笑わないレースクイーン⑥
Added 2021-11-16 09:10:27 +0000 UTC那月 「………ん…、んん………。………んっ、…あ、あれ……?私……、寝ちゃってた……?何で………?」 目を覚ました那月は、ぼんやりとした意識のまま自身が眠ってしまっていた事に気付き、そもそもそこがどこで、自分が何をしていて、何故寝ていたのか、それを少しずつ思い出そうと記憶を辿る。そして意識が徐々に戻り、自分が立ったまま寝ていた事に気付いた。それにも違和感があったが、腕が持ち上げられているような感覚を覚え、その腕を動かそうとした時、更なる違和感に気が付いた。 那月 (あれ?…腕が、動かない……?) 自分の意志でも無いのに何故か腕が頭上にあり、その腕を動かせないという違和感。それを確かめる為に頭上を見上げてみると、突如自分の身に降り注いだ危機に、ようやく意識が完全に戻ったのだ。 那月 「ちょっ、何…これ!何でこんな…!?」 身体を必死に捩るが、腕は下ろす事が出来ず、同時に足も拘束されている事を理解したのだ。つまり那月は、意識を取り戻した瞬間から、金属製のX字型の拘束台によって、両手両足を斜めに広げる様に磔にされていると言う状況に陥っていたのだ。当然こんな事になっていては流石の那月も焦りを隠せない。だが、普通ならパニックに陥り泣き叫んで助けを求めてもおかしくはないが、那月は冷静になり直前の出来事を思い出そうと記憶を辿った。 那月 (レースクイーンの衣装を着てる…。これは大東都モーター工業がデザインした衣装だ。確かステージに上がって、衣装をお披露目した後、撮影会があって、それが終わった後、恵さんに招待されて紅茶を頂いたんだ。) 直前の記憶を鮮明に思い出すが、それが最後の記憶であり、この状況とは明らかに繋がらない。そんな事を考えていると、この無機質な部屋の、那月から見て正面に位置する場所にある重そうな扉がゆっくりと開き、恵と若葉がレースクイーンの衣装のまま入ってきたのだ。 那月 「恵さんに、若葉さん…!?」 何故か恵の手にはビデオカメラが、そして若葉はそれを立てるであろう三脚を持っていた。その理由は分からなかったが、知り合いがこの場にやって来た事に安堵し助けを求めようとしたのだが……。 恵 「あら、もう起きてたのね。」 若葉 「危なかったですね!拘束する前に目が覚めてたら失敗に終わる所でした。」 那月がX字に拘束されるという非日常な情景を見ても慌てるどころか、那月がこういう状況になっているのを知っているかの様な2人の会話で、直前の記憶とこの状況がようやく繋がり、那月は全てを理解した。 那月 「もしかして、あなた達が私を眠らせて、こんな事をしたんですか?」 2人が自分を陥れたのは寧ろ間違いない。だからこそ、怒りの表情を露にして鋭く2人を睨み付けた。と言っても、那月はとにかく感情が表に出ない。睨むと言っても少し眉間にシワが寄る程度、元々つり目に近い那月は、あまり怒りの表情が表れてはいなかった。と言うより、普段から目付きの悪い印象を与える表情であるため、怒りを露にする見た目があまり変わらなかった。 恵 「うっふふ、怒っちゃったかしら?」 那月 「当たり前じゃないですか。そもそも、何でこんな事したんですか?」 恵 「あなたがレースクイーンの仕事を舐めて、私達のプライドを傷付けたからよ。」 那月 「別にレースクイーンを舐めてなんていませんし、やる気無くやってる訳ありません。ちゃんと全力で向き合い、プロ意識をもってこの仕事をしています。」 恵 「それが笑わないレースクイーン!?こっちはこの大前提である笑顔を保つために、必死に努力を重ねてきたのよ!それが笑わないであんなに人気が出るなんて、冗談じゃ無いわ!!」 那月 「そうでしたか。勿論このスタイルで新人の私が人気になってしまった事に、申し訳無いという気持ちはあります。ですが、先輩達が言って下さったんです。それで人気を得たのは、レースクイーンファンが私のそのスタイルを認めてくれた証だと。だから私は堂々として、ファンの期待に応えるべきであると。」 恵 「確かにそうね。ファンが認めさえすれば、それが人気の証よ?でも、だからって努力を重ねてようやくこの地位を得た私の怒りは収まらないわ!!」 人気No.1の恵の怒りも確かに納得がいく。笑えないからと言って笑顔を作る努力もせず、笑顔を捨てて開き直ったら注目されたという経緯は確かに許せない者も多いだろう。それを実際に言葉としてぶつけられ、那月は強い罪悪感を覚える。だが、所詮は逆恨みに過ぎない。だからと言って何をしても許される訳でもない。だからこそ、那月は強気な姿勢で怒りを露にした。 那月 「だからって、こんな事して許されると思ってるんですか?ここが何処だか知りませんが、拉致監禁して拘束するなんて、犯罪ですよ。今なら許しますから、早く解放して下さい。」 若葉 「犯罪だろうが、それが表沙汰にならなきゃ良いんすよ!」 犯罪だという事も気にしていない若葉は、三脚を那月の目の前で立て、何やら準備を始めていた。 那月 「……良い訳無いでしょ。それに、いつかは私がいなくなった事が騒ぎになる。表沙汰になるのは確実よ。それとも、ずっとこうして雲隠れでもするつもり?」 犯罪である事を分かった上で開き直る彼女達が、レースクイーンの先輩、と言う認識から犯罪者に変わった事で、敬語を使うのを止めた那月は、あくまで冷静に、そして強気に振る舞い怒りをぶつけるのだった。だが、拘束されて身動き出来ない那月など、恐れるに足りない。それを良い事に、恵と若葉も強気な態度を変えようとはしなかった。 恵 「確かに事件として捜査されるかも知れないけど、那月さん本人がこうなる事を求めてたら、話は別じゃないかしら?」 那月 「……何を言ってるのか理解出来ないわ。警察がここへ辿り着いた時、私が自ら求めてやって貰った、とか言うとでも思ってるの?」 恵 「えぇ。何せこれはあなたの特訓なのよ?」 那月 「特訓?」 恵 「そうよ?笑わないレースクイーンなんて、所詮は前代未聞で物珍しいだけの存在、つまり一時的な人気でしょ?それじゃあ折角スタイルの良いあなたでもすぐに忘れ去られてしまうわ。そうなったら、折角のプロポーションが台無しじゃない?」 那月 「その一時の人気である私に、逆恨みしてこんな馬鹿げた犯罪を犯してるのはどこの誰よ。それに、急に私の為とか言って罪から逃れようったって、そうはいかないわよ。」 恵 「でも感謝して欲しいわね。あなたがこれからもレースクイーンとして活躍出来るように、あなたの苦手な“笑顔の特訓”をしてあげようって言ってるんだから❤」 那月 「こんな拘束までして、何が笑顔の特訓よ。ありもしない理由を付けて恨みを晴らそうとしてるだけじゃない。」 恵 「とんでもないわぁ。ちゃんと笑顔の特訓をしてあげようと思って、こうしてレースクイーンの衣装のまま拘束してあげたんじゃない❤」 那月 「この拘束と笑顔の特訓に、何の関係があるのかしら。どう考えてもこれが特訓になる訳ないじゃない。」 恵 「いいえ?ちゃんとあなたを笑顔にする為の特訓を行うから、こうして拘束したって言ってるじゃない。」 那月 「言ってる意味が分からないんだけど?笑顔の特訓とこの拘束が関係してるって事?」 恵 「やっと理解してくれたみたいね。これから私達があなたを笑顔にしてあげるの。特訓の為に、ね❤」 那月 「私を笑顔にする?」 恵 「そう。そしてその為にわざわざ“その服のまま”拘束したのよ?」 那月 「この服のまま拘束した?それと笑顔にするのに何の関係があるのよ。」 恵 「分からない?この露出度の高い服を着たままそんな風に拘束されたら、色々無防備でしょ?」 那月 「……そうね、だから何?」 レースクイーンとして働く以上、こういう服装で人前に晒される事など当たり前である。勿論最初は恥ずかしさもあり、まだそれに慣れる程の経験は積んでないが、それを気にしないように振る舞って恥ずかしさを誤魔化してきた那月。改めて自分の肌を大胆に露出している事を指摘され、それを見せつけるような体勢で拘束されている事に、羞恥心を感じてしまった。だが、それを見せないようにと、冷静に、そして強気に言葉を発した。 恵 「うっふふ…。だから、私達があなたのその身体に何をしようが、あなたは何の抵抗も出来ないじゃない?」 那月 「…!?………一体、何する気?まさかエッチな事する気じゃ無いでしょうね?」 ようやく何かの準備を終えた若葉がその場を離れると、立てられた三脚の上にビデオカメラが設置され、そのレンズが拘束された那月に向けられていた。何となく予想は出来ていたが、やはりそれらは那月を撮影する為に準備された物だった。 肌が露出されてる事を指摘され、尚且つ無防備な状態で自身を録画するビデオカメラ。それらは那月の言うエッチな事をされると思っても仕方がないだろう。つまり、「エッチな事をされ、醜態を晒した自分を録画し、逆らえないように弱味を握る」のが彼女達の目的なのだと、那月は思ったのだ。そんな事、例え相手が女性だとしても、とても良い気はしないだろう。 寧ろ恐怖で堪らない。 若葉 「エッチな事って…!ぷっふふ…!」 恵 「アッハハハ…!そんな事しないわよ❤」 だが那月の考えはまるで的を射ておらず、若葉は馬鹿にしたように、恵は思わず大笑いし那月の考えを否定した。 那月 「くっ…!だ、だったら何をする気よ。」 思わぬ恥を掻いてしまった那月は、流石に少し頬を潮紅させてしまうが、それでも冷静になり改めて彼女達の目的を問いただす。 恵 「だから、笑わせてあげるのよ。笑顔が出来ないあなたの事をね❤」 那月 「それはさっきも聞いたわ。そもそも、笑わせるって何?どういう事?」 恵 「言葉通りの意味よ?普段絶対に笑顔を見せないあなたを…、無理矢理笑わせるの❤」 那月 「何…?無理矢理、笑わせる?」 恵 「そうよ?私達の“手”で、あなたは笑いたくも無いのに、無理矢理笑わされてしまうのよ。」 若葉 「早く見たいですね~!那月さんの笑い悶える姿❤」 那月 「な、何なの?笑いたくもないのに、無理矢理笑わせるって。そんな事、どうやったら出来るのよ。」 恵 「じゃあ逆に聞くけど、何でそのレースクイーンの衣装のまま拘束したと思う?」 那月 「…?知らないわよそんなの。……もしかして、それと笑わせる事に関係があるの?」 恵 「その衣装もだけど、拘束の仕方にもちゃんと意味があるのよ?」 那月 「拘束の仕方?」 その意味を考えるため、那月は改めて自分の置かれている状況を客観的に観察した。 X字型の拘束具。それに合わせるように自身も両手両足を斜めに広げさせられ、X字のポーズで拘束されている。手首、足首を金属の枷でしっかりと拘束されており、拘束台も金属製であるが故に頑丈で、いくらもがいても壊れるような事はないと推測される。つまり、他者が拘束を外さない限り、自分でこの拘束を解く事は出来ず、那月はこの体勢のまま一切動けない状態だ。 そしてこの服装。レースクイーンの衣装の中でも肌の露出が多いデザインとなっている。ジャケットも袖が無い上に丈が短いタイプで肩から指先までの腕全体、その下も胸の谷間を強調する様なチューブトップである為、腹部と身体のラインも露になってしまっている。そして下半身もミニスカートから太ももが丸見えとなっており、その脚も大きく広げさせられている事で足の付け根部分まで見えそうになっている。唯一の救いはロングブーツを履いている為、膝から下は布で覆われており、スカートの中にインナーがあるお陰で脚を開こうが下着を見られる事は無い、と言った所だ。 だがこれだけ多くの肌を露出したまま、その身体を自ら晒すような体勢を強いられるのは、やはり羞恥心が拭いきれず、何の抵抗も出来ない不安や恐怖も抱かざるを得ない。 那月は自らを客観視する事で気付いたのはそれぐらいで、それが“笑わされる事”とどう関係があるのか、それは未だに理解できなかった。 那月 「この拘束の仕方が、笑う事とどんな関係があるって言うのよ。」 恵 「まだ分からない?あなたの格好、弱い所が無防備に晒されちゃってるじゃない?」 那月 「弱い所…?何よそれ。 何の事?」 恵 「仕方ないわねぇ、若葉!」 若葉 「は~い!」 両手を前に突き出した若葉が、その指をパッと広げると、ワキワキと怪しげに指を開いたり閉じたりを繰り返す。 那月 「な、何よ。」 若葉 「例えば~、こ~んな所や~。」 その指を動かしたまま那月の背後に回り、那月の腹部に向かって手を伸ばしていく若葉。そしてそれと連携する様に今度は恵も那月の背後に移動する。 恵 「こんな所を、こうやって刺激されたら、どうなっちゃうのかしら❤」 若葉は那月の腹部、腰付近で指をワキワキさせ、恵は那月の胸の横、腕の付け根付近で同じ様に指を動かし、「そこをこうやって刺激するぞ」とアピールして見せる。 那月 「んっ…!?ちょっと…何して――」 それを見せられた那月は、そのいやらしい手つきに思わず身体が震え、それから連想されるとある刺激を思い浮かべてしまう。そして、その刺激を与える事こそが、彼女達の目的だとようやく理解した。 那月 「成る程。無理矢理笑わせるって、そう言う事ね。」 恵 「うっふふ…❤ようやく理解してくれた様ね。」 那月 「えぇ。あなたの言う弱い所って、お腹とか腋の事でしょ?」 恵 「そうよ?そのお腹とかワキって、一体どんな刺激に弱いのかしらねぇ?」 那月 「どんなって、私の事…、くすぐろうとしてるんでしょ?くすぐって笑わそうって言うつもりなのよね?」 恵 「っふふ…❤えぇ、そうよ。あなたに行う笑顔の特訓の方法は…、く・す・ぐ・り❤」 そう。恵と若葉は、素肌を多く晒したまま無防備な体勢で拘束された那月を、くすぐる事で無理矢理笑わせようとしていたのである。 那月 「くすぐりって…、随分と馬鹿馬鹿しい事を考えたものね。」 恵 「馬鹿馬鹿しい?」 那月 「だってそうでしょ?逆恨みで罪を犯した上に、こんな大袈裟な物を用意してまでする事が、ただのくすぐりでしょ?どう考えても馬鹿馬鹿しいじゃない。」 若葉 「えー、そっすか?私なら恐怖で震えますけどね?」 那月 「はぁ…?何でよ?」 若葉 「誰だってワキとかお腹ってくすぐりに弱いでしょ?」 那月 「まあ、そうかしらね…?」 若葉 「そうっすよね?そう思うって事は、那月さんも別にくすぐりに強い訳じゃないんですよね?」 那月 「……まあ、人並みぐらいよ。…多分。」 若葉 「だったら、そのくすぐりに弱い部分を晒したまま拘束されてたら、どれだけくすぐったくても抵抗出来ないじゃないですか。」 那月 「………まあ、そうね。」 若葉 「そしたら、ずっとくすぐったさから逃げられなくて、笑っちゃいますよね~?」 那月 「……だから、それが馬鹿馬鹿しいのよ。今更くすぐられたぐらいで笑うとか、……子供じゃあるまいし。」 若葉 「でも、くすぐったさは感じるんですよね~?」 那月 「そりゃあ、くすぐられたら、くすぐったいって感じるわよ。…でも、ただくすぐったいだけでしょ?ただそれだけなのに笑うってのが子供の発想だって言ってるのよ。」 那月にとってくすぐりという行為は、所詮は子供のじゃれあいという認識でしか無い。つまり、大人になった今、くすぐられたぐらいで笑う訳が無いと高を括り、強気に振る舞っているのである。 恵 「じゃあ…、私達がこちょこちょしても、絶対に笑わないのね?」 那月 「…こちょこちょって、それが子供なのよ。今更そんな幼稚な事されて笑う訳ないじゃない。」 恵 「あっそう。ならあながもし笑わなかったら、あなたを解放して警察に出頭してあげるわ。その代わり、もし笑ったら、私達の笑顔の特訓として自ら受け入れたと言いなさい。」 那月 「随分と理不尽な要求ね。……まあ良いわ。その言葉、覚えておきなさいよ。絶対に笑ってやらないし、必ずあんたらを警察に突き出してやるわ。」 恵 「決まりね。…っふふふ、精々笑わないように、頑張って耐えるのね❤」 くすぐりを子供のじゃれあいとしか思わなかった那月は、その条件を強気に呑んでしまった。それが、後に後悔する事になるとも知らずに…。