6 淫音共鳴体 異変、変転、異常、汚染、浸蝕――俺の知らない歯車が回り出す。もう止められない。 一つのフィナーレを迎えた。 コンティニューするには、次の幕開けのためには、今までの「俺」を手放さなくてはならない。 カウントダウンはとっくに終わっていた。選択肢は無く、一つ目のピリオドはすでに打たれていた。 俺の音が新たな「音」によって完全に飲み込まれ複雑な濁音に取って代わった。 タツミだったモノとマナブだったモノの股間から聳え勃つ巨大な肉棒の濡れた切っ先が、俺の耳の中へ卑猥なナマの音をたっぷりと注ぎ込み、そして全てを射精し切ると満足げに耳から離れて行った。 「んぐぶ!? うぐぅぅっ!」 確かにそれは「音」だけ。 白い体液は耳の中を満たしはしたが鼓膜の中にまで入っていない。 なのに頭ん中は二体の精液で満たされスライムのように蠢きながら脳の中心へ浸み込んでいく。 やがて杭打たれ固定されたアンカーボルト状の「データ」に触れると白濁スライムは「データ」をマーマレードのように柔らかく揉み解き、展開した卑猥な「音」をより強く、よりけたたましい音量でカラダ中に反響させた。 警報! 警鐘! 警告! 危険! これ以上この「音」を浴びていると不可逆的な変化に襲われる! もう二度と元に戻れなくなる! 俺は、お前は、ヒトではなくなってしまう! ――そんな声がどこからか聞こえたような気がした。だけど、荒れ狂う爆音に掻き消されすぐに聞こえなくなった。 ほとばしる「音」に侵され変質した細胞はその過程で著しい快楽信号をフィードバックする。俺はもがいた。喘いだ。叫んだ。あまりの気持ち良さに咽び泣いた。絶頂に吼えた。喜悦に悶えた。喘いで鳴いて、膨らみ続ける欲望を囀った。 もっと、もっと欲しい、と。もっと俺を侵して犯してくれ! ――と、ただ一心に。 抗いようのない「快」音の濁流に飲まれ、目まぐるしく回転する「悦」音の渦に揉まれ、手も足も出ない極大のオーガズムの沼に全身を沈め、堕とし込んだ。 ―ギシ、グチグチ、ギチュッ ……始まった。 解凍され俺のカラダに充満した「淫音」が元から持っていた俺の「音」を取り込み、吸収し、ヒトでは持ち得ない新しい音色(存在)にしようと、今の俺のカラダでは小さくて収めきれないから最適なカタチにしようと――。 ―ミシッ、メキィッ! グジュチュ、ジュプッ 始まってしまった。 「淫音」で巨きくなった欲望を具現化するカタチ。ヒトの身では耐えきれない、だからふさわしいカタチにしようと、骨も筋肉も質的な変化と形状の変化を同時に進め、肥大していく。 ―ジュググ、ブジュゥッ! グジュプ、ズニュ、グニュ……、グキュ、ボゴ、ベゴォッ! 筋肉が狂ったように肥大しその表面を金属的な質感の表皮が覆っていく。 脚の先から始まり、脛、太もも、下腹部、胸、そして肩から腕へとベコベコ筋肉が膨張し、成長し、肥大に肥大を重ねてとてつもないバルクに達すると皮膚が硬質化し、メタリックに光を反射するようになっていく。 ―ベキメキ、グチィッ、ズグッ、ググ、グググッ、メキャ! ズニュズニュ! ズブンッ! 肩の三角筋がヘルメットのようにデカくなると肩と首を繋ぐ僧帽筋も比例してデカくなり首と肩とが一体になってしまった。 心臓がドクッ! ドクッ! と今まで感じた事が無い程強く、速く鼓動する。メタリックな表皮に血管みたいな筋がボコボコ浮き上がって筋肉の周りを縁取る。 すると、肥大した筋肉それぞれが枠線を引かれたようにより明確に強調され目に飛び込む。 ―バキッ! ゴキゴキ、グジュッ! ズチュズチュ、パキ、メキメキ、グチィ……。 メタリックな表皮は二体と同じ濃緑ではなく雪のような白。純白。 関節や筋肉の隙間からのぞく組織は深い海のような青。群青。 ――グジュルルルルッ! ズビュルッ! グジュズルルルルルルッ! 俺の頭が後ろに引っ張られる。引き伸ばされていく。後頭部が長く伸びて「尻尾」のように長くなっていく。 何故? なぜ俺だけ? アイツらと一緒じゃないのか? どうして俺だけ違うカタチに? かすかに浮かんだ疑問もまた押し寄せる絶頂感と絶え間ない射精感によって流星の如く消え去った。 ◇ 止んだわけじゃない。その「音」は鳴り続けている。 だけど、音量の制御は可能になっていた。 俺は「音」に意識を向けるのを停止し、ゆっくりとカラダを起こした。 立ち上がって自分の姿を見た。 「……うお」 この時の感情をどう言い表せばいいのだろう? 巨大な驚きの後からじわじわと込み上がって来る嬉しさ、感動、高揚感、ワクワク感……、叫びたいほどの幸福感! タツミが俺の肩に手を乗せた。 「どや?」 白いゴーグルの眼がニンマリと歪んだ。 カシャッ! と音が鳴った。マナブがゴツい手でスマホを掴んで俺の画像を撮っていた。 「っへへ、イイ感じ。バッチリだね」 マナブが撮ったばかりの俺の画像を表示して俺に向けた。 白がベースの生体サイボーグ。 筋肉のボリュームが半端無くタツミやマナブよりもさらにマッチョになっている。 一番特徴的なのは頭。頭部の形状が大きく異なっている。 顔面も頭もカラダと同様に白色のマスクで覆われているものの後頭部から腰に向かって伸びる「尻尾」のようなモノが付随している。 ワニ、いや、イルカの尾部のようにも見える機械的な「尻尾」はオーバーハング気味に俺の額に重なり、目元の部分までを覆っている。 「あ~、何でお前らと違うんだ?」 悪い意味じゃない。ただ単に個体差の理由が知りたかった。 「さぁ。なんでやろな? 見当もつかへん。倉知さんかマスターに聞けば分かるやろうけど」タツミが両腕を拡げて「No Idea」のポーズを取った。 ただ、「マスター」――その言葉を聞いた途端、俺の中の一部がビクッと疼いた。 「僕も理由は分からないな。ただ、推測だけど僕たちとは違う音で共鳴したから、だろうね。僕ら『レゾネイター』は元々持っている音と与えられた音とが共鳴し合って出来上がっているからさ」 続いてマナブは「もっと詳しく知りたいのならタツミくんが言った通り倉知さんかマスターじゃないとね。僕もまだ勉強中だから」 勉強とはもちろん新しいカラダ、新たな存在に生まれ変わった自分自身について、と言う意味だ。 「レゾネイター? それが俺たちの名か?」 タツミが俺の頭から生える太い尾部をぬるりと撫でた。あまりの快感で股間が開き、ズビュル! と「音」を立てて俺の新しいチンポが飛び出した。 「っへへへ、ここも性感帯かぁ? なんやちょっと羨ましいやん。俺もこんなデカい尻尾を生やしとうなってしもうた」 「タツミくん、代わりに僕らは角があるじゃない。チンポ並みに敏感な角が二本もあるんだからさ」 マナブが腕のように太く長い俺の真新しいチンポをヌルヌルと撫でつける。その気持ち良さで膝がぐらつく。 もう一度俺は聞いた。 「なぁ、レゾネイターって何だよ?」 「レゾネイターっちゅうのはタマキだけや無くて俺たちのコトや」 そいつはさっきマナブから聞いた。 「共鳴する者って意味だよ。もっと厳密に言うと『マスターの音に共鳴する者たち』って意味かな?」 タツミが俺の頭尾(頭に生えている尻尾)をクイッと持ち上げ裏を覗いた。 そこには二体のあちこちに浮かぶ琥珀色をしたゼリーの半球のようなモノがびっしりと並んでいた。 「ほぉ~、こうなっとるんや」と小さく呟いたタツミが俺の頭尾を戻すと、「まぁ生まれ変わったばっかで色々知りたいんは分かるけど、取りあえず俺らとセックスしようや?」 と、また頭尾をぬるぬる撫で始めた。 「やろうやろう! 僕もタツミくんもこの時を待ってたんだ! 蕨岡君が僕たちと同じ完全なレゾネイターになるまでじっと我慢してきたからさ! 先に蕨岡君のチンポ、いただいちゃうね!」 見た目はモンスターみたいなサイボーグなのに言葉遣いがマナブのまんまだからか著しいギャップを禁じ得ない。 だけど俺の前で膝を曲げ、しゃがんだマナブの口元を覆う装甲がスッと左右に開いて剥き出しになった灰色の唇が俺のデカいチンポを咥えると、そんな事はどうでも良くなっていた。 「んう゛っ!」 「マナブは前からタマキのチンポにご執心やったからなぁ~。ここは黙って譲ってやらんとアカンな。ほんなら俺はこっちを頂くとするわ」 背後に回ったタツミが俺の頭尾ごと抱きしめ腰から突き出ている剛棒を俺の尻の隙間からズブズブと埋め込んでいく。 「ぐううっ! ふぐぅぅあああっ!」 「人間と違うて俺らレゾネイターは最初からココも使えるんや。俺やマナブはレゾネイターになる前からケツの気持ち良さは知っとったけどな」 「タ、タツミ? お前、んぐぅっ! ノンケ、じゃ、なかったのか?」 「騙してて悪いなぁ。俺、最初っから女は興味無いねん。せやけど周りがうるさいから仕方なく付き合ったりしとってんけど、やっぱ男やないとアカンわ。カラダが満足できへん」 ジュポン! と口から俺のチンポを一旦外したマナブが白いゴーグルの上目遣いで付け足した。 「僕たち友達なのにずっと蕨岡君だけ仲間外れってやっぱり良くないよね? ってタツミくんと話し合ってさ、それで倉知さんに相談したら、改造に必要な生体データをオナニー用のASMRに擬装したファイルをサーバーに用意してくれたんだ。それで蕨岡君にメッセでサーバーのアドレスを送ったんだ」 「あのASMRサーバー行きのメッセはお前らが送ってきたのか」 「せやで? ただ、改造に必要なデータ量はあまりに膨大やからってんで4分割になってもうたんや。ほんで、一発でキメられん以上はタマキが中途半端に止めへんよう俺らが見守る必要があったっちゅう訳や」 「謎の精液はお前らが射精したモノだったんだな?」 「すまん。オナってるタマキを見守ってたら俺らも我慢できんくてなぁ、レゾネイターに完全変態こそせぇへんかったんやけどチンポを大人しゅうさせるためにはマナブと一緒にヌき合わんとあかんかったんや」 「後始末、ちゃんとしないまま帰ってゴメンなさい。イった直後に蕨岡君の意識が戻って来そうだったからつい……」 「二人とも、悪いと思ってるんだったら俺をしっかり満足させてくれよ? このカラダ、人間の時と違っていくらでもぶっ放せるみたいだし、快感だっていくらでも浴びれるんだろう? だからさ? レゾネイターのセックスがいかに凄いか、徹底的に俺に教えてくれよ? な?」 煽り過ぎたのかも知れない。 たちまち二体から蒸気のような白い気体がブシュゥ! と噴き出し、琥珀色の半球体が振動して人間の耳には聞こえない、だけど猛烈に卑猥な「音」を放ち始めたからだ。 「なら、今夜は寝かせられへんなぁ~。タマキの精液が空っぽになるまで、犯して犯して、犯し尽してやらんと」 タツミが俺の股間部分に手を伸ばし、チンポの少し上の下腹部を人差し指でコンコンと弾いた。 「うんうん。そんな嬉しい謝罪ならいくらでもするよ! 口だけじゃなくてアナルにもいっぱい蕨岡君の精液を射精してね!」 マナブは俺に背を向け四つん這いになると腰を高く上げて尻を両手でガバ! と拡げ、谷底の肛門を俺に見せつける。 そして、唇と同じ灰色をした穴の窪みだけはヒトのような肉々しい柔らかさを湛えたままヒクヒクと俺を誘っていた……。