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『今際の国のオオカミ』浜辺幹也(1)

(※注意) 本作は、「『今際の国のオオカミ』高橋文吾」シリーズの視点違いの続編となっています。新規の支援者様がおられましたら、「『今際の国のオオカミ』高橋文吾」シリーズの方からお読みいただけると幸いです。 ============= 登場人物: ・高橋 文吾(たかはし ぶんご) 22歳。暇を持て余す大学生四年生。家庭教師のバイト。 ・浜辺 幹也(はまべ みきや) 18歳。受験間近の高校三年生。文吾の生徒。元水泳部。 ============= +++++  幹也は、文吾の変化を何となく察知していた。  きっかけは、文吾の首筋に見つけた狼男の歯形だった。  文吾は、狼男に噛まれたことを隠しているつもりのようだった。  しかし、幹也がそれに気づかない訳がなかった。何といっても、幹也は気を失っている文吾をマンションの一室にまで運んで世話をした本人だ。ぜえぜえと息を切らしながら、自分よりも体重のある文吾の身体を床に下ろした時、文吾の首筋に獣に噛まれたような痕跡を見つけた。  それだけではない。幹也は、移動した先のアパートのベッドで眠っている間に起きた出来事も知っていた。そう、文吾が「幹也ッ、幹也ッ、幹也ッ、幹也ッ、」と小声で名前を呼びながら、自慰をしていたことを……。  実は、幹也は、途中で目を覚ましていたのだ。普段と違う荒々しい息遣いを聞いて、いま起きたらいけないと本能的に覚った。心臓の鼓動が大きくなるのを感じながら、眠ったフリを続けていたのだった。  幹也は混乱した。  まさか、先生が……。  そんなこと今まで疑ったこともなかった。  だからといって、幹也は文吾を問い詰めはしなかった。問い詰めて、関係が破綻でもすれば、自分はこの世界でひとりぼっちで生き延びなければならない。仮に文吾がこちらに性的な関心を寄せていたとしても、先生と生徒という関係から踏み込んでくることはないだろう――高校生ながらも、幹也は一歩引いて考えるのが得意だった。  しかし、幹也は肝心な前提を見落としていた。  ここが常軌を逸した「今際の国」であることを、だった。  物事の本質を見抜くことが得意な幹也は、文吾が日に日に逞しいガタイになっていく様子を見て、真っ先に狼男との関連を疑った。ただ、日常ではあり得ないショッキングな出来事の連続に、そんなことを深く考える余裕はなかった。とりあえず、その場その場を生き延びることを優先するうちに、目の前の相手――文吾にどう対処すべきかは後回しになっていた。  幹也がふたたび文吾を不審に感じるようになったのは、アパートを発って図書館へ向かっている時だった。  文吾の体臭が、以前と明らかに違ったのだ。汗を掻いたとか、なかなか着替える服がないとか、シャワーを浴びることができる環境がないだとか、いくつか考えられるものの、そうした理由だけでは説明がつかないほど、文吾の体臭は別人のように変わっていた。  幹也は、狼男に襲われた時、狼男の独特な体臭を記憶していた。忘れる訳がなかった。文吾の体臭は、その狼男の独特な体臭と近いものに変化していたのだった。しかも、密室ではない、図書館へ向かう道中であっても嗅ぎ取れるくらいの強烈さでもって――。当の文吾は、自身の体臭の変化に気づいていないようだった。  もしかしたら、文吾は狼男になってしまうのか? 幹也はそんな恐怖に駆られた。いや、そんなことはあり得ないだろう、と思ってから、そもそもここが常軌を逸した世界であることを思い出し、幹也は憂鬱な気分に浸った。 「――俺は水を探してくるから、幹也はここで待ってろ」  文吾がひとりで図書館を出て食糧を探すと言い出した時、幹也は頭をがんと殴られるような衝撃を受けた。もしかしたら狼男の一味かもしれない、しかもこちらに性的な関心を寄せているかもしれない、危険分子――。そんな相手であるにも関わらず、いざ目の前から消えるとなると、幹也は足元ががらがらと抜け落ちるような恐怖に襲われた。  幹也は、自分の不甲斐なさに怒りを覚えた。  その怒りは、目の前の文吾に向かった。 「そっか、俺、そんなに足手纏いっすか……」  幹也は、柄にもなく嫌味ったらしい言葉を口にしていた。そう言ってから、俺は思っていたよりセコい人間なのかもしれない、と自己嫌悪に陥った。幹也は文吾から視線を外して、拗ねたように俯いていた。 「そんなんじゃねえよ! 俺は――」文吾は声を張り上げ、はっとしたように声を抑えた。「……俺は、そんなこと、これっぽっちも思ってねえから、変なことを考えるな」  文吾はそう言って、幹也の腕を強引に引っ張った。幹也の強張った肩を抱き寄せながら、「俺を、信じてくれ」と耳元で囁いた。熱い吐息が、幹也の耳に吹き掛かった。その時、幹也は、今までの人生で感じたことのないふしぎな感覚を抱いた。  俺より年上の、それも明らかに俺より強そうなガタイの先生が、俺の言葉ひとつに動揺している――。幹也は文吾の真剣な表情を見て、文吾に強い好意を抱かれていることを確信した。男など興味がなかったのに、相手の必死の姿を見ると満更でもない気分になった。それは恋愛感情というより、優越感に近かった。  黒のトレーナー越しに、文吾の分厚く盛り上がった胸板の感触がした。  ドクッ、ドクッ、という文吾の心臓の鼓動が伝わってくる。  幹也の背中の文吾の手が這ったと言えば、さらに強く抱き締められ、ゴリゴリと何か硬いものが下腹部に触れた。視線を落とさずとも、幹也はそれが文吾の勃起したイチモツであると気づいた。  その時、文吾の身体からは、文吾の情欲の昂ぶりに合わせるように一段と強烈な体臭が発散されていた。狼男のそれを似た独特な体臭を間近で思い切り吸い込んだ途端、幹也は頭がクラッとし、足がふらつくのを感じた。  ――あ、れ……?  幹也は、文吾の体臭に当てられて、下腹部がぞわぞわとするような性欲を覚えた。同時に、今まで気が張っていたのが緩んだように眠気に襲われ、目を閉じた。眠たいのに、どこか興奮する……夢の世界に片足を突っ込んでいるような妙な心地だった。 「じゃあ、行ってくる」文吾は幹也を突き放し、足早に図書館の裏口へと歩き始めた。  突き放された幹也は、呆然とした。  しかし、すぐに文吾の後を追い掛けた。  文吾が裏口から出たのを見届けた後、幹也はこっそりと扉を開けた。  裏口の扉の隙間から、文吾がコンクリ建てのゴミ庫に入っていく姿が見えた。幹也は足音を殺して移動し、ゴミ庫の奥にある生垣の裏に回り込んだ。どうして文吾のことを尾行しているのか、自分でもよく分からなかった。よく分からない衝動に突き動かされるように、気がついたら身体が動いていた。  幹也は、生垣の葉の落ちた枝ごしに文吾の様子を窺った。  ゴミ庫の窓ガラスの隙間から、回収されれることなく放置されたゴミ袋の悪臭がここまで漂っていた。幹也に見られているとも知らず、文吾は「ふゥッ、ふゥッ、ふゥッ、」と息を荒げながら、苛立たしげにボクサーパンツとスラックスを脱ぎ捨てた。  バチンッ、竿に太い血管の浮き上がって逞しいチンポが下腹部に反り返った。先走りでグチャグチャに濡れ、もうすでに陰毛や睾丸や太股の内側にまで精液の糸が垂れていた。幹也は、思わず「デッケ……」という声が洩れそうになり、息を飲んだ。  他の男のソレを、まじまじと観察するのは初めてだった。  先生って、こんなにデカいイチモツを隠していたのか……。幹也は、うっすらと劣等感を刺激された。幹也は何度か同級生の女とヤッたことがあった。何人かの女から「大きくて気持ち良い」と言われていた自信がグラつき、文吾に対して嫉妬を抱いた。  そんな立派なイチモツを持った文吾が、顔から首までを真っ赤に染めて「幹也ッ、幹也ッ、みきやッ、みきやッ、みきッ、やッ、」とチンポを扱き上げて身を捩っている――。異様な光景だった。 「俺ッ、俺ッ、俺ッ、俺はッ、」文吾はビクッ、ビクッと腰を震わせ、黄味を帯びた白濁した精液をぶち撒けた。精液は凄まじい勢いで吹き上がり、天井や壁や窓ガラスにまで飛び散った。それも、一回や二回などではない。文吾自身の髪や、顔や、上着にまでシャワーのように降り掛かった。  射精しながら、文吾の肉体はさらにデカくなっていった。ミシッミシッと黒のトレーナーは悲鳴を上げ、今にもはち切れてしまいそうで、文吾がビクビクと腰を動かしながら背中を丸めると、トレーナーの背中の生地にビッと裂け目が入った。  ビュルッ!! ビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!! 文吾は立て続けに一五回もイッた。凄まじい精力だった。幹也は文吾の底無しの性欲に恐怖を覚えながらも、自分の股間をスラックス越しに片手で押さえていた。  なぜか、幹也も痛いほど勃起していた。  何で? 俺、何で、興奮しちまってンだろ――。  幹也もまた、文吾の肩の上下に合わせるように息を荒げ、ボクサーパンツの下で先走りを滲ませていた。雄特有の汗臭さ、狼男のそれを思わせる独特な体臭、キンモクセイのような甘い精液の匂いといったものが、ゴミ袋の悪臭に混ざって幹也の鼻を突いた。  幹也は、頭の中があらゆる臭いで搔き回されるように混乱していた。 +++++  幹也は、文吾がゴミ庫を出てからも尾行を続けた。  どうして自分が文吾に興奮してしまったのか、その違和感を突き止めたかった。  アパートの部屋で適当に誰かの服を借りたのか、文吾は黒色の上下にジャージに着替えていた。ひと通り水と食糧を集めた文吾は、高級マンションの玄関に吸い込まれるように入っていった。  これ以上、何をするというんだろう? 電柱の陰に隠れて文吾の様子を窺いながら、幹也は不審に思った。図書館で交わした約束では、水と食料を集めたら、文吾は図書館に戻るはずだった。  幹也は高級マンションに足を踏み入れようとしてから、いや、さすがにバレるか、と引き返した。代わりに、幹也は向かいのマンションの三階の一室に忍び込んだ。ちょうど、高級マンションのベランダを遠目に望むことができる位置だった。  幹也が忍び込んだのは、ろくに掃除のされていない男の部屋だった。つい最近まで人の住んでいた痕跡があり、テーブルには残り汁の入ったカップ麺やビールの空き缶、吸殻がぎゅうぎゅうに押し込まれたガラスの灰皿といったものが置かれていた。相当なヘビースモーカーのようで、白い壁はヤニで茶色に変わっていた。  ゴホッ、と幹也は慣れない煙草の臭いに咳払いした。足の踏み場を探るように部屋を歩き、ベランダの掃き出し窓の前に立って、爪先立ちで向かいの高級マンションに目を細めた。  高級マンションの三階、右から二番目の部屋。そのベランダの窓に、ちらちらと動く人影が見えた。この距離からでは、誰かまでは見分けることができなかった。しかし、文吾以外に誰かいるとも思えないから、おそらく文吾なのだろう、と幹也は見切りをつけた。  ……何か、高価な物品でも盗みたいのかな? そんな勘繰りをしている時、幹也は爪先立ちからよろけて尻餅をついた。 「イッテェー……」  尻餅をつくと、左手に何か硬い物がぶつかった。  目を向けると、それは床に埃を被った双眼鏡だった。  俺は、なんて運が良いのだろう。おそらく安物の平凡なつくりの双眼鏡だったが、幹也は興奮気味に取り上げた。適当に倍率を調整すると、高級マンションの三階の窓に動いている人影を文吾だとはっきり認めることができた。  同時に、文吾のいる部屋に広がっている凄惨な光景まで目に飛び込んだ。  人間の死体――  であっただろう、おびただしい肉片。骨片。  それが、部屋のあちこちに散乱している。血。血。血。血。血。血。肉。肉。肉。肉。肉。肉。血。血。血。血。肉。肉。血。血。血。血。血。夕陽の淡い光に照らされて、黒っぽい輝きを放っている。  きっと、狼男の活動拠点のひとつに違いない――。  生首が視界に入った瞬間、幹也は双眼鏡を落として床に蹲った。ドクッ、ドクッと耳の裏で鳴っているように心臓の鼓動が激しくなった。池袋駅の東口で見たグロテスクな光景がフラッシュバックし、その場で吐き戻した。  そのまま、一〇分ほどが経過した。  今の時期は陽が傾くのが早い。わずかな間に空は暗くなり始め、ぱらぱらと雨が降り出していた。気持ちを落ち着かせてから、幹也はベッドの掛け布団で口を拭った。文吾が心配だった。  幹也は、覚悟を決め、双眼鏡を手に取って立ち上がった。高級マンションのベランダに双眼鏡を向け、ふたたび覗き込んだ。慣れもあり、さっきよりも冷静に部屋の惨状を受け止めることができた。とっくに文吾は逃げ出しているものと思ったが、相変わらず窓の近くに佇んでいるのが見えた。  おい、何でずっと突っ立ってんだよ、と幹也は心の中で舌打ちした。いつ狼男がやってくるかも分からない部屋に迷い込んで、慌てて逃げ出す以外の選択肢があるというのだろうか?  そして、幹也は自分の目を疑った。なんと、文吾は、手の平に付着した何かを舐めながら、もう片方の手でジャージを押し退けるように屹立したチンポを扱いていた。それも、薄目を開けた恍惚とした表情で――。  幹也は、文吾の姿を見て、背中に悪寒が走った。ゴミ庫で見た時の文吾とはまた違う、ヒトとして越えてはいけない一線を越えているような印象を受けた。文吾の身に纏っている黒色のジャージの上下ははち切れそうに膨らみ、ところどころ糸が解れ、襟や裾が捲れ上がって破れそうだった。  幹也は、ごくりと唾液を飲んだ。  瞬きするのも忘れて、文吾の様子に目を凝らした。 (続く)

Comments

コメントありがとうございます!! 気づくのが遅れてしまってすみません; 文吾の視点だけでは書き切れない部分があったので、思い切って幹也の視点を導入しましたが、結果として物語に奥行きが生まれてよかったなと思っています。 ichiyaさんのコメントを読ませていただくと、いつもインスピレーションを刺激されますw(なるほど、確かに!!と勉強になります)

サトー

文吾がでかくなって狼男に変わっていって、幹也は……幹也をどうするんだ……? って思っていたのでがっつり幹也のターンが来てガッツポーズでしたね 幹也の視点から見ると逞しくなってくガタイとか体臭でなんとなく気づいてたんですね…… 幹也視点だと「足手纏いっすか……」って言葉もまた違うものに見えてきます。 幹也も文吾の姿に勃起して文吾の変わっていく瞬間を見て……何を感じるのか…… 続きが楽しみです!

ichiya


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