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鷹取リュウゴ
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健魔性体 菌活ドリンク~不摂生リーマンが健康以上の肉体を手に入れるまで 1

1 戻れ! 俺の健康~菌活ドリンク一本目    『ヨーグルトを毎日食べたおかげでダイエットに成功したの! ウエストがマイナス6cmよ! 6cm!』 『やっぱ腸内環境って大事なのね~! CMに乗っかるのはどうかな、って思ってたけど、これは乗って正解だったわ。マジいいよ、菌活!』 『サヤカも採り入れてみるべきじゃない? 菌活始めたら肌の調子も上がって化粧のノリもグッと良くなったのよ!』 休憩コーナーにある自販機前での立ち話なんて普段はノイズ(環境音)でしかないのに、OLたちの会話が耳に残るのは俺もそれだけ我が身の健康が気になっていたからだ。 「菌活かぁ……、一人暮らしを始めてから食事も生活習慣も乱れっぱなしだもんなぁ」 この頃ずっと眠りは浅いし時間も短い。お通じは下痢と便秘の繰り返し。 しょっちゅう微熱が出やがるし頭痛もたびたび襲い掛かる。 インスタントラーメンや冷凍パスタばっか食ってるから明らかに野菜も肉も不足している。 その上、残業になれば外食かよくてレトルト。酒とツマミだけってな晩飯の日もあったり。まして運動なんてこれっぽっちもやっていない。 分かってる。このままではダメになるって事は自分でも分かってる。 「ここらできちっと改善しなきゃヤバイな……」 遅まきながら少しは健康を意識した。 他人事だと思ってたけど有名タレントや推しライバーの突然の訃報、顔は知らないもののSNSで繋がっているフォロワーの重病&入院報告なんかを目にすると「明日は我が身」の不安が募る。 ならばインスタントやレトルトを控え野菜や魚をちゃんと摂り、しっかり運動をし睡眠時間を確保するのがベストなのだとは百も承知している。 けれど正直言って急な生活習慣の転換は厳しいと言わざるを得ない。 加えて、なんとか就職を決めて地方から出て来たのは良いけど都会の物価の高さを舐めていた。 ちょっとした付き合いで飲み食いしたら簡単に万札が消え財布が空になってしまう。毎月の給与は必死に残業したって倍になどならないのに。 そんなお財布事情もあって普段の食事は栄養面より量と価格だけで選んでしまいがちだ。 「とは言え、カラダのメンテナンスをサボり過ぎてぶっ倒れでもしたら、そっちのほうが費用が余計にかかるもんな。まさに本末転倒ってやつだ」  こんな風に自分の健康状態はギリギリだと自覚しながら、それでも具体的な行動を取らずに迎えた週末。 土曜日だけでは疲れが取れず、日曜日に入ってもだらだら過ごしてしまって気付けばもうお昼どき。 朝は食べなくても平気だったがさすがに腹が減って何か食べないと辛くなって来た。 しかるに、こんな時に限って食料のストックが底を尽きていた。 冷蔵庫には飲み残しの酒瓶だけ。レトルトも缶詰も無い。カップラーメンは昨日で全部食べ尽くしていた。 「くそっ、自宅で飢え死にとかあり得ねぇって」 仕方が無いので近所のスーパー行くことにした。 デリバリー? それもアリだが冷蔵庫が空っぽのまんまじゃ晩飯の時にまたピンチを迎えるだけだ。 コンビニ? どうせ外へ出るんだから手ごろで健康的な食材を買える店に行くべきだろ? 規模はさほど大きくはないものの休日とあって賑わうスーパーに入り、総菜コーナーに寄ってお昼用の総菜や弁当を選ぶ。 でもって久しぶりに野菜(カット済みで炒めるだけのモノ)をいくつかゲット。 小腹が空いた時に備えてシリアルや牛乳も買っておこう、と棚に向かえば牛乳の横にあったヨーグルトが気になった。 『プロバイオティクスで腸内環境を整えよう! 善玉菌を増やして健康アップ! レッツ菌活~!』 謳い文句のポップが商品の前に貼られている。 やっぱり「菌活」は流行ってるんだ。置かれているヨーグルトの種類の豊富さからも実感した。 それだけじゃない、お通じ改善に「乳酸菌〇〇株」だとか、血糖値を下げる「〇〇〇菌400億個」とか、菌の種類や菌の多さまで商品名に入っていて菌そのものを前面に出している。 だったら俺も健康のため菌活をスタートさせるため購入しようか、と思うものの手が出ない。 「効果がありそうなモノは普通のヨーグルトより50円も高いし、毎日の習慣どころか三日坊主で終わっちまいそうだしなぁ……」 結局、散々迷った挙句ヨーグルトは買わずにスーパーを出た。 重いビニール袋を手に提げ、冷たい北風をうなじに受け思わず背を丸める。 動機も理由も十分あるのに俺の意気地無しめ。健康を本格的に損ねて倒れちまってもいいのか? 足を前に出すたびに脳内の理性的な俺が俺を責め立てる。 50円をケチるよりやっぱ菌活を開始したほうが良かったんじゃないか……。 「――とりま、腹ペコだしさっさと帰って昼メシ食って――ごはぁっ!?」 誰かが突っ立っているなんて思っていなくて思い切りぶつかっちまった。 いや、ちゃんと前を見ていなかった俺も悪いがどうして相手方も俺に気付かなかったんだよ? 「すみませんっ! お怪我はされてませんか?」 先んじて頭を深く下げたのは俺より少し年下っぽい青年だった。 「いや、転んじゃいないから大丈夫。つか、まさか人がいるなんて思わなくて俺も悪かっ……」 頭を上げた青年はいかにも爽やかイケメンで女子受けしそうな顔立ちなのだが、着ている衣服が季節に全く合っていない。 なにゆえこの青年は水色半袖ポロシャツにやたらとモッコリが目立つホットパンツなのだろう? 真夏のビーチか、せめてスタジアムのビールの売り子ならまだ違和感ない衣装なんだろうけど。 「……そんな恰好じゃ寒くないですか?」 服装など個人の自由なのに思わず口を突いて出ちまった。 だけど、こんな寒空の下で震えてたらまるで「マッチ売りの少女」じゃないか。 「はい、すんげぇ寒いっす! でも、仕事なんで……」 「仕事?」 そんな恰好で? という言葉は喉元まで出かかったけど寸前で飲み込んだ。 「そうなんです。実は今日中にドリンクを売り切らなくちゃならなくて」 「ドリンク?」 ビールでもマッチでもなくて「ドリンク売りの青年」だったのか。でも、ここはスタジアムじゃないぞ? 住宅地の一般道路なんだが。 「いつもご利用いただいているお得意様が今日はご不在で、お渡しできなかったんです」 なるほど。 肩から下げているやたらとデカいショルダーバッグには販売用のドリンクが入っていたんだな。 ヤ〇ルトレディとイメージが結びついたら先ほどスーパーでヨーグルトを買わなかった事が急に惜しくなってしまった。 「もしかして、ドリンクって乳酸菌飲料みたいな?」 「ええ、そうっす。プロバイオティクスに基づいた美味しくってカラダにとても良い菌を選び抜いた菌活ドリンクです。あと1セットで完売なんすけど、なかなか――」 セット売りか……。なら、値段次第になるな。 「菌活に興味はあるんだけど、いくら?」 「5本セットで1000円っす!」 1000円か……。買えない訳じゃないけど、それなりにそれなりの値段だな。ううむ―― 「あの~、もしかしてご購入していただけるんですか?」 「そう、そうしたいんだけど……、一本200円のドリンクとなると迷う値段だな、って」 スーパーでは50円差でヨーグルトを諦めたんだしな。 「でしたら! モニターに登録して頂けるんなら無料でお渡しできます!」 「モニター?」 「はい! 弊社のドリンクを一定期間、継続的に飲んで頂いて、最終段階のカラダの状態を確認させて頂くのが条件になりますが!」 まとめると、菌活ドリンクが毎週ワンセット5本ずつ、それが4週間。合計で20本。 それら配達されたドリンクを月曜から金曜日、毎日一本飲み続けて欲しい、と言う内容だった。 「モニターに登録して頂いたらドリンクは全て無料でお届けします!」 「無料……、そして各週ごとに5本ずつ、か。君も飲んでる訳?」 「もちろんっす! だから、こんな寒い中で仕事をしても風邪は引かないっすよ! めっちゃ寒いっすけど!」 いや、だから、早く防寒用の服を着なさいよ、って言いたくなる。 だけど、仕事中はこれが「制服」だと命令されれば仕方ないよな、と同情の念も湧く。 「じゃぁ、寒さに震えながら頑張ってるキミを応援するためにもモニタ―登録してあげるよ」 「えっ!? マジすかぁ! うわー! ありがとうございます! じゃぁ、こちらのタブレットに連絡先の住所やお名前を入力してください!」 嬉しそうにバッグからタブレットを取り出した青年は入力画面を立ち上げ俺に差し出す。 食材の入った袋を地面に置いて名前や住所、電話番号にメルアドなど基本事項を打ち込んで返したら青年はその場でこの日ラストの菌活ドリンク5本セットを俺に渡した。 「ちなみに、ですが。モニター登録して下さったお客様にはドリンクが無料になるだけじゃなく、報奨金をお渡しできるんです! 大した金額じゃないですけど、途中で止めずに続けて欲しいってことで!」 インセンティブまで出るなんて随分と手厚いフォローじゃないか。 感心していると内ポケットに入れていたスマホがピロンとメールの受信を通知。 差し出し人は菌活ドリンクの会社だった。 「モニターに登録して頂いたら自動的にメールが届くんです。メールの中にあるリンク先には色々と書いてますんで是非そちらもご覧ください!」 なるほどね。メールをその場で飛ばすことで本人確認も兼ねている、って寸法だな。 「分かった。帰ったらサイトを見ておくよ。君も、ええと、風邪は引かないと豪語してたけど、それでもこんなに寒いんだし今日はもう帰ってさ、暖かくして休んでくれよな」 「お兄さん、いえ、三島さん、凄い優しいんすね~。自己紹介が遅くなっちゃいましたが俺はこのエリア担当の『菊川 愛樹(きくかわ あいき)』って言います! 三島さんに次のドリンクをお届けするのも俺になりますので、どうぞよろしくお願いしますね! では、モニター登録、誠にありがとうございましたっ!」 ◇  自宅に戻って昼飯を食べながらドリンク売りの青年・菊川くんがメールで紹介してくれた菌活ドリンクのサイトを開く。 『菌活モニター大募集! 全18種類の善玉菌を美味しく摂取して健康効果を実感してみませんか?(但し男性に限る)』 なぜ男性限定なのか? 女性用は別にあるのか? 「なるほどね、モニターになったら報奨金が出るとも書いているな……。ドリンク飲むだけで金が貰えるなんて話しが美味すぎてちょっと不安になるけど」 『毎週お届けする5本セットのドリンクを一日一本飲むだけ!』 『途中で退会されても解約金などは一切請求いたしません!』 『お届けはエリアの担当スタッフが直接配達に伺います! 店頭販売やネット通販は一切行っておりません!』 さっき会った菊川くんがこのエリアの担当だと言っていたから来週の配達も彼が届けに来るんだろう。一度でも顔を見て知っている人物なら安心だ。 「さて、そんじゃぁ今日の分の菌活ドリンクを飲むとしますか」 月曜日じゃないけど問題はないだろう。5本目が木曜日で切れる程度だし。 菌活ドリンクの商品名は『ボディモッド(BODY MOD)』だそうだ。 選び抜かれた18種類の有用菌が一本の中に含まれている、とこちらにも書いてある。 食べ終えた俺はまるでヤ〇ルトそっくりな容器からアルミ箔を剥がして中身の液体を口に流し込む。 味はマズくない。むしろ非常に美味しい。 ヤク〇トよりも甘さが控え目でさっぱりとしている。香りも爽やかでほぼラッシー。 「お、美味いな。これで健康になれんならありがたいんだが」 過剰な期待は禁物だ。 だけど、少しくらいは効果が実感できますよう一瞬で空になったプラ容器と残り4本の菌活ドリンクに願った。

健魔性体 菌活ドリンク~不摂生リーマンが健康以上の肉体を手に入れるまで 1

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