NokiMo
いかじゅん
いかじゅん

fanbox


デート・ア・バルガー・Another

バルガーくん久しぶりに出勤です。今回は別の時間軸ってことで心機一転の設定になります……まあこれが苦労の元だったんですが。色々反省点もありますがまずは二作書きましたので、実質的な前編としてこちらでお送りいたします。

バルガーなのでもちろん下品全開です、どうぞ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 天宮市郊外。正確には、普通の兵器では起こり得ない破壊の痕が刻まれた街区だった場所に、異形の機械が巡回していた。何かを探し求めるように索敵し、時に破壊活動を行っている。


「――――――わっ!!」


 瞬間、天から巨大な声が響き渡った。それは地響きとなり、空間すらも振動させて機械の動きを封じる。

 それだけではなく、飛翔していた機械たちを地面に叩き落とす。もはや単なる音圧を超えた振動兵器だ。


「〈封解主〉――――【開(ラータイブ)】」


 そして地面が消えた。開かれた大きな『孔』の向こう側へ、音に圧された機械の軍勢が根こそぎ呑み込まれ、やがて一機残さず空域から消失した。

 声が途切れ、孔が閉じる。瓦礫の山には静寂が訪れた。そこにこの世のものとは思えぬ輝きを帯びる霊装を纏う少女たちが降り立った。


「この辺りはこれでお片付けできましたねー」

「の、ようじゃな。……もう出てきて良いぞ、主様」


 愛らしい面と鈴の音を思わせる信じられないくらい透き通った声の少女と、女仙を彷彿とさせる桃色の装束に幼き容貌に見合わぬ豊満な身体を収めた長い金色の髪の少女。

 二人に促され、瓦礫の一部が光を放って人の形になる。現れたのは青みがかった長い髪を靡かせた少女だった。より正しく言うなら、少女にしか見えない少年なのだけれど。


「ありがとう美九、六喰。お陰で助かった」

「いえいえ、だーりんを守るのは当たり前のことですー」

「然り。礼など不要じゃ。……しかし、彼奴等の手口は苛烈になっておる。主様に逃げられるのは、余程不都合のようじゃ」

「ああ。街を後で元に戻せるなら、何をしても良いって思ってるんだ。DEMの奴ら……!」


 先程の兵器は〈バンダースナッチ〉と呼ばれているDEM社の機動兵器。それに狙われる彼女たちは精霊と呼称される特殊な生命体で、士織はその力を唯一封印できる人間だ。

 精霊の力を狙うDEMとは元から敵対関係にあったのだが、つい先日〈ラタトスク〉がDEM側の大規模な襲撃作戦を受け、壊滅的な被害を被った。その目的は士織の拉致にあった。

 形勢の不利を重く見た〈ラタトスク〉側は、士織の安全を最優先で確保する逃亡作戦を実行した。彼はもちろん皆に危険が及ぶことに反対したが、差し迫った状況で自分がそばに居る方が危険だと最終的には判断し、星宮六喰と誘宵美九の両名を連れて天宮市各地を逃げ回っていた。


「みんな、大丈夫かな。俺のために囮になるなんて……」

「案ずるな。このような雑兵に十香たちを討つことは叶わぬ」

「そうですよー。今のだーりんは自分のことを第一に考えてくださいー!」

「わ、わかってるよ。俺がやられたら、みんなが守ってくれてる意味がなくなるからな」


 士織は〈ラタトスク〉の保護下にある全精霊の霊力を持ち、同時に彼女たちの精神的な支柱でもある。もし士織の身に何かあれば、精霊たちの精神はたちまちに崩れて反転。まさにDEMの狙い通りに事が進む。

 それを防ぐためにも士織の生存は必須条件。敵がなりふり構わず街中で顕現装置製の兵器や魔術師を投入しているのは、逆説的に士織の存在が重要であると知っているからだ。


「だーりんは守られてばっかりって考えてるかもしれないですけど……だーりんは今まで、私たちのためにずっとずーっと頑張ってくれたじゃないですか」

「むん。故にむくたちは、主様の御奉公に応えたいと思うのじゃ。今耐え忍ぶことが主様の戦いと思えば良い」

「……ありがとう、二人とも」


 精霊の皆にだけ戦ってもらうのは心苦しい。だが、敵の目標である士織が囚われては全てが終わってしまう。それだけは避けなければならない、士織を守りたいと願うのは全員が共有する想いだった。


「それに、今のだーりんだったら絶対に見つかりません! だって、こんなに可愛い格好なんですからー」

「ぐ……まあ、撹乱になってるのは、認めるが」


 彼が士織、つまりは女装しているのも、精霊たちを危険に晒す以上恥じらっている場合ではないと最良の選択をしたが故だ。

 事実、魔術師は計測機器の反応と目視を用いて士織を探している。反応と見た目が全く異なるため、魔術師の対応を鈍らせながらの不意打ちが、既に何度か成功し女装効果を実証していた。

 意味がなければ途中で着替えてしまえば良かったのだが、なまじ効果がありすぎて士織から戻るに戻れなくなっていた。


「とにかく、早く次の場所を見つけないとな。たしかこの辺だったよな」


 〈ラタトスク〉では緊急時に備え、天宮市の各所に厳重なセキュリティに守られた地下施設を設置している。敵の目を撹乱しながら施設を転々と巡り、追跡を完全に振り切ってから合流し反撃に転じる。これが作戦の全容だ。

 緊急時に用意されていたものであるため、単純ながら効果は大きい。仮にそこが一時的な隠れ家となっても充分な休息が確保できるため、士織たちは〈ラタトスク〉の地下施設を頼りに逃走し続けている。

 機械兵器を一気に排除したことで周辺の探索は容易となった。警戒を怠らずに探索していると、六喰が錫杖で退かした瓦礫から入口を発見した。


「ふむ。これであろうな」

「ああ。偽装されてるけど、いつもの入口に間違いなさそうだ」

「これでやっと一休みできますねー。あの人たちがしつこすぎて、もうヘトヘトですぅー」

「そうだな。けど、こんな力技が長く続くもんか。チャンスは絶対にやってくるはずだ」


 その機会が巡ってくるまで少ない力で堪え続ける。今は危機的な状況でも、力を合わせて立ち向かえば必ず逆転の好機はやってくるはず。


『――――――そうね。それなら思う存分〝協力〟してもらおうかしら』


 安住の地を犯す者の存在を見過ごしたまま、三人は入口をくぐり抜けてしまった。




 エレベーターから降りて、厳重なセキュリティが施された電子扉を五枚ほど抜けると地下施設の廊下に出る。施設の基礎設計は同一な分、見慣れ始めた光景に安心感が生まれて士織は安堵の息を吐いた。


「よし。少し休んでから、次の目的地までの道を」

「待つのじゃ……異質な気配がする」

「え?」


 ところが、怪訝な表情の六喰が錫杖を構えて士織の前に立ったことで士織は面食らう。まさか〈ラタトスク〉の地下施設に怪しむものなどないと思っていたのだろう。士織と同じく美九も似たように驚いていた。


「むくたちを視ておる者。姿を見せよ」

『――――――あははー。もうバレちゃったんだ』

「「ッ!?」」


 目の前に電子音が響くと、灰色の髪と緑青の双眸を持つ少女が姿を現した。身体が半透明で、正体がホログラムであるとすぐに分かる。


『やだなぁ。ホントは呑気に歩いてきたところで驚かせてあげようと思ってたのにー』

「〈ニベルコル〉!? ど、どうやってここが……!」


 〈ニベルコル〉。反転した天使、〈神蝕篇帙〉と呼ばれる魔王の権能によって生み出された一にして全、全にして一という唯一無二の〝群生命体〟。無数の個体を持ちながら統一された思想と知識を持つ脅威的な擬似精霊である。

 逃亡中、士織たちも彼女に何度か手を焼かされていた。倒しても倒しても湧いて出る精霊は、魔術師や〈バンダースナッチ〉以上の脅威である。

 その存在がもしも、安全なはずの場所に現れたとすれば、それは逃亡作戦が崩壊しかねない危機的状況にある。


『どうやってここが? ああ、ガバガバなセキュリティホールの〝施設全部〟の間違いかな? こんなのでよく隠れ家なんて言えるわねぇ』

「な……!」


 チッチッチッ、と愉しげに指を振る〈ニベルコル〉に士織は言葉を失った。

 彼女の言葉が真実なら、この施設ではなく〝保有する施設全体〟がDEM側の手に落ちた、と宣告されたも同義だ。〈神蝕篇帙〉の権限は本来の持ち主、本条二亜の手で封じることができたが、召喚された〈ニベルコル〉を止めるまでには至らなかった。

 だが、単純な力押しの群生命体だけなら対処は可能と考えていた。その考えが致命的に甘かったことをたった今思い知らされた形になる。


『さぁてどうするお家のない哀れな子豚ちゃんたち。今から外で鬼ごっこを再開する? それともぉ……ここであたしと鬼ごっこしてみるぅ?』

「だーりん、ど、どうすれば。これじゃあ琴里さんたちも……」

「く、くそ!」

「――――むん。うぬらの悪辣な手、たしかに恐るべきものじゃ」


 凛と声を張った六喰が、士織たちより一歩前に出る。


「しかし、うぬら〈ニベルコル〉が如何な力を持とうが、むくの〈封解主〉で〝止めて〟しまえば関係なかろう。それとも〝鬼遊び〟を所望するというのなら、宇宙の果てまで逃れて見せようかの?」


 そう、六喰の天使は万物の扉を開く鍵。その力はあらゆるものを『閉じ』、また『開く』。

 今までは霊力を温存するため最小限の移動手段としていたが、事ここに至って地下施設が封じられたのなら加減の必要はないと六喰は言っているのだ。

 一つの群生命体〈ニベルコル〉は、もし一体でも『閉じ』られればその効果を連鎖的に認識、伝達してしまう弱点を内包している。それが分かっているから、六喰がそばに居る士織に大規模な物量をぶつけることはしてこなかった。

 〈封解主〉は群生命体の天敵に当たる。しかも、その気になれば施設内に潜む〈ニベルコル〉の元まで扉も開くことも容易い。


『……ふーん。やれるもんならやってみれば? いい加減、ちっこい癖にデッカいその身体は目障りだったところなのよね』


 しかしその所持者に凄まれたホログラムの〈ニベルコル〉は、何故かニヤニヤと笑いながら挑発した。まるで力を使わせようとする行為に、士織は良からぬ策を感じ取り眉を顰める。


「良かろう。うぬがそれを望むなら、主様のためにもうぬを滅する……!」

「っ、待て六喰! 何かおかしい!」

「〈封解主〉――――【開】!」


 士織の警告より早く六喰は錫杖を突き出し、〈ニベルコル〉に繋がる『孔』へと差し込もうとした。


 ――――――ぶっぼぉぉぉぉぉ!♥


「「「は……?」」」


 〈ニベルコル〉に対するこの上なく有効な解答だったはずの攻撃は発動せず、代わりに聞くに堪えない爆音と士織たちの呆気に取られた声が響いた。

 六喰は本当に何も分かっていない。だが士織と美九は理解できたはずだ。彼女の後ろに立っていた二人ならば。

 もっとも、霊装の極めて短いスカートが捲れて可愛らしい白パンティが露になった姿から、現実を受け入れ切るのは難しいだろうが。


「……なっ♥ なんじゃ♥ 〈封解主〉、【開】!」


 もう一度錫杖を繰り出した六喰が『孔』を生み出し〈ニベルコル〉を封じる手段を講じる。


 ぶっっっっっぼぉぉぉぉぉぉ!♥


「んひぃぃぃぃ!!?♥」


 ところが、今度は星の文様が描かれた霊装だけでなく、長く揺蕩う美しい金髪ごと派手に煽る〝風圧〟を噴き出してしまい、六喰は背中を仰け反らせながら情けのない悲鳴を上げた。


「な♥ な♥ なん……っ!?♥ ぬ、主様♥ 違う♥ これは違うのじゃ♥ むくの意志ではないのじゃっ♥ か、身体が勝手に……っ♥」

「…………あっ、いや、わ、わかってる! 俺も何が何だか……」


 分かっていない。いいや、一つハッキリと分かっていることがあるだろう。

 年に見合わず落ち着いた雰囲気の六喰が、顔を真っ赤にしてお尻を押さえて身悶えする。そして、鼓膜を震わせたあの爆音。答えはただの一つしかないだろう。


『くく、ぷくく……あははは! あーあ、おっかしいのー! 真剣な戦いなんかできるわけないのにねー!』

「な、何をした〈ニベルコル〉!」

「そーですよー! 六喰さんにあ、あんなことさせるなんてー!」

『教えてあげよっか? ま、そんな必要ないと思うけどね』


 含み笑いを零した〈ニベルコル〉を問い詰めるように声を荒らげた士織と美九。その感情の昂りが、無意識のうちに霊力を不用意に高めてしまった。


 ぶぅぅぅぅぅぅ!♥ ぶびぃぃ!♥ ぷぷぷぅぅう!♥ プー!♥ ブビーッ!♥


「「ひぃぃぃぃぃぃ!!?♥」」


 次の瞬間、士織と美九のスカートが思いっきり捲れるほどの〝風圧〟が、二人のお尻から解き放たれる。

 凄まじい勢いの共通点と、時に擦れて濁り、時に速やかに放たれるあまり甲高い音になるそれは――――――放屁、オナラと揶揄される非常に恥ずかしい行為であった。

 仰け反りお尻を両手で隠したマヌケなポーズに士織と美九まで早代わりするが、そんなことではアナルから放たれる爆音を留めることはできなかった。


「あっあっあ♥ なん、なんで、とまらな……ひっ、うひ♥ と、とまれ、とまれぇぇぇぇ!♥」

「いや、いやぁぁぁぁぁぁ!♥ だーりん、聞かないで、聞かないでくださいぃぃぃぃぃ!♥ き、汚い音が出ちゃう、出ちゃいますぅぅぅぅぅ〜〜!♥」

「むほぉぉぉぉ!?♥ とまれ、止まるのじゃっ♥ む、むくが主様の前でほ、放屁など、するはずが……んおぉぉ!?♥」


 抑えようと力を込めれば込めるほど、無自覚に霊力を頼ってしまう。精霊の能力を持ち、当たり前のように扱える彼女たちの弱点が露呈し、のたうち回るように爆音放屁を繰り出してしまう。


『アッハハハ! だい♥ せい♥ こー♥ こうして可愛い子豚さんたちはぁ♥ お尻の穴からオナラが止まらなくなってしまったのでしたぁ〜♥』

「お、俺たちに何をしたぁ!!」

『言ったじゃん。ガバガバセキュリティホール過ぎるってさぁ……そんなところにノコノコやってくる連中がいるって分かってたら、罠の一つや二つ置いとくのが礼儀でしょ?』

「わ、罠って、こんな、汚いものがですか!?」

『ここまで来るのに散々頼っておいて汚いはないでしょ。それがなきゃ、君らは精霊じゃいられないんだよ?』

「むくたちが頼る……ま、まさか、この放屁は……!」


 霊力使用時、反発するように放屁をひり出してしまう。ならば答えは簡単だ。


『そ♥ これがおばさん、ああ、あたしたちのボス様ね。あいつが開発した対精霊用のナノマシン♥ 体内に入り込んだその瞬間から、君たちの霊力を〝腸内のガスに変換して排出〟させる制御新薬、ってところかな』

「新薬、ナノマシンだって……そんなものが!?」

『あるんだなーこれが。いやぁ、人間の執念ってのは怖いよねぇ』


 顕現装置や随意領域の技術を知っていても、それは近未来が過ぎる技術だ。しかし現実に、精霊の六喰と美九や霊力を封印し力を行使できる士織は、霊力を引き出そうとする度に下品な音をリズミカルに尻穴からひり出してしまっている。

 たしかに霊力が由来なら五感は汚いと感じることはないだろう。否、そうは言っても放屁は放屁だ。三人の鼓膜は、この音を汚いと感じて強い羞恥で身を焦がしていた。


『さてさて、これで君たちは無力な子豚になったわけだけど……さすがにオナラが原因で負けたなんて言いたくないだろうから、一回だけチャンスをプレゼント♥』


 そう言うと、放屁のコントロールに苦しむ三人にホログラムの〈ニベルコル〉が手にあるものを持って見せつけた。分かりづらいが、ピンク色の薬品が入った瓶のようだ。


『これ見える? 体内のナノマシンを除去するための特効薬〜。どう、欲しいでしょ? けどタダじゃあげられないなぁ〜。ここの奥にいるあたしのところまで来て、どーしても譲って欲しいんですぅ〜♥ 哀れな子豚のために譲ってください〈ニベルコル〉様〜♥ って頭を下げて言えたならぁ、譲ってあげてもいいわ♥』

「ふ、ふ、ふざけるでない!」

「何のつもりでそんなこと!」

『強いていえば暇潰し♥ 相手が弱すぎてもつまらないじゃん♥』


 怒りのあまりまた霊力が膨れ上がりそうになるが、肛門がパンツの中で膨れかけた感覚に慌てて内股で括約筋を三人の姿を〈ニベルコル〉がクスクスと嘲り笑う。


『じゃーねばいば〜い♥ あ、それと〝ここ〟はしっかりあたしの遊び場になってるってこと……忘れないようにね♥』


 ブン、とノイズを走らせたホログラムが目の前から消失した。


「…………ど、どうしましょー?」

「どうするも、こうするも……」

「進むしかないのじゃ。このような無様な身体……放って逃げるわけにもいくまい。彼奴等の息の根を止め、完全に滅ぼすためにもな」


 困惑はあるが意見は一致している。六喰はいの一番に恥を晒し、しかも士織の前だったことに怒髪天を衝くほどの怒りを〈ニベルコル〉に向けていた。美九は逆に士織へ聞かれたくない羞恥が強いようで、しきりにお尻を気にかけている。


(俺も正直かなり恥ずかしいけど……六喰の言う通り、先に進むしかない)


 少なくない好意を抱く少女たちに自分の放屁を望まずして聞かれるなど、恥ずかしさでいえば今までのどんな経験にも勝るものだ。霊力だから、不可視だから良いというものではない。それを出すこと自体、恥ずかしすぎると言っている。

 だからといって、ここで立ち止まってしまっては事態は解決しない。早急に脱出し、この事態を皆に伝えなければ同じ辱めを受けるのは――――――考えるだけで身震いする。そんなことはさせまいと士織は自らを奮い立たせた。


「六喰の言う通りだ。〈ニベルコル〉の言うことが確かなら、ここで一人になるのが一番危険だ。辛いだろうけど一緒に来てくれるか、美九」

「……はい。私は、死ぬまでだーりんと一緒です!」

「縁起でもないこと言うなよ」


 目に見える空元気だが士織の呼び掛けに覚悟を決めた美九、〈ニベルコル〉への殺気を滲ませた六喰は士織と共に地下施設の奥へと進み始めた。

 精霊と士織に並々ならぬ執着を抱くDEM首領エレンの刺客〈ニベルコル〉。霊力放屁の解放など彼女の敷いた醜悪なゲームの始まりに過ぎないことを、三人は嫌というほど思い知ることになる――――――




 霊力が漏れ出ないよう慎重に歩く三人が最初に行き着いたのは、大型の扉の前だった。ここから先に行くことで、施設の様々な場所へアクセスできる。言うなればここが地下施設の本当の入口。侵入者を遮る最終セーフティーだ。


「……駄目だ開かない。俺たちの指紋で開くよう設定されてたはずなのに」

「消されているということか。彼奴の言葉に嘘はないようじゃな」


 だが、その厳重なセキュリティに穴を開け乗っ取ったのが〈ニベルコル〉なら、データを書き換えて通れなくするのは赤子の手をひねるよりも容易い。

 通ってきた扉も彼女が現れた時点でロックされているため、三人は難攻不落の地下施設を逆に脱出不能の牢獄にされたも等しい状態なのだ。


「でも、先に進めないと私たちの身体……霊力は元に戻らないですよね? 一体どうしたら」

『そのとーり。だから案内してあげる♥』

「きゃあぁぁ!?」


 扉から声が突如として響いたことで、緊張しっぱなしだった美九は驚いて飛び上がる。その可愛らしい仕草とは裏腹にお尻の出口から『ぷびッ♥』とみっともない放屁音が飛び出した。


『あはは、驚きすぎ〜。てか汚ったな♥ それでもアイドルのオナラですかぁ〜?♥』

「あ、あ、アイドルかどうかは関係ないですぅー! 大体、あなたたちのせいでこんな、だーりんにこんな汚い音を……ッ!」

「落ち着け美九……何の用だ〈ニベルコル〉」


 煽られて怒り狂う美九を宥め、士織は〈ニベルコル〉に言葉を返す。こうなっては六喰と美九に頼り切ることはできないため、いざと言う時は自分だけが恥を被る覚悟だ。


『ふふ、すぐ困って泣きついてくると思って待機してたんだよねぇ〜』

「……そうか、そりゃ有難いな。泣きついたら助けてくれるってことか、〈ニベルコル〉様?」

『はは、女装男子に泣きつかれるのもまあまあ好みだけど、今日は出血大サービス♥ あたしが直々に〝ガイド〟してあげる♥ わからないことがあったら、助けてニコちゃ〜んって気軽に呼んでねぇ〜♥』


 一方的な立場があるからか、嫌に口が回る〈ニベルコル〉。逆に士織たちが会話の主導権を取らせまいとするのは、正直なところ難しいと言わざるを得ない。どれだけ上手く言葉を返そうと、彼らは肛門の違和感を突かれるだけで羞恥に震えてしまう弱者の立場なのだから。


『で、困ってるのは扉の認証だっけ? まあ登録されてた顔と指紋、全部デリートしたから当たり前かー。だったらここで、再登録していきなよ♥ ほら、セッティングはしてあげるからさ♥』


 予想した通り〈ニベルコル〉がデータを吹き飛ばし、彼らの身動きを封じていた。士織は眉間に皺を寄せて汗を流して焦る。当然だ。こんな下劣なやり口を選んだ敵の精霊が、簡単に再登録をさせてくれるはずがないことなど、認証データの事前消去以上に容易な想像ができる。


『登録内容は主に画像と音声♥ やり方は簡単でぇ……このカメラに君らのアナルを押し付けて、オナラの音ぷぅ〜♥ って鳴らして登録完了です♥』

「「「な……ッ!?」」」


 しかし、そこまでの下劣を想像できなかったのか、扉の中から出てきたカメラに三人は驚愕の声を上げた。

 カメラは中腰、それこそ椅子に座るのと似た感覚でお尻を押し付けることができそうだが、言いたいことは全く違う。


「な、何考えてるんですかぁー!?」

「そうじゃ。第一、主様の手前でそのような恥を♥ 晒せるわけがなかろう」

『へぇ〜?♥ じゃ、今すぐ君らの〝だーりん〟、〝主様〟をあたしが貰っても良い?♥ ここを諦めるってことはぁ、自分たちのプライドが〝だーりん〟や〝主様〟より大事、ってことでしょ?♥』

「「ッ!」」


 霊力を取り戻せない。それはつまり、士織を目の前で敵に差し出すことに他ならない。同じくらい士織を大事に想っている仲間に託された彼を、自分たちが彼の前で放屁してプライドと尊厳を削るのが嫌だから、彼を敵に渡すと言っているのと変わらない。


「……うぬ、覚えておれよ。霊力を取り戻した暁には、塵も残さず無に消してくれる」

『わっ、ロリおっぱいちゃんの癖に怖いこと言う〜♥ それで、恥ずかしがり屋のアイドル様は、どうするぅー?♥』

「………………やり、ますっ! あなたたちに、だーりんは渡しませんっ!」

『あは、そうこなくっちゃ♥ 女装っ子ちゃんは、まあ聞くまでもないか。ナビはしてあげるから、順番に登録していきなさい♥』


 後は三人の行動待ちなのか〈ニベルコル〉の声は途絶え、カメラの前で重苦しい沈黙が落ちた。


「俺が先に」

「否。むくが先に往く」


 六喰が士織より早くカメラの前に立った。彼女は身内が相手なら裸でも恥ずかしがらない豪胆さの持ち主。どの道全員分回さなければならないなら、自分が先陣を切るべきだと考えたのだろう。

 パンティを膝まで下ろした六喰は、スカートの後部を軽く上げながらカメラのレンズに腰を落とした。


「んんッ♥」


 大きなレンズにたわわな巨尻が沈む。冷たさが尻全体に行き渡り、六喰は吐息を零して身震いをした。


『ふむふむなるほどなるほど……へぇ〜、へぇぇぇぇぇ〜〜♥』

「……は、はやく済ませぬか!♥」

『あは、ごめんごめん♥ おっぱいだけじゃなくてケツまでデカいロリっ子のアナルが興味深くってさぁ♥ あ、もうこいていいよ♥ ドデカいの一発お願いしま〜す♥』

「く、うぅぅぅぅぅ……♥」


 六喰は、見たこともないくらい真っ赤にした顔を深く伏せると。


「ん゛ッ♥」


 ぶっっっ♥ ぶぼぉぉぉぉぉッ!♥


「っ〜〜〜〜〜〜♥」


 カメラに向けて爆音をぶちまけた。霊力とはいえ自分からオナラをひり出すという人として恥ずかしい行為に、前屈みで垂れた爆乳をプルプルと震わせ悶絶する。


『はいオッケー♥ いやぁ、霊力が高めなのもあるけど、〝主様〟のために溜め込んでるみたいだねぇ〜♥ おかげですっごく良い音出せてるじゃん♥』

「だ、黙れ! 狼藉者めが……ッ!」


 勢いのある爆音放屁を発射した六喰は、急いでパンティを引き上げてそそくさと壁端に寄りかかった。あんな音を出した手前、今は士織の元へ行けないのだろう。


「次は、俺が行く」


 士織は敢えて美九には呼びかけなかった。今は『いいか』など分かりきった言葉は、美九を傷つけるだけだと思ったからだ。

 六喰と同じようにパンティを膝まで下ろした士織はスカートを軽く上げてカメラにお尻を押し付ける。


『ほんほん、なるほどなるほど♥ ふふ、可愛いねぇ♥ 特にお尻の蟻さんの道の先くらいがぁ〜♥』

「ッ!♥」


 プップッ♥ プスッ♥ ブピィ〜〜〜〜〜♥


『ってもう出しちゃうのぉ?♥ つまんな〜い♥ ま、女々しいオナラが取れたしいっか♥』

「フーッ! フーッ!」


 男でも息を荒らげて怒りを抑えなければならない羞恥プレイ。これを精霊たちに強いるなど、殺意すら湧いてくる。

 だが選択肢がない以上、一人が終われば次に、二人目が終われば自ずと三人目へと回る。


 美九もまた六喰と士織にならって、一番デカいそのドスケベなケツ肉をカメラに押し付ける羽目になった。


『……へー♥ アイドルのお尻の穴って、こんなのでいいんだぁ〜♥ ちょっと意外だなぁ♥ もっと綺麗なものだと思ってたなぁ〜♥』

「て、適当なこと言わないでくださいー! は、はやく終わらせて……ッ!」


 士織がどんな顔で聞いているか知りたくない美九は、ひたすら床を眺めて測定の終了を待ち焦がれた。額から腋から尻臀から汗が滝のように滲み出していることが、美九の精神的な負担を物語っていた。

 かといって士織たちが口を出しては美九に余計意識させてしまうため、彼らは黙って自分たちと同じ検査の成り行きを見守る以外に手段がなかった。


『撮影完了♥ じゃ、次はオナラこいてくださ〜い♥ 現役美少女アイドルのぉ♥ とってもおっきなお・な・ら♥ 期待大で〜す♥』

「ふっ……ぐす……う、うぅぅぅ……っ♥」


 ぶっっっっぼぉ♥


「ひぃ……ッ♥」


 美しい声に比べて低音で品性のない放屁が吹き出し、初めて経験する自分からオナラをこく、という恥辱に涙と悲鳴が溢れ出る。

 しかしこれで恥は乗り越えた、と安堵の息を零しかけた美九の耳に〈ニベルコル〉から信じられない言葉が届けられた。


『んー……測定失敗です♥』

「………………え?」

『規定値に届いてないみたいね♥ もう一回おねが〜い♥』

「そ、そんなっ!? だ、だってだーりんと六喰さんは……!」


 六喰が互角、士織は小さい方だった。なのに美九だけ規定値に届かないなんて馬鹿な話があるはずがない。

 けれど、そこを蒸し返すと六喰と士織にあらぬ被害が及ぶ。そう、美九は羞恥に苛まれながら察したのだ。人に煌びやかな偶像を届ける者として高いプライドを持ち、異性に強い愛情を持つ自分が決定的な〝対象〟に選ばれたことを。


「く……ッ♥」


 ぶぼぼぼッ♥


『届いてませぇ〜ん♥』


 ぶび、ぶびびびッ♥


『きったなーい♥ てかちっちゃくなってるじゃん♥』


 ……ぷすぅぅぅ♥


『あっは♥ やる気ある?♥ アイドルならもっと腹に力込めてオナラぶっこきなさいよ♥ どうせ一発下品なの聞かれた時点で恥ずかしいもクソもないんだからさ♥』

「……う、うぅ。ぐす、ひっく……」

『あ、それと次に規定値に届かなかったら、連帯責任で全員分のデータ取り直しだから♥』


 美九は泣きながら、視界の外に在る二つの雰囲気が露骨に動揺を発したことを察し背筋を凍りつかせた。万雷の視線を浴びる仕事である以上、雰囲気だけで変化は伝わってしまう。

 自分の恥ずかしさで二人にもっと恥ずかしいことをさせてしまうかもしれない。プライドが折れかけた彼女の心に、愛情の火が灯る。


『わかりやすくカウントダウンしてあげる♥ スピリットガス放出まで3……2……1……精霊オナラGO♥』

「ッ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁー!♥」


 ぶりぶりぶりぶりっ!!♥ ブッッッッッッッボォ!!♥


「ンホー!♥♥♥」


 排便と聞き紛う音を発した次の瞬間、とてつもない爆音の放屁を一気に放った美九。不可視とはいえ強力なマナを宿す霊力の放出は、普通の放屁とは比べ物にならない解放感をもたらした。

 マヌケな声を響かせ胸の肉厚な山を痙攣させる。もちろん解放感のみならず、凄まじい羞恥に身を焦がしているのは言うまでもないことだった。


『…………わー、えっぐ♥ アイドルの超爆音オナラ、顔写真入りで売り出したらどのくらいの値がつくかなぁ♥ あ、合格で〜す♥ 皆さんお疲れ様でした〜♥』





「う、うぅ……だーりん、忘れて! 忘れてくださいぃー!」

「美九……わかってる。おまえは何も悪くない」

「主様の言う通りじゃ。女子をあのように謀りおって……許せぬのじゃ!」


 測定後、情報を登録する必要があると数分の時間が空いた。その間、美九は士織の胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた。自分たちとは比にならない恥を請け負うことになった美九の姿に、士織と六喰は〈ニベルコル〉への義憤を募らせる。

 と、約束した通り数分が経つと〈ニベルコル〉のアナウンスが再開された。


『お待たせ♥ 三人分のIDカードが完成したわ、受け取りなさい♥』

「っ、ああ……待て。IDカード、だって?」


 聞いていなかったものに士織は嫌な予感を募らせた。本来なら顔と指紋認証でパスできる設定のはず。

 けれど、そう言われれば肛門の情報をどう認証に実装するというのかという当たり前の疑問が浮かんだ。羞恥で鈍った三人の頭は、辱めのアナル検査を乗り越えるだけで、その先を欠片も想像できていなかったのだ。


『そうです♥ 当社でのみ有効かつ、君たち子豚ちゃんたち専用の【アナルIDカード】になります♥ 使い方は簡単♥ こんな風に、写真のアナルをパネルに押し当てるだ・け♥』


 横の壁から飛び出してきたアームが手にしたカードが扉の装置に押し当てられた。恐らくはアレが〝誰か〟のIDカードなのだ。

 その詳細は直ぐに知れ渡った。装置に当てたIDカードから立体映像が浮かび上がったのだ。〈ニベルコル〉が顔を見せた時と同じホログラムによる〝誰かのアナル〟が。


「な、ぁ……っ!?♥」

【認証。登録名:オナラ爆音底辺アイドル誘宵美九。SPIONR(放屁霊力)・309。ケツ毛・剛毛。皺本数・22本。肛門色・セピア――――――】

『ぶりぶりぶりぶりっ!!♥ ブッッッッッッッボォ!!♥』


「い、い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?♥♥」


 鳴り響くお下劣な音。森林と見紛う毛が生い茂ったセピア色だと公言されたアナルまで自分のものだと察した美九が、引き攣った悲鳴を上げた。


『ごめんごめん。名前はこっちで適当に決めちゃったから勘弁してね♥』

「〈ニベルコル〉、おまえッ!」

「どこまでも下劣な輩め……ッ!」

『あ、それとこっちはお二人さんの分ね♥』


【認証。登録名:女装メスアナル粗チン五河士織。SPIONR(放屁霊力)・78。ケツ毛・パイケツ。皺本数・17本。肛門色・薄ピンク。濃度A、屁速C、感度S】


【認証。登録名:ロリ巨乳ラッパっ屁星宮六喰。SPIONR(放屁霊力)・179。ケツ毛・剛毛。皺本数・13本。肛門色・小豆色。濃度B+、屁速A、感度B】


「やッ、やめろおぉぉぉぉぉぉぉッ!」

「うぬはッ、むくたちをどれほどまでに……ッ!」


 顔を真っ赤にした情けない面で扉を、自分たちのホログラム・アナルを睨みつける士織たちに〈ニベルコル〉の声はクスクスと笑みを、嘲笑を隠そうともせずにいた。


『これで無事に先へ進めるわね♥ じゃあ奥で待ってるわ――――――せいぜいマヌケなオナラをぶっこきながら♥ あたしの元まで死ぬ気でいらっしゃい♥』






Comments

今回は色々と反省もありますが、楽しく書くことはできたはず……次回もすぐお届けします!

いかじゅん

バルガーシリーズ大好きです! まさかの士織エントリーだなんて衝撃です。三者三様のリアクションが素敵。 次回も楽しみ!

タコよっちゃん


Related Creators