8月も折り返し、大学が夏休みの俺(紺多)と緑川は、この日もフルタイムで勤務していたーー
「紺多、少し疲れてないか? 後の作業は俺がやっておくから、そこのビート板だけ片付けておいてくれ」
いつもみんなより遅く残って閉め作業をやってくれる青海さん。
俺より疲れてる筈なのに、いつも周囲を気にしてくれる優しい先輩だ。
「指名してくれるのは嬉しいんですけど、ぶっ続けだと流石にきついっすね……」
「だから言っただろ。休憩を減らしてまで指名を取るなと」
「す、すみません……。でも、俺とパーソナルトレーニングしたかったんだって利用者さんから言われると、すげぇ嬉しくて……」
「紺多の相手へ応えようとする気持ちは凄い分かる。でも、体調を崩して次の利用者様の指名をキャンセルにしたら元も子もないだろ?」
「そうっすね……。俺を指名してくれた人を悲しませたくないっす……」
「分かってくれれば良いんだ。じゃ、そこのビート板だけ元に戻したら緑川と上がってくれ」
「分かりました! ありがとうございます!」
「おい、そんないっぺんに持って行ったら落っことすぞ」
「これくらい全然へっちゃらです!」
「だ、大丈夫か……?」
俺は両手いっぱいにビート板を重ね持ち、プール端にあるプール用具をまとめている所へと向かった。
「ビート板って軽いけど、量が多いと持ち運びづらいなぁ……」
その瞬間。
何かの気配を感じたが、感じた時には遅く、俺は誰かとぶつかってしまった。
「「うわわっ!!」」
「いつつ……って、何だ緑川か」
「何だ緑川か、じゃないよ! びっくりしたじゃんか! って、どっかぶつけた!? 大丈夫!?」
「ああ、悪い悪い。でも大丈夫だ。ちょっと尻もちついただけだから」
「ほんと? お尻大丈夫? ……って、なんで水着ずらしてるの?」
「あ、いや、ケツ赤くなってないかなって……で、どう? 赤くなってる?」
「うん。ちょっとだけ赤いね~。まぁでも、すぐ治るでしょ」
「おいっ、どうした? 怪我したのか?」
俺たちが大声を出したせいか、青海さんがこっちへと駆けつけてくれた。
「いや、ちょっと尻もちついちゃって……あ、でも全然平気なんで!」
平然を装うも、辺りに散らばったビート板の惨状を見て青海さんは察した。
「まったく、さっき注意したばかりだろ……」
「ご、ごめんなさい……」
青海さんが注意してくれたのにも関わらず、ミスしてしまった自分が唯々悔しくてならなかった。
「あの! 僕もちゃんと前見てなかったんです! だから、紺多くんだけを責めないであげてください!」
「ちょ、緑川……!」
落ち込んでいる俺を見かねた緑川が、精一杯のフォローを入れてくれた。
緑川は全く悪くないのに……。
「別に、俺は紺多のことを責めているわけじゃないんだ。ただ、紺多の体調が心配でな」
その意外な言葉に、俺はじっと青海さんの目を見つめた。
「8月に入ってから二人には大分働いてもらってただろ? 無茶させていないかと心配していたんだ」
青海さんは小動物を見るように俺に近づくと、大きな手が頭上へと優しく降りた。
「ちょ、青海さん。俺、子どもじゃないっすよ……そんな撫でないでくださいよ」
「俺から見たら弟みたいなもんだ。それと、緑川もな。紺多をフォローしてくれてありがとう」
緑川にもその優しい眼差しを向けると、仔犬の頭を撫でるように緑川の頭を撫でた。
「わわっ、みんなより身長がちょっと低いからって子ども扱いしないでください~」
「ほら、それ片付けたら早く上がれよ。それと、控室に遊園地のチケットを置いておいたから次の休みにでも二人で遊びに行くといい」
「え、本当ですか!?」
「ああ。利用者様から多くいただいてな。今月末で閉園しちゃうそうだから、早めに行くといいぞ」
「それって、としまえんですよね? よかったね、紺多くん!」
「……決めた」
「どうしたの紺多くん?」
「俺……卒業したらここに就職します。そして、青海さんの一番の後輩になってもっと頼ってもらうっす!」
俺の言葉に面食らったのか、青海さんの黒目がその時だけは点のように見えた。
「気持ちは嬉しいが、時間はまだあるだろう? 学生の内は色んな経験をして、それから考えた方がいいぞ」
「分かりました。でも、俺の中の答えはもう決まってます!」
「え! 紺多くんだけずるい! 僕も考えておこうっと……」
閉め作業はちょっとだけ遅れちゃったけど、自分の気持ちを口にしたことでかけがえのない目標ができた気がする。
ここでみんなと働くのも楽しいし、俺のことを頼ってくれる利用者さんも大好きだ。
俺はもっとスキルアップするべく、残りの夏休みもここで働くことに決めた。
そんで、次の週末は緑川と一緒にとしまえんに行くつもりだ!
≪紺多SS① END≫
※2枚目のスチルは8月支援特典のため、9月には非表示とさせていただきます
TSUKASA
2020-08-17 06:14:01 +0000 UTC