『今際の国のオオカミ』高橋文吾(3)
Added 2021-09-29 16:13:57 +0000 UTC登場人物: ・高橋 文吾(たかはし ぶんご) 22歳。暇を持て余す大学生四年生。家庭教師のバイト。 ・浜辺 幹也(はまべ みきや) 18歳。受験間近の高校三年生。文吾の生徒。元水泳部。 ============= +++++ ふたたび文吾が目を覚ました時、部屋は真っ暗になっていた。 まちの様子からして、電気やガスや水道といったライフラインは止まっているのだろう。仮に電気が通っていたとしても、部屋の明かりを灯すことは、狼男にこちらの居場所を伝える自殺行為になってしまうが。 「あっち――」 文吾は、ゆっくりと息を吐きながら起き上がった。汗をぐっしょりと掻いていた。身体が異様に熱く感じられ、トレーナーの上に羽織っていたボアジャケットを脱いだ。ふしぎなことに、全身の痛みはすっかり引いていた。それどころか、さっきまで高熱にうなされていたのが嘘のように元気になっていた。 「良かった、先生……」 声がして振り返ると、ドアに黒い影が立っていた。 シルエットだけで、幹也だと分かった。 「本当に良かった、先生、」幹也は張り詰めていた緊張の糸が解けたように、文吾の足元に縋りついて涙を流した。「俺、もう、ずっと怖くて、先生このまま死んじゃうのかもって……。家にも帰れねェし、ここが何なのかも分からねェし、ほんとに怖くて……」 幹也は、文吾が意識を失っていた間に起きたことを淡々と話し始めた。 幹也は狼男から逃げた後、鍵の開いていたアパートの部屋に駆け込んだ。ベッドの上で、半日近く、どうしようどうしようと震えていた。いつ狼男がやってくるか分からない恐怖と、パニックに陥って文吾を置いて逃げてしまった罪悪感で、涙がぼろぼろと溢れ出した。 夜になってから、幹也は狼男に襲われたところに戻った。そこで、奇跡的に、狼男に殺されずに地面に倒れている文吾を見つけた。幹也は、アパートの一室まで文吾を背負ってベッドに寝かせた。 幹也は自分を助けてくれた文吾を助けたいという思いから、近くのコンビニから食糧を盗んで戻ってきた。文吾が目を覚ました時、頭の近くに置いてあったアクエリアスとウイダーインゼリーは、すべて幹也が用意したものだった。 「そっか、怖かったな、ありがとな……」文吾は言って、幹也の頭を撫でた。 頭を撫でるなんて、普段なら絶対にしない行為だった。高校生にしてはガッチリとしたガタイをした幹也が、今は子犬のように怯えている。その姿に、文吾は下腹部から熱の塊が込み上げるように性欲を覚えた。 俺、何で男に、よりによって生徒にムラムラしてんだよ……。 文吾は、危機的な状況だというのに、教え子に欲情している自分に酷い嫌悪感を覚えた。俺はヒトとして最低な野郎だ、と心の中で毒づく。まったくもって、ムラムラしている場合ではない。幹也や、幹也の両親に対して、ただ申し訳ない気持ちで一杯になった。 「それで、」と幹也は頭を上げて言った。「あの後、何があったんですか? 先生は、どうやって生き延びたんですか? 狼男は?」 「いや、俺にも、何が起きたのかよく分からないんだ……」文吾は答えた。答えながら、改めて自分が情けない人間に感じられた。幹也は、俺が狼男に首筋を噛まれたことに気づいているのだろうか? 気づいていないのなら、黙っておこう、と文吾は思った。もう痛みは引いているのだし、幹也に無用な心配をさせたくなかった。 「そう、なんですか……」幹也は、明らかに落胆した声で答えた。 おそらく、と文吾は考えた。狼男は、わざと俺たちを見逃したのだろう。きっと奴らは、とんでもない身体能力を有している。俺を殺した後に幹也を追い掛けて殺すことなど、造作もなかったはずだ。俺たちを見逃したことに、何か理由があるのだろうか? それにしても、狼男は何人いるのだろうか? 外を出歩くのは、あまりに危険な行為だった。かと言って、部屋に引き篭もっていて、襲撃されないという保証もない。何より、食糧を確保しなければ、餓死という運命が待っている。 「……はあ」文吾は、ついため息をついた。 こんな恐怖と不安に一年間も耐えなければならないのかと思うと、頭がくらくらした。 「これ、大事なことなんですけど、」と幹也は俯きがちに言った。「コンビニにも死体がありました……。あの辺りにも、狼男が待ち伏せしてる可能性があります。俺はたまたま運が良かったけど、タイミングが悪かったら、殺されていたかもしれません……」 そんな状況で食糧を漁るなんて、意外と幹也は適応力が高いんだな、と文吾は驚いた。 「そうだな。これからは俺が食糧を確保する。助けてくれてありがとな。とりあえず、ここは危ないから別の建物に移動しよう。俺を襲った狼男が近くにいてもおかしくないからな」文吾は、自分自身の不安を押し殺すように早口で話した。 ――別の場所って、しかしどこに? 「まず、図書館とか資料館とか、そういうところに隠れよう」文吾は言った。 「図書館とか資料館とか、何もないじゃないですか」幹也は言った。 「だからいいんだ。幹也なら分かると思うが、生活に必要なものが揃っている場所ほど狼男が待ち伏せしている可能性が高い。逆に言えば、人間がやってくる見込みの薄い場所で待ち伏せする狼男はほぼいないと考えていい。そうした場所を生活の拠点にして、食糧を探すのはどうだ?」文吾は言った。 文吾は、こう考えていた。 池袋は大都会で、無数の建物が乱立している。飲食店やコンビニやスーパーやショッピングモールなど、食糧のありそうな場所さえ避ければ、狼男に見つかることは確率的に極めて低いはずだ。 きっと、マンションやアパートにも食糧はあるはずだ。生モノはアウトだが、保存のきく食糧を置いている家庭だって多いだろう。リスクの高い飲食店やコンビニやスーパーやショッピングモールに向かわずとも、鍵の開いている部屋に忍び込めばいいだけだ。 マンションやアパートを、そのまま生活の拠点として利用することも考えた。特に、部屋数の多い高層マンションの一室であれば、狼男に見つかりにくいだろう。しかし、密室では、いざという時の逃げ場がない。 その点、出入口が複数ある広々とした大型の公共施設は、いざ狼男がやって来ても逃げ切れる余地があった。 「そうですね、確かに……」幹也は顎に手を当てて俯いた。「でも、やっぱり、俺、自分の家に帰りたいです」 物分かりの悪い奴め、こんな危機的状況下でお前の家族だけが無事な訳がないだろう、と文吾は苛立ちを覚えた。 「そうだな、心配だよな。俺だって、家族の安否が知りたくて仕方がない。でも、今はなるべく安全な場所に移動するのが先決だ」と、文吾はなるべく穏やかな声音で伝えた。 「すみません、俺、自分のことばっかり……」幹也はしゅんとして言った。 「いや、俺の方こそ頼りなくてごめんな」それは文吾の本心だった。 二人は、陽が昇ってから移動することにした。 +++++ 「俺が起きてるから、幹也はしばらく寝な?」文吾は言った。 幹也は「ありがとうございます」と力なく答え、ベッドで横になった。よっぽど疲れていたのだろう、幹也はすぐに寝息を立て始めた。文吾が熱にうなされている間、幹也は食糧を用意して看病してくれていたのだ。 文吾は、アンドロイドのボタンをタッチした。 《残り 364日》 青色の液晶画面に浮かび上がった日数を見て、文吾は胃がキリキリするのを感じた。 そういや、このスマホの充電も何とかしないとな。しかし、電気が使えないのにどうすればいいんだ……。文吾は、苛々して蟀谷を掻いた。文吾には苛々すると蟀谷を掻く癖があった。 朝に近づくにつれ、カーテンは少しずつ明るい色に染まっていった。 文吾は、幹也がコンビニから取ってきてくれたウイダーインゼリーとアーモンドチョコを食べた。 食事を終えてしばらくすると、さっき理性で押さえ込んだはずの性欲がぶり返すのを感じた。こんな危機的な状況なのに……。いや、こんな危機的な状況だからか、まるで本能が騒いでいるかのように、文吾は強烈な性欲に駆られたのだった。 文吾の性欲の矛先は、ベッドで眠っている幹也に向いた。 さっきと違い、自分がヒトとして最低な野郎だとも、幹也や幹也の両親に対して申し訳ないとも思わなかった。今は、それよりも、性的な欲求が上回っていた。具体的に言えば、股間でガチガチに硬くなっているチンポの先からぶっ放したくて仕方がなかった。 文吾は慌ただしくベルトを外してスラックスをずらし、ボクサーパンツから先走りの垂れたイチモツを握った。気のせいか、以前よりイチモツが大きくなっているのを感じた。文吾は舌打ちした。ムラムラして、どうしようもなかった。 「ふう、ふう、ふう、ふう……」硬くなったチンポの竿を握っただけで、金玉の裏がひやっとするような快感が滲んだ。今まで男に興奮したことなどないのに、どうして自分が幹也に欲情しているのか分からなかった。 「俺がッ、狼男どもからッ、お前を守ってやるからなッ、」文吾は、小さな声で呟いた。眠っている幹也を見下ろしながら、自分の手で自分のチンポを責め立てる。 これから俺がお前を守ってやるんだから、俺がお前で抜くことくらい許されるだろ――。 文吾の「俺がッ、狼男どもからッ、お前を守ってやるからなッ、」という独り言には、そんな歪んだ感情が篭めれているようだった。先走りが、糸を引いて滴った。文吾は部屋のテーブルに置いてあったティッシュを手に取ろうとしたが、間に合わなかった。 ドプッ、ドププッ、とチンポの亀頭を覆った指と指の隙間から、黄味を帯びた白い精液が溢れる。 普段の文吾なら、一回イクだけで満足していた。しかし、今の文吾は、様子が違った。文吾は幹也を見下ろしながら、すぐに第二ラウンドに突入した。イッた直後で腫れぼったく感じやすくなっている亀頭を弄った後、竿の根元からカリに掛けて何度も何度も擦った。 「幹也ッ、幹也ッ、幹也ッ、幹也ッ、」文吾は幹也を起こさないように小声で何度も名前を呼び、今度はティッシュの中に出した。 やってはいけないことを、やっている――。 背徳感が、さらに文吾の興奮を加速させるようだった。 足先からゾクゾクとした感覚が這い上がって、間を置かずにまたイッた。 しばらくして、文吾は平静さを取り戻した。 文吾はため息をつき、手と性器に付着した精液をティッシュで入念に拭った。ボクサーパンツとスラックスを穿き直し、ティッシュを捨てたゴミ袋の口を結びながら、文吾は後悔と罪悪感と自己嫌悪に襲われた。 俺って、こんなに性欲が強かったっけ? これじゃあ、自分を制御できない性犯罪者みたいだ……。 「……はあ、」暗く濁った感情が、文吾の心を揺さぶった。 最終的には、文吾は五回も射精していた。もともと性欲が強くない方だったので、自分がこれほど連続でイッたことに驚いた。秋の終わりの寒さにも関わらず、文吾は汗をびっしょり搔いていた。皮膚にトレーナーやスラックスの生地が密着している違和感を覚えたが、きっとそれは汗を掻いたせいだろう。 「あ?」ふとクローゼットの全身鏡に映った自分自身の姿が視界に入り、文吾は目を瞠った。 それまで暗かったせいで分からなかったが、以前より文吾の肉体は厚みを増していた。汗を掻いたせいではなく、身体がデカくなったせいで服がキツくなっていたのだった。黒のトレーナーは、筋肉の盛り上がりに合わせてピチピチになっていた。 もともと文吾は、高校生の頃から筋トレに励んでいたおかげで、ガッチリとした身体つきだった。それが鍛え上げられたフィジーク選手のような見事なガタイへと成長していた。イチモツがデカくなったように感じられたのも、決して錯覚ではなかったのだ。 「どうなってんだよ……」文吾は呟いた。 もしかしたら、狼男に噛まれたことが関係している……? いや、そんな馬鹿な。文吾は不吉な予感をすぐさま否定しながらも、苛立ちを抑えるように蟀谷をかりかりと掻いた。さっき連続でイッたばかりなのに、もうムラムラしてしまっている自分が嫌で仕方なかった。 (続く)
Comments
コメントありがとうございます🤗 普段と系統の違うストーリーで、読者の皆様に受け入れられるか不安だったのですが、大好きという言葉をいただけて、とても嬉しいです! 今回は、主人公の精神面・肉体面の変化の過程を(いつも以上に)丁寧に描写しよう、と決めていました。一気に悪堕ちするストーリーも好きですが、自覚がないまま少しずつ悪に染まっていくストーリーも好きなんですよね。 ichiyaさんのご期待に答えられるよう、引き続き頑張ります💪
サトー
2021-10-04 12:31:50 +0000 UTCこの精神的にも肉体的にも変わっていく過程が大好きです 物分かりの悪い奴め、って苛立ちを覚えたり「これから俺がお前を守ってやるんだから、俺がお前で抜くことくらい許されるだろ――。」みたいな歪んでいく感情、無尽蔵にも思える性欲だったりする心の面、チンコがでかくなったり身体が大きくなって服がきつくなったりと体の面、変わる体にまた心が揺さぶられたり……と、この過程がとても好きです……これからの二人を考えてすごいぞくぞくした気持ちになりました!
ichiya
2021-10-04 10:58:48 +0000 UTC