黒の工房の太陽
Added 2025-12-14 11:20:23 +0000 UTCこちらの続きです。
リベール王国の遊撃士協会に所属しているエステル・ブライトとヨシュア・ブライトは、グランセル支部の受付であるアイナ・ホールデンに呼ばれて王都グランセルへと応援に向かう事となった。
アイナから手配魔獣退治の依頼を受けた二人は、王都地下水路に向かって手配魔獣の捜索を開始する。
しかしいくら周囲を見回してもどこにも魔獣の姿が見えないので、ヨシュアは首をひねっていた。
「おかしいな……どこにも見当たらない。まさかどこか別の場所に移動したのか?」
もしそうならば捜索範囲を広げて早急に対処をする必要がある。
「ちょっと待ってヨシュア」
アイナに通信で連絡を入れてエステルと二人で捜索を始めようとしたヨシュアをエステルが止めた。
「エステル? 手配魔獣がいないんだから探さないと――」
「ごめんねヨシュア。その依頼は嘘なのよ」
「……え?」
「もう、察しが悪いわね。だから手配魔獣なんてどこにもいないわ。アイナさんにも手伝ってもらって一芝居打ったってことよ」
エステルが何を言っているのかヨシュアはよくわからなかった。
手配魔獣がいないのならば何よりなのだが、そんなウソをつく理由が全く理解できない。
アイナも絡んでいるとしたら不謹慎な嘘であり、遊撃士協会に所属する者達が付いていい噓でもないはずだ。
「エステル……何のためにそんなウソをついたんだ?」
「それはね……ここらでヨシュアの心を完全に折っておこうと思ったからよ」
「……?」
「それじゃあ、暗示を解くとするわ」
エステルが妖しい笑みを浮かべながら、パチンっと指を鳴らした。
その動作は嘗てヨシュアが《白面》のワイスマンに暗示を解かれた時と同じ動作であり、ヨシュアの脳内に無数の光景が一気に流れ込んでくる。
「………………あ…………」
かつてワイスマンに暗示を解除された際にも様々な光景が流れて来て記憶がよみがえったが、今回のヨシュアにも同じことが起きていた。
だがその記憶はワイスマンの時とは全く違う。
最愛の恋人であるエステルが、結社の使徒であるノバルティス博士に犯されている光景だった。
「ふふ……思い出したみたいね?」
「こ、この記憶は……エステル……いや、君だけじゃない。レンにティータ……クローゼまで……」
ヨシュアはエステル達によって暗示をかけられており、様々な認識がおかしくなっていた。
今までヨシュアはエステル達が博士の調整を受ける光景を何度も目撃している事を思い出す。
ティータ、クローゼ、アネラス、アイナ、ジョゼット、ユリア。他にも数えきれないほどの女性が黒の工房に所属している事、より正確にはノバルティス博士のモノになっている事を正しく認識する。
エステルとレンが自宅で博士の調整を受けている時も暗示をかけられているので何もおかしいと思わなかったが、暗示を解かれた今のヨシュアはとてつもない怒りが湧き上がっていた。
最愛の恋人だけではなく大切な仲間たちまで汚した博士を許すことなどできるはずがない。
「博士……! よくもエステルを……みんなを……っ!」
「博士を傷つけるなんてあたしが許さないわよ」
「え――っ!?」
突然エステルが得物の棒術具を振りかぶってヨシュアに攻撃してくる。反射的にヨシュアはそれを防ぐと、周囲に鋭い金属音が響き渡った。
双剣と棒術具がギリギリと拮抗しあい、ヨシュアは力の限り剣を振るってエステルを弾き飛ばす。
「くっ……エステル、君は博士に操られているんだ! 正気に戻ってくれ!」
「何を言っているのよ? あたしはもう暗示なんてかけられてないわ。あたしはあたし自身の意思で博士に従っているの」
「エステル……正直言って僕はまだまだ混乱している。だけどわかっていることとやらなければいけない事はわかっているつもりだ」
「ふぅん、それはなによ?」
「ノバルティス博士を許すわけにはいかないという事。そしてみんなを――君を取り戻さなければいけないという事だ。悪いけど君を無力化させてもらう」
今はエステルを博士の下に帰らせない事が最優先。暗示をかけられているのならそれも解除する必要がある。
このまま自分がもう一度暗示をかけられてしまえば、全てが手遅れになってしまうという確信があった。
「本気みたいね……そうじゃないと困るわ。あたしは博士の為にもヨシュアより強くなったって証明したいの。テストも頼まれているしヨシュアの心も折っておきたいものね……いくわよっ!」
エステルの声が戦いの合図であり、二人は同時に地面を蹴った。
ヨシュアがスピードで翻弄するように動くが、エステルはヨシュアの動きを完全に見切っている。
いくらヨシュアの方が速さは上だとしても、エステルは今までずっとヨシュアを見て来たので動きを読みやすいのだ。
武器がぶつかり合うたびに火花が散って金属音が反響する。地下水路には魔獣がいるのだが、二人の戦いが凄まじすぎて近づこうともしていない。
「やるじゃない……だけど負けないわよ。博士の為にも……っ!」
「エステル! 頼むから正気に戻ってくれ! キミだけじゃなくてみんな博士に操られて正気を失っているんだろう!」
「しつこいわよヨシュア! あたしもレンも自分の意思で博士のモノになったの! あたし達の博士への愛をバカにしないで!」
エステルが渾身の一撃を繰り出すが、ヨシュアにはあっさりと避けられてしまった。
ヨシュアもまたエステルと共に戦ってきたので、動きを読むことはたやすいのだ。
もう一度二人の武器がギリギリと拮抗しあうとヨシュアは間近のエステルと目が合う。
「くっ……どうして博士なんかに従っているんだ?」
「博士なんか……ですって? 口の利き方に気をつけて。ヨシュアが役立たずだったら処分してたわよ」
「君がそんな事を言うなんて、やっぱり暗示をかけられているんだね。戻ってくるんだエステル! 君は黒の工房になんていちゃいけない!」
「ふざけないで! 何が悲しくてヨシュアみたいな雑魚オスのもとに戻らないといけないのよ! それにスレイヴが博士を裏切るなんて絶対にありえない!」
激昂したエステルが連続で攻撃を仕掛けるが、ヨシュアはそれらを全て最低限の動きで防いでいく。
反撃の一閃は防がれてさらに反撃の一撃は回避される。お互いの手の内を知り尽くした戦いは完全に互角であり、二人は一度距離を取って呼吸を整えた。
「はぁ……はぁ……負けないよエステル。君が相手だろうと絶対に負けられない!」
「あたしだって負けられないのよ。てゆーかこれがヨシュアの本気? だとしたらがっかりね」
「……え?」
「遊撃士のままならその程度の強さで終わっていたんだと思うと、やっぱり博士のモノになって正解だったわ。そろそろあたしの本気を見せてあげる」
余裕の笑みを浮かべるエステルを見てヨシュアは困惑してしまう。
今までが本気ではなかったなど信じられないのだ。ヨシュアはエステルを見て来たので、彼女の実力は誰よりも理解しているのだから。
「ああ、誤解しないでねヨシュア。今までだって別に手を抜いていたわけじゃないの。だけどあくまで遊撃士としての本気。ここからは……スレイヴとしての本気を見せてあげるわ」
エステルは何を考えているのか棒術具から手を離してしまった。
カランと音を立てて武器が地面に落ちてエステルが丸腰になったのだが、ヨシュアは攻撃のチャンスとは思えず動かないで警戒心を強めた。
エステルがXiphaを操作すると、彼女の手にヨシュアの見覚えのない棒術具が握られる。
「そ、それは……?」
「博士から貰ったんだけどカッコいいでしょ? と言ってもこれはまだ名前も付いてない試作品なのよね。これからあたしに合わせて色々と調整をしていくみたいだし、特別な力とかそう言うのは全然ないわ」
彼女が手にした棒術具は準遊撃士の時にヨシュアの黒千鳥・白千鳥と一緒に譲ってもらった太極棍に似ているが、赤ではなく黒い棒術具だった。
右手に得物を携えたエステルはどこかうっとりとした表情になると左手で下腹部を撫でる。
「ん……博士を感じるわ♡ さぁ……いくわよっ!」
エステルから今までとは比較にならないほどの威圧感と殺気が飛ばされてきて、ヨシュアは反射的に防御の体勢を取った。
地面を蹴って接近してくるエステルは明らかにスピードが上がっている。
スピードだけならばまだヨシュアの方が速いが、パワーなどは圧倒的にエステルの方が上だった。
(こ、これは……どうなっているんだ? 彼女は、本当にエステルなのか……?)
目の前のエステルはヨシュアの知っているエステルとは別人と言っても過言ではない。
エステルの実力は自分が一番よく知っていると思っていたが、エステルがここまで強かったなど全く知らなかった。
単純な強さだけではなく攻撃の癖やパターンなどもヨシュアが知らないものばかりで、先ほどまでは互角だったのに今では一方的に嬲られている。
「あははっ! どうしたのヨシュア! あたしを取り戻すんでしょう? そんなんじゃ夢のまた夢よ!」
「く――エステル……ぐあああっ!」
腹部に強烈な突きが入ってヨシュアが怯むが、エステルは攻撃の手を緩めずに苛烈な攻撃を続ける。
まるでヨシュアをいたぶることを楽しんでいるような攻撃ばかりだった。
互角の力を持つ者同士の激闘は一方的な蹂躙へと変わり、ヨシュアはどんどん傷ついていく。
相手がエステルだろうと彼女を取り戻すために、正真正銘全力で戦っているのだが手も足も出ない。
「やああああああっ!」
「がは――っ!?」
エステルが渾身の連続突きからの一撃を繰り出し、ヨシュアはそれをまともに受けてしまった。
勢いよく吹き飛んだヨシュアはそのまま壁にたたきつけられて身体がめり込んでしまう。
全身の力が抜けてしまったヨシュアは双剣を手放してしまい、乾いた金属音を立てて双剣が地面に落ちた。
(そんな……負けられないのに……)
力が入らず自分の敗北を悟ってしまったヨシュアは、無意識のうちに顔を上げてエステルを見る。
「……え?」
エステルはXiphaを駆動させてアーツを放つ準備をしている。
まさかとは思いつつもヨシュアは最悪の可能性を捨てきれない。
もう決着がついたことは両者とも理解している。壁にめり込んで動けなくなり、武器すら手放してしまった無防備な自分に対して、エステルが完全なとどめを刺そうとしているなどヨシュアは信じたくない。
自分を救ってくれた太陽のような存在が、もう動けなくなった者にトドメを刺す光景など見たくはない。
だがそんなヨシュアの願いも虚しくエステルは駆動を終える。
「や、やめ――」
「燃えろ――っ!」
エステルが手を前に掲げると巨大な火の鳥が出現した。
それは真っ直ぐにヨシュアに飛んでいき、彼はなすすべもなく炎に包まれる。
爆炎、黒煙、轟音に包まれてヨシュアは見えなくなったが、エステルは爆風にツインテールをなびかせながら笑みを浮かべていた。
「よし、今回もちゃんと発動したわ。やっぱりロストアーツはすごい威力ね」
エステルが今使ったアーツはARCUS規格で使用できていたロストアーツだった。
アリサやティオなどはそれをXipha規格でも使えるようにする研究を進めていたようであり、エステルはテストを頼まれているのだ。
炎と煙が晴れるとヨシュアがうつ伏せで倒れているのを見つけたので、エステルは彼に近づいていく。
「う……あ……」
「全く……この程度だったなんて情けない男。こんな雑魚オスのゴミオスを好きだったどころか処女まであげちゃったなんて……とんだ黒歴史だわ」
「エス……テル……がっ!?」
エステルはヨシュアを蹴飛ばして彼をうつ伏せから仰向けにする。
二人の目が合うがエステルはまるでゴミでも見るような目でヨシュアを見下ろしており、ヨシュアはさらに深く絶望していく。
「いつのまに、ここまで強く……」
「いつのまにって言われても……そもそもあたしが博士のモノになってからは別行動も多かったでしょ。ヨシュアは遊撃士としてのあたしの力は知っていても、黒の工房としてのあたしの力は知らなかった……ただそれだけよ」
「普段は……手加減していたのか……」
「あたしにとっての普段は博士の女として動いてる時なんだけどね。別に遊撃士として行動している時も手を抜いているわけじゃないわ。ただ“スイッチ”が入っていなかっただけよ」
「あ――」
それはかつてヨシュアがジョゼットに手加減をしていたのかと言われた時に返した答えと同じだった。
「ヨシュアなら詳しい説明をしなくてもわかるでしょう? その“スイッチ”が入るとあたしは博士の女として最適な思考と行動をする事ができる。あたしだけじゃなくて博士の女は心も体もそういうふうに調整されているのよ♡」
エステルは先ほど“スイッチ”を入れた時と同じように下腹部を撫でる。
「ん……♡ 子宮に世界で最も優秀なオスの遺伝子を……愛する博士の精液を感じるわ♡ あたしが動くたびに子宮でタプタプ波打って、まるで博士に激励されているように感じるの♡」
「エス……テル……」
「ふふ、良い顔ねヨシュア。やっぱり今後のためにあなたの心を完全に折っておくのは正解だったみたい。今のあたしならあなたにも勝てる――いえ、むしろ負けるわけがないと思っていたもの」
「今の……君……」
ヨシュアは目の前にいる彼女が自分の知らないエステルだと悟ってしまう。
「黒の工房所属、スレイヴNo.Ⅳ――エステル・ブライト。偉大なご主人様、F・ノバルティス博士にあたしの全てを捧げさせて頂く名誉を許された誇り高き雌奴隷よ♡」
ヨシュアの心にとどめを刺すように、エステルは妖しい笑みを浮かべて名乗りを上げた。
そしてエステルは語り始める。自分が博士のスレイヴに任命された時の事を。
◇
黒の工房に所属してからエステルは博士の要請により様々な任務に当たっている。
主な活動地域はリベールなのだが、彼女はエレボニアやクロスベルに赴くことも珍しくはなかった。
今回の任務はエレボニア帝国のRF本社地下にある工房を視察する博士に同行して護衛をすることであり、エステルは新型結社艇の試作機に乗って博士と共に移動拠点である巨大戦艦へと戻ってきた。
飛行艇からは博士とエステル、そして秘書のエリィも降りて来る。
「博士、今回はお疲れ様」
「君の方こそご苦労だったねエステル。わざわざ護衛のために呼びつけてしまって申し訳ない」
「何を言ってるのよ博士。リアンヌさん達は別任務に当たってるんだから、代わりの護衛は必要じゃない。それに博士に会える任務なんてあたしにとっては最高のご褒美よ」
「はい……私では博士の護衛は務まりませんから、エステルさんが来てくれて本当に助かりました」
博士の護衛を務めているのはリアンヌだが、彼女は今別の任務に当たっている。
騎神模倣体計画のために調整を受けたり、戦闘要員に稽古をつけたりとやることは山ほどあるのだ。
専属侍女のシャロンが博士を出迎えに来ないのも、今は帝国でアリサのサポートをしているためだ。
エリィは秘書としては博士にとってもはや欠かせない存在だが、戦闘力はあまり高くないので、今回はエステルを呼び寄せたのだ。
「エリィさんは護衛じゃなくて秘書じゃない。こういうのは役割分担よ役割分担」
「しかし君はリベール支部特務部隊の隊長だろう? 呼び寄せるにしても他の誰かでも――」
「そんなの関係ないわ。それにあたしがいなくてもリベールの……いえ、黒の工房の特務部隊は優秀だから問題ないわよ」
エステルは黒の工房リベール支部の特務部隊隊長を務めている。
任務に当たる人員に特務部隊と名がついたのは最近のことであり、かつてリベール王国軍の情報局にあった部隊名から取られたものだ。
特務支援課やⅦ組特務科など、特務とつく組織に所属しているものがいるという事もあって、特務部隊と名付けられることになった。
「それでは博士。私は視察の内容を纏めたデータをミラベルさんに渡してきます」
「レポートはもう出来ているのかね?」
「ここに来るまで飛行艇の中で仕上げておきました。各支部にも送っておきますので、博士はごゆっくりお過ごしください」
「はぁ~……流石エリィさんね」
「ありがとうエステルさん。博士をよろしくね。博士、用件があればすぐにお呼びください」
エリィが博士に頭を下げて去っていく。
「最近のエリィさんはすごく活き活きしてるわね。黒の工房に来たばかりの時は悩んでいた時も多かったみたいだし、元気になって良かったわ」
「ああ……ロイド・バニングスや祖父の事を思い出して迷っていた時期があったか」
「ほんとにロイド君って異能でも持ってるんじゃないかしら」
エリィは博士の女になってからは第一秘書として博士に尽くしているが、博士の女になったばかりの頃は時折ロイドの事を思い出して自分のやっている事に迷いが生じる事があった。
エリィ以外にも同じような事を考える者は存在している。良心の呵責などにより任務を躊躇してしまう者達がいるのだが、エステルはそんな彼女たちのメンタルケアをしている。
そしてエステルと話していると彼女たちは迷いなどがすべて消えて、博士の女として生きていく決意をしている。
だが今度は博士の女にしてもらいながら迷ってしまうなど、博士に対する最低の裏切り行為だと自分を責めてしまう者もいる。
これもエリィが該当しており、彼女は博士に対する罪悪感から「みんなで博士のために生きていくことを誓ったはずなのに迷いが生じてしまった」「こんな自分が博士の秘書でいていいはずがない」と自信を失ってしまった事がある。
罪を償うために秘書を辞めて、使い捨てのモルモットか生体パーツにしてもらうべきだと考えていたが、エステルによって説得されて思いとどまっている。
それにより「あたしたちの愛する博士はそんなことで怒るほど器が小さくない」「それでも罪を償いたいと思うならなおさら秘書として尽くすべき」「博士には絶対エリィさんが必要」「エリィさん自身もロイド君みたいに価値のない雑魚オスとじゃなくて、心の底から愛している博士の秘書として幸せになってほしい」と声をかけられて、エリィは一切の迷いをもたず博士の秘書を務めるようになり、忙しくも充実した幸せな日々を過ごしている。
「エリィが以前言っていたよ。エステルは自分達の迷いを全て消し去って、進むべき道を照らしてくれる太陽のような存在だとね」
「そんなに大したことじゃないわ。あたしはただみんなが博士の女として正しい方向を向けるようにちょっとだけ手助けをしただけよ」
「それに君は特務部隊隊長として相応しい強さも手に入れたようだ。遊撃士をしていたころと比べて、戦闘力が飛躍的に上昇している。やはり君に目をつけたのは間違いではなかったよ」
「ふふ、ありがとう博士。あたしも博士の女に慣れて嬉しいわ♡」
二人は談笑しながら居住区に移動して博士のプライベートルームに入っていく。
博士が巨大戦艦を離れる前はここで大人数の調整をしたのでベッドも床も汗と愛液と精液で汚れていたというのに、巨大戦艦にいる生活班の侍女たちにより掃除されて今では完璧な状態へと整えられていた。
これから何をするのかエステルは理解しているので、彼女はすぐに服を脱いでいく。
「この船っていつも綺麗に掃除されてるわよねぇ。もう自宅より居心地がいいわ」
「ふむ……私としては最低限でも構わなかったが、君達の士気が高まるならば居住性をあげるというのは正解だったか。レンとアリサの判断は正しかったようだね」
「パンタグリュエルの貴賓区画みたいにするのはやりすぎって思ったけど結果的には大正解よ。はい、博士。服を脱いだから好きに解析して♡」
エステルはあっという間に全裸になってしまった。ツインテールだけはそのままだが、博士のメスとなり女性らしさが増した裸体を彼に見せつける。
博士はソファに腰かけて腕を振ると、空間投影スクリーンとキーボードを出現させた。
博士の正面だけではなくエステルの周囲を取り囲むように無数のスクリーンが投影されて、エステル・ブライトというメスのデータが次々と表示されていく。
そしてエステルの隣に黒の工房に所属した直後のエステルの裸が投影された。
「うーん……こうしてみると胸とかお尻がやっぱり大きくなってるわね。それに我ながら色気も増してるわ。あたしをここまで調整するなんて流石は博士ね」
「そう言ってもらえるのは光栄だが素材が良かったのも事実さ。それにしても雌奴隷としての適性だけではなく、戦闘力も比べものにならないほど上昇している。そして人を惹きつける人間性……リベールで黒の工房の人員を増やせたのは君の力が大きいだろう」
「それはみんなで頑張ったからであって……功労者がいるとしたらクローゼじゃない?」
「そのクローゼもエステルのおかげだと言っているのさ。さて、これで決まりだ。もっとも私の中ではとっくに決めていた事だがね」
「え……?」
博士は腕を振ってスクリーンとキーボードを消すと、下卑た笑みを浮かべて立ち上がった。
「エステル・ブライト。君をスレイヴNo.Ⅳに任命しよう」
「……あんですって~っ!?」
突然の任命にエステルは思わず大声を上げてしまったが、戸惑うと同時にとてつもない喜びが込みあがっていた。
「そんなに驚くことかな?」
「え、え~っと……すごく嬉しいんだけど、まさかあたしがスレイヴに選ばれるとは思ってなかったから驚いちゃったっていうか……ほ、本当にあたしでいいの?」
「そんなことはないさ。今までの働きを考慮したうえでの正当な評価を下したつもりだよ」
「~~~~~~っ! 嬉しすぎてどうにかなっちゃいそう! もちろん引き受けさせて貰うわ!」
エステルは裸のまま満面の笑みを浮かべると博士の前に跪く。
博士は勃起した肉棒を露出させると、エステルはうっとりした表情で肉棒に見惚れていた。
「あぁ……A級遊撃士になったら叙任式に出る事になると思ってたけど、そんなのよりスレイヴの叙任式の方がよっぽど素敵よね♡」
「クク……君を初めて調整した時の事を思い出すよ。それでは叙任式を始めようか」
「はい♡ エステル・ブライトはスレイヴNo.Ⅳを拝命し、偉大なるF・ノバルティス博士に永遠の忠誠を誓わせていただきます――ちゅ♡」
空の女神ではなく博士自身に永遠の忠誠を誓ったエステルは、肉棒にキスをしてスレイヴを拝命した。
そのままフェラチオに移行しようと思ったエステルだったが、博士が視線だけで「立ちたまえ」と言っている事に気付いて立ち上がった。
博士は右手でエステルの左胸を無遠慮に鷲掴みして揉みしだくと、エステルの口から甘い声が漏れる。
「あんっ♡ 博士ぇ♡ ふあっ♡ んあああっ♡」
左の胸をもまれているだけだというのに、エステルはそこを起点に快楽と多幸感が全身に広がっていくのを感じていた。
「我ながらよくここまで色気の溢れるメスに調整出来たものだ。素材は良かったが色気には欠けていたが、今では立派な雌奴隷じゃないか」
「ふあっ♡ 博士に調整してもらったんだから当然よ♡ あんっ♡ あたしがここまでエロくなったのは博士のおかげっ♡ ヨシュアみたいな雑魚オスじゃあたしをここまでエロくできなかったわ♡ んあっ♡ ひあああっ♡」
「クク……もっと隅々まで触れて行こうか」
博士はエステルの胸から手を離すと彼女の背後に回って抱きしめると、エステルの体の柔らかさと温かさを全身で堪能しながら、乳房を下から持ち上げるように揉みしだいていき、タプタプと揺らして刺激を与えていく。
「んあああっ♡ もっと触って♡ あたしがどのくらいエロくなったのかを隅々まで確かめて♡ ふあっ♡ んああああああっ♡」
博士はそのまま背後からエステルを抱きしめながら胸を揉んでいく。
中指で乳首をグリグリと刺激しながら掌で柔らかさを味わい、エステルの甘い声が肉棒に響くたびに硬度が増していく。
彼女のうなじにキスの雨を降らせて舌で何度も舐めていき、頬も同じようにキスをして舌を這わせて唾液でマーキングしていく。
ガチガチに勃起している肉棒を肉付きが良くなったエステルの尻にぐりぐりと押し付けると、彼女の目が大きく見開いた。
「んひいいっ♡ お、お尻に硬いのが当たってるっ♡ あんっ♡ す、すごく硬くて熱い♡ ふあっ♡ ああああっ♡ 博士も興奮してるのね♡」
「スレイヴとなった君への初調整なのだから、気持ちも昂るというものさ。胸を揉まれながらここを撫でられるのが好きだっただろう?」
博士は右手で乳房を揉みながら左手を下げていき、エステルの下腹部を優しく撫でていく。
外側から子宮の内を刺激されたエステルは、博士の精液を求めて子宮が疼くのを感じる。
「ふあっ♡ そ、そうなのっ♡ 博士にそこを撫でられると子宮が疼いちゃうのよっ♡ あんっ♡ 耳も――ふああっ♡ んひいいいいいっ♡」
博士がエステルの耳たぶを甘噛みして舌で舐っていくとエステルはもう何も考えられなくなってしまう。
身体の隅々まで博士に調整されつくしたエステルの肉体は、軽く愛撫されるだけでイキそうになってしまうのだ。
「あんっ♡ す、すぐにイッちゃいそう――ふあっ♡ ひあああっ♡ 博士っ♡ んっ♡ んあああっ♡ ふああっ♡ い、今までで一番気持ちいいかも――んっ♡ ああああっ♡ 博士に沢山調整されたけど、今回が一番――んっ♡ ひあああっ♡」
エステルは調整を受けながら今まで博士に調整された時の事を思い出していた。
メスの悦びを教えられて優秀なオスに尽くすというメスにだけ許された幸福を与えてくれた博士に尽くせてきたことを思い返いて、彼のモノになって良かったと心から感じていた。
博士は勃起した肉棒をエステルの尻にぐりぐりと押し付けていたが、股に挿入してスマタで腰を振っていく。
「んああああっ♡ は、博士のが擦れて――んっ♡ んああああっ♡ こ、これっ♡ セックスしてるみたいっ♡
んあああっ♡ ふわああああっ♡」
秘部と肉棒が擦れてエステルは足が震えるほど感じてしまう。
博士は彼女の尻に何度も腰を打ち付けており、尻肉が波打って乾いた音が室内に響く。
「挿入しなくても良い感触だ。君もたまらないようだね?」
「あああっ♡ う、うんっ♡ 博士のオチンポ気持ちいいっ♡ ふあっ♡ すごいっ♡ これで調整されて博士に堕とされちゃったのっ♡ ヨシュアとは比べ物にならないオチンポっ♡ あんっ♡ んああああっ♡」
「引き締まっているのにどこもかしこも柔らかい肉体……クク、たまらないよ。雌奴隷に相応しい体だ」
「そ、そうよっ♡ あたしは博士の雌奴隷に――あんっ♡ スレイヴになるためだけに生まれてきたのっ♡ あああっ♡ ふわああああっ♡」
博士はエステルの乳房を同時に揉みしだいてスマタで腰を振っていく。
指で乳首を引っ張って胸を伸ばすとエステルは微かな痛みすら快楽の呼び水となり、秘部からあふれた愛液が太ももを伝って床を汚していた。
博士はこのまま射精しようと思っていたが、彼女の子宮に精液を注ぎ込みたくなったので一度動きを止めてエステルから離れる。
「はぁ……♡ はぁ……♡ は、博士?」
「君の中で射精したくなったよ。エステルもその方がいいだろう?」
「っ♡ え、ええ……♡」
博士はソファに深々と腰かけると、エステルは対面座位で挿入する体勢になった。
エステルは秘部を亀頭に当ててクチュクチュと擦り、肉棒全体に愛液をまぶしていく。
スレイヴになってから初めてのセックスを言うことで少し緊張してしまうが、博士を待たせるわけにはいかないという認識が心に刻まれているエステルは、ゆっくりと腰を下ろして肉棒を受け入れていく。
「い、入れるわね……♡ んっ♡ ああああっ♡ おっきい――んっ♡ んひいいいっ♡」
「おお……相変わらず締まりがいい……いや、今日は一段と絡みついて来るじゃないか」
「あああっ♡ か、身体が悦んでるから――んっ♡ んあああっ♡ 奥までくるっ♡ ふあああああああっ♡」
博士の巨根を根元まで受け入れて亀頭と子宮口が触れ合った瞬間、エステルは天井を仰いで絶頂してしまった。
いつも以上に子宮口が亀頭に吸い付いて精液を強請っているのが自分でもわかり、彼女の身体は自然と動き出してしまう。
「あんっ♡ ふあっ♡ 博士っ♡ 好きっ♡ 愛してるっ♡ ああああっ♡ スレイヴにしてもらえるなんて嬉しいわっ♡ ふああああっ♡ んああああっ♡」
対面座位なのでエステルが腰を振ると豊満な乳房が博士の眼前で揺れる。博士は見ているだけでは我慢できなくなり、乳首にしゃぶりついてちゅぱちゅぱと舌で舐り始めた。
顔を押し付けて柔らかさを堪能しながら、乳首に軽く歯を立てたあとに唇で甘噛みしていく。
「んひいいいっ♡ おっぱいももっと吸ってぇ♡ 博士に調整されて大きくなったおっぱいっ♡ んあああっ♡ 博士っ♡ 博士ぇっ♡」
「クク……膣内が喜んで私のモノに絡みついているね。スレイヴになれたのが嬉しいのかな?」
「んあっ♡ ああああっ♡ 当たり前じゃない♡ 博士のモノになれただけでも女神に感謝してたのに、スレイヴに任命してもらえるなんて夢にも思ってなかったわ♡ あんっ♡ あたしは――んっ♡ いえ、あたしだけじゃなくて黒の工房のみんなは、博士に尽くさせてもらうだけで幸せなのよっ♡ なのにスレイヴだなんて――あああっ♡ んあああっ♡」
「ミュゼに提案され執行者をまねたお遊びのようなものだったが、君達がそこまで喜んでくれるなら私も任命した甲斐があるというものだ」
博士がエステルの乳房に顔を押し付けてバキュームのように乳首を吸うと、エステルは博士の頭を抱きしめて胸に顔を強く埋めさせる。
調整で大きくなった乳房を思う存分味わってくださいと言わんばかりであり、博士はその期待に応えるように彼女の胸を弄ぶ。
顔を胸に埋めたまま右手は尻に回して、ボリューム満点の尻肉に指を食い込ませていく。左手は背中に回して抱き寄せながら、エステルの腰の動きに合わせて自分からも腰を突き上げ子宮口をイジメていくと、エステルは何度も甘イキしてしまった。
「はぁ……♡ はぁ……♡ あんっ♡ 本当に気持ち良すぎ……んっ♡ 調整されるたびに博士との相性が良くなってるわ♡ んあっ♡ メスの悦びってこういう事なのね♡ んあっ♡ ふああああっ♡」
「私のモノになって良かっただろう? ヨシュアのような情けないオスの下では一生知ることのできなかった幸福だ」
「ん……それはそうだけど、博士のモノになって良かったのは調整が気持ちいいからだけじゃないわよ?」
エステルは腰を小刻みに前後させたあとに大きくグラインドさせていく。
単調な動きだけではなく変化を持たせて、博士に少しでも気持ちよくなってもらおうと務めていた。
「博士の女になれていろんな人達と絆を結ぶことができたわ♡ んあっ♡ あんっ♡ その人たちと一緒になって博士に尽くせたのは本当に幸せで、ふあっ♡ かけがえのない時間なのよ♡ 最初は博士が強いオスだから惹かれたのは事実よ。全てのメスに幸福を与えてくれる世界で最も優秀なオス……こんなの惹かれないわけがないじゃない。だけど今は優れたオスだからとか、調整で気持ちよくしてくれるからとかじゃなくて、博士だから愛してるのよ♡」
エステルは博士と唇を重ねると、愛情をたっぷりとこめて舌を絡め合わせていく。
お互いの唾液を交換し合う様な激しいディープキスをしながら、博士を愛しているという気持ちを思う存分伝えていく。
「ちゅっ♡ れりゅううう♡ 博士のそばに居られて尽くせるだけで嬉しくて幸せなのよ♡ ちゅっ♡ たとえもう二度と調整されないとしてもこの気持ちは変わらないわ♡ ちゅっ♡ 好きよ博士♡ 大好き♡ ふあっ♡ ちゅるるうう♡ れろぉ♡」
「それは嬉しいが、君のような魅力的な体の持ち主を調整しないなどありえないよ。性欲処理などにも使えるのだからね」
博士は一度エステルに肉棒を抜くように指示を出すと、対面座位から背面座位に体位を変更させた。
左手で乳房を握りつぶすほど強く揉みしだきながら乳首をグリグリと扱き、右手で子宮の内を撫でながらフィニッシュに向けて駆け上がっていく。
「あんっ♡ また大きくなってるっ♡ んあああっ♡ そろそろ出そうなのよね♡ いつでも出して♡ あたしの子宮に博士の精子っ♡ 愛してる人の精子をたっぷり注いでっ♡ ふああああっ♡ んあああっ♡ ちゅっ♡ れりゅううう♡ 博士好きっ♡ 好きぃっ♡ じゅるるううう♡ んむうううっ♡」
エステルは右腕を博士の首に回して抱き寄せると、彼に唇を重ねて舌を絡めていく。
肉棒が一回り大きくなって震え始めると、膣内を収縮させて精液を強請り射精を促す。
博士は極上のメスに欲望を全て注ぎ込むべく、込みあがってきた射精感に身を委ねながら亀頭を子宮口に密着させた。
「んちゅっ♡ れりゅうう♡ ふあああっ♡ イクっ♡ イッちゃう♡ 博士っ♡ 博士ぇっ♡ ふあああああああっ♡」
――びゅるるるるうううううううううううううううっ!!
「んああああああっ♡ 熱いのが出てるっ♡ ふああっ♡ あああっ♡ イクううううううううううっ♡」
子宮に愛する男の遺伝子をたっぷりと注がれながらエステルが絶頂した。
博士は彼女を抱きしめて亀頭を子宮口にぴったりと密着させながらどんどん精液を注ぎ込んでいく。
自分が調整した極上のメスであり新しいスレイヴに、誰が主なのかを心と身体に刻み込む。
(あぁ……幸せぇ♡)
ディープキスをしながらうっとりした表情で射精を受け止めているエステルは、今まで感じたことがない喜びと多幸感に包まれていた。
自分が全く別の存在に生まれ変わったような感覚であり、博士の雌奴隷として更なる高みに至ったことを確信する。
やがてどぴゅっと特別濃い精液を出して博士の射精が終わると、ねっとりとした唾液の糸を作りながら二人の唇が離れた。
「はぁ……♡ はぁ……♡ 博士の愛がたっぷり詰まってるのを感じる……♡ ふふ、でもまだ満足できないわよね?」
「当たり前だろう? スレイヴの叙任式を続けようじゃないか」
「モチのロンよ♡」
背面座位のまま博士は二回戦に移行する。
この叙任式はまだまだ続き、エステルの要望により他の女たちも交えての大規模な調整に発展していくのだった。
◇
「それでね、あの時は――ってヨシュア、さっきからボーっとしてどうしたのよ? あたしの話をきいてるの?」
エステルが博士のスレイヴになった時の事を嬉々として話している最中、ヨシュアは仰向けに倒れたまま動くことすらできず呆然としていた。
体力の回復に努めることも反撃の機会をうかがうこともできない。それほどまでにヨシュアは精神的なショックを受けてしまったのだ。
「エス……テル……」
最愛の恋人はヨシュアのことなどそっちのけで黒の工房での出来事を語り続ける。博士の女になれて心から幸せなのだということが伝わってきて、ますますヨシュアの心を抉っていく。
「あたしだけじゃなくてみんな博士の女になれて幸せなんだからそんな顔しないでよ。大サービスでこれも見せてあげるわ」
エステルがXiphaを操作すると、空間に様々な写真が投影された。
「こ、これは……」
「あたし達が調整を受けた時の記録よ。もっともこれはごく一部だけど……みんな幸せそうでしょ?」
エステルが博士に後背位で犯されている写真やレンが騎乗位で腰を振っている写真などがある。
クローゼ、ティータ、ジョゼットなど知り合いの女性が博士の調整を受けている。そしてみんなが幸せそうにしている。
中には全身にセンサーをつけられて解析されていたり、バイブなどで調整を受けていたりしている写真もあるのだが、誰一人として嫌がっていない。
博士の女になれてみんな幸せというエステルの言っていることが嘘ではないとわかってしまうのだ。
「ほら、これなんかは実験も兼ねた調整なんだけど最高だったわよ」
「……え?」
写真のエステルが博士に犯されているのは同じだったが、そのエステルは今のエステルよりだいぶ幼い姿だった。
ちょうどヨシュアがブライト家に引き取られた時期のエステルが博士に調整されている。
さらには出会った頃の姿のティータが博士に調整されている写真もあった。
「お伽の庭城って言うのがあるんだけど、アバターって言うのを変えられるらしいのよ。簡単に言うと姿を変えられるの。これを使ってヨシュアと出会った当時の姿で調整をしてもらったわ♡ ティータだけじゃなくてアリサさんやエリィさんとかも試したみたいね」
ヨシュアは様々な時期のエステルが博士に調整されている写真を大量に見せつけられるが、そのエステルがいつの頃のエステルなのかをヨシュアは鮮明に思い出すことができた。
出会ったばかりの頃のエステル。
遊撃士を目指していた頃のエステル。
準遊撃士となって一緒にリベールを巡っていた頃のエステル。
リベールの異変に立ち向かった頃のエステル。
影の国に巻き込まれてしまった頃のエステル。
クロスベルに行きレンを捕まえた頃のエステル。
独立国事件が起きた頃のエステル。
世界大戦がはじまった頃のエステル。
クロスベル再事変が起きた頃のエステル。
そして今ここにいるエステル。
ヨシュアはエステルをそばで見続けてきたゆえに、些細な変化まで気付いてしまう。
今まで自分がエステルと共に歩んできた軌跡が、全て博士という存在に上書きされてしまったような感覚だった。
博士と共に歩んできた軌跡を幸せそうに語るエステルを見て、もう以前のエステルはどこにもいない事を理解してしまう。
「ヨシュア……やっぱりショックよね。でも安心していいのよ」
「……え?」
数々の写真を見せつけられて圧倒的なまでの絶望と敗北感に襲われていたヨシュアがエステルに顔を向ける。
彼女はヨシュアのよく知るお日様のような笑顔を浮かべていた。その表情は以前のエステルそのものであり、ヨシュアを救ってくれた笑顔だ。
まだ以前の彼女は残っているのかもしれないとヨシュアに希望が生まれる。
「エス――」
「今日の記憶はすぐに消してあげるから辛いことなんてすぐに忘れることができるわ。今まで通り幸せなまま博士のために使い潰してあげる」
しかし、希望はすぐに消えてしまった。
今のエステルは人を惹きつけるような太陽のような明るさと思いやりは全く変わらないまま別人のように変質している。
(今の彼女は……以前のような太陽じゃない。人を底なしの奈落へと誘い導いていく……黒い太陽みたいだ……)
ヨシュアは博士によって黒い太陽へと変質したエステルに再び暗示をかけられていく。
もはや自分にはどうすることもできず、早くこの絶望を忘れさせてほしいと感じながらヨシュアは意識を失うのだった。
◇
「ヨシュア……ねぇヨシュアってば。聞いてるの?」
「……え?」
ボーっとしていたヨシュアがふと我に返ると、自分の顔を覗き込んでいるエステルの顔が目に映った。
「エステル……? あれ? 僕たちはいったい……」
「ちょっと……本当に大丈夫? 地下の手配魔獣を倒して今から帰るところじゃない」
「……そ、そうだったね。ごめん、少しぼんやりしてたみたいだ」
少し頭に靄がかかった状態だったヨシュアはようやくエステルと共に手配魔獣を倒したことを思い出した。
「思っていたよりも手ごわくなかったね。それに今回も上手く連携が出来ていたから、これからもこの調子で頑張っていこう」
「……そうね。でもヨシュアは疲れているんじゃない? アイナさんへの報告はあたしがやっておくから、ヨシュアは先にホテルに帰っていいわよ」
「いや、報告くらいなら――」
「いいから帰りなさい」
「……わ、わかったよ。それじゃあエステル、あとはよろしくね」
自分の事を気遣ってくれるエステルに感謝しながらヨシュアはホテルに戻り、そんな彼の背中を見送りながらエステルがため息を吐く。
「地下の出来事は全然覚えてないみたいだし、代わりに植え付けた記憶の事も疑っていないみたい。これからもヨシュアの事は便利に使えそうね」
エステルは満面の笑みで歩き出すとギルドのグランセル支部ではなく空港に向かった。
飛行船の泊まっていない発着場につくと足を止めるが、景色がゆがんで一瞬のうちに飛行船が現れたる。
それは黒の工房が所有している貨物輸送船であり、今から黒の工房の巨大戦艦に物資などを届けに行くのだ。
飛行船と同じように光学迷彩を纏っている者達が次々に物資を積み込んでいく。
その中でエステルは指揮を取っているクローゼとジョゼットを発見すると、向こうもエステルに気付いて近づいてくる。
「エステルさん、戻られたんですね」
「ヨシュアとの戦いはどうだった?」
「ええ、割とあっけなかったわ。やっぱりヨシュアなんて所詮は雑魚オスよね」
エステルがヨシュアを戦うという事を二人は知っていたが、エステルが負けるとは微塵も思っていなかった。
クローゼとジョゼットは嘗てヨシュアに惹かれていたが、今は彼のことなど雑魚オスとしか思っていない。
そんな男にスレイヴであるエステルが負けるわけがないのだ。
(それにしてもエステルが直接ヨシュアを……。博士と出会う前と比べてほんと変わったよね。ってそれはボクも同じか)
今のジョゼットはどうしてヨシュアのような雑魚オスに恋していたのか自分でも理解できない。
そんな彼女でさえ調整を受けて博士の女になってから、兄たちや部下のことを考えると良心が痛んでしまい、このままでいいのかと迷ってしまう時があった。
しかしエステルを見ていると自分の選択が正しかったのだと確信が持てる。
(博士のために生きることが女の役割なのだとエステルさんが教えてくれているみたい……)
クローゼも良心が痛んだことがある。ヨシュアの事を抜きにしてもリベール王国を博士に捧げるなど王族として間違っているのではないかと悩んだが、今はもう迷いなど一切存在していない。
仮に今後迷いが生まれても、エステルならば自分の進むべき道を示してくれるという頼もしさを感じていた。
「さてと、ボクは積み荷のチェックをしてくるよ」
「あたしは荷物を運ぶの手伝ってくるわ。ここはよろしくねクローゼ」
「はい」
三人はそれぞれ仕事に戻っていく。
彼女達は今日も博士の女として忙しくも充実した幸せな日々を過ごしているのだった。