笑わないレースクイーン⑪
Added 2022-10-31 08:38:02 +0000 UTC梨香 「那月!!」 地下室から出る音を完全に遮断する重い扉。それがゴゴゴと音を立てゆっくりと開かれ、梨香が那月を助けに来たのだ。 扉の音に驚いた恵と若葉は、その地下室に入ってきた梨香の姿を見て、慌てふためくのだった。 恵 「なっ!?あなた、何故ここが…!?」 梨香 「麻友美さんが教えてくれたんだ。」 恵 「ま、麻友美さん…!?」 梨香 「あぁ。衣装も着替えずにどっか行った那月を探してたら、展示会場に行こうとしてた麻友美さんが言ってたよ。衣装のまま展示会場と反対の方へ歩いてくあんたらを見たってな。だからもしかして、あんたらが何か知ってんじゃないかなって思ったんだよ。」 恵 「くっ…!」 (やっぱり、あの時すれ違った事自体ミスだったようね…。) 梨香 「私は、あんたが人一倍努力する人だってのは知ってる。言っちゃ悪いけど、努力をしてない奴を嫌ってるだろうと思った。だから、内心では那月の事を良く思ってないんじゃないかって疑った。でも残念な事にそれが正解だったみたいだな。」 梨香の怒りに圧倒され、恵は何も言い返せずにいた。そしてその後ろで怯える若葉は、この事件の首謀者である恵に助けを求める。 若葉 「ど、どうしましょう先輩…!!!」 恵 「お、落ち着きなさい…!」 何とかこの場を逃れる術はないかと考えを巡らす恵。だが拘束されたまま疲弊している那月がそこにいる以上、自分達が無実だと言い張る事など到底不可能であった。 梨香 「……それで?あんたらは那月に一体何したんだよ。私の大事な後輩が、どうしてこんな風に拘束されてぐったりしてんだ?」 梨香は那月がくすぐられていた所は見えはおらず、X字に磔にされ酷く疲弊した那月と、その姿を録画するカメラを見て、更に怒りを露わにした。 若葉 「いや、これは…!」 恵 「と、特訓よ…!?彼女の希望で、私達が特訓をしていて…。」 咄嗟に出た言い訳は、那月に復讐する為の名目である、特訓という言葉だった。だが、この状況を見た者が、その言い訳を納得出来る筈がない。 梨香 「特訓?……ふざけるな!!こんな状態の那月が一体何の特訓をしてたってんだよ!!」 恵 「う、いや…、それは…。」 梨香 「今日のイベントであんたより注目を浴びた那月に逆恨みして、嫌がらせしたんじゃないのか?虐めて、その醜態をカメラに録画され、あんたに逆らえない様にしたんじゃないのか!?」 若葉 「うぅ…、め、恵先輩……!」 恵 「くぅ……!」 梨香の言う通り、当初の予定は録画したデータで脅して逆らえないようにする事で、他の人間に自分達の悪事を他言させない様にする事だった。だが、こんな現場を見られてしまった以上、やはり言い逃れは出来ない。誰がどう見ても逆恨み、虐めの現場だ。どうやっても言い訳しきれず、自分の罪を認めようとしたその時だった── 那月 「はぁ、はぁ、はぁ…。い、いえ…、私が……、お願い…しました…。」 若葉 「えっ……?」 恵 「な、那月さん………?」 梨香 「な…、那月!?何言ってんだよ!こいつらに何を言われたか知らないけど、もうこいつらの言いなりになる必要なんてないだぞ!?」 梨香は那月の拘束を解きながら、那月を説得し恵と若葉の悪事を聞き出す。 那月 「いえ…、これは私がレースクイーンとして活躍する為の、笑顔の特訓をして貰ってただけです。」 しかし、那月は決して恵と若葉が悪事を働いたとは言わず、あくまでも自分の為の特訓だと言い張った。 梨香 「笑顔の…、特訓?こんな拘束がどうして笑顔の特訓になるんだよ!そもそも、那月は昔から笑顔を作るのが苦手だって言ってたのに、たったちょっとの特訓でどうにかなるのか?こんなの、あいつらの嫌がらせを正当な理由にする言い訳だろ?」 那月 「いえ、あのお二人のお陰で、笑顔の作り方を思い出せた気がします。」 梨香によって、やっと拘束状態から解放された那月は、梨香にその特訓の成果を見せつけた。 梨香 「…!!」 それは那月が初めて梨香に見せた笑顔だった。笑顔と言っても、それは満面の笑みと言うよりは微笑みの様なものだったが、キリッとした目とその笑みは、とてもかっこよくキマっていて、梨香は思わずドキッとさせられ見惚れてしまう程、クールな那月に似合う表情だった。 那月も元々は感情豊かな性格で、徐々に表情を出さなくなってしまっていただけ。 拘束されてのくすぐりは正に拷問のような苦痛を伴うものだったが、結果的にそれは荒療治のような効果が生まれ、奇しくも忘れていた笑顔を思い出すキッカケになったのだ。 梨香 (那月…、超カッコイイじゃん…!!何なのその顔。女の私でも思わずドキッとしちゃった…。) 那月 「恵さん、若葉さん。お二人のお陰で、私は笑顔を取り戻す事が出来ました。…正直、あの特訓は苦しかったですけど、レースクイーンに最も大切な笑顔を取り戻せた事、本当に良かったです。ありがとうございました。」 恵と若葉にもその笑みを見せつけた那月は、軽く頭を下げ感謝を示すと、恵に手を伸ばした。 那月 「今度行われる人気投票イベント、絶対に負けませんから。」 壮絶なくすぐりによって那月は想像を絶する苦痛を味わったが、今となっては自分の悩みでもあった感情表現を取り戻せた事に感謝をしていた。そして結果的に、これは那月自身をレースクイーンとして輝かせるものとなり、自信を持つキッカケともなったのだ。だからこそ、那月は正々堂々と、レースクイーン界のエースである恵に勝ちたいと思ったのだ。 それは仕返しではなく、恵に対してライバル心が芽生え、レースクイーンとして本気で頂点を目指したいと、心の底から生まれたプロ意識。だから那月は、恵をライバルと認め握手を求めたのだ。 しかし、恵は自分の逆恨みで那月を苦しめた事に強い罪悪感を抱いており、とてもその握手に応える事が出来ず、座り込んだまま俯いていた。 那月 「……確かに、恵さんが行った事は他人から見たら許される行為ではないかも知れません。ですが、それを受けた私が許した以上、恵さんにはこれからも堂々とレースクイーンとして活動して欲しいです。そして、私と本気で1位の座を賭けて戦って欲しいです。」 その言葉で恵は救われ、思わず感情のまめに那月の手を握り返した。 恵 「……えぇ、分かったわ!私もエースのプライドに賭けて、必ず優勝してみせる!!新人のあなたには、絶対に負けないわ!!」 勿論、恵が行った行為は許される事で無い。だが、それを許し自分をライバルと扱ってくれた那月の強さに、恵は那月の望みを叶える事が、せめてもの罪滅ぼしだと感じその握手に応えたのだ。 こうして、この事件は幕を閉じた。 そして──── 司会者 「今年の人気ランキング、優勝は……、神楽那月さんでーす!!」 観客 『わああああぁぁぁぁぁぁ!!』 明奈 「やったー!!」 梨香 「よっしゃー!!!」 那月 「ほ、本当に…?私が優勝…、したんですか…?」 梨香 「マジで優勝しちゃうとはなぁ。」 美玲 「ホントだね〜。もうウチの事務所の看板になっちゃったね〜。」 佳代 「ウチの事務所も今後有名になって、いそがしくなりますね。」 恵 「……おめでとう那月さん。私の完敗よ。」 那月 「恵さん、ありがとうございます…。でも、本当に私が勝ってしまって、良かったんでしょうか…。」 恵 「これは、ここにいる沢山のファンが、“笑わないレースクイーン”というクールビューティーさと、それに似合う微笑みを見せるあなたに魅了されたと言う事よ。私から1位の座を奪った事を、もっと誇りに思いなさい。」 那月 「ありがとうございます…!私、これからもレースクイーンとしての私を誇りに思っていきたいと思います。ファンの皆様も、ありがとうございました。これからも、応援よろしくお願い致します!」 観客 『わぁぁぁぁぁぁ!!!』 デビューしたての新人が人気ランキングで優勝するという快挙は勿論、笑わないレースクイーンとして、業界に革命を巻き起こした「神楽那月」という名は、レースクイーン界の歴史に名を刻み、間違いなく語り継がれるだろう。 そして那月は、デビュー年から5年連続でランキング1位となり、殿堂入りを果たす。こんな前代未聞の快挙を成し遂げるレースクイーンは、後にも先にも現れず文字通り絶対的エースとなるのだが、それはまた別のお話────
Comments
ありがとうございます✨ 絶望的な最後も稀に書きますが、その作品を作り始めた時の精神状態が影響してるかもです(^_^;) 基本的には新作小説を書き始めた時点で結末は何となくできてるので。
こーじ
2022-11-01 11:55:46 +0000 UTCレースクイーンも素晴らしかったです! やっぱりハッピーエンドがいいですね🎵
オッカ
2022-10-31 13:07:06 +0000 UTC