【 お題箱】久遠寺右京
Added 2025-02-24 15:00:00 +0000 UTCおかしな事になっていた。二人の同じ顔の美女が睨み合っていた。そんな美女は、東京練馬区にお好み焼き屋の店舗を持つ「うっちゃん」の経営者、久遠寺右京だ。しかし、彼女は本来一人。しかし現状二人いることになっている。
そして、時を戻そう。
それは、数分前だ。本日は土曜日で稼ぎ時、店は満員御礼状態だった。右京は忙しさで目が回るようだったが、ふと顔を上げると外がうるさく、右京は迷惑で注意しようと外に出たその時である何か白いのが顔に当たり、何か水のようなモノが全身にかかった。
「あ、これは!?」
投げた相手はわからず逃げて行った。しかし、右京にとってはそれどころではなかった。なぜなら、唇が……
右京は感じた違和感を確認するため、顔を離したのだ。そこには信じられない光景があった。
「え?」
それは鏡に映った自分だった。いや違う。自分ではない誰かがいたのである。
「え?え?」
右京は、自分自身を触ってみると、鏡の人物も同じ動作をした。つまり目の前の人物も……
「うわああああああ」
それは悲鳴だった。
そして今に戻る。そしてもう一人の右京と対面して睨み合って固まっているのだ。しかも双子のように同じで違うところは一切ない。
「どないしたん!?」
そこにお客さんが現れる。
「な、な、嬢ちゃんって双子だったんか!?」
「え、あ、ちゃ、ちゃうで。うちは一人っ子や!」
「あ、ああ、そ、そうか」
自分と同じ顔した人間がいては吃驚するものだ。しかも同じ動作をするのであるから、ホラーである。
「どないしよ」
右京は狼狽えるしかなかった。なぜなら目の前にいるのが自分なのだ。これほど驚くことはないであろう。ただ、じっと見つめ合うだけの二人だった……が。
「あーもう忙しいのに!ようわからんけど手伝ってや」
「何を言うとるねん!手伝うのはそっちや!」
「そんなん今は関係ないわ!そっちがウチに迷惑かけたんやから、責任とれ」
「迷惑?ふざけとんのか!そもそもこんなわけわからん現象はあんたのせいやろ!」
「そっちこそわかっとるんか!?これってウチのせいちゃうで!そっちになんかあったんとちゃうんか!?」
「ウチは何もしとらん。濡れ衣や!」
睨み合う右京たちは口喧嘩を始めた。鏡を見ているように同じ動作をし、同じように怒ったり、相手を蔑んだり、そして同じように困っている。
「え?これってなんかの魔法なん?」
客の一人が呟いた。それもそのはずだ。目の前には同じ顔した女が二人いるのであるから。しかも喧嘩までしているのだから。
「「ごめん!すぐに戻る!お前!後でわかっとるなぁ!」」
睨み合う右京たち。だが、時間だけが過ぎていくだけだった。結局客を待たせるわけにはいかないと、それぞれ仕事を始めたのだ。
「お待ち!ちょっと待ってな!鉄板温めてるから」
「は、はい」
「キャベツ切っといて!」
「ああ、わかっとる!忙しいのにすまんなそちらさんも、後少しで焼き上がるから待っといてや!」
そして客を捌く二人。これは見事な連携プレーであった。二人の右京は持ち前の明るい接客と愛想の良さですぐに店は通常に戻った。
「お好み焼きお待ち!あ、いらっしゃいませ!」
「はいらっしゃい!いつもおおきに!」
そしてランチタイムが終わり、午後2時。ようやく店が落ち着いて来た。二人の右京は深いため息を吐いた。そしてお互いの顔を見た。
「なぁ?」
「なんや?」
二人は休憩を取ることにした。二人は同じ事を考えていた。それは……
((これいつまで続くんや?))
である。鏡を見てるような感覚だった。右京は鏡に映る自分が目の前にいる、その不思議な感覚に襲われたのだ。
「なぁ」
「ん?」
「これいつまで続くん?早く終わってくれへんか?」
「それはこっちのセリフや!こんな変な事になって、商売にならんわ!」
二人共イラついていた。それはそうだ同じ顔した奴がいるのだ、無理もないだろう。
「で、ウチらって結局なんやの?」
もう一人の右京に訊ねた。彼女は何者なのか?そして何故ここに現れたのか?説明して欲しいのだが……
「そんなん知るかいな!」
もう一人の右京は怒りを露にする。それもそのはず、いきなり自分と同じ顔の女が現れたのだ。しかも性格も一緒と来たものだ。気味が悪い。
「まぁええわ」
「ええんかいな」
あっさり受け入れる右京に呆れるもう一人の右京。この切り替えの早さは流石であると自らながら右京は、まず状況を整理した。何故このような状況になったのか?そもそもいつからなのか?それとも偶然起こったものなのか?様々な可能性を考えたが答えは出なかった。
「これって夢やないんやな?」
そう、これは現実なのだ。夢ではなく現実なのである。そして目の前にいるのは自分であり、自分ではない。つまりは……
「これって、ウチが二人になったって事やんな?」
そう、もう一人の右京が現れたのだ。それは紛れもない現実であった。
「でもなんで?どうしてこうなったんや?」
「知るかいな!こっちが聞きたいわ」
二人は同時にため息を吐いた。そしてもう一人の右京を見て思った。
((こいつと会話するの面倒や))
である。お互い同じ人間なので、考えている事は一緒であるし、言葉も被ってしまうので非常にやりにくいのだ。それに…
((キス奪われた…んやなウチ))
右京はあの時の感触を思い出し、頬を赤く染めた。相手は自分自身だが、キスを奪われたのだ。正直複雑な気分である。
((ウチの初めてが!こんなわけわからん奴に!))
「なんや?あんた」
もう一人の右京が気づいた。それは右京の潤んだ瞳であった。
「べ、別に何でもないわ!」
右京は慌てて顔を背けるが……
「ふーん」
するともう一人の右京は意地悪そうな笑みを浮かべると、いきなり背後から抱きついたのである。そして両手で彼女の胸を鷲掴みにしたのだ。突然のことに驚く右京。
「ちょ、何すんのや!」
右京は抵抗するがもう一人の右京の力が強いのかびくともしない。それどころか振り払おうとしても掴む手が離れないのだ。そればかりかますます力が入っていった。
「ちょっ!マジで痛っ!やめんかいて!」
右京は堪らず声を上げた。だが、もう一人の右京はやめるどころかエスカレートしていくばかりである。しかも胸を揉むだけでなく、服の中に手を入れようとしてきたのである。これには流石の右京も黙っていなかった。右京も右京の長くさらりと艶やかに伸びる髪を弄ると。
「な、何するんや!?」
右京はたまらず声を上げるが右京は動じず、それどころか…
(気つこうとるけど、ウチって髪綺麗なんやな)
などと、一瞬見とれてしまった。しかしお客さんが来てしまった二人はすぐに離れた。
「「わわわ、い、いらっしゃい!」」
そして改めて自分の姿を見て思ったのだった。
(なんや…めっちゃええやん)
二人はほぼ同じ反応を見せたのだが、それは外見だけではないようだ。性格まで一緒なのだからこれが面白いのかどうなのか。いや面白くはないのだが。とにかく二人にはある共通点があるようだ。それは……
((こいつといると調子狂うわ!))
である。しかし、このままでは埒があかないので改めて考えることに。
「んー原因とか心当たりある?」
「わかるわけないやんか!自分もわけわからん事言ってるけど自分ならわかるかと思ってな!」
と反論する右京だった。だが、確かに自分自身と話すことでしか説明がつかない状態なのだ。もう一人の右京の反応も当然だろう。そして己を見るのも憚られるのだ。
「でもウチが二人になってしもうたんは事実やろ?」
「それはそうやけど」
((…せ…せやけど!))
ふとお互いがお互いを見て思った。右京は自分と同じ顔が目の前にあると言うのは初めてだ。もう一人の右京も同じである。双子であってもこんなことはなかなか出来ないのである。それがこうして何度も対面してジロジロ見られるなんて普通はありえない状態なのだ。
「い、いやええかげんに見るのはよさんかい!」
恥ずかしさのあまり抗議する右京であるが……
「し、仕方ないやろ!豚バラ切ってんねんから!あ、あんただってウチの事見てたやろ!」
そう言っている間にも阿吽の呼吸でお好み焼きを焼き上げる右京たちだった。そして見事に同じ動作で客を出迎えるのであった。
(なんや…めっちゃ相性ええやんか)
そして1日の終盤終わりころには…
「なんやウチが二人いるのもええな」
「せやなぁ始めは二人なんて考えられへんかったけどええなこれ」
「コレそっちに持ってるとって」
「そっちこそこのキャベツ切ってへんか?」
お互いがお互いにどんどん注文を振っていく。二人ともなかなかの回転力であった。気づけば店の閉まる時間が近づいていた。しかしお客さんはまだまだやってきているではないか。まだまだ忙しくなりそうだと思いきや、事が起きたのはその2分後だった。
それは自然とだった。
鉄板を挟んでお客さんが食べ終わった後のテコを渡し…もう一方はコップを渡そうとし顔が近づく…
((な、何やねんこいつ!ウチにそっくりやのにめっちゃかわいいやないかい!それにさらさらな髪がキレイやしこうみると…))
そして再び目と目を合わせる二人。お互い頬が赤いのは恥ずかしいと言う事ではないだろう。そんな二人が思わず唾を飲み込んだその時……唇に口付け覚えのある瑞々しくて柔らかい感触、この香り……
((これはさっきウチの!?))
そうあの不意打ちのキスと同じ感触の、この唇の感触は間違いなく自分の唇と一致している。
「「な!!」」
そして二人はまたも同時に声を上げたのだ。
その声と同時に客は皆一斉に二人を見たのである。それもそうだ。二人の右京が同じ顔で真っ赤にしているのだ。驚かないはずがない。
そして再び客たちは二人の右京の顔を交互に見ては首をひねるばかりだった。そんな客と二人の右京たちだったが…
「「あ」」
二人は同時に声を上げた。それは……
「こ、コップわ、渡すでぇ」
「お、おきにな…はは」
そして慌てる右京たちだった……
そして閉店後、二人の右京は…
再び睨み合い…
「なんやねん、そんなに口付けたかったら早言わんかいな」
とも右京は、挑発するのであった。
「な!べ、別にそんなんやあらへんわ!」
「そ、そうやで!ウチだってそんなつもりあらへんし!」
「そっちこそウチとのキスに嬉しゅて舞い上がっとるんとちゃうか?」
「う、うるさい!それとこれとは関係あらへんやろ!」
お互いの挑発にムキになるしかないのだった。だが彼女の言ったことはある意味正しいのだ。彼女自身内心浮かれているのだ。あんなキスまでされておいてこれが平静でいられる筈がないのだ。彼女だって年頃の乙女なのだから動揺もするに決まっている。つまり言い合いをただ言い合っているだけだった時だって、その身からくる火照りを誤魔化していただけなのだ。勿論今の状態もキスの事を引き合いに出さなくても分かっていた筈だし、言い合う必要なんかないのかもしれなかったのだが。
そして二人揃ってため息を吐いた時だ。
「せやかてこんな……」
右京は思った。ということはつまり……
((まさか…いやいやウチは乱ちゃんが…ウチがウチの事好きなんてありえへんよ…こんな女同士で自分同士なんて気の迷いや……))
まるで同じ事を考えているのか、二人の右京はそれ以上は言葉が出てこなかったのだ。
(ウチはウチがすきなんやろか?まさかとは思うがな……せやかてウチは性格だってずっと男のつもりやってんし、この髪の艶とか褒めてくれるから喜んで触ったりとかもしたけどそればっかり気にしてへんかったし……せやからまだ乱ちゃんを異性として好きとかそういう気持ちはあらへんわけで……そんなんで今日出会ったばっかでキスまでされたような相手やぞ?そんなん……)
「なぁ」
「な、何やねん?」
そして二人の右京は同時にため息を吐くと、再び見つめ合う。
「「あ」」
((なんやの?この胸の高鳴りは……))
そして二人の右京は同時に思うのだった。
そして二人はまたも無意識に顔を近づけた。そう、その瑞々しい唇を求めてだ。だがそれは同じタイミングだった。そしてまたあの感触を味わうのだ。それを理解出来てしまう二人。それもそうだだって同じなのだか故にそれだけの事なのだ。
「はよお好み焼き食べへん?焦げてまうで」
しかし何事もなかったかのように言い、取り繕う右京たちであった。そんな最中でも……
((あ、あかん!))
二人の心は全く一緒だと自覚する事となったのだ。こうしてまたも有耶無耶となった二人の二度目はまさかの相手が自分自身と言う信じられないような相手になってしまったわけだったのだ。全く持って理解が追いつかない二人なのだ。そして二人は共に一つの考えに到っていたのだ。
((やっぱりウチの事好きなんか?ウチ!))
であった。確信して言えてしまったのだ。二人の右京は、不本意ではあるがどうやら相手に対しての好意らしきものを感じてしまったという事なのだろう。今まで必死に否定しようとした割にはそんな事はないなどと簡単なモノではないのだ。しかしそれは自分自身に恋をしてしまったと言う事でもあるのだ。
そして二人はまたもため息を吐くのだった。そう、この答えのない不毛な議論に頭を悩ませる右京たちであった。
翌日、二人の右京は、店が開くとすぐに開店準備に取り掛かる。
そして開店後、やはりというべきか、客の入りが凄かった。それもそのはず、昨日現れた右京の噂は瞬く間に広がり、皆一目見ようとやってきたのだ。
「なぁなぁ!あの噂のもう一人の右京ちゃんってどこにおるん!?」
そんな客に二人は……
「あ?ああ、ウチなら……」
「ん?ああウチならここにおるよ」
((な、何やの?この感覚))
気恥ずかしさに顔を赤くする右京。
((な、なんやねんこれ!なんでこないに…))
そして右京は……
「そのウチがもう一人の右京ちゃんや。よろしゅうな」
((な、何言うてんの!?))
そんな二人の右京を見て客たちは……
「あらま!」
「これはまた可愛らしい!」
「え?何々?」
そんな客たちの反応を見て、ますます顔を赤くする右京たちだった。
「な!な!何言うてんのよ!?」
右京が右京に詰め寄る。
「なんやねん、ええやないか」
右京は余裕な表情だ。
「よかないよ!」
そして再び睨み合う二人の右京であった。そんな二人を見て客たちは……
「あらま」
「まぁまぁ」
「あらあらまぁまぁ」
「はぁ……」
お客さん達のその反応にはっとする二人の右京たちだが……
互いに目が合ってため息を吐いてしまうのだ。その瞳から何か言いたげな様子が感じられるような気がしたのだ。
そして、昼時、繁盛する店には客が殺到してくる。
「「いらっしゃいませ!」」
そんな二人の右京は同時に声を上げ、お好み焼きを焼き上げ、客を出迎えるのだった。
「いや右京ちゃん二人だと焼くの2倍かと思ったらそれ以上だね」
「そうだな、いやぁ……タイミングも良いしはかどるよ。味も普段より旨い気がするな」
「おっちゃん達ありがとうな~、ウチら頑張るで」
「おおきに、これからもご贔屓にしてや」
そして客を見送る二人。
(なんやこれ…普段より効率良すぎるやろ)
当然な反応なのかもしれないが、これまで一人で切り盛りしていた右京である。
そして……
「「いらっしゃいませ!」」
((またや))
そんな二人の右京はまたしても同時に声を上げ、お好み焼きを焼くのだった。そして客を出迎える二人。この繰り返しに二人は……
(意志疎通が簡単過ぎる。あかん下手な者よりウチ同士やから何して欲しいか理解し過ぎや)と、思うのだった。
「ウチらええコンビ過ぎやろ」
「せやな。ウチら相性抜群やん」
そんな二人の右京の息はぴったりであった。次第に意気投合し、そして……
「なぁなぁ」
右京は右京の耳元で囁く。それはまるで恋人に囁くように。
「な、なんやねん?」
右京もそんな声に顔を赤くするしかなかった。
「ちょっとお口貸してな」
「お、お口て……」
そして二人の右京は唇同士の感触を知った。互いの唇の感触も互いも共有してしまうのだ。こんなこと普通はあり得ないと普通なら思う事だろうか。
((キスしてもた……))
右京は少し落ち着くと……
「な、何すんねん!」
「な、何ってき、キスやん」
「そ、それはわかっとるけど」
「なんや?ウチの事好きなん?」
「な!そ、そんなわけないやろ!」
そんな右京の否定の言葉は弱々しく、そして……
「でも唇が欲しかったんやろ?」
と、右京の追撃に顔を真っ赤にして唸る事しか出来なくなるのだった。こうなれば認めてしまったも同然で二人は沈黙し頬を染めてしまうのだった。ここまで来てしまうと二人の心には確信に近い物が生まれてきていたのだった。それがどのような答えになるかは全く予測不可ではあったのだが。思考に浸る間もなくお客さんが来てしまうのであった。そして二人は……
「「いらっしゃいませ!」」
((あ))
またも同時に声を上げていた。そして客がいる前なのに…
「なぁ」
「な、なんやねん?」
「ウチらって……」
「……うん」
二人の右京は見つめ合い、そして再び唇同士の感触を味わった。もうそれはキスというには生温い。そう、それはまるで溶け合うような……そんな感覚だった。
そして、二日目が終わり。
「ふぅーこれでひと段落やな」
「そやね。せや、そろそろ休憩しいや」
「そうやな」
そして二人は店の奥にある休憩室へと入っていくのだった。
しかし……
「んっ……」
((ま、また同じ事してもうた…しかも今回は舌まで絡めてもうた))
二人とも相手の動きに合わせ唇を重ねていくと自然とそうなっていったのだった。
((あ、あかん……もう堪えられへん……でもこれ以上進んじゃあかんから……でも…唾液が混じり合うのも初めてな気がせえへん)
そう……二人は二度目以降こうして休憩の度に唇を重ね合う関係になっていたのだ。
そんな二人が休憩に入ると右京はそっと扉を閉めて鍵を掛けた。これには右京も驚かされる事となる。
「あんたな、ちょっと図々してへんか?昨日のことといい」
と、少し顔を赤らめる右京だが、それをさらっと聞き流されてしまう。そして右京もまた……
(今度は……どう舌を絡めるんや?ウチはまだどっちとも恋人同士やないのに……でもさっきの感じやと絶対……)
右京もまた異なるキスを求めて唇を差し出したのだ。そうこうしている間にも二人の視界は互いの顔が目前に迫るのだった。そしてまた口づけを交わし始めてしまう。そうするとやはり重ねる感触が気持ちいいと思えてきてしまうのだ。そして二人はまたも舌を絡めていくのであった。
「んっ、はぁ、んむ……」
右京は息継ぎのために唇を離すのだが……
「はぁ、あむ」
((あかん、離れとうない))と、右京はまたも唇を重ねる。そして……
「ん!んん!あむ」
((あかん、ウチはウチやのに……))
と、今度は右京が唇を離そうとしても右京がそれを許さないのだ。
「あむ」
「んっ」
((なんやろこれ?めっちゃ気持ちええ))
そんなキスの快楽を知ってしまった二人の右京はそれからと言うもの店を閉めた後、ずっと口付けあうのだ。
そして、三日目、四日目、五日目と2人でお好み焼き屋を切り盛りして行く訳ではあるが……
((ちぃ!日に日にウチおかしぃなっとるど、どういうこっちゃ!?))
二人は同時に顔を背けた。なぜならカウンターに並ぶ二人が同じように頬を染めるのだから。乱を好きな右京には自分を写した自分のような顔など直視出来ようはずもなく、相手が自分だと思うと恥ずかしくなってしまうからであった。また相手は相手で目の前に自分がいては多少なりとも意識してしまうのは当たり前だろう。
「な、何やねん?そ、そんなジロジロ見んなや!」
「み、見てへんわ!そっちが見てくるんやろ!」
そして二人はまたも同時に顔を背けた。
「「あ……」」
((な、何やのこの気持ち……ウチはウチに恋しとる言う事か?いや、そないなことあるわけあらへん!))
そしてまたも同時に顔を逸らす。
そう右京たちは自分自身を性として意識してしまっているのだった。しかしそれはまだ認めたくはない。そんな気持ちに蓋をするように二人はお好み焼きを焼き、お客さんに振舞うのであった。しかし……
「あ、あんた!キャベツの切り方雑やないかい?」
「そっちこそ!お好み焼き焦げてまうで!」
「そないなこというなら自分で焼いたらどうや!」
「ウチはウチの事ようわかっとるからええんや!」
「せやかてウチもウチが何したいかわかるし!」
「「……」」
「なら今…ウチが考えてとることわかるか?当ててみ?」
「ええけど、そっちも今…ウチが考えてとることわかるか?当ててみ?あ、ずっこい真似は無しやで?」
「わかった……ならウチも」
「……勝った方がな」
「ええで?ウチに勝とうなんざ100年早いわ」
そして二人は同時にお好み焼きを焼き始めた。それはまるで鏡合わせのように。しかし右京たちはその事には気づかない。ただ目の前の相手との勝負に夢中になっているのだから。
そして出来上がったお好み焼きをお互いの前に出すのだが……
「な!何やこれ!ま、まるで愛の告白やないか!」
「それはこっちの台詞や!な、何考えてんねん!」
差し出されたのはハート形のお好み焼き。どちらも相手が自分の事が好きだと言わんばかりにプロポーズのようなお好み焼きであったのだ。
((そ、そうや!これはただウチとウチが勝負しとっただけなんや。せやから何も考えずに……でもこれはやっぱそういう事なん?))
お互いにの心の声がはっきりとわかるわけではないのだが、そのお好み焼きを見て、そして相手の顔を見て、その事について考えてしまった。
「「あ……」」
((な、何やのこの気持ち……))
((ウチはウチが……好きなんか?いやいやいやいや!そんな訳ないやろ!?でも毎日口付けてるし…いやいや、あれはただ気持ち良いからしてるだけやし!))
二人は同時に顔を背けた。そうそれは自分自身を性として意識してしまっているという事に他ならなかったのだ。しかしまだ認めたくはない。だって相手は自分なのだ。女同士だ。そんな相手に対して好意を寄せるなど、稀有なことだろう。
だが目の前にいる自分を写したようで写していないそいつは彼女を見つめて。
(あ、あかん!そないな事したら勘違いされるやんか!)
(あかんあかーん!そんなんやったらウチまで勘違いされてまうがな……そうやねんきっと気のせいやろ?うんきっとそうや!)
そしてカウンターに置かれた相手のお好み焼きを二人で頬張りながら……しかし食べる速度は全く同じだった。結局なんとかこの思考を止め平静を保つ右京たちであったのだが…
(ありえへん、ウチより旨いなんてありえへん)
(う…旨い…、ウチよりお好み焼きが上手やなんて……)
「「あ」」
そして同時に顔を背けた。しかしそれはお互いを性として意識しているからに他ならなかったのだ。そう右京たちは自分自身を意識してしまっている事に気づいたのだった。
「な、何やねん?そんなにウチのお好み焼き美味しかったんか?」
「そ、そっちこそ……作り方変えたん?そ、そんなにウチのお好み焼きがええんか?」
((な!な、何やのこの気持ち……))
そして二人はまたも同時に顔を逸らしたのだった。
「あ……」「あ……」
そして再び同時に視線が交じる。しかし今度は違うのだ。なぜなら右京たちは気づいてしまったからだ。
「「あかん」」
顔を真っ赤にしてお互いに有無を言わさず。唇と唇が触れ合った。その相手は勿論……
((やっぱり!やっぱりウチは……))
((どうしよう、自分チューしてもうた……ヤケドしそうやわこれ))
そして同じ事を思う二人の右京なのであった。しかし同時と言うのはつまり互いの行為の黙認と言う事である。息継ぎをした時に見た右京の顔は自分と同じでとても可愛かったのだ。
そして二人は同時にまたも口付けたのだった。
「ん……」
「んん!?」
そしてまたもや息継ぎをした瞬間、右京たちは同じ事を思った。それは……
((ウチ、ウチに夢中になってもうてる……))
そう右京たちはキスにハマりつつあったのだ。そして二人は再び口付けた。
「ん……」
「んん」
((あかん!これ癖になってまう!でもアカンで!ウチはウチが好きやなんて…あれ?))
((こいつもウチにこんな可愛い顔して口付けしてくるってことは…))
「なぁ?そういうことでええねんな?」
「聞くだけ野暮やと思うけど」
「そうせなチュー出来ないやろ?ちゅうことはそうなんちゃうん?」
そしてお互いを抱きしめて右京たちは顔を埋める。そこに照れは一切ない。だってどちらも自分自身なのだから。
そして……
「ん……」
「んん……」
そんな二人の唇が離れたのはそれから5分後だった。
「いらっしゃい、今日もおおきに」
「嬢ちゃん。お好み焼きおかわりな」
「どうもおおきに〜」
相変わらず呼び込みをしている右京。そんな中で来店するのは連日の常連のお客さん達。
「いつの間にか夫婦みたいだな右京ちゃん」
「可愛ぇやろ」
「二人とも可愛いよ」
「ちょいまち!照れるやんか、な?」
「可愛ぇのはそっちやろ。お好み焼き出来立でぇ!」
「照れるやんか」
そしてまたもカウンターに出されたお好み焼きを口いっぱいに頬張る客たち。そんな客たちのお好み焼きの食べ方を見ては微笑む右京たち。
「あ〜美味しかった。また来るよ」
「おおきに〜」
そんな客を見送り…
「女同士でおしどり夫婦というのはおかしいのかも知れんけどあんら見てると大阪から来て良かったわ~右京ちゃん達を見てると」
「「おおきになおばあちゃん!」」
客商売をしていて良かったと思う右京たちなのだった。だが、問題はここからであった。客が帰りその後片付けをしている最中であったのだ。そうとある問題が生じたのだった。その問題点とはずばり……
((キスしたーてたまらんわ))
そう二人の心が一致したように問題がもうひとつあったのである。それは右京たちからしてみれば新婚生活になりそうなのだ。つまり彼女とのキスが堪らなく嬉しいという訳で……お互いに頬が桃色に染まりカウンターを挟んで視線を少し交互させているのだ。
東京練馬区に二人の美女夫婦が営むお好み焼き屋があると言う。一種異様なその店舗は曜日限定なのであろうが昼時や夕食時の、食事時は非常に賑わってカウンターは常に満席だというから、よほど客に人気があるのだろう。しかしお客さん達の目的は、まずお好み焼きの美味しさに引かれ常連となる者。
そして、おしどり夫婦と噂の二人の右京を見に来るお客さん。
そして、たまに二人の右京のある行為が見たくて見に来るお客さん達だ。そのある行為とはずばり……それはそういうのが見たい客なら見るしかないという言う右京達の口付けを見たく遠くからやって来くる人がいる程だ。
その為、暗黙の了解があるのだと言う。そんな今噂のおしどり夫婦を一目見ようと集まる客達。実はこれだけ大好物な人たちから期待されているとは思わなかった二人の右京たちでもあるのだ。
「まだあかんって、そんな舌舐められたら…」
「そっちこそあかんって、今、客おらんからってこんな激しキスされたら……」
「そっちこそ色気出しすぎや。あんた気持ち良すぎんねん、もっとベロ舌で突いてとか」
((ウチ、煩悩が多すぎるんとちゃうやろか?))
「「もう堪忍してや~」」
真っ赤になった頬を冷ますように両手を当てる右京達、舌を絡めるキスにそんな事もする右京たちに、お客さんは大満足。
「「もう!アカンて」」
そして、そんな二人の右京の行為が見たい客たちは、今日も今日とて店の前に集まり……
((な!何してんねん!))
((あ〜ん、もうあかんわ!))
唾液が口角から顎を伝う程キス。
「あんたウチの唾液飲みすぎやって」
「そっちこそ、ウチの飲み過ぎやって」
そして再び二人の口付け。お互いの唾液を交換するという行為に熱くなったのか?右京たちは抱きつき、またキスを始めるのだ。
「あ……ん……」
「ぁ……んん……」
そしてそんな二人のキスを見たい客は大満足。 艶やかに伸びる髪が交わる姿も、そして二人がキスする様を見ては、その行為に大満足。
((もう!うちらのアカン所がまた出てしまったやんか))
そして今日もまた……
『お好み焼き屋のおしどり美女夫婦』
の噂は全国に広まっていくのだった。