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あいつとシェアハウス 短編44

■あいつとグランピング 開幕


 なんでや、ほんま。なんでこないなことになった。いやまぁ、大体わいのせいではあるんやが。それにしたって、神様も人が悪うないか。悪戯好きにも限度っちゅうもんがあるわ。


「…………」


「…………」


「…………」


 風に穏やかに弛む豪勢なテントん中、三人分の無言が耳に痛い。等間隔に三つ並んだやらかいベッドの上だけが、各々に与えられたパーソナルスペース。後ろの鷹のセンパイと気まずそうな猫に気取られぬよう、わいは静かに溜め息をついた。


 つくづく余計なことをした。自分で招いたこと言うても、流石にこれは予想しとらん。さっきやったクジ引きのことを浮かべながら、とりあえず近場の棚に自分の持ってきた荷物を適当に押し込んだ。



     ◆



 テントの数は三つ。わいらは合わせて九人。必然的に、三人ずつテントに分かれんか、なんて話になり、わいは微妙に居心地が悪かった。広い草原、上質な木でできた机の周囲に集って、わいらは揃って風に吹かれる。


「んじゃー、分け方だけどー」


「まぁ、テキトーでええじゃろ」


「でもほら、青嗣くんはやっぱり羽柴さんと一緒のほうが過ごしやすいんじゃないかな」


「いやいや全然、俺は大丈夫ッスよ。誰と相部屋でもばっちこいッス」


「大智は善人とか」


「なんで大智のほうに聞くんだよ、悟」


 すかさずツッコミを入れる善人の横で、そらもちろん、とでも言いたげな顔を浮かべる黒犬。その辺一連の様子を見て、わいの嫌気はピークに差し掛かった。やいのやいのとこいつら、なんや修学旅行の班決めみたいなテンションで話しよる。


 そもそも誰も言い出しこそせんけど、なんとなく誰と誰で一緒に過ごしたほうがええんやないかー、的なサムい空気と読み合いが見えとって。妙に腹立たしくなってきたわいは、高校んときのイヤミな学年主任のことを思い出しながら言ったった。


「クジでええやん」


 ずっと寡黙やったわいが突然声を上げたんで、他の奴らは目を丸くしてこっちを見る。


「このグランピングで、親交深めて思い出作るんやろ。んならなんでもええやんか」


「確かにいいッスね。俺は賛成ッスよ、クジ」


 図らずも、後輩狼クンからの援護射撃がもらえた。空気の読めるええ後輩や。わいらがそういうムードに場を誘導した甲斐あってか、連中も旅行に浮ついた中高生みたいな空気から若干目が覚めたようやった。


「そうだなー。相談で決めてもよかったけど、フツーにクジ引きでいっか」


「……俺もそれで構わない。何より、ここで時間を食うのも勿体ないだろう」


「それならクジを作るか。手伝え、善人」


「はいはい」


 言われた明石は、リュックからルーズリーフを取り出し九つに破った。穂積のほうはペンを用意すると、そこに記号を三種類書き記し、それを適当に折り畳んで空き箱の中に抛る。そして箱を持って、一言。


「同じ記号同士、同室ってことで」


「よっしゃ、んじゃ俺から……」


 伸びをして、そのまま肩をぐるぐると回した赤木は、気合十分で箱に手を入れ紙をひとつ取り出した。何をそんな張り切る必要があるんか。わいが呆れてる間に面々が順繰りにクジを引いていった。んで、最後に穂積が残りを手にしたとき、田折が音頭を取る。


「よし、皆取ったよな。そんじゃ開けっぞー」


 せーの、などと幼稚な掛け声が周囲に響いた。開かれた九つの紙が、机の上に一斉に置かれ、そんで――。



     ◆



「――おい、水地」


 後ろから声を掛けられ、わいの回想は終わりを告げた。振り向けば、明石やった。相変わらず不機嫌そうな顔でこっちを見よるから、こっちまで不愛想になる。


「なんや、喧しい」


「昼はバーベキューって話だったろ。今から準備だっつーから、俺らも」


「おーい、いるかー」


 明石が用件を言い終える前に、田折がテントの入口から中を覗き込んできた。わいと明石と羽柴センパイ、三人揃ってベッドから腰を上げたところで、田折がゆるりとやってくる。


「バーベキューの作業、分担して回ってんだけど」


「他の奴らは、どうした」


「んー、大智たちは設営班で、悟たちが機材班って感じ」


「んで、俺らはどうすれば」


「まぁ、善人と先輩は俺と調理班っつーか、これから食材の下拵え」


「……だろうな」


「あとは水地なんだけど、どこやる」


 話を振られ、わいは口籠った。ぶっちゃけた話、なんだって構わへん。言われたら仕事はこなすし、手伝いもする。何しよん、って聞かれたほうがむしろ、やりづらくてしゃあない。


「……どっか足りひんとこ、ないんか」


「えーと、やっぱ料理できる奴が少ないからさ、調理班は手薄っちゃ手薄なんだけど」


「つーか、こんだけ人数集まってまともに料理できる奴が半分以下って」


 明石が自嘲気味に言う。今日の面子のことはよう知らんが、言われてみれば確かに、そういう類いのことが得意そうな野郎は少ないように見える。


「そんなにか。赤木がヘッタクソなんと、穂積がカップ麺も作れんのは知っとるが」


「遊星は味オンチ、睦樹はレシピミス、青嗣は包丁握ったことすらねーって」


「マジか……錚々たる面子やな……」


「ドン引きしてっけど、そういう水地はどうなんだよ」


「……別に、自炊してるしな自分」


 わいがそう答えると、こいつら露骨に驚いた顔をしよった。なんやねん、そない意外でもあらへんやろ。反応に辟易していれば、それぞれが嘆息したように口を開く。


「人って見かけによらねえんだな」


「これが伏兵というものか……」


「いやはや、ホント水地様様だわ……ありがてー」


「自分ら、喧嘩売っとるんか」


「いやいや、フツーに助かる、マジで。九人分を三人でやるとなると、量が多いからな」


 よろしく、と言いながらわいの肩を叩く田折。どうやらわいの所属先は決まったらしい。不機嫌な猫と、テンション高めな豹と、無口で強面の鷹と、不愛想な兎。随分愉快なメンバーやな。内心テキトーに皮肉っていると、田折が張り切って口火を切る。


「そんじゃ、テントの裏に野外調理場があるからさ。さっさと行こうぜ」


「大智の腹がいい加減うるさいしな」


「田折、持ってきた食材は」


「あ、調理場のほうっすよ。スタッフさんがカゴに入れて並べてくれてたんで」


 話をしながら、奴らはテントから出ていく。知らん間に妙に気疲れしていたのか、と不意に溜め息が漏れた。すると、それを聞かれたのか、鷹のセンパイが怪訝そうにこっちを振り返った。


「その……大丈夫か」


「あ、いや……大丈夫、です、はい」


 相手がなぜか恐る恐る喋りよるんで、わいのほうも釣られちまった。気まずい雰囲気がテント内に流れる。こういう空気は苦手なんよな、などと思っていると、センパイのほうが意を決したように声を上げる。


「親交を深める……いい言葉、だと俺は思う」


「…………」


「同じテントになったことも、きっと何かの縁なのだろう。だから……うむ、旅行を楽しめるといいな、互いに」


 堅苦しくそう言って、センパイは豹と猫の後を追った。わいはしばらく面食らっていたが、多少は奴らの浮ついた空気に混ざってやってもいいか、なんていう気持ちになっていた。

あいつとシェアハウス 短編44

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