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『被験体X』連載(3)

登場人物: 中嶋哲雄(なかじまてつや) 27歳 野村近平(のむらきんぺい) 27歳 田中悟志(たなかさとし)  24歳 *** (4)  “成長剤”の効果は目覚ましいものだった。  50回を超えた辺りから、哲雄は100キロのバーを軽々と持ち上げられるようになっていた。最初のような衝撃を受けることはなくなり、ただ何の加重もしていないバーを握っているような感覚がした。回数はとうとう100回を超えた。どれだけ100キロのバーを持ち上げても、最初の10回目のタイミングにあった強烈な快感を感じることはなかった。じりじりと先走りだけは出続けるが、射精にまでは至らない。  きっと重量が足りないんだと哲雄は考え、「ふんッ」と息を吐いてバーを戻し、立ち上がった。トレーニングルームの隅に積まれていた段ボール箱から、2リットルペットボトルの飲料水(ただの水ではなく、発汗と性欲増進を促す特殊な成分が含まれていた)を手に取り、ごくごくと喉を鳴らして一気に飲み干す。 「はァッ――」  哲雄は空のペットボトルを床に放り投げた。自分では気づいていなかったが、さっきのトレーニングで、肉体には相当な負荷が掛かっていた。ベンチプレスで酷使した胸や腕だけでなく、“成長剤”の効果によって、全身の筋肉がドクドクと脈打つようにパンプアップしていた。いや、パンプアップという現象だけでは説明できないほど、哲雄の全身の筋肉は飛躍的に発達していた。  哲雄はトレーニングルームの西側の壁に張られた鏡を見て、目を見開いた。そこに映った自分の身体は、いつも洗面所や風呂場の鏡で見ているそれとは明らかに違った。シルエットからして別人のようで、それが自分の姿だと認識するのに、少し時間が掛かった。  皆無に等しかった胸筋はうっすらと影の落ちる程度の膨らみを持ち、筋肉が盛り上がって肩はやや丸みを持ち、腕は太くなってごつごつとしたニュアンスを帯び、背中はいくらか左右に張り出して厚みを持ち、太腿もまたボリュームが増していた。心なしか、股間の膨らみも大きくなったように見えた。ものの数十分間に過ぎないベンチプレスを経ただけで、年単位での筋トレを積んできた近平に負けない身体つきになっていた。  身体が変わると、性格まで変わる。  鏡に映った自分の姿をくまなく確認しながら、哲雄の顔はニイッと自信ありげな表情に変わっていた。そこには他の二人に気後れしていた臆病な表情はなりを潜め、哲雄は、俺って意外とイケてるんじゃねえか? という新たな発見を得ていた。ズクンッ、ズクンッ、とチンポが痛いほど反応し、哲雄はほとんど無意識のうちにコンプレッションウェアの股間を片手で押さえていた。  射精にこそ至らなかったが、チンポはかつてなく硬くなり、筋肉の脈打つ心地良い感覚に合わせて濃い先走りを滲ませていた。汗と精液の臭いが混ざり合い、更には自分の胸元や腋の下や股間から揮発性物質と似た独特な臭気がむわっと立ちのぼる。哲雄は白目が血走るほど欲情し、コンプレッションウェアを脱ぎ捨てて勃起したチンポを直に扱こうとした。もう近平や悟志の視線などどうでもよくなっていた。  レギンスを脱ぎ捨てようと腰に手を当てた時、哲雄は違和感を覚えた。あれ? これって長袖シャツとレギンスとで別々に分かれていたよな……? その疑問はもっともだった。上下で別々に着たはずのコンプレッションウェアは、いつの間にか上下の境界が消えていた。体操選手のオールタイツの形状に変化したウェアをどうやって脱げばいいのか分からず、哲雄は強引にウェアの首回りを引っ張った。  コンプレッションウェアの生地を引っ張ると、同時に皮膚がぐっと引っ張られる感覚がした。哲雄の肉体とウェアは完全に密着していたのだ。どうやら性欲を発散するには、さらに高重量のマシントレーニングをするしかないようだ。哲雄はそう諦め、500キロのバーを持ち上げることを決心した。  500キロ――。  それは世界でもごくごく一部のアスリートだけが挑戦する常人離れした重量だったが、哲雄の心の裏には、これくらいならできるだろうという確信が芽生えていた。コンプレッションウェアの作用によって脳内物質を調整されているおかげで、哲雄は今までではあり得ないチャレンジ精神を見せた。身体つきが変化した、また100キロを100回持ち上げることができたという成功体験も関係していたが、それは無根拠な自信に近いものだった。  近平は、初心者がいきなり100キロのバーを100回も持ち上げたこと、そしてベンチプレスを終えた頃には哲雄が別人のようなシルエットに変わっていたことに、開いた口が塞がらなかった。これは、現実か? とベタにも自分の頬をつねったほどだ。インストラクター歴のある近平だったが、こんなのは今まで見たことがなかった。  哲雄がベンチプレスのバーに合計500キロもの加重を載せているのを見た時、近平はようやくふたたび言葉を発した。 「お、おい……何やってんだよ、死ぬぞ……?」100キロはまぐれで出来たのかもしれないが、こうなると訳が違う、初心者だと言っていた人間がやることではない、ともつけ加えた。近平は極めて常識的な意見を述べたが、哲雄はそれを一笑に付した。 「しっかり見てて下さいよ、俺のこと」哲雄はニヤリと笑みを浮かべ、コンプレッションウェア越しにビクッビクッと震えながら先走りを滲ませるチンポを握った。「ほら、もう、我慢できねえんスよ。筋トレって、最高に気持ちイッスね」 「何、言ってんだ、知らねえぞ、俺は……」近平はドン引きした顔で答え、何も関係がないと言わんばかりにトレーニングルームの隅に座り込み、「クソッ、意味が分かんねェ、何だこれ……ッ」と言って自分の頭を掻き毟った。 「中嶋さんを見てたら、俺も出来るんじゃないかって気がしてきました」  悟志はぽつりと言った。  悟志は、哲雄に対してトロンと心酔したまなざしを向けていた。哲雄の身体(正確には哲雄のコンプレッションウェア)から発される独特な臭気に当てられ、自分でも知らないうちに雄のフェロモンに性的な興奮を覚えるようになっていた。悟志もまた股間を大きく盛り上げ、時折、ビクッ、ビクッと腰を震わせた。 「ジムのトレーナーやってるなら、自分に合った重量くらい分かるだろ……」近平は弱々しい声で独り言のように答えた。こいつらには付き合っていられない――近平の声には、そんなうんざりした響きが含まれていた。  長年のインストラクターとしての経験が邪魔をしているのか、それともコンプレッションウェアとの相性があまり良くないのか、近平は他の二人よりも消極的な態度を見せた。さっきまで性的な興奮の様子は見られたが、一連の流れを見てすっかり気持ちが萎えてしまっていた。  悟志はそんな近平の意見など意に介さず、哲雄の隣を陣取り、いきなり150キロ加重のベンチプレスに挑戦しようとした。悟志の個人的な最高記録は60キロだったから、これはその倍以上の重量だった。悟志が150キロ分のプレートをバーに取りつけ終えたタイミングで、哲雄は500キロのバーをいよいよ持ち上げた。  哲雄は500キロのバーを持った瞬間、目の前が真っ白になった。とんでもない重量が胸と腕に一気に圧し掛かる。コンプレッションウェアは哲雄の肉体を締め上げながら筋力をサポートした。ぶわ、とこれまでになく汗が噴き出した。キーンと耳鳴りがし、意識が遠くなるような感覚がする。  哲雄は、バーを持ったまま、一分近く静止していた。常人であれば500キロなど持っていることもできなかっただろうが、コンプレッションウェアの働きによって何とか耐えることができたのだ。しかし、静止している一分の間に、コンプレッションウェアは今までと比較にならない量の“成長剤”を送り込み、哲雄の肉体は500キロの重量に耐えられるように改造されていく。  実は、コンプレッションウェアの特殊な生地を構成していたのは、線虫と似た真っ黒く細長い新種の寄生虫だった。ビースト・フィットネス社は、髪の毛よりも細く長い寄生虫を繁殖させ、それを使って恐るべき可能性を秘めたコンプレッションウェアを開発していたのだ。それまで一枚の真っ黒い生地のように見えていたのは、無数の真っ黒い寄生虫の集まりだった。  寄生虫たちにとって、宿主を強化することは理に適った行動だった。  寄生虫たちはコンプレッションウェアの形状を維持することを放棄し、うねうねと蠢きながら哲雄の全身を覆っていった。当の哲雄は500キロの重量のバーに耐えるのに必死で、そんなことに意識もいかない。ただ全身にジャグジーの細かな泡を浴ているようなむず痒い感覚が駆け巡り、気づいたときには取り返しのつかないことになっていた。  寄生虫たちによって視界が真っ黒に覆われ、哲雄は訳も分からず悲鳴を上げようとした。しかし、声は出せなかった。声を出すことも指先を動かすこともできず、ただ身体はバーを持ち上げた姿勢のままガチガチに硬直してしまっていた。  寄生虫たちは頭の天辺から足の爪先までを隈なく覆っただけでなく、目や鼻や口や毛穴や肛門といった全身のあらゆる穴から哲雄の内部に侵入した。寄生虫たちは脳や内臓にまで根を下ろし、神経系の配線までも書き換えていく。  何かが俺の身体の中に入ってきている。頭の中や眼球の奥や鼻の穴や肛門にブラシを突っ込まれ、ぐりぐりと擽られているような不快感に襲われた。ザーッザーッと耳の内側を何かが駆け巡るような音を聞きながら、哲雄は自分が地獄に閉じ込められてしまったような恐怖を覚えた。今にも発狂しそうなほど哲雄の心臓は激しく鼓動を打ちつづける。やがて真っ暗だった視界にはうっすらと光が差し、ぼんやりと物の輪郭が浮かび上がってくる。  そのとき、頭の中でパンッと何かが弾けるような感覚がした。  それは覚醒の合図だった。硬直が解けた途端、哲雄は寄生虫に覆われながらも目をひん剥き、全身をガクガクと震わせた。ギシギシギシッ、ミシミシミシッ、と全身の骨格と筋肉が軋みを上げ、哲雄は激しい快感に貫かれながらチンポから白濁とした液体を噴き上げた。 「うッ、あッ、すッッッげええええええええええェェェェェェ――!!」  ブシュッ!!ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!  気がついたら、哲雄は500キロのバーを上げ下げできるようになっていた。胸の近くにバーを引き寄せて、ふたたび限界まで持ち上げる度、全身をびりびりと途方もない快感が貫いた。頭の中だけでなく、全身にバチバチと電流が迸っているような快感。文字通り頭がおかしくなりそうだった。ドシュッ!ドシュッ!!ドシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!! 強烈な快感によって、肉体の進化に伴う激痛はいっさい感じなかった。いったいどんな勢いで精液が生産されているのかと思うほど、哲雄はバーを上げ下げしながら何度も何度も勢いよく精液を噴き上げた。 (続く) 大変お待たせしました! 今回の展開は非常に悩みました。寄生虫を描きたい! と思い立ったのですが、ちゃんと伝わるだろうかと何度も書き直すうちに無駄に時間が流れていき……。いつもと違ったことを書くのは難しいものですね。 今回は読者様の反応を知りたいので、良いと思ったら「いいね」を押していただけると幸いです^^

Comments

ありがとうございます!!コンプレッションウェアの素材はずっと書きながら悩んでいたのですが、寄生虫ってバイオハザードみたいでドチャクソエロいな……と頑張りました。 絵が好きと言っていただけてすごく嬉しいです!あんまり人気ないのかな?(;´Д`)とイラストは控えめにしていたのですが、これからは描いたら積極的に発表しますね😆

サトー

投稿ありがとうございます。 待った甲斐がありました! 寄生虫は新しくて本当に良いですね。 サトーさんの絵も大好きなので、個人的に挙上重量に比例して筋肉が肥大する絵もいつか見てみたいです!!

refuge11

ありがとうございます!!ちょっと心配だったのでそう言っていただけて感激です😆

サトー

待ってましたぁぁぁぁあああ! 精神の変化ももちろん、肉体の成長、コンプレッションウェアが実は寄生虫…最高です!マジ性癖どストライクです!

十兵衛


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