『今際の国のオオカミ』高橋文吾(6)
Added 2021-11-19 12:05:51 +0000 UTC登場人物: ・高橋 文吾(たかはし ぶんご) 22歳。暇を持て余す大学生四年生。家庭教師のバイト。 ・浜辺 幹也(はまべ みきや) 18歳。受験間近の高校三年生。文吾の生徒。元水泳部。 ============= 「今際の国」と呼ぶべき、常に生死のプレッシャーが圧し掛かる世界――。 高級マンションの一室に至るまでの文吾は、右も左も分からない心細さを抱いていた。年下の幹也に頼る訳にもいかず、むしろ自分が頼られる側として堂々と振る舞わなければならない状況に心が押し潰されそうだった。 それが新しい肉体を手に入れた途端、文吾の心情は一変した。途絶えかけていた心が息を吹き返し、頭の中に垂れていた不安のベールが一挙に消え、世界がすばらしい輝きに満ちたものとして目に映った。 「あー、俺、生きてる……」 文吾は、ぼそっと呟いた。 これまでの自分は死んでいたに違いない――そう感じるほど、文吾はかつてない生の実感に打ち震えた。ドクンッ、ドクンッ、と腹の底から熱の塊が込み上げ、身体の中心から末端にまで力が満ち満ちていく。鼻の奥に汗と精液と雄の体臭の混じり合った匂いが膨らみ、文吾はうっとりした心地で深呼吸をした。 文吾の身長は、二メートル四〇センチにまで達していた。視界が高くなったおかげで、さっきと違う部屋にいるように風景が違って見えた。腕を動かすと、背中に張り出した筋肉ともぞもぞとぶつかり合うのを感じ、文吾は改めて進化した肉体を見下ろした。 「デッケェ……」 男――それも雄を象徴するような筋肉ダルマになんて興味がなかったのに、今では自身のガタイにまで欲情するようになっていた。一方で、まだ自分の身体としての実感が乏しいような、分厚く盛り上がった筋肉の鎧を着込んでいるような違和感があった。 「……ッ、ァッ……フッ……ァッ、ッッ、」 文吾は、そんな違和感を払拭するために、精液のシャワーでどろどろに汚れた肉体を手で撫で回した。 くちゅ、くちゅ、と手の平で精液が擦れる音がして、灰色がかった糸を引く。性感帯でも何でもない場所でも、手を這わせるだけでビリビリとした快感が走る。これは紛れもない自分自身のモノだと、文吾は脳を直に突き刺すような快感でもって理解した。 顔、首を経て、ずっしりと前に迫り出した分厚い胸筋に触れ、見事なシックスパックの割れ目に指を這わせ、そのまま腰、引き締まった尻の窪みをなぞり、下腹部に雄々しく反り返った逞しいイチモツをバチンと弾き、筋肉のボコッとしたラインの浮かび上がった太股を撫で、また上半身に手を戻し、丸みを帯びて盛り上がった肩、ぶッ太く血管の浮かび上がった腕、幾重もの筋肉が犇き合いながら広がりを見せた背中の感触を確かめる――。チンポだけではなく、無尽蔵な精液のタンクたる陰嚢もまた、ガタイに合わせて存在感を増していた。 「あ~、エロ過ぎンだろうが……」 ふと、暗くなり始めたガラス張りの壁に映った自分と目が合った。文吾は、一連の進化に伴って視力が発達していたおかげで、自分の肉体のシルエットだけでなく、その細部に至るまではっきりと視認することできた。 「ハッ、ハハッ、スッゲッ……」 文吾は、背筋がゾクゾクするような戦慄を覚えた。 それは、意識と肉体がシンクロする感覚だった。 何となく頭の中に思い描いていた理想の姿とは、このことだったのか……。今こうして現実に存在する新たな肉体を前にして、真の自分とは何たるかを教えられている気分だった。それまでどこか夢心地だった気分が、急に生々しい現実味を帯びるようだった。 文吾は、ガラス張りの壁へと近づいた。 文吾は、ニイッと唇の端を吊り上げて不敵な笑みを浮かべ、ガラス張りの壁に移った自分の姿を舐め回すように見つめた。見つめながら、今までの人生で抑圧してきた《自己愛》の感覚が膨れ上がるのを感じた。 「フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ、」 文吾は頬を紅潮させて息を荒げながら、自分自身と兜合わせするようにガラス面に巨根を押しつけた。片手で自分の身体を撫で回し、もう片方の手で臍を優に越える立派過ぎるイチモツを握った。握っただけで、灰色がかった先走りがドロッと溢れ、ぴくっと腰が動いた。 全身にピリピリと微弱な電流が走るような刺激が走り―― 「――ァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!! スッゲェッ!! スッゲェッ!! スッゲェッ!! スッゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェッッッッ!!!」 文吾は、腹の底から込み上げる力の奔流とともに、今まで抑圧していた《自己愛》の感覚を爆発させた。 ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ――ッッ!!!! 精液の噴き上がる勢いが激し過ぎるせいで、チンポから陰嚢までもがぶるぶると震えた。 窓ガラスの至近距離で灰色っぽい精液がぶっ放され、窓ガラスから天井にかけてをドロドロに汚し、跳ね返った精液は自身の肉体にも飛び散った。身体に飛び散った精液は、皮膚の毛穴を通してゆっくりと体内に取り込まれるようだった。射精を繰り返す度に、精液の色はどんどん黒に近づいていく――。 「ハハッ、ハッ、そうだッ、俺はッ、生まれ変わったんだッ!!!」 性的な快感は脳を変化させ、変化した脳は性的な快感を加速させた。 実際、文吾には《生まれ変わった》と呼ぶべき目覚ましい変化が生じていた。脳は配線も更新され、人間社会で培われた一般常識や固定観念といったものから、文吾は自分でも気づかないうちに解放された。 文吾は、鏡に映った自分自身と交わるように腰を動かした。 「おれッ、おれッ、おれッ、おれッ、おれッ、はッ、ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッ!!!!」 文吾は、部屋の空気がビリビリと震えるような雄叫びを上げた。 ドシュッ!! ドシュッ!! ドシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!!!! チンポの先からは、粘り気の強いどす黒い精液を噴き上がった。 文吾の双眸は狼男とそっくりな緋色に爛々と輝き、髪をはじめとする全身の黒色の体毛は銀色に染まり、皮膚はもともと日焼けしていたのが黒光りするほど濃い褐色に変わり、犬歯は獲物を喰い千切るのにうってつけな鋭さを見せた。顎の下にはチクチクとした銀色の髭が生え揃い、胸の中央や背中といった今まで体毛のなかった場所にも銀色の体毛が生え揃った。 「フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ……」 凄まじい熱量に、全身からは汗の蒸発した白っぽい煙がもうもうと立ち昇っていた。獣じみた雄の体臭と精液の臭いと汗の臭いとが混ざり合い、独特な異臭を放っていた。 「――待たせたな」 文吾は満面の笑みを浮かべ、窓際の椅子に鎖で括りつけられた自衛隊の制服姿の男を振り返った。 文吾の緋色に輝く目には、まるでどす黒い邪悪な生物が宿っているようだった。自衛隊の男は肩をビクッと震わせ、恐怖で口をパクパクさせた。助けてくれ、という命乞いの言葉さえ喉の奥に引っ掛かって出てこなかった。 「そうか、俺、狩られる側じゃなくて、狩る側だったんだな――」 文吾はそう言って自衛隊の男の首を両手で握り、椅子ごと持ち上げた。 男の首を絞め上げながら、文吾はうっとりと目を細めた。 ――人ヲ殺スノッテ、ナンテ気持チガ良インダロウ……。 暴力という名の快感。文吾の凶悪なイチモツはよりいっそう赤黒く怒張し、腰の動きに合わせてヒクヒクと動き、粘り気の強い濃厚な真っ黒い精液を吐き続けていた。男は顔を真っ赤にして必死に身を捩っていたが、文吾が少し力を篭めると、ボキッ、と首の骨が折れる音が鳴った。 次の瞬間、男の身体から力が抜けた。 文吾の圧倒的な肉体、圧倒的なパワーを前にすると、目の前の男は脆い人形のようだった。 「あーあ、もう壊れちまったのかよ、つまんねェなァ……」 もっと楽しみたかったのに。文吾はそう言わんばかりの不満そうな顔で、男の死後も首を絞め続けた。やがて首の皮と肉が破れ、おびただしい血が流れ出た。心臓という名の血液を運ぶポンプが止まってしまったからか、静かに、しかし途切れることなく血は溢れ続けた。 文吾は男の首に口をあてがい、喉を鳴らして真っ赤な血をごくごく飲んだ。濡れた紙にインクを垂らすと一瞬にして色が広がるように、文吾は自らの飢えた肉体に活力が漲るのを感じた。 文吾は男の死体を床に投げ捨て、着衣を破り、巻きつけられた鎖を引き千切った。そして、頬の肉、首の肉、肩の肉、胸の肉、腹の肉、背中の肉、太股の肉と、男のまだ温かさの残った肉を喰っていった。 もはや、文吾からは良心や恥らいといった人間らしい感情は消え失せていた。その代わりに、性衝動と殺人衝動が極限まで高められ、それは誰にも制御できないほど強力なものだった。かつての人当たりの良さそうな好青年の雰囲気は消え、今では全身に黒っぽく乾いた返り血を浴び、邪悪な禍々しいオーラを纏っていた。 「喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ! 喰いてえェッ!」 文吾は男の肉を喰らったばかりだというのに、居ても立っても居られないような《餓え》を覚えた。 ふと、文吾は男の腹から溢れている生臭い内臓に目を向けた。 「今際の国」に召喚される前――ただの暇を持て余す大学生だった頃、サークルの友達と食べに行った焼肉のイメージが脳裏によぎった。確か、あの時、「あんまり食べねェけど、美味ェよな」と皆で言い合いながら牛の内臓をそれぞれ注文して食べたっけ……? そんなことを思い出しながら、文吾は自分がすっかり新しい人生を歩んでいるのを実感した。 「アー……キモチ……」 今の文吾にはサークルの友達と焼肉を食べていた頃の面影はなく、爪で切り開いた男の腹に顔を埋めて内臓を貪り喰らう野獣と化していた。クチャッ、クチャッと音を立てて咀嚼しながら、「ウンメェー……」と頬を綻ばせた。 今まで食べたどんな肉よりも美味いと感じた。ハラミ、マメ、レバー、ホルモンと喰い漁り、そういえばハツがまだだったなと思い、文吾は男の胸の皮膚を引き裂いて肋骨を両手で握り、そのまま強引に肋骨を抉じ開けた。 ボキボキッ、ゴキゴキッ、と肋骨の抉じ開けられる音が鳴り、男の死体がグロテスクなまでに変形していくのを見て、文吾は人間を解体することの快感に目覚めてしまった――。 こんな感覚は初めてだった。それまでも数え切れないほど射精していた文吾だったが、男の肋骨を抉じ開けると同時に、脳を直に刺されるような強烈な快感に襲われて真っ黒い精液を噴き上げた。キモチイイッ!! キモチイイッ!! キモチイイッ!! キモチイイッ!! キモチイイッ!! キモチイイッ!! 文吾は、男の死体のひとつひとつの関節を外していった。本来曲がるべき方向とは逆向きに力を入れてやると、関節はバキンッと爆ぜるような音を立てて壊れてしまうのだった。そのバキンッという音を耳にする度、文吾は背筋がゾクゾクするのを覚え、熱い吐息を洩らした。 (続く) あとがき: 大変お待たせしました! 今回はいつもより食人描写をネチッこく書き込みました。食人描写は好みが分かれるので、今まで控えめにしてきたのですが、いかがだったでしょうか? 良いと思ったら、いいねボタンなどで反応をいただけると有難いです^^(参考にさせていただきマス) 次回は今月下旬~来月上旬に更新予定です。 また、新シリーズの執筆も始めました。何人かの読者様からリクエストをいただき、未完の過去作『痕跡』のリメイクに取り組んでいます。リメイクとは言っても、設定や展開はいくらか改変します。こちらも楽しみにお待ちいただけると幸いです^^ 皆様、いつも応援ありがとうございます!! (参考URL) 『痕跡』上巻 https://transform.fanbox.cc/posts/302911
Comments
コメントありがとうございます☺️ ichiyaさんとは好みのシチュが似ているのかな?ってくらいツボが同じで嬉しくなりましたw ナルシスティックな筋肉確認の場面と人間が食料に変わる場面は気合が入りました!w
サトー
2021-11-25 08:41:05 +0000 UTC240センチ!大きくなりましたね~ 自分の体を撫でまわして筋肉確認するとこ大好きです もう「人間」が「食料」になっちゃってるのがゾクゾクしますね……
ichiya
2021-11-24 12:55:59 +0000 UTC