げ出すこともできず、校舎と運命を共にした。 何度か足を振り下ろして入念に踏み固めておく。 次は右端に置いていたほうの校舎だ。 「あれあれ? こっちもじゃないですか。フフッ、ルール違反はダメですよ♪」 こちらの校舎は蹴り飛ばした。 一瞬にして爆散した校舎が部屋のあちこちに降り注ぐ。 もちろん、誰も逃げ出すことはできなかった。 「みんなの学校、なくなっちゃいましたね」 二つの校舎を破壊すると、振り返って足元の小人たちに笑いかける。 これまで自分たちの背後でいつもと変わらずに存在した学校。 それがなくなり、精神的な支えがなくなった小人たちに広がるのは諦めだった。 どうせ、もう生きては帰れないのだ。 「あ、そうだ。せめてお馬さんにならないとズルいですよね♪」 その場で膝を落とし、床に手をつく。 四つん這いになったが、小人の様子が分からないことに変わりはない。 手を伸ばして近くの騎馬を叩き潰してみる。 足と手ではかかる力はだいぶ異なるが、こちらの結果も変わらない。 結局のところ、実沙が立っていても四つん這いでも小人は虐殺される運命にある。 「それっ♪ えいっ☆」 元気に手を使って騎馬を潰して回る実沙。 手が床に叩きつけられる度、何騎もの騎馬がまとめて肉片に変わる。 だが、それらが飛び散ることはない。実沙の巨大な手の中で全て収まりきってしまうのだ。 たまにわざと見逃した騎馬を膝で磨り潰してやった。 ポニーテイルにしている長髪を使って騎馬を薙ぎ払い、粉々にしたりもする。 握り潰しり、叩き潰したり、デコピンで粉々にしたり。 夢中で遊んでいると、すでに騎馬は残り十騎まで減っていた。 「ねぇ見て。私のおっぱい、まだ汚れてないの」 四つん這いの姿勢で胸を突き出す。 確かに上半身の体育着は汚れておらず、白いままだった。 「靴下は勇敢な人だったから、体操着は運の良い君たちに使ってあげる♪」 実沙は四つん這いのまま上半身を下げていく。 胸が床につくと、やわらかそうにその場で広がった。 そして、そのままズリズリと進んでいく。 動かない騎馬、向かってくる騎馬、逃げ出す騎馬。 その全部に追いついては磨り潰す。引き潰す。 ブラ越しだから感触は僅かしかないが、確実に小人は体操着のシミになる。 すべての騎馬を処刑し終えた実沙の胸。 「はい、私の勝ち~ 優勝は私でした♪ 小人さん、二千人もいたのに情けないですよ♪」 いつものように魔法ですべての汚れとゴミを消し去る。 少し汗をかいた実沙は、シャワーを浴びに部屋をでた。 二学期に中止になった学校行事は体育祭だけではない。 シャワーを浴びながら、次はどうしようか思案にふける実沙であった。


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