『今際の国のオオカミ』浜辺幹也(2)
Added 2021-12-06 02:45:24 +0000 UTC(※注意) 本作は、「『今際の国のオオカミ』高橋文吾」シリーズの視点違いの続編となっています。新規の支援者様がおられましたら、「『今際の国のオオカミ』高橋文吾」シリーズの方からお読みいただけると幸いです。 ============= 登場人物: ・高橋 文吾(たかはし ぶんご) 22歳。暇を持て余す大学生四年生。家庭教師のバイト。 ・浜辺 幹也(はまべ みきや) 18歳。受験間近の高校三年生。文吾の生徒。元水泳部。 ============= 文吾は、血まみれのフローリングの床に膝を突いた。天井を仰ぎ、まるで自身の肉体に新たな魂を降ろそうとするかのように両手を広げ、次の瞬間――落雷を受けたように全身をビクンッと震わせた。 それから、文吾は身じろぎひとつしなかった。白目を剥き、口を大きく開け、苦悶の表情を浮かべたまま石像のように硬直していた。傍目には呼吸をしているのかも分からなかった。幹也は一瞬、文吾が絶命したのかと勘違いした。 文吾の肉体は、新たな生を受けるような圧巻の変化を迎えた。 真っ黒いジャージは限界までパツパツに膨らみ、生地の縫い目から破れた。腰回りのゴムは弾け飛び、雄々しい裸体が露わとなった。全身の皮膚のいたるところに赤らんだ太い血管が浮かび上がり、大粒の汗がフローリングの床に滴った。 背丈はあっという間に二メートルを越え、シルエットが別人に変わるほど筋肉の厚みが増した。 首は太く据わり、肩は丸みを帯びつつ盛り上がり、首から肩にかけて筋肉が山を連ね、腕はひと回りもふた回りも筋肉で太くなり、背中は筋肉の厚みと奥行を備えながら見事な逆三角形を見せ、胸筋はずっしりとした立体感を得ながら濃い陰影を落とすほど前に迫り出し、腹筋は厚みを増しつつ鮮明なシックスパックの割れ目を描き、太腿や脹脛もまた筋肉で膨らみ、尻は引き締まって左右に窪みをつくった。下腹部に反り返って怒張したチンポもまた、常人離れした圧巻の巨躯にふさわしい長さと太さに達した。 ものの五分ほどの出来事だった。 その様子を見ている幹也にとっては、途方もなく長い時間に感じられた。 骨格が軋みを上げる音、筋肉が軋みを上げる音が、離れた場所にいる幹也の耳に届くことはなかった。それでも、幹也は筋骨がギシギシと悲鳴を上げる音が聞こえるようだった。 次の瞬間、文吾は赤黒い血管の絡みついた巨根をブルブルと震わせながら、今まで以上の凄まじい量の精液をぶち撒けた。幹也は文吾の精液が灰色に濁っていくのを見て、文吾という存在が自分から程遠い化け物に変わっていく空恐ろしさを感じた。 文吾は立ち上がり、身長が伸びたせいで間近に迫った天井を見上げ、腋を引き締めて両腕に力を込めながら絶叫した。 「スッ、ッッッッゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェ――ッッッッッ!!!」 窓ガラスがびりびりと震えるような絶叫――それは遠くから様子を見ていた幹也の耳にも届き、まるで文吾が全身から放つエネルギーが自分の胸に突き刺さったような衝撃を受けた。 常人を凌駕する圧巻の肉体を手に入れた文吾は、自分の肉体を手をなぞり始めた。 はじめ、幹也は文吾が何をしているのか理解できなかった。 文吾はずっしりと前に迫り出した分厚い胸筋、見事なシックスパックの割れ目に指を這わせ、そのまま腰、引き締まった尻の窪みをなぞった。下腹部に雄々しく反り返った逞しいイチモツをバチンと弾き、筋肉のボコッとしたラインの浮かび上がった太股を撫で、またすぐに上半身に手を戻し、丸みを帯びて盛り上がった肩、ぶッ太く血管の浮かび上がった腕、幾重もの筋肉が犇き合いながら広がりを見せた背中へと指を這わせていた。 文吾の表情が狂気じみた笑みに歪んでいるのを見て、幹也は文吾がナルシスティックな欲望を貪っているのだと覚った。 それから、文吾はガラス張りの壁へと近づいた。 幹也は、文吾がこちらに気づいたのかとぎょっとした。 が、そうではなかった。文吾は、ガラス張りの壁の向こうのアパートにいる幹也に気づいたのではなく、ただガラス張りの壁に移った自分の姿を恍惚として見つめているようだった。そして、文吾は自分自身と兜合わせするようにガラス面に巨根を押しつけ始めた。 快感が強烈過ぎるのか、もはや苦悶に近い表情を浮かべながら―― 「――ァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!! スッゲェッ!! スッゲェッ!! スッゲェッ!! スッゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェッッッッ!!!」 文吾はふたたび咆哮を上げた。 文吾の絶叫は窓ガラスをビリビリと震わせるほどで、離れた場所にいる幹也の耳にくぐもって届いた。――嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、こんなのは俺が知っている先生じゃない! 幹也は頭の中が真っ白になり、現実を疑った。 ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ――ッッ!!!! 文吾の精液の色は、射精を繰り返す度にどんどん黒に近づいていった。 「おれッ、おれッ、おれッ、おれッ、おれッ、はッ、ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッ!!!!」 ドシュッ!! ドシュッ!! ドシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!!!! 幹也の耳にまで届くほどの凄まじい絶叫、そして凄まじい射精が繰り返された。 逞しく屹立した巨根から漆黒の精液が噴き上がるようになった頃には、文吾の双眸は狼男とそっくりな緋色に爛々と輝いていた。髪をはじめとする全身の体毛は美しい銀色に染まっていた。皮膚はもともと日焼けしていたのが黒光りするほど濃い褐色に変わっていた。犬歯は獲物を喰い千切るのにうってつけな鋭さを見せていた。顎の下にはチクチクとした銀色の髭が伸び、胸の中央や背中といった今まで体毛のなかった場所にも銀色の体毛が生え揃っていた。 文吾のめまぐるしい変化は、幹也の中に巣食っている「常識」を揺さぶるほどだった。 緋色の双眸、美しい銀髪、濃い褐色の肌を手に入れた巨躯の男は、椅子に縛り付けられている自衛隊の制服姿の男に飛び掛かった。それからは、筆舌に尽くしがたい残虐なカニバリズムが始まった。もはや別人となった文吾は、人を嬲り殺す快楽に目覚めてしまったようだった。 幹也は、恐怖と驚愕とが入り混ざった感情に襲われた。 頭がガンガン痛み、胸が締め付けられるように苦しく、喉がからからに渇いてヒリついた。こんなものを見たくない、ここから逃げ出したい。そう心の底から念じながらも、幹也は双眼鏡を放り出すことなく血走った眼で文吾の様子を凝視していた。 何で、何で、俺、こんなの見てんだよ! 早くここから逃げ出したいのに! 幹也は居ても立っても居られないような不安と焦燥に駆られつつも、文吾の様子から目を離すことができなかった。双眼鏡を持つ手、腋の下、胸、背中は、冷や汗でびしょびしょに濡れていた。ドクッ、ドクッ、ドクッと、鼓動が大きく、そして速まっていくのを感じた。 文吾から人当たりの良さそうな好青年の雰囲気は消え、今では全身に黒っぽく乾いた返り血を浴びて邪悪な禍々しいオーラを纏っていた。 文吾が嬉々として男の内臓にチンポを突っ込んで腰を前後させている姿が目に飛び込んだ直後、幹也はドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! と最高潮に鼓動が昂るのを覚え、気がついた時にはボクサーパンツの股間を盛り上げながら射精していた。 「あ? れ? お、れ――」 幹也は自分が射精してしまったことに混乱した。 それはまるで夢精のような、無意識に近い状態でイッてしまった。 「い、やだ、こんな、あんな、あんなのにコーフンしてんのか? おれは――」 幹也は、残忍な野獣と化した文吾に興奮してしまった現実を受け入れられずにいた。 幹也は、自分の意識が、理性の部分と欲望の部分とで引き裂かれるように感じた。 片手で双眼鏡を持ち、もう片方の手で硬く盛り上がった股間を押さえ、「嫌だ、嫌だ、何で、俺、こんな、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、」と涙目で呟いていると思えば、息を荒げながらスラックスの下でイクのだった――どっちが自分の本心なのかも分からなかった。 次第に、幹也の欲望の部分が理性の部分を侵食していった。 「喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ、喰いてえ……」 幹也ははっとして口を噤んだ。 は? 俺、今なんつった? 喰いたい? 喰いたいだって? 男の死体を喰らう文吾の姿を見ていただけに、自分の口から零れ出た言葉が信じられなかった。幹也は気づいていなかったが、それは文吾が人を喰らいながら発した言葉だった。文吾の様子を見て情欲を掻き立てられた幹也は、無意識のうちに文吾の持つ欲望の一部を受け取っていたのだった。 その時だった。 文吾が男の死体からゆらりと立ち上がり、幹也のいる建物の方を振り返った。 双眼鏡のレンズ越しに、目が合った。 「――ッ!!」 戦慄――胸の隙間に冷たい氷の柱が差し込まれたようなゾクリとした感覚が走った。勘違い、ではなかった。離れた場所にいるにも関わらず、文吾は幹也の存在に気づいたようだった。幹也は、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けて震えた。 き、気づかれた? 何で? 何で? 何で? 何で? 逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。 幹也の手から双眼鏡が落ち、ごつんと鈍い音が鳴った。膝が震えた。幹也は文吾の視線から逃れるように振り返り、玄関に向かった。何度も躓いて転びそうになった。危険人物から逃げる夢を見ている時と似た、必死で走っているのに全然前に進んでいかないようなもどかしさを覚えた。 遠くから、窓ガラスの割れる音がくぐもって聞こえた。 次いで、ダンッとベランダに何かが着地する音―― 次いで、すぐ後ろの窓ガラスが派手に割れる音―― 幹也は、おそるおそる振り返った。 冷たい外気が部屋に流れ込むと同時に、狼男の体臭とそっくりなニオイが鼻を突いた。血生臭さ、精液のニオイ、汗のニオイ、雄特有のニオイ、さまざまなニオイが混ざり合い、幹也はそれだけで頭がクラクラした。 「幹也ァ……。俺、図書館にいろっつったよな? 悪い子だなァ、お前」 そこには、およそ以前の面影のないほど変化した文吾の姿があった。 文吾は口元に冷淡な笑みを浮かべ、熱い吐息を洩らした。表情が変わっただけで、ふしぎと顔立ちまで別人のように見えた。幹也のいたアパートの部屋の天井は低かったため、文吾は窮屈そうに腰を屈め、天井からぶら下がっていたペンダントタイプの照明器具を片手で薙ぎ払った。 目の前で見る文吾の巨躯は、改めて凄まじい迫力だった。 「あ、あ……」 幹也は、言葉に詰まった。 (続く)
Comments
コメントありがとうございます^^ 正直ここからは色々な展開を考えているのですが、それをひとつのルートに絞らなくてはいけないのが残念なくらいですw 幹也の変化は自覚しづらいまま進んでいって欲しいな~と読み手のような気持ちで考えていますw いつも応援くださり、本当にありがとうございます!
サトー
2021-12-07 09:15:21 +0000 UTCついに気づかれてしまいましたね……!! 建物を跳んで移動して一瞬で幹也の前に現れた文吾…… 屈まないと天井に頭が付く巨躯……そのうえものすごい筋肉ですから 迫力はものすごいでしょうね……!!ここ好きです…! ただ幹也も文吾を見てイったり「喰いてえ」ってなったり なにか変わっているようで、今後どうなるのか気になりますね…!
ichiya
2021-12-06 14:38:15 +0000 UTC