NokiMo
こーじ
こーじ

fanbox


裏切りと反逆1

 魔法石。それは宝石の様に輝く特殊な鉱石で、それを身に着けるだけで誰でも魔法が使える様になるという代物だ。魔法石には様々なランクがあり、そのランクが高い程強い魔法を扱え、低いランクの物だと、暗い所で明かりを灯せたり、重い物を軽々持てたりと、日常生活に役立つ程度の魔法しか使えない。ならば当然、誰もが高ランクの魔法石を求めるのだが、誰でも簡単に手に入るという訳では無い。低ランクの魔法石ならば町の雑貨屋などでも手に入るのに対し、高ランクの魔法石はこの国の王国都市で管理され、魔法石による犯罪を取り締まる騎士団だけが持てるのだ。その為、魔法石を取り扱う企業には騎士団が調査に向かい、そこで見つかった高ランクの魔法石を徴収しており、それを破った企業や人物は法律違反となり罰則が下されるのだ。  しかし、近年は闇ルートで密かに高ランクの魔法石が売買され、そこで入手しては犯罪に手を染める者が急増し始めていた。だが、当然その裏企業も表向きは真っ当な企業な為、中々王国でも見つけられず、現在も何件もの魔法石関連の事件が相次いでいた。騎士団は総力を上げて裏組織を探し出そうと調査を続けるが、捜査の手を掻い潜っているのか、依然壊滅は出来てはおらず、裏ルートでの取引を続けている企業がいくつも存在したままなのだ。  “宝石会社クリスタ”。女性が身に着ける宝石を取り扱い販売する企業だが、ここ最近は低ランクの魔法石の販売を始めたり、全国へ何件も店を出店する様になり、今ではこの国で一番の大富豪はクリスタの社長だと言われる程の大企業へと成長した会社だ。その理由は、二代目の女社長が赴任した事に他ならない。マーラは大きな鉱山を所有しており、ここ近年でその鉱山から宝石や魔法石が大量に採掘されたのだと言い、一気に事業の拡大が進んだのだ。当然魔法石を扱う企業である為、何度か王国の騎士団が監査に向かうも、所有する採掘現場でしっかり採掘された魔法石や宝石を調査員が見ており、その場でもしっかりと魔法石のランク調査や販売価格、高ランクの魔法石をその場の調査員へ納めたりと、真っ当な企業として調査は終了したのだ。だが、それは全てマーラの仕組んだ偽装工作であった。つまり、この大企業“宝石会社クリスタ”は裏組織だったのである。 ??? 「せんぱ~い!ソフィアせんぱ~い!!」 ソフィア 「何よ、騒がしいわね。」  後輩の呼びかけに素っ気なく対応しているこの女性の名はソフィア。“宝石会社クリスタ”の女社長、マーラの使用人として働く女性の一人だ。彼女を含む使用人の女性達は皆、マーラの身の回りの世話を主に仕事としているが、使用人にはそれとは別に大事な仕事が二つある。 ソフィア 「それから、私の部屋に入る前に必ずノックをしてと何回言えば分かるの?」 ??? 「すいませ~ん、ついうっかり!それより、今日は私と先輩が“地下奴隷”の監視役の当番ですよ!」 ソフィア 「言われなくても分かってるわ。」  大事な仕事、それはこの会社が裏で使役して働かせている奴隷達の監視である。マーラの私有地である鉱山、地下道から続くその鉱山の奥では宝石が採掘出来るのだが、広大な鉱山を重機を使わず人力で採掘させており、人件費を削る為に魔法の悪用によって捕獲した人々を奴隷として使っているのだ。そうまでして人力に拘らなければならないのは、重機だと採掘中に宝石に傷を付けてしまい価値が一気に下がってしまうからである。人力での採掘ならばその傷も最小限に抑えられるのだが、当然採掘しているのは奴隷だ。いつ採掘をサボったり、反逆したり、脱走を試みるか分からない。そこでマーラの使用人達が交代で監視を行っているのである。  奴隷を監視する使用人には地下道を封鎖している5つの扉の鍵と、奴隷による反逆を抑え込むための高ランクの魔法石がマーラから手渡されており、奴隷が反逆しない様に対策をしている。何度か反逆した奴隷は、逆らう事への恐怖心を植え付けられるまで体罰を与えられる。抗えない程の力の差、脱走を許されない厳重な扉、従わなければ地獄を味わうという恐怖心、それらが奴隷達の反逆を抑制し、働かせる為の要因なのだ。 ソフィア 「それよりエミリー。あなたはマーラ様への“ご奉仕”は終わったの?さっきスケジュール表を確認したら、今日はあなたはそっちの仕事も入ってなかった?」 エミリー 「あっーーーーー!!そうだったぁ…、すっかり忘れてましたぁ!!」 ソフィア 「相変わらずね。良いわ、監視は私が行ってくるから、あなたは“ご奉仕”してきなさい。」  ソフィアの言う、マーラへの“ご奉仕”、これが使用人のもう一つの大事な仕事である。マーラにはある特殊な性癖があり、そんなマーラの欲求を満たす為に彼女達はその身を差し出しているのだ。その為、彼女達使用人が着用している服装は、全てマーラが自らの欲求の為に着せている物なのだ。ちなみに、これからその“ご奉仕”を行う、ソフィアの後輩エミリーの服装は、白いビキニに黒いショートパンツ、そしてノースリーブの黒いベストを羽織っているだけという、かなり大胆に肌の露出をする服装で、これがマーラの性癖と関係しているのである。 エミリー 「ありがとうございます先輩ぃ…。よろしくお願いしますー!!」  慌ててソフィアの部屋を飛び出して行ってしまったエミリー。それを呆れた顔で見ていたソフィは、ふぅっとため息を吐きながら地下の採掘現場へと向かった。  ソフィア達使用人が住むマーラの屋敷、使用人達の部屋がある大きく長い廊下の最奥にある部屋、そこは一見ただの物置部屋だが、そこの壁に隠されたタッチパネルを操作すると、その部屋の壁が横にスライドし地下へと続く階段が現れる。それを下りしばらく歩くと現れる扉。それはとても大きく見るだけでその重さが伝わってくる様な金属製の扉である。そこに施錠してある鍵を解除するとすぐ先にまたしても同じ扉。五重門と呼ばれる扉にはそれぞれ違うタイプの鍵が掛けられており、使用人は5種類の鍵を持ち、それで扉を1つずつ開けていく。五重門を抜けた先にようやくあらわれる透明な自動ドア。そこを潜った途端、カンカンとその空間に響き渡る金属音。地下奴隷が働かされている採掘現場だ。ここでソフィアは奴隷達の監視業務を行っているのだ。 ソフィア 「どれどれ、今日の収穫は?」  現場の隅に置かれた宝石箱。ここには毎日採掘された宝石や魔法石が奴隷達によって入れられている。奴隷の監視と共に、一日の成果を確認しそれをマーラの元へ届けるのも使用人の仕事である。 ソフィア 「今日は普段より少ないかしら。誰かサボっているかも知れないわね。」  勿論日によって採掘される量は違う。しかし、宝石や魔法石が多く採掘出来る鉱山だ。一人当たりの平均はそこまで変わらない。逆に言えば一人がサボるだけで採掘される量は違ってくる。毎朝朝礼でマーラから伝えられる奴隷の人数とそこから割り出されるおおよその採掘予定数。そこから数量が何十と変われば、明らかに採掘をしていない奴隷がいると推測できるのだ。ちなみに毎日奴隷人数を朝礼で聞かされるのは、反逆し体罰を受けた結果使い物にならなくなった奴隷や、別の会社の奴隷として引き渡されたりして減る事もあるが、マーラによって捕獲されそのまま地下に入れられ奴隷にされ総人数が増えるといった事が、頻繁に起こり奴隷の人数がすぐに変わるからだ。  採掘作業をしていない奴隷を探し始めたソフィアは、地下採掘場をひたすら歩き回る。中には監視役であるソフィアを見た瞬間恐怖で身体を震わせながら採掘する者、体罰を受けたくない一心でより採掘に専念する者もいるが、サボっている者は見つからなかった。 ソフィア 「……ん?ここだけ随分奥まで長く掘り進められてるわね。」  奴隷達は皆、採掘すると決めた場所の周りを広く採掘する。先まで進みすぎると、戻るのに時間が掛か使用人によって忠告を受け、マーラによる体罰の対象になったり、奥でサボったり脱走しようとしていると疑われるからだ。それが奴隷達の中での常識であり暗黙の了解となっている。だからこそ、その場所にソフィアは疑問を抱き、真相を確かめようと奥へ進んだ。しばらく進むと、周りには宝石が見えているにも関わらず採掘せずに取り残されている箇所がいくつもあり、そこを掘り進んだ者が採掘目的でない事が明らかになる。そして、いよいよ最奥に辿り着くと、金髪のポニーテール女性の奴隷が更に先へ進もうと掘り進めていたのだ。 ソフィア 「あなた、そこで何をやっているの?」 ??? 「はっ!?……くっ、もう見つかってしまったか。仕方ない…!」  意を決し覚悟を決めた奴隷の女性は、持っていたピッケルを武器にソフィアに襲い掛かって来た。しかし、使用人と奴隷では所持している魔法石の差があり過ぎた。 ソフィア 「グラビティ。」 ??? 「ぐっ…!」  奴隷の女性の足元の重力をコントロールしたソフィアは、走り迫る奴隷の女性の動きを封じた。しかし、それでも少しずつ、一歩一歩ソフィアの元へ向かって来たのだ。 ソフィア (この奴隷、普通の女じゃない…!)  ただ者では無いと察知したソフィアは一度奴隷の女性の足元に展開した能力を解除した。その瞬間ものすごいスピードで間合いを詰める奴隷の女性。しかし、ソフィアは再び魔法石を使用する。 ソフィア 「グラビティ…!」  奴隷の女性が持つピッケル。そこに能力を展開すると、ピッケルが普段の何倍もの重さになり、奴隷の女性が持つピッケルが地面へと落下する。 ソフィア 「唯一の武器が使えなければ抵抗も出来ないわよね。諦めて――」  これで武器を封じ込めたと思ったソフィアだが、これこそが奴隷の女性の狙いだったのだ。至近距離まで接近していた奴隷の女性は、拳を握りソフィアに殴りかかって来たのだ。 ??? 「高ランクの能力であろうと、その能力を解除しない限り、一度しか使用できない!」  ピッケルに能力を使ってしまった以上、この状態で奴隷の女性の動きを重力で封じる事が出来ない。魔法石の仕組みに詳しいその奴隷の女性は最初から素手で戦うのが狙いだったのだ。今から能力を解除して再び使用する時間よりも早く倒せると確信した奴隷の女性。しかし、その奴隷の女性には、使用人の知識が足りなかった。 ソフィア 「ブラスト。」 ??? 「何…!?」  どんな魔法石であろうと、その力は1つしか展開出来ない。それに例外は無いが、魔法石を複数持っていれば話は別だ。ソフィアは重力を操る魔法石とは別の、風を操る魔法石を使用したのだ。ソフィアの手のひらから発せられた突風により、奴隷の女性は吹き飛ばされてしまう。そして地面に倒れ込んだ奴隷の女性に対し、ソフィアは再び重力の魔法石を使用する。ピッケルに掛けていた魔力を奴隷の女性に掛けたのだ。立っている状態でなら何とか歩く事も出来たが、仰向けに倒れている状態で身体全体が重くなれば、起き上がる事も出来ない。必死に抵抗を見せる奴隷の女性だったが、僅かに手足を動かす事ぐらいしか出来なかった。 ソフィア 「奴隷ナンバー200、シエラ。成程ね。あなた、昨日奴隷にされたばかりの、元王国の騎士だったのね。通りで魔法石の知識や戦闘センスがある訳だわ。」  ソフィアは首輪のナンバーで奴隷の女性の詳細を調べ、その女性がシエラという元エリート騎士であるという事を知り納得した。 ソフィア 「元騎士のシエラ。あなた、こんな所まで掘り進めて、一体何を企んでいたのかしら。」  抵抗する術を失ったソフィアは、観念しソフィアの質問に全て答える事にした。 シエラ 「地下から脱走する為だ。私は騎士として、大悪党である貴様らの主、マーラに裁きを与え、死刑台に送らなければならないのだ!」 ソフィア 「死刑台…?」 シエラ 「勿論、使用人である貴様らも同じだ。裏で魔法石の取引を行うのも違法だが、奴隷を使役するなど、人々の命を何も感じていない非人道的な行いが許される訳が無いだろう…!それに、マーラには人間を魔法石の実験に使用し死なせた疑いもあるんだぞ!」 ソフィア 「魔法石による、人体実験…。」  ソフィアはその言葉を聞き、思いつめる様に黙り込んでしまう。 シエラ 「まさか、それを知らずに使用人などしていたか?今更無実を訴えても無駄だ。私の消息が途絶えた事でいずれ王国も動き出し、貴様らを取り締まり裁かれる時が来る!ここで私をどうしようが、貴様らにもう未来などない…!!」 ソフィア 「……知っているわよ。マーラの犯してきた事ぐらい。」 シエラ 「だったら何だ。」 ソフィア 「シエラ。私と手を組む気は無いかしら?」 シエラ 「……は?………て、手を組む…、だと!?お前、何を企んでる…?」  突然のソフィアの言葉に戸惑いを隠せないシエラ。裁かれるべき悪人のマーラの使用人として働くソフィアもまた、シエラからすれば裁くべき相手である。そんな相手から手を組まないかと言われれば戸惑うのも無理は無い。 ソフィア 「あなたは私の憎き相手、マーラの悪事に気付き彼女を王国の方で裁きを与えようとしている。それなら私達の利害は一致しているわ。」 シエラ 「憎き相手…?……お前はマーラの使用人だろ?もしや使用人として雇われて無理矢理こんな事を…?」  ソフィアの口から更に衝撃的な言葉を聞いたシエラは余計に混乱していた。しかし、持ち前の冷静さと頭の回転の速さで、その言葉が意味する真実に辿り着こうとしていた。だが、ソフィアが主であるマーラを憎んでいる理由は別にあった。 ソフィア 「そうね。中にはそういう娘もいるかも知れないわね。私もこの仕事をしてきて、あの女の裏の姿に確信を持てたのだから。」 シエラ 「何か深い事情があるみたいだな。お前の罪が消える訳では無いが、こちらも奴の情報は少しでも欲しい。何故憎んでいるのか、話してくれ。」 ソフィア 「えぇ。構わないわ。」  少しの間、沈黙が続きようやくソフィアは語り始めるのだった。 ソフィア 「あなたがさっき言っていた魔法石を用いた人体実験。私の両親はその実験の被害者よ。」 シエラ 「何…!?」 ソフィア 「その可能性がある。そう気付いた私は、この女の事を調べていた時に使用人の募集をしている事を知って、使用人をしながら正体を突き止めてやろうとしたわ。そして奴隷の使役や人体実験の事を知った。奴が部屋にいる間に情報管理室に忍び込み、私の両親がその実験の被験者にされ命を落とした事も、全てデータに残っていてわ。勿論、裏で高ランクの魔法石を取引していたり、王国の許可も無くその魔法石を使用できている理由もね。」 シエラ 「そ、それを知って何故すぐにここを出て王国に伝えなかったんだ!そんな悪人に従い、何故お前もその悪事に手を染めている!!」  シエラの怒りは尤もだった。どんな理由があれ、罪は罪である。 ソフィア 「あんた達王国の人間を信用していなかったからよ。」 シエラ 「な、何だとっ!?」 ソフィア 「私はここであの女の使用人になるまでに、何度も王国にここの調査依頼をしたわ。けど、その度に証拠を持って来いと理不尽に追い返されたわ。」 シエラ 「バカな!私はそんな調査依頼など知らないぞ…!?…………いや…、確かに“今の”王国の騎士団ならその対応もあり得るかも知れない…。」  王国の騎士としての誇りとプライドがあったシエラだが、始めて言い返せなくなってしまう。その姿を見たソフィアは瞬時にシエラにも訳があるのだと理解した。  事実、ここ最近の王国の騎士団は、マーラの様な経済力がある者及びその企業や組織、明らかに法律違反がありそうなのに武力が高そうな相手にはあまり関わろうとしない傾向にあった。勿論そういった所程、証拠を見つけられなかった時の代償が大きいため慎重になっているというのもあるが、シエラは明らかに王国側が関わろうとせず避けているように感じていたのだ。そんな王国の正義感の無い弱気な方針を考えると、シエラはソフィアの事を責められなかった。 ソフィア 「…だから私は、どんな事をしてでも証拠を掴んでやろうと思って、あの女の使用人になったのよ。それに、そのデータを覗いて確認が出来たのは昨日。どうやってそのデータを手に入れて、外に出ようかプランを考えていた時に、丁度あなたが脱走しようとしていたから、共闘を持ち掛けたのよ。」 シエラ 「…そうだったのか。すまなかった、犯罪に加担していたとはいえ、お前の事情を何も考えようとはしていなかった。」 ソフィア 「別に謝る必要はないわ。犯罪に手を染めていたのは事実よ。それより、私と手を組む気はあるのかしら?あなたにとって悪い話じゃないと思うけど、やっぱり犯罪者なんて信用出来ないかしら?」 シエラ 「一つだけ聞かせてくれ。騎士団を信用していなかったお前が、何故私に協力を求めた?」  しばらく考え込むソフィア。それは自分を騙そうとする人間の顔ではなく、何かを思いつめる顔だと瞬時にシエラは悟った。 ソフィア 「あなたは王国の騎士として、強い正義感を持っている。何となくそんな気がしただけよ。」 シエラ (これが仮にこいつの罠だったとして、すでに捕まえている私を騙し一度協力させる意味は無いか。) 「…そうか。良いだろう。ここでお前に捕まった時点で私は死んだも同然だ。私としては寧ろ断る理由は無い。よろしく頼むぞ、ソフィア。」  強気にクールぶっていたソフィアだったが、シエラには「孤独に戦ってきた私を助けて」と言っている様に感じた。相手の表情を読み取れる能力が特別ある訳では無いのだが、そんな表情から本心の様な言葉を聞いたシエラは、ソフィアと手を組み、改めてマーラの捕縛を決意するのだった。


Related Creators